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「【だって君は笑うのだろう】」(2006/12/01 (金) 16:37:16) の最新版変更点
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<p> 「行くな…っ!!」</p>
<p>そう伸ばした手は 空を掴んだ。<br>
独り震えて握り締めた手の中、一粒の雨が淡く弾けて静かに消える。</p>
<p> 「……ど、して…」</p>
<p>どうして。俺に柔らかく微笑んだお前は
俺を置いて何処か遠くへと軽やかに飛び去る。</p>
<p> 『――――九郎さん』</p>
<p>そう言って 俺の名を呼んで。<br>
行かないでと縋りついた手をすり抜けて…お前は残酷な程
綺麗に微笑ってみせるんだ。</p>
<br>
<p> 「 行 く な 」</p>
<br>
<p>
さわりと吹く風。俺は一人、いつの間にか呼び慣れてしまった愛しい名を紡いだ。</p>
<br>
<br>
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<br>
<p> 「……み…」<br>
「…さん、九郎さん」</p>
<p>声。<br>
柔らかい…聞き覚えのある声が
俺の名を呼ぶ。そっと瞼を持ち上げれば、真っ先に飛び込んでくる
色鮮やかな笑顔。<br>
「…望美…?」<br>
「そろそろ戻らないと 風邪引いちゃいますよ?」<br>
最近とっても寒くなってきたんですから。<br>
そう微笑って楽しげに答えるお前の顔をしげしげと見やり、俺はある違和感に気付く。</p>
<p><br>
…やけにこいつの顔が近い。</p>
<p><br>
「頭、痛くないですか?」</p>
<p><br>
望美の言葉と頭の置き場の感触で、膝枕されている事に気づかされる。</p>
<p> 「…九郎、さん?」<br>
「…」</p>
<p>
でも何の反応もしない俺に、望美が訝しげに俺を見つめる。<br>
だがこの時の俺には それに答える余裕がなかった。</p>
<p><br>
「く、九郎さ」<br>
「………行くな、」</p>
<p><br>
身を軽く起こし そのまま小さな頭を引き寄せる。<br>
長く長く口付けて、俺は名残惜しそうに放してから望美を見つめた。</p>
<p><br>
「っ……く、ろ…さ」<br>
「……不安なんだ」</p>
<p><br>
お前が。…お前が突然いなくなってしまうのではないか。俺の傍から離れて行ってしまうのではないかと。<br>
ふと気が緩むと
そんなしようもない考えに取り付かれてしまう。</p>
<p> 「…行くな」<br>
「九郎さん…」</p>
<p>頼むから。頼むから俺前から消えないでくれ。<br>
お前を失いたくないという想いだけが
俺をつき動かす。</p>
<br>
<p> 「――――馬鹿、」</p>
<br>
<p>そしてふいに聞こえた…少し拗ねたような声音。<br>
顔をあげればそこに、片頬を膨らませて何を言ってるんだとばかりに俺を睨み付ける
二対の翡翠があった。</p>
<p> 「望美?」<br>
「もう…前にも言ったじゃないですか」</p>
<p>どんな事があっても 九郎さんの傍を離れないって。<br>
そう言って 無邪気に微笑って。</p>
<p><br>
「約束、したでしょう?」</p>
<p><br>
お前はいとも簡単に 俺の不安を吹き飛ばしてくれる。</p>
<p><br>
「――――…ああ、そうだったな」</p>
<p><br>
その気の抜けるような屈託ない笑顔に、俺は今まで何度救われてきただろう?</p>
<p>そしてお前は俺の頬に口付けて 一言だけ呟いた。</p>
<br>
<br>
<br>
<br>
<p align="left"> 「…大好きです」</p>
<br>
<p align="right"><br>
もうずっと 放さないで。</p>
<br>
<p><br>
<strong>【だって君は笑うのだろう】<br></strong></p>
<br>
<p>あとがきという名の言い訳。</p>
<p>・・・九郎さんの誕生日SSを書こうとして
いつの間にやらお題作品へと早代わり・・(は)甘くて明るいのってどう書くんでしょうね・・(苦笑)</p>
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