その他SS

最終更新:

匿名ユーザー

- view
だれでも歓迎! 編集

その他SS




プロローグ



異端者として迫害されている魔人たちの怨嗟の声が、ついに二派のレジスタンスとして国家権力への反乱となった!
各レジスタンスリーダーの小竹と叛魔は、学生時代に反目しあった仲。
それぞれ異なる思想と主張を持つが、どちらも腹に一物もった人物である。
国会議事堂に突入したレジスタンスを迎え撃つのは、時の総理大臣松平健三。
ただの人間ながら対魔人ロボ「TA-35RG」に単身搭乗して、制圧に乗り出すぞ。
いま、三つ巴の戦いが始まる――……!


松平健三登場



「母上、本日第95代内閣総理大臣を賜りました。徳川幕府再興への第一歩となる記念すべき日です。」
「・・・・・・。」
「政権を朝廷に譲り渡してからというもの・・・、我が徳川家の日本は弱体化一途をたどっております。」
「非常に嘆かわしい。」
「・・・・・・。」
「しかし、私が一国の長となったからには封建制度にのっとったシステムを確立させ、国民を管理していくことを誓います。」
「・・・・・・。」

他人が見れば奇妙な光景だろう。
松平健三は正座をし、頭を下げながら、“人形”に向かって話しているのだ。
白無垢を纏った1.5mほどの和人形である。

しかし、松平にとって忘れてはならない重要な儀式であった。
朝、一日の誓いをたて、晩にその報告を行う。


松平の先祖、徳川家康は人間の身でありながら魔人たちが群雄割拠する戦国時代を勝ち抜いた人物である。
また、江戸時代はそのまま魔人弾圧の歴史でもある。
魔人の大名家は即取り潰しにあい、当時最凶の魔人である天草四郎時貞が起こした島原の乱への鎮圧は熾烈を極めた。
他にも数々の魔人たちが秘密裏に処刑されている。

後日、松平が提出する予定である「魔人再生法案」が徳川幕府の方針と関連性があるかは不明である。
だが、内閣総理大臣となった松平の方針は明確だ。

  • 徳川家を中心とした封建社会の確立(将軍職就任後、徳川姓へ改名予定)
  • 海外と渡り合える軍事力の保持(武士階級の復活)

松平は考える“一人の権力者と優秀な官僚がいれば、この国は正しく動く”と
そして、“そのシステム作りのためには強引さと犠牲は必要だ”と

松平にとっても、容易な道のりではないだろう。
だが、自ら死地に向かう覚悟はできている。

「母上・・・。」


松平健三出撃



「総理、ご無事で・・・。」
生き残った衛兵が駆け寄る。
「うむ。」
冷静だ。奇妙なほど冷静だ。
いや、いやしくも一国の長である。取り乱すことなどあってはならないのだ。
しかし、この10分にも満たない間に国会議員全員と閣僚の半分以上を殺されたのだ。
ここまで冷静に振舞えるものなのか・・?

「状況は?」
「はっ・・。」
松平と秘書の冷めた会話は続いている。
「で、例のものの到着時刻は?」
「予定では、2時間後に上空へ現れるはずです。」
不自然なほど、そこだけ温度が低い。

生き残った閣僚達は歩き回ったり、建物内の地図を広げて逃げ道を探したりしている。
全力で生き残るために必死だ。こっちの方がよっぽど人間らしい。

「皆さん!!あなた方大臣はこの国の代表であることをお忘れなく。有事の際には、それ相応の覚悟があるべきだと考えています。今からそれを問いたい!!」
いつの間にか松平は鎧兜を装着していた。
「な・・・、覚悟?」
「何を言っているんだ!元はといえば、総理、あんたがあんな法案を無理やり通すから・・!!」
「それに何だ?その格好は!ふざけてるのか!!!」
閣僚達の怒りの矛先が松平に向かう。
だが、松平は冷静なままだ。
「私は、ふざけてなどいません。すでに覚悟を決めています。」
「この国と共に滅び、この国と共に生きる覚悟を・・。」

「あれを・・。」
秘書がリモコンを操作するとTA-35RGが床下から現れる。
総理専用機としてカスタマイズされた特別機だ。
「松平家にとって200年振りの戦だな。」
「御武運を・・。」
「ふん、たった2時間だ。心配はいらない。」
時間を稼ぎクーデターを長引かせた後、シェルター内へ逃げ込めばいい。

そう・・タイムリミットは2時間。
すでに防空識別機能は停止させている。
西の大陸からの爆撃機が上空に現れるまで、あと少しだ。

松平は全て知っていた。
いや、全て松平の手のひらの上で踊らされていたのだ。
クーデター鎮圧が目的とはいえ、他国から爆撃を受けるのだ。
軍隊を持つことに消極的な国民の目を覚まさせるには調度いい。

松平にとって、魔人再生法案などどうでもいい存在だ。
「自衛隊の国軍化」を自分の代で達成させるための手段でしかない。
永田町が灰になろうといとわなかった。
ただ、都合の悪いことを押し付けられる者達が必要だった。

計算通りに動いてくれた範馬慎太郎や小竹に感謝しつつ、松平健三は出撃する。


愛國者



昔から、この國にはこの國のことを愛してやまない人々がいた。
あの時から、あの敗戦からずっと機会をうかがっていた。
地に隠れ、闇にまぎれ、日本中に根を生やし、暗躍してきた。
彼らは常に思っていた。あの戦争まではよかった。強くたくましい日本が作れた。ホシガリマセンカツマデハ、アメリカジンヲブチコロセ、ススメイチオクヒノタマダ、ススメススメススメススメ……
そう、あの敗戦まではよかった。強くたくましい日本男児、志の高い若人が溢れていた、しかし、あの時全てが変わってしまった。今ではもう見る影もない。軟弱な男、夢のない人々。
あの頃はよかった。
そう、これは全ては國が弱いせいだ。この國が軍隊を持たぬせいだ。軍國でない為だ。
あの時、敗戦直前、諦めずに次の一手に出ていたのが功を奏した。
あの時の力強い日本はすぐ近くに来ている。トリモドセル、アノコロのタイセツナモノを。
大切な強い強い日本を。

松平健三は神輿だ。新しい強い日本のための礎なのだ。誰がどこにどう関わっているかもわからない。
大きな流れの中で立てられた愚かなただの人柱。


範馬慎太郎



防衛大学校
陸上、海上、航空、各自衛隊の幹部自衛官を教育する防衛省の施設・機関
ここを卒業したものは、曹長に任命され幹部自衛官の道を進むことになる。
全寮制であり、約1500人の学生と50人の魔人学生が生活している。

その魔人学生の中でトップに君臨しているのが、通称「金の鹿」と呼ばれる女性である。
3年生であり、高校時代アイドルグループに所属していた経歴を持つ。
誰でもその名を聞けば分かる。範馬慎太郎もその顔立ちは知っていた。

範馬慎太郎は希望崎学園卒業後、防衛大学校に入学している。
目的はただ1つ、この大学の魔人たちを掌握し、手駒として手に入れるためだ。

トップを獲るのは簡単だ。
毎週金曜日の夜、金の鹿は希望者全員とタイマンをする。
それに勝てさえすればいい。
ただ、約2年間トップは交代していないらしいが・・。

第一週目、範馬は見学することにした。
敵の情報を知ることが大切だ。闇雲に戦っても意味がない。
自分には明確な目的があるのだ。

金の鹿は眼帯をし、皮製のチューブトップ、ホットパンツを着用している。
武器らしきものは持っていない。
今回は20人ほど参加者がいるようだ。新入生が多い。
余裕と期待が入り混じった顔だ。
勝てば元アイドルの金の鹿を、文字通り“好きにしていい”のだから。

金の鹿「じゃあ、始めるよぉ~。ん~、今日は面倒だから全員でかかってきなよぉ。」
言うやいなや、金の鹿の姿が消える。聞こえるのは人が倒れる音のみだ。
3秒も経ってないだろう・・。
20人の魔人全員が倒されていた。悲鳴すらあげる余裕もなかった。

あっけにとられているギャラリーを尻目に、さっさと用意を整え寮に帰宅してしまった。

彼女の能力名は「クロックアップ」
自分の脳を80倍に高速回転させることができる。
その結果、彼女の時間感覚は研ぎ澄まされ、ゆっくり流れることになる。
1秒間が彼女の中では80秒に感じられている。
後はひたすら筋力を鍛え、その時間感覚に耐えうる肉体を作り上げることでこの能力は完成した。
今回もクロックアップをしながら、殺さないように加減をし、空手チョップを順番にしていっただけである。
攻撃力自体は普通であるが、速度が通常の80倍だ。
いつも彼女は力加減に苦労している。

“鹿”の下に“金”を合わせると“鏖(みなごろし)”となる。


【小竹の動機】



 小竹は焦っていた。

 押し寄せるオール電化の波。 このままでは、この国からガス栓は消滅する。
 ガス栓のない未来などに、なんの価値があろうか?

 作戦決行の前日、希望崎学園内の薄暗い一室で、傍らに控える副官に向かって、小竹はそう説いた。
 黒いヴェールに身を包んでいるため、副官の表情をうかがい知ることはできない。
 『彼』 なのか『彼女』 なのかも分からない。 副官が訊ねた。

「では…小竹様の野望とは…」
「無論、この国にガス栓が必要だという事、その認識を全国民にあまねく広めることだ」

 小竹は遮光カーテンに指をかけ、外の様子を窓から眺めていた。
 希望崎学園そのものは、未だ世間のオール電化の波から守られている。
 変わらない、そんな母校が彼は好きだった。

「君も、私が“第三次ダンゲロス・ハルマゲドン”で生徒会を率いていたことは知っていよう」
「…は」
「あの戦いは、そもそも個人的な動機から始まっていてね…」

 小竹は目を細めて、当時のことを思い出した。 忘れえぬ、黒い記憶が蘇る。

 小竹が魔人として覚醒したのは、幼稚園に上がる少し前のことだったが、能力そのものが完璧に“固着”したのは、高校3年時のことである。 それまで茫洋として形を成さなかったそれが、“フジシロ”という爆弾魔の能力を目撃、能力が完全に目覚めた。 ガス栓をひねることによる、フィールド十字爆破能力。 小竹はこの能力こそが、自分の天分だと確信していた。
 しかし、夏休みを直前に控えたある日、悲劇が起こる。 自宅をリフォームし、オール電化にするというのである。 小竹家のリビングで、テーブルを叩く音が空しく響いた。
「考え直してくれ、父さん! ガス栓のない家なんて、それは家じゃない!」
 悲鳴のような懇願が響き渡る。 激昂する息子に、父親は案ずるような視線を投げ掛けて言った。
「お前はなにを言っているんだ。 ガス栓がなくても、家は家だよ」
「…大人ってやつはいつもそうだ! 何も分かっちゃくれない! 僕がどうして生徒会長になったと思ってるんだ!」
「お前が生徒会長になったことと、ウチがオール電化になることに何かの関係が…?」
「そんなものあるわけないだろう!」
「…」
「もういい! 父さんには頼まない!」

 その後、母さんにも頼んだが無駄だった小竹は、ついに決心したのである。

「家でガス栓をひねることが許されないのなら…学校でひねるまでだ…!」

 リフォームを明日に控えた深夜の小竹家、灯りの消えたキッチンで、小竹はガス栓の開閉を繰り返した。
 ここに、小竹生徒会長のダンゲロス・ハルマゲドン開戦の決意は成ったのである。

「…では、小竹様がハルマゲドンに意欲を燃やされた理由というのは…」
「ガス栓をひねるため、全てはそのためだった。 …しかし力及ばず、僕はガス栓をひねることはできなかったよ…」
 小竹は寂しげに微笑む。 副官が目を伏せた。
「…心中、お察し致します」
「あの敗北以来、地に伏して力を蓄えてきたのは、全てこの日のため…最早、一刻の猶予もない」
 カーテンから手を離し、振り返って高らかに言った。
「来年になれば、国会議事堂までもがオール電化になってしまう…その前に! 彼の地のガス栓を、僕はひねってみせる!」
 副官は、嗚咽をこらえるような声音で、首肯する。
「及ばずながら…私も小竹様のお力になりましょう…」
 小竹の議事堂制圧の真の目的。 それは、議事堂の給湯室において、ガス栓をひねることにあったのである。

 決行を明日に控え、召集された小竹の私兵たちは、2人のいる部屋の扉の前で、その会話に聞き耳を立てていた。
 誰ともなく、言った。

「…作戦ブッチして帰らねえ?」


【小竹の因縁】



ぽぽグループ系列ファミリーレストラン「ロイアル ハスタァ」
正社員採用試験

面接官「特技はガス爆発とありますが?」
小竹 「はい。ガス爆発です。」
面接官「ガス爆発とは何のことですか?」
小竹 「特殊能力です。」
面接官「え、特殊能力?」
小竹 「はい。特殊能力です。敵全員に大ダメージを与えます。」
面接官「・・・で、そのガス爆発は当社において働くうえで何のメリットがあるとお考えですか?」
小竹 「はい。敵が襲って来ても守れます。」
面接官「いや、当社には襲ってくるような輩はいません。それに人に危害を加えるのは犯罪ですよね。」
小竹 「でも、警察にも勝てますよ。」
面接官「いや、勝つとかそういう問題じゃなくてですね・・・」
小竹 「敵全員に10与えるんですよ。」
面接官「ふざけないでください。それに10って何ですか。だいたい・・・」
小竹 「10ダメージです。体力ダメとも書きます。体力というのは・・・」
面接官「聞いてません。帰って下さい。」
小竹 「あれあれ?怒らせていいんですか?使いますよ。ガス爆発。」
面接官「いいですよ。使って下さい。ガス爆発とやらを。それで満足したら帰って下さい。」
小竹 「運がよかったな。まだ殴られてないみたいだ。」
面接官「帰れよ。」

「TIPS」
CM
名状しがたきレストラン「ロイアル ハスタァ」は ぽぽ=グループ系列ファミリーレストランです
オリジナルドリンク「黄金の蜂蜜酒」が大人気!!
ぜひご賞味下さい


長谷部浩明



2014年4月25日 都内某所

一体、私は何を間違えたんだろうか。何故、こんなことになってしまったんだろうか。
希望崎学園元数学教師、長谷部浩明は明るい日差しの下、公園の片隅でひざを抱えながらいくら考えても答えの出ないことを、彼にはもう何もやることがなかったのでいつものようにぼんやりと澄み切った青い空を眺めながら考えていた。
……そう、あの戦いの直後までは良かったのだ。私は生徒を意のままに操り、ろくでなしどもを殺し合わせ、希望崎のあるべきバランスを保ったのだ。素晴らしい仕事だった。あのことを思い出すと笑みが絶えない。私は学園のことも思い、最もためになる働きをした。それなのに気がついたら私は退任していた。自分で考えていてわけがわからない。なぜ愛校心あふれる私があんな目に合ったんだ。
確かにアテが外れたことはあった。小竹が裏で糸を引いていた新生徒会が上手く学園を統治しだしたのだ。私はみるみるうちに学園の実験を掌握していく様に愕然とし、憎憎しく思った。そして、あの時の、あの戦いで滅びた番長グループと同じ目にあわせてやろうと思った。その矢先、私は解雇された。そして、あれよあれよという間に家族に逃げられ、あらゆる財産は差し押さえられた。もう、何もない。何も残されていない。
私の後任はスズハラ機関の息のかかった人間らしかった。龍閃獅を上手く始末して彼らの力が及ばぬようにしたはずだったのに。どうも、私は裏切られたらしい。しかし、それはいったいいつのことなのだろう。灯が、ヤツが私を見限ったのだろうとずっとそう考えていた。ヤツはナチどもから遣わされたエージェントなんだと。不要になった私を奈落の底に叩き落したんだと。でも、たぶんそれは違う。最近は不思議とそう思うようになってきた。その代わり今はこう思っている。もう、ずっとずっと前からここは全てはおかしかったのだと。全てが出来すぎているのだ、ナチどもはあまりに上手く関西を襲撃し、制圧した。そして、ナチどもとつながりのある小竹は私と私の愛する学園も支配した。私から全てを奪った。あまりに手際が良すぎる。どこかで誰かが手を引いてるとしか思えない。それは遠い昔から仕組まれていたに違いない。七年前、防衛庁は防衛省となった。その頃から国民の経済格差が広がった。働く気のない若者はくいっぱぐれ、きっと戦いに出る。七十年も前に滅びた軍国主義の再来だ。それはすぐそこまで迫ってきている。私にはわかる。常に荒み争いの火が消えなかった希望崎を愛する私にはわかるのだ。そして、きっとそんな馬鹿げたことをしでかすのは、それこそこの国を愛するがために動いていると思っているバカな連中がしでかしているに違いない。
「おーい、べっさーん。炊き出し始まるからよー早くきなー」
ホームレス仲間から呼ばれ長谷部は考えを打ち切った。
「あ、ああ。すぐに行くよ」
今日も楽しい食事の時間だ。一体何が食べれるだろう。


国会議事堂



闇が覆う議事堂に、議長の声だけが響き渡る。
「審議を行います」
「賛成1。反対0」
「可決」
「審議を行います」
「賛成1。反対0」
「可決」
ただその言葉だけを繰り返す議長の声。その声に抑揚は無く、感情は存在しない。
いつものように議事堂で声を上げる議員も、居眠りする議員もいない。
生き残った官僚達は既にその身を守る為に安全な場所へと避難している。
文字通り傀儡となっている議長の機械音だけが、いつまでも議会に木霊していた―――。


TA-35RG



“ふん・・。馬鹿なヤツだ。人間がたった一人で俺たちに立ち向かおうなんて。”

松平はもう・・いない。
この強固なロボットの外に出てしまったが最後、か弱き人間が生き残れる術はないのだ。
ただ、“松平専用機”であるTA-35RGが静かに残されているのみである。

しかし、そこにはまだ意思が残っていた。
“まだ、動ける・・”と
ただの機械である。もちろん人工知能など組み込まれていない。
だが、確かに強烈な意思表示をしていた。

魔人が一人近づく・・。
おそらくティアフルを用いて敵を殲滅するつもりだろう。
側面に立ち、鋼鉄の装甲に触れようとしたとき・・・。

自動的に扉が開く・・・招き入れるように・・。
正面のライトが点灯し、モーターが起動していく音がする。

コックピットに乗り込むと、目の前の画面にメッセージが現れた。
“このTA-35RGの操作を行うにはヘルメットのご着用が必須となります。このヘルメットは特殊なセンサーが内蔵されており、思考回路を読み取ることで自動的に動くため、どなたでも快適に運転することができます。どうぞ右上にありますヘルメットをご着用下さい”

時代劇の役者が付けるカツラのようなデザインがされたヘルメットがあった。

少し離れたところにいる敵を睨むと口を歪め、ヘルメットをかぶる・・。

“勝った・・。”
きっと、この魔人はこう思ったに違いない。

        • だが

“グサッ・・・”
「ぐぅ・・あ・・あぁ・・。」
激痛が走る。
頭部に何か刺さったようだ。

手足をバタつかせるが、ヘルメットはとれない。

“バリッ・・。バリバリバリッ!!!”
「があぁあアアぁ・・・!!
高圧の電流をヘルメットから流され声にならない悲鳴をあげる。
だが、それも少しの間だけ・・すぐに魔人は気を失った。


“脳神経系機能チェック・・異常なし、内臓機能チェック・・異常なし、筋肉・骨格・・”
“全ての身体機能は正常です。松平様、目を開けてください。”

魔人は目を開ける。いや、魔人になった元人間という言い方が的を射ているだろう。
TA-35RGにインプットしてあった松平健三の全てのデータは正常に魔人の脳にダウンロードされた。

「くくく・・・。これが魔人の体か!!素晴らしいパワーだ。」
松平は魔人の身体を奪い、見事に進化を遂げた。

権力、知力に加え、魔人の身体という暴力まで手に入れた松平にもう死角はない。


松平健三



(出産後、和平が行われた後)

古来、中国では王者が善政を行うと、瑞祥として天が甘露の雨を降らすという言い伝えがある。
折しも、松平が「魔人再生法案」の撤回と終戦を決意したとき、国会周辺は雷鳴とともに大粒の雨に包まれていた。

魔人たちが集まっている分娩室の中心には木蔭サツキとその赤ん坊がいた。
その場の全員が新たな生命の誕生を祝福し、喜んでいた。

松平は思わず大臣室を飛び出し、その輪の中心へ向かった。
松母親の大きな愛情に包まれている赤ん坊に自分を重ね合わせていたのだ。

温かかったお母さん、優しかったお母さん、私の全てだったお母さん・・・。

「は、母上・・。」
秘書の制止を振り切り、無防備な体で一歩ずつ進んでいく。
ふらつきながら・・それでも、暖かな光に向かって


“バスッ”

松平の背後より物音がする。
振り向くと、そこにはTA-35RGが存在していた。松平専用機そのものである。
人を殺める武器は付いていないはずだが・・、片腕には銃口のような武器が備え付けられていた。

“ガギィ・・、バゴッ! メギ・・。”

TA-35RGの外側の装甲が剥がれ落ちる。
ティアフルの核となる物質も何もかも無残に捨てられていく・・。

残ったのは、女性の顔を持った1mほどのロボットだった。

「母上!!」

和人形は微笑みを絶やさず静かに銃口を松平へ向けた。
いや、松平ではない・・。その後ろにいる赤ん坊へ向けているのだ。

「ど、どうしてなのです?・・母上。」

和人形は微笑んだままだ。

“パンッ”

乾いた音とともに松平健三は崩れ落ちる。

和人形はもう一度赤ん坊へ照準を合わせようとしていた。
そして、背後には4体の黒い影が浮かんでいた。

タグ:

+ タグ編集
  • タグ:

このサイトはreCAPTCHAによって保護されており、Googleの プライバシーポリシー利用規約 が適用されます。

記事メニュー
目安箱バナー