生贄の森 序章

   
 
 針葉樹の森の中を、一台の馬車が雪をかき分けるようにして走っていた。
 二頭の馬が引く客車は四輪の優雅な黒塗りで、荒れ果てた雪道を疾走するには不似合いだ。
 追われているようだった。否――事実追われていた。だが馬車の中で息を殺す二人の少女は、その事実にすらまだ気づいてはいなかった。

 客車内はひどく寒く、また張り出した木の根や小石に足を取られて激しく揺れる。御者は何をそんなに焦っているのか、随分と飛ばしているようだった。
 もう、どれくらいの間こうしているだろう。リーリアは重ね合わせた両手を静かに握り、肩に圧し掛かるような不安と疲労に深いため息を吐いた。
「森って、こんなに深かったんだね」
 白く染まったため息が空気にとけきるのを待っていたかのように、ぽつりと不安げな声が上がった。リーリアの正面の座席で膝を抱え、小さくまるくなっている赤毛の少女である。
 名をレイラという。
「生まれた時からずっと森で遊んでたのに、ちっとも知らなかった」
 レイラは近隣の村で、最も力を持つ村長の孫娘だった。年齢はリーリアとさして違わないはずだが、あどけない大きな瞳と幼いしぐさのせいでリーリアよりもずいぶんと幼く見える。
 侍女として馬車に同乗しているにも関わらず、髪を短く切りそろてズボンとブーツを身につけたレイラは、まるで少年のようだった。だがその装いはむしろレイラの少女らしい愛らしさをいっそう引き立てているようで、幼く中性的な容姿にぴたりとはまる。
 対してリーリアは、レースをふんだんに使った瑠璃色のドレスに身を包み、長い銀色の髪をボンネットで包んでいた。大きな花をあしらったボンネットは亡き母の大切な形見で、リーリアが首を傾げるたびキラキラと輝く繊細な銀細工が、彼女の物静かな美しさに儚げな輝きを与えている。
「……そうね」
 レイラの呟きに同意して、リーリアは静かに言い加える。
「森の奥は狼の領地だから――」
 人間が踏み込める範囲など、森のごく一部に過ぎない。凍える森のほぼすべては、森の禽獣達の物だった。そして森の奥には恐ろしい魔物が住んでいて、領地を侵した者を食うという。森に住む誰もがその話を知っていて、そして誰もがそれを作り話だと知っていた。
 だがそれでも人々は森を恐れ、敬い、決して安易に森の奥へと踏み込もうとはしなかった。必要以上の獲物は取らず、猟師だって本来は、これほど森の奥深くにまで入らない。
 魔物の領地を侵してはいけない。
 すべての大人がそうして子供の頃に立てた誓いを破りさえしなければ、寓話はいつまでも寓話のままであったはずなのに――。
 リーリアは静かに唇を噛み、それからふと不安になった。御者はこの森の中で、一体どうやって馬車を進めているのだろうか。猟師も踏み込まないような森の奥で、こんなにも馬を急かして、どこを目指して――。森に入ってもう随分と経っている。同じような姿をした木々に惑わされ、道を失ってはいないだろうか。一瞬、そうだったらいいのにと考えてしまった愚かさに、リーリアは表情を曇らせて窓の外を覗きこんだ。
「あ」
 その、いっかな変わらない景色の中でふと、木々の合間を何かの影が横切ったように見えた。よくよく目を凝らしてみると、雪を巻き上げて走るその姿がはっきりと見てとれる。
「狼……?」
 口の中で呟き、リーリアはくるりと身を返して反対側の窓を覗き込んだ。そこにもまた、馬車と並走する狼の姿が見える。
 まさか。と、リーリアは再び呟いた。
「狼に先導されてる……」
 馬車を取り囲むようにして、狼の群れが駈けていた。狼達が進路を変えれば、馬車もそれに合わせて進む。なるほど、御者が馬を急かすはずだった。だが狼達が襲ってくるような気配はなく、これ以上距離を詰める様子も無い。彼らは明らかな意思を持って、馬車をどこかに導こうとしているのだ。
「魔物の手下なのかな……」
 レイラも窓に張り付いて、不安げな声を上げる。
 リーリアが険しい表情で狼の群れを睨んでいると、ふいに行過ぎる木々の枝が大きくしなった。視線を先の方へと滑らせると、また木の枝が大きくしなる。
 木の上を、何かが――。
「ねえ、リーリアは町長の娘なんでしょ? 何か詳しいこと聞いてないの?」
「え?」
 怯えた表情で狼の姿を追っていたレイラが、大きな瞳を瞬いてリーリアへと振り向いた。リーリアも半ば反射的に、レイラへと視線を移す。
「魔物ってどんな奴なのかな……どんな顔してると思う? ぼく達、食べられちゃうのかな? 狼の餌にされるの?」
 矢継ぎ早の質問に、リーリアはただ首を横に振る。
「分からないわ……」
 これからのことなど、何一つ。
 ただ自分たちは町や村を守るため、生贄として森の魔物に捧げられるのだという事以外、確実に言えることなど何一つありはしない。
 リーリアは再び木々を見る。しかしもう、樹上を駈ける者の姿はなかった。
「痛いのはイヤだな……」
 ぽつりと呟き、レイラは窓から離れ再びそっと膝を抱き寄せた。
「そうね……」
 リーリアも頷く。
「怖いのもイヤだ」
「ええ……」
「でも、あんたはすごく落ち着いてるんだね」
 言われて、リーリアはようやくまともにレイラを見た。
「まさか……落ち着いてなんかないわ。普段は私、もっとたくさん喋るのよ? 不安になるとぐるぐると考えちゃって、口数が凄く減るの」
 へぇ、と意外そうな声を零し、レイラは膝を抱えたまま軽く前後に身体をゆすり始めた。
「ぼくは逆。不安だと喋ってないと落ち着かないんだ」
 事実、レイラは町を出発してからずっと、ひっきりなしに何か喋っている。半ば無意識のうちに発しているのだろう独り言がほとんどだが、おかげでリーリアは知り合って間もないレイラのことを随分とよく知る事ができた。
 ぼく――と。レイラは自分をそう呼んだ。息子を欲しがった父にどうにか気に入られようと、幼いころに少年のように振舞ったのがすっかり染み付いてしまったのだという。
 今ではレイラの男のような振る舞いこそが、父の不興を買う第一の原因なのだと、レイラはぽつりぽつりとリーリアに教えてくれた。
「ねえ。何かおしゃべりしてようよ。でないと狼が気になってしょうがないんだもん」
 言って、レイラはリーリアの隣に席を移し、腰に結わえたバッグをあさって小さな袋を取り出した。
「それは……飴?」
「うん。いっぱい持ってきたんだ。小さいし、長持ちするから」
 レイラはリーリアの手に小さな砂糖菓子を一粒握らせ、自分もそれを頬張ると、またゆらゆらと前後に揺れながら喋りだした。
「ぼくね、父さんに嫌われてるんだ」
「生贄に差し出されたからそう思うの……?」
 レイラは静かに首を振った。
「前からわかってた。父さんの再婚に反対して、いたずらばっかりしてたから。父さんの言うことには全部逆らったし、おしとやかにもしなかった。心配させてやろうと思って猟師の真似事した時なんて、父さんもう呆れてさ。ちょっともぼくのこと見なかった」
 だから、とレイラは続ける。
「おじいちゃんがぼくを生贄に差し出すって決めたとき、父さんはちっとも反対しなかった。母さんの後釜におさまったあの女も、ぼくの姉さん面してるその娘も、『可愛そうなレイラ』って泣きながら、腹の中では厄介払いできて喜んでたんだと思う」
 レイラは諦めに彩られた笑みを浮かべていた。ころころと、レイラが口の中で飴玉を転がす音がしばらく続き、リーリアも飴玉に視線を落とす。
 ひどく懐かしい食べ物だった。まだ物心がついたばかりの頃、雑貨屋のガラスケースに溢れる色とりどりの飴玉がどうしても欲しくて、母にねだって買い与えてもらったのを思い出す。とても食べ物とは思えないあざやかな色合いが、当時はとても美味しそうに見えたのだ。
「食べないの?」
「え? ああ、そうね……なんだかもったいなくて」
 リーリアは困ったように微笑んで小首を傾げる。するとレイラはちょっとだけ顔を顰め、ポケットから白いハンカチを引っ張り出すと、そこにざらざらと飴玉を流し込んだ。
「半分こ」
 言って、レイラは飴玉を包んだハンカチをリーリアに差し出した。リーリアは目を瞬き、慌ててそれを押し返す。
「そんな、いいのよレイラ。そういう意味じゃないの。私は一粒で十分だから」
「甘いもの嫌いなの?」
「いいえ。大好きよ。パイやクッキーだってよく作るんだから」
 え、とレイラは目を見開く。
「料理できるの? だって、料理人がいるんでしょ?」
「でも、お菓子作りは楽しみでやるものだもの。レイラはしたことないの?」
「そりゃ、肉や魚を焼いたりしたことはあるけど……お菓子なんて難しいよ」
「そんなに難しいものじゃないのよ。ちょっと面倒くさいけど。そうだ、ねえ今度一緒に……」
 作りましょうよ、と言いかけて、リーリアははっと口を閉ざした。レイラは慌てて、リーリアの手を握る。
「続けてよ。やめないで。ねえ、今度一緒にお料理しよう。ぼくにお菓子作り教えてよ」
「ええ……そうね」
 リーリアが困ったような笑みを見せると、馬が大きくいなないた。馬車が激しく揺れて止まり、リーリアとレイラは身を寄せ合って窓の外をうかがい見る。
 静かな銀世界が広がっていた。
 森が途切れて空が開け、彼方から夜がやってくるのが見える。長い時が流れた。五分か、恐らくそれ以上は待っただろう。
 リーリアは息をのみ、毛皮の外套をしっかりと身体に巻きつけた。
「降りるの?」
 不安そうに訊ねたレイラに、リーリアは頷く。
「どうやら御者は、地面に足をつけるのさえ怖いみたいだから」
「腰抜け」
 レイラが吐き捨て、リーリアが扉に手をかけようとしたまさにその時、ふいに外側から扉が開かれた。ぐずぐずしていた御者がようやく勇気を振り絞ってきたらしい。
「よかった。危なく自分達だけで降りてしまう所だったわ」
 苦笑いして顔を上げ、次の瞬間リーリアは愕然と顎を落とした。
 狼が立っていた。白銀の巨大な狼が、あろうことか二本の足で雪に立ち、馬車の扉を開けてリーリアに手を差し伸べていたのである。
 あまつさえ、だ。
「そりゃ悪かった。御者を食うのに忙しくてな」
 口角を器用に持ち上げて、狼がからかうような声で言う。唾液でぬらぬらと光る黄色い牙が今にもこちらに喰いついてきそうで、リーリアは悲鳴を上げて飛びずさり、レイラを背中に庇って馬車の奥へと逃げ込んだ。
「おいおい。逃げる事はないだろう。ここまで一緒に走っておいて、そりゃ今更ってもんだぜ」
 その狼は人間のようにわざとらしく空を仰ぎ、無遠慮に馬車へと押し入ってきた。その脇腹に、古い傷跡らしきものが見えた。それが原因か分からないが、左の腕を上げる時の動きが妙にぎこちない。
「御者を食べたですって……?」
 青ざめた顔色でようやく言って、リーリアは精一杯の厳しい表情で狼男をねめつけた。
「なんということを。彼には何の罪もないでしょう? 生贄は私一人のはずです!」
「……ああ。そうだったっけか? いや、どうだったっけな。ちょっと物覚えが悪くてよ」
 笑って、狼男はいったん頭を引っ込めると、御者台に向かって恐ろしげな唸り声を上げた。
 その途端、若い男の怯え切った叫び声があがる。リーリアは目を見開いた。
「今思い出した。実は食ってなかったんだった。御者台であんまり小さく丸まってるもんだからよ、よく見えなかったんだな」
 腰抜け、と。再びレイラが罵り声を上げる。狼男は愉快そうに笑った。
「同感だな。もっとマシな男はいなかったのか? ほらこい。そう怯えなくたって、なにも食い殺そうってんじゃねぇんだからよ」
 どちらにせよ、応じなければ生贄として選ばれた意味がない。リーリアは意を決し、差し伸べられた狼男の手を取った。とたんにひょいと子供のように抱え降ろされ、あっけなく雪の上に解放される。慌てて馬車に振り返ると、狼男はすでにリーリアを見ておらず、馬車の中で叫んで暴れるレイラに手を伸ばしている所だった。
「やめて!」
 鋭く言って、リーリアは狼男を押しのけるように馬車の扉の前に立つ。すっかり怯えて震えているレイラに手を差し伸べると、レイラはそれにも嫌々と首を振った。
「降りたら殺されちゃうよ……!」
「でもレイラ。ずっと馬車の中にいるつもりなの? こんなに寒い雪の中で、食べ物だってそこにはないのに」
「狼に食い殺されるよりましだもの!」
 狼男が笑った。
「どこに閉じこもってようと、食おうと思ったらいつでも食えるがな」
 そんな嘲笑混じりの呟きに、レイラは更に怯えて縮こまる。リーリアはきっと目を吊り上げて、狼男を睨みつけた。
「あなたは誇り高き人狼でしょう。人狼は群れで暮らす、協調性のある頭のいい生き物だと聞いているわ。この状況で、少しは協力しようと思ってはくださらないの?」
「協力ね。俺に何をお望みで?」
「ただ、黙っていてください。そしてこの子に姿を見せないで」
 狼男は両手を掲げ、すいと馬車から離れていく。リーリアはようやく安堵の息を吐いた。
「……ねえレイラ。こっちに来て。このままじゃ私達、離れ離れになってしまうわ。ここで友達と言えるのは私とあなたの二人きりなのに。もし殺されるにしても、一人きりでなんてさみしすぎる。そうでしょう?」
 レイラが膝から顔を上げ、何かを探すように視線を泳がせる。狼男が出てきはしないかと怯えているのだろう。
「あいつは?」
「遠くよ。あっちの木の所に立ってるわ」
 ようやく少し落ち着いたのか、レイラはおずおずとリーリアに手を伸ばす。その手を強く握り、促すように軽く引くと、レイラはリーリアの腕にしがみ付いた。
「聞いてレイラ。ねえ。私はナイフを持ってるわ。わかる?」
 レイラが驚いたように顔を上げ、そっとリーリアのスカートの中に手を伸ばす。太腿に括りつけた短剣の存在に気が付いて、レイラは大きく目を見開いた。
「これであいつを殺すの?」
 リーリアは首を横に振る。
「狼に食い殺されるくらいなら――ね。そうでしょう?」
 レイラはくしゃくしゃと表情を歪ませ、泣き笑いのような顔で頷いた。
 そしてようやく二人は馬車から降り立った。と同時に、狼男が木の影で慇懃に拍手をしてみせる。無視して御者に声をかけようとしたリーリアは、しかし次の瞬間には馬の嘶く声を聞いていた。二人が馬車から降りたのを確認するなり、御者が鞭をふったのだ。雪を巻き上げあっという間に走り去っていく馬車を呆然と見送り、リーリアは重々しく息を吐いた。そして一言、
「……腰抜け」
 無理もないこととはいえ、さすがに罵り声の一つも出る。自分があとほんの二歳若ければ、石の一つでも投げつけてやりたい程だ。憤りながらふと顔を上げた瞬間、リーリアは目を見開いて子供のように顎を落とした。
 屋敷があった。唐突に、と言うよりは恐ろしく自然に、景色に溶け込むようにして見事な屋敷が建っている。視界が白く濁る寒さの中、それは魔物が住むにはあまりにも美しかった。周囲に門らしきものは見当たらないし、馬車で通り抜けた記憶も無いが、ここはすでに魔物の庭だ。きっと門などで敷地の境界を主張する必要など、彼らにはないのだろう。
 人間の住む屋敷と何一つ変わらない、それどころかリーリアの住む屋敷よりもはるかに壮麗なたたずまいに、リーリアはただ圧倒されるばかりだった。
「……どうして今まで……」
 誰も、この屋敷の存在に気付かなかったのだ。
 森の中に町ができ、もう五十年近くになると言うのに。
「ここは森の奥の奥だ。案内がなきゃ、普通はたどりつきゃしねぇ」
 いつの間にか、狼男がすぐ隣に立っていた。はっとして振り仰ぐと、その瞳が真っ直ぐに何かを見ていることに気がつく。リーリアもそちらに顔を向け、ぎくりとして息を呑んだ。
 いつからそこにいたのだろうか。ほんの数歩の距離に、黒い男が立っていた。
 雪に覆われた森の中にぽつりと影が落ちたように、その男は身じろぎ一つせずにじっとこちらを見詰めている。
 長い黒髪の、とても背の高い男だった。腰まで伸びた髪を上品に後ろに流し、切れ長の瞼の奥に光る瞳もまた黒い。
 獰猛な獣を思わせる、しかし優美な貴公子でもあるような。そんなちぐはぐな印象を覚える男だった。
「――なるほど」
 しばし興味深げに二人を見詰めていた男は、そう呟くと憐れむような笑みを浮かべて静かに歩み寄ってきた。
「これが代償と言うわけか。お粗末な物だな。だが、悪くはない」
 リーリアとレイラを交互に眺め、男は震えているレイラの頬に手を伸ばす。嫌がって腕にしがみ付いてくるレイラを庇おうと身を返したその瞬間、リーリアの腕から温もりがかき消えた。愕然と顔を上げると、すぐ隣に立っていたはずの狼男の背が遠くに見える。
 そしてその背中の向こう側に、レイラと男が立っていた。位置は馬車の轍のすぐ近く。自分も一瞬前までは、確かにあの場に立っていたはずなのに――。
「そんな……!」
 どうして、とかすれた声を上げかけて、リーリアは瞠目した。
 足がすくんで今にも崩れ落ちそうなレイラの腰を引き寄せて、男がその幼い唇に自らの舌をねじ込んだのだ。
 寒さで青く染まりかけているレイラの唇に、同じく青白い男の唇が深く、深く重ねられる。
「レイラ!」
 叫んで、リーリアは雪の中を半ば泳ぐようにレイラへと駆け寄ろうとした。だがいくらも進まないうちに、人狼の丸太のように太い腕に行く手を阻まれる。
「やめさせてください! その子に手を出さないで! 生贄は私です! その子は街に返してあげて!」
「やめとけよ。他人の情事の邪魔なんざするもんじゃないぜ?」
「なんですって?」
 咎めるように聞き返し、リーリアは再び二人に視線を向ける。
 苦しげにもがき、逃れようとしていたレイラの身体から、すっかりと力が抜けていた。
 唇の色は艶かしい赤色を取り戻し、瞳はどこかうつろに男を見ている。その腕が、そっと求めるように男の背に回されるのを見て、リーリアは絶句した。
「そんな……どうして……!」
「だから、食い殺したりしねぇって言っただろ? 少なくとも、俺はな。狼の餌になる心配もねぇ」
 全身から力が抜けていくようだった。恐怖の変わりに圧し掛かってきた感情は、どこまでも重い絶望。
「ようこそ狼の森へ。歓迎するぜ? 花嫁さんよ」
 森のはるか向こうから、教会の鐘が夜の訪れを告げていた。
次へ


|新しいページ|検索|ページ一覧|RSS|@ウィキご利用ガイド | 管理者にお問合せ
|ログイン|