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『口付け』(フリー)」(2006/05/28 (日) 09:09:59) の最新版変更点

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<p> それは穏やかな日差しの降り注ぐ、とある日の事。ぽかぽかと暖かい日差しはとても心地よく、すぐにうとうとしてしまいそうになる。空を見上げれば、雲一つない青空。――<br> まさに快晴。そんなとてもお天気のいい今日は、恋する乙女たちが好きな人に勇気を持って告白する、聖バレンタインデー前日。私も例外ではなく、前もってこの話をしていた朔に手伝ってもらい、お菓子作りをする―――…予定だった。</p> <p> 「これでもう、いいですよ」<br>  「…はい、有難う御座います」<br> ぱたりと閉じられる、薬箱。右手に巻かれた、美しい包帯。私は先程まで剣の稽古をしていたのだが、その時にうっかり手を滑らせ、あろう事か利き手をすっぱりと斬ってしまったのである。…なんて情けないのだろう。バレンタインの前日に剣の稽古をして怪我をしてしまい、挙句の果てには想い人であるこの青年に手当てをしてもらう…なんて。私は今日だけで何度目か知れない、盛大なる溜息をついた。<br>  「剣の稽古もいいですが、もっと気をつけて下さいね」<br> 日の光に透けて光る、柔らかな金。きらきら輝くそれと…穏やかな声。その声音に微量の怒りが含まれているような気がするのは、私の気のせい?<br>  「―――君の怪我の手当てをする度、僕がいつもどんな思いをしているのか…分かりますか?」<br> その瞳に切なげな光を浮かべて私の手をとる青年。そんな青年の様子に、私は思わず目を丸くした。<br>  「弁慶さん?」<br> そっと目を伏せる青年の顔を、私は上目遣い気味に覗き込む。<br> ―ばちり、と…視線がぶつかった。<br></p> <p>  「…とりあえず、しばらくは物を持つのは禁止ですからね」<br>  「はい…」<br></p> <br> <p>…。…あれ?今、なんて言った…?<br></p> <br> <p>束の間、私の思考が停止する。<br></p> <br> <p> 1秒… 2秒… 3秒…<br></p> <br> <p>  「……………………………………ってえぇえぇぇええぇえぇえぇっっ!!?!??!!??!!?」<br> <br></p> <br> <p>絶叫。<br></p> <br> <p><br> きっかり3秒の思考停止の後、耳を塞ぎたくなるような大絶叫。きっと屋敷中に響き渡っただろう。叫び声―というより、むしろ悲鳴に近かったが。<br>  「当たり前です。傷が浅かったとはいえ、怪我は怪我です。早く治りたいのなら…しばらくは物を持つのはだめですよ」<br>  「そんなぁ~」<br> ぴしゃりと厳しく言われてしまうが、うなだれてはいられない。今日にそれだけは、絶対に困る。今日は午後から、朔とお菓子作りをする予定なのだから。<br>  「明日バレンタインなのにぃ~…」<br>  「…ばれんたいん、ですか?」<br> 思わず呟いた私の言葉に、青年は不思議そうに小首を傾げる。<br>  「あ…はい。バレンタインはですね、私の世界では女の子が好きな人にお菓子を渡して告白する日…なんですよ」<br> もちろんお菓子は手作りの人が多いですけどね?と笑いかけると、青年は再び小首を傾げ、目を丸くする。いつも落ち着いている青年の可愛らしい仕草に、私はつい笑みを浮か<br> べる。<br>  「つまり、明日がそのばれんたいん…なんですね」<br>  「…はい」<br> なるほど…と呟く青年に、だから今日は明日に備えて朔とお菓子作りをする予定なんですよ~と上目遣いに抗議する。<br>  「だから物を持っちゃだめってなると、困るんです」<br>  「ですが、怪我の治りが遅くなってしまいますよ?」<br>  「う、それは…」<br> まさに正論。青年の言う事は尤もであり、私に反論の余地はなかった。<br>  「望美さん」<br>  「はい?」<br>  「……………やはり君は明日、誰かに想いを告げるのですか…?」<br>  「え?」<br> まさに予想外の言葉。私を射る、何があっても揺らぐ事のない柔らかで優しい色は、いつもとは違い何処か不安そうな光が宿されていた。<br>  「え、と…?」<br>  「…すいません、こんな事を聞いてしまって。また、君を困らせてしまいましたね」<br> 今のは忘れて下さいといつも通りの微笑みを浮かべる青年。そんな横顔に 私は何故か少しだけ、哀しいと感じた。<br>  「――――…にだ…よ?」<br>  「はい?」<br> 振り返る青年。聞こえないと思って小声で呟いた筈だった。少し顔が熱くなるのを感じながら、私は意を決してもう一度だけと、青年に呟く。<br>  「…私は弁慶さんに渡そうと、思ってたんですよ?」<br>  「え…」<br>  「本命は一人だけ、ですから…」<br> かああああああっと、顔が真っ赤になっていくのが分かる。きっと今の私の顔は、茹蛸みたく真っ赤なのだろう。沈黙が堪らず、私は両手で頬を押さえて目を伏せた。<br>  「…望美さん、顔をあげて下さい」<br> 穏やかな声音が、暗い影と共に私に降り注ぐ。ちらりと上目遣い気味に顔をあげると、思ってたより近くに穏やかな微笑みがあった。<br>  「ありがとうございます、望美さん。ですが…」<br>  「はい?」<br> 私が聞き返すと、青年はほんのりと頬を染めて照れたように笑う。<br>  「…僕の為という事ならば、君が物を持たずに怪我を治す事に専念してくれる方が…僕は嬉しいですよ」<br> ね?と同意を促すかのように、私は頭を軽く撫でられる。<br>  「…でも、私は私の想いの証として弁慶さんに渡したいんです」<br> だから今日はお菓子作りをしたい…。そう告げる私を見、青年は再び口を開く。<br>  「…どうしても、ですか?」<br>  「どうしても、です」<br> じっと青年の目を見つめる。負けるものかとばかりに見つめ続けると、ふいに青年が笑みを零す。<br>  「…では、こうしませんか?」<br>  「はい?」<br> 突然の青年の提案に、私は一歩後ろに後ずさる。―――が、<br>  「っっ!!?」<br> 素早く両腕を掴まれ、そのまま柔らかな唇が私のそれへと重ねられる。…一瞬、この世界の時間が止まったような気がした。<br>  「―――…君は僕の一番欲しい物をくれる、という事です」<br> くすりと微笑って、私から唇を放す青年。そのまま私は、へたりと床に座り込んだ。<br>  「~~~~~っっ始めから私に拒否権なんて、ないじゃないですかぁ…」<br> またしても顔を真っ赤にして抗議をするが、青年は穏やかに微笑うばかり。<br>  「………もういいですよ…」<br> 諦めたように溜息をつく私に、青年はすいません、とだけ呟いて私を見つめた。<br>  「…。」<br>  「……………望美さん?」<br> 驚いたかのように目を見開く私を見、青年は怪訝そうに私の顔を覗き込む。<br>  「あ、え えと…なんでもありませんよ」<br> はっと我に返り、慌てて取り繕うが青年は少し意地悪そうな微笑みを見せる。<br>  「そう言われてしまいますと…余計に気になってしまいますね」<br>  「え…えぇっっ!!?」<br> 今度は堂々と顎に手を掛けてくる優しい色に、私の瞳が潤んでくる。<br>  「で、何を考えていたのですか?」<br> にこりと人当たりの良い笑みを浮かべる青年。<br>  「ほっ本当になんでもないんですってば~」<br> 何がなんでも…これだけは彼にも、彼にこそ教えられない。だって…恥ずかしくって言えないよ。<br> <br> <br> <br> ―――…始めて見た貴方の本当の笑顔、あんな嬉しそうな笑顔に見とれてた、なんて絶対に…口が裂けても言えない。<br> </p> <br> <p>あとがきという名の言い訳。</p> <br> <p> 今年あった某バレンタイン企画に出した物です(ぇ)何を今更のノリですがあえて無視の方向で(爆)やっぱりこういう甘いのも書いた後は読み返したくないですねぇ・・・自分の未熟さがよくわかります(涙)つかこれ、いつ書いたんですか綾さん・・・?(再び自問自答/A.随分と前なのでわかりません/爆)</p>
<p> それは穏やかな日差しの降り注ぐ、とある日の事。ぽかぽかと暖かい日差しはとても心地よく、すぐにうとうとしてしまいそうになる。空を見上げれば、雲一つない青空。――<br> まさに快晴。そんなとてもお天気のいい今日は、恋する乙女たちが好きな人に勇気を持って告白する、聖バレンタインデー前日。私も例外ではなく、前もってこの話をしていた朔に手伝ってもらい、お菓子作りをする―――…予定だった。</p> <p> 「これでもう、いいですよ」<br>  「…はい、有難う御座います」<br> ぱたりと閉じられる、薬箱。右手に巻かれた、美しい包帯。私は先程まで剣の稽古をしていたのだが、その時にうっかり手を滑らせ、あろう事か利き手をすっぱりと斬ってしまったのである。…なんて情けないのだろう。バレンタインの前日に剣の稽古をして怪我をしてしまい、挙句の果てには想い人であるこの青年に手当てをしてもらう…なんて。私は今日だけで何度目か知れない、盛大なる溜息をついた。<br>  「剣の稽古もいいですが、もっと気をつけて下さいね」<br> 日の光に透けて光る、柔らかな金。きらきら輝くそれと…穏やかな声。その声音に微量の怒りが含まれているような気がするのは、私の気のせい?<br>  「―――君の怪我の手当てをする度、僕がいつもどんな思いをしているのか…分かりますか?」<br> その瞳に切なげな光を浮かべて私の手をとる青年。そんな青年の様子に、私は思わず目を丸くした。<br>  「弁慶さん?」<br> そっと目を伏せる青年の顔を、私は上目遣い気味に覗き込む。<br> ―ばちり、と…視線がぶつかった。<br></p> <br> <p>  「…とりあえず、しばらくは物を持つのは禁止ですからね」<br>  「はい…」<br></p> <br> <p>…。…あれ?今、なんて言った…?<br></p> <br> <p>束の間、私の思考が停止する。<br></p> <br> <p> 1秒… 2秒… 3秒…<br></p> <br> <p>  「……………………………………ってえぇえぇぇええぇえぇえぇっっ!!?!??!!??!!?」<br> <br></p> <br> <p>絶叫。<br></p> <br> <p><br> きっかり3秒の思考停止の後、耳を塞ぎたくなるような大絶叫。きっと屋敷中に響き渡っただろう。叫び声―というより、むしろ悲鳴に近かったが。<br>  「当たり前です。傷が浅かったとはいえ、怪我は怪我です。早く治りたいのなら…しばらくは物を持つのはだめですよ」<br>  「そんなぁ~」<br> ぴしゃりと厳しく言われてしまうが、うなだれてはいられない。今日にそれだけは、絶対に困る。今日は午後から、朔とお菓子作りをする予定なのだから。<br>  「明日バレンタインなのにぃ~…」<br>  「…ばれんたいん、ですか?」<br> 思わず呟いた私の言葉に、青年は不思議そうに小首を傾げる。<br>  「あ…はい。バレンタインはですね、私の世界では女の子が好きな人にお菓子を渡して告白する日…なんですよ」<br> もちろんお菓子は手作りの人が多いですけどね?と笑いかけると、青年は再び小首を傾げ、目を丸くする。いつも落ち着いている青年の可愛らしい仕草に、私はつい笑みを浮か<br> べる。<br>  「つまり、明日がそのばれんたいん…なんですね」<br>  「…はい」<br> なるほど…と呟く青年に、だから今日は明日に備えて朔とお菓子作りをする予定なんですよ~と上目遣いに抗議する。<br>  「だから物を持っちゃだめってなると、困るんです」<br>  「ですが、怪我の治りが遅くなってしまいますよ?」<br>  「う、それは…」<br> まさに正論。青年の言う事は尤もであり、私に反論の余地はなかった。<br>  「望美さん」<br>  「はい?」<br>  「……………やはり君は明日、誰かに想いを告げるのですか…?」<br>  「え?」<br> まさに予想外の言葉。私を射る、何があっても揺らぐ事のない柔らかで優しい色は、いつもとは違い何処か不安そうな光が宿されていた。<br>  「え、と…?」<br>  「…すいません、こんな事を聞いてしまって。また、君を困らせてしまいましたね」<br> 今のは忘れて下さいといつも通りの微笑みを浮かべる青年。そんな横顔に 私は何故か少しだけ、哀しいと感じた。<br>  「――――…にだ…よ?」<br>  「はい?」<br> 振り返る青年。聞こえないと思って小声で呟いた筈だった。少し顔が熱くなるのを感じながら、私は意を決してもう一度だけと、青年に呟く。<br>  「…私は弁慶さんに渡そうと、思ってたんですよ?」<br>  「え…」<br>  「本命は一人だけ、ですから…」<br> かああああああっと、顔が真っ赤になっていくのが分かる。きっと今の私の顔は、茹蛸みたく真っ赤なのだろう。沈黙が堪らず、私は両手で頬を押さえて目を伏せた。<br>  「…望美さん、顔をあげて下さい」<br> 穏やかな声音が、暗い影と共に私に降り注ぐ。ちらりと上目遣い気味に顔をあげると、思ってたより近くに穏やかな微笑みがあった。<br>  「ありがとうございます、望美さん。ですが…」<br>  「はい?」<br> 私が聞き返すと、青年はほんのりと頬を染めて照れたように笑う。<br>  「…僕の為という事ならば、君が物を持たずに怪我を治す事に専念してくれる方が…僕は嬉しいですよ」<br> ね?と同意を促すかのように、私は頭を軽く撫でられる。<br>  「…でも、私は私の想いの証として弁慶さんに渡したいんです」<br> だから今日はお菓子作りをしたい…。そう告げる私を見、青年は再び口を開く。<br>  「…どうしても、ですか?」<br>  「どうしても、です」<br> じっと青年の目を見つめる。負けるものかとばかりに見つめ続けると、ふいに青年が笑みを零す。<br>  「…では、こうしませんか?」<br>  「はい?」<br> 突然の青年の提案に、私は一歩後ろに後ずさる。―――が、<br>  「っっ!!?」<br> 素早く両腕を掴まれ、そのまま柔らかな唇が私のそれへと重ねられる。…一瞬、この世界の時間が止まったような気がした。<br>  「―――…君は僕の一番欲しい物をくれる、という事です」<br> くすりと微笑って、私から唇を放す青年。そのまま私は、へたりと床に座り込んだ。<br>  「~~~~~っっ始めから私に拒否権なんて、ないじゃないですかぁ…」<br> またしても顔を真っ赤にして抗議をするが、青年は穏やかに微笑うばかり。<br>  「………もういいですよ…」<br> 諦めたように溜息をつく私に、青年はすいません、とだけ呟いて私を見つめた。<br>  「…。」<br>  「……………望美さん?」<br> 驚いたかのように目を見開く私を見、青年は怪訝そうに私の顔を覗き込む。<br>  「あ、え えと…なんでもありませんよ」<br> はっと我に返り、慌てて取り繕うが青年は少し意地悪そうな微笑みを見せる。<br>  「そう言われてしまいますと…余計に気になってしまいますね」<br>  「え…えぇっっ!!?」<br> 今度は堂々と顎に手を掛けてくる優しい色に、私の瞳が潤んでくる。<br>  「で、何を考えていたのですか?」<br> にこりと人当たりの良い笑みを浮かべる青年。<br>  「ほっ本当になんでもないんですってば~」<br> 何がなんでも…これだけは彼にも、彼にこそ教えられない。だって…恥ずかしくって言えないよ。<br> <br> <br> <br> ―――…始めて見た貴方の本当の笑顔、あんな嬉しそうな笑顔に見とれてた、なんて絶対に…口が裂けても言えない。<br> </p> <br> <p>あとがきという名の言い訳。</p> <br> <p> 今年あった某バレンタイン企画に出した物です(ぇ)何を今更のノリですがあえて無視の方向で(爆)やっぱりこういう甘いのも書いた後は読み返したくないですねぇ・・・自分の未熟さがよくわかります(涙)つかこれ、いつ書いたんですか綾さん・・・?(再び自問自答/A.随分と前なのでわかりません/爆)</p>

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