「三毛猫ホームズ」になるとは思わなかったが、赤川次郎は複雑な思いとともに一度取りあげようと思っていた作家です。好きな作家、と聞かれて迷わず挙げることができた小学生~中学生時代の頃から、「うーん」と思い始めて読まなくなった高校生まで、それでも杉原爽香シリーズは結構追いかけていたりした。
単純に赤川次郎=読みやすくてさっくりと楽しめるライトミステリ、という感覚で初期作品を読むと意外なほど内容の重さと濃さに驚くかもしれない。いや、バカミスみたいなトリックや、漫画みたいなキャラ設定やエピソードもあるんですが、やっぱり天童真と同じ時代性だろうか。簡単に意味無く男女は寝るし、売春だのお見合いだの(この辺は赤川次郎だ)が「三毛猫ホームズの推理」でも登場するわけだが、やはりこの作品、あるいはシリーズの最大の特徴はホームズであろう。
うん、タイトル通りホームズは猫なわけで、人間の言葉は理解できるけど話せない探偵役で、それを翻訳するのがワトソン役にして主人公の刑事片山という構造をつくりあげてしまった。単純にこの構成を思いつくだけでなく、売り上げもものすごく良かったため、逆に猫が主人公となるミステリは今でも新規に登場しないのではないか、というのはよそ道か。
佳作、という表現が一番今となってはしっくり来るけれど、氏の初期作品は基本的にはずれがなく楽しめるので、有名すぎて手に取ったことがない、という向きには一度手に取ってみる価値はあると思います。スリル感のある「マリオネットの罠」から冒険ものの「ビッグボートα」まで守備範囲は幅広く、どれもジャンル全体から見渡すと今となっては「傑作」ではないけれど楽しめる可能性は高い。
意外かどうかは分からないが、赤川次郎は「三毛猫ホームズの音楽ノート」を初めとするエッセイや他の人の作品の解説が結構面白い。一番印象的だったのは新井素子の文庫において、「世の中には天才という言葉がはびこっているが、僕が誰かを天才だと賭けるなら新井素子に賭ける」という表現をしたことで、これは綺麗な表現だな、と思う。
うん、その新井素子を愛するifさん、「り」で次ぎをお願いする下り。