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    <title>逃げの一手 </title>
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    <description>逃げの一手 </description>

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    <item rdf:about="http://www7.atwiki.jp/nigenoitte/pages/225.html">
    <title>続・虎の威22</title>
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    <description>
      
&lt;div style=&quot;margin:0mm 0mm 0pt;&quot;&gt;
&lt;div style=&quot;margin:0mm 0mm 0pt;&quot;&gt;
&lt;p&gt; &lt;/p&gt;
&lt;div style=&quot;margin:0mm 0mm 0pt;&quot;&gt;　揺り起こされ、千宏は目を覚ました。&lt;br /&gt;
　目を覚ましてようやく、自分が眠っていたのだと気付く。&lt;br /&gt;
　ゆるゆると目を開いて、千宏は間近に迫ったハンスの顔に驚きの声を上げようとしたが、毛むくじゃらの大きな手に阻まれてももがもがと妙な音がこぼれるに留まった。&lt;br /&gt;
　しい、とハンスが細く息を吐き出した。声を出すなということだろう。千宏がこくこくと頷くと、ハンスは慎重に口を塞ぐ手をどけた。&lt;br /&gt;
「逃げるぞ」&lt;br /&gt;
　何があったのか、と問うより先に紙片に書き記された短い言葉を突きつけられ、千宏は寝ぼけた頭を軽く振ってまず窓の外を見た。&lt;br /&gt;
　どうやら、すでに夜中である。到着した時はまだ日が傾き始めるかどうかという時刻だったはずなのに、随分と熟睡してしまったようだった。&lt;br /&gt;
「逃げるって……」&lt;br /&gt;
　ほぼ唇を動かして問うだけで、ハンスは声を出さずとも千宏の言葉を聞きとることが出来た。唇を読んでいるわけではなく、微妙な呼吸音が言葉に聞こえるのだという。特別な訓練などつまずとも、イヌならば誰にだってできることだとハンスはつまらなそうに答えたが、それが種族的な特技だろうと千宏は素直に凄いと思う。&lt;br /&gt;
　ハンスはぴんと立てた耳で廊下の音を伺いながら、声を低く殺して早口に言った。&lt;br /&gt;
「トラの盗賊は性質が悪いと言っただろう。今なら奴も油断して眠ってる。取り返しが付かなくなる前にここを出るんだ」&lt;br /&gt;
　今すぐに、とハンスは珍しく強い口調で千宏を促した。&lt;br /&gt;
　会話をした限りではそこまで性質の悪い人物には思えなかったが、ハンスがここまで言うのなら、なるほど余程の事態なのだろうと千宏は腰を浮かせかけ――ふと、コウヤと呼ばれた男の顔が頭に浮かんで動きを止めた。&lt;br /&gt;
　もう一人一緒に連れては行けないかと聞いたら、きっとハンスは鼻の頭に皺を寄せて絶対にダメだと言うのだろう。&lt;br /&gt;
　千宏一人を守るだけで精一杯――それすらも担い切れるかどうか危ういのだと、ハンスは常々苦い表情    </description>
    <dc:date>2012-01-10T03:44:42+09:00</dc:date>
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    <item rdf:about="http://www7.atwiki.jp/nigenoitte/pages/224.html">
    <title>続・虎の威21</title>
    <link>http://www7.atwiki.jp/nigenoitte/pages/224.html</link>
    <description>
      
&lt;div style=&quot;margin:0mm 0mm 0pt;&quot;&gt;
&lt;div style=&quot;margin:0mm 0mm 0pt;&quot;&gt;
&lt;p&gt; &lt;/p&gt;
&lt;div style=&quot;margin:0mm 0mm 0pt;&quot;&gt;
　茶色く乾いた大地を蛇行する小さな川が、うっそうと生い茂った雑木林へと流れ込んでいた。&lt;br /&gt;
　荒地の只中に一点だけあるその緑の集合体は、砂地の箱庭に放り込まれた森の玩具のように周囲の景色から浮いている。土地の養分を一点に集中させる技術があるため、荒野に森や畑が点在する景色は別段珍しいものではないのだと前にハンスに説明を受けたが、それでも千宏の目からすると、荒地で無理矢理育ったような緑はひどく滑稽に思えた。&lt;br /&gt;
　魚の跳ねる穏やかな川に、風うねる緑の草原。視界一杯に広がる黒い森に、空を覆う高い山。そういった景色が千宏は好きだ。&lt;br /&gt;
　そこにレンガ造りの建物と、三人の白いトラがいれば申し分ない。可能ならば一人はマダラであるといい。&lt;br /&gt;
　そんなことを思いながら、千宏は隣を歩くトラのマダラを伺い見た。&lt;br /&gt;
「マダラが珍しいか？」&lt;br /&gt;
「あ、いや！　いやその……知り合いにもマダラがいて……」&lt;br /&gt;
　慌てて答えて、千宏はトラから目を反らす。&lt;br /&gt;
「なんか懐かしくて」&lt;br /&gt;
　けれども、じろじろ見られれば不愉快だろう。&lt;br /&gt;
　千宏は視線を正面に戻した。&lt;br /&gt;
　雑木林はもう目前に迫っていた。馬車から様子を伺ったときちらと家屋のような物が見えた気がしたが、近づいてみるとやはり木々に隠れるようにして建物が一つある。&lt;br /&gt;
　随分と大きな建物だった。朽ちて壁が崩れている部分も見られるが、大量の蔦植物に半ば埋もれながらもしっかりとそこに建っている。&lt;br /&gt;
「元は農家の穀物倉庫だ。中はほとんどがらんどうだが、一応家具はそろってる」&lt;br /&gt;
「ベッドも？」&lt;br /&gt;
「軽く十人分はあるぜ」&lt;br /&gt;
　千宏の短い問いかけに、トラは自慢げに尻尾を立てた。盗賊一人がわざわざ十人分のベッドを調達する理由もないので、行商人を襲った結果だろう。とても褒められた行為ではないが、千宏はあえて指摘しなかった。ハンスを手当てし、休ませる場所を提供してもらえるならば、相手がトラの盗賊だろ    </description>
    <dc:date>2011-12-31T05:39:11+09:00</dc:date>
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    <item rdf:about="http://www7.atwiki.jp/nigenoitte/pages/223.html">
    <title>傭兵パン屋物22</title>
    <link>http://www7.atwiki.jp/nigenoitte/pages/223.html</link>
    <description>
      
&lt;p&gt;　それがどれほど屈辱的で、どれほど我慢ならず、どれほど不当だと感じたとしても、長く組んだ仲間の意図が理解できないほどヴィクターは馬鹿ではない。&lt;br /&gt;
　最善策だとクロルは言った。なるほど確かに、クロルが家族に正体を知られたくないと思う以上――いやそうでなくとも　あの状況ならば、エディーの申し出を受け入れ、そのまま監視役を引き受けるのは確かに最善であったと思う。クロルに対して怒りなど抱いていないし、責めようとも思っていない。ただ少々、ウィルトスを殴ってやりたいとは思うが――。&lt;br /&gt;
「とは、言ってもなぁ……」&lt;br /&gt;
　市警団の檻からエディーの屋敷――つまりはクロルの実家へと場所を移し、ヴィクターは裏庭でぼんやりと途方にくれていた。人目を避けた裏庭で、大男がひっそりと座り込む姿はどう見ても怪しげな侵入者だが、人目に触れなければどうということもない。&lt;br /&gt;
　家の中からは、先ほどから自分を探すエディーの怒声がひっきりなしに聞こえてきていた。その声を聞いているだけで頭痛がしてくるようで、ヴィクターは目頭を静かに揉み解す。&lt;br /&gt;
　これが最善策であることはわかっている。だが最善策なのだから仕方がないと素直に受け入れ、与えられた不愉快な仕事を笑顔でこなせるほどには、ヴィクターはできた性格はしていない。&lt;br /&gt;
　その結果の、ささやかな雲隠れだった。昔、仕事から逃げ出して倉庫の裏でぼんやりと時を過ごしていたのと同じような、下らない逃避行動だ。しかしその結果クロルと出会えた事を考えれば、現実逃避も悪いばかりではないとひっそりと自己弁護をするヴィクターである。&lt;br /&gt;
　むろんいつまでも隠れているわけには行かないが――。もうしばらくは、呼びかけに応じてやろうという気は起きそうもなかった。&lt;br /&gt;
「顔が悪いんだ、あの顔が……」&lt;br /&gt;
　壁にだらしなく背を預け、ヴィクターは額をなでる。&lt;br /&gt;
　あまりにも、エディーはクロルに似すぎていた。例えクロルの弟であっても、顔が絶望的に違っていればヴィクターもここまでやりにくくは無かっただろう。身体に傷はつけないまでも、一生消えない心の傷を残すくらいのことは平然としてのけたかもしれない。&lt;br /&gt;
　だがあの顔で勝気に睨まれると、どうにも言葉に詰まって怒りが萎えた。訳知り顔でとうとう    </description>
    <dc:date>2011-12-16T20:22:51+09:00</dc:date>
  </item>
    <item rdf:about="http://www7.atwiki.jp/nigenoitte/pages/222.html">
    <title>傭兵パン屋物21</title>
    <link>http://www7.atwiki.jp/nigenoitte/pages/222.html</link>
    <description>
      
&lt;p&gt;
 　セルギス・アードラーは、封建制度が根強く残る地方の出身で、広大な荘園を経営する伯爵家の長男だった。この地方では珍しいつややかな黒髪をもっており、昔はそれをからかわれてはひどく憤慨していたのを覚えている。&lt;br /&gt;
　年齢は二十五か二十六だろう。確か自分より三つ上だったはずだから――とクロルは階段で見た神経質な男の顔を思い返した。&lt;br /&gt;
　眉間に深く刻まれたシワに、笑みを浮かべることを忘れたような口元、自分以外の全てを警戒するような瞳には、冷酷さすら浮かんで見えた。であるにもかかわらず、ウィルトスに明らかに礼を失する態度を取られたにも関わらず、眉一つ動かしもしなかった。&lt;br /&gt;
「変わったってうか……あれは……さすがに……」&lt;br /&gt;
　歪んだ、と表現するのが適切だろう。&lt;br /&gt;
　少なくともクロルが町を出る前は、活発ではきはきと物を言う、利発で優しい少年だった。誇りを持って未来を見据え、キラキラと瞳を輝かせながら夢を語った少年が、そのまま育ってああなるとは思いがたい。&lt;br /&gt;
　理由など、想像するのも馬鹿馬鹿しいほどに分かりきっていた。自分と言う存在に揺ぎ無い自信を持っていた十代の少年が、ある日突然婚約者に逃げられたとしたら、それは深くプライドを傷つけられるだろう。今にして思えばたった一言くらい、セルギスに何か言って出てくるべきだったとクロルは後悔していた。&lt;br /&gt;
「ああ、もう……だから帰りたくなかったのに……」&lt;br /&gt;
　自分が周囲に与えた影響を、取り返しが付かなくなってから見せ付けられるのは心が痛む。&lt;br /&gt;
　クロルは手の平に書いた番号をちらと見て、現実逃避も許されない現実に嘆息した。&lt;br /&gt;
　セルギスと二人きりで話をするのは避けたいが、フランシスの声を聞くのも心底嫌だ。名前を聞くだけであの男の顔を、声を、唇を、ねじ込まれた舌や腕を掴んできた指の感触に至るまで、全てが怖気と共に頭に浮かぶ。&lt;br /&gt;
　百匹のゴキブリとフランシス一人、どちらかと一晩密室で過ごすとしたら喜んでゴキブリを選ぶだろう。強姦されかけたことが問題なのではない、とにかくあの男の存在自体がどうしようもないほど気持ちが悪いのだ。&lt;br /&gt;
「ゾンビっぽいのがやなんだよ……噛まれたらなんか感染しそう……」&lt;br /&gt;
　ぞくぞくと肩を震    </description>
    <dc:date>2011-11-24T03:42:08+09:00</dc:date>
  </item>
    <item rdf:about="http://www7.atwiki.jp/nigenoitte/pages/221.html">
    <title>生贄の森9</title>
    <link>http://www7.atwiki.jp/nigenoitte/pages/221.html</link>
    <description>
      
&lt;p&gt; &lt;/p&gt;
&lt;h3&gt;生贄の森　二章-4&lt;/h3&gt;
&lt;div style=&quot;margin:0mm 0mm 0pt;&quot;&gt; &lt;/div&gt;
&lt;div style=&quot;margin:0mm 0mm 0pt;&quot;&gt;　無言のまま夜が訪れた。&lt;br /&gt;
　人の死体を見た直後では空腹もどこかへ吹き飛んでしまい、結局貯蔵庫の探索は諦めざるを得なかった。明日になって飢えが襲ってきたらどうなるか分からないが、すくなくとも今のところは、死体のある貯蔵庫をうろつき回る気は起きそうもない。&lt;br /&gt;
　リーリアたちが貯蔵庫の探索を諦めたと見ると、人狼もふいとどこかに姿を消してしまった。人狼の仕事はあくまで生贄を危険から遠ざけることであって、人狼個人がリーリアたちに何らかの興味を持っているわけではないのは明らかだった。&lt;br /&gt;
「……埋葬した方がいいかしら」&lt;br /&gt;
　暖かな部屋の中、することも無くぼんやりとしながら、ふとそんな言葉が口をついて出た。こくりこくりと船をこいでいたレイラが、ぱっと顔を上げてリーリアを凝視する。&lt;br /&gt;
「ま……埋葬って……あの死体？」&lt;br /&gt;
「地下で日の光も浴びられず、土にも返れないなんて……あんまりだと思わない？」&lt;br /&gt;
「それは……そうかもだけど……」&lt;br /&gt;
「それになんだか……夜になると動き出しそうな気がして……」&lt;br /&gt;
「わー！　わー！　やめてよやめて！　そんな話聞きたくない！」&lt;br /&gt;
　レイラは大声を上げて耳をふさぎ、ベッドに飛び乗って頭から毛布を被ってしまった。どうやら、幽霊話は苦手らしい。&lt;br /&gt;
　しかし――とリーリアはふと眉をひそめた。&lt;br /&gt;
　言葉を話す人狼が現れ、寓話だと思っていた魔物が実在し、おまけに「影」などという正体不明の何かが存在する異形の屋敷だ。死体が夜な夜な動き出し、貯蔵庫の暗闇を出口を求めてさ迷い歩いていたとして、なんの不思議があるだろう。&lt;br /&gt;
　その様を想像すると、リーリアは自分が言い出した事ながら少し背筋が冷たくなった。&lt;br /&gt;
「……狼に殺されたんだよね、あの人」&lt;br /&gt;
　毛布の中から、レイラがくぐもった声で呟いた。干からびた死体を見てその死因を特定することなどリーリアには出来ないが、人狼がそうだというならばそうなのだろう。&lt;br /&gt;
「どうして貯    </description>
    <dc:date>2011-11-13T02:41:08+09:00</dc:date>
  </item>
    <item rdf:about="http://www7.atwiki.jp/nigenoitte/pages/220.html">
    <title>生贄の森8</title>
    <link>http://www7.atwiki.jp/nigenoitte/pages/220.html</link>
    <description>
      
&lt;p&gt; &lt;/p&gt;
&lt;h3&gt;生贄の森　二章-3&lt;/h3&gt;
&lt;div style=&quot;margin:0mm 0mm 0pt;&quot;&gt; &lt;/div&gt;
&lt;div style=&quot;margin:0mm 0mm 0pt;&quot;&gt;　仕方がないのだ、とイグナートは呟いた。&lt;br /&gt;
　自分は町長だから、そしてお前は町長の娘だから、仕方のないことなのだ――と。&lt;br /&gt;
　恐らく、イグナートはリーリアにではなく自分に言い聞かせていたのだろう。リーリアを生贄に差し出すことが決まってからずっと、イグナートは何度となくその言葉を繰り返した。&lt;br /&gt;
　リーリアは何も言わなかった。自分が町長の娘である以上、町の、村の人々を守るために自分が犠牲になることは、致し方ないのだと理解していたからだ。&lt;br /&gt;
　事実、本当に――本当に仕方なかったのだ。&lt;br /&gt;
　生贄を差し出さなければ魔物の怒りは収まらないと、村の誰もが信じて怯えきっていた。&lt;br /&gt;
　そして悪いことに、最初に人狼を撃った猟師には年頃の娘が一人いた。&lt;br /&gt;
　その娘を生贄に差し出せと、人々は猟師に迫った。この騒ぎを引き起こした張本人なのだから、娘を差し出してその責任を負うべきだと。&lt;br /&gt;
　将来を誓い合った恋人のいる、美女とはいえないまでも純朴で大人しい、気立てのいい娘である。無論猟師は抵抗した。娘の恋人も抗った。&lt;br /&gt;
　しかし恐怖に目の曇った者たちは力づくで娘を引き立て、取り戻そうとした猟師と恋人を集団で袋叩きにしたのだ。&lt;br /&gt;
　その場に、イグナートは居合わせた。声を荒げて暴徒を抑え、泣き喚く娘を救い出し――後は泥に足を取られたように、ずるずると引きずりこまれていた。&lt;br /&gt;
「ならばあんたの娘を差し出せ、イグナート」&lt;br /&gt;
　その声を最初に叫んだのが誰なのか、今となっては分からない。ヴァイナーだっただろうか。村長だっただろうか。それとも群集にまぎれた名も知らぬ誰かだろうか。&lt;br /&gt;
　誰にせよ、人々はその声に同調した。&lt;br /&gt;
　最も価値ある唯一――ならば確かに一介の猟師の娘より、リーリアの方が相応しいと、恐れを含んだ確信を持って囁きあった。&lt;br /&gt;
　馬鹿馬鹿しい、生贄など許さないとイグナートが言ったところで、不安で混乱した村の人々はリーリアを物陰で捕らえ、縛り上げてで    </description>
    <dc:date>2011-10-19T03:02:24+09:00</dc:date>
  </item>
    <item rdf:about="http://www7.atwiki.jp/nigenoitte/pages/219.html">
    <title>魔女と傭兵2</title>
    <link>http://www7.atwiki.jp/nigenoitte/pages/219.html</link>
    <description>
      「何を読んでる、傭兵」
　分厚い革表紙の本を開いて読んでいた俺に、魔女が不思議そうに問いかけた。
　あの日以来、魔女は俺の前では顔を変え、フードを外す。
　今日もその、人間並みに美しい顔を惜しげもなく俺に近づけて、本の中身を覗き込んだ。
「聖書だ。神が俺を救ってくれる」
「そんな物、悪魔に愛されなかった哀れな者達の書物だ。万人を愛する神なんて、何の力も与えてくれない」
「力は与えてくれなくても慈愛と理性と自制心は与えてくれる。おお神よ、俺が今まであんたを馬鹿にしていた事を許したまえ。これで全部許してくれる。神ってのは寛大だな」
　祈りの言葉もいくつか覚えた。十字架も首からさげて生活している。本当に神父になってもよさそうだと、最近では本気で思う。
　魔女は軽く肩を竦めると、フードをかぶって踵を返した。
「確かに神は寛大だ。恵みも奇跡ももたらさない代わりに、誰一人罰しない。だが神の威を借る者達は総じて狭量だ。恵みももたらさないくせに罰ばかり与えたがる」
「その台詞、究極に魔女っぽいぞ」
「それじゃあ、魔女らしく悪魔と逢引してくる。夕食には帰るだろう。人間らしい食事を用意しておけ」
　ぷいとそっぽを向いて、魔女は安宿の一室を後にした。
　悪魔と逢引――嫌でも森で見た饗宴を思い出す。
　俺は慌てて頭を振り、聖書の理不尽な美辞麗句にかじり付いた。

　　　　　　　　　　　　　　　　＊＊＊　

　人間らしい食事とは、つまり味の付いた肉だとか、煮込んだ野菜の事を指す。
　俺は野菜や動物に感謝の祈りを捧げつつ、魔女が気に入るであろう料理をせっせと用意していった。
　俺だったら、例え死後に祈ってもらおうと、殺されて食われるのは真っ平だ――と、本心ではそう思う。
　だが、ただ殺されてその辺に放置されるくらいなら、感謝されて食われた方がまだましなんじゃないかとも思う。
　神の教えは難しかった。
「お、うめぇ」
　野菜のスープをすすって唸る。
　野営地でも、俺の作る料理はいつも人気を博していた。
　知るまいが、俺の実家は酒場である。子供の頃は料理もそれなり手伝った。
　これなら魔女も喜ぶだろう。有能な傭兵とはいえないが、お付の下男としてなら有能だと胸を張れそうだ。
　前はそんな事でいいのかと嘆いてみたが、あるようにあればいいという神の    </description>
    <dc:date>2011-10-11T02:21:40+09:00</dc:date>
  </item>
    <item rdf:about="http://www7.atwiki.jp/nigenoitte/pages/218.html">
    <title>看護師ニーナの都会旅行（後）</title>
    <link>http://www7.atwiki.jp/nigenoitte/pages/218.html</link>
    <description>
      
&lt;p&gt;　こんばんは。ニーナです。&lt;br /&gt;
　月の綺麗な星の晩といいたい所ですが、都会の夜は明るくて星なんて見えたもんじゃありません。それを考えると、田舎ながらもあの町の夜空は毎日毎日飽きもせず、星が綺麗でよかったですねえ。美味しいパン屋さんもありましたし。空気も綺麗で夜は静かで。憧れのスローライフとはきっとああいう生活のことを言うのでしょう。&lt;br /&gt;
　労働意欲旺盛な若き看護師である私としては、少々刺激に欠ける毎日だったと言えますが、刺激の塊みたいな人間が同居人だったのでそこで相殺されていたと言えるでしょう。&lt;br /&gt;
　そんなわけで私は今、エミルさんとちょっとオシャレなレストランに来ています。十階建てのホテルの屋上にあるガーデンレストランで、星空の変わりに夜景が素晴らしく綺麗です。&lt;br /&gt;
　学生や新米社会人が、ちょっと奮発してオシャレにディナーという雰囲気でしょうか。なにせ私がエレガントな着替えを持っていないので、シャツとジーパンでも入店できるカジュアルで若々しい雰囲気のお店です。こういうお店はビールとフライドポテトとステーキなんかを平気で提供してきそうですが、さすがエミルさんには抜け目というものがありません。メニューには野菜や穀物をたっぷり使った料理がたくさん書かれています。&lt;br /&gt;
「ローカロリーのダイエットメニューということですか。お腹いっぱい食べてお肌も綺麗な美人痩せなんて、年頃の女の子が泣いて喜ぶフレーズですね」&lt;br /&gt;
「僕も時々友達と食べに来るんだ。ニーナも好きそうなお店だなって思ってたんだけど、いつか誘おうと思ってるうちに君が消えちゃってさ」&lt;br /&gt;
　照れくさそうに笑ってお水を一口。その細かい動作にいちいち好感が持てる男性です。食事というと戦争か葬式のようにしてしまうフランシスさんとはあまりに差がありすぎて、比べることすらできません。&lt;br /&gt;
「消えたというか、消されたというか……私はいつものように仕事に出かけて、規則どおりに報告書を送付していたんですけが……」&lt;br /&gt;
　あぁ、連続で報告書が返送されてきたときの惨めな気持ちがうっかりよみがえってきました。フランシスさんに不要物として道に放り出された記憶と重なって、カラカラに乾いた笑みが浮かびます。自分という存在価値に疑いを持ち始めてしまいそうです。&lt;br /    </description>
    <dc:date>2011-10-02T14:49:28+09:00</dc:date>
  </item>
    <item rdf:about="http://www7.atwiki.jp/nigenoitte/pages/217.html">
    <title>看護師ニーナの都会旅行（中）</title>
    <link>http://www7.atwiki.jp/nigenoitte/pages/217.html</link>
    <description>
      
&lt;p&gt;
　おはようございます、ニーナです。今は朝です。朝も朝の早朝です。フランシスさんの朝食を作るべく、普段私が起きる時間よりも少し早いでしょうか。ニワトリさんがコケコッコーとうるさい程度の時間帯です。&lt;br /&gt;
　こんな都会のどこにニワトリがいるのかといったら、修道院とか学校とかでしょう。卵を産んでくれるニワトリを飼っている施設は案外に多いものです。&lt;br /&gt;
　そんなことよりも、です。&lt;br /&gt;
「出て行け。邪魔だ」&lt;br /&gt;
　別れ話を切り出すにしても、もう少し穏やかな前置きがあってしかるべきではないでしょうか。目が覚めてフランシスさんの顔が飛び込んできたと思ったら、突然こんな言葉を浴びせかけられて私の脳みそは完全に考えることを放棄しました。&lt;br /&gt;
「……えーと。今、なんて？」&lt;br /&gt;
　そう聞き返すのがやっとの私を、フランシスさんは荷物のようにひょいと小脇に抱え上げてしまいます。嫌な予感がふつふつと沸いてきました。何せ眠っていたので、私はまだパジャマです。&lt;br /&gt;
「あの、フランシスさん？　せめて着替えを――」&lt;br /&gt;
　させて下さい。という主張もむなしく、次の瞬間私は不法投棄されるゴミのごときぞんざいさで、行動に放り出されてしまいました。&lt;br /&gt;
「……冗談でしょう？」&lt;br /&gt;
　思わず口に出して呟くくらい、信じがたい状況です。&lt;br /&gt;
　捨てられました。何の前触れもなく捨てられてしまいました。私が。&lt;br /&gt;
　この、私が。この完璧で有能で献身的な看護師であるこの私が。フランシスさんを誰よりも愛するこの、私が。&lt;br /&gt;
　一体――。&lt;br /&gt;
「私が……な、何をしたって……言うんですかぁ……！」&lt;br /&gt;
　これはさすがに泣くなと言う方が無理でしょう。親に家から放り出された子供のような状況ですが、裸足のパジャマ姿のままトランクに詰められてやってきて、翌日の朝同じ格好で家から放り出された日には、恥も外聞もどうだってよくなるというものです。&lt;br /&gt;
「もう、もう、もう知りません！　フランシスさんなんか、クロルさんに殺されちゃえばいいんです！　いやそれじゃご褒美にしかなりませんね……やっぱヴィクターさんに殺されてしまったらいいんです！！　全身骨折で身動きが取れないまま、栄養失調で孤独に死んでしまえばいいんで    </description>
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    <title>看護師ニーナの都会旅行（前）</title>
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&lt;p&gt;　こんにちは。ニーナです。&lt;br /&gt;
　とか言ってる状況ではありません。現在私は、恐るべきことに何者かによって誘拐されている真っ最中です。&lt;br /&gt;
　誘拐犯に確認を取ったわけではないので確信はありませんが、目が覚めたら車のトランクの中に居たという状況から推測できる事件と言えば、誘拐以外ないでしょう。&lt;br /&gt;
　そうです。驚くべきことに、私は今走行中の車のトランクに押し込まれているらしいのです！　しかし私はどんな状況でもパニックなど起こさない、冷静かつ分析力に優れた有能な看護師です。とりあえず夢落ちである可能性を考えてほっぺをつねってみましたが、面白いほど痛かったのでこれが現実であると確信しました。&lt;br /&gt;
　それにしても一体、誰がどんな目的で私を誘拐したのでしょう。&lt;br /&gt;
　そもそも何故、自室のベッドで眠っていたはずの私をトランクに積み込むことができたのでしょう。&lt;br /&gt;
　おっとそういえば。子供が閉じ込められるという事件を受けて、車のトランクは内側からでも開けられる構造になっているんじゃありませんでしたっけ。&lt;br /&gt;
　子供ほどとは言えませんが私は体が小さいので、狭いトランクの中でもそれなりに自由が利きます。多分どこかのボタンを押すなり、ハンドルを操作するなりすれば開けることが出来ると思うのですが……。&lt;br /&gt;
　この車が数十年物のレトロカーでないことを祈るばかりです。&lt;br /&gt;
「あ、これかな？」&lt;br /&gt;
　怪しげなワイヤー発見して嬉々としてそれを掴んだ瞬間、車が急ブレーキをかけました。慣性の法則にしたがって私は頭をしたたかぶつけ、声もなく一人トランクの中でもんどりうちます。&lt;br /&gt;
　ゆ、許すまじ誘拐犯……！　この私を誘拐して、フランシスさんがただじゃ置かないはずです。まあ……たぶん、ですが。いえ、恐らく……程度でしょうか。なんだか普通に放置されそうな気がしてきて、乙女心が勝手に深く傷つきました。&lt;br /&gt;
　家の中を軽く探すくらいはするでしょうが、私が居ないことに気が付いたらそれっきり、私のことなど忘れ去って日常生活を送りだしそう出す。&lt;br /&gt;
　少なくとも、裸足で家を飛び出して方々探し回るなんてことはしないでしょう。&lt;br /&gt;
　絶望的な気分になってきました。フランシスさんが助けてくれないことが確信    </description>
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