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<div class="datebody">
<h2 class="date">May 01, 2005</h2>
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<div class="blogbodytop"></div>
<div class="blogbody">
<div class="titlebody">
<h3 class="title">Damien Broderick "The Dreaming Dragons"</h3>
</div>
<div class="main">
<p>プリングル100冊「夢見るドラゴン」<a href=
"http://image.blog.livedoor.jp/silvering/imgs/9/2/9236fec5.jpg" target=
"_blank"><img class="pict" height="253" alt="夢見るドラゴン" hspace="5"
src="http://image.blog.livedoor.jp/silvering/imgs/9/2/9236fec5-s.jpg" width=
"160" align="left" border="0"></a></p>
<p>感想・粗筋2005.5.3</p>
<br clear="all"></div>
<a name="more" id="more"></a>
<div class="mainmore">
何と言っていいのか&&。とにかく、アイデアはすごい。ここまで大風呂敷を広げながら、見事に全部つじつまを合わせてしまう力業。エイリアン物、はたまたオカルト物? と思わせておいて、実は進化テーマ(時間テーマも入っている)だったという見事などんでん返し。特に、知性を持った恐竜、様々な宗教・伝説上の生物(龍や蛇)、ユング心理学を基調にした生体コンピュータによる集合知性、こういったものを強引に結び付けてしまう腕力はすさまじい。イアン・ワトスンに似ていて、しかも、もっとすごいとすら言っていい。<br>
通常なら大絶賛となるところなのだが&&なぜか、読後感はあまりよくない。<br>
まず、プロットがあまりに雑然としてて整理・計算されておらず、読みにくい。登場人物がやけに多く、性格描写がほとんどないし、不必要な人物も多い。人物の行動に合理性がない。プロットの展開にも合理性がない。中心となるのはエアーズロックの謎の球体と月面の遺跡の謎、球体の端末のように行動する「知恵遅れ」の少年の謎、蛇や龍といった伝説上の生物の夢の謎&&こういったものの真相であるのだが、その謎への興味に頼るあまり、面白いストーリーのうねりというものが全く無視されている。しかもその謎が当初あまりにも難解すぎるために、かえって興味をそいでしまうのがつらい。それに輪をかけるのが、必要かどうかも分からない、学者たちの議論の形をとったオカルトやトンデモメタ科学に関する執拗な薀蓄。最後にカミングアウトされる真相は口アングリの驚愕ものであるのは認めるとしても、それを理解するために、幽体離脱やユング心理学、謎の遺跡、宗教や神話に関するここまで詳細な情報は要らないと思う。これは作者の親切というよりも、むしろ他の資料の孫引きでお茶を濁そうとした手抜きゆえの結果ではないかとすらかんぐってしまうぐらい、うっとうしい。<br>
しかしながら、叙述トリックと思われる構成をしている部分(ロシア人学者の手記と、恐竜人のタイムマシン上の出来事の部分)は秀逸な出来で、ミステリアスな雰囲気を高めている。<br>
着想と、謎を高める手法においては優れているから、あとはしっかりした人物描写、読者の興味を引く面白いストーリー展開といった、物語技術の基本的な部分をマスターして欲しい。この部分がだめだと、いつまでたってもマニア受けにとどまってしまうだろう。本書がディトマー賞をとるほど発表時に高評価されたにかかわらず絶版になっている事実が、すべてを物語っている。<br>
また、アイデアも若干過剰気味で、結末を完全に理解するにはかなり頭を使う。マニア受けはするだろうが、このままでは一般の人気は得られないだろう。もう少し手加減して分かりやすくすればちょうどいい。<br>
テーマ性 ★★★★<br>
奇想性 ★★★★★<br>
物語性 ─<br>
一般性 ─<br>
平均 2・25<br>
文体 ★<br>
意外な結末★★★★★<br>
感情移入 ─<br>
主観評価 ★★1/2(26/50点)<br>
<br>
<あらすじ要約><br>
夢見るドラゴン デミアン・ブロデリック<br>
ザ・ラビットに<br>
<br>
ドラマ的誇張を施した想像力こそ、現代社会の倫理規範でかんじがらめにされ見失われた超自然的なものを倫理的自我のレベルに引き戻す最適の手段である。ピーター・ブルックス<br>
<br>
第一部 サイクロンの縁<br>
1 中央オーストラリア<br>
男は砂漠の太陽を憎み、追いかけ続けた。<br>
男の細胞のからみあったDNAスパゲッティの中に、敵なる光、肉を剥いで骨だけにしてしまうほど強烈な光によって、五万年もの間選びぬかれた遺伝子の塊が存在していた。子供時代から、その遺伝子は男の肉の表面に、焦げた薪の色に焼けることもある皮膚を形作っていた。<br>
アルフ・ディーン・ジャニャギルンジは鼻を鳴らし、自動車のハンドルが手の中でがたごと振動した。<br>
人類学者アルフは、知恵遅れのように見えるが霊感の強い甥のマウスを連れ、ランドローヴァーを運転して、原住民部族たちが崇拝する伝説の生物「虹の蛇」の手がかりを探しに砂漠に来ていた。<br>
彼らは絶壁に開いた洞窟を見つけ、中を探検すると、奥に、実物の「虹の蛇」ともいうべき奇妙な機械を見つけた。様々な色に移り変わるランプがついている。ホログラムか? 埃のかぶり方からして、非常に古いものだろう。異星人の機械だろうか。その奥の階段はどこに通じているのだろうか?<br>
アルフは、奥の階段を登り始めた。<br>
<br>
2 中央オーストラリア<br>
先に登ったアルフは何かに衝撃を受けて階段を転げ落ち、気絶した。マウスことヒエロニマス・ディーンは、叔父を助けて戻ろうとするが、何らかの場がバリヤーを形成しているようで、戻れなくなっている。マウスは仕方なく階段を登りきった。広い箱型の部屋に出た。中央に光る球体がある以外は何も見えない。「助けてくれ! 叔父さんが!」と叫ぶと、男たちの声と足音が聞こえ、こっちへ来いと言っていた。マウスが球体を回りこんでいくと反対側の壁の中に穴が開いて、その空間に三人の男がいた。一人がサブマシンガンを構えている。来いというので、マウスが穴に登ろうとすると、一人が彼を落とした。マウスは叔父のところへ戻り、叔父を引きずって上がった。球体の脇を回りこんで叔父を引きずっていると、球体の場の効果か、ヘレン・ケラーの映像が頭に見え、母親のアニーとの小さいころの会話を思いだした。男たちは、担架を下ろすからおじさんをおいてここへ来い、と言った。そして,何人かの男が担架を持って叔父を乗せ、穴の下まで運んだ。マウスは叔父を穴に持ち上げるのを手伝った。三人の男の一人は軍曹でサージと呼ばれ、もう一人の男はスタインメッツと呼ばれていた。<br>
<br>
3 ドーム<br>
病室に運ばれたアルフはベッドで生死の境をさまよっていた。意識の最表層の第一レベルでは、「どうやって基地に入ってきたのを聞き出すために助けなければ」という声が聞こえていたが、第三レベルにおいては、古代の夢の光景を見ていた。彼はプニンガーラという名の男になっており、スリ・ラマクリシュナという名のドラゴンと話しながら、妻のワントゥクガラを従えて、「不思議なもの」を探していたかと思うと、今度は妻になって、夫の後を追っていたりした。夫は点から落ちてきた「不思議なもの」を見つけていた。<br>
意識の表層では、「おい、彼の心臓が止まったぞ」という声が聞こえ、自分の意識が肉体から抜け出し、それを外から見ているのを感じた。マウスの声が心の中で、「デルフォードを連れてこさせたらどう」と言った。デルフォードって誰だ?<br>
やがて彼は意識を取り戻した。アーウィン、ケイシー、ジョインヴィルらがつきそっており、いろいろ話しかけてきた。アルフがマウスの居場所を聞くと、無事にほかの部屋で保護しており、後で会わせるということだった。アルフは、自分の素性や、どうやってあの基地に入ったかなどを説明した。<br>
まもまく付き添いの人間が入れ替わり、いろいろと質問をしてきた。ミグレイン、ジョー・サットン、ソーヤー将軍、ヴィクター、フェドレンコらがいた。アメリカやロシアなどの学者や軍人がいた。ここはオーストラリアの砂漠で見つかった異星人の設備の周囲に設けられた基地だった。アルフの説明した道順で行くと、アルフのローヴァーが見つかったので移動してきたらしい。くだんの洞窟を調べたところ確かにアルフの説明通りの機械や通路が見つかったが、レーザー光線を発射したところ機械は機能停止してしまったので、機械の機能はまだ確認は出来ないらしいが、その装置がいわゆるテレポーテーション装置、<ゲート>であることは疑いないようだ。洞窟の年代は非常に古く、6000万年前らしい。異星人は他にも多数のゲートを設けているのではないか。バミューダトライアングル?<br>
アルフは夢や幽体離脱の話もした。そして、デルフォードという名を試しに出してみると、それは幽体離脱、OOBE(ウービー)研究の権威だということだった。<br>
ヒュー・ラップは後でマウスと会わせてくれるらしい。<br>
マウスの母親(アルフの白人の姉)は、薬物中毒で、その影響でマウスの脳に損傷があるようだという話をアルフはした。<br>
<br>
第二部 鯨の腹<br>
4 カリフォルニア<br>
サットンらはカリフォルニアのビル・デルフォードの研究室を訪ね、グルオンという原子を構成する素粒子の場の中に入ることで個人の意識を集合無意識から切り離し、幽体離脱体験をさせる装置(全裸でそのフィールドに入る)をみんなで体験する。<br>
<br>
5 カリフォルニア<br>
真夜中にデルフォードは学友の国連職員ブライアント・ゲルナーの訪問を受ける。今すぐニューヨークに来るように要請されているらしい。彼らはヘリコプターで飛行場へ移動する。そこではヒュー・ラップが待っていた。飛行機の中でラップはビデオ映像を見せながら、超古代の異星人の遺跡と思われるものについて説明を始めた。1970年、アポロ13号が月への飛行中、月面クレーター内にある異星人基地(セリーヌ・アルファ)の妨害電波によりトラブル発生し地球に帰還した件。月面にある奇妙な構造物を探索する映像が映っていた。また、オーストラリア中のエアーズロック地下に発見された異星人基地の件。そこには、デルフォードの造ったグルオン場とは比べ物にならないほど強力なバリヤーの場が張られ、多数の者が死んでいる。(ドーム)と呼ばれるこの場所から、ある少年が現れた。彼は言葉が満足にしゃべれないが、自動筆記のように文章を書く。ところが、その内容がさっぱり理解できないのだという。<br>
<br>
第三部 死者の秘密会議<br>
6 エアーズロック<br>
デルフォードはそのままエアーズロックに連れて行かれ、セバスティアノス将軍やトマス・チャンドラー大佐を紹介され、部屋を与えられ、報告書を読み、アルフ・ディーンと会った。それから集会室で会議が始まった。ドームの電磁場と、幽体離脱実験装置の類似性が議題だった。<br>
「くそ」座席の中でぐらぐらしながら、ビル・デルフォードは言った。<br>
物理学者のフェデレンコが話し始めたところだった。すぐに話を止めた。「何ですって、デルフォード博士?」<br>
「すみません、ちょっと考えごとを」ばかもの、おれは今、グロープ・ピットにいるんじゃないんだぞ。この石頭の連中の前では、おれの質問は鼻で笑われそうだ。「発見のための返報主義」を非論理的に始めるという考えに慣れていないのだろう。<br>
「自由に発言していただいて構いません。公式ディベートのルールなんぞに縛られている余裕はないんですから」将軍と違い、フェドレンコのアクセントは、オックスフォード・ケンブリッジ式ブリティッシュ・イングリッシュの、ちょっとした厚塗りバージョンだった。それを聞いてビルは、自分の「赤レンガ」のリヴァプードル式アクセントよりも、アンの英語を思いだしていた。若いころこのロシアの物理学者は、第二次世界大戦が終わるまで、英国のレーダーシステム分析部に勤務していた。<br>
セバスティアノフはこちらにうなずいて見せた。何ということ。ビルはアルフ・ディーンに身を乗りだした。「現地のアボリジニーとして、エアーズ・ロックに関し、何か言いたいことは?」馬鹿げた質問だった。野蛮人オリゴピテクス・サヴァゲイは、二五メガ年前にはいたのだろうが、いかなる口コミの目撃情報も、多少なりと必ず間に合わせの事実の歪曲を行うものだから。<br>
フェドレンコはそう考えていないのは明らかだった。ディーンに向かって眉をあげ、大げさにうなずいて賛成して見せた。<br>
それから、部族保護のため移住を強いられたアボリジニー部族、その奇妙な神話の内容などに議論は及んだ。ピチャンジャラ族に伝わるワナンビ、「虹の蛇」の神話。しかし、テレポート・ゲートそれ自体が神話の源泉ではないのか。<br>
アボリジニーの神話は、ユングなら集合無意識で説明しそうな内容だ。ビルは他の様々な神話上の概念をあげ、「意識の変容状態」に、より合致する例をあげた。蛇、サタン。<br>
ディーンは、ピチャンジャラの魔法使いがドームの地下からの何かと共鳴してあの神話を作り上げたのだろうと言った。<br>
更に、マウスという少年はドームの中の知性のチャンネルのような存在になっているという説が出た。<br>
ビルは、種族の生き残りにおける自然選択にかかるナイジェル・コールダーの論文の一節を読んだ後、少年が書いた文章を読んで驚く。まさにその子はチャンネル、情報のバルブだ、と思った。<br>
<br>
7 エアーズロック<br>
科学者が飯を食いながら話す場面。特に進展はなし。ビルはラップらと部屋に戻り、いろいろな記録を読む。<br>
<br>
8 エクラトコイェ・コンプレックス<br>
一一月一二日<br>
クエンツリ看護婦がやっと紙とペンをくれたので、手記を書き始めることにする。私には機械の部分もあるが、人間の部分もあるのだ。私の支配的感情は退屈だ。だが退屈について書くほど退屈なこともない。ここらでペンを置く。<br>
***<br>
後刻<br>
私は腕時計以外の持ち物をとり上げられた。多分ウイルスの蔓延を防ぐために処分されたのだろう。<br>
私(イリヤ・ダビドヴィッチ=ククシュキン)は二人の外科医、イオシフ・ジノビエフとシピアジンの訪問を受けた。ジノビエフが救急車を呼んで私をここへ運んだのだ。彼らは私を聴診器で診察した。ここはエクラトコイェ総合病院という名前らしい。シピアジンは病院の地図をくれた。数日私はここに滞在するらしい。<br>
私はひどい病気というわけではないが、イージス艦チームの重要メンバーなので大事をとる必要があるということだ。食物に毒が混入したという噂が流れ、私が食中毒にかかった疑いがあるらしい。破壊工作か?<br>
そんな暇はないはずだ。帝国主義者どもは、グルオン・シールドとセリーナ・アルファのことで忙しいはずだ。<br>
彼らは帰り際に薬を渡し、食後に飲めと言った。何かあればボタンで呼べ。<br>
食後私は具合が悪くなった。夜中に眠れなくなり、私は病院内を散歩し、玄関のエアロックを見て呆れた。普通の病院じゃないじゃないか。そんな設備が必要なのは細菌兵器の研究所だけだ。<br>
何ということだ。私は実験的な終末細菌兵器の餌食になったということだろうか?<br>
***<br>
一一月一三日<br>
今朝とても妙な気分だった。体の具合はいいのだが、ちょっと、落ち──落ち──<br>
なんだっけ? ああ、そうだ! 落ちつかない! <br>
何てことだ、ボケ老人が言葉を思いだすみたいに!<br>
キリスト様、一体私に何が? 冷や汗が流れる、たった一語の単語が記憶から、すり、すり、すり抜けてしまったために。うっ、まただ! すり抜けるという単語がすぐ出てこなかったぞ。いったいどうしたのですか私はイエスさま<br>
***<br>
後刻<br>
アナが私を見つけたとき、私は泣いていた。アナは薬をくれた。アナというのはクエンツキ看護婦のファーストネーム、私はついに聞きだしたのだ。私たちは親密になった。<br>
***<br>
後刻<br>
医師二人が食事中の私を診察に来た。<br>
***<br>
後刻<br>
私は今日地図を見て病院内を探検したが、鍵がなくては行けない場所ばかりだった。<br>
アナが私をベッドに寝かせた。大きなおっぱいが白衣の隙間からもうちょっとで見えそうだった。わしづかみにして揉みしだきたかった。私は勃起していた。アナは気付いたのだろうか?<br>
そもそも私はなぜこんな日誌などつけているのか。私は狂っているに違いない。誰かがこれを見て呆れかえるだろう。でも私は書かずにいられないなぜならここ10年私の耳の中でじくじく音がする私の頭からどんどん言葉が流れ出して処女のような白い紙を汚すからだシスター・クエンツキが処女ということはありえないあんなでっかいおっぱいの女が処女のわけがないああレイプしたい犯したいレイプレイプレイプイエスさま脳が溶けそう頭がおかしくなりそう耳鳴りが<br>
***<br>
一一月一四日<br>
何をしたらいいかわからない。<br>
本当に。<br>
習慣に教えてもらう以外ない。<br>
私は死にかけているのではない。狂おうとしているのだ。<br>
この病院には他に患者はいない。私の入院の理由はそれだ。誰も面会にも来ない。<br>
自分について書いてみよう。イリヤ・ダビドヴィッチ・ククシュキン。サブクオーク準静力学研究国際チームの一員。月の古代遺跡を元に反核シールドを開発。世界二大国が互いに核兵器を防ぐことが出きる。<br>
私はレムの本を見る。ポーランド語を忘れてきている。ドイツ語も、フランス語も、英語も。<br>
アナはテレビおみろというこれを書くのわただしいと思うずっとやってきたからみろもうこんな風にしか書けない自分の名前イリヤダベドベチククシキンさあこれほらイリヤベダベドベドベドベ<br>
(太陽と家の絵、人の絵、文字)<br>
***<br>
一一月一六日<br>
今朝あいつらが抗原をくれた<br>
糞が糞が薄汚れた糞が<br>
***<br>
一一月一九日<br>
私は日誌を書きたい意欲が薄れてきた。17-Tg-Mの作用だろう。<br>
二人の医師は、17-Tg-Mを使ったことを認めた。事故だといっているがむろん抗放射線注射のどれかに入れていたのだろう。やつらはいろいろな人間に使っているに違いない。<br>
足音が近づいてくる。私は死人だが、まず私が殺さねばならない相手は<br>
<br>
9 エアーズ・ロック<br>
死の夢の最後に、ドアのノックの音を聞いて、アルフ・ディーンは自分が眠っていたことを知った。脳が電話なら、人生はもっとたやすい、と、ククシュキンという名の竜が言った。アルフは夢の竜とのやり取りを思いだしていた。<br>
「将軍が会議室でお話しになりたいと」<br>
「わかった」午後遅い時間だった。マウスのベッドには誰もいない。「シャワーを浴びてから行く」<br>
「できるだけお急ぎください」<br>
「こんな格好のまま行ったら将軍がいい顔をするとは思えないね」<br>
「今向かっていると伝えておきます」<br>
シャワーを浴びていると、エアーズ・ロックの上に溢れる水音がする。一体どこから来た水だろう。フェドレンコはテレポートシステムと関係あるようなことをいっていたが。<br>
会議室には20人集まっていた。<br>
セバスティアノフは、全員集まったのを確認すると「聞いて欲しい。米ソ間に核戦争の危機が勃発した、そして、その問題はもう解決した」と宣言した。会場は静まり返った。将軍は続けた。「実は今日の午後、ドームが少年を通じて、二大国間に大きな紛争を引き起こしたのだ」<br>
アルフは「竜だ。ククシュキンだ」とつぶやき、気分が悪くなった。<br>
将軍は「どこでその名を?」ときいた。フェドレンコの同僚の名前らしい。<br>
アルフは夢で見ただけだと答えた。マウスがドームの送る夢を見ているのなら、自分のもそうだろうと。<br>
デルフォードが、何かメッセージはなかったかときくので、竜は死んだと答えた。<br>
将軍は机の上のファイルを見ろといった。見ると、マウスが筆記したというロシア人学者ククシュキンの手記だった。アルフはそれを読んだ。<br>
そこヘ雨がやんだというニュース。<br>
将軍は更に、ククシュキンが17TG-Mという薬を盛られたことを話す。<br>
戦争の危機は米ソの双方がドームの陰謀だとすぐに気付いて回避された。<br>
将軍はノースコート大佐に17-TG-Mの説明をさせた。それは体内のバクテリアを殖やし、エンドルフィンを分泌させる。その結果被験者はマウスのような能力を獲得し、ドームと話せるのだ。<br>
<br>
10 エアーズロック<br>
彼らはローヴァーでエアーズロック周辺をめぐりながら、アボリジニーの神話や幽体離脱研究史(モンローら。注、ロバート・モンローは「体外への旅」「魂の体外旅行」「究極の旅」の著者でモンロー研究所の創設者)について語る。モンローは1958年「ローケール3」と呼ばれる平行宇宙への未知を見つけた云々。<br>
あるいは、アンドリア・プハリッチの「テレパシーを超えて」とか。ユリ・ゲラーを研究した男。ボブ・レイムという男の体験をレポートしている。<br>
それらを時々、同乗しているマウスが話す、あるいは引用する。マウスがドームのチャンネルに過ぎないとするなら、一体、誰が話しているのだろうか?<br>
デルフォードはモンローらの幽体離脱体験にしろ、アルフの竜の夢にしろ、要はシンボリズムに過ぎないという考えを話す。その意味を解釈しなければならないのだと。<br>
宇宙飛行士は車を止めた。幽体離脱、神秘体験について語りつづける声を聞きながら、アルフは、エアーズロックのトンネルを進む男の姿を幻視していた。彼が先頭を進み、他のものが機材を持って後を進んでいた。だが、この男は突然発火し、焼け死んだ。アルフは絶叫した。<br>
そのとき無線を聞いていたヒュー・ラップがいった。「あいつら、ばかだ。ドラッグを待てないらしいよ。またもう一人調査員を送りこんだらしい」<br>
「その人は焼け死んだ」アルフは泣きながらいった。「真っ黒焦げだ、見る影もない」<br>
<br>
第四部 エデンの前<br>
11 深層時間<br>
リオナ・ラル・ネッシュとアノカーシュ・フジ・ラーズ登場(エイリアン?)。<br>
整備師は、もう一本鎮静剤のアンプルを持ってきた。リオナの首筋で脈打つ血管にノズルから吹き出す心地よい風が金切り声をあげると、呼吸は穏やかになり、落ちついた。(監督者)はリオナの首を持ち上げると、胸の上に横たえた。<br>
「よくやった、技師よ」監督者はいった。「もう大丈夫だ、万事オーケー」衛兵の姿がリオナの暗い視界を乱した。「さすが手際がいいな、役人さん」アンカーシュは言った。「トコッシュ・フジ・ネッシュが戻り次第、連れてきたまえ。ああ──それと、もしディーチャー・ラル・ラーズがきたら、通してもいい」衛兵は了解したという身振りをし、(周縁)の張りつめた円弧状の水晶の光輝の中へ歩み出た。<br>
「カーシュ?」細く傷のある顔で見上げる。「私は本当に帰りついたのですか、アノカーシュ?」<br>
カーシュはリオナの首筋の柔らかく黄色っぽい綿毛を撫でた。「そうだとも。もし使節団の全員が、君がここに来るために引き起こした騒動を知らないのなら、びっくりだ」<br>
「それが技術者気質です」リオナの青ざめた微笑は不気味だった。カーシュはまた腹部が引き締まるのを感じた。あらゆる事前の注意にもかかわらず、(コア)とそこに住む野獣どもがみんなの生活を圧迫していた。<br>
遠くで急行カプセルカーがかすかな音をあげ、断固たる口調の声が尋ねた。「彼女はどこですか?」雑用の女中のつぶやき声。トコシュは衛兵のバブルに入り、手足や胴回りの羽毛は震えながら逆立っていた。瞳孔は開いていた。「恋人よ!」フロートの脇に膝をつき、監督者を無視してリオナを引き寄せた。<br>
アノカーシュは脇に退き、腹の底で怒りが蘇るのを感じた。二人をそのままにしておき、後ろ手にバブルの扉を閉じた。水晶の物体から広がる虹色の光が浮き上がってみえた。<br>
衛兵や整備師と話したアノカシュはバブルに戻った。担架の上の妻の脇にトコシュが座っている。<br>
「カーシュ、おれたちは行動しなきゃならん。おれたちは忍耐強すぎた」芸術家のトコシュがいった。「力ずくで(コア)に入るんだ」<br>
「無理だとわかってるだろ」<br>
「可能にしなければならんのだ」<br>
「静かにして」妻が弱弱しくいった。「クリスタル・マスをおさえるために、監督者が全力を尽くしているのよ。無理なことを期待してはだめ──」<br>
「期待だと? おれは要求しているのだ!」整備師は唖然として横目でトコシュを見ていた。「この状況はもはや耐えがたい。おれは使節団と、(静箱)の子供たちと、女たちの安全を要求する」<br>
戸口にディーチャー・ラル・ラーズが現れ、リオナのそばへやってきた。「あいつら、何をしたの?」<br>
「リオナとは後で話そう。今は休ませるのだ。おれたちは話しあうことがある。行動すべきときなのだ」<br>
***<br>
かような竜とおぼしき、「深層時間世界」の住人たちの描写が続く。(コア)という場所に獰猛な野獣が保護され、住人たちに悪さをしており、リオナもやつらに襲われ負傷した、という設定らしい。<br>
果たしてこの世界はどこなのか? (コア)とは何なのか? 彼らは(コア)に攻めこむのだろうか? そして、この世界と、地球上の表層世界、エアーズ・ロックのドーム、月面基地、チャンネル人格との関係は? 幽体離脱とは何だろうか? 17TG-Mというドラッグは人間の精神にいかなる影響を及ぼすのか? そして、アボリジニーたちの神話、「虹の蛇」とは一体何だろう? <br>
***<br>
そこへ、船上文明エリアに野獣が出現したので、コントロールエリアにもどれとの連絡が入った。アノカーシュは走った。彼らは次々とカプセルでコントロールルームに戻った。<br>
データ解読したディーチャーが言った。「やつは第3デッキにいるわ」<br>
すぐに対策を講じなければ、敵は船に甚大な損傷をもたらすだろう。<br>
「そいつは一種の電子機器妨害装置を使っている。だから侵入を探知できなかったのだ」と声。<br>
カーシュは、その野獣がコアへ退却する前に捕らえようと、レベル3行きのカプセルに乗る。彼はディーチャーと共に、手分けしてその猿型野獣を探す。<br>
ディーチャーが、次のパワーケーブルを切ろうとしている猿獣を見つけたと連絡した。<br>
カーシュは、5本指の猿獣と戦っている妻を見つけた。カーシュは銃で猿を狙って撃った。猿は妻を投げ飛ばし、妻は床に倒れて動かなくなった。<br>
カーシュは猿に気付かれないよう間合いをとって様子を窺った。猿が誤って教育機械のスイッチを入れてしまい、機械が話しだした。「子供たち、本日は僕たちが住んでいるこの船について勉強しましょう! 僕たちは大昔、大人たちが造った卵型の巨大な船に住んでいます! もちろん本物の卵ではありません。卵に似た形をしているのです。それに、僕たちの家はいくつかの点で本物の卵に似ています。僕たちを時間から守ってくれるのです。爬虫類の卵が赤ちゃんを守ってくれるのと同じですね」<br>
強烈な匂いがする。この猿型動物は、もともと飼っていた奴隷猿の種類とは大きく違っている。少なくとも50万年分は道のりを隔たっている感じがする。気持ち悪いやつらめ。<br>
「その卵は魂と呼ばれます。なぜだかわかる人、いますか? 誰もいないの? いいですか、子供たち。この偉大な船は、僕たちが新聖な使命を忘れないように、魂という名前がついているのです。僕たちは知識の光と喜びを先祖に伝えるため、この偉大な航海に旅だったのです。いつか君たちにもわかる日が来るでしょう」アノカーシュの撃った銃(麻酔レベルに合わせてある)が当たると、機械の声は勢いを増した。「僕たちのらせん状遺伝子は、僕たちが直面している荒々しい恒星爆発に耐えられません。準現実から現実への瞬間的加速率の現状を前提にすると、最も厳格な段階的統合フィールドによる庇護なしでは。だからこそ君たちも、訓練された猿の助手たちも、(静箱)の中で胚の段階から成長加速をかける必要があるのです」<br>
コントロールルームが教育機の別のパワーケーブルを見つけ、声を切った。<br>
監督者は猿を見つけ、その銃を奪い、点灯を指示した。猿は光に麻痺し、気絶した。レイジーレッグス、アップル、ステツナ・ド・ネンがいた。みんなで猿を運んだ。猿を治療機に据えつけ治療した。こいつとコミュニケーションなど可能だろうか? まさか。とても知性があるようには見えん。<br>
ところが猿は目覚めると言った。「この馬鹿どもが。お前らは滅びる運命にあることがわからんのか?」<br>
アノカーシュは凍りついたまま猿が再び意識不明の状態に落ちていくのをただ見ていた。<br>
<br>
12 深層時間<br>
(ゴーインヘンス(死))の苦痛、死者の同族の純粋な悲哀、残された者の昔ながらの泣き声の中で、意識を失った猛獣の姿に深く心乱されながら、アノカーシュ・フジ・ラーズは己の主要な役割を離れ、辛うじて立っていた。悲しい、悲しい、悲しい。これは全て幻影。騙されるな。そう言い聞かせつつも、アノカーシュは猛獣の存在を契機として己のうちにわき起こる強烈な悲痛に圧倒されていた。<br>
カーシュは妻からナイフを受け取る。「われわれは生と再生の地にいる。われわれは今、友の転生の声を聞くために集まった」<br>
「巣作りの地と休息の地はひとつ」<br>
「子供が作られる地、肉体を持たぬものは知恵に集う」<br>
「意識の精子と卵子が集まるところ、肉体が生まれる。肉体が消えるところ、死者の意識が永遠の生命に生まれる」<br>
「肉体は肉体に戻る。魂は魂に入る」<br>
「我らの悲しみはこの上なく正しい。我らの友は去ったから。だが彼らは我らを待つために去った。彼らの魂は消えない。肉体は滅びるとも。悲しみの中に喜びを見出せ&&」<br>
彼らは血がほとばしり出る仲間たちの死体を見ながら忠誠を誓った。<br>
そして解剖の儀式を始めた。<br>
まずギネ・ド・ロド。わた抜き。参列者が声を合わせて泣く。<br>
次にタリ・フジ・サルダー。<br>
唱和し、死者と一体化するためにその肉を食う。<br>
次に、(仲裁者)という霊媒役の女を通じて死者と話す。タリに話しかける。<br>
「さささささ寒いとととととてもおおおお。たたたたびするのにいいいいちばんわわわわるいきききき季節だ」<br>
タリの妻が泣きだす。死者が幸福に包まれないなど通常ありえないことだ。かつてない不幸な死。<br>
儀式は終わった。参列者は三三五五散った。<br>
監督者はディーチャーに、生けどりにしたサルを見に行こうという。「やつらはクリスタルマスに聖所以上のものを見つけたのだ。他の種族の魂がコアに介入しているぞ」<br>
妻はサルが知性を持っていること、進化していることを最初から気づいていたという。<br>
話しかけると、サルが言葉をしゃべったので驚き、「囚人」の名を与えた。彼の後から仲間が来る予定らしい。<br>
サルとひとしきり話し、監督者はなすべきことを知った。<br>
<br>
13 深層時間<br>
アノカーシュはクリスタルマス(水晶ビル)の中に丸腰で入った。トコシュ・フジ・ネッシュも同行して、猛獣のいるエリアに入った。ジク・フジ・ロドもいた。多数の男たちが大挙してやってきていた。<br>
一体なぜコンピュータはコアへの制御を止めたのか。無秩序な成長を許したのか。謎だった。<br>
おれたちは(古き人々)、(万物の親)の正当な後継者でないのか、見放されたのだろうか?<br>
おれたちはコアを攻め、占拠すべきなのか?<br>
選択肢は二つだ。猛獣猿たちと和解するか、滅ぼすか。<br>
さあ、どっちだ!<br>
監督者は叫ぶ、やつらをコアにとどまらせていいわけはないだろ!<br>
そして叫ぶ。「あいつらは、おれたちの同朋の魂の集合に侵入しやがった! 考えているのは俺たちを殺すことしかない。やられる前にやるしかないんだ!」<br>
だがトコッシュは言う。「報復は狂気だ。俺たちは引き返すべきだ」<br>
そこへ猿が襲ってくる。カーシュはパワーナイフで倒す。<br>
クリスタルマスはほとんど崩壊している。だが辛うじて猿を生かす程度の電気が通り、小さな閉鎖した生態系が造形されている。そう、六千万年間、この猿たちにタブーはなかった。同族殺しすら、知的生物を殺すことすら。<br>
彼らは猿たちとつばぜり合いを繰り返しながら、広場に出た。監督者はトランシーバーで位置情報をメインコンピュータに送り、妻に連絡した。<br>
猿の群の中に、子供のころコアに消えたチャルツィン・フジ・ティゲがいた。<br>
監督者はチャルツィンに助けを請うが、彼は無視して踊りだした。<br>
イヤホンで妻が、もう少し時間がかかるといっていた。<br>
猿たちが何か大きなものを広場の中央に運んだ。錆びた鉄の卵。妊婦の猿がいた。<br>
飛びだしたトコシュは棒で殴られてたおれ、チャルツィンによって祭壇に運ばれた。「幸福と旅の終わり」彼は言った。女猿がトコシュの横たわった体に上下逆さにおおい被さり、股間に顔を近づけ、ペニスを持ち上げた。<br>
そのときイヤホンに「突破したわ!」という妻の声。天井に穴が開いて人が飛び降りた。<br>
「みんな目をつぶれ、見るな!」<br>
閃光。<br>
爆破によってローカル重力システムが停止し、無重力になり、人や猿が宙を舞った。<br>
監督者は妻らからパワーガンを受け取り、気絶して股間から血を流すトコシュを助けた。<br>
「みんな、アクセスシャフトに入れ! 全員出たら出口をふさぐのだ!」<br>
妻の声。「3人の行方不明者を保護したけど、全員頭をやられてるわね」<br>
アクセスシャフト封鎖後、気圧服を着た監督者は、コンピュータに優先コマンドを告げた。<br>
そして非常船体ロックからできるだけ遠ざかった。<br>
そして、作動コマンド。<br>
強烈な風が吹き荒れた。何もかもが宙を激しく舞った。二重ドアが不気味にぼんやり光っていた。壁に血しぶき。おれが殺したんじゃない、と彼は自分に言った。そして、ロックの封鎖コマンド。<br>
帰路の途中でもう一匹の猿を始末した。<br>
妻が迎えてくれたが、とても手を握る気分になれなかった。<br>
<br>
第五部 龍の居留地<br>
14 地下ドーム<br>
彼らはケーブルカーでドームに降りた。ソーヤー将軍が出迎えた。<br>
もうすぐヒューがドームを破壊しに来る、あるいは逆になるかもしれないが。<br>
ヒューが来てアシニン分泌を促す酵素を皮下注射した。<br>
ハリス・ロウエンタルが来て、出発だといった。いよいよ300メートル下へ行くのだ。彼らはラップについてコマロフのところへ行った。<br>
ドームゾーンへは同じ人間は二度は入れなかった。<br>
ビルはアンにも来て欲しかったが、女性は入れないためいなかった。<br>
ついに彼らはトンネルを下っていった。付き添いの兵士と共に。<br>
いよいよ境界ゾーンについた。彼らは兵士と分かれて梯子をおり、ゾーンに入った。<br>
平面の中央にある白い球がドームだった。<br>
彼らはドームに近づいた。ドームは攻撃をしてこない。<br>
と、突然ビルは自分たちの体や顔が醜くあれこれと変形して見えるのを感じる。「法に従い床を掃き清めよ」とヒューが言い、彼らはいろいろと話す。どうやったら入れるのか。<br>
と、入り口が開いた。ビルの心に「よく来たね」の歌声。ビルは身動きできなかった&&動いていた。「なぜ怖がるの?」と美しい声が言った。「ずっと待っていたよ、ずっとずっと」蛇の匂い。<br>
「コンピューターだ、美しいコンピューターだ」とヒュー。<br>
「お前の心は美しい。お前は足かせを逃れた」とドーム。<br>
ビルはドームの中央に歩きだす。<br>
「光の幾何学。機械は公式を示している」とヒュー。<br>
ビルの前に母。光の蛇の中へ。そして自分が蛇になる。<br>
蛇は叫ぶ。「ぼくを拒否しないで!」<br>
ビリーは9歳。母は泣き父は怒っている。母にかけよるが拒否され、父はビリーを置いて姉と家に入るという。母が大嫌いだった。死んじまえと思った。でも次には彼は泣いていた。母には傷ついて欲しくない。なぜあの男といってしまったの? 父はジャネットと再婚しビリーとアンシアをもうけた。<br>
「行くな、行くな、僕を捨てないで」<br>
彼は前に走りだしていた。入り口は消えた。<br>
「人間よ、質問があるのか? おまえたちはそうもあっさりと神を忘れてしまうのか? おそれを捨てろ。私はイシス、人類の母。私の腕に入り、栄養をとれ」<br>
これはドームではない、監獄だ。<br>
この自称女神は囚人だ。大昔の。<br>
解放するにはわれわれが必要。<br>
彼らはわめいた。どうすればいい?<br>
ビルは自分の顔を見た。<br>
帰りのクラクションが聞こえたが動けない。<br>
ケンタウロスがドームに入るのが見える。これはユングの言う象徴だ、心の投影だ。<br>
ケンタウロスが言う、夢は終わったウルル、戦いは終わった。<br>
ビルは理解する、ケンタウロスは自分を助けてもらうためにビル自身が選んだイメージだ、シンボルだ。<br>
そしてビルはついに、幽体離脱体験をする。彼は妻や子に会う、そしていかに愛していたかを再確認する。<br>
彼は自分の肉体を外から眺め、イオンを振り払い、心臓を止める。<br>
彼は死んだ。<br>
<br>
15 ドーム<br>
自らの肉体を殺したビルは、人々が自分の遺体を確認するのを見ている。<br>
人々は、またマウスがゾーンに入ったと騒いでいる。生きているはずがない、ゾーンに二度入って生きて帰った人間はいないと。<br>
「死んでいるようには見えないな」衛兵の一人がロシア語で言っている。「言わせてもらうが、ティトブ。あの少年はおぞましいゾンビだ。おれの聞いたところでは、アメ公にもう少しで核スイッチを押させるところだったそうじゃないか」<br>
「お前はいい加減なやつだな、レオノフ。どこで聞いたんだ? あいつはまだ赤ん坊並みだぞ。老セバティアノフに特別ホットラインで連絡したって、ええ?」ゲラゲラ笑う。<br>
マウスはまた瓦礫の山の上にすばやく登る。縄ばしごをつかみ、トンネルの縁に上がる。<br>
「大丈夫か、坊や? 一体なんでまた──こっちだ、手首を貸してみな。うむ、脈が少し速いな。運動したせいだろう。よし、レーモン軍曹、この子を病棟に連れていけ」<br>
「おいレオノフ、あんたが何でも知っているならききたいが、おれたちは何で未だに縄ばしごの周りをうろつきまわっているんだ?」<br>
「君は何でも知っていないのか、ティトフ? いや、ごもっとも&&」<br>
マウスはせんもう状態に入り、言葉を失う。ヘレンが来て、彼の体から彼を叔父のいる部屋へ連れていく。叔父はソーヤーと話している。<br>
「ディーン博士──アルフ──ヒエロニマスをまた地下ドームに連れて行ったことについて、あなたが完全に同意しているわけでないことは承知している」<br>
「将軍、あんたは昨日二人の男を殺し、今日はまた私の甥をあんな場所へ連れていった。とんでもないということは自覚があるでしょう。あなたにこんなことをする正当な理由はない」<br>
「あの子は歩く爆弾なのだ。あんたにとっては単なる悲劇だろうがね。もしあんたが他の反応を示すなら、あんたを軽蔑するぐらいだよ。アルフ、私は父であり、祖父でもある。あんたの苦しみは私にも分かる」<br>
「なら、われわれを地表に戻して下さい。せめてマウスを家に帰してくれ。必要なら私だけここに残ってもいいから」<br>
「アルフ、あんたはまだ分かっていない。今現在、あの子はドームと同じぐらい重要な存在なんだ。あの子が例のククシュキンの手記を書いたとき、もう少しで核戦争を引き起こす寸前だったんだ」<br>
「信じられん。あんたらも、やつらも、スパイを雇っている。あんたらだって17Tg-M並みに恐ろしい細菌兵器を持っているんだろう」<br>
「われわれは細いロープの上で綱渡りをしているんだ。核抑止力は鎖帷子と城壁を結びつけようとしている。ちょっとした力でバランスが崩れかねないんだ。70年代半ばのフォックスバット事件を覚えているか?」<br>
「ソ連の爆撃機が日本に不時着した事件かね?」<br>
「われわれは数日で航空機の技術を解明した。われわれのトムキャットが墜落したときもロシアに拾われる前に何とか引き揚げた。&&」<br>
「あの子をスパイに使うというのか?」<br>
「違う! むしろあの子が絶対にスパイにされないようにしないといかんのだ」<br>
以下、アルフとソーヤーの会話が続く。ソーヤーはマウスを聖書で父の犠牲にされて蘇った子供に見立て、夕べ一人で抜けだしドームに入って出て来たこと、中にいる死体を回収するため彼に行って貰わねばならない、それは神の意思であることを話す。アルフは、あんたは神の意思にかこつけて危険な存在を消そうとしているだけだといい、ソーヤーを殴ろうとして止められ、今度手をあげたら監禁するぞといわれる。<br>
そこへ、マウスが現れ、彼らを(魂のコア)へ、(休息の地)を守る10の光の輪へと連れていく。彼は説明する、メタ物理学の世界へはシンボルを通じてしかアプローチできないこと。われわれは遥かな昔地球へ来て、月面の基地から宇宙に旅だったパイイオの種を持っていること。彼は10の光の輪が示すものを一つ一つ説明する。9番目は世界の最も深い典型的理念、ケルビム、知性の導き手。10番目はセラフィムの王国、永遠のヴェール、未知の雲。膨張する宇宙の縁。(道(タオ))が無限になる場所。<br>
アルフとソーヤーは圧倒されて泣き叫ぶ。10番目の輪を過ぎると暗闇。頭上にドームの白い天井の曲面。<br>
マウスがいう、「頭を下げよ。ここはユダヤ神殿の存在の中」<br>
マウスは死んだ男の肉体を笑わせる。ちょっとだけあんたの喉を借りるけどすまんね、とマウスは思う。<br>
そしてビル・デルフォードの声でいう。「この子を許すんだ。ワグナー流青春のゆき過ぎた楽しみを見つけて、ちょいとはめをはずしたくなっただけなのさ」<br>
「神の名をいうのか? 汚らわしい、不潔ないきものめ」とソーヤー。<br>
「神と話したいならおれがとりもってやる。ただし通訳が必要だ。あんたがアルム語が分かるなら別だが」<br>
「キリストの敵め!」<br>
「落ちつかないと、紀元前4000年の欠陥構造物に関する法に基づいてあんたをばらしちまうよ&&」<br>
ソーヤーはマウスの腕をつかみ止めようとする。<br>
「なぜこんなところに連れてきた」<br>
「今教えてあげるよ」そして長波放射に同調させる。南国の風景に変わる。ペルム紀の地球の風景。ヨーロッパとアメリカに爬虫類生息、他は氷河。二千万年後。&&「意識の歴史」をマウスは説明する。ゴンドワナ大陸は「温血」動物の恐竜の子孫に植民された。そして機構の変化に適応するため羽毛が生えた。<br>
その動物の映像を見てアルフは夢の中の竜だと叫ぶ。<br>
「そのとーりっ!」とマウス。<br>
その「羽根の生えた龍」に見える恐竜の子孫は次第に進化して容貌を変化させていった。<br>
「しかし、これは──地球なのか?」とアルフ。<br>
そうだよ~んとマウス。これこそ地球に現れた最初の知性。しかし人類の祖先ではない。<br>
ソーヤーが反論する、こんな頭の形してるのに知性なんかないよ! 冒涜だ! おれは信じないぞ!<br>
だが、マウスは、地球上に張り巡らされている、この恐竜人の「魂の集合」の映像を見せる。彼らは人間と同じように道具を作り言語を使った。だがそれ以上に、「集合自我」の形成に長けていた。<br>
「本物の社会的なゲシュタルトということか? 単一の意識を共有したのか?」とアルフ。<br>
「集合無意識を形成したのです」とマウスが訂正。「個体の知性はチンパンジー並みですが。集合無意識が組織化された集合バイオコンピューターとなり、これと個体の意識が結合することで、高度の知性を持つに至ったのですよ」<br>
次の映像は知的な恐竜が奴隷の猿を使っている光景だった。この猿が今の猿の先祖らしい。<br>
ソーヤーがいう。「ありえん。月の基地はこれからたった500万年後だろ。ところが爬虫類の痕跡はない」<br>
マウスは次に集合無意識によって超低周波数で全ての個体がつながれたきわめて複雑なサウルス・サピエンス(知的恐竜)のバイオコンピューターの構造図を見せた。あまりの美しさに、ソーヤーもアルフも言葉を失った。<br>
もちろん集合無意識による結合には距離的限界がある。群から離れれば知性を失う。だから、「巣作りの場所と休息の場所は一つ」という格言があった。個体同士の相互依存性の強い自覚があったのだ。<br>
それゆえに戦争、同族殺しは絶対のタブーだった。人間が近親相姦をタブーにするのと同じように。そのことを隠すため、彼らは驚くべき同族食いの儀式を行った。<br>
次いで1万年未来。不死の勝者として3000万年もの間栄えた知的恐竜は、歌い踊っていた。彼らは過去の先祖の意識を全て残すべく、ソウルコア、スフィアを作った。<br>
「魂のコアにいるものこそ、不死の死者です」とマウスが言ってスフィアを指差した。天国の王国。様々な宗教の聖職者がそれを直観したが、最も真実に近いのはヒンズー教。<br>
スフィアには、死者の全ての脳内情報がマッピングされている。死は、個人の意識を肉体の束縛から解放する方法である。解放された想像力で規律される集合意識、絶対意識に入ることを可能にするものである。<br>
「宇宙からの映像ではないんだ」とアルフ。「未来から──もう一つの未来から」<br>
「彼らは死んだのか?」とソーヤー。<br>
「生きています」とマウス。「周囲にいます。夢の中に。ケルビムとセラフィム」<br>
「何か間違いがあったのか? 先祖を助ける替わりに彼らは自らを滅ぼし、われわれを残した」<br>
「星です。超新星です」<br>
要するに、近隣の星の超新星化によって集合知性が破壊されてしまうので、巨大なタイムマシンに最低限の生体コンピュータを積んで過去に出発したが、間に合わず超新星化の影響でコンピュータが狂い、船内で「第四部 エデンの前」に書かれた出来事が起こり、目的の時代を50万年もオーバーして到着した。そして恐竜は子供が死産で人数が減ったために集合知性のレベルが低下して退化し、これに代わり、奴隷猿たちが(コア)を利用して、このパラレルワールド(=われわれのいる宇宙、歴史)で繁栄の基盤を作った。しかし、彼らは地球を捨て、月面基地を作って宇宙に飛び立った。地球上にも同様の宇宙基地はあるが南極などの氷の下になっている。<br>
このコアは、タキオンなどを利用しているから、その副次作用でテレパシーや余地も可能にする。奴隷猿が地球を捨てた後、残った類人猿たちの意識も自動的にソウルコアに記録されている。つまりこのソウルコアは知的恐竜に始まり、奴隷猿を経てその後地球上に現れた全ての知的意識が記録された巨大な集合知性となっている。人類はようやくその利用に耐えるレベルにまで達したので、コアがマウスの母に働きかけて、導き手としてのマウスを生ませたのだった。マウスは、人類の次なる進化の救世主、使い手だったのだ。<br>
~完~<br>
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<div class="datebody">
<h2 class="date">May 01, 2005</h2>
</div>
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<div class="blogbody">
<div class="titlebody">
<h3 class="title">Damien Broderick "The Dreaming Dragons"</h3>
</div>
<div class="main">
<p>プリングル100冊「夢見るドラゴン」<a href=
"http://image.blog.livedoor.jp/silvering/imgs/9/2/9236fec5.jpg" target=
"_blank"><img class="pict" height="253" alt="夢見るドラゴン" hspace="5"
src="http://image.blog.livedoor.jp/silvering/imgs/9/2/9236fec5-s.jpg" width=
"160" align="left" border="0"></a></p>
<p>感想・粗筋2005.5.3</p>
<br clear="all"></div>
<a name="more" id="more"></a>
<div class="mainmore">
何と言っていいのか&&。とにかく、アイデアはすごい。ここまで大風呂敷を広げながら、見事に全部つじつまを合わせてしまう力業。エイリアン物、はたまたオカルト物? と思わせておいて、実は進化テーマ(時間テーマも入っている)だったという見事などんでん返し。特に、知性を持った恐竜、様々な宗教・伝説上の生物(龍や蛇)、ユング心理学を基調にした生体コンピュータによる集合知性、こういったものを強引に結び付けてしまう腕力はすさまじい。イアン・ワトスンに似ていて、しかも、もっとすごいとすら言っていい。<br>
通常なら大絶賛となるところなのだが&&なぜか、読後感はあまりよくない。<br>
まず、プロットがあまりに雑然としてて整理・計算されておらず、読みにくい。登場人物がやけに多く、性格描写がほとんどないし、不必要な人物も多い。人物の行動に合理性がない。プロットの展開にも合理性がない。中心となるのはエアーズロックの謎の球体と月面の遺跡の謎、球体の端末のように行動する「知恵遅れ」の少年の謎、蛇や龍といった伝説上の生物の夢の謎&&こういったものの真相であるのだが、その謎への興味に頼るあまり、面白いストーリーのうねりというものが全く無視されている。しかもその謎が当初あまりにも難解すぎるために、かえって興味をそいでしまうのがつらい。それに輪をかけるのが、必要かどうかも分からない、学者たちの議論の形をとったオカルトやトンデモメタ科学に関する執拗な薀蓄。最後にカミングアウトされる真相は口アングリの驚愕ものであるのは認めるとしても、それを理解するために、幽体離脱やユング心理学、謎の遺跡、宗教や神話に関するここまで詳細な情報は要らないと思う。これは作者の親切というよりも、むしろ他の資料の孫引きでお茶を濁そうとした手抜きゆえの結果ではないかとすらかんぐってしまうぐらい、うっとうしい。<br>
しかしながら、叙述トリックと思われる構成をしている部分(ロシア人学者の手記と、恐竜人のタイムマシン上の出来事の部分)は秀逸な出来で、ミステリアスな雰囲気を高めている。<br>
着想と、謎を高める手法においては優れているから、あとはしっかりした人物描写、読者の興味を引く面白いストーリー展開といった、物語技術の基本的な部分をマスターして欲しい。この部分がだめだと、いつまでたってもマニア受けにとどまってしまうだろう。本書がディトマー賞をとるほど発表時に高評価されたにかかわらず絶版になっている事実が、すべてを物語っている。<br>
また、アイデアも若干過剰気味で、結末を完全に理解するにはかなり頭を使う。マニア受けはするだろうが、このままでは一般の人気は得られないだろう。もう少し手加減して分かりやすくすればちょうどいい。<br>
テーマ性 ★★★★<br>
奇想性 ★★★★★<br>
物語性 ─<br>
一般性 ─<br>
平均 2・25<br>
文体 ★<br>
意外な結末★★★★★<br>
感情移入 ─<br>
主観評価 ★★1/2(26/50点)<br>
<br>
<あらすじ要約><br>
夢見るドラゴン デミアン・ブロデリック<br>
ザ・ラビットに<br>
<br>
ドラマ的誇張を施した想像力こそ、現代社会の倫理規範でかんじがらめにされ見失われた超自然的なものを倫理的自我のレベルに引き戻す最適の手段である。ピーター・ブルックス<br>
<br>
第一部 サイクロンの縁<br>
1 中央オーストラリア<br>
男は砂漠の太陽を憎み、追いかけ続けた。<br>
男の細胞のからみあったDNAスパゲッティの中に、敵なる光、肉を剥いで骨だけにしてしまうほど強烈な光によって、五万年もの間選びぬかれた遺伝子の塊が存在していた。子供時代から、その遺伝子は男の肉の表面に、焦げた薪の色に焼けることもある皮膚を形作っていた。<br>
アルフ・ディーン・ジャニャギルンジは鼻を鳴らし、自動車のハンドルが手の中でがたごと振動した。<br>
人類学者アルフは、知恵遅れのように見えるが霊感の強い甥のマウスを連れ、ランドローヴァーを運転して、原住民部族たちが崇拝する伝説の生物「虹の蛇」の手がかりを探しに砂漠に来ていた。<br>
彼らは絶壁に開いた洞窟を見つけ、中を探検すると、奥に、実物の「虹の蛇」ともいうべき奇妙な機械を見つけた。様々な色に移り変わるランプがついている。ホログラムか? 埃のかぶり方からして、非常に古いものだろう。異星人の機械だろうか。その奥の階段はどこに通じているのだろうか?<br>
アルフは、奥の階段を登り始めた。<br>
<br>
2 中央オーストラリア<br>
先に登ったアルフは何かに衝撃を受けて階段を転げ落ち、気絶した。マウスことヒエロニマス・ディーンは、叔父を助けて戻ろうとするが、何らかの場がバリヤーを形成しているようで、戻れなくなっている。マウスは仕方なく階段を登りきった。広い箱型の部屋に出た。中央に光る球体がある以外は何も見えない。「助けてくれ! 叔父さんが!」と叫ぶと、男たちの声と足音が聞こえ、こっちへ来いと言っていた。マウスが球体を回りこんでいくと反対側の壁の中に穴が開いて、その空間に三人の男がいた。一人がサブマシンガンを構えている。来いというので、マウスが穴に登ろうとすると、一人が彼を落とした。マウスは叔父のところへ戻り、叔父を引きずって上がった。球体の脇を回りこんで叔父を引きずっていると、球体の場の効果か、ヘレン・ケラーの映像が頭に見え、母親のアニーとの小さいころの会話を思いだした。男たちは、担架を下ろすからおじさんをおいてここへ来い、と言った。そして,何人かの男が担架を持って叔父を乗せ、穴の下まで運んだ。マウスは叔父を穴に持ち上げるのを手伝った。三人の男の一人は軍曹でサージと呼ばれ、もう一人の男はスタインメッツと呼ばれていた。<br>
<br>
3 ドーム<br>
病室に運ばれたアルフはベッドで生死の境をさまよっていた。意識の最表層の第一レベルでは、「どうやって基地に入ってきたのを聞き出すために助けなければ」という声が聞こえていたが、第三レベルにおいては、古代の夢の光景を見ていた。彼はプニンガーラという名の男になっており、スリ・ラマクリシュナという名のドラゴンと話しながら、妻のワントゥクガラを従えて、「不思議なもの」を探していたかと思うと、今度は妻になって、夫の後を追っていたりした。夫は点から落ちてきた「不思議なもの」を見つけていた。<br>
意識の表層では、「おい、彼の心臓が止まったぞ」という声が聞こえ、自分の意識が肉体から抜け出し、それを外から見ているのを感じた。マウスの声が心の中で、「デルフォードを連れてこさせたらどう」と言った。デルフォードって誰だ?<br>
やがて彼は意識を取り戻した。アーウィン、ケイシー、ジョインヴィルらがつきそっており、いろいろ話しかけてきた。アルフがマウスの居場所を聞くと、無事にほかの部屋で保護しており、後で会わせるということだった。アルフは、自分の素性や、どうやってあの基地に入ったかなどを説明した。<br>
まもまく付き添いの人間が入れ替わり、いろいろと質問をしてきた。ミグレイン、ジョー・サットン、ソーヤー将軍、ヴィクター、フェドレンコらがいた。アメリカやロシアなどの学者や軍人がいた。ここはオーストラリアの砂漠で見つかった異星人の設備の周囲に設けられた基地だった。アルフの説明した道順で行くと、アルフのローヴァーが見つかったので移動してきたらしい。くだんの洞窟を調べたところ確かにアルフの説明通りの機械や通路が見つかったが、レーザー光線を発射したところ機械は機能停止してしまったので、機械の機能はまだ確認は出来ないらしいが、その装置がいわゆるテレポーテーション装置、<ゲート>であることは疑いないようだ。洞窟の年代は非常に古く、6000万年前らしい。異星人は他にも多数のゲートを設けているのではないか。バミューダトライアングル?<br>
アルフは夢や幽体離脱の話もした。そして、デルフォードという名を試しに出してみると、それは幽体離脱、OOBE(ウービー)研究の権威だということだった。<br>
ヒュー・ラップは後でマウスと会わせてくれるらしい。<br>
マウスの母親(アルフの白人の姉)は、薬物中毒で、その影響でマウスの脳に損傷があるようだという話をアルフはした。<br>
<br>
第二部 鯨の腹<br>
4 カリフォルニア<br>
サットンらはカリフォルニアのビル・デルフォードの研究室を訪ね、グルオンという原子を構成する素粒子の場の中に入ることで個人の意識を集合無意識から切り離し、幽体離脱体験をさせる装置(全裸でそのフィールドに入る)をみんなで体験する。<br>
<br>
5 カリフォルニア<br>
真夜中にデルフォードは学友の国連職員ブライアント・ゲルナーの訪問を受ける。今すぐニューヨークに来るように要請されているらしい。彼らはヘリコプターで飛行場へ移動する。そこではヒュー・ラップが待っていた。飛行機の中でラップはビデオ映像を見せながら、超古代の異星人の遺跡と思われるものについて説明を始めた。1970年、アポロ13号が月への飛行中、月面クレーター内にある異星人基地(セリーヌ・アルファ)の妨害電波によりトラブル発生し地球に帰還した件。月面にある奇妙な構造物を探索する映像が映っていた。また、オーストラリア中のエアーズロック地下に発見された異星人基地の件。そこには、デルフォードの造ったグルオン場とは比べ物にならないほど強力なバリヤーの場が張られ、多数の者が死んでいる。(ドーム)と呼ばれるこの場所から、ある少年が現れた。彼は言葉が満足にしゃべれないが、自動筆記のように文章を書く。ところが、その内容がさっぱり理解できないのだという。<br>
<br>
第三部 死者の秘密会議<br>
6 エアーズロック<br>
デルフォードはそのままエアーズロックに連れて行かれ、セバスティアノス将軍やトマス・チャンドラー大佐を紹介され、部屋を与えられ、報告書を読み、アルフ・ディーンと会った。それから集会室で会議が始まった。ドームの電磁場と、幽体離脱実験装置の類似性が議題だった。<br>
「くそ」座席の中でぐらぐらしながら、ビル・デルフォードは言った。<br>
物理学者のフェデレンコが話し始めたところだった。すぐに話を止めた。「何ですって、デルフォード博士?」<br>
「すみません、ちょっと考えごとを」ばかもの、おれは今、グロープ・ピットにいるんじゃないんだぞ。この石頭の連中の前では、おれの質問は鼻で笑われそうだ。「発見のための返報主義」を非論理的に始めるという考えに慣れていないのだろう。<br>
「自由に発言していただいて構いません。公式ディベートのルールなんぞに縛られている余裕はないんですから」将軍と違い、フェドレンコのアクセントは、オックスフォード・ケンブリッジ式ブリティッシュ・イングリッシュの、ちょっとした厚塗りバージョンだった。それを聞いてビルは、自分の「赤レンガ」のリヴァプードル式アクセントよりも、アンの英語を思いだしていた。若いころこのロシアの物理学者は、第二次世界大戦が終わるまで、英国のレーダーシステム分析部に勤務していた。<br>
セバスティアノフはこちらにうなずいて見せた。何ということ。ビルはアルフ・ディーンに身を乗りだした。「現地のアボリジニーとして、エアーズ・ロックに関し、何か言いたいことは?」馬鹿げた質問だった。野蛮人オリゴピテクス・サヴァゲイは、二五メガ年前にはいたのだろうが、いかなる口コミの目撃情報も、多少なりと必ず間に合わせの事実の歪曲を行うものだから。<br>
フェドレンコはそう考えていないのは明らかだった。ディーンに向かって眉をあげ、大げさにうなずいて賛成して見せた。<br>
それから、部族保護のため移住を強いられたアボリジニー部族、その奇妙な神話の内容などに議論は及んだ。ピチャンジャラ族に伝わるワナンビ、「虹の蛇」の神話。しかし、テレポート・ゲートそれ自体が神話の源泉ではないのか。<br>
アボリジニーの神話は、ユングなら集合無意識で説明しそうな内容だ。ビルは他の様々な神話上の概念をあげ、「意識の変容状態」に、より合致する例をあげた。蛇、サタン。<br>
ディーンは、ピチャンジャラの魔法使いがドームの地下からの何かと共鳴してあの神話を作り上げたのだろうと言った。<br>
更に、マウスという少年はドームの中の知性のチャンネルのような存在になっているという説が出た。<br>
ビルは、種族の生き残りにおける自然選択にかかるナイジェル・コールダーの論文の一節を読んだ後、少年が書いた文章を読んで驚く。まさにその子はチャンネル、情報のバルブだ、と思った。<br>
<br>
7 エアーズロック<br>
科学者が飯を食いながら話す場面。特に進展はなし。ビルはラップらと部屋に戻り、いろいろな記録を読む。<br>
<br>
8 エクラトコイェ・コンプレックス<br>
一一月一二日<br>
クエンツリ看護婦がやっと紙とペンをくれたので、手記を書き始めることにする。私には機械の部分もあるが、人間の部分もあるのだ。私の支配的感情は退屈だ。だが退屈について書くほど退屈なこともない。ここらでペンを置く。<br>
***<br>
後刻<br>
私は腕時計以外の持ち物をとり上げられた。多分ウイルスの蔓延を防ぐために処分されたのだろう。<br>
私(イリヤ・ダビドヴィッチ=ククシュキン)は二人の外科医、イオシフ・ジノビエフとシピアジンの訪問を受けた。ジノビエフが救急車を呼んで私をここへ運んだのだ。彼らは私を聴診器で診察した。ここはエクラトコイェ総合病院という名前らしい。シピアジンは病院の地図をくれた。数日私はここに滞在するらしい。<br>
私はひどい病気というわけではないが、イージス艦チームの重要メンバーなので大事をとる必要があるということだ。食物に毒が混入したという噂が流れ、私が食中毒にかかった疑いがあるらしい。破壊工作か?<br>
そんな暇はないはずだ。帝国主義者どもは、グルオン・シールドとセリーナ・アルファのことで忙しいはずだ。<br>
彼らは帰り際に薬を渡し、食後に飲めと言った。何かあればボタンで呼べ。<br>
食後私は具合が悪くなった。夜中に眠れなくなり、私は病院内を散歩し、玄関のエアロックを見て呆れた。普通の病院じゃないじゃないか。そんな設備が必要なのは細菌兵器の研究所だけだ。<br>
何ということだ。私は実験的な終末細菌兵器の餌食になったということだろうか?<br>
***<br>
一一月一三日<br>
今朝とても妙な気分だった。体の具合はいいのだが、ちょっと、落ち──落ち──<br>
なんだっけ? ああ、そうだ! 落ちつかない! <br>
何てことだ、ボケ老人が言葉を思いだすみたいに!<br>
キリスト様、一体私に何が? 冷や汗が流れる、たった一語の単語が記憶から、すり、すり、すり抜けてしまったために。うっ、まただ! すり抜けるという単語がすぐ出てこなかったぞ。いったいどうしたのですか私はイエスさま<br>
***<br>
後刻<br>
アナが私を見つけたとき、私は泣いていた。アナは薬をくれた。アナというのはクエンツキ看護婦のファーストネーム、私はついに聞きだしたのだ。私たちは親密になった。<br>
***<br>
後刻<br>
医師二人が食事中の私を診察に来た。<br>
***<br>
後刻<br>
私は今日地図を見て病院内を探検したが、鍵がなくては行けない場所ばかりだった。<br>
アナが私をベッドに寝かせた。大きなおっぱいが白衣の隙間からもうちょっとで見えそうだった。わしづかみにして揉みしだきたかった。私は勃起していた。アナは気付いたのだろうか?<br>
そもそも私はなぜこんな日誌などつけているのか。私は狂っているに違いない。誰かがこれを見て呆れかえるだろう。でも私は書かずにいられないなぜならここ10年私の耳の中でじくじく音がする私の頭からどんどん言葉が流れ出して処女のような白い紙を汚すからだシスター・クエンツキが処女ということはありえないあんなでっかいおっぱいの女が処女のわけがないああレイプしたい犯したいレイプレイプレイプイエスさま脳が溶けそう頭がおかしくなりそう耳鳴りが<br>
***<br>
一一月一四日<br>
何をしたらいいかわからない。<br>
本当に。<br>
習慣に教えてもらう以外ない。<br>
私は死にかけているのではない。狂おうとしているのだ。<br>
この病院には他に患者はいない。私の入院の理由はそれだ。誰も面会にも来ない。<br>
自分について書いてみよう。イリヤ・ダビドヴィッチ・ククシュキン。サブクオーク準静力学研究国際チームの一員。月の古代遺跡を元に反核シールドを開発。世界二大国が互いに核兵器を防ぐことが出きる。<br>
私はレムの本を見る。ポーランド語を忘れてきている。ドイツ語も、フランス語も、英語も。<br>
アナはテレビおみろというこれを書くのわただしいと思うずっとやってきたからみろもうこんな風にしか書けない自分の名前イリヤダベドベチククシキンさあこれほらイリヤベダベドベドベドベ<br>
(太陽と家の絵、人の絵、文字)<br>
***<br>
一一月一六日<br>
今朝あいつらが抗原をくれた<br>
糞が糞が薄汚れた糞が<br>
***<br>
一一月一九日<br>
私は日誌を書きたい意欲が薄れてきた。17-Tg-Mの作用だろう。<br>
二人の医師は、17-Tg-Mを使ったことを認めた。事故だといっているがむろん抗放射線注射のどれかに入れていたのだろう。やつらはいろいろな人間に使っているに違いない。<br>
足音が近づいてくる。私は死人だが、まず私が殺さねばならない相手は<br>
<br>
9 エアーズ・ロック<br>
死の夢の最後に、ドアのノックの音を聞いて、アルフ・ディーンは自分が眠っていたことを知った。脳が電話なら、人生はもっとたやすい、と、ククシュキンという名の竜が言った。アルフは夢の竜とのやり取りを思いだしていた。<br>
「将軍が会議室でお話しになりたいと」<br>
「わかった」午後遅い時間だった。マウスのベッドには誰もいない。「シャワーを浴びてから行く」<br>
「できるだけお急ぎください」<br>
「こんな格好のまま行ったら将軍がいい顔をするとは思えないね」<br>
「今向かっていると伝えておきます」<br>
シャワーを浴びていると、エアーズ・ロックの上に溢れる水音がする。一体どこから来た水だろう。フェドレンコはテレポートシステムと関係あるようなことをいっていたが。<br>
会議室には20人集まっていた。<br>
セバスティアノフは、全員集まったのを確認すると「聞いて欲しい。米ソ間に核戦争の危機が勃発した、そして、その問題はもう解決した」と宣言した。会場は静まり返った。将軍は続けた。「実は今日の午後、ドームが少年を通じて、二大国間に大きな紛争を引き起こしたのだ」<br>
アルフは「竜だ。ククシュキンだ」とつぶやき、気分が悪くなった。<br>
将軍は「どこでその名を?」ときいた。フェドレンコの同僚の名前らしい。<br>
アルフは夢で見ただけだと答えた。マウスがドームの送る夢を見ているのなら、自分のもそうだろうと。<br>
デルフォードが、何かメッセージはなかったかときくので、竜は死んだと答えた。<br>
将軍は机の上のファイルを見ろといった。見ると、マウスが筆記したというロシア人学者ククシュキンの手記だった。アルフはそれを読んだ。<br>
そこヘ雨がやんだというニュース。<br>
将軍は更に、ククシュキンが17TG-Mという薬を盛られたことを話す。<br>
戦争の危機は米ソの双方がドームの陰謀だとすぐに気付いて回避された。<br>
将軍はノースコート大佐に17-TG-Mの説明をさせた。それは体内のバクテリアを殖やし、エンドルフィンを分泌させる。その結果被験者はマウスのような能力を獲得し、ドームと話せるのだ。<br>
<br>
10 エアーズロック<br>
彼らはローヴァーでエアーズロック周辺をめぐりながら、アボリジニーの神話や幽体離脱研究史(モンローら。注、ロバート・モンローは「体外への旅」「魂の体外旅行」「究極の旅」の著者でモンロー研究所の創設者)について語る。モンローは1958年「ローケール3」と呼ばれる平行宇宙への未知を見つけた云々。<br>
あるいは、アンドリア・プハリッチの「テレパシーを超えて」とか。ユリ・ゲラーを研究した男。ボブ・レイムという男の体験をレポートしている。<br>
それらを時々、同乗しているマウスが話す、あるいは引用する。マウスがドームのチャンネルに過ぎないとするなら、一体、誰が話しているのだろうか?<br>
デルフォードはモンローらの幽体離脱体験にしろ、アルフの竜の夢にしろ、要はシンボリズムに過ぎないという考えを話す。その意味を解釈しなければならないのだと。<br>
宇宙飛行士は車を止めた。幽体離脱、神秘体験について語りつづける声を聞きながら、アルフは、エアーズロックのトンネルを進む男の姿を幻視していた。彼が先頭を進み、他のものが機材を持って後を進んでいた。だが、この男は突然発火し、焼け死んだ。アルフは絶叫した。<br>
そのとき無線を聞いていたヒュー・ラップがいった。「あいつら、ばかだ。ドラッグを待てないらしいよ。またもう一人調査員を送りこんだらしい」<br>
「その人は焼け死んだ」アルフは泣きながらいった。「真っ黒焦げだ、見る影もない」<br>
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第四部 エデンの前<br>
11 深層時間<br>
リオナ・ラル・ネッシュとアノカーシュ・フジ・ラーズ登場(エイリアン?)。<br>
整備師は、もう一本鎮静剤のアンプルを持ってきた。リオナの首筋で脈打つ血管にノズルから吹き出す心地よい風が金切り声をあげると、呼吸は穏やかになり、落ちついた。(監督者)はリオナの首を持ち上げると、胸の上に横たえた。<br>
「よくやった、技師よ」監督者はいった。「もう大丈夫だ、万事オーケー」衛兵の姿がリオナの暗い視界を乱した。「さすが手際がいいな、役人さん」アンカーシュは言った。「トコッシュ・フジ・ネッシュが戻り次第、連れてきたまえ。ああ──それと、もしディーチャー・ラル・ラーズがきたら、通してもいい」衛兵は了解したという身振りをし、(周縁)の張りつめた円弧状の水晶の光輝の中へ歩み出た。<br>
「カーシュ?」細く傷のある顔で見上げる。「私は本当に帰りついたのですか、アノカーシュ?」<br>
カーシュはリオナの首筋の柔らかく黄色っぽい綿毛を撫でた。「そうだとも。もし使節団の全員が、君がここに来るために引き起こした騒動を知らないのなら、びっくりだ」<br>
「それが技術者気質です」リオナの青ざめた微笑は不気味だった。カーシュはまた腹部が引き締まるのを感じた。あらゆる事前の注意にもかかわらず、(コア)とそこに住む野獣どもがみんなの生活を圧迫していた。<br>
遠くで急行カプセルカーがかすかな音をあげ、断固たる口調の声が尋ねた。「彼女はどこですか?」雑用の女中のつぶやき声。トコシュは衛兵のバブルに入り、手足や胴回りの羽毛は震えながら逆立っていた。瞳孔は開いていた。「恋人よ!」フロートの脇に膝をつき、監督者を無視してリオナを引き寄せた。<br>
アノカーシュは脇に退き、腹の底で怒りが蘇るのを感じた。二人をそのままにしておき、後ろ手にバブルの扉を閉じた。水晶の物体から広がる虹色の光が浮き上がってみえた。<br>
衛兵や整備師と話したアノカシュはバブルに戻った。担架の上の妻の脇にトコシュが座っている。<br>
「カーシュ、おれたちは行動しなきゃならん。おれたちは忍耐強すぎた」芸術家のトコシュがいった。「力ずくで(コア)に入るんだ」<br>
「無理だとわかってるだろ」<br>
「可能にしなければならんのだ」<br>
「静かにして」妻が弱弱しくいった。「クリスタル・マスをおさえるために、監督者が全力を尽くしているのよ。無理なことを期待してはだめ──」<br>
「期待だと? おれは要求しているのだ!」整備師は唖然として横目でトコシュを見ていた。「この状況はもはや耐えがたい。おれは使節団と、(静箱)の子供たちと、女たちの安全を要求する」<br>
戸口にディーチャー・ラル・ラーズが現れ、リオナのそばへやってきた。「あいつら、何をしたの?」<br>
「リオナとは後で話そう。今は休ませるのだ。おれたちは話しあうことがある。行動すべきときなのだ」<br>
***<br>
かような竜とおぼしき、「深層時間世界」の住人たちの描写が続く。(コア)という場所に獰猛な野獣が保護され、住人たちに悪さをしており、リオナもやつらに襲われ負傷した、という設定らしい。<br>
果たしてこの世界はどこなのか? (コア)とは何なのか? 彼らは(コア)に攻めこむのだろうか? そして、この世界と、地球上の表層世界、エアーズ・ロックのドーム、月面基地、チャンネル人格との関係は? 幽体離脱とは何だろうか? 17TG-Mというドラッグは人間の精神にいかなる影響を及ぼすのか? そして、アボリジニーたちの神話、「虹の蛇」とは一体何だろう? <br>
***<br>
そこへ、船上文明エリアに野獣が出現したので、コントロールエリアにもどれとの連絡が入った。アノカーシュは走った。彼らは次々とカプセルでコントロールルームに戻った。<br>
データ解読したディーチャーが言った。「やつは第3デッキにいるわ」<br>
すぐに対策を講じなければ、敵は船に甚大な損傷をもたらすだろう。<br>
「そいつは一種の電子機器妨害装置を使っている。だから侵入を探知できなかったのだ」と声。<br>
カーシュは、その野獣がコアへ退却する前に捕らえようと、レベル3行きのカプセルに乗る。彼はディーチャーと共に、手分けしてその猿型野獣を探す。<br>
ディーチャーが、次のパワーケーブルを切ろうとしている猿獣を見つけたと連絡した。<br>
カーシュは、5本指の猿獣と戦っている妻を見つけた。カーシュは銃で猿を狙って撃った。猿は妻を投げ飛ばし、妻は床に倒れて動かなくなった。<br>
カーシュは猿に気付かれないよう間合いをとって様子を窺った。猿が誤って教育機械のスイッチを入れてしまい、機械が話しだした。「子供たち、本日は僕たちが住んでいるこの船について勉強しましょう! 僕たちは大昔、大人たちが造った卵型の巨大な船に住んでいます! もちろん本物の卵ではありません。卵に似た形をしているのです。それに、僕たちの家はいくつかの点で本物の卵に似ています。僕たちを時間から守ってくれるのです。爬虫類の卵が赤ちゃんを守ってくれるのと同じですね」<br>
強烈な匂いがする。この猿型動物は、もともと飼っていた奴隷猿の種類とは大きく違っている。少なくとも50万年分は道のりを隔たっている感じがする。気持ち悪いやつらめ。<br>
「その卵は魂と呼ばれます。なぜだかわかる人、いますか? 誰もいないの? いいですか、子供たち。この偉大な船は、僕たちが新聖な使命を忘れないように、魂という名前がついているのです。僕たちは知識の光と喜びを先祖に伝えるため、この偉大な航海に旅だったのです。いつか君たちにもわかる日が来るでしょう」アノカーシュの撃った銃(麻酔レベルに合わせてある)が当たると、機械の声は勢いを増した。「僕たちのらせん状遺伝子は、僕たちが直面している荒々しい恒星爆発に耐えられません。準現実から現実への瞬間的加速率の現状を前提にすると、最も厳格な段階的統合フィールドによる庇護なしでは。だからこそ君たちも、訓練された猿の助手たちも、(静箱)の中で胚の段階から成長加速をかける必要があるのです」<br>
コントロールルームが教育機の別のパワーケーブルを見つけ、声を切った。<br>
監督者は猿を見つけ、その銃を奪い、点灯を指示した。猿は光に麻痺し、気絶した。レイジーレッグス、アップル、ステツナ・ド・ネンがいた。みんなで猿を運んだ。猿を治療機に据えつけ治療した。こいつとコミュニケーションなど可能だろうか? まさか。とても知性があるようには見えん。<br>
ところが猿は目覚めると言った。「この馬鹿どもが。お前らは滅びる運命にあることがわからんのか?」<br>
アノカーシュは凍りついたまま猿が再び意識不明の状態に落ちていくのをただ見ていた。<br>
<br>
12 深層時間<br>
(ゴーインヘンス(死))の苦痛、死者の同族の純粋な悲哀、残された者の昔ながらの泣き声の中で、意識を失った猛獣の姿に深く心乱されながら、アノカーシュ・フジ・ラーズは己の主要な役割を離れ、辛うじて立っていた。悲しい、悲しい、悲しい。これは全て幻影。騙されるな。そう言い聞かせつつも、アノカーシュは猛獣の存在を契機として己のうちにわき起こる強烈な悲痛に圧倒されていた。<br>
カーシュは妻からナイフを受け取る。「われわれは生と再生の地にいる。われわれは今、友の転生の声を聞くために集まった」<br>
「巣作りの地と休息の地はひとつ」<br>
「子供が作られる地、肉体を持たぬものは知恵に集う」<br>
「意識の精子と卵子が集まるところ、肉体が生まれる。肉体が消えるところ、死者の意識が永遠の生命に生まれる」<br>
「肉体は肉体に戻る。魂は魂に入る」<br>
「我らの悲しみはこの上なく正しい。我らの友は去ったから。だが彼らは我らを待つために去った。彼らの魂は消えない。肉体は滅びるとも。悲しみの中に喜びを見出せ&&」<br>
彼らは血がほとばしり出る仲間たちの死体を見ながら忠誠を誓った。<br>
そして解剖の儀式を始めた。<br>
まずギネ・ド・ロド。わた抜き。参列者が声を合わせて泣く。<br>
次にタリ・フジ・サルダー。<br>
唱和し、死者と一体化するためにその肉を食う。<br>
次に、(仲裁者)という霊媒役の女を通じて死者と話す。タリに話しかける。<br>
「さささささ寒いとととととてもおおおお。たたたたびするのにいいいいちばんわわわわるいきききき季節だ」<br>
タリの妻が泣きだす。死者が幸福に包まれないなど通常ありえないことだ。かつてない不幸な死。<br>
儀式は終わった。参列者は三三五五散った。<br>
監督者はディーチャーに、生けどりにしたサルを見に行こうという。「やつらはクリスタルマスに聖所以上のものを見つけたのだ。他の種族の魂がコアに介入しているぞ」<br>
妻はサルが知性を持っていること、進化していることを最初から気づいていたという。<br>
話しかけると、サルが言葉をしゃべったので驚き、「囚人」の名を与えた。彼の後から仲間が来る予定らしい。<br>
サルとひとしきり話し、監督者はなすべきことを知った。<br>
<br>
13 深層時間<br>
アノカーシュはクリスタルマス(水晶ビル)の中に丸腰で入った。トコシュ・フジ・ネッシュも同行して、猛獣のいるエリアに入った。ジク・フジ・ロドもいた。多数の男たちが大挙してやってきていた。<br>
一体なぜコンピュータはコアへの制御を止めたのか。無秩序な成長を許したのか。謎だった。<br>
おれたちは(古き人々)、(万物の親)の正当な後継者でないのか、見放されたのだろうか?<br>
おれたちはコアを攻め、占拠すべきなのか?<br>
選択肢は二つだ。猛獣猿たちと和解するか、滅ぼすか。<br>
さあ、どっちだ!<br>
監督者は叫ぶ、やつらをコアにとどまらせていいわけはないだろ!<br>
そして叫ぶ。「あいつらは、おれたちの同朋の魂の集合に侵入しやがった! 考えているのは俺たちを殺すことしかない。やられる前にやるしかないんだ!」<br>
だがトコッシュは言う。「報復は狂気だ。俺たちは引き返すべきだ」<br>
そこへ猿が襲ってくる。カーシュはパワーナイフで倒す。<br>
クリスタルマスはほとんど崩壊している。だが辛うじて猿を生かす程度の電気が通り、小さな閉鎖した生態系が造形されている。そう、六千万年間、この猿たちにタブーはなかった。同族殺しすら、知的生物を殺すことすら。<br>
彼らは猿たちとつばぜり合いを繰り返しながら、広場に出た。監督者はトランシーバーで位置情報をメインコンピュータに送り、妻に連絡した。<br>
猿の群の中に、子供のころコアに消えたチャルツィン・フジ・ティゲがいた。<br>
監督者はチャルツィンに助けを請うが、彼は無視して踊りだした。<br>
イヤホンで妻が、もう少し時間がかかるといっていた。<br>
猿たちが何か大きなものを広場の中央に運んだ。錆びた鉄の卵。妊婦の猿がいた。<br>
飛びだしたトコシュは棒で殴られてたおれ、チャルツィンによって祭壇に運ばれた。「幸福と旅の終わり」彼は言った。女猿がトコシュの横たわった体に上下逆さにおおい被さり、股間に顔を近づけ、ペニスを持ち上げた。<br>
そのときイヤホンに「突破したわ!」という妻の声。天井に穴が開いて人が飛び降りた。<br>
「みんな目をつぶれ、見るな!」<br>
閃光。<br>
爆破によってローカル重力システムが停止し、無重力になり、人や猿が宙を舞った。<br>
監督者は妻らからパワーガンを受け取り、気絶して股間から血を流すトコシュを助けた。<br>
「みんな、アクセスシャフトに入れ! 全員出たら出口をふさぐのだ!」<br>
妻の声。「3人の行方不明者を保護したけど、全員頭をやられてるわね」<br>
アクセスシャフト封鎖後、気圧服を着た監督者は、コンピュータに優先コマンドを告げた。<br>
そして非常船体ロックからできるだけ遠ざかった。<br>
そして、作動コマンド。<br>
強烈な風が吹き荒れた。何もかもが宙を激しく舞った。二重ドアが不気味にぼんやり光っていた。壁に血しぶき。おれが殺したんじゃない、と彼は自分に言った。そして、ロックの封鎖コマンド。<br>
帰路の途中でもう一匹の猿を始末した。<br>
妻が迎えてくれたが、とても手を握る気分になれなかった。<br>
<br>
第五部 龍の居留地<br>
14 地下ドーム<br>
彼らはケーブルカーでドームに降りた。ソーヤー将軍が出迎えた。<br>
もうすぐヒューがドームを破壊しに来る、あるいは逆になるかもしれないが。<br>
ヒューが来てアシニン分泌を促す酵素を皮下注射した。<br>
ハリス・ロウエンタルが来て、出発だといった。いよいよ300メートル下へ行くのだ。彼らはラップについてコマロフのところへ行った。<br>
ドームゾーンへは同じ人間は二度は入れなかった。<br>
ビルはアンにも来て欲しかったが、女性は入れないためいなかった。<br>
ついに彼らはトンネルを下っていった。付き添いの兵士と共に。<br>
いよいよ境界ゾーンについた。彼らは兵士と分かれて梯子をおり、ゾーンに入った。<br>
平面の中央にある白い球がドームだった。<br>
彼らはドームに近づいた。ドームは攻撃をしてこない。<br>
と、突然ビルは自分たちの体や顔が醜くあれこれと変形して見えるのを感じる。「法に従い床を掃き清めよ」とヒューが言い、彼らはいろいろと話す。どうやったら入れるのか。<br>
と、入り口が開いた。ビルの心に「よく来たね」の歌声。ビルは身動きできなかった&&動いていた。「なぜ怖がるの?」と美しい声が言った。「ずっと待っていたよ、ずっとずっと」蛇の匂い。<br>
「コンピューターだ、美しいコンピューターだ」とヒュー。<br>
「お前の心は美しい。お前は足かせを逃れた」とドーム。<br>
ビルはドームの中央に歩きだす。<br>
「光の幾何学。機械は公式を示している」とヒュー。<br>
ビルの前に母。光の蛇の中へ。そして自分が蛇になる。<br>
蛇は叫ぶ。「ぼくを拒否しないで!」<br>
ビリーは9歳。母は泣き父は怒っている。母にかけよるが拒否され、父はビリーを置いて姉と家に入るという。母が大嫌いだった。死んじまえと思った。でも次には彼は泣いていた。母には傷ついて欲しくない。なぜあの男といってしまったの? 父はジャネットと再婚しビリーとアンシアをもうけた。<br>
「行くな、行くな、僕を捨てないで」<br>
彼は前に走りだしていた。入り口は消えた。<br>
「人間よ、質問があるのか? おまえたちはそうもあっさりと神を忘れてしまうのか? おそれを捨てろ。私はイシス、人類の母。私の腕に入り、栄養をとれ」<br>
これはドームではない、監獄だ。<br>
この自称女神は囚人だ。大昔の。<br>
解放するにはわれわれが必要。<br>
彼らはわめいた。どうすればいい?<br>
ビルは自分の顔を見た。<br>
帰りのクラクションが聞こえたが動けない。<br>
ケンタウロスがドームに入るのが見える。これはユングの言う象徴だ、心の投影だ。<br>
ケンタウロスが言う、夢は終わったウルル、戦いは終わった。<br>
ビルは理解する、ケンタウロスは自分を助けてもらうためにビル自身が選んだイメージだ、シンボルだ。<br>
そしてビルはついに、幽体離脱体験をする。彼は妻や子に会う、そしていかに愛していたかを再確認する。<br>
彼は自分の肉体を外から眺め、イオンを振り払い、心臓を止める。<br>
彼は死んだ。<br>
<br>
15 ドーム<br>
自らの肉体を殺したビルは、人々が自分の遺体を確認するのを見ている。<br>
人々は、またマウスがゾーンに入ったと騒いでいる。生きているはずがない、ゾーンに二度入って生きて帰った人間はいないと。<br>
「死んでいるようには見えないな」衛兵の一人がロシア語で言っている。「言わせてもらうが、ティトブ。あの少年はおぞましいゾンビだ。おれの聞いたところでは、アメ公にもう少しで核スイッチを押させるところだったそうじゃないか」<br>
「お前はいい加減なやつだな、レオノフ。どこで聞いたんだ? あいつはまだ赤ん坊並みだぞ。老セバティアノフに特別ホットラインで連絡したって、ええ?」ゲラゲラ笑う。<br>
マウスはまた瓦礫の山の上にすばやく登る。縄ばしごをつかみ、トンネルの縁に上がる。<br>
「大丈夫か、坊や? 一体なんでまた──こっちだ、手首を貸してみな。うむ、脈が少し速いな。運動したせいだろう。よし、レーモン軍曹、この子を病棟に連れていけ」<br>
「おいレオノフ、あんたが何でも知っているならききたいが、おれたちは何で未だに縄ばしごの周りをうろつきまわっているんだ?」<br>
「君は何でも知っていないのか、ティトフ? いや、ごもっとも&&」<br>
マウスはせんもう状態に入り、言葉を失う。ヘレンが来て、彼の体から彼を叔父のいる部屋へ連れていく。叔父はソーヤーと話している。<br>
「ディーン博士──アルフ──ヒエロニマスをまた地下ドームに連れて行ったことについて、あなたが完全に同意しているわけでないことは承知している」<br>
「将軍、あんたは昨日二人の男を殺し、今日はまた私の甥をあんな場所へ連れていった。とんでもないということは自覚があるでしょう。あなたにこんなことをする正当な理由はない」<br>
「あの子は歩く爆弾なのだ。あんたにとっては単なる悲劇だろうがね。もしあんたが他の反応を示すなら、あんたを軽蔑するぐらいだよ。アルフ、私は父であり、祖父でもある。あんたの苦しみは私にも分かる」<br>
「なら、われわれを地表に戻して下さい。せめてマウスを家に帰してくれ。必要なら私だけここに残ってもいいから」<br>
「アルフ、あんたはまだ分かっていない。今現在、あの子はドームと同じぐらい重要な存在なんだ。あの子が例のククシュキンの手記を書いたとき、もう少しで核戦争を引き起こす寸前だったんだ」<br>
「信じられん。あんたらも、やつらも、スパイを雇っている。あんたらだって17Tg-M並みに恐ろしい細菌兵器を持っているんだろう」<br>
「われわれは細いロープの上で綱渡りをしているんだ。核抑止力は鎖帷子と城壁を結びつけようとしている。ちょっとした力でバランスが崩れかねないんだ。70年代半ばのフォックスバット事件を覚えているか?」<br>
「ソ連の爆撃機が日本に不時着した事件かね?」<br>
「われわれは数日で航空機の技術を解明した。われわれのトムキャットが墜落したときもロシアに拾われる前に何とか引き揚げた。&&」<br>
「あの子をスパイに使うというのか?」<br>
「違う! むしろあの子が絶対にスパイにされないようにしないといかんのだ」<br>
以下、アルフとソーヤーの会話が続く。ソーヤーはマウスを聖書で父の犠牲にされて蘇った子供に見立て、夕べ一人で抜けだしドームに入って出て来たこと、中にいる死体を回収するため彼に行って貰わねばならない、それは神の意思であることを話す。アルフは、あんたは神の意思にかこつけて危険な存在を消そうとしているだけだといい、ソーヤーを殴ろうとして止められ、今度手をあげたら監禁するぞといわれる。<br>
そこへ、マウスが現れ、彼らを(魂のコア)へ、(休息の地)を守る10の光の輪へと連れていく。彼は説明する、メタ物理学の世界へはシンボルを通じてしかアプローチできないこと。われわれは遥かな昔地球へ来て、月面の基地から宇宙に旅だったパイイオの種を持っていること。彼は10の光の輪が示すものを一つ一つ説明する。9番目は世界の最も深い典型的理念、ケルビム、知性の導き手。10番目はセラフィムの王国、永遠のヴェール、未知の雲。膨張する宇宙の縁。(道(タオ))が無限になる場所。<br>
アルフとソーヤーは圧倒されて泣き叫ぶ。10番目の輪を過ぎると暗闇。頭上にドームの白い天井の曲面。<br>
マウスがいう、「頭を下げよ。ここはユダヤ神殿の存在の中」<br>
マウスは死んだ男の肉体を笑わせる。ちょっとだけあんたの喉を借りるけどすまんね、とマウスは思う。<br>
そしてビル・デルフォードの声でいう。「この子を許すんだ。ワグナー流青春のゆき過ぎた楽しみを見つけて、ちょいとはめをはずしたくなっただけなのさ」<br>
「神の名をいうのか? 汚らわしい、不潔ないきものめ」とソーヤー。<br>
「神と話したいならおれがとりもってやる。ただし通訳が必要だ。あんたがアルム語が分かるなら別だが」<br>
「キリストの敵め!」<br>
「落ちつかないと、紀元前4000年の欠陥構造物に関する法に基づいてあんたをばらしちまうよ&&」<br>
ソーヤーはマウスの腕をつかみ止めようとする。<br>
「なぜこんなところに連れてきた」<br>
「今教えてあげるよ」そして長波放射に同調させる。南国の風景に変わる。ペルム紀の地球の風景。ヨーロッパとアメリカに爬虫類生息、他は氷河。二千万年後。&&「意識の歴史」をマウスは説明する。ゴンドワナ大陸は「温血」動物の恐竜の子孫に植民された。そして機構の変化に適応するため羽毛が生えた。<br>
その動物の映像を見てアルフは夢の中の竜だと叫ぶ。<br>
「そのとーりっ!」とマウス。<br>
その「羽根の生えた龍」に見える恐竜の子孫は次第に進化して容貌を変化させていった。<br>
「しかし、これは──地球なのか?」とアルフ。<br>
そうだよ~んとマウス。これこそ地球に現れた最初の知性。しかし人類の祖先ではない。<br>
ソーヤーが反論する、こんな頭の形してるのに知性なんかないよ! 冒涜だ! おれは信じないぞ!<br>
だが、マウスは、地球上に張り巡らされている、この恐竜人の「魂の集合」の映像を見せる。彼らは人間と同じように道具を作り言語を使った。だがそれ以上に、「集合自我」の形成に長けていた。<br>
「本物の社会的なゲシュタルトということか? 単一の意識を共有したのか?」とアルフ。<br>
「集合無意識を形成したのです」とマウスが訂正。「個体の知性はチンパンジー並みですが。集合無意識が組織化された集合バイオコンピューターとなり、これと個体の意識が結合することで、高度の知性を持つに至ったのですよ」<br>
次の映像は知的な恐竜が奴隷の猿を使っている光景だった。この猿が今の猿の先祖らしい。<br>
ソーヤーがいう。「ありえん。月の基地はこれからたった500万年後だろ。ところが爬虫類の痕跡はない」<br>
マウスは次に集合無意識によって超低周波数で全ての個体がつながれたきわめて複雑なサウルス・サピエンス(知的恐竜)のバイオコンピューターの構造図を見せた。あまりの美しさに、ソーヤーもアルフも言葉を失った。<br>
もちろん集合無意識による結合には距離的限界がある。群から離れれば知性を失う。だから、「巣作りの場所と休息の場所は一つ」という格言があった。個体同士の相互依存性の強い自覚があったのだ。<br>
それゆえに戦争、同族殺しは絶対のタブーだった。人間が近親相姦をタブーにするのと同じように。そのことを隠すため、彼らは驚くべき同族食いの儀式を行った。<br>
次いで1万年未来。不死の勝者として3000万年もの間栄えた知的恐竜は、歌い踊っていた。彼らは過去の先祖の意識を全て残すべく、ソウルコア、スフィアを作った。<br>
「魂のコアにいるものこそ、不死の死者です」とマウスが言ってスフィアを指差した。天国の王国。様々な宗教の聖職者がそれを直観したが、最も真実に近いのはヒンズー教。<br>
スフィアには、死者の全ての脳内情報がマッピングされている。死は、個人の意識を肉体の束縛から解放する方法である。解放された想像力で規律される集合意識、絶対意識に入ることを可能にするものである。<br>
「宇宙からの映像ではないんだ」とアルフ。「未来から──もう一つの未来から」<br>
「彼らは死んだのか?」とソーヤー。<br>
「生きています」とマウス。「周囲にいます。夢の中に。ケルビムとセラフィム」<br>
「何か間違いがあったのか? 先祖を助ける替わりに彼らは自らを滅ぼし、われわれを残した」<br>
「星です。超新星です」<br>
要するに、近隣の星の超新星化によって集合知性が破壊されてしまうので、巨大なタイムマシンに最低限の生体コンピュータを積んで過去に出発したが、間に合わず超新星化の影響でコンピュータが狂い、船内で「第四部 エデンの前」に書かれた出来事が起こり、目的の時代を50万年もオーバーして到着した。そして恐竜は子供が死産で人数が減ったために集合知性のレベルが低下して退化し、これに代わり、奴隷猿たちが(コア)を利用して、このパラレルワールド(=われわれのいる宇宙、歴史)で繁栄の基盤を作った。しかし、彼らは地球を捨て、月面基地を作って宇宙に飛び立った。地球上にも同様の宇宙基地はあるが南極などの氷の下になっている。<br>
このコアは、タキオンなどを利用しているから、その副次作用でテレパシーや余地も可能にする。奴隷猿が地球を捨てた後、残った類人猿たちの意識も自動的にソウルコアに記録されている。つまりこのソウルコアは知的恐竜に始まり、奴隷猿を経てその後地球上に現れた全ての知的意識が記録された巨大な集合知性となっている。人類はようやくその利用に耐えるレベルにまで達したので、コアがマウスの母に働きかけて、導き手としてのマウスを生ませたのだった。マウスは、人類の次なる進化の救世主、使い手だったのだ。<br>
~完~<br>
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<div id="commentbody">
<div class="commentttl">1. Posted by SLG <span>May 01, 2005
18:36</span></div>
<div class="commenttext">
作者はオーストラリアの作家。短編が2編ほど訳されているが、そのうちの1編が扶桑社ミステリー文庫『幻想の犬たち』(積ん読書)に入っていたので、読んでみた。<br>
「わたしは愛するものをスペースシャトル・コロンビアに奪われた」<br>
様々な差別を乗り越えて、知性を持った高名な学者犬と結婚した女性だが、スペースシャトルのニュースを聞いた夫が宇宙に野望を抱き、妻は夫の心を失うという奇想ショートショート。可笑しいが、特にどうということはない作品。★★ぐらい。これではどんな作家だか判らないぞ。</div>
<div class="commentttl">2. Posted by <a class="posttitle" href=
"http://www.locusmag.com/SFAwards/Db/NomLit16.html#564-1997"><font color=
"#6D4126">slg</font></a> <span>May 01, 2005 19:24</span></div>
<div class="commenttext">
調べてみたらディトマー賞の長編賞を3回も受賞しており、イーガンやショーン・ウィリアムスと並んでオーストラリアでは大御所のようだ。本作もディトマー賞受賞作。<br>
Broderick, Damien<br>
Winner of 3 Aurealis Awards, 4 Ditmars 1980 The Dreaming Dragons<br>
second place : 1981 Campbell Memorial/2<br>
Australian novel : 1981 Ditmar W<br>
1988 Striped Holes<br>
Australian long fiction : 1989 Ditmar W<br>
1998 The White Abacus<br>
sf novel : 1998 Aurealis W<br>
Australian long fiction : 1998 Ditmar W<br>
2000 Infinite Monkey<br>
sf short story : 2001 Aurealis W<br>
2001 for Earth Is But a Star, as editor (University of Western<br>
Australia Press) [ed]<br>
Convenors' Award : 2002 Aurealis<br>
collected work : 2002 Ditmar W<br>
2002 Transcension<br>
sf novel : 2003 Aurealis W</div>
<div class="commentttl">3. Posted by slg <span>May 01, 2005
19:41</span></div>
<div class="commenttext">他の受賞作のstriped holesとwhite
abacusも注文しようかとアマゾン検索したら両方絶版かよ!!!</div>
<div class="commentttl">4. Posted by slg <span>May 01, 2005
23:34</span></div>
<div class="commenttext">
第二章まで読んだけどけっこういい感じ。<br>
徹夜で1日のノルマ100ページこなす予定。</div>
<div class="commentttl">5. Posted by slg <span>May 02, 2005
03:54</span></div>
<div class="commenttext">
100ページまで読むつもりだったが、チャンネルNECOでぴんくギャル2とかいうのをやってて、最後まで見てしまった。酷かった。斉藤陽子が脱ぐかと思って最後まで見てたのに全然脱がねえじゃねえか、詐欺だーっ! 前田耕陽が可笑しかった。</div>
<div class="commentttl">6. Posted by slg <span>May 02, 2005
15:55</span></div>
<div class="commenttext">昨日は86ページ。<br>
予想と違い、ごく正統派のミステリタッチのエイリアン?SFだった。<br>
月面とオーストラリアのエアーズロック地下にある不思議な構造物の謎を解く話。</div>
<div class="commentttl">7. Posted by lg <span>May 03, 2005
01:08</span></div>
<div class="commenttext">
退屈なのでなかなか進まない。学者が会議をしていろいろくっちゃべっているだけ。内容もくだらない。つらい。</div>
<div class="commentttl">8. Posted by slg <span>May 03, 2005
04:13</span></div>
<div class="commenttext">
と思ったらロシアで変な薬の犠牲になった学者の手記がいきなり入った。<br>
記憶が薄れてアホになる薬らしいが、まだよくわからない。ちょっと意外な展開だが、本筋とどう結びつけるのだろうか。<br>
もう諦めてじっくり読もう。こんな本ごときに3日もかけられない、2日で読み終わらんといかんとか焦らないで。</div>
<div class="commentttl">9. Posted by slg <span>May 03, 2005
12:55</span></div>
<div class="commenttext">
おいおい今度は臨死体験の孫引きを始めたぜw<br>
く だ ら ね え<br>
1行たりとも興味を持てる文がねえ<br>
オカルトに興味ゼロの俺には、まさに拷問w</div>
<div class="commentttl">10. Posted by slg <span>May 03, 2005
12:57</span></div>
<div class="commenttext">
うわ、オカルトの説明がまだ9ページもあるよ&&まさに地獄だ<br>
飛ばそうかな&&多分飛ばしてもストーリーがわからなくなったりはせんだろうし</div>
<div class="commentttl">11. Posted by slg <span>May 03, 2005
13:35</span></div>
<div class="commenttext">
139-150ページがこの本のワースト。ほんとうにつらかった。だらだら自動車を運転しながら、何とかモンローがどうのロン・ハバードがこうのといった、小学生並みにくだらない月刊ムーの孫引き解説が老人の繰り言のようにウザク続く。<br>
死ね死ね死ね死ね死ね金返せ<br>
メントスだか何だかのCMの名前忘れたお笑い芸人ああ思い出した出川哲朗の顔並みにuzeee</div>
<div class="commentttl">12. Posted by slg <span>May 05, 2005
04:34</span></div>
<div class="commenttext">参考評価<br>
アイデア ★★★★★<br>
ストーリー ★<br>
キャラクター ─<br>
文体 ─<br>
主張 ★<br>
合計 ★(7/50点)</div>
<div class="commentttl">13. Posted by slg <span>May 05, 2005
04:37</span></div>
<div class="commenttext">14点の間違い</div>
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