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<h2 class="date">August 29, 2005</h2>
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<h3 class="title">大江健三郎『同時代ゲーム』新潮文庫</h3>
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<div class="main">読み応えがあった。<br clear="all"></div>
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サンカなどの少数民族、特殊部落をモデルにしたと思しき、四国山中のある村。今は日本社会に取り込まれてしまっているように見えるが、かつては、双子の片割れのみを戸籍登載し他方を戸籍に載せない手法で、戸籍制度上存在しない人々による共同体を形成した影の独立小国家であったという。その歴史は江戸幕府成立直後にさかのぼり、船で流れ着いた<壊す人>と建設者がこの隠れ独立国家の基礎を築きあげた。谷間や<在>に住む一族はさまざまな迫害の歴史を繰り返しながらも、幕府~大日本帝国~日本国の弾圧と戦い続けてきた。ついには、5日間戦争で敗北し、捕虜となった人々は次々と死んだが子供たちを連れて逃げ去った人々もいた。語り手は外からこの村に移り住んだ父親と流れ者の母親の子供たちの中の一人で、双子の妹がいる。父親から、妹は<壊す人>の巫女、自分は小国家の歴史を書く人になるべくスパルタ教育されて育った。妹は村人にフリーセックスを提供した末、娼婦となり、銀座にクラブを開き、あげくアメリカ大統領候補の愛人になるが、癌になり自殺と報じられる。語り手は東京の大学を出てメキシコで日本文学の教師をしていたが、自分の故郷から流れたと思しき人々の噂を聞き、己の使命を思い出し、四国へ戻る。そして、妹に、一族の歴史を記した長大な手紙をしたためる(=これが本書)。妹は、表向きは自殺したとされているが、実際には復活した<壊す人>を発見し、隠れて生活しながら育てているはずと信じている。ラストで語り手は四国の山中で森と一体化するのを感じ、<壊す人>=森=宇宙全体であることを感じ取る。宇宙全体には無数の地球と同様の星があり、考えられうるありとあらゆる歴史のバリエーションが同時並行的に進行しているに違いないと考える(=表題「同時代ゲーム」の由来か)。<br>
少数民族・被差別部落の視点から出発して、特殊な閉鎖国家を造形し、裏日本史とも言うべき長大な架空の歴史を語りながら、現代の世界の状況や日本の歴史を逆照射する作品である。視点の異化を徹底するためか、語り手は、妹に性的欲求を抱き、共同体から脱却することを目的として妹のレイプを試みようとするアウトロー的人物として設定されている。語り手の妄想を全開にした強烈な饒舌文体で語られる現代世界や架空歴史の描写は眩暈がする。<br>
「頭のいかれた視点人物の語る妄想をフィルターとして、その中に戯画化された世界や歴史を丸ごとぶち込み、笑いのめしながら、時代の狂気を乗り越える超越的視点に近づこうとする」という多くの大江作品の基本構造に当てはまる作品。日本社会の現代に対象が減縮され、建設よりも破壊に重点のあった『ピンチランナー調書』に比べると、時間軸・空間軸ともにスケールアップしている上、かつては専ら日本民族、せいぜい種としての人類視点にとどまっていたのが、本作では、森というイメージに象徴される自然=宇宙というより上位の視点に移行し、その中に愚行を繰り返す人類の歴史を卑小な、<破壊する人>によって破壊されてしかるべき存在として位置づけ相対化している。<br>
息子の障害というパーソナルな問題から出発して、正気と狂気の狭間で視点の止揚を繰り返した挙句、とうとう人類そのものの狂気の全歴史そのものを相対化し、それを破壊&再生によって自然・宇宙と共生させようというほとんどSFに近い巨視的ガイア思想にまで行き着いているのがすごい。しかも、その饒舌で破壊的で多義的な文体の持つイメージ喚起力はすさまじい。<br>
<br>
テーマ性 ★★★★★<br>
奇想性 ★★★★★<br>
物語性 ★★★<br>
一般性 ★<br>
平均 3.5<br>
文体 ★★★★<br>
意外な結末★★★<br>
感情移入力★★<br>
主観評価 ★★★1/2(36/50)<br clear="all"></div>
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