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<h2 class="date">April 12, 2005</h2>
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J・G・バラード『沈んだ世界』(創元SF文庫)</h3>
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"0"></a>プリングル100冊バラード。これを読んでいない人は多分珍しいと思うのだが。<br clear="all"></div>
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これはよかった。中盤のストラングマンが水没ロンドンを干拓してサルベージしつつ、らんちき騒ぎをして主人公らと対立するパートがやや冗長なこと、ストーリーが単純且つ一本調子でメリハリに欠けることが欠点だが、前半部においてボドキン博士の台詞で明確に示されるテーマ(水没して原始化して行く自然環境との相関において、失われた原初の記憶を徐々に取り戻しそれぞれの心のよりどころを探究するたびに出て行く登場人物たち)、及び、そのテーマに従って主人公が破壊工作を行ってまで、また自らの生命を捨ててまで、精神の原初状態の記憶を喚起する原風景を見ようと南へ旅立つエンディングが、見事に決まっている。<br>
何らかの原因で文明社会の中に秩序の崩壊し原始化した環境が現出し、その中で人間が死、無秩序、混沌、狂気、解放への原初的願望を充足させるべく行動して行く、という基本的筋立ては他の多くのバラード作品と同じだ。既読の範囲で「燃える世界」「クラッシュ」「ハイーライズ」といずれもこのパターンに当てはまるし、「殺す」も、一見普通の現代小説であるが、テーマや物語構造はやはり同じパターンだ。「夢幻会社」も、内面と環境の相互関係や抑圧された原精神の解放を描いている点でテーマは共通している。その分、どれも衣を変えただけで中身はまた同じかよ、という感想は確かに拭えないのであるが&&。<br>
本書はこのバラード長編の「偉大なるマンネリ」パターンを確立した最初の作品らしい。ただ、本書は、後年の作品よりもはっきりした大衆娯楽的な冒険小説的色彩が濃く、「人物間の対立概念の解消」というはっきりした物語構造を持っており、その分面白くて読みやすいこと、精神と環境の相互影響というバラードの生涯のテーマについて、明確に科学的説明を与えられている箇所があり、その意味ではっきりとした科学小説(心理学/生物学SF)になっていること、の2点において後年の作品よりもアドバンテージがあると思う。<br>
人間の欲求、欲望には秩序対無秩序(狂気)、行動/生対休息/死という本来的な双方向性がある。通常、前者が正常であり、後者は病的であると考えられることが多いように思うが、実はこれは誤りで、両者のバランスの上に成り立つのが人間の精神であり、その上に築かれる文明である。前者に偏り過ぎた精神/文明は自ずと崩壊する。これは幾多の文明批評的SFが描き出しているところのものであるが、これを心理学的に分析して、人間心理の持つ後者の方向性を視覚化して提示したのがバラード作品であると思っている。その観点から、本書はトップクラスの出来映えを示している。<br>
テーマ性 ★★★★★<br>
奇想性 ★★★<br>
物語性 ★★<br>
一般性 ★<br>
平均 2.75<br>
文体 ★★★<br>
意外な結末★★★<br>
感情移入力★★<br>
主観評価 ★★1/2(29/50点)<br clear="all"></div>
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<h3 class="commenthead">この記事へのコメント</h3>
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<div class="commentttl">1. Posted by slg <span>April 13, 2005
10:10</span></div>
<div class="commenttext">
「燃える世界」よりは面白そうだ。ヴァンアレン帯が壊れたことに起因する高温で氷が溶けて水没した都市を遍歴して調査する話。燃える世界は旱魃のイギリスをうろついて、狂った住民を眺めるだけの話だったからなあ。それに比べると動きがありそうで。</div>
<div class="commentttl">2. Posted by slg <span>April 13, 2005
16:07</span></div>
<div class="commenttext">
インターゾーン2冊を先に読んでいる。とりあえずエリック・ブラウンの「スラーク狩り」。題名はルイス・キャロルの「スナーク狩り」のもじりと思われるが、内容は正統派の異星生物学もの。超新星化による破滅を目前にした惑星タルタロスの、既に滅んだとされる知的生物スラークを求めて、探査をする夫婦学者。夫はスラークに酷似する動物に襲われ一度死亡し再生中。妻が先にタルタロスに戻り調査再開。そのレポートをいま、夫が見ているところ。</div>
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