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それは穏やかな日差しの降り注ぐ、とある日の事。ぽかぽかと暖かい日差しはとても心地よく、すぐにうとうとしてしまいそうになる。空を見上げれば、雲一つない青空。――
まさに快晴。そんなとてもお天気のいい今日は、恋する乙女たちが好きな人に勇気を持って告白する、聖バレンタインデー前日。私も例外ではなく、前もってこの話をしていた朔に手伝ってもらい、お菓子作りをする―――…予定だった。

 「これでもう、いいですよ」
 「…はい、有難う御座います」
ぱたりと閉じられる、薬箱。右手に巻かれた、美しい包帯。私は先程まで剣の稽古をしていたのだが、その時にうっかり手を滑らせ、あろう事か利き手をすっぱりと斬ってしまったのである。…なんて情けないのだろう。バレンタインの前日に剣の稽古をして怪我をしてしまい、挙句の果てには想い人であるこの青年に手当てをしてもらう…なんて。私は今日だけで何度目か知れない、盛大なる溜息をついた。
 「剣の稽古もいいですが、もっと気をつけて下さいね」
日の光に透けて光る、柔らかな金。きらきら輝くそれと…穏やかな声。その声音に微量の怒りが含まれているような気がするのは、私の気のせい?
 「―――君の怪我の手当てをする度、僕がいつもどんな思いをしているのか…分かりますか?」
その瞳に切なげな光を浮かべて私の手をとる青年。そんな青年の様子に、私は思わず目を丸くした。
 「弁慶さん?」
そっと目を伏せる青年の顔を、私は上目遣い気味に覗き込む。
―ばちり、と…視線がぶつかった。


 「…とりあえず、しばらくは物を持つのは禁止ですからね」
 「はい…」


…。…あれ?今、なんて言った…?


束の間、私の思考が停止する。


 1秒… 2秒… 3秒…


 「……………………………………ってえぇえぇぇええぇえぇえぇっっ!!?!??!!??!!?」


絶叫。



きっかり3秒の思考停止の後、耳を塞ぎたくなるような大絶叫。きっと屋敷中に響き渡っただろう。叫び声―というより、むしろ悲鳴に近かったが。
 「当たり前です。傷が浅かったとはいえ、怪我は怪我です。早く治りたいのなら…しばらくは物を持つのはだめですよ」
 「そんなぁ~」
ぴしゃりと厳しく言われてしまうが、うなだれてはいられない。今日にそれだけは、絶対に困る。今日は午後から、朔とお菓子作りをする予定なのだから。
 「明日バレンタインなのにぃ~…」
 「…ばれんたいん、ですか?」
思わず呟いた私の言葉に、青年は不思議そうに小首を傾げる。
 「あ…はい。バレンタインはですね、私の世界では女の子が好きな人にお菓子を渡して告白する日…なんですよ」
もちろんお菓子は手作りの人が多いですけどね?と笑いかけると、青年は再び小首を傾げ、目を丸くする。いつも落ち着いている青年の可愛らしい仕草に、私はつい笑みを浮か
べる。
 「つまり、明日がそのばれんたいん…なんですね」
 「…はい」
なるほど…と呟く青年に、だから今日は明日に備えて朔とお菓子作りをする予定なんですよ~と上目遣いに抗議する。
 「だから物を持っちゃだめってなると、困るんです」
 「ですが、怪我の治りが遅くなってしまいますよ?」
 「う、それは…」
まさに正論。青年の言う事は尤もであり、私に反論の余地はなかった。
 「望美さん」
 「はい?」
 「……………やはり君は明日、誰かに想いを告げるのですか…?」
 「え?」
まさに予想外の言葉。私を射る、何があっても揺らぐ事のない柔らかで優しい色は、いつもとは違い何処か不安そうな光が宿されていた。
 「え、と…?」
 「…すいません、こんな事を聞いてしまって。また、君を困らせてしまいましたね」
今のは忘れて下さいといつも通りの微笑みを浮かべる青年。そんな横顔に 私は何故か少しだけ、哀しいと感じた。
 「――――…にだ…よ?」
 「はい?」
振り返る青年。聞こえないと思って小声で呟いた筈だった。少し顔が熱くなるのを感じながら、私は意を決してもう一度だけと、青年に呟く。
 「…私は弁慶さんに渡そうと、思ってたんですよ?」
 「え…」
 「本命は一人だけ、ですから…」
かああああああっと、顔が真っ赤になっていくのが分かる。きっと今の私の顔は、茹蛸みたく真っ赤なのだろう。沈黙が堪らず、私は両手で頬を押さえて目を伏せた。
 「…望美さん、顔をあげて下さい」
穏やかな声音が、暗い影と共に私に降り注ぐ。ちらりと上目遣い気味に顔をあげると、思ってたより近くに穏やかな微笑みがあった。
 「ありがとうございます、望美さん。ですが…」
 「はい?」
私が聞き返すと、青年はほんのりと頬を染めて照れたように笑う。
 「…僕の為という事ならば、君が物を持たずに怪我を治す事に専念してくれる方が…僕は嬉しいですよ」
ね?と同意を促すかのように、私は頭を軽く撫でられる。
 「…でも、私は私の想いの証として弁慶さんに渡したいんです」
だから今日はお菓子作りをしたい…。そう告げる私を見、青年は再び口を開く。
 「…どうしても、ですか?」
 「どうしても、です」
じっと青年の目を見つめる。負けるものかとばかりに見つめ続けると、ふいに青年が笑みを零す。
 「…では、こうしませんか?」
 「はい?」
突然の青年の提案に、私は一歩後ろに後ずさる。―――が、
 「っっ!!?」
素早く両腕を掴まれ、そのまま柔らかな唇が私のそれへと重ねられる。…一瞬、この世界の時間が止まったような気がした。
 「―――…君は僕の一番欲しい物をくれる、という事です」
くすりと微笑って、私から唇を放す青年。そのまま私は、へたりと床に座り込んだ。
 「~~~~~っっ始めから私に拒否権なんて、ないじゃないですかぁ…」
またしても顔を真っ赤にして抗議をするが、青年は穏やかに微笑うばかり。
 「………もういいですよ…」
諦めたように溜息をつく私に、青年はすいません、とだけ呟いて私を見つめた。
 「…。」
 「……………望美さん?」
驚いたかのように目を見開く私を見、青年は怪訝そうに私の顔を覗き込む。
 「あ、え えと…なんでもありませんよ」
はっと我に返り、慌てて取り繕うが青年は少し意地悪そうな微笑みを見せる。
 「そう言われてしまいますと…余計に気になってしまいますね」
 「え…えぇっっ!!?」
今度は堂々と顎に手を掛けてくる優しい色に、私の瞳が潤んでくる。
 「で、何を考えていたのですか?」
にこりと人当たりの良い笑みを浮かべる青年。
 「ほっ本当になんでもないんですってば~」
何がなんでも…これだけは彼にも、彼にこそ教えられない。だって…恥ずかしくって言えないよ。



―――…始めて見た貴方の本当の笑顔、あんな嬉しそうな笑顔に見とれてた、なんて絶対に…口が裂けても言えない。


あとがきという名の言い訳。


今年あった某バレンタイン企画に出した物です(ぇ)何を今更のノリですがあえて無視の方向で(爆)やっぱりこういう甘いのも書いた後は読み返したくないですねぇ・・・自分の未熟さがよくわかります(涙)つかこれ、いつ書いたんですか綾さん・・・?(再び自問自答/A.随分と前なのでわかりません/爆)