あちゃぞうさんから「ち」で回ってきた時に、最初に読もうとしたのは『チーム・バチスタの栄光』だった。第4回このミステリーがすごい大賞受賞作だ。ただ、この作品の刊行は1/21。お題が回ってきた時点では出ていない。1/23の感想アップには十分時間があるものの、次走者の橋立さんへのお題メール締め切りはとうに過ぎている。困った。ああ困った。
とりあえずルールを見る。「未刊行のお題はふっちゃ駄目! もーぷんぷん!」とは書いていないのでルール的には問題ないようだ。(よんしば書いてあったとしても、僕の知る限りでだが、本条さんはさとう珠緒ではないはずなので「ぷんぷん!」とは書かないだろう)。
では、こうしたらどうだろうか? 橋立さんには『チーム・バチスタの栄光』とともに同じ「ち」で始まり「う」で終わる別作品を保険として伝えておく。そして万が一感想アップ当日までに『チーム・バチスタの栄光』の感想が駄目だった場合に、保険の方の作品の感想を書くのだ。
ただこれには非常に重大な欠点がある。橋立さんが「ち」で終わる作品を選んだ場合に、次の走者の方が僕の作品と被ってしまう可能性が出てくるのだ。確かに「う」で始まり、「ち」で終わる作品を橋立さんが選ぶ確率はそれほど高くないだろう。だがしかし、ある朝、橋立さんがなにか気掛かりな夢から眼をさますと、自分が寝床の中で一人の旅情ミステリ好きに変わっているのを発見し、『喪われた道』(内田康夫)を課題本に選ばないなんて、どうして言い切れようか?
やはり、他の走者の方にご迷惑をかけるのは本意ではないので、保険本として考えていた2冊のうちから、東野圭吾の『超・殺人事件 -推理作家の苦悩-』を選ぶことにした。
この作品に辿り着くまでには、このような"リレー走者の苦悩"があったのである。(うまいこと言った)(うまくねぇよ)。
結果からいうと、みなさんご存知の通り、実にタイムリーな作家を選んだことになる。なにせ出来立てほやほやの直木賞作家なのだから。
お題を回す時点では受賞作の発表はされていおらず、またも不当な落選をさせた直木賞(というか菊治の中の人)をぶった斬りつつ、感想を書くつもりであった。それがいい方向に裏切られ、『容疑者Xの献身』が見事受賞。ミステリに厳しい直木賞において、純然たる本格ミステリ(本格か否かの議論については、ここでは捨て置くにする to 二階堂氏)が選ばれたという点では非常に大きな意味を持つ受賞であったと思う。
さて。いい加減、本の感想に入らないと。
本書は筆者一流のアイロニーに満ちたユーモアで自身が身を置くミステリ界を描いた傑作短編集である。各話を額面のまま受け取っても十分楽しめるが、行間に隠された裏の意図を想像(あくまで想像)することで、その楽しみが何倍にも膨れ上がること請け合いである。
とりわけメタ要素を巧みに使った「超理系殺人事件」や、書評や感想を書く人には身につまされる「超読書機械殺人事件」あたりは特に読み応えがある。
しかし、ミステリ読み限定でいうならば、「超長編小説殺人事件」が最も楽しんで読めるのではないだろうか。当然穿った読み方ではあるが、自身のサイト上を中心に方々へ怪電波を飛ばしているあの作家に対しての強烈な皮肉と(勝手に捉えて)読むと、もうニヤニヤがとまらない。あの第三部はいらないと東野も思っているのだろう。
あの方の電波はこれからも止まらないだろうが、東野との絡みを考えると今が最も旬であると思うので、未読のミステリ読みは是非とも読んで欲しい。既読の方には再読を薦める(直木賞絡みでいうなら、「黒笑小説」の「大いなる助走」あたりだろうか)。
東野がさまざまな引き出しを持った作家だということを、あらためて認識させられた作品。今回の直木賞受賞で東野特集を組む書店が多いと思うので、これを機会に彼の作品に対しての読みを深めてみてはいかがだろうか?
初回にして半分以上無駄な感想を書いてしまった。先が思いやられるが、みなさんに置かれては(生)温かい目で見舞っていただければ幸甚である。というわけで、橋立さん、次は「う」でどうかひとつ。