想風月華

『花びら一片』 (フリー)

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匿名ユーザー

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俺は綻び、散りゆくだけの花々を見上げふとお前を想った。


幾千もの花々の中、何よりも強く 気高く、色鮮やかなお前の姿を…



 『花びら一片』



 「ヒノエくんっっ!!」

真っ暗な闇が 辺りを包み込む中、花びらを背に受け真っ直ぐとこちらに向かって来る…
鮮やかな一輪の花。満開の笑顔を向けてくれるその花のなんと美しい事か。

 「もう夜の帳も降りてしまったというのに、俺に逢いに来てくれたのかい?姫君は大胆だねぇ」
 「ち、ちが…」

俺の言葉と走ってきたのとで頬を紅潮させる美しき少女。こんな夜遅くに何の用だい?と
問い掛けると、少女は腕時計を見良かった~と大きく息を吐いた。

 「…望美?」

時計を見れば、明日になるまであと2分。じっと時計を見つめる少女は ふと俺を見上げ
てにこっと微笑んだ。


 「突然ですが ヒノエくんに問題ですっ!!」
 「…は?」


びしっと俺に指を突き付けて 楽しそうに笑う鮮やかな花。俺はいきなりの事に 瞳を丸
くした。

 「あともう少しで明日、4月1日になりますが明日は何の日でしょう?」
 「え…明日が何の日か、かい?」

俺の言葉に大きく頷き、さぁ何の日ですか?と問う少女。

 「何の日って…エイプリールフール、嘘をついても良い日だろ?」

そう答えると、それは半分だけ正解ですと後ろに手を回し、鮮やかな笑みを浮かべられた。

 「半分?」
 「そうだよ、正解はね…」


時計の針が、12時ちょうどを指す。ふわりと軽やかに、翼がついているかの如くに飛び
跳ね 俺の頭上に薄紅の雨を降らせる…天女の君。



 「お誕生日、おめでとう」



そう言って眩しいくらいの笑顔を俺に向けて、言うのが当たり前のようにもう一言付け足す。





 “生まれてきてくれて、有難う”





―――その一言を。




 「何が欲しいのか分からなかったから、プレゼントは用意出来なかったんだ。…ごめんね」
 「…。」


しゅんとした様子を見せる少女に、俺はただいきなりの事に呆然とするばかり。


 「…ヒノエくん?」


黙り込んでしまった俺の顔をどうかしたのかと心配そうに覗き込む少女。俺は不覚にも呆気にとられて しばし反応が出来なかった。


 「ヒノエ、くん?」
 「…ったく、本当…姫君には敵わないね」
 「きゃっ!?」


溜息をひとつ吐き思いきりその細腕を引いて抱き寄せ、俺はその一輪の花を自らの腕の中へと閉じ込めた。


 「こんな嬉しい事されたらさ、もう離せなくなるじゃん」


苦笑気味に耳元に囁き、ぎゅうっと抱き締める腕に力を込める。


 「ヒノエくん…」
 「…有難う、望美」


はらりはらりと零れる薄紅の欠片たち。そして俺は低く、愛しい花の耳元でもうひとつ大事な事を囁いた。


 「――――…」
 「っな!!?」



再び真っ赤に染まる頬。勢いよくあとずさる少女に、俺はまた微笑を零す。






 “――――俺を本気にさせたんだ、覚悟 しときなよ?”





…海賊は 狙った獲物は逃さない。俺はいつか必ず、お前という宝を さらってみせるか
ら―――


HAPPY HAPPY BIRTHDAY!!

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