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―序―


 一陣の風が、さわりと辺りを吹きぬけた。・・・何処からともなく聞こえる、美しき歌声を・・・共に連れて。


 人は何処へ行く?

 短い生という時間の中で。

 何の為に生きる?

 理由もなく歩き続ける旅人よ。


 必死になって生きる意味を探していた私

 でも私の身体は 悲鳴をあげるほどの痛みしか覚えなくて。

 だからせめて優しさに包まれようとしてみても

 ―――――――――・・・ただ、心が痛くなるだけ。


 何故、こんなにも切なくて

 何故、こんなにも哀しいのか


 苦しいほどに、胸を締め付ける何か。


 ・・・そんな事さえ解らないまま―――


 不意に歌声が途切れる。風と共に翻る、燃えるような緋。銀色の淵の、片眼鏡の奥に見える・・・同色の瞳。見下ろすは、大きくも小さくもない・・・『樹那の国』と呼ばれる、美しき国。ここに、そんな国を見つめる青年がいた。

 「‘―――――――・・・私は、何処へ行くのだろう’・・・ねぇ?」

嘲るようにして最後の節を口ずさむ青年。この世の者とは思えないほどに・・・美しい、青年だった。

 「もう、あれから千年の時が経った、か・・・」

今になっても鮮明に蘇る、絶大な神気。鋭利な光を瞳に宿した――――美しき少女。だがもう、千年経った今となっては、単なるひとつの思い出に過ぎない。

 「 風ふけば 落つるもみじば 水きよみ

         ちらぬかげさへ 底に見えつつ―――」

不意に青年は、和歌を口ずさむ。その和歌に乗って、薄紅色の花びらの間からちらほらと・・深紅の花が咲き始めた。その様を見、青年は楽しげに自らの髪を弄ぶ。

 「――――――もう、邪魔はさせないよ?」

くすりと微笑を浮かべ、千年経った今でもあの少女の気配の残る国に、青年は背を向けた。

 「俺の勝ちだね・・・嵐」

刹那、一陣の風と共に・・・・青年は、姿を消した。