しかし、なんだよこの表紙…。電車でカバーなしで読むのが恥ずかしい本は久々だ。
東海林さだおの本を読むのは初めてだったのだが、実に気楽に楽しめてよかった。とにかく文章がうまい。食に関するエッセイ集なのだけれど、どれもアイデア満載で、その密集したアイデアをストレスなく読ませるところがすごい。バカバカしいことばかり言ってるようで、やっぱりのべつバカバカしいことを言っている。しかし、味覚なんて極めて個人的なことを元にして、よくこれだけ独りよがりにならずに楽しませながらその魅力を伝えられるものだなあと感心する。
ところどころにある挿絵も、この人らしくてよい。登場人物はたいてい中年以上、変な顔多し。それがなんとも脱力を誘う。新聞の4コマより、こちらの挿絵(1コマ)のほうがよっぽどおもしろいと思う。
去年のしりとりリレーで、本条さんが東海林さだおの「丸かじり」シリーズより『伊勢エビの丸かじり』を取り上げ、『「おもしろ発想エッセイ」や「お気楽レポート」としても楽しめるけど、「食べ物」エッセイとしての威力がすごい』と書かれているが、まったくこれには同感である。
本書でもおいしそうなものがたくさん紹介されていて、なかでも鰻の刺身にものすごく惹かれたのだが、そうそうすぐに食べられるはずのものではなく、困っている。身は噛むとコリコリした歯ざわりにやや遅れて脂の味が「じわーっ」と口に広がるのだそうだ。肉の味そのものは淡白で、焼いたときの鰻とは大違いらしい。うう。
適当にかまえ、楽しく読み、ときどき身もだえしながら読む本。
では和泉さん、次は「り」でよろしくお願いします。