―六【半】―
「・・・・・っくそ・・!!」
部屋を出て足早に俺は真っ直ぐ神社へと向かう。意識は戻ってもまだ青い顔をして、無理に弱々しく微笑んできた幼馴染の顔が頭から離れない。
『・・なんつー顔、してんだよ?』
困ったように微笑んで、俺の心配ばかりして。いい加減、自分の心配をしたらどうなんだ、・・・・そう言いたかった。
『・・・・・・言いたい事、あるんじゃねぇのか?』
時折飛びそうになる意識を留めようとするかのような顔をして、戒斗は俺の様子を察した。いつも妙なところで鋭い幼馴染に俺は苦い思いを抱いた。 何故こういう時だけ鋭いのか・・と。
でも、言わなかった。――――――否、言えなかった。
「・・・言えるわけ、ないだろ・・」
あんなに弱々しく辛そうに微笑う幼馴染に。今までそんな表情、一度も見せたことの無かった幼馴染に。
「・・・一刻の猶予も、ない な・・」
あの急激な衰弱の仕方は普通じゃない。早く、早く神社に戻らなければ。行く先から見慣れた白銀がゆっくりと歩いてくるのにも構ってはいられない。
『葵依、』
掛けられた声にも応じることはなしに俺は神社へと駆け込む。・・・だから、俺は気づかなかった。
『――――葵依が鬼刻を召喚するのも、お前の予見と寸分も違わぬようだな・・』
・・なぁ、嵐よ。そう低く呟かれた言の葉に切ない響きが含まれていたことに。自分が何に巻き込まれようとしているのか、知る手がかりとなるそれに俺は気づくことが出来なかった。無論・・・その深い紫は、俺に教えようなどいう考えなどはもっていなかったのだけれど。