えーお前の一両日中は一体何日間のことを言うんだ? んん? なんにちかんのことをいうんだ!?(本当に申し訳ない)
今回はさすがに講談社ノベルスの呪縛から逃れることが出来た(拍手!) だがしかしメフィスト賞作家である(やっぱり好きでやってるのか?)。
本作は人間の五感のどれか一つが突出したらというテーマで描かれる「五感シリーズ」の一冊であり、日本推理作家協会賞も受賞した筆者の代表的作品である。この『石の中の蜘蛛』で描かれているのは「聴覚」。
新しい部屋を決めた日に轢逃げに遭った主人公。彼はそれがきっかけで聴覚が異常発達し、音の可視化までが可能となってしまった。しかも病院で頭蓋骨に穴を開ける実験(報酬70万)を受けたことで第六感が覚醒、最近では菌まで見えるとか見えないとか。
彼は、失踪したという前の住人の女性が部屋に残した「音の記憶」を手繰り、彼女を探し始める。なぜ自分が殺されそうになったのかを知るために。
暗く重い肌触りの筆致で描かれるハードボイルドとファンタジーの融合。読み始め間もなくは、あのアバンギャルドなデビュー作と同じ書き手とは、にわかには信じられないかもしれない。だが、主人公が目にする「音」の表現には紛れもなく浅暮三文という作家が持つ独特のリズムを刻む感性が存在する。この「音」の描き方は非常に秀逸であり、本作の最大の魅力となっている。
どちらかと言えば、通好みする筆者の作品。ミステリ読みじゃなければ、なかなか手が伸びないかと思う(あと、結構大きな書店じゃないと在庫が無い!)。しかし、さまざまなベクトルの作品を意欲的に生み出している作家であるので、興味のある内容の作品があれば、是非とも手にとってほしい。それがきっかけであなたがグレ先生の虜になったらば、非常に幸いである。