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 「行くな…っ!!」

そう伸ばした手は 空を掴んだ。
独り震えて握り締めた手の中、一粒の雨が淡く弾けて静かに消える。

 「……ど、して…」

どうして。俺に柔らかく微笑んだお前は 俺を置いて何処か遠くへと軽やかに飛び去る。

 『――――九郎さん』

そう言って 俺の名を呼んで。
行かないでと縋りついた手をすり抜けて…お前は残酷な程 綺麗に微笑ってみせるんだ。


 「 行 く な 」


さわりと吹く風。俺は一人、いつの間にか呼び慣れてしまった愛しい名を紡いだ。





 「……み…」
 「…さん、九郎さん」

声。
柔らかい…聞き覚えのある声が 俺の名を呼ぶ。そっと瞼を持ち上げれば、真っ先に飛び込んでくる 色鮮やかな笑顔。
 「…望美…?」
 「そろそろ戻らないと 風邪引いちゃいますよ?」
最近とっても寒くなってきたんですから。
そう微笑って楽しげに答えるお前の顔をしげしげと見やり、俺はある違和感に気付く。


…やけにこいつの顔が近い。


 「頭、痛くないですか?」


望美の言葉と頭の置き場の感触で、膝枕されている事に気づかされる。

 「…九郎、さん?」
 「…」

でも何の反応もしない俺に、望美が訝しげに俺を見つめる。
だがこの時の俺には それに答える余裕がなかった。


 「く、九郎さ」
 「………行くな、」


身を軽く起こし そのまま小さな頭を引き寄せる。
長く長く口付けて、俺は名残惜しそうに放してから望美を見つめた。


 「っ……く、ろ…さ」
 「……不安なんだ」


お前が。…お前が突然いなくなってしまうのではないか。俺の傍から離れて行ってしまうのではないかと。
ふと気が緩むと そんなしようもない考えに取り付かれてしまう。

 「…行くな」
 「九郎さん…」

頼むから。頼むから俺前から消えないでくれ。
お前を失いたくないという想いだけが 俺をつき動かす。


 「――――馬鹿、」


そしてふいに聞こえた…少し拗ねたような声音。
顔をあげればそこに、片頬を膨らませて何を言ってるんだとばかりに俺を睨み付ける 二対の翡翠があった。

 「望美?」
 「もう…前にも言ったじゃないですか」

どんな事があっても 九郎さんの傍を離れないって。
そう言って 無邪気に微笑って。


 「約束、したでしょう?」


お前はいとも簡単に 俺の不安を吹き飛ばしてくれる。


 「――――…ああ、そうだったな」


その気の抜けるような屈託ない笑顔に、俺は今まで何度救われてきただろう?

そしてお前は俺の頬に口付けて 一言だけ呟いた。





 「…大好きです」



もうずっと 放さないで。



【だって君は笑うのだろう】


あとがきという名の言い訳。

・・・九郎さんの誕生日SSを書こうとして いつの間にやらお題作品へと早代わり・・(は)甘くて明るいのってどう書くんでしょうね・・(苦笑)