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さすがに高評価されている作品だけあって、面白かった。ディテールの書き込みが非常に濃密なのと、視点人物が様々に移り変わる特殊な構成のため、はじめはかなり取っつきにくく感じるのだが、リアリティのある書き込みに徐々に引き込まれて最後まで一気にフィニッシュ。ラストがあっけないのも逆に新鮮かも。
疑惑の対象人物(男女)は(明示はされないものの全体の構成からすぐにわかる)終始一貫しているため、興味の焦点はこの男女と周囲の人間とのかかわり、不幸が徐々に拡大していく有様と、発端となった事件である「質屋殺し」のトリック及び動機の点になる。謎解きそのものは大仕掛けなトリックがあるわけでもなくミステリとしては普通なのだが、昭和から平成にかけての世情描写とからめつつ濃密に描写される様々な人々の人間模様はリアリティに富み、とても読み応えがある。そして、終盤に犯行動機が明かされ、闇に隠れていた被害者の醜行が明らかになる部分もうまい。焦点になる二人の男女の関わりや心理等の直接的な描写はなく、これらをひたすら追い続ける刑事の推理という間接的な形でしか語られないまま終わってしまうのがあるいは物足りないという読者もあろうが、逆に読者の想像に委ねたものであるかも知れず、これはこれで味がある。
来クールにTBSでドラマ化されるようだが、被疑者の男女を視点の中心に据えるようなので、謎解きものではなく、倒叙的な一種のピカレスク物として再構成される可能性もあり、どのようなものになるか見物である。そういえば、昨年日曜劇場でドラマ化された『砂の器』も倒叙ものにアレンジされていた。生い立ちに不幸のある人物が罪を重ねるという作品構造は似ているし、同様の構成を取る可能性は高いかも知れない。
とまれ、この作者、ディテール描写力は確かなようなので、他の作品も読んでみたいとは思った。
テーマ性 ★★★★
奇想性 ★★
物語性 ★★★★
一般性 ★★★★
平均 3.5
文体 ★★★★
意外な結末★★
感情移入 ★★★
主観評価 ★★★(30/50)
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