想風月華

『ひそやかな』

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benhino3

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瞼はゆるやかに美しい曲線を描いて閉じていた。
ともすれば今は見えない彼の紫壇が透きとおりそうな程白く透明な肌には、陽光と木々が
織り成す微かな翳りが散らばっている。その陰影さえただ静かに美しく、彼を作り物めいた
ものにしているだけだった。
さらりと髪が落ちる。


「…珍しい、」


思わず洩れた呟きは存外大きく響き慌てて口を閉じた。けれど長い睫が少し震える
だけで済む。
そっと傍にすり寄って腰を降ろし、ゆっくりと上下する胸に安堵した。身動き一つしない
身体に嫌な感覚が胸を一瞬掠めたが、僅かに開いた唇からは規則正しい呼吸音が
聞こえる。
ほどかれた絹糸にも似た深い紫をすいと梳き、白雪の頬を撫でると、擽ったいのか
ふるりと首が揺れる。変わらず触れた肌の下に血の巡る音は聞こえない。






『―――私は、』


穢れている。
そう静かにけれど強く言い放った唇は、強く強く噛みしめられていた。
真摯で澄んだ瞳は世界を拒絶していた。
凛とした背はそれでも気丈に、涙を流すまいと必死に立っているように見えた。


『触れては、ならない。』
だからお願いだ、ヒノエ、どうか





そうして伏せられた睫の
どうしてもみえなかった その奥 が、









目が覚めたら彼は怒るだろうか。触れるなと。
美しい紫色の硝子を泣き出しそうに歪めて。冷たい指先を強く握りしめて。
掠れるような震える声で。

小指が自ら断ち切った彼方の記憶はもう繋がらない。
抱きしめた身体は空っぽだった。彼は捨ててしまったのだろう。あのありふれていて大切で、
決して戻りはしない、永遠に過ぎ去った日々を。十八年のただ一つの軌跡を。
縋ってはならないと頑なに、彼は。




「…馬鹿野郎」


何が穢れているだ。一度手放した生を乞うたことの何を哀しむのだ。
血の巡らない肌も押し返した指先も拒んだ唇も全部、昔と変わらず美しかったのに。
触れてはならないといったその瞳を、どうしようもなくいとしいと思ったのに。




どうか、己に出来ないのであれば、誰だっていい。そう、舞い降りてきた神の娘でも。
どうかどうかどうか彼に光を、笑顔を、愛を、倖せを、









顕わになった額に唇をよせた。
すべり落ちた雫が、きらりと床に散った。



                                                      






                                        【ひそやかな】







薙サマから頂いたお素敵SSですvv強奪・・・もとい攫ってきました★(爆)キリ番でリクしたものがこんなに素敵な小説にしていただけるなんて・・・。薙サマっ本当に有難う御座いましたvv

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