ささきさんからのお題が「つ」ということで、次はあれがくるだろうと予想していた方、期待を裏切ってすみません。ほんとのことを言うと、結構迷ったのですが、あえて今回は別の作者の本を選んで見ました。
この新潮文庫版の「つめたいよるに」には、短編集「つめたいよるに」と「温かなお皿」の二つがあわせて収録されています。
文庫で200ページほど、その中に21篇もの短編が収められているわけですから、1話あたりは10ページ足らずということになります。どの話も淡々としていて、特に起伏や印象的ば場面があるわけではないけれど、読み終わったあとに、ああいい話を読んだなあ、という気持ちになれます。
特に「桃子」「夜の子どもたち」「スイート・ラバーズ」「藤島さんが来る日」「冬の日、防衛庁にて」「とくべつな早朝」は秀逸です(好みの傾向がわかりやすいな、これじゃ)
作家をけなすには「以前の作品はよかった」と一言言えばすむ、というような内容のエッセイが彼女の作品にあったと記憶していますが、それでも、あえて言うならば江國香織の初期作品はほんとうにすごい。恋愛を描いているのにべたべたしたところが全然ない、ちょっと変わった設定なはずなのに、登場人物の気持ちにぴったり感情移入して読んでしまう、何度読んでも泣きたくなる…。
いつのまにか、賞を取ったりなんだりで、すっかり売れっ子作家になってしまいましたが、前評判だけで食わず嫌いになっているようなら、是非初期作品を手にとってみてください。
オススメは「きらきらひかる」と「流しの下の骨」、あと今回選んだ「つめたいよるに」でしょうか(他のも、もちろんよいのですが)