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―二―
『なぁ、―――。お前はどう思う?』美しく微笑って、私を振り返る・・・人。 『今ここで散りゆく桜は・・・何を想って今、ここに散りゆくのか・・・』そう言って楽しげに微笑んで、桜の花びらにじゃれていたのは・・・誰だったろう?いつの事かも判らない。忘れてはいけないと・・・心の何処かで声がする。思い出せという声がする。・・・・・・嫌だ、まだ・・思い出したくない。今は、まだ。
・・・あぁ、なんて――――――
「・・・戒斗」美しい桜並木の下、俺は不意に立ち止まって幼馴染の背中に声をかける。色鮮やかな深紅と淡い薄紅が、はらりと零れた。 「ん、どうした?」振り返る、柔らかな微笑。いつもなら安心できたであろう、この笑顔。何故だか今日は、この笑顔に胸騒ぎを覚えてならない。 「・・・・・・いや、」俺は何を言おうとしたのだろう?何と言ったら良いのかが分からずに俯く。 「っつ・・・!!」
ずきり
突如、右目に鋭い痛みが走った。
「痛むのか!!?」思わず顔を顰めた俺の前髪をかきあげ、戒斗は心配そうに顔を歪める。その海色の瞳に映るのは、露になった右目にはしる―――三つの紅い傷跡。 「・・・放せ、戒斗」俺は静かにただ一言を紡ぐ。 「でもあお・・・」 「大丈夫だ」バシッと戒斗の手を払いのけ、俺は事もなさげに言い放つ。―――そうしなければならないと、知っているから。この傷跡は、単に刀でつけられたような代物ではない。
「・・・大丈夫、だ」
自分自身に言い聞かせるかのように、力強く言葉を紡ぐ。
「・・・・・・・そう か」
大きな湖を映し出したかのような双眸が、不安げに揺れる。それを見るのを避けるようにして瞳を伏せると、目の前にふと影が落ちてきた。 「ほらっ行くぞ!!」 「っっ!!?」急に腕を引かれ前のめりになりながらも、なんとか小走りについていく。ぎゅっと握られた右手に、優しいぬくもり。 「・・・おい?」約頭一つ分くらい背の高い幼馴染を見上げると、朱に染まった頬が目につく。 「――――――突然、俺の前からいなくなったりするなよ」ふいにぽつりと、小さな声で呟かれた・・・ささやかな言葉。不安そうな響きを持った声音に、俺は思わず目を丸くする。 「は?」 「だーかーらー、何でも一人で解決しようとして俺の前から消えんなっつったの!!」心配するだろー?と苦笑しながら答える戒斗に、再び拭い去ることの出来ない胸騒ぎを覚える。・・・俺は、一体何を不安がっている・・・? 「・・・・・・そうか」 「葵依?」いつもより沈黙が長かったのに対し、戒斗は再び怪訝そうに俺を見つめる。その様子があまりにもおかしくて、俺はつい吹きだしてしまう。 「おい?」 「・・・いや、お前に心配されるなんて俺も修行が足りないな」 「んなっっ!!」さり気にそれっ俺に対して失礼だぞ!!なんて聞こえるがそれはこの際気にしない。ただただ不敵な笑顔を浮かべる。
(どうせ俺には関係ないし)
まぁ落ち込む戒斗が面白いからそのままにしておくとして、俺は徐に戒斗の手をとり再び歩き出した。 「・・・葵依??」 「・・・・・・・たまには、いいんじゃないか?昔もよくこうやって手ぇ繋いだだろ?」戒斗の間抜け面に苦笑しつつ、俺はそのまま前へと進む。まぁ、無理もない。今まで一度も、俺から戒斗と手を繋ぐということがなかったのだから。・・・小さい頃から―――ずっと。
「とりあえず、先を急ぐぞ?帝がお待ちしているからな・・・」 「分かってるって。んじゃ さっさと行きますか」
墜ちた薄紅と深紅の欠片を踏みつけ、俺たちは王宮へと急ぐ。
(――――・・この勅命、絶対何かある)
俺は走りながらそっと、王宮を見つめる瞳を細めた・・・・。
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