宮部みゆきの凄さをいまさら語っても仕方が無いのだが、やはりこういうさらりとしながらも素晴らしい短編を見せられると、その実力の高さを痛感させられる。深い人間描写を絶妙の語り口が淀みなく流す。希代のストーリーテラーだなぁ。
本作ではカードローンを題材にした作品が複数あり、「火車」に繋がる部分を垣間見ることが出来、宮部作品の"ステップ"の部分を楽しむことも出来、「ドルネシアにようこそ」も都会生活にすこし疲れた若者を描いたちょっといい話になっており趣が深い。「聞こえていますか」もちょっと小学生頭良すぎなところはあるが、いろいろ考えさせられる作品となっている。
だが本作で一篇を挙げるとするならば、表題作である「返事はいらない」以外にはない。
短編のお手本のようなシンプルかつ鋭い切れ味の作品に仕上がっている。タイトルに持たせた意味と、それを存分に活かしたラストは絶妙。
筆者は本作で二度目の直木賞候補になっているのだが、ご存知の通り受賞は『理由』まで待つこととなる(その間『火車』でも『蒲生邸事件』でも取れてないという事実は逆にすごい)。確かに直木賞としては地味かもしれない、だが本作で受賞させていたら、捨てたもんじゃないな直木賞」と思ったに違いない。