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<div class="datebody"> <h2 class="date">October 17, 2004</h2> </div> <div class="blogbodytop"></div> <div class="blogbody"> <div class="titlebody"> <h3 class="title">Lois McMaster Bujold "Paladin of Souls"</h3> </div> <div class="main"><a href="http://blog.livedoor.jp/silvering/9c4a5e86.jpg" target="_blank"><img class="pict" height="252" alt="魂の守護者" hspace="5" src="http://blog.livedoor.jp/silvering/9c4a5e86-s.jpg" width="160" align="left" border="0"></a><br> 本年度ヒューゴー賞受賞作。英国協会賞ラス1となった段階で、先にヒューゴーを片付けておきます。<br> <br> 粗筋追記 2004.10.29<br clear="all"></div> <a name="more" id="more"></a> <div class="mainmore"> ソウル・パラディン(魂の守護者) ロイス・マクマスター・ビジョルド<br> <br> 統語論者にして一級パルチザンのシルヴィア・ケルソーに<br> <br> 第1章<br> イスタは門塔の頂上の凹凸の間に身を乗りだし、青白い手の下に石のざらつきを感じ、疲労のため感覚を失いながら、朝の最後の一隊が眼下の城門を去るのを眺めた。馬のひづめが丸石をこすり、別れの挨拶が弓状門にこだました。バオキアの守護であるイスタの最も生真面目な兄、その家族や伴の者が、多くの者の中で最後に出立した。聖職者による葬儀と埋葬の儀が行われてから丸二週間だった。<br> ダイ・バオキアは、なお冷静に城守のサー・ダイ・フェレユに話しかけようとしていた。フェレユはバオキアのあぶみに向かって歩きながらいかつい顔をそり返らせ、間違いなく最後になるであろう指令の言葉に耳を傾けていた。忠誠心の強いダイ・フェレユは、ここヴァレンダに住んでいた長い人生の最後の二〇年間を、先代守護の未亡人に仕えてきた。丸々した腰のベルトには、城と倉庫の鍵がぎらぎら光っている。イスタが集めて持っていた母親の鍵は、偉大なレディの死後に残った他の文書や品々や指示書と共に、兄に引きわたされた。かれは永久に保管するため、それを妹ではなく、善良で正直な老女、ダイ・フェレユに託したのだった。あらゆる危険を締め出す鍵&&そして、必要なら、イスタは入れる。<br> (ただの慣習よ。わたしはこれ以上狂いはしないわ、本当に)<br> イスタは決して、母の鍵を、それとともにある母の命を欲したわけではなかった。自分の欲しいものが何かすら知らなかった。自分の恐れるものは知っていた──暗闇に閉じ込められること。自分を愛する人によって、狭い場所に。敵であれば自分の仕事にうんざりし、油断して背を向けることもある。だが、愛は絶対に油断をしない。その指は絶えず石をこすりつづけるのだ。<br> <br> ダイ・バオキアの一隊は去り、フェレユは城内に引っ込んでしまった。母は冬の厳しい寒気で、落馬による骨折と、併発した肺炎をこじらせて亡くなった。葬儀では、神によって、母の魂は<夏の母>のもとへ昇った。こうしてイスタは独りぼっちになった。夫、父、息子、母を次々と失った。娘はチャリオンの貴族の庇護を受け、高位から退く気配はない。私の務めは終わったのだ、と思った。両親の娘から、不幸な若者の妻を経て、子の母、最後には母親の世話役に。今はそのどれでもなくなった。<br> しいていえば、領主ダイ・ルテツの殺害者だ。自分でやったのだ。そのわずかな仲間がまだ残っている。<br> 外には道が見える。あれはどこに? 全ての道は絡み合っており、結局は一本道だという。交わるか分かれるかだと。決して戻ってこない一本道に、人は憧れる。<br> <br> (※という感じで、家族を次々失いぬけがらのようになった主人公の女性、イスタの内面がえんえんつづられる。第1巻で様々な事件があったのだろうが、いきなり枯れた主人公を見せられてもねえ、といいたくなるのはやまやまだが、まだ始まったばかり、もう少し様子を見ようではないか。)<br> <br> 心配した侍女が登って来た。イスタは、彼女に、今日は神と会う気はないと告げた。それがきっかけとなって、イスタは、自分が道に憧れていることに気づいた。道は貧乏な若者のためにあるが、私も中年女とはいえ、今やみなしご、旅に相応しくはないか? <br> イスタは城壁をおり、内庭を城内に向かった。そして薔薇のあずまやで休息し、侍女に茶を要求した。それから少女時代のように城外に駆け出した。守衛の止めるのもきかず川まで走った。そして丘を越えてヴァレンダの町に向かう道を見た。兄の一隊はそこをとおってタリユーン城へ行ったのだろう。一緒に来ないかと誘われたがイスタは断った。<br> イスタは城の退屈な日常にうんざりしていた。金はたっぷりあるので旅に出たかったが、盗賊が怖くもあった。イスタは農夫と会った、農夫は驚いて恐縮した。<br> イスタは歩き出し、一時間も歩きつづけると脚がいたくなった。ふと、武器がないと思った。馬のひづめの音でふり返るとフェレユたちだった。イスタはフェレユに問い詰められ散歩がしたかったと答えた。しかし、フェレユや馬丁に娼婦じゃないんだからとたしなめられ、いやいや馬に乗って城へ戻った。戻りしな<娘の秩序>の僧兵服姿の巡礼騎馬隊に行きあった。一人の同年配の女がイスタを見てにやっとした。「バオキアからの巡礼よ。タ-ユーンのジロナル卿の奇跡の死の神殿に行くところ。サー・ダイ・ブラウダだけは違うけど」そのブラウダという老人は<秋の息子>の印をつけていた。そして若くてハンサムなはにかみ屋の息子。女はカリア・オブ・パルマと名乗った。<br> イスタは身分を隠し、ヴァレンダの未亡人と名乗った。女もそうだといった。既に3人の夫を失ったらしい。他の随行員はそれぞれまちまちの神に仕える服装だった。カリアは早く豚肉料理の食える宿につきたいというと〈母〉に仕える随行の女が私は肉は食べないと宣言した。神と食物をめぐって、商人と<私生児>の僧侶が争い始めた。カリアが笑うと彼らは黙った。カリアは本ばかり読んでいる〈私生児〉の僧侶の男が気にいってるとイスタに告げた。そして、男は本来働いて稼ぐべきで、二人目の夫は働かずのんべえだったといった。商人がお前らは神と会えるよう日夜祈ってるんだろうと揶揄すると、みながいかに神に会いたいかを語り始めた。<br> イスタは、神に会ったら数日涙が止まらないわよと思いながら、〈私生児〉僧侶が自分に興味を持って見ているのに気づいた。<神に触れられた男>なのか? だがその目線は要するに近視だった。男は籠の中のフェレットを見せた。そのフェレットが悪魔を秘めているかどうかが話題になった。<br> やがて城の前で道が分かれたのでイスタらは巡礼の一行と別れた。フェレユは「あの女は巡礼を自分の暇潰しの煙幕に使ってるだけで、信心なんてありません」とくさした。「あんな連中とつきあわせて不愉快な思いをさせて済みません」<br> 「私はそう思わないわ」とイスタは答えた。(私は違う&&)<br> <br> 2章<br> イスタは薔薇のあずまやに座っていた。侍女は横で刺繍にふけっている。イスタは立って庭を歩き回った。庭師が動き回っていた。<娘の季節>に供える花に水をやっている。先代領主のころから恒例だ。こういった古い慣例はいつになったら絶えるのか。永遠に続く? 亡母の幽霊が見張っている? 冗談じゃない。新しい幽霊なんてもうここにはいらない。<br> イスタは門番に、巡礼に行きたいと言っておいた。カリアのことをもう忘れていますようにと願いつつ。最小限のつつましい巡礼でいい。フェレユはあれこれ難癖をつけ、どういう風の吹きまわしで急に信心深くなったんだと疑った。イスタはあれこれ理由をつけたが、むきになりすぎるとかえってフェレユを怒らせてしまうため、ほどほどにとどめておいた。<br> 下男が馬で通り、礼をして倉庫の方に消えた。まもなくフェレユと出てきた。城の鍵。どうしたのだとイスタがきくと、フェレユは、カーデゴスから騎兵が来たと答えた。「守るだけでなく、いうことをきけと奥様にいわれたことが、ずっと頭にありまして」<br> なるほど、そういうわけね。よしよし。イスタは軽く微笑んだ。<br> だが、フェレユは、イスタがいうことをきかないので、娘のイセユ、その夫バーゴン、カザリル卿といった、よりイスタの安全を考える人たちに相談をしており、そのメッセージを携えて騎兵が訪れたと言うことだった。イスタはむかついて、呪いをかけよようかと思ったが、思いとどまった。私を狂気から救おうとすればするほど逆に私はおかしくなってしまう、と思った。<br> フェレユについていくと、馬に乗った男たちはこの地方の服装ではなかった。イスタはいった。「初めてじゃないわね?」<br> 「お久しぶりです。ファーダ・ダイ・グラです。こちらが弟のフォイクス」<br> 「知っているわ、カザリルのイブラン遠征に同行してたわね、3年前。バーゴンの授位式で会ってるわ。卿もバーゴンも褒めていたわよ」<br> 「光栄です」とフォイクス。<br> 「奥様にお仕えできて誇りに思います。卿の意向で旅のエスコートをおおせつかりました。奥様の手として、右と左の手としてお使いください」とグラ。<br> 「どっちがどっち?」とフォイクス。<br> 「卿はこの&&冒険を問題ないと思っているのでしょうか?」<br> 黙っていると兄弟は顔を見合わせ、イスタに手紙を渡した。「この兄弟を旅の伴に贈る。5人の神と彼らが危険から守るだろう」といったことが書かれていた。金も預けてあると。<br> しかも、町中の騎士を雇ったらしく、明日には全員集まるだろうと言うことだった。また、パリアニはロクナリの雄馬を贈ったらしい。<br> ファーダは兄やその他の親戚にも知らせたらというが、ほうっておくと大軍勢を連れて田舎道をこそこそ行くはめになりかねないため、イスタはそんな暇はない、すぐにでないと時間がないとせかした。<br> たかがバオキア周辺を巡礼するだけなのに、山を超えてダルタカの先までの長旅を提案したかのような騒ぎだ、とイスカはげっそりした。<br> ***<br> 窓の外に伝令の少女が現れ、フェレユに手紙を渡した。フェレユは手紙を読んでにやっとして破り捨てた。娘からだろう。孫の歯が生えたという連絡だろうか? イスタはこの少女に会いたいと侍女に告げた。そしてこの(アナ)リスという少女が気に入り、しばらく仕えてくれという。<br> パーティが行われ、亡母の親戚ヒュータ-らが出席した。リスも出席。〈母の階層〉の僧侶、トビアも来る予定だった。だがきたのは数日前道端であった、〈私生児〉の僧侶だった。チバー・ダイ・カボン。彼によるとトビアは途中で病気になったらしかった。カボンは、<娘>階層のダイ・ヤリンの下のカボンとは遠いいとこで、オドリン・ダイ・カボンの息子だった。あのダラスの戦いで戦死したオドリン。父に似ていると思った。母はレイディ・ダイ・カボンではないらしいが。年は30いっていないだろう。<br> 話題はチャリオン・イブラ全土の戦況に及んだ。グラ兄弟のいとこ、ダイ・パリアーが敵のロクナリ王子軍を北へ追いやり(バーゴンも助力)、ゴトゲット山の砦を奪還したこと。フォイクスがロクナリにやられて負傷、ダイ・カザリユの秘書をしながらリハビリしたこと。<br> イスタは明日あるいはできるだけ早く出発するといい、リスを侍女兼馬丁にすると告げる(ヒュータ-反対)。そしてできるだけつつましく、普通の未亡人のように行きたいといい、反発を買う、みっともないと。<br> しかしイスタは無理に押しきる。名称はダイ・アイェロに決定。ルートはチバーが地図を見ながら検討する。<br> チバーは巡礼の5つの目的を指摘する。礼拝。嘆願、感謝、占い、償い。イスタはダイ・ルテスの悲劇を思いだす(第1巻)。これは孫のための嘆願? 違うと思ったが、フェレユとヒュータ-がうなずいた。<br> 経路はパルマ経由案が出た。<娘>二泊、<私生児>一泊。敵国への反撃が予想される前線地帯は回避していくことになった。<br> ルートは決まった。時には逃げることが解決につながることもある、とイスタは思った。<br> <br> 第三章<br> イスタ、いちばん質素なドレスを探し、ラバで出発。<br> **<br> 一行はパルマの宿に泊まる。<br> **<br> <私生児>僧侶の説教。5人の神の由来と能力について。父と母が愛を生み、息子と娘を作り、そこから魔王と聖者が生まれたが、魔王の残骸から私生児を作ったというような内容。5人の神はそれぞれ受け持つ役割があり、私生児はささやかだがいざというとき重要な事柄を受け持つという。今まできいた説明の中でもっとも感動的だったのでイスタは礼をいう。<br> **<br> ラバで牧草地帯を進みながら、イスタとリスは僧侶が連れていたフェレットに宿っていた魔王はどうなったのかきく。僧侶はうまく処理したという。それは知性のある生命に宿り、乗り移ることができるが、死にかけた生命の中で弱っていれば乗り移らせずに神の下へ返すことも可能だという。さまよう魔王は珍しく、年間一件程度らしい。だが50年前、ロヤ・フォンサ(イスタの義父)の日に大流行したこともあった。<br> <br> 第四章<br> 翌日早く出発し、長時間乗りつづけた。やがてバオキアの荒野を出た。壁に囲まれたカシルカスの町が現れた。〈私生児〉の学校に着くと、彼らはボーイらに出迎えられて扉の中に入った。三階建ての建物から使徒が現れた。イスタはセラ・ダイ・アイェロという偽名で紹介されていた。イスタらは宿にありついた。食事の後イスタはリスとファーダ、フォイクスを連れて町を散策した。手持ち無沙汰で夕方の礼拝に参加した。三日の旅程で疲れ切った明日は、ここで休養する予定だ。<br> **<br> イスタは、夢を見ていた。ロクナリ様式の城の中庭を歩いている。階段を上がり、突き当たりの部屋に入る。ベッドの上に男の体。赤い血。体に手をふれる。股間の周りは毛深く、鳥がいる。左胸のパックリ開いた傷から血が流れ出る。イスタはうなされて目覚める。〈本物の夢〉だ。イスタは叫ぶ、「一人と五人、私の頭から出ていけ」リスが目覚めて心配そうに見る。何でもない、とイスタは安心させる。しかし&&イスタはまんじりともできない。<br> また始まったのか、あの夢が? あの男は誰なのだ? あの赤い血の意味は?<br> お前が何を望もうと、私は従わないぞ! 出ていけ!<br> ようやく眠りについたのは明け方だった。<br> **<br> イスタはリスが寝室に戻ったときようやく目覚めた。イスタは朝の礼拝を欠席させたことでリスに文句を言ったが、疲れている様子だったので起こすに起こせなかったという。庭を教師や生徒が行き来していた。壁に幽霊の気配を感じた。<br> イスタは夢の場所を思い出し、行ったことはないが現実の場所だと思った。<br> イスタは図書室を見つけた。フォイクスがいた。カボンもいた。イスタはカボンと話した。カボンはイスタの巡礼の目的を問いただした。イスタは自分がかつて聖人であったと語るとカボンは驚いた。イスタはきいた、ルテツが処刑されたとき何をしていたか。ルテツとはイアスの相棒だ。当時五〇代だった。カボンは子供だったと答えた。ただ噂はきいたと。その噂は私とルテツが関係を持ち、夫がルテツを殺したという噂かときいた。そうだというので、イスタはそれは事実じゃないわと答えた。そして事実を語った、自分の過ちによってルテツを死なせたことを。事件のショックの中で夫も死んだ。息子タイデスも失った。この事件は19から22歳にかけて起こった。母はイスタを生んだとき40で、イスタが40になった今年死んだ。なんてことよ! 義父フォンサの呪いで半分の人生が失われた! <br> カボンは、では何のための巡礼? ときき、イスタは、ヴァレンダに戻らない道を探してくれという。カボンは無理だと諭すが。<br> イスタは夢のことも話そうかと思ったが、この若者には荷が勝ちすぎると思いとどまった。カボンは去った。<br> <br> 第5章<br> イスタはこの地のもてなしに次第に居心地の悪さを感じるようになり、出発した。カボンの説教をききながら、ビニャスカに着いた。ちょうど中春の祭の最中だった。〈娘の日〉と〈母の日〉の中間である。連れの連中は競技に熱中し、ファーダすら競馬に出たがった。リスも競馬。他の連れの者の中に賞品を得たものもあった。いよいよ競馬になり、ファーダとリスが現れた。イスタはフォイクスと観戦。ファーダとリスの馬が先頭で最終コーナーに入り、リスが24馬身差まで引き離したところで停止し、ファーダに追い抜かせて勝たせてやった。ファーダは優勝の花輪を受け取ったが、侮辱されたと感じたのか怒っていた。リスはそれを尻目に馬房へ去っていった。フォイクスは薪割りコンテストで2位だった。<br> **<br> リスは、ファーダに競馬への出場に難癖を付けられ、その馬で出たら他の馬と性能が違いすぎるとか、女性も出ているのに女性向きのレースではないとかいうので、頭に来てああいうことをしたと言った。そしてフォイクスはいいが、ファーダには不満があると言うので、そういう不満は立場上抑えなさいとイスタは諭した。祭の夜は更け、やがてイスタは眠った。<br> **<br> イスタはまた城の夢を見る。階段を上がる扉を開く。ベッドに横たわる男の胸から炎。男が起き上がり助けてくれと叫ぶ。神の名のもとに。あんたは誰ときくと男は驚く。<br> イスタが起きるとバルコニーに出る、夢と同じ、あの男も私を夢見たのだろうか? でも私、あんたを助けられないわ。イスタはベッドに戻る。<br> **<br> 翌朝フォイクスが来た。カボンが病気で朝の礼拝ができないらしい。会ってみるとワイン酔いのような状態。<br> **<br> 翌日カボンが治ると北に出発。荒野にでて曲がりくねった道を進んでいると熊に襲われ、逃げ出す。だがそいつはただの熊ではなく、目に知性が宿っていた。魔王だ、と思った。<br> フォイクスが熊の首をはね、魔王はフォイクスにとりつき、フォイクスは倒れる。<br> <br> 第6章<br> みんな現場に集まってきた。イスタはカボンらに、魔王がフォイクスにとりついた経過を説明した。意識を失っていたフォイクスは目を覚ますが、気分が悪そうだ。<br> <br> フォイクスは熊にも、デモンにも、他の何かになる気配もなく、ただの困惑した若い男のままであることがわかった。フォイクスを介抱していたパーティの年配者たちは、みな少し距離を開けて、地面に座り、地図を検討し始めた。二人組の護衛は、低い声で、熊の死体について議論をし、その病んだ皮は剥ぐ価値がないと結論した。そこで、土産用に歯と爪だけを集め、熊を道の外にほうり投げた。<br> ファーダは周辺地域の地図を選び出し、広く平らな石の上に広げて、皺を伸ばした。そして、指で道筋をなぞった。「マラディへ行くには、この道をもう三十マイルほど行き、この村までたどりつくのが最適のルートです。そこで東に向きを変え、下っていくのです」<br> ダイ・カボンは太陽の方角を見上げた。日は既に西にある山壁の向こうに落ちていた。だが、空はまだ濃い青に輝いていた。「夜になるまでは出発しない」<br> イスタは白い指を一本伸ばして、地図に触れようとした。「もう少し行けば、訪問する予定だった古い聖者の村に通ずる交差路に出るわ。そこで飼い葉と食事と寝床をもらえるよう頼んである。それから明日早く出発しましょう」そこに行けば、たくさんいる熊から壁で身を守ることもできる。もっとも、デモンからは身を守れない──イスタは思い直し、言わずにおくことにした。<br> ファーダが眉をしかめた。「どっちにしろ、あと六マイルはあります。道に迷えばそれ以上かも」<br> <br> 彼らは出発した。フォイクスも馬に乗るのに支障はなさそうだった。イスタは、神もデモンも我々の世界とはすぐ近くにおり、コインの表とうらのようなものだと言っていたことを思いだし、デモンの目に自分はどう見えるのだろうと思った。<br> <br> ***<br> <br> 彼らは川のほとりでキャンプした。フォイクスは薪を探し、腐った丸太を持ち上げて虫を見つけると、カボンにきいた、おれは熊になるのか、それとも自分を熊と思いこんだ狂人になるのかと。カボンは「いや、自然と消えてなくなるさ」と言うものの、自分でも分かりかねているのだな、とイスタは思った。デモンがフォイクスに憑いたのなら、それは当然フォイクスに似てくるはずではないか。フォイクスは言った、「よかった。だって、あれがうまそうに見えたもんだから」そして乾いた枯れ木を探し始めた。<br> イスタはカボンに、夢で見た「神に触れた人たち」についてきかれる。どうやって夢と現実を見分けるのかと。イスタはいう、預言には良いも悪いもないのだ、ただ確実に起こることを知るだけなのだと。カボンは教えて欲しいと言う。どんな夢を見たと言うのだろうか? カボンにきくと、イスタの夢を見たのだという。イスタと会う前にである。しかも40歳のイスタを。若いころに見たことはありえない。あのフェレットではないか。しかも次のときは、出発前のディナーパーティーの夢だった。イスタのところへ来たのもただの連絡だったのに、代役を買って出るのが神の意思だと思い、巡礼への同行を申し出たらしい。イスタの先導者となることが認められてしばらくは夢がやんでいたが、数日前からまた始まった。その夢では彼は、今歩いているような道で、ロクナリの兵士に襲われ、ラバから落とされるらしい。イスタは、夢の内容がそのまま現実になるとは限らないとさとす。カボンも分かっているという、なぜなら毎晩違う殺し方をするからだ、と。まず親指から始めるところは共通している。イスタらは酔っ払いの夢だと笑うものの、もっと早く言うべきだったという。カボンは神が見捨てたのかというが、それならこんな生ぬるい手は取らない、とイスタ。ロクナリはこの周辺にいるはずはないが、姿を隠してスパイしている可能性はある、しかし我々の軍勢にはかなわない。<br> フォイクスに関しては、カボンによると、じっくり時間をかけてデモンと調和すれば魔法使いになることも可能らしい。ただ、現段階で介入するとデモンとフォイクスの人格が分離不可能になるからやめたほうがいいといわれた。<br> ***<br> イスタの一行は、突然、ロクナリのヨコナ軍に追われる。ロクナリに殺される夢を見たカボンとフォイクスを途中で隠して進み、リスに救援を呼ばせるが、前方からも挟撃され、イスタは降伏を指示する。<br> <br> 第七章<br> ヨコナ軍に武器を捨てろといわれ、イスタは自分がバオキア領主をパトロンにもつ身の上(セラ・ダイ・アイェロ)であると身分を隠して告げる。そして身代金が得られると。彼らは興味を示した。おそらく戦に破れるか疲弊して戻るところのようだ。リスは逃れたのか? イスタは捕虜の男女を見つけ、女に話しかけた。ラウマで略取されたらしい。イブラの。ロクナリへ近道するためチャリオンを通っているのだ。彼らは〈私生児〉の塔を壊し、尼僧を略取し夫を殺した。女を犯し焼き殺した。他の捕虜の様子も悲惨だった。<br> 部隊はリスを見つけられず、村に着いてもも抜けの空だった。フォイクスの手紙をどこで手にいれたのか、それには熊事件の前日の様子が書かれていて、イスタの「イセユのいかれた母」の素性がばれてしまう。司令官は一敗地にまみれた状況で唯一のいいわけとして、イスタの身柄を王の下に届けるだろう。<br> やがて北へ向かう途中に部隊は何者かに奇襲を受け、何人も戦死する。司令官たちはイスタを連れ何とか逃げるが、そこへ、馬に乗った血だらけの男が現れる。<br> <br> 第八章<br> このポリフォースの率いる軍はヨコナ軍を壊滅させ、イスタを助ける。イスタはまた身分を偽る。そして川で血を洗い、水を飲み、傷を手当する。彼はトルノクソの軍人だった。イスタは捕虜の概要や〈娘の階層〉の兵士も捕虜に取られたことを説明。川べりでヨコナの被害状況を確認。トルノクソ軍の部下が調査結果を報告し、トルノクソ王が200人の軍勢がいるといった割に90人しかいなかったことがわかる。イスタは自分の護衛たちの身の上が気になる。<br> ポリフォースというのは司令官の仕える城で、司令官の名はアリス・ダイ・ルテスだった。アーヴォル・ダイ・ルテスの子だ。多分一人目の妻の子が三人の女で、みな嫁ぎ、二人目の妻の子だろう。アーヴォルはこの妻も失い三人目をもらった。<br> ファーダと再会し、イスタはほっとする。ファーダはポリフォースの兵士と一緒に必死でイスタを探したらしい。ファーダが「ロイナ」の尊称を使ったことから、アリスはイスタの正体を知り、驚愕する。<br> <br> 第九章<br> ファーダは見つからない三人の身の上を心配した。<br> ***<br> イスタはパンと寝床がほしいといい、キャンプでパンを食う。侍女代わりに男の兵士を割り当てられる。<br> ***<br> 一泊し、イスタは馬をもらった。翌朝一行の出発は遅れた。イスタはアリスとその父の話(裏切り者なのか、イスタと恋愛関係があったのかなど)をしながら準備をする。アリスは用事でいなくなる。アリスのテントで悲鳴が聞こえ、行くと左胸から血を流している。だが死んではおらず、目を覚まして出発しようと言いだした。イスタの触れた手には血がついたのに。いったい? 彼らは出発し、とうとう城に着いた。アリスの妻カティララ・ダイ・ルテスが歓待する。<br> <br> (読者傍白)これは要するにイスタの幻覚なのか、それとも何かの魔法なのか? それはそうと、第一巻の内容について話をされると、読んでいない自分にはつらい。<br> <br> 第一〇章<br> イスタは部屋に案内される。カティララは、初めて領主アリスと会ったとき一目ぼれしたことを話す。彼は前妻をお産で亡くし(末娘リヴィアナが生まれたとき)、他の女に見向きもしなかったが、カティララ(当時14歳)は必死で父を説得し、アリスを口説いて妻の座を得た。結婚4年目だが、子供はまだない(今20歳前後だろう)。<br> カティララの衣装はイスタには大きすぎるので、方便をいって、もっと地味なのはないかときく。途中でアリスが戻る音が聞こえる。イスタの夫イアスがアリスの父に贈ったブローチが見つかる。<br> やがて夕食になる。馬の師匠、半兄弟のイルヴィン・ダイ・アルバノスだけ病気で欠席。苗字からして不倫の子と思われた。カティララによると、半弟らしい。しかも、母の子らしい。アリスの父が不在がちのときに、城守のサー・ダイ・アルバノスという男との間に生んだが、母が亡くなるまでアルバノスは認知しなかったらしい。イルヴィンの伏せている理由については詳しくは分からなかった。<br> 食事が終わるとヨコナンの遺留品が運ばれ、イスタは嫌悪感を感じた。この財宝のどれだけがラウマから盗まれたものだろう? イスタは適当なお世辞をいって場を乗りきった。略奪品の分配が終わると、ファーダは、フォイクス、リス、司祭を探しに行きたいと申し出た。イスタも同感だった、今すぐにでもここを出たい。だが、アリスの「リスはトルノクソに着いたはずで、二人の男を探しに出ているはずだ。もし見つかったときにあなたがたがいなければ困るだろう。いずれにせよ明日の朝まで待ったほうがいい」という冷静な意見で納得した。<br> イスタはカティララに案内され、中庭の縁の道を自室へ向かうが、夢に出てきたのと同じ景色に気分が悪くなり、ベンチで休んだ。<br> イスタはカティララにイルヴィンの話をきいた。彼は、父を継いで、〈私生児〉階層に修行に出されて戻ってきていたが、二度の婚約はあったものの未婚であったところ、ヨコナのソルドソ王子の姉ウメルー三十歳より縁談の申し込みがあった。二人は結婚することになったが、嫉妬に狂った領主ペクマが寝室に忍びこみ、毒剣で二人をめったぎりにして逃げた。ウメルーは死亡し、イルヴィンは意識不明。原因不明。それによって国際関係も悪化。イスタは病状を見たいと思ったが、言い出せず、結局そのまま自室に戻る。途中、カティララの下男がカティララに「彼が山羊の乳を欲しがっている」と告げに来る。<br> <br> 第一一章<br> イスタが、物思いにふけりながら眠りにつく場面。<br> ***<br> 夢。太ったカボンが出てくる。会話。<br> 「私、少し圧倒されているようね」<br> 「小さい、しかしながら、強い。ご存知の通り、私は木の葉も持ち上げられない。鉄を曲げることも。あなたの意思を曲げることも。私のイスタ」<br> 「私はあなたのものじゃない」<br> 「私は、求める者がそうあるべく、希望と期待を話しているのです」<br> 「むしろ、鼠のような虚言というべきかも」<br> 「鼠は謙虚で、恥ずかしがりやで、率直な生き物です。限界があります。虚言のために、人は男を、あるいは女を求めます。虚言、虚言&&真実、勝利&&熊の罠&&」<br> 「あなたは何かを求めている。神の舌は、何かを求めるとき甘い言葉を囁きます。私が何かを求めるときは──顔で祈り、腕をふりまわし、涙と絶望的な恐怖にうちひしがれているとき──それこそ何年も──あなたはどこにいたの? タイデスが死んだ夜、神はどこにいたのよ?」<br> 「〈秋の息子〉はあなたの祈りに応えて、たくさんの男を送りました、いとしのイスタ。彼らは道を見失って、たどりつかなかったのです。なぜなら、神は彼らの意思と歩みを曲げることができなかったから。だから彼らは、木の葉のごとく風の中に散らばってしまった」<br> &&といった感じの会話。カボンは、イスタに祈っているが、あと少しの場所で道を見失うのか? と詰め寄る。そして私の烙印はあなたの額にあるといい口づける。彼は私に第二の感覚をくれたのだとイスタは思う。だが私はそんな能力は要らない。彼は謝る。イスタはどこにいるのだ、フォイクスと一緒なのかときく。そして&&目が覚める。中庭を見ると、カティララがバルコニーにいた。病人の部屋に入って、出てきた。説明を考えながら、イスタは眠った。<br> **<br> 翌朝、ファーダは、三人がまだ見つからないとイスタに告げ、結局馬を借りて探しに行くことになる。<br> **<br> ファーダの行くのと入れ違いにリスがオビイから手紙を持ってきた。イスタ再会し互いに喜ぶ。リスは最初に伝令の事務所を見つけ、事態を知らせた後、マラディに行き、そこからイスタらはオビイにいる可能性が高いと思いオビイに行った。そこでイスタがポリフォースにいるというメッセージを知り、こちらへ来たという。<br> **<br> リスはイスタの部屋にくるが、侍従たちはイスタばかり世話をしリスを無視している感じだった。<br> **<br> リスと会話。馬丁のゴラムが階級の上下を理解していないことを話しているとゴラムがイスタを病室に呼ぶ。<br> <br> 第一二章<br> イスタはごラムに、意識不明で息すらほとんどしないイルヴィンにキスしてくれと頼む。イルヴィンがこうなったのはロイナが原因だからと。しぶしぶイスタはそうしたがだめだった。そこへカティララがきて、二人を出して何をしているかときくので、イスタは親戚のロード・トビアに診てもらうためと言うハメになる。ラムはロクナリに奪われた後再度イルヴィンに助けられてから忠実になり、看病をするのも彼しかいない。頭は良くないが能力はあるという。<br> **<br> イスタは、寝ながら、神について考える。これが私の祈りの対する神の答なのか。私に何をしろと言うのか、神の力がなければ何もできないと言うのに。<br> **<br> イスタは夜中にトイレに発ち、カティララが病室に入るのを見てこっそり一緒に入る。イルヴィンのシーツを外すと体が光っている。イルヴィンは何かぶつぶつ話しかけている、自分は夫を愛しているが、うまくいかないと、子供のことだろうか? この魔法は一体なんだろう? やがてカティララは病室を出ていく。イスタはイルヴィンが動いたのに気づき、口づけをする。するとイルヴィンはうめき、光が消え、「いい夢だ」といって、また昏睡状態に。<br> 自分が災厄の源ではないか。この気違い女にとって、この状況は神の光になるかもしれない。明日もう一度イルヴィンとあおうと思いつつ、自室に戻って眠った。<br> <br> 第一三章<br> 翌朝、カティララは婦人アーチェリー大会を催すと言うが、イスタは気分が悪いので、と断る。そして、昨夜見たことからカティララはデモンに憑かれていることが明白だが、何ゆえに出てこないのだろうといぶかしんだ。イスタの生身の人間には見えない<神の疵>が、デモンには見えるためだろうか。<br> カティララは、またも息子を身ごもれないわが身を嘆き、どうやってタイデスを生んだのか、何かしたことがあるかとイスタに尋ねる。イスタは返答に困り、「最後にしたことは、<指ユリの花>の湿布だ」と答える。カティララは、ならば午後にやってみるので、リスの手を借りたいと言い、イスタは承諾する。<br> リスは抗議するが、イスタは、花は何でもいい、要はカティララをできるだけ寝室から遠ざけて欲しい、と指示する。<br> 部屋に戻って軽い朝食を取ると、イスタは数通の手紙を書いた。一通は、トルノクソの王に宛てて、フォイクスとカボンの探索に全力を尽くして欲しい。二通目は、マラディの祭司長に、デモンに憑かれたフォイクスとその連れを発見して欲しい。三通目は、カーデゴスの施政官ダイ・カザリルに、リスとファーダとフォイクスの賛辞。ヴァレンダ、イセユ、バーゴンにも簡単な手紙。最後にカザリル宛ての手紙に追伸をつけた。「私の第二の目がよみがえった。困った問題が起こっている」と。<br> **<br> リスは世話を焼こうとする侍女を断り、部屋から遠ざけた上で、イルヴィンの病室をノックした。ゴラムは驚き、イスタをいれたくなさそうだったが、イスタの気配に押されてしぶしぶイスタを中に入れた。要は、昨夜イスタを入れたことをカティララに怒られたためだったが、イスタは、カティララが外出していることを指摘して安心させた。<br> 二人はイルヴィンの目覚めを待った。<br> やがてイルヴィンはごラムの名を呼んだ。そして語った。「夕べ私はまたあの惨めな夢を見た。輝ける女。おお五人の神よ、だが今回ははっきりしていた。私は彼女の髪に触れたんだ&&」<br> そして、ゴラムの視線を追って、イスタを見つけ、驚いた。「あ、あんたは誰だ? これはまだ夢なのか?」<br> イスタは名乗った。<br> 彼らはイルヴィンに食事を与えた。<br> イスタは、ウメルーと共に襲われた状況を尋ねた。<br> 私が刺されたって?と驚きながら、イルヴィンは毛布をはねのけた。胸の傷跡はなかった。<br> 「私には疵なんかない、熱もないのに、なぜ眠ってたんだ。アリス、そうアリスが足元に倒れていた。血。兄はどこだ?」<br> 「部隊長は大丈夫です」とゴラム。<br> アリスがあの夜、ウメルーの部屋にいたですって?とイスタは驚愕した。<br> 「領主ペクマが刺したのですか?」とイスタはきいた。<br> 「ペクマ、あの腰抜けがまだここにいるのか? この件に何か関係があるのか?」<br> 「ペクマはいたの?」<br> 「どこに?」<br> 「ウメルーの部屋に」<br> 「まさか! 何で奴がいるんだ? あの金の娼婦に奴隷扱いされていたのに」<br> 「ウメルーが娼婦ですって?」<br> 「あの女は、おれを見ていないときは平凡なんだが、おれを見るときは突然きれいに見える。他の男と同じようにおれも奴隷になった。ところがだ、あの女は、アリスに目をつけて&&他の女と一緒だ&&」<br> そうして、ウメルーはアリスを誘惑し連れこんだらしい。そこへ、イルヴィンが踏みこんだ&&<br> カティララの話とは全く違っているが、むしろより真実らしく見える。カティララがあれだけアリスに執着しているのはその事件の故だろうか、そして、自分の疵を隠すために作り話をしていたのだろうか。<br> つまり真相はこうか? 目の前に美女をぶら下げられた私生児が、すんでのところで美人の妻のいる種違いの兄に横取りされ、逆上して二人を刺そうとしたが、女を刺した後、兄にナイフを奪われ刺し返された&&。<br> だが、発見状況が違う。イルヴィンは裸で衣服はきちんと畳まれていたし、ナイフはウメルーに刺さった状態だった。偽装工作したにしても不自然な状況だ。<br> ペクマ失踪の件は? ヨコナとの交戦をおそれたアリスが、罪を着せるため偽装工作をしたのか?<br> ありそうな話だが、カティララのデモン、兄弟の胸の疵、イスタの予知夢、炎の綱、神の降臨を説明できない。<br> イルヴィンは、おれは狂ったんだと言うが、イスタはあなたを助けたいと申し出る。そして、すぐ戻ると言い病室を出た。<br> そして廊下に出て考えていた。<br> やがて、アリスが戻ってきた。イスタは、挨拶を交わす代わりに、アリスにキスをしていった。「あなた、死んでからどれぐらいになるの?」<br> <br> 第一四章<br> イスタは、アリスの体温の低さを既に死んでいることの根拠に挙げるが、アリスは本気で認めないようだ。イルヴィンと話したほうがよいだろう。そして病室に二人で入った。二人の間に白い炎の綱が見える。まさしく、デモンがいるのだ。イスタが手を伸ばすと、炎はイルヴィンの中に退いた。アリスは倒れた。ゴラムはアリスを椅子に座らせた。イルヴィンはアリスを見て、突然、僕たちは二人とも助かったと喜ぶ。イスタは最初から説明せよと迫った。イルヴィンはいう、ウメルーがアリスを連れ去ったことをきいた。そして、カティララが追いかけるといいだした。イルヴィンは、嫉妬よりむしろ、ウメルーが自分と同じようにアリスをも捨ててしまうのではと思った。イルヴィンは、ヨコナにゴラムを助けに行った際、ハマヴィク城に行き、娘との縁談を打診されたことがあったが、ジョエン未亡人というこの女性はイブラン語をほとんど話せなかった。イルヴィンはこの女性がウメルーかと思っていたが、アリスはそうでないという。しかしイルヴィンは間違いなく同一人だという。イルヴィンはカティララを止めようとしながら、部屋に飛びこんだ。カティララは真っ先にウメルーを刺しに行った。裸で寝ていたアリスとイルヴィンが止めようとして揉み合いになり、剣がアリスに刺さった。イルヴィンはアリスの傷口を押さえ、ウメルーはアリスに駆け寄ろうとして、カティララに腹を刺され、今際の際にイルヴィンを見ながら「おお」とだけ言った。後は覚えていない。ペクマはその場にいなかったからありえない。ソルドソ王子との戦争を避けるにはペクマのせいにするのがいいとカティララがいった、と。<br> アリスが元気になったからいいではないか、とイルヴィンはいう。<br> しかし、そうではない、とイスタはいった。<br> そして、ウメルーは魔女であり、デモンにとり憑かれていること、イルヴィンにもアリスにも乗り移っていないということは、すなわちカティララに乗り移ったこと、自己の権勢を保持するため、アリスを生かしていることを指摘する。<br> そこへ、カティララが入ってきて、大丈夫かとアリスに泣きつく。リスも引きとめ切れなかったようだ。<br> 「この女はあなたに何をしたの?」<br> 「お前こそ、俺たちに何をしたんだ? 真相を話すべきときだ」<br> 「いや! いや!」<br> 「どうやってデモンがとりついたんだ?」<br> ついにカティララ白状する。カティララはアリスを生かしたかったから、デモンと取引したのだ。<br> イスタは、デモンがイルヴィンの生命を半分奪ってアリスを生かしているのよ、と指摘する。<br> ペクマはカティララが死刑になるよと脅して逃げさせたものだった。<br> カティララは、デモンを去らせることはアリスの死を意味するから、自分が生きている限りつづけるといい、イルヴィンも同調した。<br> だが、イスタは指摘した。そんな風にして生きていても、アリスの体は腐り、心は蝕まれていくことを。そしてそれと共に、イルヴィンの命も使い果たされることを。<br> リスの提案で、カティララを椅子にくくりつけ、デモンをイスタに移らせることにした。<br> カティララはデモンを解放し、デモンがカティララの体に発現し、離せ、自由にしろと叫んだが、カティララの体からは離れようとしない。イスタは、アリスを離すならお前を離してやるといい、アリスは死んだが、アリスの精神は神の下へ行かず漂ったままだった。だが、カティララが戻せと怒ると、魂がアリスの体に戻り蘇った。<br> イスタは、実は自分には神も憑いていると打ち明けた。今回は失敗だったようだが、神とデモンが同一人に憑いた場合にはどうなるのだろうか。<br> イルヴィンは、城は譲れないが財産はいらないといい、アリスも同意し、教会に相談して遺言書を書きたいと述べた。カティララは泣きだし、取りあえずこの場はお開きとなった。カティララはアリスに任せるのがいいかもしれない。とにかく考える時間が必要、とイスタは思った。肝心の第二の目を使っても、名案は浮かばなかった。<br> <br> 第一五章<br> アリスとカティララは全ての娯楽行事を中止し、表舞台から退いた。<br> イスタは、イルヴィンに自分の素性、これまでのこと、予知夢のことを話し、カティララに憑いたデモンの問題を話しあった。<br> そもそも、ウメルーにどうやって憑いたのか? あの悪魔狩りに厳しい国で?<br> カティは、デモンが派遣された、といっていたという。だが、ソルドソ王子がやりそうにはないことだった。飲み助の王子と呼ばれているように、政治に疎くワインパーティばかりやっているような男らしい。たかが国のためにそこまでするとは思えないという。<br> だが、イスタは現に彼らがイブラに派遣しラウマから敗走した軍に襲われたのだ。全く政治に無関心とも思えない。<br> そういうとイルヴィンは、ラウマから?と驚いた。イスタは、息子のビスピンとの戦いにイブラが援軍を送らないようにだろうという憶測を話した。<br> 「うむ、ありえる。ラウマは、ただイブランの領土を叩くだけにしてはずいぶん奥深くにあるからな。退却するには分が悪いことは、攻め入った者ならすぐにわかる」<br> 「アリス藩主も話していたわ、ヨコナを発った軍勢は三〇〇人もいたのに、三人しか戻らなかったのはなぜかと考えているときに」<br> イルヴィンは唇を鳴らした。「アリスにとっては願ってもない。ソルドソにはコストのかかる厄介ごとだからな!」<br> 「何をおいても、私たちの近くに来て、私たちを連れ去ったという点を除けばね。でもそれは彼らの当初の計画にはなかった。チャリオンの地図すら持っていなかったから」<br> 「わたしは、前のラウマの騎兵隊長を知っている。やつなら、ヨコナンに手厚いもてなしをするだろう。われわれがイブラと完全な姻族にならない限りね。あなたの娘の結婚も、ポリフォースの西隣からの圧力をずいぶん緩和してくれたんですよ。その点は感謝します、ロイナ」<br> 「ロイス・バーゴンはいい子だわ」けれどもイスタは、イセユの若きイブランの夫ほどに心底娘に惚れてくれる男はいないということを感謝せずにはいられない。<br> 「父親のロイヤはサボテンのような男だがな。ドライで、とげがあり、手を出すと怪我をする」<br> 「そうね、彼は今や、私たちにとってのサボテン」<br> 「まさしく」<br> <br> イスタはこのスキャンダルをあちこちに手紙で話していた。イルヴィンは構わないと言った。<br> 正気のときは私生児の神に祈るの?ときくと、「起きてるときは」と言ってくれといわれた。そして肯定した。イスタは自分はアーヴォルの愛人でないと言い、いぶかられた。イルヴィンは、アーヴォルには兄と同じように育てられたといい、父が亡くなるまでのことを語った。イスタは、アーヴォルを5年来知っていたが子供がいるとは一言も言わず、ザンガーの迷宮で死ぬことがなければ召喚もなかったのに、と語った。<br> イスタは更に、ゴラムがデモンを媒介した可能性を示唆する。彼らはゴラムを詰問し、ゴラムは否定した。<br> **<br> カボンとフォイクスを追ってきたヨコナン軍をアリスが迎え撃つ。アリスが疵を受けると、イルヴィンが肩に負傷する。イスタはリスに手当を命じる。<br> <br> 第16章<br> フォイクス、カボンとイスタら再会する。イスタはカティララと二人を紹介し合う。なおアリスは軍を率いて新たな敵を追っていった。<br> **<br> フォイクスらはあの後、見つからないようにイスタらを追って、交差点近くの村に行った。リスは祭り上げられていた。彼らはマラディに向かい、トルノクソの王からラバを借りた。そしてその軍に加わった。その後リスを探すなどして紆余曲折があり、アリスに助けられた。<br> フォイクスのデモンについてラウマの教会の担当者がいなかったので手当できず。フェレットのデモンを神に返した尼が、ヨコナンに殺されたのだ。<br> イスタはイルヴィンの事件についてきくとフォイクスは有名だと答えた。それも実はデモンが原因だと真相を話した。<br> そこへアリスが戻る。アリスは迷いを語り、イスタが来たことを感謝する。<br> <br> 第一七章<br> イスタはフォイクスにデモンが見えると打ち明ける。フォイクスですらカティララのデモンをかすかに感じただけなのに。イスタはゴラムも憑かれていたから観察せよと言う。<br> イスタらはイルヴィスにフォイクスらを紹介し、ゴラムにラウマにいたことはないかときく。イスタの考えではラウマにデモンがいた、例の尼が殺されたのはヨコナンのデモンが協同するためでないか。しかしカボンはそれはありえない、デモンが集まるとカオスになるからと言う。イスタの質問に答え、イルヴィスはヨコナンの王の側近の説明をする。<br> <br> 「ああ、それから母親のジョエン王女──ジョエン未亡人ですな。彼女はソルドソの参謀です。伯父や将軍とともに。成人するまでは。数年前、彼女が実権を握ったときに調べようとしたことがありますが、アリスは彼女の性と悲しい未亡人生活のとりこになりかけました。で、ともかく、(後になって分かったことですが)ロイヤ・オリコの最後の病と死の瀬戸際に、カーデゴスはわれわれを過ちから救ってはくれないのでないかと恐れたのでした。それどころか、勝利すらおぼつかないのではないかと」<br> 「ジョエンのことをもっと話して。会ったことはあるの? ウメルーが彼女の最初の計画通りにいったとするなら、あなたの姑になっていたのね」<br> 「考えるのもおぞましい。ウメルーの権力獲得のやり方は欠点だらけでしたから、私は全く意に介しませんでした。ジョエンと対面したこともありません。私より一〇歳から一五歳は年上で、私が王子という地位に伴う政治に目覚めるころには、多かれ少なかれ、婦人のコミュニティに陰棲しがちでした。一つだけ言えるのは、彼女は最近のヨコナンの歴史の中でも最も妊娠することの多かった王女だと言うことです──夫に課された妻の務めを確かに果たしていました。努力にもかかわらず、子供に関してはさほど幸運だったとは言えませんが。一二人かそこらの子を生んだのに、男の子はたった三人で、二人は若くして亡くなった。流産や死産もあったと思いますよ。七人の娘は結婚するまで生き長らえた──ソルドソは、五王系の全体に家族の輪を広げた。ああ、それと彼女は、自分が<黄金の将軍>の子孫であることをとても重視していました。おそらく、夫と息子の落胆を埋め合わせるために──あるいは逆効果だったかも分かりませんが」<br> <黄金の将軍>とは、<ロクナルの獅子>のことだ。ロイヤ・フォンサの治世の一時期、この優れたクアドレン人の指導者は、この数世紀で初めて、五王系を統一しようと心を砕いた。そして、脆弱なクインタリアのロイヤ制の上を潮のように駆けめぐった。だが、志半ばで、三十のみそらで亡くなった。老いたロイヤ・フォンサの死の魔法によって。塔の上高く自らを生贄に捧げる夜に。二人の指導者を殺したこの儀式によって、チャリオンはロクナリの脅威を免れた。だが反面、フォンサの子らに、イスタの世代、あるいは更に後の世代にまで祟る呪いを残してしまった。<黄金の将軍>が残したのは、結局、王系の政治的混乱を統治のために刷新したことと、数人の若い子、少なくともいちばん若いジョエンを残したと言うだけであった。<br> 驚くにはあたらない、彼女が父を失われた英雄と思いながら育ったとしても。だが、もしジョエンが、女性であるが故に、戦争や政治から切り離され、偉大な父の足跡を歩むことができないならば、最低でも自分の息子で父を再現したいと考えるのではないか? あれだけ何度も身ごもったのなら&&二度しか妊娠の経験のないイスタではあるが、それがどんなに女性の肉体と活力を容赦なく責めさいなむかは理解できた。<br> イスタは眉をひそめた。「カティのデモンの言ったことを考えていたわ。<彼女>がくる、とそれは叫んだ。何かおぞましい出来事ででもあるかのように。私は自分のことを言っているのだと思った。神に憑かれた私の状態は、デモンにとっては脅威でしょうから。でも──私は、<くる>わけじゃなかった。既にそこにいたんだから。実際何らの意味もなさない。もっとも、それの言うことはほとんど何一つ意味をなさなかったけど」<br> イルヴィンは考えぶかげに言った。「もしヨコナの宮廷の誰かがチャリオンに攻撃を加える意図で魔法に手を染めたのだとしたなら、何もかもうまくいかなかったと言わねばなりませんね。彼の二人のデモンの媒介者──哀れなウメルーと、騎兵隊の司令官──は、能力を試す最初の試練で失敗したのですから。あなたのご推察が正しければですが」<br> 「多分ね」イスタはいった。「でも、ヨコナの目的に向けて前進がなかったわけではないけど。ラウマの聖女は死んだし、ポリフォースも&&相当破壊された」<br> イルヴィンは鋭い目で見上げた。「アリスは今でもわれわれを統率している──違いますか?」<br> 「しばらくの間はね。でも彼の命は残り少ないわ」<br> <br> 彼らはデモンの黒幕がロクナリにいるとすれば誰かについて論じるが結論はでない。ウメルーの母が娘を使うということは考えがたい。イルヴィンは、イスタが娘の安否を気遣うことに感銘する。イスタは、子供とは神が愛を試す試練なのだという。そこでイルヴィンは、意識を失い昼の覚醒が終了する<br> **<br> イスタはカボンと神について語る(冗長なので内容省略)<br> リスはフォイクスと仲よさそうにしている。<br> **<br> 昼食会の場面(冗長で重要性が低いと思われるため省く)<br> <br> 第一八章<br> イスタ寝室<br> リスがイスタの髪をとかす場面<br> ノック<br> アリスの伝令「アリスが下で待っている」<br> イスタ行く アリスいる 夜<br> 「カティ怒っている」<br> カティ、アリスを失うことに耐えられない<br> アリス、感覚劣化、生きているのは間違いという感じ<br>

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