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『小さな花』

『小さな花』


「あー。いい天気だ」
麻帆良学園内にある教会。その屋根の上で寝転がるバチ当たりな人影が一つ。
スポーツマンらしい短いツンツン頭を指でいじりながら仰向けで空を眺める少年。

出席番号9番 春日空。

教会に身を置く修道士ながらも、その生来の自由奔放さを失うことなく教会の屋根で惰眠を貪る素晴らしい根性の持ち主である。
学校が終わった後家に帰るでもなく、また教会の仕事をするでもなく、こうしてダラダラと過ごすことが彼の日課となっていた。
最近はこの教会の上がお気に入りとなっている。時々聖歌隊の練習が聞こえてきたりして、それがまた心地良い。
ぼーっと、空を見る。
自らと同じ「空」の名を冠するこの広大な蒼は、こうして何をするでもなくただぼんやりしているだけでも小言の一つも言ってこない。まったく器の大きなことだ。
「シスターシャークティもこれくらい心が広ければ助かるんだけどねぇ・・・・」
自分の不真面目さを棚に上げて、叱られるのをシャークティの短気の所為にする空。眼前に広がる「空」の器量までは到底辿り着けそうにない器の小ささだ。
そんなことを考えつつも、ただ空を見続ける。
そうしてる内に思考も頭もぼうっとしてきた。頬を撫でる風も気持ちいい。
(あ、なんか気持ちよく寝られそう・・・)
などと考えまさに眠りにつこうとしていた空の頭に、小さな、しかし彼の意識を引き戻すには十分な声が響いた。

『ソラ』

と、名前だけを呼ぶ声。
声と言っても耳ではなく直接頭に伝わる言葉、「念話」での呼びかけ。
それに答える為に、だらけきった体に力を入れて起き上がらせ、屋根の端まで歩いて下を覗き込む。
「おーう、ココネ」
「・・・」
彼を呼んだのはフードを下ろしたシスター服に身を包んだ黒人の少女、ココネ。
空と同じく教会に身を置くシスターである。
下から常の無表情で空を見上げる。
「ちょっと待ってろー・・・よっ、と」
軽く勢いをつけ、空は地面へと飛び降りた。
普通の人間なら怪我どころではすまない自殺行為だが、彼も見習いとはいえ魔法使いだ。魔力による身体強化を行っているのでこれくらいの高さは問題ではない。
重力に従って落下し、見事に着地。
「へぶしっ!!」
したら格好良かったのだが、そこはそれ空である。着地の際に足を滑らし、盛大にズッコケた。
「・・ばか」
「・・・ほっとけ」
幸い怪我はなく、すっくと立ち上がり服に付いた土を払う。
「こんな時間まで何やってたんだ?初等部の授業はとっくに終わってるだろ」
「・・シスターシャークティのお手伝い」
「おーおーココネちゃんは優等生だねー。えらいえらい」
無造作にわしゃわしゃとココネの頭を撫でる空。褒めてるのかおちょくってるのかは微妙な所である。
「・・シスター、ソラがこの前おそうじサボったの怒ってた」
「おろ?おかしいな急に耳が聞こえなくなったー」
耳の穴をほじりながらそんな事をぬかす空を、ココネも白い目で非難する。
小学生でももう少しマシな誤魔化し方をするだろうに。
「で、なんか用か?」
「・・・いっしょに帰ろ・・・・ダメ?」
「おっけ、いいぜ。俺も暇を持て余してた所だし。一人で帰んのは寂しいもんな」
もう一度ココネの頭を撫でる。今度は優しく。
こうしていればいいお兄さんに見えないこともないのだが。
「それじゃ行くか・・・・・て、あ」
「・・・?」
どうしたの?と言う風にココネは首をわずかに傾けて空をうかがう。
「鞄、屋根の上に置きっぱだ」
確かに空は手ぶらだ。屋根の上には主人に置き去りにされた学生鞄がぽつんと佇んでいた。


「・・・・・ばか」
「・・・・・・ほっとけ」


さて、もう一度屋根と地面の間をジャンプで往復するという無駄な労力を使った後、空はココネを連れて帰路についた。
途中ココネがせがんだ為、空はココネを肩車して歩いている。
すれ違う女学生にクスクス笑われたりもしたが、まあ気にしないでおこう。

「そういや、よく俺がいるの分かるよな。俺だっていつもあそこにいるわけじゃないのに。下からじゃ見えないだろ?」
下から見えないので見つからない、というのも空があの場所を選んでいる理由のひとつである。
しかし、ココネは空があそこにいても、いつも分かるのだ。
「・・・・ソラなら、分かる・・」
「ふーん?ココネは探知能力高いもんな。念話も特殊だし。いいよなーそういう能力があって。俺なんて逃げ足くらいしか能ないもんなー」
「・・・ソラは不真面目。修行しろ」
「ハッハッハッ、聞こえんな」

 ・・・ソラ「なら」、という微妙なニュアンスの違いに、空は気づかなかった。

頭の上のココネと会話をしながらも、足を進める空。いくら女の子とはいえ、ヒト一人を乗せてずっと歩いていても息を切らさないあたり、体力はある。
と、そこでココネが何かを見つけたようだ。
「・・・あ」
いきなり空の髪を掴んで、ぐいっと無理矢理左に向けた。
「あいでっ!な、なんすかココネさん!?俺なんかしましたっ!?」
「あっち」
「へ?」
「あっち、行って」
あっちと言うのは、おそらくはココネが空の頭を向かせている方向であろう。
不思議に思いながらも、言われた通りに足を運ぶ。
「降ろして」
「ほいほい」
屈んで降ろしてやると、ココネはとてとてと歩いていき、道端の茂みの中に屈みこんだ。
何をしているのかと、空は上から覗き込む。
見ると、そこには花が何輪かひっそりと咲いていた。
正式な名前があるのかもわからないような、ほんのり青みがかった小さな花だ。
「花、か?」
「・・・(コクッ)」
無言で頷くココネ。視線は花に釘付けになっている。その顔は真剣そのものだ。
(ココネにも女の子っぽいとこあるんだな・・)
珍しく少女らしい一面を覗かせたココネに、空も思わずそんなことを考える。
「可愛い花だな」
「・・・・うん」
ちょんちょん、と花をつついたりしてココネは楽しんでいる。
なんとも微笑ましい光景である。
「・・・」
あ。と、何かを思い出したようにココネは背中に背負っていた鞄を下ろして中をあさり始めた。
何をするつもりなのか気になった空だったが、あえて聞かずにそっと様子を見守ることにした。
すると、ココネは鞄から可愛らしい小瓶を取り出した。中には何も入っていない。
そして花を二輪、根元から慎重に抜き取ると、コルクの蓋を外してそれを小瓶の中に入れた。
小瓶を目の前に掲げて、少し角度を変えながらまじまじと見つめる。
その表情は満足気だ。
「お、持って帰えんのか?」
「・・・(コクッ)」
「でもそんな小さいんじゃ飾ってもすぐ枯れちまいそうだな」
「・・・・大丈夫」
「そうか?よし、そんじゃあんまりトロトロしてると遅くなっちまうし行くか。花はそれだけでいいのか?」
「・・・(コクッ)」
また空はココネを肩車してやり、帰り道に戻る。
道中、ココネは瓶の中の花をじっと嬉しそうに見つめていた。


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『・・・ラ・・・ソラ』
「んあ?」

数日後。
相も変わらず教会の屋根で居眠りをしていた空を、ココネの呼び声が起こした。
「ああ、ココネか・・・」
まどろみの中にあった体を一度伸びをして覚醒させ、傍らに置いておいた鞄を持って下へと飛び降りた。
先日の失敗を生かし、今度は着地も完璧である。
「おっす。なんだ?今日も一緒に帰るか?」
「・・・・・いい」
てっきりそれで呼ばれたと思っていた空は怪訝そうな顔でココネを見る。
「おいおい、他人の睡眠タイムを中断させておいてそりゃないっしょ。じゃあなにか別の用か?」
「・・・・」
空がそう聞くと、ココネはポケットに手を入れて、何かを取り出した。
「・・・これ」
「ん?なんだ?」
「・・・・・あげる」
差し出されたココネの手には、10cm程の厚紙が握られていた。
それを受け取ると、そこには見覚えのあるものが。
「あ、これって・・・」
厚紙には、この前ココネが摘んだあの小さな花が押し花にされて貼り付けられていた。
上からラミネードされていて、上部にはペンチで空けられた穴に可愛らしいリボンがくくり付けられている。
手作りの栞だ。
「これ、この前の花だよな。栞にしたのか?」
「・・・(コクッ)」
「へえー、上手いもんだな」
成る程ね。「大丈夫」ってのはこういうことか。
「でも、貰っちゃっていいのか?」
「・・・うん」
「そっか、ありがとな」
空はココネの頭を撫でてやる。空に栞を渡しても宝の持ち腐れな気もするが、ここは気にしないでおこう。
「・・・それじゃ、バイバイ。空」
「あ、おい。帰るなら付き合うぞ?」
「いいっ」
空の静止も聞かずに、ココネは駆け出した。
(やれやれ、気まぐれなヤツ)
猫みたいだな、とココネの後ろ姿を見ながら空は笑った。
しかし、少し走って行ったところでココネはふと立ち止まり、空の方にわずかに振り向いた。
「・・・・ソラ」
「ん?どうした?」
ココネは黙ったままポケットに手を突っ込み、また何かを取り出した。

「・・・・・おそろい」

取り出したのは、空に渡した物と同じ栞。
あの時摘んだ二輪の花の、もう一方。
それだけ言うと、ココネは振り返って走り去った。
その背中が見えなくなるまで、空は見送った。
「へへ、おそろい・・・ね」
栞の花を見ながら、微笑む空。


振り向いた時のココネの顔が照れているように見えたが、まあ、気のせいってことにしておこう。


その後、教会にて

珍しく聖書に目を通している空に、シャークティが声をかける。
「熱心ですね空。明日は雨ですか?」
「酷いなあシスターシャークティ。俺だってたまにゃあ聖書くらい読みますよ」
「たまに、では困るのですがね」
ふと、シャークティの目が止まる。
「おや?貴方にしては可愛らしい栞ですね」
「ん、これっすか?へへへ。いいでしょ」


小さな少女の
小さな恋心が込められた
小さな花

それは今日も、彼の聖書の中で咲き続けている


.END



空 プール


どーも。春日空ッス。今俺はココネとシャークティーと一緒にプールにいる。
何故かと言うと話は一時間前……

いつものように俺は教会の屋根で昼寝をしていた。青い空、白い雲、照りつける太陽。屋根の上はとても…、
「あっち~~」
当たり前だ。現在気温は31℃。その上直射日光なのだ。下手すれば睡眠が昏睡になってしまう。
「しょーがない。どっか日陰で寝よう」
独り言をブツブツいいながら屋根から降りると目の前にココネがいた。麦藁帽子を被り浮き輪を装着して…。
「おっ、その格好はもしや?」
「ソラ、プールいこ…」
「ナイスココネ!ちょうどこの暑さに参ってたとこなんだよね。」
俺は急いで支度をすませ、出発しようとするとシャークティーが来た。
「どこ行くんですか、空?」
「ココネとプールに。シャークティーも行かない?」
「私は遠慮しときます」
「え~いいじゃん。行こうよ」
「みんなでいこ…」
「…仕方ないですね。では支度をしてくるから少し待ってなさい」
こうして三人でプールに行く事となった。

そして現在……
「ソラ、今度はあっち…」
まだ遊ぶんですか、ココネさん?さすがの俺もヘトヘトです…。
この流れるプールも何週目だろう?よく飽きないなぁ。
「ココネ、空、そろそろ上がってきなさい」
プールサイドから助けの声が。…ありがとうシャークティー。俺とココネはシャークティーの所に向かった。
三人で一休みしていると声をかけられた。
「お、空じゃん。何してんの?」
声の主は神楽坂明日太だ。後ろには刹那と木乃雄もいた。
「なにってプールでエンジョイしに来たに決まってんじゃん」
「それもそうか」
「シャークティー泳ご…」
ココネとシャークティー泳ぎにいってしまった。ココネ元気だなぁ。てかシャークティーも結構楽しんでんじゃん。
「せっちゃん、向こうのプール行こ」
「あっ、若!お待ちください!」
刹那と木乃雄も仲良く行ってしまった。てか一歩間違えると相当危ないっすよ。お二人さん。

「いいねぇ空は。あんな綺麗なお姉さんや可愛い少女に囲まれて」
「そんないいもんじゃ…、てかさらりと凄い事言ってますよ…」
「冗談だよ」
すいません。俺には冗談には聞こえません…。
「でもおまえ達見てると家族みたいだな。空が夫でシャークティーさんが妻、んでココネちゃんが娘」
家族ぅ!?…そっか、周りからはそう見えるのか。
「空。空もこっち来なさい」
「じゃっ、お呼びなので」
「おう、じゃあな」


家族…か……。まっ…、



それもいいかな?

おわり



プリンセスとナイト


 程よく月が輝き、夜の世界を照らす。
 街頭がそれを補助し、夜道でも歩くに不自由しないくらいの明るさだ。

 よい子は眠るこの時間帯。
 普段は騒がしい麻帆良の街も、この時間は一時休息。
 治安がいい日本といえども、深夜に外出する人間はそうはいない。


「こんな時間に外出なんて、なんかドキドキするわぁー」


 ……はずなのだが、外出している少女がいた。
 その隣には、10歳ほどの少年もいる。

 その少女の名前は近衛木乃香、そして少年の名前は桜咲刹那。
 まるで姉と弟のように、とても仲良さげに歩いている二人だ。


「お嬢様、早く帰らないと。夜更かしはいけません!」


 しかし、この二人は姉と弟の関係ではない。
 木乃香は護衛される理由のある、訳有りのお嬢様。
 刹那はそのお嬢様を護衛する剣士。

 そう、プリンセスとナイトの関係なのだ。


「もーちょい、な?」


「う……」


 えへへっ、と無邪気に笑う木乃香の笑顔。
 その笑顔には、鍛えた剣の業も全く意味を成さない。

 ただただ、動揺するのみ。
 ナイトはプリンセスに敵わない。


「お願ぁい、せっちゃん」


 トドメは甘ったるい声のおねだり。
 もし刹那が精通していたら、この場で押し倒してしまうであろうこの甘さ。

 しかし、10歳の少年には押し倒すなどという選択肢は存在しない。
 心臓の鼓動を早め、顔を真っ赤に染め、木乃香から目を逸らすことで誤魔化そうと必死になる。


「しっ、しっ、仕方ないですね。もうちょっとだけですよ!」


 『お嬢様のワガママ』という名目で、10歳児なりに体裁を保つ。
 ぎこちなく歩く姿は全く以って滑稽だ。

 数歩か歩いた後、派手に転ぶ。


「ああっ! 大丈夫せっちゃん?」


 刹那が転ぶのは日常茶飯事だが、今回の原因は木乃香にある。
 なので、必要以上に心配してしまう。

 転んだ当人は、下唇を噛み締め、泣くのをこらえている。
 かえってそれが泣きっ面に見えてしまうのは刹那に内緒だ。


「泣いてません! 泣いてません!」


 そんなこと聞いてないよ、なんて言ったら本格的に泣き出してしまうだろう。
 動揺で混乱している刹那は、状況判断すらできないほどにパニクってしまっている。

 どうしたらいいのか分からない、なんとも可愛い泣きっ面の刹那に、木乃香は助け舟を出す。


「せっちゃん、手ぇ出して」


「ふぇ?」


 鼻をすすりながら、言われた通りに手を出す刹那。
 木乃香は、その手をギュっと握る。


「おじょっ! お嬢様っ!?」


「うちな、ちょっと夜道が怖いねん。せやから、せっちゃんの手握ってたいんよ。……ダメカナ?」


 ダメダヨ、なんて言う理由はない。
 激しく首を上下に振り、了承の合図を送る。

 言葉を発したら泣いてるのが分かってしまうから、言葉にしない。
 転んで泣いた、なんて思われたくないのだ。(もうとっくにバレてるが)


「それじゃ、行こか」


 木乃香は刹那の手を引いて、先導する。
 いつの日か、刹那に先導される日も来るだろう。

 夜の散歩は、もうちょっとだけ続くのです。


fin.



刹那♂×刹那♀


刹那 「あ~疲れた…。」
俺は桜咲刹那。今日は晴れてせつなさんと結婚式を挙げることができた。
これからの新婚生活を想像したらそりゃあもう…、いかん、顔がにやけてきた。
せつな「…あのぉ、」
刹那 「うひゃい!!」
せつな「だ、大丈夫ですか?」
刹那 「あ、ああ大丈夫だ。なんでもない…。」
あぶなかった、もう少しで俺の情けない顔を見られる所だった。

プルルル…

刹那 「あ、電話だ。龍宮♂から?」
せつな「私も龍宮♀からだ。」

ピッ

龍宮♂「おう、結婚おめでとう。ちゃんと濡らし…」
龍宮♀「結婚おめでとう。最初は痛いかもしれないが…」

プッ

刹那・せつな「///」
あいつらめ、この反応だとせつなさんも何か言われたか。糞、スゲ―気まずい…。
どうすればいいんだ?いきなりはまずいだろ?なにか会話をしてからさりげなく。

―10分後

不味い、何も話題が浮かんでこない!どうすんだ俺?もういっちゃうか!?いっちゃっていいのか!?

ぐぅ~

刹那 「あ。」
せつな「あ、あの。そうだ何か食べましょうか?ね、それがいいですよ!」
刹那 「ああ、そ、そうだね。じゃあ何か頼むよ…」
た、助かった~。俺の腹GJ!!
せつな「じゃあちょっと待ってて下さいね。その、…あ、『あなた』。」
刹那「!!!」
せつな「あ、やっぱり呼びなれないから変ですか?」
刹那 「い、いや。大丈夫だよ」
販促だろこれ!萌え死ぬ!体内の血液が鼻に溜まってきた!こんな毎日呼ばれたら出血多量で死ぬぞ!
てかエプロンで後ろ姿でああもうあwせdrftgyふじこlp;@:

刹那・せつな「ごちそうさまでした」

いつのまにか食事終わってたー!!何も覚えてない…。取敢えず片付け手伝うか。
そ、その後は…。ヤバイ、心の準備が。落ち着け俺。手が、食器が震えてるぞ。足元がふら付く。あっ!

ポチッ

リモコン踏んだ。なんか映画やってる。
せつな「あっ、この映画好きなんです。一緒に見ましょ。」

映画を見始めて1時間くらい、もう我慢の限界だ。まずは隣に座ってる彼女の肩を…

トサッ

刹那 「うひゃあ、ごめんなさい!そんなつもりは!」
何謝ってんだ!向こうからくっ付いてきて、つーかせつなさん大胆…あれ?

せつな「すー…すー…。」
刹那 「寝てる…」
そっか今日はいろいろあったから疲れたんだな。しょうがない、よいしょ!やっぱり軽いな。
よっ!ふー、かわいい寝顔だな。こんな人と結婚できて俺は幸せだぁ。

じゃあおやすみ、せつな。

END



風香×史也SS風


とある休日、風香と史也は寮の部屋でゴロゴロしていた。
二人の保護者役の楓は山に行き、だらけていても咎める人はいない。
だから史也はソファーで文庫本を、風香は床に寝そべり雑誌を読んで寛いでいた。

『今、母性的な女がモテる!』

ゴシック体の派手な見出しのページに差し掛かり、風香は雑誌を捲る手を止めた。

『男性のアンケートによると、好きなタイプの女性は母性的という結果が出た』
『そこで今回はあなたの思い人をゲットするための方法を大公開!』

風香は寝転がっていた状態から体を起こした。

『最も男性に効果的な方法は膝枕だ。耳掃除も一緒にしてあげると効果は倍率ドン!さらに倍!』

しばらくそのページを凝視した風香。
突如立ち上がると、目の前にいた史也の文庫本を奪い取った。

「あぁ!何するのさ、今探偵が犯人の推理を始めた所なんだよ」
「犯人はヤス」
「ひ、酷い!ネタバレされた!今までワクワクしながら読み進めてたのに!」
「嘘だよ。それより、膝枕!」
「……は?」

脈絡も無く出てきた単語にキョトンとする史也。
そんな史也に風香は拳を振って力説した。

「この雑誌に載ってたの!膝枕が大事だって!」
「大事って、何が?」
「……えっと、家族の絆とかそんなので」
「そんなのって何さ」
「もー、どうでもいいだろそんなの!とにかく膝枕なの!」
「はぁ……分かったよ」

史也は嘆息してソファーに座りなおすと、膝を真っ直ぐに整え、ポンポンと太腿を叩いた。

「はい、いいよ」
「え?」
「膝枕。したいんでしょ?」
「…………」

誘われるがままに風香はソファーに横になると、太腿にゆっくり頭を乗せた。
しばらく風香はその格好のまま、膝枕するのはボクで、されるのは史也のつもりで、なんか違うと心で叫んでいたが。

(ま、気持ちいいからいっか)

そう思って静かに目を閉じた。


end.



「カモがネギを背負ってやってくる」


「でさー、そこで姉貴が…」
 ビールの入ったジョッキを片手に、カモはほろ酔い気分で語っている。
 ここは人気の屋台、超包子。朝や昼は学生たちの憩いの場だが、夜になるとちょっとしたバー的な雰囲気になる。
 仕事が終わり、ここでの一杯のために生きている…という教員もいるとかいないとか。
 カモも、ここの常連だった。
 楽しそうに、五月に日頃のドタバタを語るカモ。五月も、時々相槌を打ちながら、笑顔で黙って聞いている。
 ここの人気のもう一つの理由は、愚痴から惚気話まで笑顔で聞いてくれる五月の存在だ。
 そんな彼女の笑顔は、荒れてる人の心さえも癒すという。
「あーっ、やっぱりここにいた!」
 カモが話していると、ネギの声が背後から聞こえてきた。
「あ、姉貴ー」
「どこ探してもいないし…心配したんだよ? 一言、声かけてくれればいいのに…」
「あはは~。ごめんね姉貴~」
 頭をポリポリ掻きながら、カモはネギにコップを差し出す。
「はい、姉貴。ジュースでも飲んで落ち着きなよ」
「え、そう?」
 ネギはカモの隣に腰を下ろし、コップを受け取る。
「綺麗な色だねー。何のジュース?」
「まぁまぁ。とりあえず飲んでみなよ」
「う、うん」

  ゴクッゴクッ…

  ブバァッ!!

「お酒じゃないかーーッ!!!!」
「姉貴、汚いよ」
 飛び散ったお酒を、五月は素早く拭く。
「チューハイだよチューハイ。あんまアルコールも入ってないし…」
「入ってることには変わらないでしょ!」
「まぁまぁまぁ。お酒の一つも飲めないと人付き合いできないよー」
「私、まだ10才ですからっ!」
「じゃあこれは?」
 そう言って、再びネギにコップを差し出す。中には、氷と白い液体。
「……カルピス?」
「そ。それだったらいいでしょ?」
「う、うん…」
 疑いながらも、カルピスを一口飲む。
「あ、おいしい」
「でしょー?」
 その美味しさに、ネギのカルピスはあれよあれよという間に減っていく。
 …多少、五月の笑顔が引きつってるのは気のせいだろうか。


「うぅぅ~~…」
 ネギはカウンターに突っ伏して眠っていた。
「あちゃー、少し飲ませすぎたかな」
 実は、カモがネギに飲ませたのはカルピスではなく、カルピスハイだったのだ。
 結局、ネギは四つもコップを空け、遂に潰れた。
「姉貴ー、起きてよー。お~い」
 カモはネギの頬をぺちぺちと叩いたり、むにゅぅと引っ張ったりするが、ネギが起きる気配は無い。
「しょうがないなぁ…」
 言うとカモは自分の背中にネギを乗せ、言わば「おんぶ」の状態で立ち上がる。
「ごめんね、さっちゃん。迷惑かけて」
 その言葉に、五月は笑顔で首を横に振る。
「はは、じゃあまたねー」
 カモは五月に小さく手を振り、超包子を後にした。


 寮へ向かう道に、カモの影。その背中にはネギ。
(…姉貴って軽いんだな…。って、10才だし当たり前か)
「うぅ~ん…」
 ネギが軽く唸る。
「あれ…? 起きたかな?」
 カモが立ち止まると、ネギはカモをぎゅっと抱きしめる。
「…お…かぁ…さん…」

  ザァッ…

 風が、吹いた。
 ネギの、恐らく寝言に、カモは胸に痛みを感じた。

 まだ10才。

 しかしその小さな背中に背負ってるものは、とても重くて。

 辛い過去を持って、寂しい思いもしてきた。

 だけど、みんなの前ではいつも笑顔で。

 苦しみや、辛さを感じさせない笑顔で。

 しかし心では、寂しかったんだろう。辛かったんだろう。

 夢にまで、見るほどに。

「……姉貴…」
 カモは呟くと、夜空を仰ぐ。
 吹く風が、お酒で火照った体には丁度いい。
「大丈夫だよ。姉貴には、私がいる。姐さんも、このか姉さんも、刹那の兄さんも。うぅん、クラスのみんなや、先生たちもいる」
 優しく、微笑む。
「もっと、頼って、甘えてもいいんだよ」
 それに答える声はなく。
 しかしカモは、届いてると思った。
「まさに、『カモがネギを背負ってくる』だね」
 笑いながら、カモは再び歩き出す。
 ネギが背負っているものを、半分背負って。

 ネギが、いつまでも笑っていられるように。

 その日まで。いや、それからも。

 このひとに、ついていこう。



      終わり



刹那 バッドエンド(?)


一人の少年「桜咲刹那」は木にもたれ掛かっていた。その体は傷だらけだった。

―もう限界か?体がうまく動かねぇ…。ここで終わりか?…龍宮、まだ戦ってる。 すまない、最後まで戦えなくて…。
 てか何で俺戦ってたんだっけ?
刹那は自分の左腕を見た。

―そうだ……


刹那 『何してるんです?』
せつな『ん、ちょっと…ハイ、出来た!』
せつなは自分の髪留めを刹那の腕に巻き付けた。
刹那 『これは?』
せつな『御守り。絶対生きて帰ってきてね。』
刹那 『…ああ、約束する。』


―……大切な人を守るためじゃないか!弱音なんか吐いてられない。

刹那の瞳に再び光が戻った。刹那は立ち上がると龍宮の方へと向かった。
龍宮「…!!何してる!大人しくしていろ!死にたいのか!」
刹那「……龍宮、任務の依頼だ。聞いてくれるか?」
龍宮「何?」
刹那「任務の内容は……彼女、せつなを影ながら支えてやってくれ!」
龍宮「な!?オマエまさか……!?」
刹那は真っ直ぐと龍宮を見ていた。その顔は覚悟を決めた表情だった。
龍宮は悟った。もう何を言っても聞かないと。ならば今自分に出来る事……
龍宮「……いいだろう。報酬は、」

それは……、

龍宮「報酬は『平和な日々』だ。………行って来い。」

それは彼を安心して送り出すこと。

刹那「ありがとう。」
刹那は真っ白な羽を広げると真っ青な空へと飛んでいった。

―ありがとうみんな。俺、今まですごく幸せだった。
 ネギ子先生、虐められたりもしたけど楽しかったです。
 明日太さん、俺はあなたの元気に何度も救われました。
 このちゃん、最後まで守れなくてごめん。でも安心して、あなたは強い人です。立派に生きてください。
 ……せつな、こんな俺を愛してくれてありがとう。君には沢山の大切な物を貰ったよ。…残念だが約束は守れそうにない。

刹那は髪留めが巻きついている左腕を握った。

―でも、俺はいつまでもお前の事を見守ってやるから安心しろ。

刹那「神鳴流剣士、桜咲刹那参る!!」




―五年後

世界樹の近くの墓標に二人の親子がいた。

せつな「ただいま、あなた。」

あの後、彼女は刹那の死を聞いた。彼女は大声で泣いた。一日中泣いた。そしてしばらく無気力な生活を送った。
しかし、ある日彼女は夢を見た。刹那が出る夢だった。夢の中で刹那は語りかける。
刹那『俺はいつでもお前の事を見守ってる。だから俺の分まで生きろ。』
やがて子供が出来た。愛するあの人の子供。この小さな命を守るため強く生きる事を誓った。
そして現在に至る。

セツナ「おか-さん。おと-さんってどんな人だったの?」
せつな「ん?そうね、格好良くて、強くて、優しかったよ。」
セツナ「じゃあ僕も強くなる!それでおかーさんを守るんだ!」
せつな「ふふ、ありがと。」
セツナの目には優しさが溢れていた。それを見てやはりあの人の息子なんだと思った。
せつな(あなたの子は元気に育っています。)
二人はお墓の掃除おしてから手を合わせた。やがて帰る時間がきた。

セツナ「おとーさーん、バイバイ。」
あなたが守ったこの平和な世界、一瞬一瞬精一杯生きて行こうと思います。だから最後まで見守っててください。
輝く明日に、私達の未来に向かって、
せつな「…いってきます。あなた。」



『いってらっしゃい』

END



刹那 挙式


「いよいよ、か――――」

ある小さな教会の一室。
白いタキシードを着込んだ刹那は、天井を仰ぎながら小さくつぶやいた。
その顔のあちこちに傷跡が薄く残っているのは、先日の戦いで受けた傷の深さをありありと物語っている。


実際、刹那はほぼ“死んでいた”。
全身に刻まれた傷、とめどなく溢れ出る鮮血。
それらをものともせず敵を斬り、裂き、突き、抉る刹那。
彼には、絶対に失えない恋人(ひと)がいた。
全てを捨ててでも護りたい、大切な婚約者(ひと)がいた。
愛する者を背負った彼は、気高い武神のごとき闘気を纏い闘った。
その刹那に、一片の憐憫すら与えずになお傷を刻み命をそぎ落とす敵。
刹那の剣を掻い潜り、その体に“死”を刻み込む悪意を全て倒したとき、刹那の体もまた、力の全てを失って崩れ落ちた。
彼が死の淵に落ちようとした、まさにそのとき。
彼の眼に浮かんだのは、愛しい、愛しい少女の姿。

『アホ・・・・・・こんなに傷作って帰ってきて・・・・・・』

――――ああ、やっと・・・一緒になれるんやなぁ・・・・・・

震える体、こぼれ出る涙。

――――もう、何も・・・辛くない・・・幸せに、してやれる・・・・・・

その言葉が彼の意識から消えると同時に、彼の愛刀は、力を失った彼の手から滑り落ちた。

本来なら、刹那はそこで死に、永久に目覚めることはなかっただろう。
だが、天は愛する者のために刃を振るう彼の気高さに心打たれたか、それともいわれなき迫害を耐え生きてきた彼と、彼の愛した少女へのせめてもの償いか。
駆けつけたネギ子達、その中にいた木乃香と木乃雄の治癒魔法の力によって、刹那は死の暗闇から抜け出した。
ただ傷を癒されただけなら、身体を離れかけた彼の魂は戻らなかったかもしれない。
しかし――――――――

「一緒に、暮らそうって・・・結婚しようって、言うたのに・・・・・・っ! 嘘、付きっ、嘘付きぃっ! 眼ぇ、開けてよぉっ!」

愛する少女の、悲しみと絶望がないまぜになった叫び。

――――もう二度と、辛い思いはさせたくない。

――――幸せに、してみせる。

その強い想いが、刹那の魂を呼び戻した。

刹那が眼を開けたとき、彼が愛した少女はもちろん、周りにいた仲間達も、天地を揺るがすほどの歓声をあげた。
大粒の涙を流しながら、「よかった、よかった・・・」とつぶやく者。
お互いに抱き合って喜びを噛み締める者。
言葉を発することなく、ただただ涙を流している者。
自分が“生きている”ことを歓喜する声に包まれながら、刹那は思った。

――――ああ、俺は・・・・・・なんて、“幸せ”なんだろう。

死から逃れたから安堵からではない、再び命を手にした喜びでもない。

――――自分の“生”を心から望んでくれる人がいる。

数多の迫害に晒され続けた彼は、ただ、それだけで十分だった。



「どないしたん? ぼーっとして」

「あ・・・ちょっと、考え事です」

眼をそっと閉じたまま、思いにふけっていた刹那を呼ぶ澄んだ声。
そこには、彼と同じ名と純白の翼を持つ少女――――彼と苗字まで同じ、桜咲刹那が立っていた。
(わかりやすくするため、それぞれを「刹那♂」「刹那♀」と表記させていただく。 最後の性別記号は無視していただいてかまわない)
刹那♀が身にまとっているのは、彼女の翼と同じ、どこまでも汚れのない白いウェディングドレス。
これで刹那♂の着ている白いタキシードにも合点がいくであろう。
そう――――二人は、今日この教会で結婚するのである。
しばらく無言で見つめあう二人――――ふと、刹那♀が静かに微笑んだ。

「えっ・・・ど、どこか変ですか?」

慌てて自分の格好を確認する刹那♂、しかし刹那♀は微笑みを絶やさないままゆっくりと彼に近づいて、そっと、しかし力強く抱きしめる。

「――――ありがとう、帰ってきてくれて」

かすかに震える声で、愛する人の胸に顔をうずめたまま、言葉を紡ぐ。

「もし、貴方が死んでたら、うち、おかしくなってもうたかもしれへん」

初めて出会った、自分と同じ悲しみを知る人。
悲しみに囚われ続けていた自分を、優しく諭してくれた人。
『一緒に暮らしましょう』と言ってくれた人。

「後でもう一回言うことやけど、今、言わせて」

周囲から、ずっと「化け物」と呼ばれてきた。
大好きな親友といても、その記憶が消えてくれなかった。
怖くて、さびしくて、壊れてしまいそうだった自分。
そんな自分を助けてくれた、彼。
私は、私は――――――――

「――――私は、貴方を、愛してます。 ずっと、ずっと、一緒にいてください」

自分の胸で、小さく震えながら、想いを紡ぐ愛しい少女。
自分と同じ迫害に晒され、じっとそれに耐え続けていた少女。
自分の命を投げ捨ててでも、護ろうとした少女。
――――『幸せにする』と誓った少女。
愛する花嫁を抱き返し、刹那♂は答える。

「はい――――僕は、絶対に貴方のそばで、貴方を護ります。 何があろうと、絶対に」

その言葉に、ゆっくりと顔をあげる刹那♀。
眼に涙をためながらも、彼女は心の底から幸せそうに微笑んだ。
そのとき。

こんこん。

「二人ともー、準備でけた?」

「そろそろ始まってまうで、急いでや~」

「「は、はいっ!」」

静寂が包んでいた部屋に響くノックの音と、その後に続く少年と少女の声に二人そろって素っ頓狂な声をあげ、顔を見合わせて苦笑する二人。
二人を呼びにきたのは、二人の幼馴染である近衛木乃香と近衛木乃雄だ。
この結婚式で進行役を務めることを買って出たのは、幼馴染の幸せを心から願う純粋な気持ちからだろう。
そして、花婿と花嫁の二人は、祝福してくれる人たちの待つ、ドアの外へと歩き出した。



「――――貴方達は、いついかなるときも、互いに助け合い、愛し合うことを誓いますか?」

「誓います」

「――――誓います」

穏やかな光が、ステンドグラスを通して教会の中を照らしている。
神父の役目を務めているのは春日空、その横にシスターの姿で小箱を持って控えているのは春日美空だ。
本来ならば二人がこんな役回りをしていいはずはないのだが、「お世話になった人たちだけで式を挙げたい」という新郎新婦の願いにより、二人がこの役を負うことになったのだ。
そして、神父空の問いに二人が答えたあと、美空がゆっくりと二人の前に移動し、小箱をゆっくりと開ける。
その中にあったのは、いたずら好きな二人が仕込んだ蛙などではなく、銀色に輝く、二つの指輪だった。
やや小さいほうを新郎が、大きいほうを新婦が取り、互いに向き合う。
一瞬、しかし二人にとっては十分な時間見つめあい、互いの指に指輪をはめる。

「――――いよっしゃ! これでお二人は夫婦だかんねー、いいなぁーラブラブ新婚生活!」

「あーあ、桜咲がうらやましいぜ、こんな可愛い花嫁さんなんてさぁ。 神様ー、俺にも出会いをぷりーず!」

二人が指輪をはめ終えた瞬間、それまでの空気を吹き飛ばすかのように美空と空が騒ぎ出す。
これまでおとなしくしていた分を取り替えそうかとするようなハイテンションぶりに苦笑いする刹那♂と、それすらも嬉しそうに微笑んでいる刹那♀。
すると出口のほうから、二人を呼ぶ声が飛んできた。

「せっちゃーん! そろそろみんなのとこ行ったってー!」

嬉しそうに叫ぶ木乃香の声に答えつつ、二人は教会の出口へと向かう。
扉のところで立ち止まると、木乃香と木乃雄がゆっくりと扉を押し開ける。
そこには――――

「刹那さん、おめでとうございます!」

「桜咲さん、今までみたいに私にからかわれて慌てたりして花嫁さんに愛想尽かされたりしないでくださいよ?」

素直に祝福の言葉を捧げるネギと、ひねくれた言い回しをするネギ子。
正反対な二人だが、心からの祝福が顔に表れているのは同じだった。

「刹那さん泣かすんじゃねえぜ、桜咲!」

「よかったでござるな、刹那殿。 お幸せにでござる・・・ニンニン♪」

「あの時はひやひやさせられたが・・・これで一安心だな」

「ううう、よかったよぉ~」

「ええ、まったくです」

色取りどりの紙ふぶきの中で飛び交う、クラスメイトたちからの祝福の言葉。
刹那♂の世界のクラスメイトも、刹那♀の世界のクラスメイトも一同に会し、幸せな二人を祝っている。
刹那♀は涙を浮かべながらも微笑んで愛する人を見上げ、刹那♂は愛する人に微笑み返しながらそっとその背中を押す。
そして、刹那♀は手にしたブーケを思い切り高く投げ上げた。
ブーケが飛んだ空は、雲ひとつない、美しい青空だった――――――――


蒼穹を駆ける純白の翼。
少女の翼を縛る悲しみの鎖は、少年の想いによって断ち切られた。
自由となった少女は、愛する少年と共に大空に飛び立つ。
――――“自由”という名の青空へと。



千雨♂×夕映


「明日太さんはこんな問題も解けないのですか? 情けないですこと!」

「うるせーコラァ!!」


 うるせーのはお前だ、神楽坂。
 あんな問題くらい解けるようになれっつの。

 ああ、またいいんちょと神楽坂が喧嘩始めやがった。
 よく飽きねーのな、アイツら。
 そういや喧嘩するほど仲がいいっつーしな、実は付き合ってたりすんのか?


「いつもいつもうるせーんだよ! 出来ないことの一つや二つくれーあんだろ! ここは日本なんだよ!!!」


「ネギ子先生の授業に加えて私が直々に補習してさしあげているのに、いつまで経っても出来ないから言ってるんです!!」


 おや、放課後も一緒なのか。
 こりゃ付き合ってる可能性大だな。

 とりあえずお前ら、担任のガキが半ベソかいてっからもう止めたれ。


「うるせーなぁ……」


 オレの名前は長谷川千雨、学生兼ホストだ。
 まあ、ホストについては突っ込まないでくれると有難い。
 質問は禁則事項ということでよろしく。


「二人ともやったれー!!」
「いつものトトカルチョやるか! いんちょに食券10枚!」
「明日太に20枚!」
「ふ、二人とも止めてくださーいっ!!」


 うるせーのは神楽坂だけじゃねぇ、クラス全体的にうるせー。
 文化祭の準備とかじゃねーんだから、あんまはしゃぐなっつーの。


「……全く以ってうるさいです」


「ああ、いつもと変わらずうるせー」


 隣席の綾瀬はオレと同じで、このクラスの騒がしさに呆れている。
 こーやってクラスがバカ騒ぎし始めた時は、なんとなく話している。

 よくあるだろう?
 教室じゃ話さねーが、移動教室した時だけ話す奴。
 オレと綾瀬は、そんな感じの関係だ。
 隣だっつーのに、おかしな話だけどな。


「なあ綾瀬、アイツらデキてると思わねーか?」


「デキ……てるのでしょうか?」


 顔を赤くしてら。
 この手の話を振ると、綾瀬は決まって恥ずかしがるんだよな。


「いや、あくまで憶測の話だけどよ」


「でも、あのように公然と喧嘩できるということは、少なくとも仲は悪くないということです」


「そー思うだろ? 一人の男と女がトムとジェリー状態だぜ? 仲良く喧嘩しな、ってか?」


「実際、仲良く喧嘩してますし」


「ははっ、ちげーねぇ」


 お、終了のチャイム。
 チャイムをきっかけに、あの二人は仲良く喧嘩し終えると。

 そしてまた授業が進まないと。
 テスト範囲が狭くなるし、オレにとっちゃいいことだから構わないんだけどよ。


「あのガキ、また桜咲にあたってらぁ」


「ネギ子先生が言ってる『タンシオ』って何でしょう?」


「さぁ? さ、移動移動」


 綾瀬は図書仲間のトコへ行く。
 これでしばらく、綾瀬とは話さないワケだ。

 …………誰か騒ぎ起こさねぇかな。


fin.




屋上にて


俺、長谷川千雨は、何かつまらない事があると屋上へ向かう。
放課後の屋上に佇んでいると、なんとなくしんみりするからだ。
何処からか聞こえる運動部の掛け声が疎外感を生み出したりして。
実際は仲間外れなんてものではなく、単に俺が好きで帰宅部を選んでいるのだが。
まぁとにかく、独りきりの放課後の屋上ってのはダウナーな思考を働かせるのには向いている。
思考の先は、俺の人生へと。
毎日同じ事の繰り返し。
朝起きて飯食って学校で馬鹿なクラスメートを横目で眺め、夜は店で深夜まで客の相手、そして帰って風呂入って寝る。
なんて単調で、つまらなく、意味のない日々。
果たしてこの生きるという作業を続ける意味なんてあるんだろうか。

「……死ぬかな」

放課後の屋上で一人、呟いてみた。
なるほど、声に出してみるとなかなか魅力的な案に思える。
ここから紐無しバンジーなんてやったら面白そうだ。
よし、ここは一つ死んで見るか。
俺は屋上に設置されている転落防止用の壁と向き合った。
壁はあくまで転落防止で、自殺防止ではない。乗り越えるのは簡単だ。
軽くジャンプして体を乗っけて、壁の上に立つ。
いつもより高い視界で辺りを見回し、俺は思った。

……なんだ、死ぬ間際になっても何の感慨も湧かないじゃないか。

急に死ぬ気が萎え、溜め息一つ吐いて屋上の内側へと降りようとすると、

「死ぬなー!」

そんな大声と共に、ドン、と外へ突き飛ばされた。

「へ」

思わず間抜けな声を上げる。

おいおいちょっと待てよ今俺は戻ろうとした所で――。

俺の体が重力に沿って落下し始めた。

「う……あぁぁぁ!?」

無我夢中で腕を伸ばす。
反応が早かったおかげか、腕はなんとか壁の上に腕が引っ掛かった。
力任せに体を引き上げ、殺人未遂犯へ怒声をぶつける。

「てめぇ、朝倉、殺す気か!」

怒鳴りつけられた方、朝倉和美はにっこり笑って、

「シャレだよ」
「そんなもんシャレになるか!」


「で。何で自殺なんてしようとしたの?」
「俺は戻ろうとしてたんだけどな。それと人を死地に追いやった後は、まずごめんなさいだろ?」
「ごめんなさい謝るから頭から手を離して。なんかミシミシ言ってるし」
「まぁいいだろう」

なんとか無事に戻った俺は、朝倉の頭を圧迫していた手を尊大な態度で離してやった。
朝倉は頭を手で押さえながら、殺す気か、と呟く。
うん。お前が言うな。

「でも最初は死のうとしたんでしょ?何故に自殺なんて?」
「別に。生きる事がつまらないと思っただけさ」
「あはははは!何その今時の若者っぽい発言!」

……なんだろう、今凄く馬鹿にされた気がする。

「お前だって少しはあるだろ?こう、死にたいと思った事とか」
「ん?ないけど」
「そうだろ?つまり今の俺も――なんだって?」
「私、死にたいなんて思った事ないけど」

ンな馬鹿な。
人間生きてりゃ死にたいって思う事の一つや二つ、普通あるだろ。
というか無いと変だ。
でも、コイツは『なんでそんな事思うのか不思議で仕方ない』って顔をしている。

「本当に、一度も思った事ないのか?」
「あるわけないじゃん」
「テストの点が悪かった事は?」
「それはあるけど」
「誰かに怒られた事とか」
「あー、記事の件で部長に何度も怒られるけど」
「何かとんでもないミスをした経験は」
「そんなの人間一つや二つあるでしょ」

「……そういう時、少しくらい死にたいとか思わないのか?」
「全然」

朝倉はそう言い切った。

「だってさ、テストの点は次頑張ればいいじゃん?怒られたら認められた時もっと嬉しくなるし、ミスなんてどっかで挽回できるモンでしょ」

それは。
次があった時の話で。
それは。
自分は考えもしなかった発想だった。

「それにさ。人生って楽しいじゃん、自分で終わらすのは勿体無いって」

そう言った朝倉の顔は、本当に楽しそうで。
全く、なんて楽観的で能天気で夢見がちで、馬鹿みたいに前向きな奴。
こういう奴には敵わねぇな、と苦笑した。

「む、何笑ってるの?」
「いや、別になんでもないさ。お前が良い女だって思ったんだ」
「なに?ひょっとして惚れちゃった?」
「そうだな、今度デートしてくれよ」
「おぉ、NO.1ホストにデートに誘われるとは光栄だね」

軽口を言い合い、俺たちは笑った。

「さて、私はもう行かないと」
「なんかあるのか?」
「明日の記事のネタ探しよ」
「それならいいのがあるぜ。『屋上で殺人未遂発生!』てな」
「まだ根に持ってるの?」

笑って流してよー、と言いながら朝倉は屋上を去って行った。
流せだって?冗談じゃない。
今日の事は多分ずっと忘れないだろう。

「さて、私も行くか」

もう壁の向こうに未練はなかった。
思考の先は、話題のデートスポットへと。
マジで誘ってやったらアイツどんな顔するかな。
飯くらいなら、奢ってやってもいいかもしれない。
俺は誘った時の朝倉の顔を思い浮かべ、含み笑いしながら歩き出した。


end



月読♂×千草


「はぁ・・・・・・」

もう何度目かわからんようなため息がまた出てきよりました。
ウチは天ヶ崎千草、関西呪術協会の呪術師どす。
以前、呪術協会の長の一人娘、木乃香お嬢様の力を利用して関東魔法協会の連中を一掃しようとして失敗、こうして懲罰を受けるハメになっとります。
幸い、協会内の懲罰房で一定期間謹慎する、というだけで済みましたけど、やはり腹立たしいことに変わりはありまへん。
成功まであと一歩のところで、あのサウザンドマスターの息子とその仲間の小娘共に負けさえしなければ・・・・・・!

「・・・・・・ッ!」

思わず、目の前の机を思いっきり叩いてまいました。
こんなことで現状がどうにかなるわけやありまへんけど、溜め込んでばっかりやったらやってられまへん。

「駄目ですよ~、千草はん。 あんまり乱暴なことしたら~」
「・・・ほっといておくれやす、月詠はん」

ひょっこり顔を出した中学生くらいの男の子にとがめられて、向こうが正しいとわかっとっても、ついイライラしてまうのも、この状況のせいどす。
そのうえ、先の計画で手を組んだこの神鳴流の剣士、月詠はんが最近どうにもウチにかまってきよります。
同じ懲罰房の別室で謹慎処分を受けとるから退屈なんはわかりますし、あの小娘達よりちょっと年下の男の子やから、暇をもてあましとるんもわかりますけど、こう毎日毎日来られたらさすがにうっとうしいもんどす。
やからなるべく、適当にやり過ごすようにしとるんどすが、どうもこの子は鈍いというか、なんというか・・・
うちがどれだけ邪険に扱っても、ニコニコしたままずっとそばにおるんどす。
一体何が楽しいのやら・・・・・・

「千草はん、どないかしはりました? 何かさっきからぼーっとしとられますけど」
「へっ? べ、別に何もありまへんえ!」
「そうどすか~? ならええんですけど・・・ あ、お菓子食べはります?」

なんやそんなこと考えとったら、いつの間にか月詠はんが目の前で顔を覗きこんどりました。
慌てて後ずさって、なんでもない、とは言うてみたものの、声が上ずってもうたのは自分がよぉわかってます。
やけど、やっぱりというかなんというか、月詠はんは何もなかったみたいな顔してまたニコニコしながら、戸棚のほうに行ってまいました。
ウチの部屋なはずなんやけど・・・まぁ随分あちこち探って回っとりましたから、どこに何があるかもうわかっとるんでしょな。

それにしてもあの子、どこまで鈍いんやろか・・・
そやけど、落ち着いて考えてみたら、何もウチが飛びのくことなかったなぁ。
まぁ、目の前で顔覗き込まれても気づかんかったウチもウチですけど。
にしても月詠はん、結構可愛らしい顔しとったなぁ。
シネマ村でノリノリで女装しとったときは、さすがに危ないんちゃうかと思いましたけど。
いざ着替え終わってみたら、女の子いうても通るくらい似合とりましたし。
あんな風にニコニコしとると、ホンマ可愛らしい・・・・ハッ?!

「ななな、何考えとんのやウチはッ!!!」
「え、どないしました~?」
「なんでもありまへんっ!」

自分のあんまりにもアホらしいもうそ・・・思考をかき消すために思わず大声が出てまいました。
なんや戸棚のほうでごそごそやっとった月詠はんが覗いてきよったのを慌てて押し戻してことなきを得ましたけど。

まったく、こんな風にカンヅメにされとったらやっぱりおかしな考えが浮かんでまうもんなんどすなぁ。
よりにもよってあんな子供に取り乱してまうとは、迂闊でした。
よぉ考えたら、取り乱すようなことはどこにもあらしまへん。
ウチはあの子より年上どすし、呪術に関しては協会の中でも一目置かれるほどですし(ガキや小娘に負けたけど)、もちろん年相応に恋愛経験だってありますし(振られましたけどっ!)・・・
・・・なんや、言わんでええことまで言うた気がしますけど・・・・・・

とにかく!
うちが月詠はんのことで取り乱さなあかんようなことは何もないんどす!
そう、何も・・・・・!!

「千草はん、お茶はいりました~」
「うひゃいっ?!」
「・・・千草はん、ホンマに大丈夫ですか? さっきからなんや色々おかしい声出してますけど・・・」
「だだだ、大丈夫どすっ」

まっっっっったくこの子はぁぁぁぁぁぁぁっ!!!
鈍いんかわかっとるんか知りまへんけど、いつもいつも間の悪いときにばっかり声をかけて・・・・っ!
そんなんやからウチもあんなふうにみっともなく取り乱してまうんどす!
ウチは別にどうとも思ってまへん!
別に、どうとも・・・・・・・

「・・・はん、千草はん?」
「え?」
「だ、大丈夫ですか? なんやえらい怖い顔してはりましたけど・・・」
「・・・別に、いつものことどす」

ウチはどうやら、また考えこんでもうとったみたいどす。
気がついたらいつの間にか、月詠はんがウチの向かい側に座っとりました。
でも、前みたいに取り乱しはしまへん。
そんなことしたら、向こうの思うツボ。
そう、これでええんどす。
こうやって適当にあしらっておけば、そのうち愛想つかしてウチに寄り付いてきたりはせんようになるはず。
これでええんどす、これで――――

「そ、そうですか・・・ あ、お、お菓子、食べはります?」

そういって月詠はんが和菓子をウチの前に出してくれはりました。
けど、なんや怖がってるみたいな、そんな感じどす。
ウチの態度が変わったのに戸惑うとるみたいどすなぁ。

「いりまへん。 またあとでいただきます」
「・・・す、すいません・・・」

きっぱりウチが断りを入れると、月詠はんはうつむいてまいました。
ちょっときつう言い過ぎたかな・・・
いいえ、これでええんどす。
これぐらいせんと、この子にはききまへんから。

「あ、あの、千草はん・・・」
「・・・なんどす?」

聞こえるか聞こえへんか、ギリギリくらいの声で、うつむいたまま、月詠はんがウチを呼びました。
随分こたえてますなぁ、いっつも嫌になるくらいまっすぐウチの顔見て話しよるのに。

「ボク、やっぱり、邪魔ですか?」
「・・・ええ、邪魔といえば邪魔どす」
「・・・・・・っ!」

ようやっと気づいてくれましたか。
そうどす、あんさんの言うとおりなんどす。
やから、ウチのことなんか気にせんと、ほかのとこでニコニコしとったら――――

「・・・ぐっ、えぐっ・・・うぅっ・・・」
「え?」

妙な声がする、と思うて月詠はんのほうを見たウチには、信じられんような光景でした。
あのいつでもニコニコ笑って、能天気の代表みたいな月詠はんが、泣いとるなんて。

「な、なんも泣かんでもええでっしゃろ! 情けない・・・」
「だっ、だって、ボク、千草はんに、きっ、嫌われ、てもうてぇ、うぐっ、えぐっ・・・」

ウチに嫌われたから、泣く?
なんで、なんでそうなるんどす?
ウチに嫌われるくらい、たいしたことやないはずでっしゃろ?
やのに、なんで――――――――

「ごめっ、ごめんなさいっ、ボク、嫌われてるなんてっ、知らんくて、ちょっとでも、千草はんに喜んでもらお思ただけでっ・・・・」

ウチに、喜んでもらいたくて?
そんな、ウチはそんなことされるようなこと、なんもしてへんのに。

「なんで、なんでそないなこと――――」

気がついたら、勝手に声が出とりました。
どう考えたってわかりまへん、なんで月詠はんがウチにそんな気遣いをするような理由があるんどす?
――――月詠はんは、無理やり泣き止んで、息を詰まらせながら、答えてくれました。

「ぼ、ボクっ、子供やのに、剣しかとりえないのに、千草はんのこと、好きになってもうてっ、どうにもっ、できんくなって、ちょっとでもそばにおらしてもらいたくてっ・・・」

ウチのことが、好き?
そんなアホな、理由があらしまへん、手を組んどったときやって、優しくした覚えなんてありまへんし、ここに来てからはずっと、冷たく当たっとったのに。
なんで、なんで―――――なんで?

「ぼ、ボク、この前の仕事が、初めて任された大きな仕事でっ、子供やからたいしたことさせてもらえへんと思とったのに、先輩と戦うなんて大役を任せてくれてっ、こっちに来てからも、毎日毎日押しかけてもっ、そばにおらしてくれてっ、調子に乗ってもうてっ」

ああ、やめて、もうやめて。
ウチはそんなええ人ちゃいますのや。
子供でも何でも利用できるだけ利用したろと思ただけで。
野太刀振り回す同門相手やったら二刀流は戦いにくいやろと思ただけで。
うっとうしい、出て行けなんていえるだけの度胸もなかっただけで。

――――――――え?

そうや、なんでそう言えんかったんや?
一言「出て行け」言うたらそれで終わりやのに。
うっとうしいうっとうしい思とったのに、出て行って欲しいとは思てへんかった。
わからへん、なんでウチは、わからへん。

「調子に、乗ってしもて、すっ、すいませんっ、もう、ご迷惑、かけんように、しますからぁっ・・・」

そこまで言うて、月詠はんはまた泣き出してまいました。
ウチにはどうすることもできまへんでした。
ウチも、自分がなんできっぱり月詠はんを拒絶せぇへんかったんか、わからんかったから。

――――追い払うのも面倒やと思っとった?
んなアホな、うっとうしい思うんやったら追い払うのが一番手っ取り早いのに。
――――おってもおらんでも別に同じやった?
それやったらいちいち取り乱したりしまへん。

――――ホンマに、月詠はんのこと、なんとも思てへんかった?

そう思たときには、いつの間にか、ウチは月詠はんの頭を抱きしめとりました。

「ち、千草、はん・・・?」
「すいまへん・・・すいまへんでしたなぁ・・・」

ああそうや、うちは最初から、こうしたかったんや。
自分に素直になるのが怖くて、理由をつけてごまかそうとしとったんや。
ウチのがこの子よりよほど年上やから。
子供を好きになったなんて、みっともないと思とったから。
やけど――――――――

「もう泣かんでええどす・・・ ずっと、ウチのそばにおってくれればええですから」
「えっ――――――――」

ぱっと、顔を離してウチの顔を見つめる月詠はん。
ああ、こんな涙でぼろぼろなってもうて・・・ごめんな。
もう、そんな顔、せんでええから――――

「ウチも、月詠はんのことが、好き、どす――――――――」

そして、ウチは、月詠はんに、そっと口付けました。
自分に、素直に。



決して結ばれない恋


 そんなの、漫画やドラマの中でしかありえないと思ってた。

 相手を想う気持ちがあれば、どんな障害も乗り越えられる。

 そう、思ってきた。

 でも、そんなの綺麗事だ。

 彼女に出会って初めて分かった。

 この世には、決して結ばれない恋があるということ。

 そして。





 自分の無力さ。




 報道部、朝倉和実。
 中等部3-A。出席番号3番。
 好きなもの、特大スクープ。
 嫌いなもの、巨悪。
「あ~ぁ、どっかに超特大スクープでも落ちてねぇかなぁ」
 愛用のデジカメを片手に、和実は校内を歩き回る。
 スクープを求めて彷徨う旅人は、時には体育館裏に忍び込み、時には教会の屋根に上って周りを見下ろしてみる。
 謎のシスターが迷惑そうな顔でこちらを見ているが、無視してみる。
「はぁ、次のまほら新聞どうすっかなぁ」
 また新田先生でも尾行してみようか。
 そんなことを考えていると、どこからともなく声が聞こえてきた。
『朝倉く~ん』
 名を呼ばれ、声のした方向に振り向く和実。
「あぁ、さよちゃん」
『やっぱりここにいたんですね』
「ん、ここ見晴らしもいいし風が気持ちいいからね」
 さよと呼ばれた、この少女。見たところ、足が無い。
 それもそのはず。彼女は幽霊なのだ。
 和実とはクラスの幽霊騒動がきっかけで仲良くなり、今では学園内にいる時はいつも一緒だ。
「んで、なんかいいスクープ見つかった?」
『いえ…これといって…』
「そっかぁ」
 和実は残念そうに溜め息を吐くと、伸びをする。
「やっぱスクープってのは、自分の足で探さないと見つからないもんなんだなぁ」
『そうですねー…』
「あ、いや、別に今までさよちゃんが見つけたスクープが駄目だって言ってるんじゃないよ?」
『それは分かってますけど…。次のまほら新聞、どうするんです?』
「ぅぐっ…。どうしようか…」
『また新田先生でも追い掛けますか?』
「…やめとこう。今度はどこに逃げればイインディスカー?」
『ふふ、そうですね』
 微笑むさよ。その横顔を、じっと見つめる。

 この美しい笑顔を見られるのは、クラスでもほんの数人。

 もったいない。他の奴らはこの美しい、けれども可憐な笑顔を見る事ができないのか。

 それと同時に、安堵もする。

 だって、多分、嫉妬する。

 この笑顔を見て、彼女に恋焦がれる奴に。

 俺が、そうであるように。

 いつからかな。分からない。

 気付いたら、彼女に恋していた。

 そうだ。あの時かな。

 確か、雨が降っていた。いつもみたいに一緒にスクープを探していた時だ。

 突然の大雨。

 俺はずぶ濡れになりながら、木陰に避難した。

 彼女は、幽霊だからか濡れはしなかった。

『ひえー、すげぇ雨。こりゃ当分止みそうにないね』
『そうですねー』
『さよちゃんはいいよな、濡れなくて』
『幽霊もなかなかいいものでしょう?』
『はは…』
『朝倉くんは、雨、嫌いですか?』
『え…。う~ん…好き、ではないかな…。雨ってさ、なんか……誰かの涙のような気がして』
『…やっぱり、朝倉くんは変わってますね』
『…クラスのみんなよりはマシだと思うけどなぁ』
『確かに、そうですね』

 そう言って、彼女は大雨の中に飛び出して。

 こう、呟いたんだ。



 恵みの雨 喜びの雨ならいいのに



 その時の彼女の顔は、なんだか少し悲しそうだった。

 あぁ、そうか。

 彼女は、今まで嫌というほど悲しい雨を見てきたのか。

 俺が生まれる前からずっと。長い年月の中で。雨に降られて。

 その時に、思ったんだ。

 俺が、喜びの雨を降らせてやるって。

 分かってる。綺麗事だ。実際、俺は何もしてやれてない。ただ、側にいるだけ。

 情けない。


『朝倉くん?』
 名を呼ばれ、我に返る和実。
『なにかボーッとしてましたけど…大丈夫ですか?』
「あ、うん。ごめん、少し考え事してただけ」
『そうですか。安心しました』
「? 何が?」
『朝倉くんに、暗い顔は似合わないですから』
「…」
『いつも、元気な朝倉くんでいて下さいね?』
 また、さよは微笑む。
 和実はデジカメを置き、両手の親指と人差し指で長方形を作る。
『? なんですか?』
「さよちゃん、笑って」
 言われるがまま、笑顔を作るさよ。
 和実はその笑顔を、手作りのフレームに納める。
 どんな高級な、どんな性能のいいカメラのそれよりも、美しく、写った。
 和実はその写真をポケットにしまい込んだ。
『??』
「さよちゃん」
『はい?』
「喜びの雨……俺じゃ降らせられないかな」
『え?』
「…ただ、側にいる事しかできないけど。触れる事もできない。でも俺は、さよちゃんにもう悲しみの雨に振られてほしくない」
『……』
「なんにもしてやれないけど…でも俺……」
『朝倉くん、今は雨は降ってませんよ?』
「…は?」
『ほら、こんなに空が真っ青じゃないですか』
 両手を広げるさよ。上空には、真っ青な空。
 妙に、眩しく感じた。清々しく、感じた。
 いつの間にか、雨の日ばかりを考えて晴れの日を無視してきたのだろうか。
『…それに、私は十分ですよ?』
「…?」
『朝倉くんが、側にいてくれてるだけで、私は嬉しいんです』

 嬉しかった。

 その言葉が。

「俺…力になれるかな? さよちゃんの」
『…はい』
 少し顔を赤くしながら、さよは屋根を下りる。
『朝倉くーん、早くスクープ探しに行きましょーっ!』
 下から聞こえてくるさよの声。
 和実は再びフレームを作ると、今度は真っ青な空を写した。
 同じように、ポケットにしまい込む。
「あぁ、いま行くよ!」
 和実も屋根を下りるため、木に飛び移る。


 指で作ったこのフレームに 空を写してポケットにしまい込んだんだ

 あぁ忘れちゃいけないものは きっとこんなにも真っ青な空だろう

 流れる雲の早さ 向かう場所の先で僕等

 笑いあえてるかな




「………惚気るなら他でやってくんないかな…」
 一人屋根に残された、謎のシスターの呟きは風にかき消された。




       終わり



大きな背中


「――――――――美空11秒7、明日太11秒8!」

「よっしゃ、またまた私の勝ちぃ!」

「マジかよっ、ちくしょーっ!」

叫びながら派手にぶっ倒れる明日太。
これで私の3連勝、そりゃー悔しいっしょ。
まぁ、これが陸上部エースの余裕って奴っすよ。
・・・イヤまぁ、結構っつーかかなり本気でしたけどね?

「ふふふ、私に勝とうなんて百年どころか21世紀早いんだよ、明日太」

「どんだけ差つけてんだよ! たかが0,1秒だろ、次こそ勝ってやる!」

明日太はそういって、またスタート地点に戻っていく。
やれやれ、何度やっても同じなのに。
熱いねー、まったく。
しゃーない、もう一度コテンパンにしてあげましょうか、ふっふっふ。

「まだやる気~? 私はかまわないけど、恥の上塗りはやめたほうがいいんじゃな~い?」

「何を! 次に吠え面かくのはそっちだぜ!」

うわぁ、自信満々だよこの子・・・どっからその自信が来るんだか。
まぁ、もう一度勝ってその自信を木っ端微塵にしてあげようかね!

「言ったね~、実力の差ってモンを教えてあげましょう・・・・・・きゃあっ?!」

「美空?!」

あったたた・・・私としたことが・・・
こんなとこに石が落ちてるなんて、ついてないなぁ、もう。

「アハハ、ちょっとドジっちゃった・・・あ痛っ!」

痛たたた、こりゃくじいちゃってるわ。
ってことは私、不戦敗?
うわぁ、最悪・・・、まぁしょーがないんだけどさぁ。

「ゴメン明日太、ちょっと足くじいちゃったみたいだからさ、勝負はまた今度でお願いね」

「え? 大丈夫かよ」

「だいじょぶだいじょぶ、心配ないって! じゃ、ちょっと保健室行ってくるわ」

いや、ホントはあんまし大丈夫じゃないんだけどさ。
明日太、ものすごい心配そうな顔してるんだもん。
あんな顔されちゃー、大丈夫じゃないなんていえなくなっちゃうよ。

「待てって! 足、くじいてんだろ? ――――俺がけしかけたようなもんだしな、おぶってってやるよ」

「へっ?」

ちょ、おんぶするって本気ですか明日太サン。
このクラスのみんなが注目している状況で、おんぶするって正気の沙汰じゃないっすよ明日太さん?!
駄目駄目、絶対駄目だって!
そんなことされるくらいならこのくじいた足で全力疾走させていただきますから勘弁してくださいよ明日太!

「いっ、いいよいいよそんなの! 私ならもうピンピンしてるからそんな気ぃ使ってくれなくても・・・」

「何遠慮してんだよ、らしくねぇなぁ・・・。 ほら、よっと」

「――――きゃっ?! ちょちょちょ明日太、おおお降ろしてってばぁ!」

「足くじいてる奴が何言ってんだよ、ほら行くぞ」

・・・完璧スルーですか、アンタ。
ああ、視線が痛いよ・・・戻ってきたらきっと双子やらチア三人娘やらにからかわれるんだろうなぁ。
明日太っていい奴なんだけど、こういうとこで無神経っつーかなんつーか・・・
もうちょっとその、乙女心って奴を考えてほしいもんだよねぇ、いや私がいうとギャグにしか聞こえないけどさ。

「あのさ明日太」

「なんだよ?」

「どーして君はこう無神経なんですかね?」

「はぁ? 何がだよ、わけわかんねー」

「いや、だからあんなふうにクラスの大半が注目してる状況で何のてらいもなくこうやって私をおぶるってのはマズイ、とか一瞬でも思わなかったの?」

「だから何がマズイんだよ、何も問題ねぇじゃん」

駄目だ、この人駄目だよ。
言ってることは正しいけど世間体とか全力でぶっちぎっちゃうタイプだね。
ま、頼りがいはあるけどさ。

「・・・美空、ごめんな」

「へっ? いきなりどしたのさ明日太」

なんか変な声出ちゃったけど、仕方ないよね?
だって、たった今私をおぶったことは何も問題ないって断言しちゃったようなもんなのに、何を謝るのさ、ってワケで。
しかも何かむつかしい顔しちゃってるし。
私、明日太に何かされたっけ・・・・?

「いや、俺がけしかけたせいで足くじいちまってさ。 お前陸上部なのに、無茶させて悪かったな、って思って」

・・・・・・え?
まさか、そんなこと気にしてたの?
あれって、私が足元の石に蹴躓いたのが原因で、明日太何も悪くないんですけど。
もしかして私をおんぶするなんて言い出したのもそのせい?

「・・・・・ぷっ」

「な、なんだよ! なんで笑うんだよお前!」

「だ、だって! 明日太がそんなこと気にしてるなんて思わなかったんだもん! あは、アハハハハ!!!」

「わ、笑うなよ馬鹿! 落とすぞ!」

「アハハ、か、勘弁! 勘弁して!」

アッハハハ、明日太ってば顔真っ赤だよ!
ったくもう、かわいいなぁ明日太は。
ぶっきらぼうな振りしてるのに、どっか抜けてるっていうか、律儀っていうか。
ま、おんぶの件は、これでチャラにしといてあげるよ明日太。
私がからかわれたときのスケープゴートにできるからね。

「はぁ~あ・・・可愛いね~明日太は」

「な、何言ってんだよ! ったく・・・」

あーあ、そっぽ向いちゃった。
ま、からかうのはこれくらいにしといてあげますか。
そんなことを考えながらもたれかかった明日太の背中は、とっても大きくて、暖かかった――――――――



夏×コタ美


「・・・あむ、あむあむ」

ウチは犬上小太美。
ちょっと前、ネギ子と一緒に闘ってから、この麻帆良学園に転校してきたんや。
こっちには強い奴がぎょーさんおるし、ウチを置いてくれてる夏兄ちゃんや千津雄兄ちゃんもええ人で、ほんまありがたいわ。
あ、でもちょっとあやか姉ちゃんは苦手やなぁ・・・ええ人なんやけど。
この前もなんや明日太と一緒におったから、部屋帰ってきて「何かあったん?」って聞いただけでなんやえらい怒ってもーたし。
綾香姉ちゃんはよぉわからんなぁ・・・・あれ?

「あー・・・やっぱりや・・・」

ウチ、さっき会うた新田先生にアンパン買うてもうたんやけど、中のあんがえらい少なかってん。
ご馳走してもうたもんから文句言うたら罰当たるけど、やっぱりガックリ来るわ・・・うぅ。

「あれ、小太美じゃないか。 どうかした?」

「あ、夏兄ちゃん・・・」

はわわ、夏兄ちゃんなんでこんなとこおるん?!
慌てて耳と尻尾隠したけど、見られてへんよね?!
あうう、顔にアンコついてもとうし・・・『だらしない』って思われてもたらどないしょう・・・

「ん? 小太美、ちょっとじっとして」

「ふぇ?」

「口の横。 拭いてあげるから動いちゃ駄目だよ?」

「ん~・・・・」

う゛~、やっぱりご馳走してもろたアンパンに文句言うたから罰が当たったんや・・・
ウチ、夏兄ちゃんに嫌われてもた、絶対嫌われてもうた。
やってウチ、女の子やのに闘いの修行ばっかりでガサツやし、ご飯食べるときもしょっちゅう『行儀悪い』ってあやか姉ちゃんに怒られとるし。
きっと夏兄ちゃんもウチのこと嫌なんや、ウチが夏兄ちゃんやったら絶対嫌やもん、ウチみたいな女の子。
ウチなんかが、夏兄ちゃん好きになったりしても、夏兄ちゃん、きっと迷惑なだけやもん、きっと・・・

「・・・美、小太美? どうしたのさ、何か変だよ? どこか痛いの?」

「な、なんでもないねん、なんで、も・・・ひぐっ、えぐっ・・・」

「なんでもなくないじゃないか! どこが痛いの、言ってごらん?」

やめて、夏兄ちゃん、やめて。
ウチのこと、無理して構ってくれんでええから。
優しゅうせんといて、お願いや。
やないとウチ、ウチ・・・

「・・・あかんの」

「え?」

「夏兄ちゃん、ウチに優しすぎや・・・そんな優ししたら、あかんねん・・・ウチ、アホやから、夏兄ちゃんのこと、好きになってまうから、やからぁ・・・・・・っ!!」

あかん、もう言えへん。
お願いや、夏兄ちゃん、わかって。
ウチ、優しゅうされたことないねん。
やから、夏兄ちゃんが「親切」でやってくれとるだけのことでも、めっちゃうれしいねん。
でもな・・・、ウチがこれ以上、“勘違い”してまう前に。
ウチのこと、なんとも思うてないって、ちゃんと言うて・・・

「・・・まったくもう、馬鹿だなぁ」

ぎゅっ・・・

「ひゃっ・・・・・?!」

「いい? 僕は、誰にでも優しくできるような人間じゃないんだ。 僕は、“小太美だから”、優しくできるんだよ?」

優しく言い聞かせてくれる、お母さんみたいな声。
涙がぽろぽろ出てきて、何も言えへんかった。

「だから、そんなふうに自分を責めないで。 僕は、小太美が僕を好きって言ってくれて、本当に嬉しいから」

「ほ、ホンマに? ホンマに、そうなん?」

夏兄ちゃんは、嘘ついたりせえへん。
わかっとるのに、不安で不安でしゃーなくて、ホンマかどうか念を押してまう。
嫌なはずやのに、夏兄ちゃんは笑って、ウチの目を拭いてくれて、それで――――――――

「誓いを立てましょうか? お姫様」

「え――――?」

「さぁ、目を閉じて・・・」

ちゅっ・・・



――――それはまるで、誰もが子供の頃に読んだ、王子様とお姫様が結ばれるシーン。
小さな狗族の女の子は、自分が憧れていた王子様と、めでたく結ばれたのでした。
めでたし、めでたし・・・・・・・・



いつもそばにいるよ


終業のチャイムが鳴ってから大分経って、日が傾きかける頃。
誰もいなくなった教室で、僕は一人、夕日を眺めていた。
僕は相坂小夜、この教室で60年自縛霊をやってる。
ただ、僕、幽霊の才能がないみたいで、ほとんど誰にも気づかれてない・・・
でも、何人かの人には僕が見えるみたいで、そういう人と“ともだち”になれて、今はすごい幸せ。
幸せ、なんだけど・・・


小夜朝SS 「いつもそばにいるよ」


「んあ~・・・つっかれた~!」

突然教室の扉が開くと同時に、大きなため息まじりの声を出して教室に入ってきたのは、朝倉和美さん。
僕のことが見える数少ない人の一人。
凄い美人で、頭もよくて・・・僕の、憧れの女の人・・・
・・・な、ななな何言ってるんだろう僕、いけないいけない!
でも、なんだか今日の朝倉さん、様子が変だなぁ・・・
いつもにこにこしてるのに、心なしかちょっと落ち込んでるみたいな・・・

「ど、どうしたんですか? 朝倉さん」

「あ~、小夜君・・・いやね、ちょ~っと部長にしぼられてさぁ・・・これからここで記事作らなきゃいけないわけ」

「そうなんですか・・・大変ですね」

「ん~、でも好きでやってることだかんね、頑張るっきゃないか」

そういいながら記事を広げる朝倉さん。
でも、記事を書くための鉛筆は止まったまま。
少し前、「最近スランプなんだよね~」って、ちょっと苦笑いしながら言ってた。
朝倉さんの机の近くまで飛んでいって、横に並べてある資料を読んでみたけど・・・60年前に死んだ僕にはよくわからないことばかりだった。
何か手伝おうにも、幽霊の僕じゃすり抜けるばかりで、資料を取って渡してあげたり、差し入れを持ってきてあげることも出来ない。
こういうとき、すごく、すごく自分が歯がゆく思える。
朝倉さんは、誰も気づいてくれなかった僕に気づいてくれて、こうして“ともだち”になってくれたのに、僕は朝倉さんのために何もできない。
僕はなんて非力なんだろう、僕はなんて無能なんだろう、僕は、なんて――――――――

「・・・・・・ごめんなさい」

「え?」

気づいたら、いつの間にか僕は朝倉さんに謝っていた。
朝倉さんはきょとん、としちゃってるけど、僕にとっては、これくらいしか、今の朝倉さんにできることがないように思えたから。

「朝倉さんは僕と“ともだち”になってくれたのに、僕は、今みたいに朝倉さんが困ってるときに何もできなくて、見てることしかできなくて・・・だから、ごめんなさい」

そういって、今度は深く頭を下げる。
にじんできた涙を、見せたく――――見られたく、なかったから。

「・・・たくもう、馬鹿だなぁ・・・」

朝倉さんの、優しさのにじむ言葉で、胸が痛くなる。
ああ、僕みたいに何もできない幽霊に優しくなんてしないで。
その優しさに報いるだけのことが、僕にはできないから――――

「私は、小夜君が見ててくれるだけで、そばにいてくれるだけでいいんだよ?」

「え――――――――?」

思わず顔を上げると、そこには、朝倉さんの優しい、綺麗な笑顔があった。

「私は小夜君が好きだから、小夜君がそばにいてくれるのが一番幸せ。 私が困ってるときは、小夜君が私のそばで励ましてくれたら、私はいくらでも頑張れちゃうからさ。 だから、そんなこと気にしなくて、いいんだよ?」

朝倉さんが、僕のことを、好き――――――――?
嘘、そんな、僕、幽霊なのに、死んじゃってるのに。
僕と朝倉さんじゃつりあわない、わかりきってることなのに、うれしくて、うれしくて、涙が、止まらなかった。
僕が朝倉さんに言えたのはひとつだけ。
それは――――

「――――僕は、ずっと、朝倉さんの、そばにいます。 ずっと、ずっと、何があっても――――」

涙でぐしゃぐしゃの顔だったけど、しっかりと、朝倉さんの目を見つめて、はっきりと誓う。
ぼやけた目で見た朝倉さんの顔は、なぜか僕と同じで、泣いてるように見えた――――



アナタと歩く、帰り道


「・・・・・・・・・遅い」
ここは麻帆良学園、3-Aの教室。
ホームルームも終わり、静まり返った教室に人影が一つ。
オレンジ色の髪に蒼と緑のオッド・アイ。ネクタイを緩め、第一ボタンを外した制服。
出席番号8番、神楽坂明日太である。
さて、何故彼が教室に一人でいるのかというと、理由は簡単である。
毎度のごとく居残りを食らったのだ。
いつもであれば他に四人、いわゆるバカレンジャーの面子が揃っているのだが、今日は一人だ。

『今日は新発売のゴーヤ珈琲ミント風味の発売日ですので。居残りを受けるわけにはいかないのです』
と、夕。
『いやあ、双子に勉強を教えてもらったんでゴザルよ。あの二人の方が拙者より勉強できるでゴザルからな』
と、楓。
『ワタシは五月に教えてもらったアルよ。超とハカセに聞いても何言ってるかチンプンカンプンアルからな』
と、古。
『えへへー、分かんなかったからテキトーに埋めたら当たってたんだー。ラッキー!ゴメンねアスタ』
と、まき絵。

「チクショウ・・・裏切り者どもめ」
幾多の戦場(居残り授業)を共にくぐり抜けてきた戦友の離反を恨みながら、ネギ子を待つ。
「あーあ。せめて高畑先生だったら居残り一人でも大歓迎だったのによ」
去年までは英語の授業はタカミが担当していて、居残り授業も彼女が行っていたのだが、今年からはすべてネギ子が受け持っている。
アスタとしてはこの居残りもタカミが担当していればまったく苦ではなかったのだが、今ではただの拷問である。
「にしても遅いなアイツ。何やってんだよ」
かれこれ30分近く待っているのだが一向に来る気配がない。
「まさか忘れてんじゃないだろうな・・」
ガラガラッ
そう思った瞬間、教室の扉が開いた。どうやら来たらしい。
「おっ。遅せえぞネギ子・・・・げっ」
「『げっ』、とはなんですの『げっ』とは」
予想に反して、教室に入って来たのは別の人物であった。
ハーフと見間違える程に見事なブロンドの髪をなびかせた少女。
3-Aの委員長。出席番号29番、雪広あやかである。
アスタの発言に眉をひそめながら歩み寄る。
「なんか用かよいいんちょ、俺はこれから居残りがあってネギ子待ってんだから用があるなら後に・・」
「残念ですがネギ子先生は急用で来られませんの。ですから私が代理ですわ。貴方の居残りなんかに時間を割くのは不本意ですが、ネギ子先生がお困りの様でしたので」
「はあ!?なんだよ、よりにもよっていいんちょかよ・・・」
思いっきり感情を表情に表すアスタ。あやかの眉間の皺はより一層深くなる。
「なんですかその反応は?私では不満とでも?」
「当たり前だろ」
即答
「人が厚意で来て差し上げたというのに、なんですのその態度は・・・」
「別に俺が頼んだわけじゃねえだろ。大体なんでお前なんだよ!普通なら他の先生とか」
「他の先生、ではなくて高畑先生、でしょう?下心見えみえですわよ」
「ばっ、違えよ!」
図星をつかれたアスタは、顔を赤くしてムキになって反論する。
「ふんっ、貴方みたいなおサルさんと高畑先生を二人きりにしたらどんな間違いが起きるかわかったもんじゃありませんからね。私が来て正解ですわ」
「な、なんだとこのヤロウっ!誰がするかそんなことっ!!」
「あらゴメンなさい。そうですわね、小学生の頃からずるずる片思いを続けている貴方にそんな度胸があるはずもありませんわよねえ?」
「コイツ・・言わせておけば・・・」
「さ、下らないことを言ってないでさっさと始めましょう。いい機会ですわ、基礎の所から教えて差し上げます」
あやかはアスタの向かい側の席に座る。椅子は床に固定してあるタイプなので後ろを向きながら教えるのは体勢が少々辛いが、隣に座る気はないらしい。
「余計なお気遣いど-も。学年四位様」
「お礼なら結構ですわ。その代わり厳しくいきますので、覚悟して下さいな。学年最下位候補さん」
「はいはい」



「ですからそのthatは‘あれ’という意味ではなくてその前にある単語の・・」
10分経過
「えっ・・・・・・と?あれ、でもそれだと・・・・・」
20分経過
「ああもう、何度言ったら分かるんですの?ですからそこは・・」
40分経過
「だからここの和訳は・・と。あれ、これなんて意味だっけ・・・・・」
・・・1時間経過
「あーーもうわかんねえ!!休憩だ休憩!!」
シャーペンを投げ出し、アスタは背もたれにもたれかかる。もはや神経を使い果たしたといった感じだ。
「もう集中力が切れたんですの?・・まあ、貴方にしては持った方ですわね」
「人間の集中力なんてせいぜい10分が限界だって聞いたぜ」
「それを言い訳にしないで下さい。まあいいですわ、ひとまず休憩にいたしましょうか」
あやかはふう、とため息とつき、アスタは身体を背もたれに預けてだらりと力を抜く。
二人共ただ静かに身体を休ませる。
無音の空気が二人を包む。しかし気まずさはまったくない。
なんだかんだで長い付き合いの二人である。お互いの存在もそこにいるのが自然のことの様でもあった。
こうして何も喋らずに同じ空間を共有することが、あやかには心地よかった。
顔を合わせれば先程の様に口喧嘩ばかりではあるが、それも挨拶みたいなもの。
言い合いをするのもあやかは結構楽しんでいるのだが、今の様に静かに過ごすのも悪くはない。
(・・・そういえば、こうしてゆっくりと二人きりになるのは久し振りな気がしますわね・・・・・)
アスタが転校してきたばかりの頃、彼は他のクラスメイトとあまり関わろうとせず、一人でいることが多かった。
しかしそんな中で、あやかはアスタに積極的に触れ合っていた。
なので自然と二人でいることが多くなり、始めは本当に喧嘩の売り買いばかりであったが、その内にどんどん打ち解けあい、アスタも変わっていった。
今のアスタがあるのは、彼女のおかげだと言ってもいいだろう。
そうしてアスタもクラスに馴染んで友人も増え、同室のこのかと一緒にいることが多くなり、最近ではネギ子もやって来た。
こう考えると、二人だけになる機会というのは意外にも少ないものだ。
思い返してみればリゾート島や麻帆良祭の時もほとんど二人にはなれなかった。
(って、何残念がってますの私ってば)
そんな自分の思いも自覚はしつつも素直に認められない、プライドの高いあやか。
「そういや、こうやって二人でいんのも久し振りだな。小学校のころはこんな感じの時もよくあったけど」
「へっ!?あ、そ、そうですわね!言われてみればそんな気もしますわ。おほほほほほほほ」
まさか自分と同じことを考えているとは思ってもみなかったあやかは驚きながらも嬉しくなった。笑って誤魔化してしまったが。
気持ちが通じているのかも、なんて。
「最近はお互い色々忙しいしな。いいんちょはなにかと仕事多いし、オレもネギ子が来てからこっち騒がしいことばっかだし」
「ええ、そうですわね。小学校の頃は長い休みの時に貴方がよく私の家までついて来たりもしましたけど、最近ではそういうことも減ってしまいましたし」
「この前の春休みに行ったのも久し振りだったしな。あ、教室で二人といえば覚えてるか?教室で居残り掃除くらったこと」
「覚えていますわよ。貴方と喧嘩ばかりしていたら先生に怒られて、『仲直りできるように二人で協力してお掃除しなさい』って、遅くまで掃除させられましたわね。私の人生の汚点の一つですわ」
「今となっちゃいい思い出じゃねえか」
「ほとんどの掃除を私にやらせたことも、ですか?」
「悪かったって」
なんということのない会話だが、あやかにとっては幸せな時間だった。

こんな風に誰かと一緒にいるだけで幸せになれるのは、きっと幸福なこと。
貴方が私にくれる、幸福な時間。

そんなことを考えながら、あやかはアスタの言葉を一字一句漏らさないように耳を傾け、話に花を咲かせた。
この幸福な時間を一秒でも無駄にしない様に。



しばらく経って二人は勉強を再開し、参考書とにらめっこを続けた。
ついでにあやかが持ってきた今日ネギ子がやるはずだった小テストのプリントも終わらせ、居残り授業は終了した。
「あーーーーーーーー疲れたああああああ今日はもうなんもやる気しねえええ」
「まったく、このくらいで音をあげないで下さいな」
「お前の授業がキツすぎんだよ」
「お褒めに預かり光栄ですわ」
「褒めてねえって」
教科書類を鞄に詰めながら、グチグチと文句をたれるアスタ。
鞄を閉じて立ち上がり、ぐぐっと背を伸ばして一息つく。
「さて、帰るかいいんちょ」
「え、えっと私はこの後プリントの採点をしてネギ子先生の机に置きに行って、その後・・その、図書館に行くつもりですので」
「ん、そうか?そんじゃ先に帰らせてもらうか」
「ええ。そうして下さいまし」
扉まで歩くアスタの背中を見送る。ガラッと引き戸を開けたところでアスタは少し振り向いた。
「悪かったないいんちょ。つき合わせちまって」
「そう思うなら少しは成績を上げてくださいな」
「それは保証できないな」
ニヒ、とイタズラっぽい笑いを浮かべて、扉を閉めた。
除々に遠のいていく足音が聞こえなくなったところで、あやかはほっと胸を撫で下ろした。
ペンケースから赤のボールペンを取り出し、キャップを外す。
「まさか一緒に帰るのが気恥ずかしかったなんて・・・言えませんわね」


間違いの回答に、少し憎たらしげに×をつけた。


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「たっだいまーっと」
「あ、おかえりーアスタ」
普段使わない頭をフル活動させた反動でクタクタになったアスタは帰宅を遂げた。
部屋へと入りながらネクタイを外し、鞄と一緒に無造作にベッドに放り投げる。
「やっほー兄さん、お帰りー」
ネギ子の部屋に改造されたロフトから、夏近くだというのに冬毛のオコジョがピョコンと飛び降りてきた。言うまでもなくオコジョ妖精のカモである。
「あれ、エロガモ。ネギ子と一緒じゃないのか」
「姉貴がエヴァにとっ捕まっちゃったから逃げてきちゃった。てへっ」
「急用ってそれだったのか。ったくエヴァの奴、お陰でいいんちょにしごかれるはめになっちまったじゃねえかよ」
愚痴を言いながらアスタはどっかりと座布団に座り、テーブルにつっぷす。
「居残りお疲れさんアスタ。はいっ、疲れた時は甘いもんやえ?」
台所から三人分の紅茶とケーキをお盆に載せたこのかが出てきた。
「おっ、サンキューこのか」
「あっ私の分もある!ありがとーこのかの姉さん」
人間の姿へと成り変わって並べられたケーキに飛びつくカモ。
三人でテーブルを囲んでのちょっとしたティータイムだ。
このかの用意したケーキは甘ったるく、疲れた身体に染み渡る。先程脳が消費しきった糖分を身体中に供給してくれる様だった。
「ところでいいんちょがどないしたんアスタ?」
「ん?ああ、ネギ子が来れなくなった代わりになんでかいいんちょが来てよ」
「いいんちょが勉強見てくれたん?」
「そうそう。これがまたキツイのなんのって」
「へえー。よかったじゃないの」
「そうやなあ。よかったなあ」
ニコニコと笑うこのかとカモを見て、アスタは紅茶をすすりながら眉をしかめる。
「よかねえって。こっちはクタクタだっての」
「アスタやなくていいんちょが、や」
「そうそう。いいんちょの姉さんが、ね」
「ん?なんだそりゃ」
ますます笑いを強めニヤニヤと笑う二人を不思議に思いながら、アスタはケーキを口へ放り込んだ。



「ただいま帰りました。遅くなって申し訳ありません。連絡の一つでもよこせばよかったのですが」
プリントの採点を終えた後、念の為アスタと鉢合わせしないように時間を置いたあやかは少し遅めの帰宅である。
「あ、帰ってきた。お帰りいいんちょー」
「遅いであやか姉ちゃん」
「お帰りあやか。もうすぐご飯の用意できるから着替えておいで」
ルームメイトの夏美と千津雄、そして現在居候中の夏美の妹(と言うことにしている)コタ美が迎えた。
部屋で着替えを済まし、千津雄の手料理が並べられた食卓に着く。
「いいんちょこんな遅くまで何してたの?」
「ネギ子先生に急用ができてしまったので、代わりにアスタさんの居残り勉強を見て差し上げたんですの。アスタさんの素晴らしい理解力のお陰ですっかり遅くなってしまいましたわ」
「大変やなああやか姉ちゃんも。ネギ子に雑用押し付けられたんかいな」
「な、なんて言い方しますの!私は自分からお手伝いを申し出たんです!!まったくコタ美さんは・・・。ああもうほら、口の周りが汚れてますわよ。もっとお行儀良く食べなさいな」
「むぐぐ」
行儀悪くご飯をかっこんで汚れたコタ美の口をナプキンで拭いてやるあやか。なんだかんだ言って面倒見はいい。
「そういえば今日は居残りアスタ君だけだったんだよね。てことは今までアスタ君とずっと二人きりだったんだ?」
「え、ええ。そうですけど」
「ふふふ、良かったねあやか」
「な!べ、別にちっとも良くなんてありませんわ!変なこと言わないで下さいな千津雄さんてば。大体、あのおサルさんに勉強を教えるのがどれだけ大変だと思っていますの?おかげで私もクタクタですわよ」
顔を赤くして反論するあやか。しかしそんな事を言いつつも、顔は嬉しそうであった。
「あはは。素直じゃないなーいいんちょは」
「んもうっ、夏美さんまで!」
「なんや、あやか姉ちゃんアスタのこと好きやったんか?」
「なっ・・・なああ!!??」
キョトンとしながら「ふーんそーやったんか」と一人納得するコタ美。そんなコタ美を口をあやかは見てパクパクさせる。
「な、ななななな何言ってるんですのあなたは!!わ、わた、私がアスタさんをす、すすす、好・・・・ああもうっ!!そんな事言うのはこの口ですか!!?このっ、このっ!」
「いふぁふぁふぁふぁ!ひゃ、ひゃめれやあやふぁねーひゃん!いふぁいふぇ!!」
あやかは更に顔を耳まで真っ赤に染めて、コタ美の頬を引っ張る。実に良く伸びた。
「ああダメだよいいんちょ、コタ美ちゃんいじめちゃ」
「そうだよあやか。コタ美ちゃんはただでさえ夏美ちゃんの実家で酷い扱いを受けているんだから」
「だからウチの実家はフツーだって!!」


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翌日の放課後
「窓の施錠完了、と」
日直の当番だったあやかは、丁寧にまとめ上げた日誌を職員室のネギ子の元へ届け、その後教室の黒板の清掃をし、仕上げに窓の鍵閉めを行った。
几帳面な性格な上に根が生真面目なので、人よりも時間がかかってしまった。
「さて、帰ると致しましょうか」
足元に置いてあった鞄を持ち、教室を出ようと歩き出したが、ふとアスタの机が目に止まった。
進行方向を変えて、歩み寄る。
つつ、と指で机の表面をなぞり、昨日の事を思い出したりなどしてみる。
「まったく、本当にあの人には理解力が欠けていますわよね」
何度説明を繰り返してもまったく頭に入っていかないアスタに勉強を教えるというのは非常に困難であった。
だが、そんなことも含めて楽しんでいる自分が確かにいた。
「一緒に帰らなかったのは・・ちょっと惜しいことをしましたわね」
普段アスタは同室のこのかと下校しているし、近頃では刹那も混じっているので、二人きりで下校できるチャンスなどほとんどない。
昔はよく二人で帰っていたのに。
意地っ張りも考えものですわ。とため息を一つ。
「・・・ふう。こんな事をしていたらまた帰りが遅くなってしまいますわね」
そうして余韻に浸りながらも、あやかは教室を後にする。ちなみに、もちろん消灯は怠らない。
階段を下りて下駄箱へと向かった。少々急いではいるが、みっともなく走ったりしないのは彼女らしいと言える。あくまでも行儀良く、歩く姿は百合の花という言葉の体現かのようだ。

昇降口まで着くと、見慣れた姿がそこにはあった。

開け放たれた入り口の所に寄りかかり、腕組みをしながらあやかを見つめる二色の瞳。
それはもちろん
「・・・アスタさん」
「よう」
素っ気なく挨拶を返すアスタ。
一方のあやかは平静を保つのが精一杯だ。なにせつい先程まで想いを巡らせていた相手が不意に現れたのだから。
「な、なにをなさっているんですの?そんな所で。こんな時間にそんな所でボーっと突っ立っているなんて余程暇なんですのね」
しかしそんな素振りは見せない様に、普段通りの憎まれ口を叩いてしまう。まあそんな事もアスタには分かってしまうのかもしれないのだが。
「別に。ただ、昨日わざわざ遅くまで勉強見てくれたどっかの世話焼きお嬢様にお茶でも奢ってやろうかなー・・とか思ってよ」
「あ、あら。貴方にしてはいい心がけですわね。その世話焼きお嬢様とやらが羨ましいですわ」
「そこではぐらかすなよ」
アスタはムスっとあやかを睨む。あやかとしては照れ隠しだったのだが。
「・・・ごめんなさい」
「謝んねえでもいいっての。で?どうすんだよ。行かねえのか?まあ嫌ってんなら別に・・・」
ゴソゴソ、カチャッ。ピッピッピッ・・・・
アスタが言い終わる前に、あやかはおもむろにケータイを取り出し、電話をかけだした。
「ん、おい・・」
「あ、夏美さんですか?私です。今日も少し帰りが遅くなりそうですので、夕食は千津雄さん達と先に食べていて下さいな。ええ、別に大したことではありませんわ。ちょっとした野暮用です。それでは」
ピッ
ケータイを切り、ポケットへ仕舞う。そして上履きから革靴へ履き替え、アスタへと向き返る。
「さ、行きましょうか。奢ってくださるんでしょう?」
「・・・ったく、調子いいやつ。で、俺とのお茶は野暮用扱いかよ」
「言葉のあやですわ。それに貴方とお茶だなんて言ってあらぬ誤解を受けたらたまったもんじゃありませんからね」
「へいへい、そうですか。ほんじゃ行くか」
嫌味を言いながらニッコリと笑うあやかを連れて、アスタは歩きだした。
ほのかに陽が傾いた空の下を、二人で歩く。
「ところで、ちゃんとしたお店なんでしょうね?まあ貴方が連れて行くのですからあまり期待はしませんけど」
「馬鹿にすんなよな。ちゃんとこのかに良い店聞いてきたんだからよ。よく分かんねえけど、紅茶の葉っぱがいいんだとさ。まあお前んちの比べたら話になんないかもしれねえけどな」
「その辺は我慢して差し上げますわ」
(・・・それに、貴方と一緒ならティーパックの紅茶でも美味しく感じられるんでしょうから)
手を少し伸ばせば届いてしまう距離、あやかは歩く。

ちらりと、気づかれないように横目でアスタを見る。

昔から変わらない、生意気そうな横顔
ぶっきぼうに見えて、今もこうして私に合わせて歩幅を短くしながら歩いてくれる、優しい貴方
私はずっと、そんな貴方に惹かれていたのでしょうね

『あらゴメンなさい。そうですわね、小学生の頃からずるずる片思いを続けている貴方にそんな度胸があるはずもありませんわよねえ?』

人の事は、言えませんわね
私もずっと片思いのままですもの。告白する度胸も、ありはしませんわ
でも、いいんです
今はまだこのままで
今はこうして、貴方の隣りを独り占めできるだけで十分ですから


まだお互いに無垢な子供だったあの頃のように

二人で歩く帰り道

アナタと歩く、帰り道


「何にやにやしてんだ?」
「なんでもありませんわ。ふふふ」
「変なヤツ」



愛しい人と並んで歩く。
あやかは3cmだけ、アスタに寄り添った。



.END


おまけ

こうしてあやかはほのかな幸せを噛み締めながら、アスタの横を歩いた。
そんな二人を見守る姿が、あやかが消灯を済ませてもう誰もいなくなったはずの教室にあった。
「よかったですね。委員長さん」
窓側の列の一番前の席。
そこにひっそりと佇む、制服とは違うセーラー服を身に纏いった少女。まるで透き通る様な白い肌と髪をしている。
いや、実際に透き通っている。
そう。60年前からずっとこの教室にいる彼女は自縛霊、相坂さよ。
彼女は今現在一人の例外(実際にはもう一人、某吸血鬼もいるのだが普段まったく関心無しなのでノーカン)を除いて誰も見ることのできない、まったくもって存在感0の幽霊である。
実は彼女、昨日の居残りの時も教室にいたのだ。もちろんアスタ達は気づくはずもなかったが。
邪魔をしてはいけないかな、と思ったのだがあやかのことを応援したくなってしまい、彼女は陰ながら応援していた。(陰ながらと言っても同じ教室にいたのだが)
二人の様子を見て、あやかがアスタに好意を抱いているのが分かったからである。
そう。同じ恋する乙女だから。
「私もあんな風に、二人っきりで・・・なんて」
並んで歩く二人を見つめて、そう願う。
あの二人もまだ両想いではないが、それでもさよには、あやかがこの上なく幸せそうに見えた。
好きな人となら一緒にいられるだけで幸せなのだからと、さよは思う。

一人きりの教室。
みんな帰ってしまって、独りぼっちの教室。
60年間毎日訪れる、独りだけの時間。
もう慣れっ子だと思っていた。
でもやはり、孤独に慣れるなんてことはないのだと、改めて実感した。

誰かにそばにいて欲しい。
ううん。好きな人に、『あの人』にそばにいて欲しい。

「我侭、ですよね」
もし自分が幽霊でなかったとしても、そう思ってしまうのはきっと独りよがりなことだ。
「うん・・そうですよ。それに少し我慢して、明日になれば会えるんですから」
そう。また明日になればあの人に会えるんですから。
あの扉を開けて、あの人が・・・・
ガラッ
「よっ、さよちゃん。お邪魔するよ」
そう思った途端、引き戸が開かれてその人物は現れた。
「えっ、あ、朝倉さん・・・?」

朝倉和実。

彼こそが今現在さよを見ることができる一人の例外。
そして、まさに今、さよが会う事を望んでいた人物。
「え、な、なんで朝倉さんが・・・?」
「ん?いや、今度の麻帆良新聞に載せるネタ探してたらこんな時間になっちゃってさ。今日はもう諦めて帰るかなーと思ったんだけど、疲れたから少し休もうと思って」
「それで、教室に?」
「一人でダラダラしてるより、誰かとお喋りしてる方が楽しいからね」
「え・・・?それってつまり・・・・」
私に、会いに来てくれた?い、いえ。そんな都合のいい考え方しちゃ・・・
「ってわけだからさ。ちょっといいかな?それとも、やっぱお邪魔かな」
「いいえ!そんなことないです!あの、私もその、誰かとお話したいなーって思ってたところでしたから・・・少し、寂しかったので」
「そう?じゃ、ベストタイミングか」
「ええ、それはもう」
だって会いたいと願った瞬間に、朝倉さんが来てくれたんですから。
ちょっとした神様のプレゼントかもしれませんね。

「そんじゃお言葉に甘えて。・・・隣りいいかな」
「はいっ。もちろんです」


もう一人の少女の、小さな幸せのお話でした。


.END



ホストちう


まさかこんなことになるとは思わなかった。
生活指導員であるこの私が。普段生徒たちを正す役割の私が。


教え子のホストクラブにはまってしまうなんてっ・・・!




事の発端はしごく簡単だった。
3-Aの文化祭の出し物の案がホストクラブに決まった。しかし当然中学生でホストというのは何かと問題である。
だから私が実際にお客として招かれ、出していいものかをチェックする。生活指導員としては当然の仕事だ。



「マホラへようこそ!ジュリエット!!」


ホストクラブというものに行ったことがない。
寧ろそんな低俗なものに神職の教師が行ってはいけないと思っている。


店内は相当手の込んだなものだった。ムーディーな照明にどこからか流れるジャズ。
黒塗りのソファもあり、壁には金色の装飾品で飾られている。中学生が作ったものとはとても思えない出来だった。


ソファに腰掛ける。椎名と柿崎もつられるように両脇に座る。


「お客様、今日はどういたしますか?」
「お酒なんか置いてないだろうな。」
「それはもちろんですよ。だって怒られちゃうじゃないですか。」
「・・・そうか。ちゃんとわかってるんだな。じゃあお茶でももらおうか。」


柿崎が立ち上がって、烏龍茶ひとつ、とホールに叫ぶ。
それにしてもなかなかしっかり出来ているじゃないか。これなら出しても問題ないかもしれない・・・。


「あ、それじゃ僕は退席します。・・・NO1がきたみたいなので。それでは楽しんでってくださいね。」


椎名が席を立つ。NO1?誰が来るのだろうか。



「マホラへようこそ。ジュリエット。」


不意に後から声をかけられ振り返る。
そこには不敵な笑みを浮かべた生徒が立っていた。・・・2-Aにこんな生徒いたか?


私がいちおうNO1です、と口にしながら椎名が抜けた席へ座る。
その生徒はいやに堂々とし、お客である私の真横で足を組み始めた。


「・・・足を組むのは失礼じゃないか?」
「失礼。癖でして・・・ ところでお客様、」


言いながら私の頬に手をあてがい


「綺麗なお顔立ちをしていますね。」


瞬間に心臓が一気に打ち始めた。


「ちょっ。何を・・・」
「本当に綺麗ですよ。先生・・・」
「ま、また何を言っているんだお前は!」


怒鳴りながら思わず席を立ってしまった。
心臓は依然として、いや先にもまして早く打っている。


「どうしました。お客様?」
「・・・ト、トイレだ。」


苦し紛れにそう言い放ち、お手洗いへと駆け込んだ。
鏡に映った顔は耳まで真っ赤に紅潮していた。
なんであろうかこの感覚は・・・ やけに息苦しく胸が騒いでいる。
とにかく落ち着け。落ち着くんだ。相手は教え子だ。


深呼吸し、席へと戻る。


「すまなかったな。」
「いえ、とんでもありませんよ。あ、こちらさっきご注文された烏龍茶です。」
「ああ、ありがとう。」


ダメだ。落ち着けない。
頬が紅潮しているのが自分でもわかる。とうぜん生徒たちも気付いているだろう。


「あ・・・そろそろ、終了の時間ですね。」
「お、そうか・・・?」


やけに終わるのが早く感じた。


「それじゃ、お客様。目を閉じてください。」
「え、目を閉じるって・・・」
「いいから目を閉じてください。」



目を閉じる。


―――またのご来店をお待ちしております。


耳元で囁いた。




-------後日談



バタン!と大きな音をたて新田がドアを開け放つ。
楓から奪った大手裏剣を振り回しながら、


「おい!朝倉のバカはどこだっ!?」
「イ、イギリスのウェールズまで赤松先生の取材に同行して行っちゃいましたけど・・・」



いつもの朝である。




『麻帆スポ 第1面 鬼の新田ホストクラブにはまる!?』





終わり。




お花見


「ふう、まさかアボガド珈琲まで売っているとは・・・・運が良かったです」
ある日の夜、部屋のジュース(変わり種)のストックが切れた夕は近場の自販機をいくつか廻って買い出しに行っていた。
もう四月とは言え、まだ空気は冷たい。夕は大量に買い込んだジュースを持参したビニール袋に入れ、早歩きで帰路についた。
その途中、公園の前で夕は足を止めた。
(そういえば、この公園には桜の樹がありましたね・・・)
住宅地の中にある公園、その中にひっそりと佇む桜の樹。満開になればこの時間でも近所の住民達が花見をしていたりするが、今はまだ五分咲きくらいなので公園の中は静まり返っていた。
「・・・・少し、見ていきましょうか」
桜は学園の敷地内にも何本も生えているし、今更珍しい物でもない。
しかしこの静かな夜、無人の公園で見るまだ咲き掛けの桜と言うのは夕を惹き付けた。
満開になってしまえば花見にかこつけてどんちゃん騒ぎをする輩が多くてゆっくりと桜を見るどころではないし、大体その様な騒がしい場所の中に身を置くのは性に合わない。
落ち着いて桜を楽しむのなら夕にとってはこの位が丁度良いのだろう。
なんだか少しワクワクしながら、夕は公園へと入っていった。

「やっほーーー夕くーーーーーーーんvV」
「・・・・・・・カモさん」
桜の樹のある方へと歩いて行った夕は、その下にあるベンチに誰かが座っているのを見つけた。
先客がいたか、と少し残念に思った夕だったが、よくよく見ると電灯の明かりが照らし出したその姿は明らかに彼の良く知る人物だった。
毛先だけが黒い白髪、だらしなくはだけたYシャツにジーパンの出で立ち、そして何より、普通ならあるはずのない獣の耳としっぽ。
彼の担任のペット(?)、オコジョ妖精のカモミール(人間ver.)である。
思わぬ先客ではあったが、こんな所で彼女に出会えたと言うのは、夕にとっては嬉しいハプニングであった。
「何してんのー?こんなとこで」
「ぼくは買い物の帰りです。あなたこそ何やってるんですかこんな所に一人で」
「あはははは、部屋でお酒飲んでると姉貴達に怒られるからさー。ホントはゼロちゃんのとこに行って一緒に飲もうと思ったんだけど、途中でこの桜見つけてね。こうやって一人でしんみり花見酒と洒落こんでるわけよー」
しんみりと言う割りにはテンションが高めだが、足元を見ると空になった缶ビールが数本転がっていた。すでに結構飲んでいる様だ。
「ねえねえ、せっかくだがら夕くん付き合ってよ」
「嫌ですよ酒臭い」
「いやーんつれなーい、おねーさん泣いちゃうーーあははははははは」
駄目だ。完璧に出来上がってる。
「はあ、仕方ありませんね。こんな飲んだくれをほおっておいて何かあったら大変ですし」
「いえーい夕くんゲットだぜー」
夕はカモの隣りに腰掛け、ビニール袋からジュースのパックを一本取り出す。
「お、丁度良いわね。よっしゃかんぱーい・・・って、何それ?」
「抹茶オレンジです」
「まった変なの飲んでるわねー」
「おいしいですよ。いっぱいありますから飲んでみます?」
「遠慮しとくわ」
「そうですか。残念です」
そう言って夕はストローに口をつけて中身を飲む。カモはそのよく分からない飲み物の味を想像しながらビールを一口、口に含んだ。

「やーそれにしても、まだ満開じゃないけどこれはこれで乙なもんね」
「ええ、そうですね」
電灯と月の明かりにほのかに照らされた夜桜。蕾は開ききっていないが、なんとも言えぬ幻想的な雰囲気があった。
ふと、夕はカモの方を見る。酔っている為か、少し上気した顔は何時にも増して色っぽく見えた。
ドキッ
そう思った瞬間、夕の心臓が跳ね上がった。
(な、お、落ち着くです自分!)
この頃、夕は少しずつカモを意識し始めていた。
最初はなんて人なんだろう、と思っていた。トラブルを引き起こしてネギ先生に迷惑をかけるわ、やけにおやじ臭いわ、隙あらば男の下着を狙うわ・・・考えてみればそんな事しか思い浮かばない。
しかし、いつの間にか自由奔放で底抜けに明るい彼女に夕は惹かれていった。
(不思議な人です・・・何故、こんなにも心を揺り動かされてしまうのでしょう・・・・って、またぼくはこんな事を・・)
夕は本人の真横でそんな事を考えているのがなにやら妙に恥ずかしくなって、それを誤魔化す様に抹茶オレンジを一気に飲み干した。
「ねえ、夕くん」
「へっ、な、なんですか?」
「最近どうなの?」
「何がですか」
「姉貴の事よ。少しは進展ありそうな感じ?」
「え・・・ええと、あの、それは、その」
その質問に、夕は思わず俯いてしまった。
「あーその感じだと全然みたいね」
「その・・・」
「ああもう皆まで言わないっ!焦らずにがんばんなさい、おねーさんも応援したげるから」
本人の気など知らずに、カモはあっけらかんと笑う。
「は、はい・・・・」
(・・・違うんですよ、カモさん。ぼくが好きなのは・・・・・)
言うべきか。自分が好きなのは、貴女だと。
(でも、そんな事をして・・・)
今の関係を壊したくない。こうやってなんの気兼ねもなく隣に座っていられる様な、今の関係を。
もしかしたら拒絶されるかもしれない。いや、その可能性の方が断然高いだろう。
(でも、それでも)
この想いは伝えたい。なんとなく、今なら言える気がする。
「・・・・・・あの」
ズイッ
夕が口を開こうとした瞬間、不意にカモが缶ビールを差し出してきた。
「ほれっ、夕くんも飲みなさい!飲んで嫌な事は忘れちゃおうっ」
「・・・・・・」
「ん?どした?」
「・・・ぼく未成年ですよ」
「あはは、細かいことは気にしなーい」
「まったく貴女は・・プッ、ふふふ」
「なによ、笑わなくてもいいじゃない」
完璧に言うタイミングを逃してしまった。もうこれは笑うしかないだろう。
「そういえば今なんか言いかけなかった?」
「いえ、なんでもないです。気にしないでください」
「ふーん?」
きっと今は言うべき時ではなかったのだと、夕はそう思うことにした。
どうやらこの片思いはまだまだ続きそうだ。

見上げれば桜の花。まだ開いていない蕾も、あと数日もすれば満開になる
それと同じ様に、この恋もいつか花開くことを願いながら
今はただ、アナタの隣りにいられることの喜びを噛み締めよう


「いよっしゃー!今夜はとことん飲むわよーー!!」
「程々にして下さいね」


.END



お花見 数日後

「はあ・・・」
昼休み、麻帆良学園内のとある一角、桜の樹の下にあるベンチで大きな溜め息が一つこぼれた。
桜の満開の華やかさとは対象的な憂いを含んだ表情で、少年はパックのジュースを一口、飲み込む。
昼休みというだけあって、周りには大勢の生徒がいてかなり騒がしい。
そんな喧騒もまったく耳にも入らずその少年、綾瀬夕は物思いにふける。

『桜の樹の下のベンチ』、思い出されるのは数日前の夜。
買い出しの帰り道、ほんの気まぐれから立ち寄った公園で訪れた小さな幸運。
想いを寄せる女性との、決して良いムードというわけでは無かったが、幸せな一時。
あれ以来、夕のカモに対する想いはますます強くなっていた。
何をしていても彼女のことが頭から離れない。考え事をする為にのどか達の誘いを断ってこうして一人で昼食をとっている。
こうして桜を見ていると、あの夜の彼女を思い出す。
(しかし、ぼくはどうすれば良いのでしょう・・・)
運の悪いことに、カモは夕が好意を寄せる人物がネギだと勘違いしている。
『おねーさんも応援したげるから』
カモが厚意で言ってくれた言葉が、反って重く夕にのしかかる。
想いを告げるには、些か難しい状況であった。
(まずは誤解を解くことが先決でしょうか・・)
キーンコーンカーンコーン
夕の思考を遮る様に、昼休み終了10分前を告げる予鈴が鳴った。
夕はゆっくりと腰を上げ、重い足取りで校舎へと向かう。午後の授業はまともに受けられそうにない・・・・まともに受けないのはいつもの事だが。


「それじゃあボクは図書委員の仕事あるから。夕達は先に帰ってて」
「わかりました」
「ドジ踏むなよーのどか」
放課後。帰りのホームルームが終わった後、図書館島へと向かったのどかを見送った夕は、ハルキと廊下を歩いて行く。
「さてと、今日は部活もないし。帰るか夕」
「あ、ぼくはその、ちょっと用事があるので。ハルキは先に帰っていて下さい」
「ん、そうか?・・・・なあ、夕。最近元気ないぞ?昼も一人でどっか行っちまうし、なんかあったのか?」
「いえ、なんでもないです」
「ふーん・・・ま、いいや。なんか悩みがあったら言えよ。力になるからさ」
「はい、ありがとうです」
「いいって。・・・それはそうと夕」
「なんですか?」
「なんか重苦しいラブ臭が匂ってくる気がするんだが」
「失礼します」
親友の相変わらずの勘の良さに舌を巻きながら、夕は早足で廊下を歩いていった。

そのまま夕は校舎裏にある人気の無い森へと向かった。その中の割りと広く開けたスペースで座り込む。
夕がよく魔法の練習をしている場所である。
「ふう・・・」
気分を落ち着かせて、カモとのことを考える。
しかしどれだけ考えても、良い解決策は思い浮かばない。
(誰か経験者に相談とか・・・うちのクラスで彼女がいる人といえば・・・・・)
柿崎美砂雄。
(やめておきましょう)
懸命な判断である。
(そもそもまだのどかやハルキにすら打ち明けていないのに誰かに相談なんてできるはずありませんし。はあ)
考える程に、夕の頭はこんがらがっていった。何をすべきかがまったくわからない。
「ああもうっ!あまりゴチャゴチャ考えるのはヤメですっ!!」
夕はすっくと立ち上がり、鞄から以前ネギに貰った初心者用の魔法の杖を取り出す。
こういう時は何も考えず、無心で何かに打ち込むのに限る。
普段よりも一層気合を入れて、夕は魔法の練習を開始した。


「・・・・・・・・・・・・・・・・・つ、疲れたです・・・・・・」
あまりにも気合を入れすぎた夕は体力を使い果たしてしまった。魔法の訓練は体力だけでなく精神力も削るのでなおさらだろう。
もはや立っているのもしんどい。
「よいしょっと」
力無くその場に座り込み、そのまま大の字で仰向けになる。
限界まで体力を使い果たしたことで、頭の中が空っぽになった様だった。
「ふう。少しは、すっきりしましたかね・・・・」
頬を撫でる風や、草の匂いが心地よかった。
目の前に広がる、大空。日が傾き始めて青からオレンジ色へと変っていくグラデーションが美しい。
こんな雄大な大自然の前では、自分が悩んでいる事なんてちっぽけな事なんだと、思い知らされる。
(でも、そういうちっぽけな事で悩むのが人間、なんでしょうね・・・・・なんて)
ふと、杖を見る。見た目は子供用のおもちゃの様な、先端に三日月の付いた杖。今の自分の実力には丁度良いだろう。
『魔法』
普通に考えたらあまりにも非現実的で、おとぎ話じみた概念。
どちらかといえば現実主義の自分がこんな物と関わり合うことになるとは思ってもみなかった。
少しでも彼女のいる世界に近づきたくて学び始めたが、まだまだ進歩は見られない。
自分にネギの様な才能があるとも思えない。これからも訓練を続けても、まともに使い物になるかすら妖しいだろう。
そもそも、夕には目標というものが無かった。あくまでも魔法は彼女のいる世界に近づく為の「手段」でしかなかったのだ。
明確な目標がなければ、身に付くものも付かないものだ。
(魔法を使えるようになって、ぼくはどうしたいんでしょうか・・・)
駄目だ。また気分が滅入ってきた。
何でも小難しく考えるのは自分の悪い癖だ。
今は何も考えずに、気持ちを落ち着かせよう。
身体全体で自然を感じるため、夕は目を閉じて呼吸を整えた。
そよ風が木々を揺らす音や、小鳥の囀りが耳をくすぐる。耳をもっと澄ませば、ガサガサと茂みを掻き分ける音も・・・
「ん?ガサガサ?」
音のする方に目をやる。徐々に近づいて来ているようだ。
(野ウサギか何かでしょうか?)
学園の中といえど自然は多く残っているので、小動物の類も多く生息している。おそらくはその一種だろうと、夕はぼんやりと見ていた。
音が近くなり、ピョコンと短めの耳を覗かる。そのまま茂みから、『彼女』は出てきた。
「・・・・・・・・・あ」
「ありゃ?なんだ夕くんじゃん]
出てきたのは春だというのに白い冬毛のオコジョ。
もちろんいくら自然が豊かな麻帆良学園とはいえ、オコジョまではいるはずがない。
夕が想いを寄せる、オコジョ妖精のカモミールだ。
ボン、と音をさせて一瞬でオコジョの姿から人間の姿へとなり変わる。
「やっほー」
「か、かかかかかカモさんっ!」
さっきまでの疲労はどこへ行ったのやら。慌てて立ち上がる夕。
「何テンパってんの夕くん」
「カモさん、な、なんでここに?」
「いや、実は昨日エヴァ君の家でゼロちゃんとドンチャン騒ぎしてたらエヴァ君が五月蝿いって怒っちゃってさ。今日の学園の見回り押し付けられちゃったのよ」
「それでこんな所まで?」
「小さいけど魔法の気配がしたから様子見に来たんだけど・・・夕くんだったのね。魔法の練習?」
「ええ、まあ」
「へー、頑張ってるじゃん夕くん」
「はい・・・ありがとう、ございます」
きっと今の「頑張ってる」は『ネギの為に』、という意味合いだ。
それがなんとなく分かり、夕は複雑な気持ちになる。
「ん、どうかした?夕くん。なんか元気ないわね」
「え、いえ。そんなことないですよ」
まさか原因は貴女だ、と言えるはずもない。夕は目を逸らして誤魔化した。
「今の今まで魔法の練習をしていましたので。少し疲れているだけです」
「そっか。ほんじゃ立ってないで座ろ。一緒にいい?」
「はい。もちろん」
カモはあぐらをかき、夕はその隣りに体育座りで座る。
ふう。と一息、息をつく。
「あー、にしてもエヴァ君も酷いわよねー。こんなか弱い女の子をコキ使ってくれちゃってさ」
「それは自業自得でしょう」
「だって一緒にお酒飲める相手なんてゼロちゃんくらいなんだもん。一人で飲んでるってのも寂しいもんなのよ?」
「それは、まあそうですね」
「でしょ?」
「・・・あの、ぼくで良ければ付き合いますよ?お酒は飲めませんが」
「えっ、ホント?夕くんやっさしー」
「毎日は勘弁ですけどね」
「あはは、やっぱし?でも、夕くんとなら美味しいお酒飲めそうだなー。ほら、この前の公園の時みたいにさ」
「え。あ、はい。その、ぼくもこの前は楽しかったですよ」
まさかカモの方からあの夜の話を振られるとは思っていなかった夕はやけに嬉しくなった。
「ホントに?結構無理矢理付きき合わせちゃった感じだったけど」
「ええ。まあ、酔いつぶれてオコジョに戻ったまま眠ってしまった貴女をネギ先生の所に送っていくというオモケ付きでしたけどね」
照れくさくなってついイジワルを言う夕。
「あはは、それは言わないお約束でしょ」
「貴女の飲み散らかした缶ビールの残骸も全部ぼくが処分したんですからね」
「ゴメンってー」

そのまま10分程、二人は話した。
何気ない会話で笑い合う二人。二人でいるだけで、夕には自然と笑みがこぼれる。
そうしているだけでも、夕にとっては幸せだった。

しかし、そこから一歩先へ踏み出したい気持ちもゼロではない。
今日こそ伝えたい。この想いを。

「さて、あんまぐずぐずしてるとエヴァ君にどやされるし。アタシは行くわ。練習頑張ってね夕くん」
「え、あ・・・」
またもやタイミングを逃してしま・・・いや、そういうわけにはいかない。
「あのっ、カモさん!」
「ん、どしたの?夕くん」
「え、えと、あの」
呼び止めたはいいが、何も言葉が浮かんでこない。
いつもは嫌でも余計な事がズラズラ浮かんでくるというのに、何をしている自分。
そんな自己嫌悪に陥りながらも、夕はなんとか口を開いた。
「あの、以前カモさんは、オコジョ妖精には人の好意を測る能力がある、とおっしゃいましたよね・・?」
言葉が切れ切れになりながらも、夕は必死に言葉を紡ぐ。
「うん。そうよ?なに、夕くん今のランキングが気になるわけ?」
「え、ええ・・・」
「なんだ、もしかして元気なかったのってその所為?」
カモはイタズラっ子みたいな笑顔を浮かべる。半分正解、半分間違いといった所か。
「いよっしゃ!お姉さん一肌脱いじゃうわよー!最近ランキングも測ってなかったし丁度いいわね」
「はい・・・」
今までに無い緊張が夕を包む。体中から妙な油汗が吹き出ているような感覚だ。
「ほんじゃまドキドキ好感度ランキングスタートー!!」


・・・・・・・・・瞬間、カモの顔が真っ赤に染まった。


「・・・・・あれ?」
「・・・・・・・・」
カモは夕の方を伺うが、夕は無言で俯いたままだ。
「え、えと・・・あ、あははは。お、おっかしーなー」
「どう、したんですか?カモさん」
解っていながら、夕は問いかける。
「いや、あの、夕くんの好意は相変わらず、っていうかむしろ上がってるくらいなんだけど・・・」
「・・・だけど?」
「その、相手が・・・・・・・・・・私、みたいで」
夕は下を向いたまま、何も言わない。
数秒の、だが二人にとっては恐ろしく長い、沈黙。風の音すら耳に入ってこない。
「あ、あはははははは!そ、そんなわけないわよね!!なんか今日調子悪いみたい。ゴメンね夕くん変な事言って・・」
「いえ。違いませんよ」
「え?」
夕はゆっくりと顔を上げる。
「ぼくが好きなのは貴女です。カモさん」
「や、やだ夕くん。そんな冗談・・」
「冗談なんかじゃありません」
夕はどこまでもまっすぐな、そして力強い瞳でカモを見つめる。
「好きです。カモさん」
まっすぐにカモの瞳を見つめて、夕は遂に告白を果たした。
あまりの出来事に、カモは狼狽してしまう。
「そ、そんなこと、言われても・・」
夕はゆっくりとカモの元へ歩み寄る。
そしてそっと手を繋ぎ、もう一度はっきりと想いを伝える。
「分かっています。でも、ぼくはずっと貴女のことが好きだったんです」
「夕くん・・・」
「すみません、こんな事を急に言われても困りますよね。でも、ぼくは貴女にこの想いを知って欲しくて・・」
「・・・ううん。そんなこと、ないよ」
「え?」
「そりゃ、いきなりだったから驚いちゃったけど。わ、私だって夕くんのこと・・・その、前から気にしてたっていうか・・」
カモは顔を頬を赤らめながら言う。繋いだ手から、お互いの心臓の音が伝わって行くような気がした。
「そ、それはつまり、その・・」
「あはは、お互いに鈍感だった・・・ってことみたいね」
今度は夕の顔が真っ赤に染まる。
今まで苦悩していたのが馬鹿らしく思われる。
これはなんだ。つまり、最初から両想いだった。ということか。
「私嬉しいよ?夕くん」
「カモさん・・・」
「今度は私の番だね。好きよ夕くん。大好き」
「は、はい。ぼくも、嬉しいです。カモさん」


・・・カモさん。今までぼくは魔法を使えるようになって自分が何をしたいのか、正直分かりませんでした。
でも、今決心しました。
修学旅行で起きた事件、学園祭前に現れた悪魔、今まで危険なことが沢山あった。
ぼくはその時に何もできませんでした。それが悔しくてたまらなかった。
きっとこれからも、危険はことは起こるはず。
だからぼくは。
その時に貴女を守ることができるように、ぼくは強くなりたい。
いえ、なってみせます。
何時になるかは分かりませんが、絶対に。
貴女の為ならきっとできるはずだから。


ふと、あの公園の桜を思い出す
きっとあの時咲いていなかった蕾も満開になっているだろう
桜の花はすぐに散ってしまうけど、この恋は決して散らさないように
いつまでも、咲き誇らせよう


「ねえ、夕くん。ちょっと眼を閉じてて?」
「え?あの、カモさん?」
「いいからほら。そう、そのまま。絶対眼を開けたらダメだからね・・・・・ちゅっ」


.END


超♂×葉加瀬

(ちょっと前の一連の流れに、ちょっとだけ反抗してみるテスト)


……ロボ研の研究室を覗くと、彼女は例によって研究に没頭しているようだった。
何日目になるのか分からぬ、着たきり雀なアインシュタインのTシャツ。彼女のお気に入り。
片方だけずり下がった靴下。室内のあちこちに散らばった制服。
彼は小さく溜息をつくと、モニターに没頭しつつカ○リーメイトに手を伸ばす彼女に声をかける。

「……だめだヨ、そんなモノ食べてちゃ。せっかく差し入れ持てきたのに」
「あ、チャオくん~、ど~も~。もう東医研の方はいいんですか~?」
振り返った聡美の、柔かな微笑み。見るもの全てを和ませる微笑み。
超は湯気を立てる肉まんを机の上に置くと、聡美の肩越しにモニターを覗き込む。
「東洋医学の方は、動物実験の結果待ちネ。しばらくやれるコトないから、コッチを手伝えるヨ。
 で、どうなてるかナ、例の対魔法使い用のステルス・システムは?」
「なんとかなりそうですね~。部品の精度が問題だったんですが、注文してた品が届きましたし~。
 この調子なら、学園祭までには実用レベルの試作品が作れると思います~」
「ふふ、ハカセは本当に有能ネ。お陰で色々助かるヨ」
オールラウンダーな天才少年である超だったが、しかしやはり実用工学では聡美に一歩譲る。
彼が「ちょっと反則的な事情によって」知っている基礎理論を元に、聡美がそれを実現化する。
この2人の才能の組み合わせによって、2人の周囲では大幅に時間が加速されていた。
この時代には未だ見られぬはずの超技術が、次々と生まれていた。

「……にしてもハカセ、泊り込みは仕方ないけどネ、ちゃんと片付けなきゃだめヨ。
 女の子なんだから、もっと色々気を使わないト……」
「ん~、ほふでふね~(そうですね~)」
散乱する制服を拾いながら、いつもの文句を言う超。肉まんを頬張りながら生返事の聡美。
超は女物の制服を慣れた手つきで綺麗に畳む。脱ぎ捨てられていた靴下なども拾っていく。
片付けの途中で、明らかに彼女のモノらしきブラジャーとパンツを見つけ、流石に苦笑。


「ねぇハカセ、流石にコレ放っておくのはまずいヨ。洗濯とか、ちゃんとしてる?」
「あ~、そうですね~。今度まとめてしておきます~」
「……もういいヨ。僕がしておいてあげるヨ、いつもみたいにネ」
生返事を返しつつ、研究に没頭する聡美。超は溜息をつきつつ、彼女の汚れ物を袋に詰める。
はっきり言ってこんなこと、男友達に任せていいものではない。けれどこれが、2人の日常。
超自身も多忙で研究最優先の生活ではあったが、しかし彼は欠点のない万能型の天才。
料理のみならず、家事全般をもそつなくこなす。聡美よりは周囲を気遣う余裕もある。
だからこうして、忙しい時間の合間を縫っては世話を焼いているのだった。

とりあえずの「ノルマ」である洗濯物をまとめ、部屋を出ようとして……超は、戸口で立ち止まった。
聡美は相変わらずモニタの前で何やら作業中。出て行く超を振り向きもしない。
「…………ハカセ。いや――聡美サン」
「ん~、なんですか~?」
「これからの作戦が成功したら、ネ……」
超の「目的」を知り、それでもなお協力してくれる聡美。超の大事な右腕である聡美。
研究のこと以外はまるでダメで、1人では到底人間らしい生活などできないであろう聡美。
目的のためには非情たらん、と思いつめがちな超を、自然と和ませてくれる聡美。
――けれども、超の作戦が成功したら。超が「故郷に帰らねばならない」時が来たら。
彼女は、どうなってしまうのだろう? 彼女の面倒を、誰が見るのだろう?
いや超自身、本当に「彼女を置いて行く」ことができるのだろうか?
お互い何よりも理性を重視する性格、全ては了解済みであるはずのことだったが……
この感情は、計画になかった。天才少年にも、どうしたらいいのか分からないまま。
「……イヤ、何でもないネ。また来るヨ」
「はい~。いつもありがとうです~。愛してますよ~、チャオくん♪」
苦いものを噛み殺しながら、戸を閉じる超。
振り返りもせずに見送った聡美の声は、あくまで明るく、柔かだった。

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