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げんしけんSSスレ11

1マロン名無しさん :2006/11/01(水) 06:48:24 ID:???
「第11回げんしけんSSよかった会議〜。今回の特別ゲストは荻上千佳さんです〜」
「どうも、荻上です。」
「どうですか、荻上さん、前スレのSSの感想は。」
「特にないです。」
「え〜〜、あれ、おもしろくなかった〜〜?」
「いえ、普通です。」
「あ、もうちょっとこうなんかないすか?甘々笹荻SSなんてどうっすか〜?」
「興味ないです!」
「ちょちょちょっとまとうよ〜、コレじゃSSよかった会議の意義が〜。」
「妄想垂れ流しは苦手です。」
「そそそそんなバッサリ〜。」

というわけでマターリ第11弾。
未成年の方や本スレにてスレ違い?と不安の方も安心してご利用下さい。
荒らし・煽りは完全放置のマターリー進行でおながいします。
本編はもちろん、くじアンSSも受付中。←けっこう重要

☆講談社月刊誌アフタヌーンにて好評のうちに連載終了。
☆単行本第1〜8巻好評発売中。9巻は12月下旬発売予定。 オマケもすごい!
☆作中作「くじびきアンバランス」漫画連載&アニメ放映中!けっこういい出来かも!

2マロン名無しさん :2006/11/01(水) 06:49:43 ID:???
前スレ
げんしけんSSスレ10
http://comic6.2ch.net/test/read.cgi/csaloon/1155491189/

げんしけん(現代視覚文化研究会)まとめサイト(過去ログや人物紹介はこちらへ)
http://ime.nu/www.zawax.info/~comic/
げんしけんSSスレまとめサイト(このスレのまとめはこちら)
ttp://www7.atwiki.jp/genshikenss/
げんしけんSSアンソロ製作委員会(SSで同人アンソロ本を出そうという企画・第二弾鋭意製作中!)
ttp://saaaaaaax.web.fc2.com/gssansoro/top.htm

エロ話801話などはこちらで
げんしけん@エロパロ板 その3(21禁)
http://sakura03.bbspink.com/test/read.cgi/eroparo/1144944199/


3マロン名無しさん :2006/11/01(水) 06:50:39 ID:???
前スレ
げんしけんSSスレ9
http://comic6.2ch.net/test/read.cgi/csaloon/1150517919/
げんしけんSSスレ8
http://comic6.2ch.net/test/read.cgi/csaloon/1146761741/
げんしけんSSスレ7
http://comic6.2ch.net/test/read.cgi/csaloon/1145464882/
げんしけんSSスレ6
http://comic6.2ch.net/test/read.cgi/csaloon/1143200874/
げんしけんSSスレ5
http://comic6.2ch.net/test/read.cgi/csaloon/1141591410/
げんしけんSSスレ4
http://comic6.2ch.net/test/read.cgi/csaloon/1139939998/
げんしけんSSスレその3
http://comic6.2ch.net/test/read.cgi/csaloon/1136864438/
げんしけんSSスレその2
http://comic6.2ch.net/test/read.cgi/csaloon/1133609152/
げんしけんSSスレ
http://comic6.2ch.net/test/read.cgi/csaloon/1128831969/

げんしけん本スレ(連載終了により作品名は外されました)
木尾士目総合スレ6
http://comic6.2ch.net/test/read.cgi/comic/1158225782/

4マロン名無しさん :2006/11/01(水) 06:53:56 ID:???
とりあえず立て直しましたぁ。
前スレ落ちちゃいましたね。
いやぁ、ここまで一回も落ちなかったほうがすごかったのかも。
今後は落ちないように気を使わんと・・・。

では、くじアン面白かった会議第四回いきます。
前スレでの感想、ありがとうございました。
朽木君ですが、予告で出てくるまで出しませんw
コレは最初から決めてました。
いつになったら出てくることやら・・・。
では、3レスほどで投下します。

5第四回くじびき〜以下略 :2006/11/01(水) 06:55:52 ID:???
マ「え〜、第四回くじびきはーとアンバランス、略してやっぱりくじアンよかった本会議〜。」
ベ「今回はネ申回でしたね!」
マ「うおっ・・・と。なに興奮してんるンだよ。」
ベ「いやぁ、会長やっぱいいですね!今後、少しづつ心の中が見れたらいいなぁ!」
マ「このヤロウ・・・自分の好きキャラがあまり変わってないのをいい事に・・・。」
梟「そうか?会長もけっこう変わってると思うけどね。」
K「き、キリっとしてる感じが強いせいかな。前よりも強い女性な感じがするな・・・。」
ト「あー、そうですね。」
マ「しかしなんだ・・・あの「夢落ち」って・・・。」
ト「いやぁ。」
梟「コレで夢落ちだったら暴動が起こるぞ!?」
ト「でもありえそうじゃないですか?また最初から〜みたいな。」
ベ「そんな「奇面組」はやめようよ・・・。」
マ「確かに、興ざめだわな。」
梟「まぁ、今回は、確かにいい回だったな。」
K「く、空気感がいいんだよね。て、天候の変化に合わせて湿度が変わってる感じ・・・。」
ベ「ところどころ細かい描写があってすごいですよね。
  天気予報で晴れのち雨って予報してたり・・・。」
ト「会長が判を押してる書類も、全部違うんだよね。
  中には三話の事件についての書類もあったね。」
マ「全体的に細かすぎだわ。水族館とか、生物準備室とか、ボーリング場とか。」
梟「作画レベルでいえば、今期No.1かもしれんな。」
K「よ、予算は多いってワケじゃないのにね・・・。」
マ「コレがジャパニメーションじゃい!
  予算が多くて動きまくってもつまらん作品もある!
  逆に予算が少ないからって妥協しすぎてるアニメもある!
  しかしだ!このアニメは本来はここまで出来ることを証明してくれているなっ!
  素晴らしいぞ!亜細亜堂!」

6第四回くじびき〜以下略 :2006/11/01(水) 06:58:58 ID:???
ベ「で、ストーリーですが・・・。」
マ「ヤヴァイよな。時乃がこんなにかわいいとは思わないよな。」
梟「今回は完璧に時乃と会長が持っていっちゃったな。」
K「ま、まぁ、メイン回だしね。そ、そういう描写多いに決まってるよね。」
ベ「会長の心が少し覗けましたね。
  まぁ、俺としては、最終話で千尋と時乃がくっついてるのを眺めながら、
  副会長に何かいわれて、『二人が幸せなら何も・・・』。」
マ「はいはい、妄想はその辺にしてだな。」
ベ「ひ、ヒドイっす!」
梟「いや、でもその展開はありそうだな。二人の幸せを眺め、身を引く会長か。」
K「い、いいかもね。あ、ありがちだけど。
  ち、『千尋も好きだが、時乃ことも好きだ。』とかいいそうだな。」
べ「そうなんですよ!いやぁ、たのしみだなぁ。」
マ「まぁ、何はともあれ。副会長とかリサの様子も伺えたな。」
梟「けっこう巫女設定はいいな。あれはコスプレも作りがいのある・・・。」
神「いいですね〜。私には副会長の魂が宿ってますし〜。」
梟「於木野さんもやる?」
於「やりません。」
梟「なんだ・・・せっかく漫画verの白衣コス用意しようと思ってたのに・・・。」
マ「おお〜。あのネコミミverか。」
K「あ、あっちもかわいいよね。」
ベ「かわいいですね〜。漫画も二話まで進んだわけですけど・・・。」
マ「あっちはあっちでアニメよりも細かくていいな。
  しかし、少々テンポが悪いかもしれんな。」
梟「確かに、一気にあそこまで一話で読めたらよかったとは思ったな。」
K「あ、あれ、描ききれなかったのかね。」
ト「どうでしょうねえ。小梅がけっこう忙しそうでしたからね。」
マ「まぁ、なに、これからだな、あれはあれでエロイしな。」
ト「パンチラしまくりでしたしねえ。」

7第四回くじびき〜以下略 :2006/11/01(水) 07:09:57 ID:???
マ「話を戻そうか。さっきも出たが、旧校舎での空気感というか、
  二人が見詰め合ったシーンはキューンときたなぁ。」
K「に、似合わない事いうなよ・・・。」
マ「う、うっさいわ!」
ベ「あそこはいいシーンでしたよね。」
ト「幼馴染のいい距離感というか、よかったですよね。」
梟「これは幼馴染がいるだけによく分かるってか?」
ト「いやぁ、僕らは小学生以降は離れてましたしねえ。」
マ「・・・まぁ、ああいう関係って言うのは憧れるよな。はは。」
ベ「確かに、ああいう小さい頃の思い出が共有されてて、分かり合ってる・・・。
  でも、新しく見えてくる表情に戸惑う・・・そういうのっていいですよね。」
K「お、幼馴染萌え、って言うけど、か、簡単な関係じゃないよね。
  そ、それをうまく描写できてると思う。」
梟「いい感じだよなぁ。うむ。」
マ「そこから生徒会室に移動するわけだが・・・。」
梟「そこからもまたいいな。過去の思い出をフラッシュバックしながら、
  三人の関係が徐々に戻っていく様子が伺えて・・・。」
ベ「最後の傘を貸すシーン、最高によかったですよ。
  少し口調が変わってるのは、わざとですかねえ。」
K「そ、それもそうだし、千尋が会長を車まで送る為に相合傘で向おうとするのを眺める時乃が、
  徐々に表情を変えていくシーン。す、すごいよね。」
ト「あれはどういう感情なんでしょうね。寂しさ?」
ベ「変わってしまう恐怖とか?」
マ「そのあたりは難しいなぁ。三人で仲良くはしたいけど、
  二人でいられるのはイヤ?うーん、ヤキモチとはまたちがうような・・・。」
梟「どこか遠くへ行ってしまうように感じたのかもな。
  なんか言い知れぬ不安が浮かんだのかもしれないな、あの二人の背中に。」

8第四回くじびき〜以下略 :2006/11/01(水) 07:10:45 ID:???

マ「何はともあれ、4話はネ申回というのは概ね反論はなさそうだな。」
ト「今後、この回を上回る泣き回はあるんでしょうか?」
K「さ、三話とのギャップも確実にあったよな。だ、だからっていうのもあるし。」
ベ「あ、でも、「ミロ」・・・。」
マ・梟・K「そこは流せ。」
ベ「あい・・・。」
マ「まぁ、高い羊羹とか頼むとか生意気な餓鬼じゃなぁ、とかは思ったわい。
  何はともあれまた次回じゃ!またな!」

9アトガキ :2006/11/01(水) 07:11:49 ID:???
くじアンの第四話はネ申回です。
とか言い過ぎると見た時にギャップは大きいかも知れんので
あまり言わんでおこう・・・。

10アトガキ :2006/11/01(水) 07:12:25 ID:???
くじアンの第四話はネ申回です。
とか言い過ぎると見た時にギャップは大きいかも知れんので
あまり言わんでおこう・・・。

11マロン名無しさん :2006/11/01(水) 07:13:02 ID:???
何二回投稿してんだ・・・
テンパってますね・・・
もう寝よう・・・。

12マロン名無しさん :2006/11/01(水) 08:49:47 ID:???
>>1乙だから、恋をした。

さて。
>>第四回くじびき〜以下略
いや4話すごかったすね。ちゅうか4クールシリーズならまだしも、12回しかないのにこんな話やっててきっちり終わるのかというのは笹原と同意見でございます。
それとも手ごたえ掴んでもう1シリーズやれそうになってるとか?んで当初予定していたげんしけん第二期がお蔵とか?
・゚・(つД`)・゚・ソレジャアホンマツテントウダアァ
まあ3人の関係性をいろいろ想像させる回だったのでストーリー上も必要なことはできていた、と思いましょうか。
ちなみに俺は洗濯物が心配です。……SSの感想ではないと思いながら書いてるけど違和感がない……いっか、そんじゃ。

山田萌え班としては彼女大活躍(っつうか大爆発してましたが)の次回に超期待だ!
スレ落っことさないよう俺も頑張ります。光明が……もちょっと先に光明が。

13マロン名無しさん :2006/11/01(水) 19:30:46 ID:???
>>1
数日書き込みないだけで落ちるのかサロンは…

14マロン名無しさん :2006/11/01(水) 19:39:55 ID:???
>1お疲れ様ですた!!SSスレは何度でも読みがえるっ!
テンプレフイタwwwww
自分も、マイペースで今後も投下していく所存です。

>>くじあん会議
やーやっぱ、まだアニメ見てないけど、このSS好きですわ。

>旧校舎での空気感
ううむ、アニメでのそういう描写好きだ…やっぱみとかないといかんなあ。

…あと、マの人のちょっと複雑な気持ちがSS内でかかれてますね。
せつねえ…。こういうことホント言いそうだもんなあ…。

15マロン名無しさん :2006/11/01(水) 21:13:59 ID:???
>>1
まずはスレ立て乙です。
単に容量がオーバーして前スレ終わったと思ってたのですが、落ちたのですか?
最新の書き込みから、ほんの4日ぐらいしか経ってませんが、それぐらいの空きは前々から何回もあったと思うのですが…
それともやはり容量オーバーでしょうか?
過去のスレに比べてえらい早い番号で終わってますが、長文の作品が続いてるせいでしょうか?
実は俺今書いてる話、最終的には100レス超えるかも知れないのですが、大丈夫かなあ…

>第4回くじびき〜以下略
何かこういう会議を読んでると、木尾先生が「くじアン」の新作作った意図が分かるような気がします。
「くじアン」は作品そのものを楽しむというより、げんしけんのみんなと一緒に同時進行で「くじアン」を体験しようという、一種のイベントなんだと思います。
(もちろん独立した作品としても十分に楽しめる出来ですが)
何と言うか、ウルトラの星が見えたら君もウルトラ兄弟だ、みたいなノリというか、まあそんな感じだと思います。

16マロン名無しさん :2006/11/03(金) 00:57:33 ID:???
>1乙です!よもや落ちるとは…
そして、くじvアンへの熱意が感じられますw

>第四回くじびき〜以下略
アニメ観れて無いのに楽しみですよ。今後ともよろしくお願いします!
DVD買った人が読み返す日が来るはず…。

171 :2006/11/03(金) 06:01:31 ID:???
たぶん、ずっとsage進行でだいぶ順番が下がってたんだと思うんですよね。
立ったのが8月中旬だから、2ヶ月半くらいもってたわけですしね。
今までは落ちきる前に使い果たしてましたからねえ・・・。

18マロン名無しさん :2006/11/03(金) 15:21:08 ID:???
>>1さん乙です〜
よもや落ちるとは……

>>第四(ry
いいなぁ。楽しそうだなあこいつら。
しかしアニメ1クールで本当にまとめられんのかな……

19マロン名無しさん :2006/11/03(金) 18:38:47 ID:???
ようかん・・・
ナニ?律子の好物って羊羹?
しかも、「とらや」の次が「おざさ」の羊羹
かなりのツウだな。(ヒント=吉祥寺)

20マロン名無しさん :2006/11/03(金) 22:36:36 ID:wsAXL9W3
保守

攻殻パロを執筆中だけど、もしかして今の主流はくじアン…?

21マロン名無しさん :2006/11/04(土) 16:10:23 ID:???
まだ主流というほどでは無いような…
好きなの書いてください!!

22マロン名無しさん :2006/11/05(日) 07:30:09 ID:???
ですねぇ。
書いてて楽しくなきゃねw

23マロン名無しさん :2006/11/06(月) 19:19:33 ID:???
バッチこーい

24マロン名無しさん :2006/11/08(水) 02:26:46 ID:???
新作期待保守

25マロン名無しさん :2006/11/09(木) 01:53:00 ID:???
書く時間がー時間がーorz
とりあえず保守

26うすびぃ(13歳) :2006/11/09(木) 01:56:23 ID:???
落ちたのか・・・
残ねん
個人的にげんしけんは同人かっても外ればっか引かされて
脳内であまり盛り上がってない
ローゼンメイデンのSSは何個か描いたけど
9巻買ったらまた書くよ

27マロン名無しさん :2006/11/09(木) 03:57:23 ID:???
まだまだ盛り上がってる最中だけどアンソロ2の原稿がですね…orz

28マロン名無しさん :2006/11/09(木) 20:04:28 ID:???
がんがれ、まだ時間はある。

29うすびぃ(13歳) :2006/11/10(金) 03:12:32 ID:???
冬コミに追われて書く時間がああ

30マロン名無しさん :2006/11/10(金) 03:58:00 ID:???
>>29 ローゼンSSイラネ

31うすびぃ(13歳) :2006/11/10(金) 17:25:10 ID:/G0PFxi2
田中「おーぅ」
笹原「ドモっす。久我山さんつかまりませんでした」
ダラ「まっしょーがねーやな」
田中「女性陣は?」
笹原「春日部さんのショップの手伝いに借り出されてるみたいです。遅れてくるそうです」
ダラ「ほんじゃ、ま男性陣で先にカンパーイッ」
笹原「ほんと久しぶりですね」
ダラ「で?どーなのよ。笹原最近ずっと顔だしてなかったみたいだけど、研修のほうは」
笹原「ええ。まだ実感わいてないんですけど ああ編集者になるんだなってことくらいで」
田中「なんだ お前けっこう部室に顔出してるのか?イヤだねぇ大学近くに就職したやつぁ」
ダラ「違ええよ!・・それに」
朽木「最近ちょくちょくマダラメさんは春日部女史の卒論の手伝いさせられてますにょ〜」
ダラ「こっコラ!・・・・・あーーーまーーーその・・・」
田中「・・・・・相変わらず茨の道だな」
ダラ「ちっちげーーーよ!そ/////そんなんじゃねえって・・」
田中(ぽん)「マダラメ・・・俺らはある意味尊敬してるんだぜ」
笹原「そそーですよ」
田中「俺たちはオタクだ。道端でいちゃついているような奴らを見下している反面
   うらやましくも思っている。でも俺たちにはそんなことは無理だ。だからオタクに
   逃げ込んでいるってのもある。そこに春日部さんみたいな縁遠いと思われた人が
   来た。今じゃ当たり前の関係になったけど、どっかで俺なんかは非難や否定されるのが怖い
   部分もある。同じ趣味の子と付き合ったほうが楽だって・・」
笹原「大野さんに聞かれたら怒られそうですね。でもそれ当たってると思いますよ。」
田中「お前は俺たちから見たら希望の星なんだよ」
ダラ(う〜ん・・お前ら彼女いるし・・)「ははは、まっまあ確かに茨の道だな。
  イメージ的にいうとベルバラのOPみたいなもの。全裸でバラのトゲに囲まれた感じかなww
  あはっあははははは」
咲 「な〜に盛り上がってんの?なにが茨の道だって?」
ダラ「いっ・・・ももしかして聴いてた?」
大野「田中さ〜〜ん・・ちょっとお話が」(マスク装着)
荻上(全裸? 茨? まだらめ・・・)うーん

32うすびぃ(13歳) :2006/11/10(金) 17:26:43 ID:/G0PFxi2
その晩 荻上の家にて

荻上 「マダラメ!・・・ゼンラ!・・イバラ!・・・ワレ・・・萌エル!」

笹原 (な・・なぜ三国無○の魏延口調)

33マロン名無しさん :2006/11/10(金) 19:15:03 ID:???
GJ!!どこで精進してきたんだw
読みやすい上に面白くなってる。あんたすごいな!

あと荻上さんの壊れっぷりに萌へ。どんなすごい妄想してるんだか。
ゴッソサン

34マロン名無しさん :2006/11/10(金) 20:55:25 ID:???
草むらーにー名も知れずー咲いているー花ならばー

35マロン名無しさん :2006/11/10(金) 23:07:52 ID:???
>>31
いいねえ、バラのトゲでハアハアな荻上さん…

>>30
俺は読みたいな、ローゼンSS。
現視研の部室に、外務大臣が乱入してくる訳ですな…

36マロン名無しさん :2006/11/11(土) 01:05:03 ID:???
ひゃはっ、連投じゃなくなってる!
>>31
おもしろかったですよ〜。
茨の道も一歩から・・・。

んで、キッズで6話が放送されてる裏で5話の面白かった会議行きます〜。
3レスでよろしく〜です。

37第五回くじびき以下略 :2006/11/11(土) 01:05:45 ID:???
マ「え〜、第五回くじびきはーとアンバラン・・・。」
ク「にょほほっ!!今回は参加していいのですねいえいぇえええい!!?」
マ「・・・うるさいよ。あー、もうこうなりそうだからいないときにやりたかったんだが・・・。
  え〜、はーとアンバランス、略してやっぱりくじアンよかった本会議〜。」
べ「今回は・・・どうでしょう?」
梟「詰め込みすぎだな。正直二回ぐらいに分けて欲しかったかもしれん。」
K「テ、テンポが速すぎてちょっとよそ見すると、
  な、なにがなんだかわからなくなるんだよね・・・。」
ト「二、三回見ると、『ああ、こういうことだったんだ。』ともなるんですけどね。」
マ「むぅ、たしかに、感情の変化は表情でしか見て取れなかったしな。」
ベ「時乃派と蓮子派に遺恨を残す結果になったかもしれませんね・・・。」
梟「まぁ、しっかり見ればどちらにも非があるんだけだどな。」
K「び、ビンタは時乃が悪いとも見れるし、れ、蓮子のやりすぎとも見れるし・・・。」
ク「NO!小雪の好意を無駄にした蓮子死すべし!!フゥウウ!!」
ベ「それは言いすぎじゃない?あの後しまった、という表情もしてるし、
  悪い事だって言うのは分かっててもやっちゃう性格なんだろうね。」
マ「そうそう、頭に血が上るとついやってしまう。
  しかし、反省はして、果物とって来るとかいい描写じゃったわい。」
梟「その後すぐに山田が来てその辺の話しが終わっちゃうのが残念でな。」
K「も、もう少しじっくり描いて欲しかったね〜。も、もったいない。」
ト「テンポが速いのは悪くはないんですが、
  ながら見してると見落とすシーンが多くて・・・。」
マ「ながらって・・・。・・・突っ込むのはやめておこう。」
ベ「前から細かいところにギミックか仕掛けられていてるんですが、
  今回はソレが顕著だった気がしますね。」
梟「本題までそういう描写に近くなってては、批判も集まるってなもんだろう。」
K「あ、あの4話の後って言うのも大きいかもね。」
マ「まぁ、比較してしまうのは仕方がないことだがな。」
ベ「Bパートがキュウキュウでしたからねえ。」
ト「両親の出てくるシーンも、唐突で、しかもなんか急だったし。」
マ「描写的に軽くなってる気はするな。尺の短さが惜しく思えるわい。」

38第五回くじびき以下略 :2006/11/11(土) 01:06:31 ID:???
ベ「内容的には時乃と蓮子の関係性がメインでしたね。」
梟「お互いに自分の嫌な所を自覚しつつ直せない自分が嫌いな二人。
  両極端にいながら似た二人なのかもしれんな。」
K「と、時乃は無意識に他人に飛び込んでしまうタイプで、
  れ、蓮子は他人をすぐに否定してしまうタイプか。」
ベ「いい対比になってると思いますよ。お互いがお互いに意識してると思います。」
マ「むう、なんかむず痒い青春じゃのう。」
梟「そんな時期あったのかよ、お前に。」
マ「はははははは!あるわけないわっ!わしは昔からこの道一筋じゃ!」
K「じ、自慢げに言うことでもないし、か、かえって引くぞ。」
マ「・・・うう。」
ベ「ま、まあ、そのへんはおいといて。」
ト「山田ですが、公式では『人間』言われてる彼女ですが・・・。」
マ「あー、その辺は流したほうがいいんじゃね?」
梟「だな。今後山田回がないとも限らんし、どっちにしたって山田は山田だし。」
K「は、話の種にするのはいいけど、け、結論はつかないだろうからな・・・。」
ク「あの描写ではどう考えてもロボットですぞ!これはDVD修正もありうる・・・。」
ト「それはない。」
ベ「まぁ、今後の展開で出てくることに期待ですか。」
梟「千尋は相変わらずいいところで強気な発言するな。」
K「いやぁ、ち、ちゃんと主人公やってるよね。」
マ「まー、最近のアニメの主人公にしてはまっすぐな奴だな。」
ベ「時乃の頭を軽く叩いて慰めたりとか、いいですね。」
ト「そういえば、出だしの終業式の帰りの5人の距離が、
  最後、始業式の登校で縮まってるのはうまいな〜、と思ったんですよね。」
梟「あれはよかったなぁ。完全に分かり合ったわけではないけど、少し歩み寄った・・・と。」
K「そ、そういうところ見逃すと、ま、全く内容がわからなくなる、と。」
ベ「むずかしいところですねえ。あんなの一瞬ですからねえ。」

39第五回くじびき以下略 :2006/11/11(土) 01:07:25 ID:???
マ「んで〜、今回ついに小雪の超能力が・・・。」
ク「YES!YESYESYES!ついに小雪の時代ですぞ〜!」
梟「かわいい描写が多いな。こんな信者がつくのも判る気もする。」
K「こ、『小雪、こどもじゃないもん・・・」は反則だよな。」
ト「一番、製作者が見せたがっているのは小雪ではないかという気もしてきますね。」
マ「確かに、毎回おいしいシーンがあるからな。
  一話の「おねえちゃ〜ん」、二話「あの、爆弾が・・・」、三話「食べて・・・」
  四話のゴミ掃除、必ずかわいいシーンがあるからなぁ。」
ベ「蓮子が毎回パンチラするようなものですかね。」
マ「お約束か。むう、ロリスキーとしては小雪は見逃せないのう。」
ク「HUUUU!!小雪は渡しませんぞぉ!!」
マ「あー、そういうのはネットの中だけにしてくれ。次回は小雪回、見逃せんぞ!」
梟「相変わらず作画はよかったな。」
K「く、空気アニメっていわれるけど、た、確かに動画見てるだけでも面白いからな。」
ベ「無理にストーリーを追わず、動いてるのを見て楽しむのもいいかもしれませんね。」
ト「そういう楽しみ方が出来る稀有なアニメだよね。」
マ「今回は確かに詰め込みすぎであったし、見かたによってはダメかもしれんが、
  十分楽しめる回であったのは間違いないわな。」
梟「及第点、って奴か。たまに全話及第点も取れてないアニメもあるからなぁ・・・。」
K「そ、そういう意味じゃ、すごいのかもしれないけどね。」
ト「今回に限っては複数回見て欲しいですね〜。」
ベ「そういうのははまったオタクだけがするから、なかなか難しいかもね。」
マ「何を言う!わしはもうすでに全話10回以上みてるぞい!!」
梟「まぁ、10回は言い過ぎとしても、3、4回は見てしまう不思議な魅力のあるアニメだな。」
べ「そうですね〜。あ、ビデオ持ってきたので、みんなで見ましょう、5話。」
マ「OKじゃ!では今回はこの辺でお開き!またなっ!」

40第五回くじびき以下略 :2006/11/11(土) 01:10:10 ID:???
ってワケで連投がいやでぎりぎりまで待ってたんですが、
よかったよかった。

感想くれた方有難うございます〜。
こいつらの会話書くだけで楽しすぎます。

明日の6話たっのしみだな〜。
クッチーに同調した第五回でした。

41うすびぃ(13歳) :2006/11/11(土) 01:28:41 ID:1hd63yA2
ベルバラOP
http://ime.nu/www.youtube.com/watch?v=qx2sla154Y0

42マロン名無しさん :2006/11/11(土) 04:55:59 ID:???
>ベルばら
荻上さんの台詞フイタwwwwww
うまいなあ。

>くじアン会議
毎回思いますが、げんしけんキャラ一人一人の台詞がうまいっす。
「こういうこと言いそーー!」と。
今回クッチー出てきたのが個人的に好きw
ちょっと空気読めてないとこが、全体のスパイスになってるwww

43マロン名無しさん :2006/11/11(土) 12:41:31 ID:9UwtIlYi
高坂がコスしたとき、それをみた咲は「もしコー」で台詞きれちゃったけど
なんていおうとしたのかなあ?
もしコーサカ…に続くことばがわからないっ

44マロン名無しさん :2006/11/11(土) 14:39:06 ID:???
ずっとしっくりくるセリフが分からなかったんですが
「もしコーサカでなかったら張り倒してるね/殴ってるね」
とかどうでしょ

そのあとクッチー蹴りまくってるし

45マロン名無しさん :2006/11/11(土) 22:11:45 ID:???
「もしコーサカに何かあったらどうするつもりだ」
かと思ってました

46マロン名無しさん :2006/11/11(土) 22:20:11 ID:???
つ「もしコーサカが女装趣味になったらあんたらのせいだからね」

4726人いる! 前書き :2006/11/12(日) 16:25:23 ID:???
長々と書き続けた今年の夏コミのSSがようやく…すいません、実はまだ完成してません。
ですが何時までも置いとくのも何なので、途中ですが投下することにしました。
もし先に投下したい方いたら待ちますのでお先にどうぞ。
5分待ってレス無ければ投下開始します。
44レスほどの予定です。
(くどいけど未完です)

4826人いる! 前書き :2006/11/12(日) 16:32:32 ID:???
この話を初めて読む方の為に、オリジナル設定等のまとめ
@今年の新1年生は、男子5人女子6人の計11人、さらに秋にはスー&アンジェラも合流します
A部室が手狭になったので、サークル棟の屋上にプレハブ製の部室を新設しました         
B斑目は相変わらず部室に昼飯食いに来てますが、4月以降は外回りの仕事も手伝っているので、昼休み以外の時間帯にも時々部室に来ます
C斑目は1年生女子からシゲさんと呼ばれています
Dクッチーは去年の秋頃から空手を習っています
E諸々の事情で、クッチーは児童文学研究会にも掛け持ちで入会してます
児文研会長の勧めにより、普段は大人しくなりましたが、イベントになると必要以上に大騒ぎします  
F荻上会長は巷談社主催の春夏秋冬賞という漫画コンクールに応募して審査員特別賞を獲得し、それがきっかけで今年の秋に「月刊デイアフター」で新連載開始の予定です



4926人いる! 新1年生女子一覧 :2006/11/12(日) 16:37:15 ID:???
神田美智子 
両親と兄1人の4人家族だが、家族全員がオタなので幼少の頃よりコミフェスに参加していた。
ノーマルなカップリング中心だが、最近ヤオイも始める。

国松千里  
元々は特撮オタで、アニメや漫画のオタとしては初心者。
垂れ目ながら大きな瞳のロリ顔美少女。

豪田蛇衣子 
腐女子四天王(クッチーが命名した、新1年生の腐女子4人組の通称)のリーダー格。
小学生の頃から少女漫画を描いている。
大柄で肥満体のゴッグのような体格。

沢田彩   
四天王の1人。
元々はジュニア小説を書いていた、ショートカットで色白の文芸少女。

台場晴海  
腐女子属性はむしろリーダーより濃い、四天王の参謀格。
見た目秀才っぽい、スレンダーなメガネっ子。

巴マリア  
四天王の1人で、元ソフトボール部の体育会系腐女子。
巨乳でなかなかの美人だが、夏ミカンを握り潰せるほどの握力の持ち主でもある。




5026人いる! 新1年生男子一覧 :2006/11/12(日) 16:40:05 ID:???
日垣剛   
元野球少年の初心者オタ。  
身長185センチの肉体派オタだが 気は弱く温厚で大人しい性格。
初心者同士のせいか、国松と仲がいい。

有吉一郎  
高校時代は漫研。
いかにも理屈先行型オタという感じの、細面のメガネ君。
伊藤とは同じ高校出身でよく一緒にいるので、それを腐女子四天王にネタにされている。

伊藤勝典  
高校時代は文芸部。
脚本家志望だが、ラノベやSSも書く。
猫顔で、動作も猫に似ていて、喋る時も語尾に「ニャー」と付ける。

浅田寿克  
高校時代は写真部。
神経質そうなメガネ君で、1年生会員たちの会話ではツッコミ役になりがち。
岸野と一緒にいることが多い為、有吉×伊藤同様、腐女子四天王にネタにされている。

岸野有洋  
浅田と同じ高校出身で、部活も写真部だった。
リーゼント風のひさしの目立つ髪型以外に取り立てて特徴が無く、あまり目立たない。
浅田と共に、様々な雑用で縁の下の力持ちとして力量を発揮する。




5126人いる! 夏コミ前夜祭 その1 :2006/11/12(日) 16:44:22 ID:???
「笹原君、君、ヤオイっちゅーもんを知ってるか?」
漫画家のA先生が笹原にそう声をかけて来たのは、笹原が新たに担当になってから1週間ほど経った、ある日のことだった。
漫A「君確か自己紹介で、学生ん時に何たらいうオタクのサークルに居った言うてたな?そしたらそういうことにも詳しいやろ?」
笹原「ヤオイがどうかしたんですか?」
漫A「君、すまんけどわしにヤオイっちゅーもんについて、いろいろ教えてくれんかな。先ずは何でヤオイって言うかからやな。やっぱり八尾の朝吉とかが関係あんのか?」
笹原「八尾の朝吉?」
笹原はA先生に、そもそもヤオイという言葉の語源から、順を追って丁寧に説明を始めた。
(注釈)八尾の朝吉
映画「悪名」シリーズで勝新太郎が演じていたやくざの名前で、本編とは特に関係ない。
ヤオイに縁の無いオッサンの一般的な認識と流して下さい。

A先生は、主に中高年やブルーカラー層を購読者とする、実話系雑誌でやくざ漫画を描き続けてきた、この道30年のベテランである。
実話系雑誌とは、芸能・スポーツ・風俗・賭博・政治・犯罪など、スポーツ新聞的なネタに加えて、普通のマスコミがあまり扱わない暴力団関係の記事が充実している雑誌のことである。
非オタ系漫画の極北のポジションに居たこの先生を、笹原は失礼ながら担当が決まるまで知らなかった。

A先生は推定年齢55〜60歳で、笹原の両親より多分年上だ。
顔付きは強面で、体付きは大柄でいかつく、喋り方も柄の悪い関西弁だ。
経歴は公式には不明とされているが、裏社会にしっかりした情報網を持っていることから、裏社会の住人だった時期があったと思われる。
正直言って苦手なタイプであった。
そのA先生が、無骨な外見に似合わず凄まじいスピードで丹念にメモを取りつつ、矢継ぎ早に質問を次々とぶつけてくる。





5226人いる! 夏コミ前夜祭 その2 :2006/11/12(日) 16:48:24 ID:???
ヤオイから派生したオタク関係の質問が次々と出て、話題は夏コミへと移って行った。
漫A「ほな君、今年もその夏コミっちゅーのに出るんか?」
笹原「ええ、上手く休み取れたら3日とも顔出そうと思ってるんですが、まだ決まってません」
漫A「よっしゃ笹原君、その件わしが編集部に話つけたるわ。3日とも休みにしたるから、行ってきい夏コミ」
笹原「えっ?」
漫A「その代わりスマンけど君、その3日間で夏コミについて可能な限り取材して来てくれんかな。ひとつ頼むわ」
笹原「取材…ですか?」
漫A「せや。デジカメでええから、ようけ写真撮って、君のサークルのもんとか他のお客さんから話聞いて、それをレポートにまとめてわしに提出してくれたらええ」
笹原「まあ、それはいいですけど…」
漫A「あ、それからな、資料として同人誌っちゅうのを買うて来てえや」
懐から分厚い札入れを取り出し、無造作に万札を十数枚掴み出して笹原に渡す。
笹原「こっ、こんなにいいんですか?これだとさすがに、物凄い量になりますよ」
漫A「かまへん。どのみち君の話聞く限りでは、そんだけ出しても会場で売ってる本、全種類は買えんやろ?」
笹原「それはそうですが…」
漫A「ええか、何の話でも話を書く時にはなあ、可能な限り最新の情報を仕入れるのが基本中の基本や。どんな絵空事な話でも、その土台にはリアルな現実の情報が要るんや」
さらにA先生は、今考え始めている企画について話し出した。
A先生が現在「実話鉄拳」で連載している任侠漫画がもうじき終わる。
次の作品の連載も決まっているのだが、その内容に編集部から注文があった。
最近雑誌の部数が落ちているので、新しい読者層を取り込めそうな話を描いてくれというのだ。
そこでA先生が目を付けたのはヤオイブームだった。
彼の得意なヤクザ漫画にヤオイネタを絡め、腐女子を新たな顧客にしようと考えたのだ。




5326人いる! 夏コミ前夜祭 その3 :2006/11/12(日) 16:52:04 ID:???
漫A「まあ具体的な話を言うとや、昔は漫画家を目指してた絵の上手いテキヤがヤオイブームに目え付けて、ヤオイ同人誌を新しいシノギにしようとする、まあそんな感じや」
笹原「あの先生、ひとつ伺いたいのですが、今先生が描いてらっしゃる絵柄でそれ描かれるお積りですか?」
笹原が憂慮したのは、A先生の絵柄だった。
先生の描くやたらと無骨な顔立ちのキャラは、任侠漫画ならともかくヤオイには不向きだ。
漫A「君の言いたいことは分かるわ。つまりヤオイやったら…」
そう言いかけ、A先生は先程まで使っていたメモ帳に、何やら絵らしきものをサラサラと描き込む。
そして描き終わると、それを笹原に差し出しつつ言った。
漫A「こういう絵を描かなあかんねんやろ?」
笹原「ひへっ?!」
思わず自分の彼女のような驚き方をする笹原。
先生が描いたのは、普段描いてる作品のような無骨な顔ではなく、最近のヤオイ漫画にありがちなレディコミ風の端正なイケメンだった。
笹原「先生、これはいったい?」
漫A「わしこれでも下積みの時は少女漫画のアシスタントやっとったからな、こういう絵えでも描けるんや」
一抹の不安を覚えつつも一応納得した笹原、もうひとつ疑問をぶつけた。
「それに先生、いくら何でもヤオイだと、腐女子以外の人からは拒絶される危険が大きいと思います」
だが先生は意外な返答をした。
「その点は大丈夫や。君は知らんやろけど、実は極道もんには、その手の趣味のもんが意外と多いんや」
笹原「(意外そうに)そうなんですか?」
漫A「今の大卒の経済ヤクザはともかく、昔のヤクザもんが出世しよう思たら、ヤバい仕事やってムショで何年か修行して来なあかんかったんや」
笹原「?」



5426人いる! 夏コミ前夜祭 その4 :2006/11/12(日) 16:55:13 ID:???
漫A「まあ君みたいな真面目な子には想像しにくいかも知れんけどな、そうなると女抜きで何年か暮らさなあかんから、どうしてもこっち系で代用することになる訳や」
先生は「こっち系」のところで、手の甲を頬に当てた。
オカマを示すジェスチャーだ。
漫A「そんでムショ出た後も、そのまんまそっち系の趣味続けるもんもけっこう居んねや」
笹原「そういうもんなんですか?(汗)」
思わず後ずさりしてしまう笹原。
漫A「安心しい。わしにはその気は無いから」

その後A先生は鷲田社に電話して、笹原の夏コミ3日間の休みの確約を取ってくれた。
そして細かい打ち合わせを終えた頃、もう1人の担当編集者が来たので、笹原はその担当氏に後を任せてA先生宅を辞することにした。
ヤオイに関する疑問から派生して、コミフェスその他のオタク趣味にも深い興味を持ったらしいA先生に対し、帰り際に笹原は大真面目にこんな誘いをかけた。
笹原「あのう先生、取材はやりますけど、1度ご自分でも夏コミに参加されてはどうですか?知識や情報はともかく、あの独特の雰囲気や空気は、あの場所でしか体感出来ませんから」
マジ顔で誘う笹原に、A先生は笑って応えた。
漫A「堪忍してえや、笹原君。君の話聞く限り、この歳ではキツイで、夏コミデビューは」

この後笹原は、他に担当している漫画家の所も回る予定だ。
現在笹原は先ほどのA先生の他に、キャリア15年ぐらいになるB先生と、今年デビューしたばかりで椎応の漫研の3年生でもあるC先生の、3人の漫画家を担当していた。
もっとも担当と言っても、笹原1人でその漫画家についての仕事を全てこなしている訳ではない。
A先生とB先生には元々メインの担当者が付いている。
(つまり先ほど来た編集者がメインの担当者だ)
笹原の仕事は、その担当者たちの補佐であった。
まあ早い話が雑用係である。
編集者という仕事には、いろいろな雑用が伴う。
その雑用の大半を笹原が引き受ける訳だ。




5526人いる! 夏コミ前夜祭 その5 :2006/11/12(日) 16:58:40 ID:???
ひと口に雑用と言っても本当に様々である。
資料を集めて来たり、ちょっとしたお使いを頼まれたり、時には家事をこなすこともある。
そんな雑用の合間に、先輩の仕事ぶりを盗み見しながら仕事を覚える。
感覚的には落語家や相撲取りの新弟子に近い、今日的には前時代的な感じの教育方針だが、真面目な男笹原はめげること無く働いた。

笹原はC先生と打ち合わせをすべく、椎応大学のサークル棟に向かった。
漫研の現役会員であるC先生は、今日は部室でネームを書いているのだ。
その後夜になってからB先生の所にも顔を出す予定だ。
B先生は、それなりに作品は売れているのだが、「分かる人にだけ分かる」ネタと作風の為に今ひとつメジャーになり切れずにいた。
その為ベテランでありながら業界の評価は、前座プロレスラーや2番バッターみたいな中堅扱いであった。
そのせいか、精神構造はネガティブ思考でメンヘル気味で時々発作的に自殺を図る。
(実は半分狂言気味で、本音は止めて欲しいらしいのだが)
そこで〆切が迫ってなくても定期的に顔を見に行くように、もう1人の担当者に厳命されているのだ。

漫研の部室でC先生のネームをチェックすると、笹原はGOサインを出した。
この先生に限って笹原は単独で担当していた。
作品の人気やレベルはそこそこだが、とにかく真面目で仕事が速い。
編集にとっては手の掛からない漫画家なので、編集部が笹原1人でOKと判断したのだ。
B先生宅に寄る予定の時間には間があったので、笹原は現視研の部室に寄ることにした。

屋上の床には、ブルーシートが敷かれており、その上に何かが立っている。
さらにその傍らに、こちらに背を向けてしゃがみ、体を丸めて何かしている人影があった。
その周囲には、塗料の入った小皿や缶がいくつか並べられていた。
笹原が近付いてみると、立っていたのは何かの体だった。
いや正確には、逆さまにされて、材木を組んで作ったらしいスタンド状の器具に固定されていた。



5626人いる! 夏コミ前夜祭 その6 :2006/11/12(日) 17:02:44 ID:???
灰色がかった茶色のそれには、鋭い爪の生えた手足があり、腹のあたりが蛇腹状になっていた。
腕や脚の中にも材木が通してあるらしく、四肢はピンと張っていた。
首を切って逆さ磔にした、ヒューマノイドタイプのモンスター、そんな風に見えた。

笹原の気配に気付いたのか、しゃがんでいた人影が振り返りつつ顔を上げた。
人影の正体は、筆を持った国松だった。
「あっ笹原先輩、こんにちは」
「こんちわ…わっ?!」
驚いて声を上げてしまう笹原。
国松の足元に、不気味な顔があったからだ。
脳を肥大化させて露出したような感じの頭でっかちな頭部に、細く吊り上った瞳の無い目と、牙とギザギザの歯の生えた口があった。
よく見ると見覚えがあった。
笹原「それってもしや、ベム?」
国松「そうです、妖怪人間ベムの変身後です」
笹原「(先程の胴体と顔を見て)これってフィギュアなの?」
国松「いえ、コスです」
笹原「コス?ってことは…」
国松「着ぐるみです。今度の夏コミのコスプレで『妖怪人間ベム』やりますんで」
笹原「へえー。しかしこれ、よくできてるね」
思わず胴体に手を伸ばす笹原。
国松「あっダメです!まだ乾いてません!」
数ミリ手前でピタリと笹原の手が止まり、サッと引っ込める。
笹原「ごっ、ごめん。これってどうやって作ったの?何で出来てるの?」
国松「ラテックスです。石膏で型作って、それにラテックス塗って剥がして原型を作りました。今日はそれに色塗ってるとこです。塗り終わったら今日はここまでです」
笹原「まだ続きがあるの?」
国松「色塗ったのが乾いたら、中にウレタン貼って形整えます。そして朽木先輩に実際に着てもらって、体に合わせていろいろ調整します」




5726人いる! 夏コミ前夜祭 その7 :2006/11/12(日) 17:06:14 ID:???
笹原「朽木君がやるの?」
国松「はい。万が一朽木先輩が来れない時に備えて、日垣君でも着れるように少し大きめに作ってあるもんですから、ちょっと念入りに調整しなきゃいけません」
日垣はクッチーより5センチほど背が高く、肩幅や胸囲なども少し大きかった。
国松「まあ朽木先輩が着る分には、かなり余裕があると思います。あんまりピッタリ過ぎたら動きにくいし、汗の逃げ場が無くなって余計に暑いし、第一皮膚呼吸が出来なくなります」
笹原「へえ、本格的だね」
国松「まあ技術レベルはともかく、基本的な作り方は本物の着ぐるみと同じですから。機電も一応仕込みますし」
笹原「きでん?」
国松「機械の機に電気の電で機電です。まあ簡単に言うと、機械で着ぐるみの一部を動かす仕掛けのことです。まあ今回は、目を電球で光らせるだけですけど」
笹原「凄いね」
その後笹原は、国松の溢れんばかりの、いや溢れ過ぎでダム決壊状態の怒涛の着ぐるみ愛を延々と小1時間ばかり聞かされる破目になった。
普段はどちらかと言えば無口で大人しい国松だが、こと特撮の話になると垂れ気味の大きな目をキラキラ輝かせて、楽しそうに話し続ける。
笹原『まるで漫画描いてる時の荻上さんだな』
愛する人と同じ種類の目の光を見てしまった以上、すげなくすることは出来なかった。

ようやく部室に笹原が入ると、こちらはコスの山だった。
2つの机の上には、同様のデザインの制服らしきコスが数着ずつ、4種類ほど見られた。
肩ビラの色が紺色のものと水色のものと2種類のセーラー服、青のブレザーに黒いズボンの男子用らしき制服、そして紺色のロングコートタイプの軍服らしき制服。
さらにその他にもさまざまなコスが並べられている。
その片隅で斑目は遅い昼食を食べており、日垣は一心不乱に(多分田中が持ち込んだのであろう)ミシンに向かっていた。
あとはやや困り顔の荻上会長、田中、恵子、クッチー、そしてただひとり上機嫌な大野さん、という面子だった。






5826人いる! 夏コミ前夜祭 その8 :2006/11/12(日) 17:09:22 ID:???
互いにひと通り挨拶と近況報告を終えると、話題はコスプレのことになった。
笹原「外で国松さんに『妖怪人間ベム』のコスやるって聞いたけど…何かいろいろいっぱいあるね」
大野「(にこやかに)はいっ!」
田中「今回は大野さん、学生として参加する最後の夏コミだからね、3日間目いっぱいコスするんだよ」
大野「3日とも違うんですよ」
笹原「凄いね」
大野「1日目と2日目は、私が会長だった代の会員中心でやるんです。で、1日目が『妖怪人間ベム』で、主役のベムは朽木君にやってもらいます」
朽木「あの、大野さん、何故わたくしだけ変身後なのでありますか?」
田中「コミフェスは長物禁止だからだよ。変身前のベムでステッキ無しだと、さまにならないだろ?」
大野「それに変身後の方が、目立つし、ウケるし、かっこいいじゃないですか。主役だから立ててあげたんですよ」
目立つ、ウケる、かっこいい、主役、クッチーの好きそうなキーワードを並べ立てる波状攻撃作戦は、見事に功を奏してクッチーは納得した。
でも芸に生きる男クッチーは、お約束も忘れない。
朽木「早く人間になりたいにょ〜〜〜!!」
笹原「てことは、荻上さんもやるの?」
荻上「私がベロで、大野先輩がベラです」
笹原「ベロかあ…」
大野「何ですか笹原さん。もっとロリロリなのとか、露出の多いの見たかったんですか?」
笹原「(赤面し)ちっ、違うよ。よく荻上さん承知したなあと思って」
田中「これでも知恵しぼったんだよ。大野さんの代のメンバーで出来るコスで…」
大野「荻上さんがコスやってくれる条件に出した、ロリロリじゃなくて露出の少ないキャラってことで、荻上さんのキャラから逆算して考えたんですから」
荻上「何かそれじゃあ私が我がままみたいじゃないですか。どっちかと言えば…」
大野「ええそうですとも。我がままなのは私ですよ」
胸を張ってにこやかに開き直る大野さんだった。







5926人いる! 夏コミ前夜祭 その9 :2006/11/12(日) 17:12:31 ID:???
荻上会長は先程の続きに話題を戻す。
荻上「それとあと、恵子さんがキラやります」
笹原「キラ?」
ガンダムのパイロットや、ノートに名前書いて殺人するインテリ君を連想する笹原。
荻上「新シリーズに出てくる新キャラですよ。ベロの友だちの女の子です」
笹原「ベロの友だちってことは…小学生?恵子が?」
大野「ええ、最後だからってことで頼んだら、快く承諾してくださいました」
コスの山の中から、キラの小学校の制服を取り出して見せる大野さん。
ブレザーにミニスカートにベレー帽という格好だ。
恵子を見る笹原。
笹原「そうなのか?」
手招きする恵子。
笹原「?」
笹原が恵子に近付くと、恵子は腕を掴んで部室の隅に笹原を連れて行き、顔を寄せた。
恵子「(小声で)しゃーねーじゃん。あの暑苦しい巨乳の大女に涙目で迫られたら、断れねーじゃん」
笹原「まるでアームストロング少佐だな」
恵子「まあその代わり、バイト代もらえるけどね」
笹原「バイト代?」
恵子「2日目に何とかいう金髪のキャラやる代わりに、タダで金髪に染めれる美容室の券もらったんだよ」
笹原「お前今度は金髪かよ」
恵子「1回やってみたかったんだ。さすがに春日部姉さんいる間は遠慮してたけどね」
こいつがそういう気の使い方をするようになったのかと、笹原は妹の人間的な成長に少し感心した。
そして同時に、春日部さんに対する恵子の尊敬や親愛の情を微笑ましく思った。






6026人いる! 夏コミ前夜祭 その10 :2006/11/12(日) 17:15:42 ID:???
再びみんなの方に2人が戻ると、さらにコスについての話は続いた。
笹原「それで2日目は?」
大野「荻上さんの希望を入れて『ハガレン』にしました」
荻上「私がエドで、朽木先輩がアル。大野さんがラストで、田中さんがグラトニーです」
朽木「わたくし2日連続で着ぐるみであります」
笹原「大変だね」
恵子「そんで私が…何だっけ?」
荻上「ホークアイです。いい加減覚えて下さい」
斑目「そして俺がヒューズさ」
食事の途中の斑目が割り込むように言った。
笹原「斑目さんもやるんですか?」
斑目「ああ。今年は土日休み取れたし、それにまあ俺も大野会長期の、部室の備品みたいなもんだからな」
そう言いつつ手招きする斑目。
笹原が近付くと、斑目は顔を寄せてきた。
斑目「(小声で)しょうがねえだろ。あの胸近付けて凄え力で肩掴んで涙目で(以下略)」
笹原「犠牲者その2ですか」
斑目「お前は今年はどうよ?」
笹原「3日とも出ますよ。上手く休み取れましたんで」
笹原は、A先生用レポート作成の為に、3日とも休みを取れるようになった顛末を話す。
斑目「半分仕事で夏コミか…それはそれで大変そうだな」
ふと嫌な視線を感じて振り返る笹原。
大野さんが赤面でニヤニヤし、荻上会長は意識が亜空間飛行中だった。
笹原は、斑目から見えない角度で「それは無し!」という感じで手をヒラヒラさせつつ2人に近付く。
そして荻上会長の筆を激しくシビビビする。
荻上「はっ、ここは誰、私はどこ?」
苦笑する笹原。
荻上「(赤面)すっ、すいません」






6126人いる! 夏コミ前夜祭 その11 :2006/11/12(日) 17:23:22 ID:???
再び嫌な視線を感じる笹原。
振り返ると同時に、大野さんに右肩を左手で、物凄い力で掴まれた。
笹原「えっ?」
大野「笹原さん、3日とも出れるんですね」
笹原「うん、出るけど…」
大野さんは右手で「ハガレン」の軍服を1枚掴み、笹原の方に差し出した。
大野「ちょうどここに、笹原さんのサイズの軍服があるんですよ」
笹原「何であるの?(汗)」
大野「田中さん、例のものを」
田中は傍らの自分のリュックから白い手袋を出して、笹原に差し出す。
笹原「その模様はもしや…」
手袋には魔法陣みたいな記号の模様があった。
田中「錬成陣だよ」
助けを求めるように、荻上会長の方を見る笹原。
あきらめて下さいと言わんばかりに、片手拝みのポーズの荻上会長。
笹原「犠牲者その3か…」
結局笹原は、2日目にロイ・マスタング大佐のコスをやる破目になった。
考えてみればコスプレ初体験である。
A先生用のレポートのネタが増えたし、まあいいかと笹原は1人納得した。
笹原「で、3日目は何やるの?」
大野「まだ何するかは未定なんですけど、私はアンジェラとペアでやる予定です」
笹原「やっぱり今年も来るんだ、あの2人」
大野「まあ秋からは正式にここの会員ですからね。で、実はそれと別班でもうひと組やるんですけど、遅いな神田さん…」
笹原「神田さん?」
傍らで食事していた斑目の食べるペースが、何故か急に速くなった。
神田「遅くなりました!」
晴れやかな笑顔を浮かべ、神田が部室に入ってきた。






6226人いる! 夏コミ前夜祭 その12 :2006/11/12(日) 17:31:20 ID:???
神田「あっ笹原先輩こんにちわ。(大野さんに)遅くなってすいません」
神田は手に持った風呂敷包みを机に置いて開ける。
包みの中身は、袴と井の字模様の羽織という組み合わせの着物だった。
笹原「これは?」
神田「お祖父ちゃんの着物です。亡くなってからもう20年ぐらい経つ上に、お祖母ちゃん物忘れがひどくなっちゃって、なかなか見つからなくて…」
笹原「???」
神田「前にお祖母ちゃんに写真、見せてもらったの覚えてたんです。で、似てるなあと思って、お祖母ちゃんに出してもらったんです」
笹原「あの、それで何のコスプレなの?」
神田「今試着してもらうのを見れば分かりますよ。お祖母ちゃんの話だと、お祖父ちゃんの背5尺8寸だったそうだから、多分あまり調整しなくて済むと思いますよ」
荻上「5尺8寸って、どれぐらいなの?」
神田「およそ175〜176センチってとこです。明治の人としては長身だったみたいですよ。私が生まれる前に亡くなったんで、会ったことは無いんですけど」
斑目がそろそろとドアの方に向かう。
その腕を「ムズンパ」と擬音が聞こえそうなタイミングで神田が掴む。
神田「どこ行くんですか、シゲさん?」
斑目「いや、そろそろ会社に戻んないと…」
神田「大丈夫ですよ、あそこの社長さんイージーだから、少々遅れても怒られませんよ。それよりさっそく寸法合わせましょうよ。さあ、みなさん向こう向いて下さーい」

数分後、斑目は神田の持ってきた着物を着込んだ。
カッターシャツの上から着たので、袖口からカッターの袖が見える。
神田「わーピッタリ!」
それを見た笹原が呟いた。
「絶望先生…」
恥ずかしい一方で、斑目のキャラ作り魂が目覚めた。
「知ったな!うわああああああ!」
絶叫しつつ部室を飛び出して行く斑目。





6326人いる! 夏コミ前夜祭 その13 :2006/11/12(日) 17:35:00 ID:???
コミフェスという非日常のハレの場ならともかく、日常的な部室で身内相手にコスするのは却って恥ずかしいものらしい。
いつか荻上会長が部室でコスした時に逃げようとしたのも、単に露出が激しいコスだからというだけでなく、そういう心理もあってのことだったのだと笹原は改めて理解した。
神田「ねっ、大野さん、私の言った通りでしょ?」
大野「そうですね、あそこまで似合うとは予想出来ませんでしたね」
笹原「あの、これはどういう?」
荻上「今のコス、言い出したの神田さんなんです」
神田「シゲさんも絶望先生も総受けキャラだから、絶対似合うと睨んでたんです」
笹原『1年の女子の間でも、斑目さん総受け認定なのか…』
大野「それでそこから発展して、斑目さんと1年生の女子で『さよなら絶望先生』のコスやることになったんです」
神田「でも実は、他にもちょっとしたサプライズを用意してるんですよ」
悪戯っぽく笑う神田。
笹原「へー、どんな?」
神田「(唇に人差し指を当て)秘密です」
大野「どうですか笹原さん、なかなかの名プロデューサーでしょ、神田さん?」
笹原「何やら嫌な予感が…」

笹原「とすると、あっちのセーラー服とブレザーは?絶望先生のとは違うみたいだけど」
荻上「あれはハルヒの学校の制服です」
笹原「それもコスプレするの?」
荻上「うちの同人誌の売り子用なんです」
笹原「…ということは、同人誌のネタってハルヒなの?」
荻上「そうです。『涼宮ハルヒの憂鬱』です」
笹原「またえらく男性向けなのを題材に選んだね」
荻上会長は、その経緯を説明し始めた。






6426人いる! 夏コミ前夜祭 その14 :2006/11/12(日) 17:44:04 ID:???
7月も後半に入り、印刷所への入稿〆切まで残り10日を切ったある日のこと。
その日も部室では、サークル参加の同人誌のお題についての議論が続いていた。
参加者は腐女子四天王の豪田、台場、巴、沢田、ヤオイは最近始めたばかりの神田、ただ1人の男性の絵描きの有吉、そして荻上会長という面子だ。
部室の外では、国松が妖怪人間ベムの着ぐるみコスを作っていた。
今日の作業は、溶かしたラテックスを石膏の型に塗りつける作業なので、さすがに部室の中ではやり辛い。
ちなみに日垣は田中、大野と共に資材の買出しに出ている。
クッチーは就職活動中だ。
そして浅田と岸野の2人は、ここ数日夏コミ用の軍資金を稼ぐべくバイトに精を出し、部室にはあまり姿を見せていなかった。

海水浴効果(「17人いる!」参照)でわだかまりが無くなり、みんな我を通さなくなったものの、今度はそれが逆に足枷となって議論を長引かせていた。
例えばAさんがaという案を主張し、Bさんがbという案を主張していたとする。
やがてAさんがbという案もいいなと言い始める。
ところがその頃には、今度はBさんがaという案(あるいはCさんのcという案)もいいなと言い始める。
その一方で、Dさんがdという案を捨てて、新たにddという案を出したりする。
そんなことの繰り返しで、結局のところ1つの案に賛同者がなかなか2票集まらないという状態が続いた。

もっともここまで議論が長引くのには、もうひとつ理由があった。
それはコミフェスへの出品が、必ずしも毎年出来るとは限らないということだ。
毎年必ず出品する枠が設けられている大手と違い、現視研のような無名の弱小サークルは次はいつ出品出来るか分からない。
くじ運が悪ければ、今回が彼女たちの大学での最後のサークル参加になるかも知れない。
そう考えると、どうしても今回最高の本を作らねばという思いが過剰になってしまう。
テーマひとつ選ぶのにもついつい慎重になり過ぎてしまうのも、ある意味仕方ないことかも知れなかった。




6526人いる! 夏コミ前夜祭 その15 :2006/11/12(日) 17:52:39 ID:???
強権発動して決めてもよかったのだが、荻上会長は敢えて1年生だけで納得行くまで話し合わせて決めさせることにした。
今回の同人誌の件については、荻上会長はオブザーバーに徹し、暴走した時だけ止め役に回る程度以上には介入しないと決めていた。
彼女たちを信頼しているというのもあったが、もうひとつ別の目的があった。
それは次期会長に誰を推すか選定することだった。
順調に原稿が上がれば、10月末に出る「月刊デイアフター」12月号から荻上会長の作品は連載開始する。
8月中に第1回の原稿を上げ、以降月に約20Pずつ原稿を上げていかなければならない。
編集部の担当の人は「学生さんなんだから、1回や2回原稿落としても大丈夫だから、気楽にやりなさい」と言ってくれてはいるが、その言葉に甘える積りは無かった。
やるからには絶対に原稿は落とさない、当たり前のことだがそう決心していた。
ただそうなると、やはりどうしても会長としての職務はおろそかになるかも知れない。
現に今でも、3年生は荻上会長1人きりで手が回らないので、会計は台場(簿記の資格を持ってたので)に任せてるし、書記や様々な提出書類は神田(ペン習字1級で字が上手いので)に任せていた。
とりあえず今考えてるのは、秋頃に誰かを会長代行(あるいは名称は副会長でもいいかも知れない)に任命して、半年近いテスト期間を経て決めるという方法だ。
あるいは男女ほぼ半々で2桁の人数なのだから、体育会系のクラブみたいに男子リーダーと女子リーダーを1人ずつ選んでもいいかも知れない。
ただそれにしても、今年の1年生は人数が多い上に、リーダー候補が多過ぎた。
先ず腐女子四天王にはリーダー格の豪田がいる。
彼女は決して押しの強さと口数だけでリーダーぶってる訳ではない。
小学生の時から少女漫画を描いてて、経験に裏打ちされた知識や技術には、各自それなりに敬意は払っていた。
それに世話好きで面倒見のいい一面もあった。
四天王の参謀的な役割の台場は、ヤオイ方面の知識と情報量と理論では誰にも負けない。
口数は少なく前に出ることは少ないが、巴は高校時代ソフトボール部のキャプテンの経験がある。
さらに高校時代の経験で言えば、有吉は漫研の会長、伊藤は文芸部の部長だったそうだ。




6626人いる! 夏コミ前夜祭 その16 :2006/11/12(日) 18:04:02 ID:???
その一方で、荻上会長は逆のことも考えていた。
と言うのも斑目会長のように、どっちかと言えばリーダーっぽくない押しの弱そうな人が会長やって上手く行った(そうか?)例もあるからだ。
今の1年生たちの代のリーダー候補たちは皆個性的なので、役職と責任で縛るより好き勝手やらせてやり、別のリーダーが止め役として制御した方がいいかも知れない。
その意味でどっちかと言えば大人しそうな、沢田、神田、国松、日垣、浅田、岸野という目もあるかも知れない。
その辺を見極める為の試金石、荻上会長は今年の夏コミをそう捉えていた。

ケンケンガクガクの議論の末、台場が妥協案を出した。
まず各々が描きたいと思うお題をメモ用紙に書く。
そのメモを四つ折りにして、ちょうど空になったティッシュの箱に入れる。
そしてよく振って荻上会長に1枚引いてもらい、当たったものを今回のお題とする。
まあ早い話がくじ引きである。
台場「最も公平で民主的で、そして神聖なる方法よ」
豪田「でもここまでモメて、くじ引きってのも…」
台場「慌てないで、その辺のフォローも考えたから」
台場が考えたのは、次のような方法だった。
くじで外れた者は、当たりの原稿を手伝う一方で、自分の書いたお題のコピー本を作れる。
ただしコピー代は自腹なので、作る作らないは各自の判断に任せる。
そしてコピー本は、印刷所で刷った方の同人誌に「おまけ」として付けるのだ。
おまけを付けるか付けないかは、お客さんの希望に従う。
おまけ付きの特装版も、おまけ無しの通常版も値段は同じにするので、どっちにしてもお客さんには損は無い。
あくまでもお客さんの好みや都合で選んでもらえばいい。
捨て身の「損して得取れ」商法だ。




6726人いる! 夏コミ前夜祭 その17 :2006/11/12(日) 18:15:10 ID:???
巴「値段均一はちょっと無理が無い?」
沢田「本体の値段に、おまけ分上乗せ出来ないの?」
台場「本体は基本20ページぐらいで1冊500円の予定だから、上乗せ分は殆どないわ」
豪田「てことは、完全に自腹?」
台場「だからこの方法は強制にしない方がいいと思うの。自腹でも自分の本出したい人は出す、うちの同人誌に全力つぎ込むって人は出さない、そんな感じでいいんじゃない?」
しばし考える一同。
豪田『うーん、今度の同人誌は200部刷る予定だから、仮に半分おまけ付けるとしても100部、全部に付けたら200部か…』
巴『おまけコピー本を仮に10ページ程度として、2ページ並べてコピーすれば、コピー代は1部50円』
沢田『仮にコピー代1部50円ぐらいなら、100部なら5000円、200部なら10000円か』
有吉『普段なら5000円や10000円ぐらいなら出せるけど、夏コミを控えたこの時期にそれだけの出費は痛い』
一同『うーむ…』
ちなみに彼女たちに、パソコンのプリンターを使うという選択肢は無かった。
「昔プリンターで大量にコピーしたら、途中で壊れてえらい目に遭った」
「コピー本をコピー機以外で作るのは邪道」
「パソコンで原稿描く場合以外で、プリンター使うのは邪道」
理由はいろいろだが、何故か全員プリンターに対して禁忌意識を持っていた。

金がネックになって議論が膠着したので、荻上会長は助け舟を出すことにした。
荻上「ねえ台場さん、コピー代ぐらいはうちの予算で出せない?」
台場「今回はコスプレで相当使ってるから、印刷代までで赤字なんです。それにこの方法、僅かな金額とは言え自腹がかかってるからこそ真剣になるし、燃えるんです」



6826人いる! 夏コミ前夜祭 その18 :2006/11/12(日) 18:19:25 ID:???
台場の瞳に怪しい光を見て荻上会長は少したじろいだが、それでも金でもめるのは避けたかったので別の財源を提案した。
荻上「いざとなれば、初代会長が好きに使ってくれっておっしゃってたOB会費も預かったままだし、私も春夏秋冬賞の賞金残ってるし…」
台場「(大声で)それは絶対ダメです!」
凍り付く一同。
台場「…すいません、大声出して」
荻上「何でそんなに無理に自分たちだけでやろうとするの?そりゃ同人誌についてはみんなに任せたけど、こういう問題ぐらい私に相談してもいいじゃない?」
台場「こういう問題だからこそ自分たちで解決しなきゃいけないんです。だって荻様…会長もうすぐ本格的に漫画家としてデビューされるから」
はっとなる一同。
台場「大野先輩は9月で卒業するし、恵子姉さんは来年専門学校卒業だし、朽木先輩も来年卒業です。残るのは私たちと、秋に来る外人さんたちだけになってしまいます」
一同「…」
台場「来年には、もう私たちがこの現視研の主力になるんです!私たちで現視研守っていかなきゃいけないんです!だから、何時までも会長に甘えてちゃいけないんです!」
荻上『台場さんがこんなに長々と熱く語るの初めて見たなあ。意外と熱血だったんだ、この子…』
熱くなったせいか、台場の演説は脱線し始めた。
台場「地球の平和は、我々地球人の手で守り抜かなければならないんです!俺たちの翼で!」
一同「俺たちの翼?」
台場「(赤面し)すっ、すいません、今のは無しです。最近千里に薦められて『ウルトラマンメビウス』見出したもんで、つい…」





6926人いる! 夏コミ前夜祭 その19 :2006/11/12(日) 18:24:19 ID:???
豪田「ウルトラマンってことは特撮?」
台場「そうよ。特撮っていうと畑違いみたいに思えるかも知れないけど、我々腐女子にとっては宝の山よ」
巴「そうなの?」
台場「まあ戦隊シリーズとか仮面ライダーシリーズがネタになること多いけど、メビウスは凄いわよ」
豪田「そんなに?」
台場「だってどう考えても、私たちみたいな視聴者層を狙ってるとしか思えない台詞とか状況がバンバン出てくるのよ。例えば、男同士で『僕たちの思い出の場所』とか…」
巴「マジ?」
台場「だから千里にヤオイの何たるかを教え込むのには、絶好のテキストになったわ」
有吉「国松さんまで引っ張り込むの?」
台場「引っ張り込むというより、本来の姿に戻すだけよ」
有吉「本来の姿?」
台場「(右拳を握り)ホモが嫌いな女子はいません!」
女子一同「(首を前後にコクコクしつつ)うんうん」
その後も特撮とヤオイに関する議論がしばらく続いた。
ひと区切り付いたところで、荻上会長は軌道修正を図る。
荻上「さあみんな、本題に戻るわよ」

先程まで殆ど発言していなかった神田がポツリと言った。
「あの…うちのコピー機使えば、そんなにお金かからないと思うけど…」
一同「うち?」
荻上「神田さんの家って、コピー機あるの?」
神田「ええ、ありますよ」
豪田「ミッチーの家って、文房具屋さんかコンビニなの?」
神田「ううん、普通の一戸建て」
巴「じゃあ家が設計事務所か何かとか?」
神田「ううん、パパただの会社員よ。ママ専業主婦だし」
沢田「それじゃあいったい…」





7026人いる! 夏コミ前夜祭 その20 :2006/11/12(日) 18:31:04 ID:???
神田「みんなの家って、コピー機無いの?」
一同「(首を横に振りつつ)無い無い無い!」
神田「そうなんだ…案外コピー機ある家って少ないのかなあ?」
有吉「いや普通ある家の方が少ないから」
神田「そうなの?昔小さい時、パパやママのお友達の家によく遊びに行ったけど、どこもあったわよ。だからコピー機って、どこのご家庭にもあるもんだと思ってた」
一同「(首を横に振りつつ)無い無い無い!」
台場「ミッチーそんなもん、何時から家にあったの?」
神田「何時からって…昔からあったからなあ。買ってもらったのは中学入った時だけど」
一同「買ってもらった?!」
神田「うん、小学生の間はママの借りてたんだけど、中学入って私も欲しいって言ったら、パパが買ってくれたの」
巴「ママのって?」
神田「ママのが1番機能充実してるのよ。パパのだと白黒しか出来ないし、お兄ちゃんのはA4までしか使えないから」
一同「はい?」
有吉「あの、神田さん、それはもしや、家族全員がそれぞれ1台ずつコピー機を所有している、という意味?」
神田「普通そうじゃないの?」
一同「(首を横に振りつつ)無い無い無い!」
荻上「つまりそれって、もしかして神田さんのご家族って、全員同人誌作ってるってこと?」
神田「はいっ、毎年1人7〜8冊は作ってますよ。私も今回は現視研の分と別に、うちの家族の知り合いのサークルに委託で置いてもらう分作るし…」
神田一族のDNAに戦慄する一同。
荻上『ある意味この子、1番現視研の会長に向いてるかも知れない…』





7126人いる! 夏コミ前夜祭 その21 :2006/11/12(日) 18:35:07 ID:???
神田のコピー機提供により、くじに外れた者のコピー本も費用は紙代オンリーとなって気楽になったので、台場の案は採用された。
荻上会長がくじを引く。
くじを開いてみると「涼宮ハルヒの憂鬱」と書かれていた。
ブーイングが起きた。
豪田「ちょっと待ってよ!それじゃあカップリング1つしかないじゃない!」
台場「そうよそうよ、古泉のニヒル攻めとキョンの逆切れ受けしかないじゃない!」
豪田「ちょっと、それは逆でしょ?キョンの強気攻めに古泉の冷静解説受けじゃない!」
ケンケンガクガクのカップリング論争が続く。
荻上「もうみんな、その辺にしなさい!それよりハルヒって書いたの誰なの?」
有吉「僕です」
一同「有吉君?何で?」
有吉「みんなハルヒ好きだし、ハルヒならカップリング出来るキャラ限られてるから、あんまり揉めないかなと思ったんだ。結局揉めたけどね」
荻上「うーん…あのね有吉君、例えば男の子が18禁同人誌作る時、まず気に入ったキャラにあれこれすることが主眼になるでしょ?」
有吉「そうですね」
荻上「でも女の子の場合は、そういう人もいるけど、先に状況設定とかストーリーとかがあって、その必然としてカップリングが出来るのよ」
有吉「なるほど…」
荻上「だからあれこれ議論になるのは、それぞれの頭の中の設定やストーリーがそもそも違うからなのよ。それをまとめるには、納得いくまで話し合うしか方法は無いのよ」
巴「まあ結局のとこは、どっちかが折れないと決まらないのが実情だけどね」
豪田「でもその話し合いがまた楽しいのよ、女の子は」
有吉「そんなもんなんですか」
荻上「そんなもんなのよ。とは言っても、そろそろ〆切も迫ってるから、今回は有吉君の意見採用すべきだと思うの。みんないい?」
筆のひと声、もとい鶴のひと声で同人誌のお題は「涼宮ハルヒの憂鬱」に決まった。




7226人いる! 夏コミ前夜祭 その22 :2006/11/12(日) 18:41:33 ID:???
有吉「僕が編集でいいかな?」
豪田「自分がメインで描きたくないの?」
有吉「何と言っても時間が無いから効率最優先にすべきだと思うし、サークル参加なんだからみんなの総力で本作りたいんだ」
豪田「まあ確かに、同人誌って本来そういうもんだし」
有吉「それに女性向けで18禁なら、やっぱり妄想力こそが作品を作る原動力だよ。僕が理屈で話書いてもいいんだけど、それじゃ妄想力半減でしょ?」
豪田「そうねえ…みんなもそれでいい?」
一同「さんせーい」
有吉「まずプロットは台場さん。みんなの中で、1番ヤオイ関係の知識と経験と情報量は豊富みたいだからね」
台場「問題は組み合わせだけね。キョンが攻めか古泉が攻めかの二者択一かあ…」
「リバ可や!」
突如大声の関西弁が轟く。
漫研会員であり、サークル「やぶへび」主催者の藪崎さんが乱入してきたのだ。
荻上「ヤブ!」
藪崎「まいどオギー!話は外で大体聞いたで!そういう場合はなあ、前半キョン×古泉にして後半古泉×キョンにしたら全て丸く収まるし、1冊で2度おいしいやろ!」
一同「なるほど…」
台場「ありがとうございます、藪崎先輩!それで行きます!」
荻上「ありがと、ヤブ。でも何時から聞いてたの?」
藪崎「もう30分ぐらい前からずっとや」
台場「そんな長いこと立ち聞きしてたんですか?」
藪崎「アホ、こっちかて忙しいから、はよ入りたかったわ。そやけど部室の前で何かゴム塗ってた子に、延々と怪獣の縫いぐるみの話聞かされとったんや」
「着ぐるみです!」
突如ドアを開け、国松はそのひと言だけ言ってまたドアを閉めた。
藪崎「なっ、あの調子やから、なかなか話終わらへんかったんや。そんであの子の言うこと聞き流しとったら、自然に部室の中の話が聞こえてきたと、まあそんな訳や」



7326人いる! 夏コミ前夜祭 その23 :2006/11/12(日) 18:47:42 ID:???
その後藪崎さんは、ハルヒ以外の作品についてもカップリングについて延々と1年生たちと議論した末に、本来の目的であった荻上会長所蔵のイラスト集を借りて部室を後にした。
有吉「それで割り当ての続きだけど、シナリオやネームは沢田さん」
豪田「確かに台詞回しは彩が1番上手いもんね」
有吉「で、コマ割りと絵コンテは豪田さん」
台場「確かに小学生の時から漫画描いてる、蛇衣子のコマ割りセンスは1番いいわね」
有吉「で、原画は巴さん、神田さんと僕はペン入れから仕上げまで、これを基本に各工程で残りみんながメインの人の仕事を手伝う、こんな感じでいいかな?
巴「あの、私が原画でいいの?私はどっちかと言えば、汗や筋肉ばっか過剰に描く方なんだけど」
有吉「そういうスポ根系の絵の方が、キョンと古泉には案外似合う気がするんだ。何と言っても短気な熱血漢とクールな優男って、スポ根系ヤオイの基本だから」
台場「いいんじゃない?マッチョな美少年も」
神田「私もそういう絵描いてみたいから賛成!」
巴「分かった、やるわ」
豪田「決まりね」
沢田「あの、私それもやるけど、それと別にハルヒのSS書きたいんだけど、どうかな?」
台場「いいわね、それ。みんな、どう?」
一同「さんせーい!」
そこへ伊藤が入って来た。
伊藤「こんちニャー。ハルヒのSSなら僕も書きたいですニャー!」
高校の時は文芸部で、脚本家志望の伊藤だが、SSも数多く書いている。
ただこの男、シナリオでは説明的な台詞やナレーションが過剰になりがちな傾向があった。その結果字数が規定オーバーしてしまい、コンクール用の原稿を〆切までに書けずに挫折した経験が数多くあった。
ちなみに伊藤はそういう原稿を書き直して、ラノベとして完成させて別のコンクールに応募していた。
そんな安直な作りにも拘らず、あるコンクールで佳作をもらったことがあるそうだから、話そのものは面白いものを書けるみたいだ。




7426人いる! 夏コミ前夜祭 その24 :2006/11/12(日) 18:52:25 ID:???
以前にそういう話を聞いていた台場は、やんわりと釘を刺した。
「あんまり長いのはダメよ。印刷代高くなっちゃうから」
伊藤「かしこまりましたニャー。それにしてもリバ可で2度おいしいとは、なかなか考えましたニャー」
荻上「伊藤君、あなた何時から聞いてたの?」
伊藤「多分30分ぐらい前からですニャー」
豪田「そんな長いこと立ち聞きしてたの?」
伊藤「そんな人聞きの悪い、国松さんに捕まって着ぐるみの話を…(以下略)」
荻上「あれ完成するまでは、当分あの子部室の門番状態ね」

こうして今回の夏コミ出品作品は、全部で20ページほどになるヤオイ漫画1本とSS2本の同人誌となった。
しかも希望者にはコピー本3冊(執筆は豪田、台場、神田)を特別付録に付ける豪華版だ。
ちなみに絵のメインである巴、SSも書く沢田、それに編集を兼ねる有吉は今回はメインの同人誌1本に絞った。

笹原「それにしても田中さん、今回はいっぱい作りましたね」
田中「さすがにしんどかったけど、国松さんと日垣君が頑張ってくれたからね」
笹原「そう言えば、田中さん以外の人がコス作るのって初めてですね」
田中「去年はそこまで考える余裕無かったけど、今年は1年生11人もいるから、本格的にコス作りのスキルを現視研に残して行こうと思ったんだ。俺も来年卒業だからな」
笹原「そりゃいいですね」
田中「とりあえず着付けや採寸の問題もあるから男女1人ずつ欲しいと思って、絵描き属性の無い国松さんと、1番器用そうな日垣君に仕込むことにしたんだ」
笹原『(日垣をチラリと見て)そう言えば日垣君、俺が来てから挨拶した以外ひと言も喋らずに、ずっとミシン動かしてるな』
田中「国松さんは造形はまだ甘いけど、とにかく熱心だよ。日垣君は彼女に比べりゃ消極的だけど、真面目だし何と言っても器用だ。2人とも将来が楽しみな逸材だよ」





7526人いる! 夏コミ前夜祭 その25 :2006/11/12(日) 18:58:19 ID:???
大野「もっとも、絶望先生の方のセーラー服と、ハルヒの方のブレザーは有り物の流用ですけどね」
田中「そう、セーラー服は豪田さんの高校の制服、ブレザーは伊藤君と有吉君の高校の制服を借りてきて、後で直せるようにちょっとだけ手を加えたんだ」
笹原「やっぱりさすがに、この数作るのは無理ですか」
田中「作れないことは無かったよ。たださあ、台場さんと国松さんに怒られたんだよ」
笹原「怒られた?」
田中「今台場さん、うちの会計やってるんだけどさ、過去4年間の会計状況と今回の予算の見積もり見た彼女に、予算使い過ぎだって大野さんと2人揃って散々説教されたんだ」
荻上「台場さんは簿記の他に珠算でも級持ってるから、凄くお金には細かいんです」
笹原「国松さんは何で?」
大野「ある意味彼女の方が、台場さんより予算の問題にはシビアなんです」
田中「特撮の世界では、着ぐるみや特撮シーンの使い回しは日常茶飯事だからね。バラゴンの進化論を引用して、延々説教されたよ」
笹原「バラゴン?」
バラゴンとは、東宝の特撮怪獣映画「フランケンシュタイン対地底怪獣バラゴン」に登場する怪獣だ。
この怪獣の着ぐるみは、その後テレビ特撮番組「ウルトラQ」のパゴスに改造された。
さらに後番組「ウルトラマン」のネロンガ、マグラ、ガボラと改造され続け、さらにアトラクション用のネロンガに改造された後に東宝に返却された。
そしてオールスター怪獣映画「怪獣総進撃」で再びバラゴンに戻された。
笹原「えらくマニアックな説教ですね」
田中「とは言っても、本人は本来なら作る気満々なのに、敢えて苦渋の選択をした訳だから、こちらも文句は言えんさ」
笹原「国松さん、普通のコスの方も作ってたんですか?」
田中「最初は普通のコスも一緒に作ってたんだ。もっとも着ぐるみが予想以上に手間だったんで、今は殆ど着ぐるみオンリーだけど」
笹原「もう1着のアルの方は、もう出来たんですか?」
田中「俺の部屋にあるよ。基本的な設計と本体制作は国松さんが済ませたから、後は俺が外側の装飾をやるだけさ」





7626人いる! 夏コミ前夜祭 その26 :2006/11/12(日) 19:04:26 ID:???
笹原「田中さんが仕上げるんですか?」
田中「ああ、外側はプラ板だから、等身大のアクションフィギュアみたいなもんだ。ほんとはそっちも彼女が最後までやりたかったんだけど、予想以上にベムが手間だったからな」
その時、日垣が声を上げた。
「田中先輩、出来ました!」
田中「お疲れさん。これで着ぐるみ系以外はほぼ揃ったな。」
日垣「国松さんの方、様子見てきます」
部室を出る日垣。
荻上「あの2人も、熱心さでは同人誌組に負けてないわね」
そんな様子を見ていた荻上会長、次期会長問題について少し考えた。
『国松さんも思ったよりしっかりしてるし、あの子と日垣君をそれぞれ女子と男子のリーダーにして、2人会長体制ってのも有りかも知れないわね』

その夜、荻上会長宅に笹原が訪れた。
メンヘル気味のB先生は今日は何故か機嫌が良く、原稿も順調に仕上がっていた。
この調子なら、B先生も世間一般よりは短いが盆休みが満喫出来そうだ。
それで思いがけず時間が出来たので、荻上会長に連絡して会ったのだった。
笹原は改めてA先生からの依頼について詳しく話した。
荻上「それじゃあ笹原さん、純粋に夏コミ楽しむって訳には行かないんですね」
笹原「そりゃ仕方ないさ。こういう仕事だからね」
荻上「まあ私も似たようなもんだから、いいですけどね」
笹原「えっ?」




7726人いる! 夏コミ前夜祭 その27 :2006/11/12(日) 19:16:36 ID:???
荻上会長は、「月刊デイアフター」で秋から連載開始する予定の原稿を、絵コンテの段階まで仕上げて編集部からOKをもらっていた。
あとは本格的に仕上げるだけの状態だった。
タイトルは「あきばけん」と付けた。
ちなみに内容は前作「傷つけた人々へ」の主人公(つまり彼女自身)の後日談、つまり「げんしけん」荻上編そのまんまだった。
これは後の話になるが、おかげで荻上会長は第1回の原稿を〆切までにかなりの余裕を持って入稿出来た。
後日時間的に余裕が出来たので、現視研同人誌の原稿も仕上げは手伝ったほどだった。
荻上「まあ私にとっても、今度の夏コミは次の原稿の為の取材も兼ねてる状態です。ネタ探ししながら参加する点では笹原さんと一緒ですよ」
笹原「お互い大変だね」

その夜、笹原は荻上宅に泊まった。
寝る前にふと思い出したことを尋ねた。
笹原「ねえ荻上さん、今日あれから斑目さんって部室に戻って来たの?」
荻上「…そう言えば、戻って来なかったですね」
笹原「斑目さん役に入り過ぎ!大丈夫か、あの人?」

こうして前日までに全てのコスは完成した。
同人誌の原稿も納期に間に合った。
わざと徹底的にありがちなシチュエーションでシンプルにまとめた台場のプロットに基づいて、沢田が凝りに凝った妖しい台詞の応酬のネームを書き上げた。
それを豪田がまた凝りに凝ったコマ割り構成でコンテを描き、巴が剛腕で劇画のごとく筋肉質で汗まみれの裸体(バキの格闘シーンの寝技展開を想像してもらえれば、雰囲気を理解してもらえると思う)を描く。
そしてそれを神田と有吉の、長年鍛え抜いた職人芸で仕上げる。
仕上げは荻上会長や他のみんなも手伝ったので、ページによって多少仕上がりのタッチにバラつきがあるのが難点だが、逆にそれがいかにも同人誌という趣を醸し出した。





7826人いる! 夏コミ前夜祭 その28 :2006/11/12(日) 19:24:26 ID:???
同人誌に掲載するSSも〆切に間に合った。
沢田の書いた話は、男体化した長門とキョンという変則ヤオイ話だ。
長門の上司(と言うのか?)の情報統合思念体が何故かヤオイに興味を持ち、具体的なデータが欲しいからと長門に指示した為という、少し不思議系のSFとして仕上がっていた。
一方伊藤の書いたのは同人誌の定番、人格入れ替わりものだった。
長門が情報統合思念体の命令で宇宙に一時帰還し、その隙に世界のバランスが崩壊。
その影響でキョンとハルヒ、みくると古泉の人格が入れ替わる。
肉体がキョンと化したハルヒは、いい機会だからとヤオイを体験してみようと、肉体が古泉と化したみくるに迫る。
必死で止めようとする肉体がハルヒと化したキョンに対し、それなら我々も百合をやってみようと、肉体がみくると化した古泉が迫る。
そして各々がいよいよことに及ぼうとしたその時、地球に戻った長門が世界のバランスを修正、全員人格が元に戻る。
必死で逃れようとするキョンとみくるに対し、「これはこれでなかなか」とそのまま続行しようと迫る古泉とハルヒというハチャメチャな図で物語は終わる。

コピー本も仕上がった。
各自の題材だが、豪田は元々王子様や貴族フェチなので、その流れを汲むセレブ系ということで「桜蘭高校ホスト部」にした。
台場はヤオイの基本はやっぱりジャンプ系ということで、「NARUTO」にした。
そして神田は「ガンダムSEED」だった。
あくまでも種ガンダムであり、種死ではない。
さすがのアスラン好きの神田でも、種死ばかりは黒歴史と認識していた。

これで物的な準備は整った。
だが荻上会長には、もうひとつの懸案事項があった。





7926人いる! 夏コミ前夜祭 その29 :2006/11/12(日) 19:32:12 ID:???
それは集合時間だ。
斑目が会長をやっていた頃までは、最終電車で都内に出て漫画喫茶で始発を待つというパターンが多かった。
ただこの数年、この風習は廃れつつあった。
女子会員の方が多くなり、男子ほどの強い執着は無い上に、体力的にあまり長時間並ぶのも問題があるということで、次第に始発には拘らなくなっていったからだ。
だが今年の会員たちは違った。
11人中コミフェス参加経験者は、神田(赤ん坊の時から両親に連れて来られている上に、売る方でも小学生から参加)、有吉(高校時代から年齢を偽って18禁男性向け同人誌を出品)、豪田(買う方のみだが小学生から参加)、台場(中学から出品している)の4人だ。
この4人はさほどでもないが、あとの7人のテンションは高かった。
はっきり言って、初参加で完全に舞い上がり、祭状態だった。
彼らは本当は、前日からビッグサイト前で泊り込んで並ぶ、いわゆる密航系のイベントを望んでいた。
だが初心者の彼らは、師父斑目の教えに従って(そしてそれを忠実に守っている荻上会長の指示により)それはするまいと決めていた。
ならばせめて最終電車で都心部に出て、どこかで集まって始発を待って朝一番で出動、そういう形での参加を求めていた。
だが男衆の多かった斑目たちの頃と違い、今は女の子の方が多い。
忘れがちだが彼女たち1年生は、ついこの間まで高校生だった、法的には未成年なのだ。
それを深夜、それも夏休み中の都心部という著しく治安の悪い地域に送り込むことに、荻上会長は難色を示した。
と言うのも、古臭い考え方かも知れないが、彼女は1年生の女の子たちについて「嫁入り前の娘さんを親御さんから預かっている」という意識が強かったからだ。




8026人いる! 夏コミ前夜祭 その30 :2006/11/12(日) 19:43:38 ID:???
結局いろいろ議論の末に決まったのは、次のような方法だった。
まず前日までに、コス関係やコピー本などの大荷物を全部、上野の田中宅に運び込む。
そして前日の夜に各自上野まで来て、田中宅に程近いカラオケボックスに集合、ここで始発の時間まで夜を明かすのだ。
何しろ当日の参加者は、前日に来日しているスー&アンジェラと、OBの田中と笹原を含めて19人もいる。
この人数では漫画喫茶やファミレスでは手狭だ。
カラオケボックスなら、ふた部屋取れば何とか全員納まる。
あとは始発の少し前に男子会員たちと田中が田中宅の荷物を取りに行き、再び合流してから始発で全員出動という流れだ。
今回異様に多いコスを円滑に運び、なおかつ1年生たちのお祭気分を暴走し過ぎない程度に満喫させる為には、この方法が最良と思えた。
(田中にかける負担が大きいのが難点ではあるが)

そろそろ世間では盆休みに入りかけた8月10日の日の落ちかけた頃、現視研の一行は各自上野へと向かった。
最初に集合場所に来たのは荻上会長だった。
同人誌制作(ちょっと手伝ったが)もコス制作も殆ど1年生たちに任せ、オブザーバーとして見守っていた荻上会長は、気が付くと当日1番フリーに近い立場になった。
それならせめて場所取りぐらいはしておくかと、まだ日が落ちる前に早々に出かけたのだ。
あまり早く場所を取り過ぎるのも場所代がかかり過ぎるが、夏休み中なので早目の時間に取っておくに越したことはない。
狙い通りに大広間が取れた。
店員に指定された部屋に入ってみると、かなり広い。
これなら1室に全員集まっても、十分に余裕はありそうだ。
とりあえず会員たちに連絡する。
集まり出すのが日が落ちてからということを考慮して、数人ずつのグループでこちらに向かうように会員たちに指示してあるので連絡件数自体は少なく、ほんの十数分で終える。
これからは会員たちが集まるまでの間、3日間のスケジュールの最終的な点検と、カタログのチェックに費やす予定だ。




8126人いる! 夏コミ前夜祭 その31 :2006/11/12(日) 19:55:19 ID:???
「な〜く〜した〜約束はほ〜しに〜♪」
隣の部屋のカラオケの音が聞こえてきた。
「ハチクロかあ…」
やや調子っ外れだが、声質や舌っ足らずな感じは似ている。
その後も隣の部屋のカラオケは時折聞こえてきたが、殆どがアニソン系の曲だった。
「まあ今日は、私らとおんなし目的で集まってる人もいるのかもなあ…」

やがて待ち合わせ場所に、会員たちは次第に集合し始めた。
最初に来たのは、部室に残った最後の大荷物を持って一緒にやって来た、田中・クッチー・国松・日垣だった。
でも田中と日垣はまたすぐ出て行く。
大野さんと、彼女のところに泊まっているアンジェラ&スーを迎えに行くのだ。
当初田中1人で行こうとしたが、荻上会長が日垣にも付いていくように指示したのだ。
荻上「もし何かあった時に、女性3人を田中さん1人で守るのはキツイですから」
朽木「あの荻チン、そういう理由なら僕チンが行こうか?」
荻上「朽木先輩じゃ相手の被害が大き過ぎて、逆の意味でヤバイからダメです」

その後は次のような順に集まっていく。
腐女子四天王の豪田・台場・沢田・巴。
(人数が多いし、豪田と巴が並みの男より強いので、女の子だけにも関わらず許可した)
伊藤・有吉コンビ。
都心に遊びに来てて、そのままやって来た恵子。
休み前の仕事を終えて、そのままこちらに来た笹原。
そして浅田・岸野コンビプラス神田という珍しい取り合わせだ。
神田は現視研のとは別口のコピー本をギリギリまで作っていて、今日の夕方までかかったのだ。
神田からその旨を聞いた荻上会長は、岸野と浅田に集合場所まで同行するように指示した。
日が落ちてから女の子1人で行動するのは危険と判断したのだ。
それにコピー本を運ぶ人手を確保する意味もあった。



8226人いる! 夏コミ前夜祭 その32 :2006/11/12(日) 20:07:50 ID:???
残るは大野さんと、彼女の部屋に昨日から泊まっているアンジェラ&スー、それに3人を迎えに行った田中と日垣だけだった。
とりあえず一同は恵子が来た頃ぐらいから、自然発生的にアニソンカラオケ大会を始めた。

荻上会長はトイレに立った。
隣の部屋から、先程までの舌っ足らずなアニソンと打って変わって、地獄の底から響くようなハスキーな歌声が聞こえてきた。
「花よ綺麗と〜おだてられ〜咲いて見せれば〜すぐ散らされる〜馬鹿な、馬鹿な、馬鹿な女の〜怨み〜ぶ〜し〜♪」
梶芽衣子の代表作である映画「女囚701号さそり」の主題歌、「怨み節」である。
最近は映画「キル・ビル」のエンディングにも使われたので、若い人にも聞き覚えがある人は多いかも知れない。
実は荻上会長は「女囚701号さそり」を見たことがあった。
中学での例の一件の後の自殺未遂騒動の後、彼女は怪我が癒えてからも学校を休み、自室に引きこもっていた時期があった。
その頃彼女は、1日中テレビを見ていることが多かった。
実家はケーブルテレビの契約をしていたので、昔のアニメやドラマや映画をたくさん見た。
その中のひとつに「女囚701号さそり」があったのだ。
エロとバイオレンス満載の女囚映画は、ある意味単なるポルノ映画以上に男性専用のジャンルだ。
だが冒頭の東映マークと同時に流れた「君が代」に気を取られ(戦争映画か何かだと思って、そのまま見てた)、気が付いたら最後まで見てしまったのだ。
(ちなみに冒頭のシーンは、刑務所の所長が上から表彰されたことを朝礼で報告するに当たって、劇中で本当に吹奏楽団が演奏していた)
決して女子中学生にとって面白い内容では無いが、映像や音楽や台詞のひとつひとつが妙に記憶に残り、ある意味トラウマのようになっていた。
「でも確かあの映画って、30年ぐらい前の作品だよな。今時誰があんな歌歌ってるんだ?」
チラリとドアの窓から部屋の中を見る。




8326人いる! 夏コミ前夜祭 その33 :2006/11/12(日) 20:11:56 ID:???
歌っていたのは、スラリとした長身の長い黒髪の女性だった。
長い髪の為に横顔は隠され、顔までは見えなかった。
「さそり」のヒロインの梶芽衣子のように、黒のマキシのスカートに黒いシャツ、そして部屋の中なのに黒いアコーハット(極端につばの広い帽子)を被っているという、明らかに「さそり」を意識した服装だ。
若いオタクにとっては、赤屍蔵人が下半身ロングスカートにして女装したような感じ、と言えば想像しやすいかも知れない。
とても先程までアニソン歌ってた女の子(今歌ってる女性と同年代とは思えなかった)の連れとは思えなかった。
「まあ多分、もうお客さん入れ替わってるんだろうな。私が来てからだいぶん時間経ってるし」
一方現視研の大部屋からは、隣の部屋の「怨み節」と正反対の、国松の「ウルトラマンメビウス」のこれ以上ないポジティブな歌声が響いていた。
「悲しみなんか無い世界、夢をあき〜ら〜めたくない、ど〜んな涙も〜必ずか〜わく〜♪」
そのコントラストが何となくおかしくて、笑みを浮かべつつ荻上会長はトイレに向かった。

「き〜みのってっで〜、き〜りさっいって〜♪」
トイレから戻り現視研の大部屋に戻る直前、今度は隣の部屋から「ハガレン」の主題歌が聞こえてきた。
先ほどまでの舌っ足らずな女性の声とも、地の底から響くような女性の声とも、また違う女性の声だ。
上手いが、思い切りこぶしが効いている。
「何か演歌みてえな『メリッサ』だなあ」
再び隣の部屋をのぞいてしまう荻上会長。
思わずこけそうになった。
歌っていたのは藪崎さんだった。



8426人いる! 夏コミ前夜祭 その34 :2006/11/12(日) 20:14:53 ID:???
「あら荻上さん」
不意に、本当に不意に背後から声がかかった。
「ひへっ?」
驚いて振り返ると、そこには漫研の加藤さんが立っていた。
先程「怨み節」を歌っていた女性と同じ服装だ。
映画のラスト間際、自分を罠にはめた刑事に復讐しに行く時の梶芽衣子に似た格好だ。
それが印象に残り過ぎて、トラウマと化している荻上会長は戦慄した。
荻上「こっ、こんばんわ…加藤さん、なしてここに?」
加藤「こんばんわ。あなた方と同じよ。ここで始発まで夜明かし。そちらもかなり賑やかにやってるようね」
ちょうどその時、現視研の大部屋では「クックロビン音頭」をクッチーが熱唱し、みんなも手拍子しつつ一緒に歌っていた。
荻上「(赤面し)朝まで体力温存しとけって言ったんすけど、みんなはしゃいじゃって…」
加藤「年に2回のお祭りなんだから、しょうがないわよ。ちょっとうちの部屋に寄ってかない?」
荻上「えっ、いいんすか?だって漫研の人…」
表面上現視研と漫研は和解したものの、漫研女子の中に荻上会長を快く思ってない者も少なからず居た。
荻上会長が憂慮したのは、「やぶへび」の3人以外の漫研のメンバーの反応だった。
加藤「大丈夫よ。今日集まってるのは『やぶへび』の3人だけよ」
荻上「『つー事は、やっぱりさっきの怨み節が加藤さんで、舌っ足らずな方はニャー子(仮名)さん?』今年漫研って、もちろん夏コミにもサークル参加しますよね?加藤さんたちは?」
加藤「今年は『やぶへび』の方1本でやるわ。藪に漫研の原稿描かせたら、また誰も描かない。今の漫研の悪循環断つ為には、藪を別口で参加させて、残りの面子で本作らせるのが1番の荒療治だと判断したのよ」
荻上「それってもしかして…」
加藤「あなたが責任を感じることは無いわ。むしろきっかけを作ってくれて感謝したいぐらいよ。いずれこういう形で、私たちは漫研内独立部隊として動く積りだったから」



8526人いる! 夏コミ前夜祭 その35 :2006/11/12(日) 20:21:19 ID:???
荻上「独立部隊?」
加藤「腐女子として賛同できる相手ならば、現視研はもちろんあらゆるオタクと公正に交流し活動する。そういう漫研内治外法権的サークルなのよ、『やぶへび』は」
荻上「まるで公安9課ですね」
そう言う荻上会長は、現視研が文化サークルの第2小隊と呼ばれてることを知らなかった。

その後荻上会長は、加藤さんにやぶへび部屋へと連れ込まれ、「いなかっぺ大将」「紅三四郎」などド演歌系のアニソンを数曲、藪崎さんとデュオで熱唱する破目になった。
どんな歌でも演歌調で歌う藪崎さんと、何故か演歌だと抜群の歌唱力を発揮する荻上会長のデュオということで、自然にそういう選曲になったのだ。
荻上「ヤブんとこも1日目だっけ、同人誌売るの?」
藪崎「せや、今回は『ハガレン』で行くで」
荻上「前『ハチクロ』って言ってなかった?」
藪崎「こないだ『ハガレン』見直しとったら、ヒューズもええメガネやて気付いてなあ、ギリギリで変えたんや」
荻上「ヒューズさんって、愛妻家で親バカで世話好きで男気あって、あんましヤブの好みとは違うと思ってたけど」
藪崎「いいや、ヒューズはことマスタングに対してだけは、とことん尽くすメガネや」
荻上「そう言われてみれば、そうかも知れないけど…」
藪崎「彼の言動は一見攻め的やけど、攻撃こそ最大の防御ちゅう言葉もある。ヒューズはオフェンシブなタイプの受けや。私はそこに惚れてロイ×マーズ本にしたんや」

荻上「『ハガレン』と言えば、うち2日目に『ハガレン』のコスやるんだけど」
藪崎「ほんまかいな?オギーもやるの?」
荻上「エドやる」
藪崎「まあその背丈やったらちょうどええなあ(笑)」
荻上「誰が顕微鏡でないと見えないミジンコドチビか〜〜〜!!!」
ニャー子「やる気満々ですニャ〜」
荻上「(赤面)おっ、大野さんに頼み込まれたから、仕方なくやるだけです…」




8626人いる! 夏コミ前夜祭 その36 :2006/11/12(日) 20:26:43 ID:???
藪崎「それよりロイとマーズは居るんか?」
荻上「マスタング大佐が笹原さんで、ヒューズ中佐が斑目さん」
藪崎「斑目っちゅうたら、前に言うてたオギーが今の彼氏とカップリングしてもた先輩かいな。マーズやるんやったら、やっぱ総受けのええメガネやろな」
藪崎さんは斑目と面識が無かった。
1年生の時は、漫研女子と現視研が最悪の関係にあったので、殆ど接点が無かった。
2年生以降は、斑目が卒業したのでこれまた接点が無かった。
ちなみに藪崎さんは笹斑の1件について荻上会長から聞いていたが、さすがに絵の現物は見せてもらってなかった。
最大出力で赤面する荻上会長。
加藤「まあまあ。身近な男性でカップリングして、その1人と添い遂げるなんて、腐女子の本懐じゃない。荻上さん、もっと胸張りなさい」
荻上「そっ、そっすか?(藪崎さんに)エッヘン」
藪崎「勝ったと思うな!」
ニャー子「見事にオチましたニャー」

大野さんたちバイリンガルトリオと、迎えに行ってた田中と日垣が到着したのは、宴もたけなわ、沢田&豪田&神田という異色トリオが、ちょうど「ハレ晴レユカイ」(しかも振り付け有りで、意外と上手い)を歌い終わりかけた時だった。
(しかも曲の終盤では、左右を浅田と岸野のぎこちない踊りのフォロー付き)
一瞬一同に緊張が走る。
各自外人さんの新入会員を迎撃、もとい歓迎すべく英会話の勉強をしていたものの、皆あまり自信は無いからだ。
笑顔を浮かべるアンジェラの背中におぶさって、スーは眠っていた。
ソファの空いたスペースに、アンジェラはスーを座らせた。



8726人いる! 夏コミ前夜祭 その37 :2006/11/12(日) 20:31:44 ID:???
浅田「うわーすげー巨乳」
岸野「しかも美人だし」
有吉「ちっこい方の子も可愛い…」
豪田「本当、お人形さんみたい」
沢田「凄い髪長い…」
国松「何かいろいろ着替えさせたくなりますね」
大野「じゃあみんな改めて紹介します。今ちょっと疲れて眠っている子がスザンナ・ホプキンス。スーとかスージーとか呼んで下さい。で、おぶって来た子がアンジェラ・バートンです」
アンジェラ「ハーイ、どもみなさん初めまして、わたしアンジェラあるよ。どぞよろしくあるね」
呆然とする一同。
笹原「日本語喋れるようになったの?」
アンジェラ「去年の冬コミの後ぐらいから、猛特訓したあるね」
恵子「何で中国人みたいな喋り方なの?」
アンジェラ「あれっ?わたしの喋り方変あるか?おかしいあるな」
笹原「誰に習ったの?」
アンジェラ「わたしの友だちの日系人に習ったあるよ。その友だちこう言ったあるね。日本語語尾難しいから、慣れるまではとりあえず『ある』付けとけば大丈夫あると…」
大野さんを見る一同。
大野「いやーどーも彼女、中国系の人に一杯食わされたみたいですね」
アンジェラ「まあいいあるよ。意味通じれば問題無いあるね。今日のお客さん、ちょっとやりにくいある」
浅田「何でゼンジー北京なんて知ってる?」
アンジェラは次々と新1年生たちの間を回り、挨拶と共に握手する。
照れる男子会員たち。
一方女子会員たちの反応は様々だ。
小柄で童顔な国松と沢田は、ハグのおまけ付きの挨拶で赤面する。
普通に握手した台場と神田は、にこやかに「ナイストゥーミートゥー」などと返す。




8826人いる! 夏コミ前夜祭 その38 :2006/11/12(日) 20:35:00 ID:???
豪田は握手と共に何故か食い入るようにアンジェラに見つめられ、赤面してしまう。
それと対照的に、巴は闘志のこもった目でアンジェラを見つめ、アンジェラも先程までと微妙にニュアンスの違う笑顔を浮かべていた。
アンジェラが大野さんたちの方に戻ると巴が豪田に囁く。
巴「どうしたの?」
豪田「いや何か、凄く妖しい目で見られて、変な気持ちになっちゃった。マリアも何か変だったけど、何かあったの?」
巴「あの子、凄い握力だったのよ。私の7割ぐらいの力の入れ方で、ちょうど釣り合うぐらいだった」
豪田「あんたの7割って言えば…」
巴「普通の人間なら手が痛くなる程度の力はあるわ。それをあの子、笑顔で受けた。ただもんじゃないわね」
その時、眠っているスーが囁く。
スー「ぱとらっしゅ、僕疲レチャッタヨ」
一同「?」
スー「デモ僕幸セナンダ、ダッテるーぺんすノ絵ガ…」
大野「Sue(スー)〜〜〜〜〜!!!!!!それは死亡フラグ!!」
笹原「何かまた腕上げたんじゃない」
有吉「何すか、腕って?」
アンジェラ「スーはアニメや漫画の台詞の物真似が得意技あるよ」
一同「おー(感嘆)」
目を覚まし、椅子から降りて立つスー。
台場「スーちゃんが…立った!」
神田「わーい、スーが立った〜!」
伊藤「クララじゃないんだからニャー」
目を覚ましたスーに、アンジェラが状況を説明する。
周りを見渡したスー、ひと息置いて口を開いた。
「やまとノ諸君、久シブリダナ」
一同「お〜!」
朽木「なかなか渋い挨拶ですな」



8926人いる! 夏コミ前夜祭 その39 :2006/11/12(日) 20:38:17 ID:???
巴「ねえねえ、他にも何か出来る?そうだ、ローゼンメイデンなんて知ってるかしら?」
豪田「うわーローゼンだったらハマリ過ぎ!」
しばし沈黙した後、スーは口の端を歪めて低い声で喋り始めた。
スー「エエ、今ヤ日本ノ漫画ヤあにめハ、世界ニ誇ルベキ文化デアリマシテ…」
一同「そっちかい!」
浅田「つーか、何でそっちのローゼン知ってるの?」
その後もスーは、そんな調子でいろいろ物真似のネタを披露した。

そんな中、やぶへび3人娘に捕まってた荻上会長が帰ってきた。
荻上「あっ大野さん、いつ来られたんです?」
大野「今さっきですよ」
アンジェラがダッシュで迫る。
アンジェラ「ハーイ千佳、あっ今は会長と呼ぶべきあるね。お久しぶりあるよ」
荻ハグするアンジェラ。
荻上「(赤面して)日本語、喋れるようになったんですね」
その様子を見ていたクッチーが、豪田をけしかけた。
朽木「クリチン(クッチー限定の豪田の愛称。由来は豪田のペンネームのクリスチーヌ豪田)荻ハグですぞ」
豪田「さすが外人さんですね。私もああいう風に自然に荻様ハグしたいなあ」
朽木「そうじゃなくてクリチン、ここは先輩の威厳をビシッと見せて、荻ハグの見本を見せるにょー」
巴「(ニヤリと笑い)それいいかもね、日米荻ハグ合戦」

豪田「荻様お帰りなさ〜い!」
荻ハグしようと迫る豪田。
アンジェラ「私ももう1回ハグするあるよ〜!」
アンジェラの割り込みと荻上会長のフットワークにより、豪田とアンジェラは互いに誤爆ハグする。




9026人いる! 夏コミ前夜祭 その40 :2006/11/12(日) 20:41:15 ID:???
しかしアンジェラはまるで気にせず、より力を込めて豪田を抱きしめる。
豪田「ぎえええええ!」
アンジェラ「あなたなかなか可愛いあるね」
アンジェラの目が妖しく光る。
豪田「おっ、大野さん、これは?」
大野「アンジェラって、実はポッチャリ型が好きなんですよ」
豪田「ポッチャリって…私どう見てもデブでしょ?」
大野「アメリカじゃあなたの倍近い人がゴロゴロしてますから、十分アンジェラのストライクゾーンですよ、豪田さん」
アンジェラ「正確には女の子の場合はそうだけど、男の子の場合は細身のメガネ君が好きあるね」
豪田「女の子の場合って…?」
アンジェラ「私男女の違いには、あまり拘らないあるね」
アンジェラの唇が豪田に迫る。
豪田「やめれええええ!」
迫るアンジェラの頭をガッシリと掴んで引っ張る手。
巴だ。
アンジェラ「NO〜!」
思わず豪田から離れる。
夏蜜柑をも握り潰す巴の握力で締め上げられては堪らない。
アンジェラ「(ニヤリと笑い)あなたなかなか力持ちあるね」
前屈みになってやや腰を落とし、両手を前に出すアンジェラ。
巴「(ニヤリと笑って)面白い」
アンジェラの意図が分かった巴、彼女の両手を自分の両手で、指を絡ませるように握る。
2人はいわゆる手四つの体勢になった。
2人とも全身に力がみなぎり、汗をかきながらブルブルと震え出す。
固唾を呑んで見守る現視研一同。
およそ1分近く経過したが、2人の手の位置は殆ど変わらない。
互角の勝負だ。



9126人いる! 夏コミ前夜祭 その41 :2006/11/12(日) 20:45:51 ID:???
荻上「アンジェラって、あんなに力あったんですか?」
大野「もともとテニスとか水泳とかやってましたけど、半年ぐらい前から護身術兼ねてレスリング習い始めたらしいですよ」
やがて手四つ怪力合戦の2人の震えが止まった。
互いに手を放す。
しばし見つめ合う2人。
2人の目が輝きを増したその時、互いに右手を差し出し、力強く握手した。
荻上「?」
大野「どうやら筋肉で友情が芽生えたみたいですね」
何故か会員一同から、盛大な拍手が送られた。

アンジェラ絡みの騒ぎが一段落すると、スーが荻上会長にトコトコと寄って行く。
そして肩幅ぐらいに足を左右に広げ、腹の前で拳を握った腕を十字に合わせ、それを切るように肘を腰の後方に引きつつ挨拶した。
「押忍(おっす)!センセイ荻上!」
荻上「せんせい?」
スー「押忍!私センセイ荻上に、ヤオイの道の何たるかを学ぶ為に日本に来たであります!」
荻上「その喋り方は?」
スー「押忍!外国人が日本人の先生に習い事する時、頭にセンセイと付けてお呼びし、喋る前に押忍と合いの手を入れる、それが日本で修行する者の作法と習いました!」
荻上「それ誰に習ったの?」
スー「押忍!センセイ梶原原作の空手漫画にそう書かれてたであります!」
笹原「多分、『空手バカ一代』とか『四角いジャングル』とかを読んで参考にしたんだと思うよ」
スー「押忍!センセイ梶原のおっしゃることは全部実話だから、その通りにすれば間違いないと、日夜修行に励んだ成果であります!」




9226人いる! 夏コミ前夜祭 その42 :2006/11/12(日) 20:51:40 ID:???
実は梶原一騎先生が漫画の劇中で「これは実話である」と断言していることの半分ぐらいは梶原先生の創作なのだが、敢えて笹原はそのことにはツッコまなかった。
(参考)
「兄ちゃんって、よく分かんないまま話書き始めちゃうんだよ」
梶原一騎先生原作のある格闘技漫画について、先生の実弟の真樹日佐夫氏(空手家で漫画原作者でもある)の証言。

朽木「ところで大野さん、前から疑問に思っていたのですが、スーちゃんって歳いくつなのでありますか?」
大野さんに注目する一同。
実は1年生たちが1番疑問に思っていたことだからだ。
アンジェラの方は大野さんの友だちということで、自分たちより少し年上かもとおおよその想像は出来る。
だがその2人と対等に話しているスーは、どうみても同い年には見えない。
それによく見ると、2人のスーへの対応はお姉さん的でもある。
その為スーの年齢を推測することは困難を極めた。
その場にいる多くの者の総意の代弁という点では、ある意味クッチーのこの質問、彼の生涯で最も空気を読んだ発言かも知れなかった。
大野さんが満面の笑みを浮かべた。
だがその唇の端は微かに痙攣していた。
次の瞬間、テレポートと見紛うばかりの俊敏な動きで、大野さんはクッチーの背後を取る。
そしてこれまた音速に近いスピードで、クッチーの首筋に右腕を絡みつけつつ左手で後頭部を押す。
スリーパー・ホールド、いわゆる裸絞めの体勢だ。
クッチーの頚動脈は、大野さんの前腕部と上腕部で急激に絞め上げられ、瞬時に血流を停止した。



9326人いる! 夏コミ前夜祭 その43 :2006/11/12(日) 20:55:50 ID:???
何が起こったのか分からぬまま、クッチーは落ちた。
それでも僅かに背中で大野さんの巨乳の感触を味わったせいか、クッチーの寝顔は安らかだった。
大野さんの無言の笑顔は、まだ続いていた。
冷や汗を流し、凍り付く一同。
この大野さんの一連の動きが、スーの年齢についての話題が禁則事項であると雄弁に語ったからだ。
一同『て言うか、いくつなんだよスー?』

その後もカラオケ大会は続いた。
1人で1曲歌うパターンは徐々に減り、全員で合唱するパターンが続いた。
終盤の頃には、「やぶへび」の3人も乱入しての大騒ぎになった。
夏コミ本番に差し支える為に、荻上会長は飲酒を禁止していた。
だから全員シラフなのだが、それにも関わらず皆ハイになり盛り上がっていた。
そうなると現視研一のお祭り野朗クッチーも復活し、歌うわ踊るわ脱ぐわ大野さんにどつかれるわ1年女子には意外にウケるわの大騒ぎとなった。
いい加減みんなを大人しくさせることをあきらめた荻上会長も、開き直って笹原とデュオで熱唱して、藪崎さんに「勝ったと思うな!」を連発させた。
(でも何故か演歌ばかり)
最後はスーのリクエストで「宇宙戦艦ヤマト」をみんなで歌った。
ヤマトはかつてアメリカでも放送されて人気番組となり、アメリカの古いオタには、ヤマトがきっかけでオタの深みにハマったという人が多数実在する。
それは単にヤマトの良さにハマっただけではない。
ヤマトを巡るパラレルな展開の真相を知るべくわざわざ日本語を勉強して来日し、調査の過程でガンダム等の数々の名作を発見した為でもあった。




9426人いる! 夏コミ前夜祭 その44 :2006/11/12(日) 20:59:37 ID:???
夜明け直前、田中と1年男子たちが田中宅に預けた荷物を取りに出かけた。
その帰りを待つ間、荻上会長は部屋の片隅で笹原が眠っていることに気が付いた。
荻上「まあ昼間仕事やってからそのままこっち来たから、疲れが出たのね」
恵子「なかなか可愛い寝顔してるじゃん。姉さん、キスして起こしてやったら?」
荻上「(赤面しつつ)ぎっ、ぎりぎりまで寝かしといたげなさい!」
そう言いつつも、可愛い寝顔というのには同意する荻上会長だった。

田中たちの帰りが出発の合図となり、全員(「やぶへび」の面々を含む)外に出る。
夜が明け始めていた。
荻上「じゃあみんな、出発するわよ」
一同「はいっ!」
スー「地球ニ向カッテ、シュッパーツッ!」
大野「Sue、それは帰りの時の掛け声だってば」
いよいよと気を引き締める荻上会長。
ふと見ると、クッチーが朝日に向かって柏手を打って手を合わせていた。
朽木「今年はいいことがありますように!」
荻上「初日の出じゃないんだから、止めて下さい!」
朽木「何をおっしゃる!これは師父斑目より教わりし、お目当ての同人誌をゲットする為の伝統ある出陣の儀式ですぞ!」
荻上「最近あの人、いい加減なこと教えてねえか?」
1年生たちとアンジェラ&スー、それに大野・田中カップルや笹原兄妹、そして「やぶへび」3人娘までもが、同様に朝日を拝み、それを見て頭を抱える荻上会長。
でも結局「まあいいか」と、会長自らも手を合わせて朝日を拝んだ。
がんばれ荻上会長、本当の戦いはこれからだ。




9526人いる! 夏コミ前夜祭 後書き :2006/11/12(日) 21:03:48 ID:???
看板に偽り有り!
未完なだけならまだしも、まだメインキャラ26人出てないし、そもそも夏コミ始まってない!
すいません、本日はここまでです。
続きは近々投下しますので、何とぞご容赦を。
長時間スレ占領しちゃいまして、どうもすいません。

96マロン名無しさん :2006/11/12(日) 21:42:28 ID:???
5時からリアルタイムで読んでしまった。
最近、げんしけんにハマって初めてこのスレに来たんだけど、
ゆうきと久米田が好きなオレはひょっとしてオタの王道を歩いていたのか?
たまたま作者さんと好みが合ってただけ?

97マロン名無しさん :2006/11/12(日) 22:10:59 ID:???
>>96
久米田さんとゆうきさんは王道というより魔道な気もする。
これはいい意味で。
かくいう私も大好きです。

>>95
あとでゆっくりよまさせていただきます!

98マロン名無しさん :2006/11/13(月) 03:23:54 ID:???
>>26人いる!
長編乙です!
いやぁ、にぎやかですねえw
現視研が超クリエイター集団となっているのに感動した。
本番はどうなることやらw
楽しみにしています!

99マロン名無しさん :2006/11/13(月) 05:14:31 ID:???
>26人いる!
まずなにより乙。なにはともあれ5時間もお疲れ様でした。
コピペして通勤のとき読みます。感想はまた。

100マロン名無しさん :2006/11/13(月) 18:04:29 ID:???
『26人いる!』投下分読了。
朝の通勤時間じゃ読みきれなかったよ。昼メシの間ずっと読んでたわ。

たいへん面白く読ませていただきましたゴチ。
やっぱりイベント話面白いね。新入部員がバリバリ仕事するストーリーの仕立ても理解しやすくていいし、書くほうも描写しやすかろうと思う。
それぞれに見せ場を作らなきゃならないので確かに大変そうだがなかなかどうして、みなさん個性的に動いていて実に魅力的だ。
新キャラの才能も絵的に見えているし、従来キャラたちのパワーアップも頼もしい。オギーの会長っぷりも板についてきて父さん嬉しいぞ。
小ネタもいっぱい効いてて楽しい。個人的にはローゼン閣下のモノマネをするスーに作中人物と一緒にツッコんでしまい、思わぬ一体感が味わえたw

……えーとね、感想書ききれません。
想いとしてはひとネタひとネタ全てに反応したいくらいだが、はしゃぎすぎてもなんなのでこの辺まで。
作者氏ご本人の仰るとおりまだ本番始まってません。今後投下されるであろう後編だか中篇だか第2話だかを楽しみにしております。


101マロン名無しさん :2006/11/13(月) 22:08:39 ID:???
>26
確かにネタ大杉。でも「お祭りがやってきた」っぽい楽しさに満ちてるので、おK!

個人的にツボだったのは、スーの「閣下」ネタと、「女囚701号さそり」の主題歌「怨み節」、そして梶原一騎ネタ……、つうか真樹日佐夫の名前まで出るとは、作家氏の年齢が知りたい!



「大野女史のスリーパーは腕の力もさることながら、巨乳がさらに圧迫を加えるので、私も危うく昇天しかけたことがあった。これを凌ぐのはアンドレ・ザ・ジャイアントのヒッププレスくらいだろう」(アントニオ猪木・談)

102マロン名無しさん :2006/11/16(木) 00:35:35 ID:???
スーパースター列伝乙

103マロン名無しさん :2006/11/16(木) 03:26:01 ID:???
…ふはーーー!ようやく読めた!
読み始めると引き込まれて、ついつい読んでしまいました。

つかまだ夏コミ@三日間始まってNEEEEEEE!!!!!www
「クッチー純情派」以上の大作になる悪寒。本にしたらぶあつくなりそうなw
続き楽しみにしてます。頑張ってください!

…あと一言だけ言わせて欲しい。
斑目の絶望先生コス見てえええええええ!!!!!www

104マロン名無しさん :2006/11/16(木) 05:30:55 ID:???
>>103
YOU描いちゃいなYO!

105マロン名無しさん :2006/11/17(金) 21:50:52 ID:???
保守

106アンの青春 :2006/11/18(土) 03:12:53 ID:???
>26人いる!
いや、すごいな・・・。こんなに豊富なネタとオリキャラを自在に動かす
の真似できない。大作乙でした〜 スーの年齢不詳私も気になってますw

しばらく投稿してなかったのですが、以前書いたセカンドジェネレーション
続編書きあげたので、投稿します。一万六千字の長作で、オリキャラも登場する
んですが、今の流れならNGじゃないかな。
ということで久しぶりの創作で脳味噌覚醒して目が冴え冴えなので、
今から、十分ほどして設定説明と同時に投稿します。

107アンの青春 :2006/11/18(土) 03:21:01 ID:???
■セカンドジェネレーション設定■

これは絵板起源の「セカンドジェネレーション」-双子症候群-の独自設定
です。一応、「初期設定」とされるキャラクターの設定を拝借していますが、
独自に改編した部分もあります。
ここだけで完結されたバラレル設定ですので他のSS師さんたちや絵師さんた
ちの設定との差異はご了承ください。

□舞台設定 
げんしけん最終回から二十年後の世界の東京郊外の新興都市

□登場人物設定 
旧世代の登場人物は斑目晴信、アンジェラ・バートン、スザンナ・ホプキンス
のみの登場。その他メンバーは名指しも登場もしない方針。

□物語設定
物語はオムニバス形式で独立しており各自主人公が異なりますが、
前作の設定を一部引き継ぐ場合があります。一応、時間系列順に列挙して
おきます。
:げんしけんSSスレまとめサイト 「その他」カテゴリー収録
@「ぬぬ子の秘密」 主人公 服部双子(ぬぬ子) A.C.2026年
A「斑目晴信の憂鬱」 主人公 斑目晴信 A.C 2026年
B「アンの青春」 主人公 アンジェラ・バートン A.C 2010年
続編未定


108アンの青春 :2006/11/18(土) 03:22:14 ID:???
□登場人物 (○旧世代 ◎新世代 ☆オリジナル)
○斑目晴信 
新世代たちの中学校に用務員として赴任。過去にアンジェラと短期間交際し
ており、認知していない息子が一人いる。最近、その存在を知った。
○アンジェラ・バートン (アン、アンジェラ)
米国にて社会心理学研究をしている。斑目との間に一子あり。
○スザンナ・ホプキンス (スージー、スー)
新世代の中学校に英語教師として赴任。容姿は昔と変わらない。
◎千里(ちさ) 十四歳以下同
笹荻の娘。妹の万理と二卵性双生児。性格は積極的で物事に頓着しない。
漫画、アニメ好き。
美少女愛好趣味もある。どちらかというと消費系オタ。叔母や親友の春奈と
ファッションやゲームの話題で気が合う。
◎万理(まり) 前作でうっかり万里の変換せずにいましたので他の方々の
設定との区別の為に万理で通します。
同じく笹荻の娘。性格は消極的で思慮深い。納得のいかない細事に拘る面も
ある。腐女子趣味で創作もする。漫画、アニメ好き。創作系オタ。親友の
千佳子と気が合う。


109アンの青春 :2006/11/18(土) 03:24:02 ID:???
◎千佳子 
田大の娘。温厚で大人しい性格。父親に似て凝り性で几帳面な面も。漫画、
アニメ好き。消費系オタ。腐女子趣味。コスプレは嫌い。
思春期の難しい年頃で母親のコスプレ趣味には嫌悪感。その後何かの
きっかけで目覚める可能性あり。
◎春奈
高咲の娘。ボクササイズをしている。オタク趣味は無いが、父親の影響で
オンラインゲームの格闘ゲームが好き。
ファッションにも興味があり、アバターの服などのデザインを趣味にして
いる。
父親の天才性?は引き継いでいないが、母親のリーダーシップの素質の萌芽
がありそう。
◎服部双子(ぬぬ子)
突然、転校してきた厚底メガネのおさげの少女。メガネを取ると絶世の
美少女という古典的設定。その他にも秘密が多そう。
☆アレクサンダー・バートン(アレック) 十五歳
このパラレル設定での完全なオリキャラ。斑目とアンジェラの息子。
無責任な父親を拒否。
その反動でオタク趣味も寄せ付けない。しかし思いっきり素養がある。
母親似のスポーツマンで格闘技を習得。
オンライン格闘ゲームには興味がある。


110アンの青春 :2006/11/18(土) 03:27:37 ID:???
うわ、久々なんで改行とか調整してなかったので少し間を空けて
投稿再開します。分割もしてなかったので投稿数も不明です

111アンの青春その1 :2006/11/18(土) 03:45:59 ID:???
○斑目晴信

(めっきり部室に顔を出す事も少なくなったな・・・)

と斑目は秋足の早さを肌で感じながら、枯葉舞うキャンパスの大通りをゆっくりと歩いた。
在学中の顔見知りはもういない。唯一、スージーだけが大学院から何かの研究室に残ってはいたが、
すでにサークルには顔を出す事は少なくなっていた。

当然、斑目ともスージーは顔をあわせる機会も少なくなった。部室に顔を出しても、現役の部員たちが
最新のゲームやアニメの話題に興じていて、時々斑目にも話題についていけない時があった。

「あれえー、斑目さん、また来たんですかあ〜」とからかうように現役の部員たちが笑いながら声をかける。

「馬鹿言え、またとは何だ、またとは!! ほれ、お前ら差し入れだ!! 」と斑目も苦笑しながら、
手に持っていた差し入れのジュースやお菓子を差し出す。

「やったー。いつもすみませんねー、さすが社会人!! 高給取りですねー」

「そんなわけないだろう。調子のいいやつらだな。」
そう言いながらも斑目はまんざらではない気分だった。このくらいは格好つけさせてもらいたい。


112アンの青春その2 :2006/11/18(土) 03:46:34 ID:???
(いや・・・手ぶらで来るのに気を使う年齢になったんだな・・・)
そして後輩たちに気を使うほどの隔たりを感じてもいた。
「六年か・・・」と斑目はつぶやいた。最近はあいつらとも疎遠になってきた。仕事はそれなりに順調だ。
最近は重要な用件も任されてくれるようになった。すっかり中堅扱いだ。だがしかし・・・。

突然、部室の扉が開いた。この時間に部室を訪れる人はもういないはずだ。斑目と部員たちは同時に
驚いて、扉の方を向く。そこには見知らぬ女性が、しかも金髪、碧眼の欧米人がきょとんとした表情で
立っていた。意外な訪問者に皆声を出せずにいた。

どこかで会った顔である・・・。ずいぶん会っていない。そうだ・・・。
その女性はその深みのある澄んだ瞳を斑目のほうに向けて、ほっとしたように笑った。

「アンジェラか!!」

斑目晴信。二十八歳、踏ん切りをつける事のできない想いをいまだに抱き続けている男。
アンジェラ・バートン 二十六歳 己の運命と闘い打ち克つ事を願う女性。


113アンの青春その3 :2006/11/18(土) 03:47:17 ID:???
○アンジェラ・バートン

(以前、日本に行ったのは何時のことだろう・・・。)

スーが留学してそのまま日本に滞在するようになってから大分たつ。アンジェラもスーが
日本に渡ってから自身の仕事の忙しさから、すっかり日本に来る事が少なくなっていた。
もちろん日々、メール等でスーとは連絡は取り合っている。
私たちの『絆』は人が思う以上に深いのだ。

(今回は・・・特別・・・緊急だからね・・・)

スージーからの連絡を聞いた時には耳を疑った。もう絶滅していないと思っていたのに・・・。
『私たち』で『使命』は終わりだと思っていた。いや『使命』を果たす機会無く平穏に終わるのだと・・・。

アンジェラは手配を済ませて飛び乗った飛行機の席で大きく息を吐いた。心臓がドキドキしている。
むしろ今回の事はアンジェラには刺激的な出来事だと思った。
大学の研究は楽しい。言い寄ってくるボーイフレンドとのデートや遊びも楽しい。

(ああ、でも本当に楽しいなんて思ってなかったわ・・・。)
アンジェラはその満たされぬ思いに気付いていた。
飛行機の窓から見える雲間をぼんやりと眺めながら、物思いに耽っていた。

(本当に損よね・・・。時々わずらわしいと思っちゃう・・・)

アンはふと視線を自分の胸元に向けた。10代の頃からその大きすぎる胸は好奇の目の対象だった。
学校の成績は良かったが、周りはそんな風に見てくれなかった。好色で軽薄な女と思われたくなくて、
アンジェラは勉強もがんばったし、スポーツでも活躍した。それなのに周りの好奇の目は変わらなかった。


114アンの青春その4 :2006/11/18(土) 03:48:26 ID:???
日本から来た、気持ちを同じくし、そして趣味も共有できる親友と出会うまで、スーにすら(いや幼児体型の
スーには理解してはもらえない)悩みを共有できる人はいなかったのだ。

その気持ちは今でも変わらない。言い寄ってくる男との付き合いにもどこか心を開く事が出来なかった。

(いい年して馬鹿みたいよね、でもこの『使命』が終わったら、何か変わるかしら・・・)

当ての無い期待を密かに抱いてアンジェラは日本に来た。

そして二人は数年ぶりで再会した・・・。


115アンの青春その5 :2006/11/18(土) 03:49:13 ID:???
○邂逅

アンジェラが部室の扉を開けて、最初に目にしたのは昔とさっぱり変わらない部室の様子、
そして驚きと好奇の目でアンジェラを見る学生たちの表情であった。
だが知っている顔はもういない・・・。いや・・・一人いた。そう、『ソーウケ』のマダラメ。

変わらないまん丸眼鏡の奥から、目を白黒させて相変わらずオロオロとしてキョトンとした表情。
アンジェラは可笑しさと同時に何かホッとした気持ちになった。

「マダラメ、嫌だ、あなたまだ学生やってたの?」とアンジェラは流暢な日本語で喋った。スーの影響で、
この数年ですっかり日本語も覚えた。

「な、なわけ無いだろう!! 後輩たちの面倒を・・・、ってアンジェラ、日本語上手くなったよな。」と斑目は
驚いた表情で訪ねた。

「まっ斑目さん!! こっこの巨乳の美人!! だっ誰ですか? まさか斑目さんの・・・」

「違うわい!!」

後輩たちが色めきだつ。そんな学生たちの様子に頓着せず、腕組みしながらアンジェラはニコニコ
しながら辺りを見回す。
「変わらないね。あれ・・・このゲーム・・・」とアンジェラはテーブルに無造作に置いてあるエロゲーを手に
取ろうとした。

「わわわわ」 学生たちは慌ててその手のゲームやら雑誌やらを片付け始めた。

「フフフ、気にする事無いのに。」

「急にどうしたんだい?」と斑目はアンジェラに尋ねた。


116アンの青春その6 :2006/11/18(土) 03:52:59 ID:???
「スーは? ここじゃないの? 携帯電話、あの子通じないのよね。」

「ああ、きっと研究室の方だろう。何の研究か知らないけど、あそこ携帯電話とか使用禁止なんだよね。
案内するよ。」と斑目は咳き込みながら、細い肩を揺らしながら言った。
「うれしい。優しくなったのね。意地悪な人って聞いていたけど。」とその様子を見つめながらアンジェラは
答えた。
「誰がそんな事を・・・。そんな事を言うのは・・・」と斑目は眉間にしわを寄せた。

「フフ、蛇ですものね、前世は。」

「かっ勘弁してくれよ、もう・・・」と斑目は顔を真っ赤にして答えた。
二人は部室を出て、スーのいる研究室の方に向かった。

アンジェラは斑目をからかいながら心が浮き立つ自分に気付いた。こんな事は久しぶりだった。
(楽しい・・・からかい甲斐があるんだもの・・・。)

そう思いながらアンジェラは斑目の横顔を見つめている。斑目はその視線に気付かないフリをして顔を
こわばらせた。その様子がまた不自然でアンジェラには滑稽に見えた。

(俺の顔・・・。何かついてるのか? )とドギマギしながら適当な会話をして、その場をごまかしていた。
アンジェラはその話を聞きながら静かに相槌を打っている。自分でも何喋ってるか分からない話題にだ。
「少し雰囲気変わった?」
「そうかあ?」
二人はそんな会話を交わしながら並んでキャンパスを歩いていた。


117アンの青春その7 :2006/11/18(土) 03:55:31 ID:???
○違和感

二人はスーの研究室の前についた

「つっ着いたよ!! たぶんここにいると思うよ。俺は退散するね。ここの担当教授、俺のゼミ担当だったんよ。
卒業してからもウロウロしている所見られたら、嫌な顔されるからね。」

「そう・・・ありがとう。」
アンジェラの表情が何か言いたげだった。

「何? まだ何かある? 」と斑目はつっけんどんに言った。

「いえ・・・」

「じゃじゃあ、これで!! また機会あったら!! あの二人にもよろしくね!!」
間の悪さに耐え切れず斑目はそそくさと退散した。
(何している? いい大人が!! 自意識過剰もはなはだしい。)
斑目は自己嫌悪に近い感情に襲われながら立ち去った。

斑目は部室に置いてきた弁当に気が付いた。腕時計に目をやると十二時四十分を過ぎていた。

(駄目だ・・・。部室に戻って昼飯を食う時間は無いな・・・。しょうがない、会社に戻るか・・・。弁当はあいつら
にくれてやろう。)

斑目は後輩たちに電話しようと携帯電話を手に取った。その時、ふとキャンパスの影にスーがいるのに
気付いた。研究室にはいなかったのだ。アンジェラが来たことを教えてやろうと声をかけようとした。
だが建物の物陰に誰かいる事に気付いて、声をかけるのをためらった。
その人物は斑目の所属ゼミの担当教授だった。
(まずいな・・・。あの人、口うるさいんだよな・・・。)


118アンの青春その9 :2006/11/18(土) 03:57:35 ID:???
斑目はその教授が苦手であった。だからその場を立ち去ろうとした。
しかし教授の表情に驚いて足を止めた。主に喋っていたのは教授の方だったが、
その顔は普段の嫌みったらしい人ではなく、まるで・・・そう・・・恋する少年のような表情だったのだ。

『本当にあなたはお変わりない・・・。それに比べて私は・・・世故に長けているだけのつまらない大人に
なりました・・・。』
『そんなことはないよ・・・。』
スージーは建物の白い壁に寄りかかりながら、頬を赤く染めて、はにかみながら、うつむいていた。
『前任者との引継ぎは? 資料の方は私が管理保管しております。あなたの在学に関する手続き等も
問題ありません。すべて私の方で手配済みです。』

二人の会話はすべて英語で交わされていたので、斑目には二人の会話の内容が分からなかった。
しかし二人の様子には何か違和感を感じた。その時、斑目の存在に教授の方が気付いて、
ぎょっとした表情を浮かべた。そしていつもの嫌味な教授の顔に戻った。

「君は確かずいぶん前に私のゼミにいた卒業生の・・・。OBとはいえ気軽に大学の構内を
ウロウロするのは・・・」
「すっすいません。あ、スー!! アンジェラが君を訪ねてきているよ!!」
説教が長くなりそうだったので慌てて斑目は、スージーにアンジェラの来訪だけ伝えて、
その場を立ち去った。


119アンの青春その10 :2006/11/18(土) 03:58:16 ID:???
(いけねえ いけねえ)

斑目は慌てて駆け出した。そろそろ昼休みが終わる。その時、校門の後ろから聞き覚えのある声に
声をかけられた。

「よう、斑目!! 久しぶりだな!! 」

(原口!! 今日は嫌なやつに二人も出会ったよ・・・)
しばらく消息もしれなかったが、最近、はぶりのいい様子で斑目たちの前に現れる事があった。
何をしているかは分からなかったが、高級時計や似合いもしないブランドに身を包んでは自慢げにして、
周囲に不快感をばら撒いていた。

「あいかわらず・・・しけてるな・・・。世の中、要領よく立ち回らないと駄目だぜ。」
ニヤニヤしながら原口は斑目の野暮ったい姿をジロジロ見ていた。

「ははっ、そうですね・・・。今日はすいません、会社の休憩時間が終わっちゃいそうなんで!!」
斑目はそう言ってそそくさと立ち去った。
(相変わらず、嫌な奴だ・・・。だが何か印象が変わったような・・・)


120アンの青春その11 :2006/11/18(土) 04:00:02 ID:???
○契約

『やっと会えた。携帯も通じないし・・・。研究室閉まってるじゃない!!』 とアンジェラは言った。

『うん・・・S教授と「例の件」について相談してたから。』とスージーはぶっきらぼうに言いながら、
研究室のドアの鍵を開けた。

アンジェラはひんやりとした研究室の中に入り、あたりを見回しながら呟いた。
『そうなの・・・マダラメに案内してもらったわ。』
『私も会った。アンの事聞いた。』

『そっそう!! 彼に世話になったのに礼もろくに言ってなかったわ!! お礼言わなくちゃ!!
スーは彼の携帯電話知ってるわよね?』
マダラメの名を口にして自分がドギマギしている事に気付いた。

『? もちろん。でもその前に・・・』
『ええ、分かっているわ!! 間違いないのね。前任者の目をくぐり抜けて、一体いつ入れ替わったのかしら?』
『たぶん、前任者の引退の前後に・・・。今も大学に来ている・・・。向こうも私に気付いた。』

『そっそう・・・。間違いないのね・・・。』
さっきの心浮き立つ心境から一転して、暗澹たる心境に変化した。

『では・・・貴方は貴方の義務を果たしなさい。』
急にスージーの口調が一変して厳格な口調に変わったことに、アンジェラは気付きハッとした。

スージーは厳かに言った。

『父祖から引き継がれし血の誓約を汝は今ここに遂行せよ。』

『わが主、わが牧者、血の誓約に従い貴方の命に服します。』
アンジェラは慌てて跪き、スージーの白い手を取り、接吻した。


121アンの青春その12 :2006/11/18(土) 04:00:40 ID:???
『ここは「問おう。貴方が私のマスターか?」って言ってくれなきゃ!!』とスージーは口を尖らしてぼやいた。
『スー・・・あのねえ・・・』
その口を尖らせたふくれっ面は少女のようであった。紛れも無くその容姿は少女そのものであったのだ。
見かけと内面とのギャップにアンジェラは可笑しくなった。

『例の「物」はもう日本に?』とスージーはアンジェラに尋ねた。
『ええ、抜かりは無いわ。空軍経由で空輸して、今日の夕刻までには「処理班」が私たちの所に
届けてくれる。』
アンジェラは頷きながら答えた。
『では、それを回収次第、作戦開始ね。それまでここで作戦の細部を検討しましょう。』とスージーは言った。
『そうね・・・。』


122アンの青春その13 :2006/11/18(土) 04:01:45 ID:???
○追跡

空が禍々しい赤色に染まり、ビルの壁の影がゆっくりと濃くなっていく頃、「それ」は動き出した。
「それ」はその大きな体をユサユサと揺らしながら、あたりの様子を窺うようにキョロキョロとした。
そして「地下鉄」へと降りていった。

『尾行に気付いているのかしら。』とアンジェラはスージーに尋ねた。
『気付いているでしょ。私が「ヤツ」に気付いているように。』とスージーは素っ気無く答えた。
二人は「それ」の十数メートル離れた後方から「それ」の様子を窺っていた。
冷たい風がビルの谷間から吹きつける。二人は行きかう人々と同様に身を縮まらせて震えた。
厚着しているとはいえこの寒さは堪えた。アンジェラは中型のアタッシュケースを手に持ち、
細長い筒状のケースを背負っている。

『ねえ、スー! 何で私だけ荷物持ってるわけ!? 重い〜』
『いいでしょ、アン、力持ちなんだから。』
『都合のいいときだけ、か弱いふりするんだから、もう!! あ、地下鉄に降りちゃう。急がなきゃ!!』

二人は駆け足で地下鉄の階段を降りていった。改札口を抜けてホームに出ると、
ちょうど地下鉄が入ってきて、「それ」が乗り込むところだった。

二人も慌てて地下鉄に乗り込む。息を弾ませながら、二人は隣の車両の「それ」の様子を窺う。
「それ」は大股で席に座っている。混雑時にもかかわらず、周囲にお構いなしにスナック菓子を
ボリボリ食べ始め、小さな丸めがねの下から、周囲をジロジロと覗き込んでいる。

『わざとかな、それとも地でやってるのかな?』とアンジェラは「それ」の横柄で不快な態度に目を
向けながら、スージーに聞いた。
『たぶん、両方。』
『ああ、なるほどね。格好の社会的擬態の対象を見つけたというわけね。』

「それ」は急に地下鉄から降りて、郊外に向かう路線に乗り換えた。二人も尾行を継続して「それ」に
ついていく。外は薄暗くなり怪しさを深めていった。


123アンの青春その14 :2006/11/18(土) 04:03:00 ID:???
『誘ってるのかしら?』とやはりアンジェラはスージーに聞いた。
『それもおそらく。自分の正体がばれて、擬態の社会的地位を無くすのが嫌なんでしょ。
人気の無いところまで、私たちを誘導するつもり・・・』
『それは・・・私たちにも都合がいいけど・・・罠じゃ? GPSで追跡している処理班と私たちを引き離すのが
目的なんでしょうし。』とアンジェラは不安そうにスージーに向かって囁いた。

『仲間がいると? それは無いでしょう。もう最後の世代の感染、増殖力は低下してます。
バイオセーフティーレベルからすれば、レベル3程度です。あれがおそらく最後の残党・・・』
とスージーは言った。
『だといいんだけど・・・。最後の第一世代「始祖」はベトナム戦争期以来発見されていないんでしょう?』
『そう・・・あれが最後のバイオハザード。私たちの最強の「誓約者」が倒した。
「誓約者」も私たちで最後・・・。』とスージーは寂しそうな表情を浮かべた。

その表情をアンジェラは見つめた。そう「仲間」はもういないのだ・・・。

そうした会話を交わしながら追跡していくうちに、「それ」は人気の無い廃屋に入っていった。

『とうとう着いたね。ここがヤツの狩場・・・。』
二人はその不気味な廃屋を見上げた。


124アンの青春その15 :2006/11/18(土) 04:04:36 ID:???
○聖槍

二人は意を決して廃屋に侵入した。スージーが感じた気配は「それ」一匹だけのものだった。
他に仲間はいないはずである。ただ他の罠の可能性も否定できないので、
二人は緊張して周囲の様子を窺った。アタッシュケースを開いて、
アンジェラは赤外線暗視スコープを取り出して装着した。また小機銃を手早く組み立てた。
『スー!! あなたも暗視スコープを!!』
『いらない・・・。夜目は利くから・・・。』と言いながらスージーは周囲に注意を払っている。

廃棄された工場跡は広いが、どす黒い闇に覆われていてとても肉眼で見えるものではなかった。
天井の穴から僅かに差し込む月明かりだけが、漆黒の闇を切り裂くように差し込んでいる。

不意に天井から声が聞こえた。

「よう・・・。とうとう見つけたか。」
二人がその声の方を向くと、漆黒の闇の中で赤い目だけが光っている。その声は続けて喋った。
「なあ、もうやめねえか。俺たちもお前らも、感染力や免疫力は世代を繰り返すほどに落ちてきて、
第一世代のような力はもうねえ。俺は細々と今の生活を続けられたらそれでいいんだ。
大それた事は考えちゃいねえ。」

「この狩場は何? あんたらのサガは危険なの!!」とアンジェラは叫んだ。

「しょうがねえだろう。食わなきゃ生きていけねえんだから。お前らだけ社会に溶け込んで楽しんでズリイ
じゃねえか。第一、エサには事かかねえしなあ。この擬態のヤツみたいなのとかなあ。」

暗闇からゲフゲフという厭らしい笑い声が響いた。

「話はこれで終わりね。」とアンジェラは銃を構えた。


125アンの青春その16 :2006/11/18(土) 04:06:32 ID:???
「そんなんで俺が倒せるわけがねえだろう。感染力はもう弱いが、戦闘力や再生力はまだ健在だぜ。
お前らの頼みの免疫力はもうねえだろう。」と「それ」はせせら笑った。

「そう。私の免疫力は第一世代ほどの力は無い。体質だけ引き継いでいるだけ。
でも切り札が私たちにはある。」とスージーはそこで初めて口を開いた。
アンジェラはそれを受けて、背中に背負っていた長いケースから、細いチタン製の棒を取り出した。
その矛先には古ぼけた槍が付いていた。

「なんだそりゃ。そんな時代遅れの武器が切り札かよ。・・・いや、まさか・・・。」 「それ」の声は震えた。

「そう・・・。一族最強の免疫力の持ち主にして最高の抗体の持ち主のわき腹を貫いた槍・・・。
あまりに有名すぎて、名前を出すのも気が引けるあの聖遺物・・・。」

「聖槍か!!」と、人間で無い者、「それ」、ヴァンパイヤは、叫んだ。


126アンの青春その17 :2006/11/18(土) 04:07:10 ID:???
○激突

闇を劈く咆哮と同時にそれは地上に降り立った。

『ライカン型じゃなくてVIPね。ヴァンパイヤ型!!』とスージーは言った。
『どこでそういう言葉覚えるわけ?』とアン。
『ソード!!』と言ってスージーはアンジェラに向かって手を伸ばす。
『ソードじゃなくて、スピアー!! またふざけて!!』と言いながらアンジェラはスージーに聖槍を渡した。

「ゲヒヒ、いいねえ、いいねえ。それあのアニメだろ?」と「それ」は笑った。
「オマエハモウシンデイルー」と叫びながらスージーは突進する。
「キヒヒ、じゃあ俺もね。チョサイコー。」
「ハラワタブチマケロー」

アニメの名セリフを言い合いながら二人は凄まじいスピードで攻撃を繰り出しあったが、見た目、
じゃれあっているようにも見えた。

『ちょっと、ちょっと、二人とも!! 真剣に!!』とアンジェラが叫んだ。
組み合っている二人は動きを止めて、アンジェラの方を振り向いた。

「・・・・・・・・」

いったん止まった動きが再び激しい動きに転じた。「それ」は速さも凄まじいが、パワーも尋常じゃ無かった。
ものすごい破壊力で廃屋の資材を破壊した。それをかわしながらスージーは一定の間合いを取っていた。
身体能力を極限まで引き出してはいても、所詮は普通の人間とそう変わりの無いスージーが一撃でも
攻撃を食らえば一巻の終わりだった。


127アンの青春その18 :2006/11/18(土) 04:07:47 ID:???
『アン!!』

スージーの叫びに応じて、慌ててアンジェラは銃を構える。アンジェラは二人の動きについていけず
焦っていた。
(子供の時から訓練した通り、した通りに!!)
アンジェラは震えながらヴァンパイヤの下半身に機銃を浴びせて援護射撃をした。
足を、関節部を破壊して機動力を奪う事が肝心だった。

「邪魔くさい。遊びの邪魔をするな!!」と叫んでヴァンパイヤはアンジェラに向かって突進してきた。
『ヒ・・・』
アンジェラは震えてその場にへたり込んでしまった。

『その子に手を出すな!』

そう叫ぶとスージーは廃棄された鉄柱を左手で引き抜いて、ヴァンパイヤの側頭部に叩きつけた。
スージーの細い左手はその身体能力を超えた力に耐え切れず、不自然な方向に痛々しく
ひん曲がったが、スージーは全く表情を変えずに跳躍した。

ヴァンパイヤはスージーの方を向き咆哮した。両者の影が交差した。スージーの右手にあった聖槍が
真っ直ぐヴァンパイヤの心臓を貫いている。


128アンの青春その19 :2006/11/18(土) 04:09:04 ID:???
○スザンナ・ホプキンス

ヴァンパイヤが驚いた表情で自分の胸に突き刺さった槍を見つめている。怒りの形相でスージーを
睨みつけ、その巨大な手をスージーに振り下ろそうとした。

『スー!!』 アンは叫んだ。

だがしかしヴァンパイヤは振り下ろそうとした手を止め、ゆっくりと下ろした。
「ちくしょう。もう少し生きられると思ったんだがなあ・・・。」
スージーは黙ってヴァンパイヤを見つめている。
「なあ、お約束のアレやっていいか?」とヴァンパイヤは聞いた。
スージーは黙って頷く。
「ワガジンセイニイッペンノクイナシ!!」
そう言いながらヴァンパイヤは静かに力なく倒れた。
ヴァンパイヤはヒューヒューと気管から空気のもれた音を立てていたが、段々その呼吸も静かになり、
やがてその音は止まった・・・。
スージーはその様子を静かに見つめていたが、ヴァンパイヤの呼吸が止まった時、その瞳から一筋の
涙を流した。

アンはその涙を・・・この光景をどこかで見た気がした。そう・・・アンが幼い頃、曾祖母の臨終の時だった。
「誓約者」は「免疫者」から血の契約で体質の一部を引継ぐので長命だし病気とは無縁である。
しかし老衰は避ける事はできない。曾祖母は最後まで懸命に生きようとしていた。

「誓約者」であった曾祖母はベットから力なく手を伸ばして、スーの手を取った。
曾祖母は穏やかな表情でスーに微笑みかけた。その目はスーに過酷な生の義務から先に解放される
事への許しと慰めを求めているようでもあった。スーは黙って曾祖母の顔を見つめていた
アンは幼かったが、二人の間に容易に入っていけない絆を感じた。曾祖母の握り握りしめる力が弱まり、
私たちを取り巻く偉大な神秘に曾祖母の肉体が失われようとしている時、スーはその湖のような
蒼い澄み切った目から静かに一滴の涙を流した。

アンはその光景を美しいと思った。


129アンの青春その20 :2006/11/18(土) 04:10:45 ID:???
『・・・ン、アン!!』

ぼんやりしているアンジェラは驚いて我に返った。
『ごっごめんなさい。・・・終わったのね・・・。とうとう・・・。』
『うん・・・。たぶん・・・。』
そう言って、スージーは聖槍を引き抜いた。処理班が到着し、周囲の証拠隠蔽や回収活動を始めた。
それと同時に感覚が麻痺して気付かなかった周囲の血生臭い匂いにアンは気付いて嘔吐した。
『大丈夫?』とスージーは尋ねた?

『ええ、大丈夫。処理班の仕事増やしちゃったわね。それより貴方ひどい怪我。急いで治療を!!』
とアンはスージーを抱きあげて輸送車に向かった。

(終わった。終わったのね。これで普通の生活に戻れるのね。)
非日常から日常に戻ろうとした時、アンの脳裏に浮かぶのは何故か一人の顔だった。


130アンの青春その21 :2006/11/18(土) 04:11:43 ID:???
○使命からの開放

バスルームで頭から暖かいシャワーを浴びて、ようやくアンジェラは緊張感がほぐれ安堵した。
暖かいお湯がアンジェラの頭から流れ落ち、体の線にそって流れ落ちる。耳元でシャワーの音だけが響く。
その単調な音が心地よい。冷え切っていた体がゆっくりと温まり、次第に肌は赤みを増しほてってくる。
心がほぐれてきて気持ちが楽になる。

アンジェラは壁に頭をもたれかけながら、シャワーが体や心にまとわりついていたよどみを流し去るのに
任せた。

『・・・・・・・・・』
使命からの開放感と安堵の感情の後に襲ってくるのは空虚な感情。曾祖母の事、スージーとの日々、
日本での事、使命の終結。そして・・・。

(私はこれからどうすればいい?)

アンジェラはシャワーのお湯を止めて、バスルームから出た。ガウンを羽織ってベットルームにいくと
そこにはスージーが痛々しげな包帯を左手に巻いて寝ていた。類まれな治癒力を持つとはいえ、
身体能力の極限まで酷使した後の今の状態は全くの無防備な状況なのだ。
アンはすやすや眠っているスージーのそばに座って、そっと優しくその顔をなでた。

(私の永遠の友、母、姉、妹、そして娘。あなたをきっと守る・・・。)

その時、スージーはぱちりと目を覚ました。
『あら、ごめんなさい。起こしちゃった?』
『ずいぶん寝た・・・。』とおっとりした表情でスージーが言う。
『そりゃそうよ。あれから四時間眠り続けたんですから。後処理の指揮は私が取ったわ。』


131アンの青春その22 :2006/11/18(土) 04:12:31 ID:???
スージーはモゾモゾと自分の上着に右手を伸ばして、自分の携帯を取り出した。
『これ・・・遅くなったけど・・・マダラメの携帯電話の番号。住所も登録されているし
、ナビ情報も転送できるよ。』
『・・・あっありがとう。でも後でいいよ。あなたがこんな状態だし、離れられないよ。』
『残党の襲撃の心配は無いよ。無理しなくていいよ、もう。会いたいんでしょ?』とスージーは淡々と言う。
『今じゃなくてもいいの。それに会ったのは、これでたった三回よ。しかも前に会ったのは数年前だし。』
『もういいの。あなたを血の誓約から開放します。私の「Guardian Angel」』
『・・・スー・・・ありがとう・・・』
アンジェラはむせび泣きながらスージーの手を握りしめた。


132アンの青春その23 :2006/11/18(土) 04:13:26 ID:???
○情熱

アンは部屋を出ると、外で警護している特務SPに指示した。
『くれぐれも気を引き締めて警護に努めるように。』
『お任せください、Guardian 貴方の警護は?』
『私は特務に入ります。GPSは携帯しますし心配ありません。』
『了解しました。お気をつけて。』

早足でその場を立ち去りながら、自分のついたささやかな嘘にアンジェラはどぎまぎした。
自分のこの突飛な行動にどんな意味があるのか。
たった三回会っただけの男が何故これほど気になるのか。
突然の訪問に相手が戸惑うくらい分からないのか。
自分がどれほど馬鹿げた行動を取っているか分かっているのか。
次から次へと自問自答を繰り返しながらも、アンは胸の高鳴りを抑える事が出来なかった。

さっきまでの出来事こそ本当にあった事なのだろうか。あれこそが幻で、今こうしてマダラメに会いに
行こうとしている馬鹿げた自分こそが真実の自分なのではないのか? 確かめたかった。

非日常的な戦闘の興奮が自分を昂ぶらせ、それが衝動のように自分を突き動かしている事は
分かっていた。運命に導かれた人とは違う日常。でもそれは実感の無い空虚な幻。
マダラメとの僅かな会話に私は確かな現実を感じた。アンジェラは知らず知らずの内に早足になり、
ついには駆け出した。

私が選び取った私だけの日常!!

息を切らせながら、アンジェラは斑目のアパートの前にたどり着いた。


133アンの青春その24 :2006/11/18(土) 04:14:16 ID:???
チャイムを押す。部屋の奥から声が聞こえる。
「はあい、どなたあ? こんな遅くに誰〜。ひょっとしてお前か〜? 終電無くなったからとか、
喧嘩して追い出されたから泊めてってのは無しなあ〜」と寝ぼけた間の伸びた声が聞こえてくる。

その声にアンはホッとするような和むようなそんな気持ちになった。
「ア・・アンです。アンジェラです!! こんな夜更けにごめんなさい。」
「!! ・・・・・・・・」
斑目はドアを開けた。二人は向かい合ってお互いを見た。斑目は安手のグレーの首の伸びたトレーナー
の上にドテラを羽織って、間の抜けた顔で口を空けてポカンとしている。
アンはアンで口をパクパクさせて顔を真っ赤にさせてモジモジしている。
奇妙でこっけいな間を二人はどう打開していいかお互い分からずにいた。

最初に状況の打開を図ったのは斑目の方だった。
「アン! 何で俺の家が分かった? いやその前に何で? 」
「あっ、あの・・・話があって。いえ明日でも良かったんだけど。その・・・できれば急いだ方がと思って・・・」
「そっソウデスカ、あっ!! 寒いのに気が付かなくてスイマセン、あっあがりますか? 」
「はい!! 失礼します!!」
そう言いながら二人はギクシャクしながら部屋に入った。

「だーーーー。ちょっと、ちょっと、そこで待ってください。」と斑目は慌てて部屋の奥に戻り、
ドタバタやっている。そして息を切らせながら戻ってきた。

「どっどうぞ。狭くて散らかってますけど。」


134アンの青春その25 :2006/11/18(土) 04:15:48 ID:???
○奔流

アンは斑目の「できるだけ」片付けられた部屋に通され、「一応」場所が空いて座れるようになっている
座布団に座った。周囲は萌え系の雑誌やゲームが山積みになっている。
「一応」気を使ってその手のは目につかない所に隠したようだった。

「うわっ、ちくしょう、これも汚くて使えん! アンジェラ、何も無いけど缶ビールでイイデスカ?」
台所で斑目は慌しくしている。
「いいよ。気を使わなくても。」
とアンが言っても
「そうは言ってもなあ。」と言って、そわそわ落ち着かず中々席につこうとしない。
「ええと、何か食べるものはと・・・。そっそれで用事っていうのは? 」
と斑目は台所から顔を合わせずに聞いた。

「ええと、そのう・・・」
勢いで来たものの、いざとなると何を話していいかも分からない。
「実は・・・スーが、いやそうじゃなく、昼の礼を言いたいと思って。」

「え? お礼って? 俺、何かしたっけ? 」と驚いて斑目は部屋につい顔を出してしまう。
「あっ、だからスーの研究室に案内してもらって、とても助かったから・・・。」
「なんだ、そんな程度だったら次にでも会った時でも良かったのに。」と斑目は苦笑した。
「次は! 次は無いかもしれないの! だから!」とアンジェラは叫んだ。
その様子に斑目は驚いた。
(何言ってるんだろう、私・・・。完全に自爆だ・・・)

「ん〜〜〜/////////」
しかしこの期に及んでも斑目はアンの気持ちに気付かなかった。
「そうだなあ・・・。(俺みたいに)言うべきときに言えず仕舞いという事もけっこうあるからねえ・・・。
それって確かに後々から後悔の念になったりするんだよなあ・・・ハハッ。」
そう言いながら斑目は腰を下ろし、缶ビールをアンジェラに手渡した。


135アンの青春その26 :2006/11/18(土) 04:17:17 ID:???
「そう・・・だから! こんなに急で非常識なのは分かっているけど、どうしても伝えたかったのよ!」
「(そんな礼くらい)言わなくても気持ちは分かってるよ。」
「! そうよね! こんな真似をしたらいくらなんでも分かるわよね! 迷惑じゃない? こんな一方的な・・・。
変よね、絶対・・・。」
アンジェラは顔を赤らめてうつむいた。
「びっくりしたけど、迷惑だなんて! (気を使ってくれたのは)嬉しいよ。」
「そう! 私も嬉しい!!」
そう言ってアンジェラは目を輝かせて、斑目の顔をジーと見つめながら近づいた。
「? アン ?」
「私ってどう見える? 胸が大きいと馬鹿っぽいとか思ったりしない?」
「(俺は美乳属性だが)そんな事思う人いないと思うよ。」
「そう? そう言ってくれる人いなかったの! 口先ではそう言っても・・・。」
「アン? ちょっと近づきスギじゃあ・・・。アン?」
いつの間にかアンはすでに斑目ににじり寄って体を寄せている。
「わっ私って魅力無いのかな? 」
「いやいや(変ですけど)アンほどの美人はそういないと思うよ、ホント、ウン。」
「私、そう言われても何故か自信なくて・・・。」
そう言ってアンはうなだれた。その拍子にアンの胸が斑目の股間に当たってしまった。


136アンの青春その27 :2006/11/18(土) 04:17:52 ID:???
「!!」
斑目の股間はすでに怒張していた。
「あ! いやその! ごめんなさい! これは生理現象で! 悲しい男のサガでして!」
と慌てて斑目は言い訳した。
アンジェラの頬は紅く染まり、ぱあっと表情は明るく輝いた。
「嬉しい!」 そう言ってアンジェラは斑目に飛びついて押し倒した。
「なぬ?」
アンジェラは激しく唇を合わせてきた。その激しさで斑目の唇が切れた。
「痛っ」と斑目は声をあげた。怯えた目でアンジェラの表情を仰ぎ見た。
アンジェラの表情は喜びに溢れ目は潤んでいた。唇には斑目の血がわずかに滴っている。
アンジェラは手を伸ばして、斑目の頬を両手で触った。
「好きだわ、好きだわ。何故こんなに好きなのか、私にも分からない。貴方のこの血のぬくもり、
貴方の肌、貴方のその怯えた目、この細い首、この唇、貴方の何もかもが私の生命の寄り木。
 私自身が勝ち取ったありのままの生命の実感なの!!」
そう言いながら、アンは斑目のジーンズのファスナーに手を伸ばした。
斑目はそれに抗おうとはしなかった。何故なら斑目にも分かるほどアンの激しい鼓動を感じたからだった。
結局、斑目はその激しい抗いがたい情熱に圧倒された。

「わっ私がこんな事を普段からする女だとは思わないでね・・・。貴方が私をおかしくしたんだから・・・。」
アンジェラは真っ赤な顔で、そして震える手でジーンズのファスナーを下ろした・・・。


137アンの青春その28 :2006/11/18(土) 04:19:36 ID:???
○秋葉原専用

つまりはそういうことだ、と斑目は思った。アンが迫ったからではない。とどのつまり、言い訳無しに、
斑目自身がそうしたいと思ったから、抵抗し難い熱情を受け入れたのだった。その結果が自分の
目の前にいるこの女性なのだ。

秋葉原のMacのテーブルの前で、にこやかな表情で口を尖らせてシェイクのストローをくわえている
アンジェラを、斑目は不機嫌そうな表情で肩肘つきながらジーと眺めていた。

「?」
そんな斑目をあどけない表情で不思議そうにアンジェラも見つめている。
「なあ・・・聞きたいんだけど・・・。」
「なあに?」とアンジェラは首をかしげて聞く。
「いつから・・・その俺の事・・・。初めて会った時?」
「いいえ。」
「じゃあ、二度目?」
「それも全然。かすりもしなかったわ。」とケラケラとアンジェラは笑う。
「じゃっ、じゃあ、何か? 今回の来日で会ったら急にってか?」


138アンの青春その29 :2006/11/18(土) 04:20:36 ID:???
「んー。そうみたい。何でかな?」とアンジェラは目を細め、首をかしげて腕組みして考え込んだ。
「自分の事なのに考え込むなよ! ありえねー、ほんとありえねー。」
「まあ、いいじゃない。それに・・・あなた前に会った時と雰囲気確かに変わってたもの・・・。」
「俺が? 大学出て平凡な毎日を変わりなく過ごしてきただけの俺が? それこそありえねー。」
斑目はからかってるんだと思ってふてくされた表情を見せて、そっぽを向いた。
「あはは、でも冗談言ってるんじゃないの。何というか・・・心に何か心残りを残している人の憂い
というか・・・長い年月を経て心の澱を深く沈めている・・・そんな感じがジンときたっていうか・・・
あはは、そんなキャラじゃないのにね!! ホント、不思議ねえ。」

「そっそれこそ、馬鹿言えって話だよなあ、はははは。」
そう言って笑いながら、斑目は内心で激しく動揺したのを悟られないようにした。自分でも気づいて
いなかった事を他人に悟られた事が何か悔しかった。
(俺が心残りを?ああ、そうか、そうだ。そのとおりだよ。)

斑目はスクッと立ち上がり言った。
「もう出よう。」
「え?もう?」とあわててアンジェラも立ち上がって斑目を追いかける。

斑目の服装は、あの「秋葉原専用」だった。メガネも就職活動時期に一時使ったメガネに変えていた。
街角の鏡に映った姿が見えると、余計「心残り」を意識して口惜しかった。そしてあれから何年経っても、
その服を後生大事に持っていて、他の女性とのデートに着ていく自分がなお一層みじめったらしく見えた。


139アンの青春その30 :2006/11/18(土) 04:22:58 ID:???
「ねえねえ、これアメリカのネットで見たんだけど、アキバの新名物のオデンなんでしょ?」
とアンジェラははしゃいで自販機を指差す。そんなアンジェラを行き交う人々はじろじろ見る。
外国人はそれほど目立つわけではないが、アンジェラは人目を引くのだ。

「一緒に食べてみましょ! ね!」
「ん・・・」

「おいしいね!」とアンはニコニコしながら言う。

あれから三ヶ月経った・・・。周囲の反応は様々だった。驚く者、祝福する者、意外そうな顔をする者
様々だった。「あの人」の「へえ、おめでとう」という表情と言葉に卑屈な笑いでごまかした自分に嫌悪した。

「これからどうしようか・・・。他にも色々見にいってみたい。」

「アメリカにも連れてってみたいな。今の仕事に未練が無いなら、あっちでの生活は心配しなくてもいいよ。」

「さっきの話の続きだけどね・・・『色々』あって心がぽっかり穴が開いたみたいだったの・・・。
そんな時、自分の欲するものを知るのね。要するに『貴方が欲しかった』のね。」
嬉しそうに喋り続けながら、アンジェラはあどけない表情で舌を出した。


140アンの青春その31 :2006/11/18(土) 04:23:34 ID:???
アンジェラのその明るく朗らかな、そして幸せそうな表情を見つめながら斑目は思った。アン・・・、
俺の生活や仕事は単調でつまらないものだけど、それでも俺が築いてきたものなんだよ・・・。
アン・・・君は素敵だなあ、自分に正直だ。明るいし、活発だし、知的だし、そしてとてもきれいだ。
そうだ、君が気付いたように俺も気付いてしまった。君は悪くない、悪くないんだ。
もう少しゆっくりと時間をかければきっと違ってたんだよ。
あれ? 俺、今アンの事、「悪く」ないって言ったか? あれ? 俺・・・。

「あれ? あれ?」
斑目はハラハラと涙が流れて止まらなかった。とめどなく涙が流れて止める事ができなかった。
「アン・・・すまない、すまない・・・。」

「ねえ、どうして泣いてるの? 私何か悪い事言った? 何故謝るの? ねえ、どうして?」


それからまもなく斑目は知り合いにも職場にも誰にも告げずに失踪した。


141アンの青春その32 :2006/11/18(土) 04:24:36 ID:???
○アンの青春

斑目の失踪は周囲に衝撃的に受け取られた。意外という反応、信じられないという反応、心配する者
無責任ぶりを責める者、怒りをあらわにする者、様々な感情を周囲に引き起こした。

アンジェラとスージーは帰国の途についていた。飛行機の窓際に座るアンジェラはその窓からまだ
微かに見える日本の陸地の遠景を見つめていた。アンジェラの隣ではスージーがいつものように
無表情でライトノベルを読みふけっている。

『ええ、彼は悪くない。そう・・・私がいけなかったのね。』
『・・・・・・・・・・・』
スージーは聞こえていないかのようにライトノベルから目を離さない。
『だって、ねえ、しょうがないじゃない。あんなに人を好きになった事なんか無かったんですもの。
どういう風に愛したらいいか、分からなかったんだもの。ああ、ごめんなさい。
時々貴方が私の保護者だって事を忘れてしまって甘えてしまうのね。』
アンジェラは窓から視線を外さずに肩を震わせた。スージーは何も言わない。
アンジェラにはそれがとてもありがたかった。何も言わず話を聞いていて欲しい時には不要な事は
何も言わない。そのいたわりがアンにはとても嬉しかった。


142アンの青春その33 :2006/11/18(土) 04:25:25 ID:???
『ああ、でも私と彼の絆はまだ途切れたわけじゃないの。いつか必ず会える。そんな気がする。』
そう言ってアンはそっと手をお腹にあてがい、再び窓に目を向けた。
アンは静かに昔どこかで読んだ詩を口ずさんだ。

・・・誰も知らない深遠なる秘密
起源の中の起源
未来の中の未来

大地に育ちゆく人生という木
魂の飛翔 理性の畏れより早く枝を延ばす
空に星がきらめく神秘のように
あなたの心と共に
私の心を重ねて
誰も知らない深慮なる秘密・・・

日本はもう見えない。日本での出来事がまるで幻であったかのように覆い隠す雲の海だけが見えた。
アンはその光の海原に目が眩んだ。それでもその光の果てを見つめずにはいられなかった。
何時までも何時までもアンジェラは見つめ続けた・・・。


143アンの青春その34 :2006/11/18(土) 04:26:38 ID:???
■セカンドジェネレーション■

「ゴハンマダー? チンチン」

「あのねえ、スー先生。ここで昼食ありつこうとするの止めてください!!」と用務員室の給湯室でレトルトカレーを温めている斑目は叫んだ。

休憩室の座敷でゴロゴロしているスージーはテレビを見ながら言った。
「ワタシニホンゴワカリマセーン」

「(くっ、この女・・・都合が悪くなると日本語分からないふりして〜) さあ、出来ましたよ!」
そう言って斑目はカレーを休憩室のテーブルに二つ運んだ。
「それ食ったらさっさと仕事に戻ってくださいね!!」

「マダラメ、レトルト作るのはうまいよね。ではいただきまーす。」とスー。
「レトルトなんざ、誰が作っても同じだ!」と斑目はプリプリ怒る。
「ところでアンとアレック、冬コミにまた来るって・・・」とスー。
「ブッ!! そっそう・・・。」と斑目は激しく動揺した。

「さて・・・ご馳走様!」 カレーを食べ終わるとスージーはスクッと立ち上がった。
そして斑目の耳元に顔を寄せて囁いた。
『あの子をまた悲しませたら・・・次は無いからね。』
「はひっ?」
言葉の意味は分からなかったが、斑目は背筋に殺気のような悪寒を感じた気がした。

そうしてスージーはケタケタ笑いながら、アニソンを口ずさみながらスキップしながら部屋を出て行った。
唖然とする斑目を残して。

未来に続く(かもしれない)


144アンの青春 :2006/11/18(土) 04:30:48 ID:???
終了です。細かく分割しても34レスとはこれでも長いつもりでしたが
すごいですねえ、皆さん。力尽きたので失礼します。少しだけ寝よう・・

145第六回くじびき以下略 :2006/11/18(土) 07:05:08 ID:???
>>アンの青春
うは、長編乙です!
後でゆっくり読もう・・・今は集中力がない・・・。

というわけですでに7話が放送されてしまいましたが第六回いきます!

146第六回くじびき以下略 :2006/11/18(土) 07:07:01 ID:???
マ「え〜、第六回くじびきはーとアンバランス、略してやっぱりくじアンよかった本会議〜。」
ク「L・O・V・E!ラブ・・・。」
マ「は〜い、その辺にしておくんだ〜。」
梟「早いもんだな、もう折り返しか。」
K「あ、あっという間だったな。」
ベ「いやぁ、やっぱり1クールは短いですね・・・。」
ト「今回もそうですけど、ちょっと詰めすぎてるのはその辺の関係でしょうか。」
マ「まぁ、製作側としては必要な分を必要な回数で終わらせる必要あるからな、
  しょうがないといえばそうなんだが。」
梟「勿体無いとは思うな。まぁ、話自体はそんな深い話ではないから、
  問題ないといえばそうなんだが。」
ト「細かいところまで見ても面白いですけど、動きだけ見ても十分楽しめますからね。」
ベ「ストーリーはベタといえばベタですが・・・。」
マ「今回の宇宙人はわらかしてくれたわい。」
K「め、メインは小雪・・・ち、超能力凄かったね。」
梟「戦闘描写としても秀逸だったな。ビームの処理とか、小雪のバリアとか。」
ベ「最強は小雪、という設定が垣間見れましたね。」
マ「どーなんだろうな、副会長と実際どっちがつえーのかな?」
ク「小雪に決まっていますDEATHぞ!あんな刀女一瞬でですな・・・。」
ベ「うーん、どうだろ、実際小雪が全力出せるのって、
  千尋が絡んだ時だけじゃないのかな、現時点では。」
梟「なるほど、千尋が副会長に狙われたら小雪が勝つかもしれないが、
  サシの勝負なら副会長か。」
K「あと、不意打ちしたら副会長かも・・・。」
ト「そこはどうでしょうね?バケツが飛んできた時も無意識に反応してるようですし。」
マ「むぅ、不意打ちには勝手に力が反応する可能性があるか。」
梟「まぁ、実際やってみないとわからんだろうな。」

147第六回くじびき以下略 :2006/11/18(土) 07:07:58 ID:???
ベ「あと今回は時乃の運の良さ、蓮子の傍若無人さが良く出てましたね。」
マ「ああ、競馬。あれ、へるなんですだよな・・・。
  ただの親父になっちまいやがって・・・・。」
梟「しかし、サービスカット多かったな。山田だが。」
K「な、なんか、本気でロボットな気がしてきた・・・。」
ト「あそこまで気にせず脱いでいくと、なんかおかしく思いますよね。」
ベ「それだけ蓮子の言葉は絶対なんでしょうか。」
マ「スルーしようにも・・・突込みどころが多すぎてな・・・。」
梟「完璧狙ってるだろ、その辺。製作者サイドに釣られてるぞ。」
マ「くそう、釣られてやる!」
ベ「まぁ、まぁ。・・・そういえば、麦男が出張りましたね。今回。」
K「て、てっきり、あ、あまり出てこないもんだと思ってたけどな。」
梟「今話のキャラと今後深いかかわりが出てくるのかもな。」
マ「ってーと、小雪か小牧?」
ク「小雪は麦男などには渡しませんぞ!!GO TO HELL!!」
ベ「・・・えー、と。たぶん、小牧のほうですかね?」
ト「その可能性の方が大きいかもね。」
梟「まぁ、最後の麦男の反応見る限りそうなのかもな。」
K「ま、まぁ、メインの三人はなさそうだよね。」
マ「まぁ、くっつけるなら脇だよな。」
ベ「忍先生と鏑木先生みたいな感じですか。」
ト「あの二人、どうなるんだろうね。」
梟「今回にいたっては声すら出てこなかったからな。忍先生。」
マ「今後フォローされることを祈る!」

148第六回くじびき以下略 :2006/11/18(土) 07:09:13 ID:???
ベ「で、先ほど話題に出てきた小牧ですが・・・。」
マ「まさか16歳設定とはな〜、少なくとも20台だと思ってたぜ。」
梟「急に声変わるんだもんな。声優さん器用だよ。」
K「あ、で、でも、小牧役の倉田雅世さん、
  あ、あの落ち着いた声出すの苦労したみたいだよ。」
マ「くじアンラジオで言ってたな〜。俺も聞いたよ。」
ベ「段々面白さが上昇してません?あのラジオ。」
梟「昨日更新でのミキサー三連発は神がかってたな。」
ト「色々裏情報も聞けて楽しいですよね。」
マ「んで〜、次回だが。」
K「い、いずみ回なのかな?で、でも、情報じゃ副会長回って・・・。」
梟「原作者脚本の、だろ?どうなんだろうなその辺。」
ベ「あらすじでは、そろそろ物語が動き出しそうな感じですね。」
マ「スパイ、とかいままでの指令に比べてシリアスだな。」
ト「バトルが増えそうな予感がしますね〜。」
梟「副会長、リサあたりの活躍が見れそうだな。」
ベ「会長もですね!」
K「り、リサはどうだろうね・・・。」
ト「あの電卓さばきで敵を打つんじゃないですか?」
マ・梟・K・ベ「それはない。」
ト「いやぁ。」
マ「・・・んで、クッチーは小雪の話題以外は無反応だね。」
ク「ほへ!?何を言ってありますか、そんなことないでありますぞ!」
マ「・・・ま、いいか。んじゃ、また次回な!」

149第六回くじびき以下略 :2006/11/18(土) 07:10:30 ID:???
あと20時間ぐらいで7話見れます。早くたたないかなぁ。

150マロン名無しさん :2006/11/18(土) 22:50:59 ID:???
>アンの青春
うぐあああ…orz 斑目……。
「憂鬱」のSSの補完ですな。こっちのアンは赤くなったり動揺したりして可愛らしいです。
しっかし、例のシーンは急に情熱的だなあ…
…はっ。誘い受けオーラ!!??それで自らを抑え切れなかったのか!?orz

続編期待してまつ。是非メガネ男に幸せを…!!

>くじアン会議
いつもお疲れ様です。クッチーはやっぱいじりがいがあっていいですね。
トシゾーの天然(なのか狙ってるのか)なボケも良かったです。

15126人いる! 夏コミ前夜祭の人 :2006/11/19(日) 02:23:43 ID:???
いろいろと感想ありがとうござました。
>>96
確かに>>97の人の言う通り、俺同様オタクの冥府魔道を歩んでますな。
>>98
>にぎやかなクリエイター集団
日垣と国松にコスプレ班の担当割り振ったら、自然にこうなりました。
この後の予定では、まだまだこの2人活躍させる予定です。
>>99
コピペで書き込みながらも推敲して一部直したり、途中でメシ食ったり、何故か途中繋がらなかったりで、結局5時間近くかかってしまいました。
>>100
新1年生は全員他の漫画のキャラをモデルにしたパロキャラなので、書き出したら割と自然に動いてくれました。
(詳しくは前作「17人いる!」の前書きのキャラ一覧表参照)
ローゼンネタは最初「秋葉原ノ自称おたくノ皆サン」とやろうとしたのですが、よく考えるとあの演説夏コミより後だったので、前述のようになりました。
>>101
加藤さんの持ち歌は最初中島みゆきの「恨みます」で行こうとしたのですが、加藤さんのさそりルックって絶対怖いと思ったので「怨み節」を採用しました。
正解でしたね。
俺の年齢?
あっ危ない!>>101さんの後ろに大野さんが!
>>103
俺も見たいです、斑目絶望先生。
誰か描いて〜〜〜!
>>106
3ヶ月近くかかってますから、自在というほどじゃないです。
夏コミ自体未経験なので散々あちこち検索しましたし。

15226人いる! 夏コミ前夜祭の人 :2006/11/19(日) 02:54:58 ID:???
他の方の作品の感想も少々。
>アンの青春
こっ、これは、ちょっと待って下さい…

いやあこちらはこちらで、また別のげんしけんワールドが広がってますな。
スーとヴァンパイアのオタク対決がツボにはまりました。
生死のかかった戦いの場での死をも恐れぬ余裕、見習いたいものです。
それにしてもこちらでは、スーの年齢不詳外見に一応合理的(そうか?)な説明が付いたのも興味深い。
そしてアンジェラ…
これはシンクロニシティーなのか、はたまた人間考えることは同じなのか、ネタかぶりの言い訳っぽいですが、俺の話でも今後アンジェラが…
いや、この話ほど積極的ではないですけど。

>第六回くじびき
小雪VS副会長ですか、こりゃまたえらくオタっぽい話題ですな。
(いやオタクなんですが)
何か小学生の「メビウスとマックスどっちが強い」論争みたいな、何かそういう感じの微笑ましさを感じます。

これ読んでて思ったのは、新作の「くじアン」ってキャラ改変というより、手塚漫画のスターシステムというか、テレビドラマでいうスピンオフみたいな感じがします。
つまりアニメのキャラを実在の役者みたいに考えて、また別の物語世界に出演させたみたいな、そんなニュアンスを感じます。
(まあ一部、外見まで変え過ぎの人もいますが)

(注釈)
スターシステム
漫画のキャラを俳優、漫画を映画と考えて、同じキャラを別の漫画で別の役で使い回すこと。

スピンオフ
テレビドラマの新番組に、前番組の出演者の1人(脇役のレギュラー)を引き続き出演させること。
前番組の雰囲気を1つ残すことで、後番組に前番組の視聴者を引っ張り込むのが目的。
事務所の力でキャストが決まってしまい、同じ様な役者さんが何回も出てくる現在では意味が無いが、70年代ぐらいまでは有効な方法だった。

153アンの青春 :2006/11/20(月) 00:08:07 ID:???
>第六回くじびき以下略
改めてですが、複数の人がそれぞれの視点で議論するのって、けっこう
難しいと思うのによく描かれていると思います。くじあん観れる環境じゃ
ないですが、ストーリーの無いハチャメチャ楽しいのもストーリー重視の
やつと対極で好きですねw 観れるようになったら、また読み返しみたい
ですね。

>150
いやー、続編はけっこう当てになりません。切ねえままにはさせとけない
ので、おそらくは書くとは思いますが遅筆なもので (^^;
つくづく連載はムカネ。 ああ、一箇所誤変換あったし・・・。orz

>152
ネタかぶりおKです! というか、たくさん私もしてますし。


154マロン名無しさん :2006/11/20(月) 22:29:04 ID:???
どうしたんですかこの流れは長編祭ですか。
(ふと過去の自作を振り返る)……ナクモンカ!
てゆーか長さじゃなく投下できる奴を書け>俺orz

>アンの青春
素晴らしい。
セカンドジェネレーションの過去話と来ましたか。おそらく今後語られることはないかもしれないアンスーの裏設定も魅力的です。
「ちょっとした超常現象はままある世界観」という舞台であればこれまでの作品とも違和感なくつながりますし、むしろ納得されやすくなったと言えましょう。
超常オタバトルwも面白かったんですがやはりアン斑の心の交流ですね。
斑目は何回も会ってるうちに良さの見えてくるタイプの人間で、アンも三回目に会ってそこに踏み込めたんだろうと思います。

ただ彼は……ほんのちょっとだけ頑固でしたねえ。

斑目の取りえた最大限強気の選択がソレだったのは読み手というより、「たとえば俺の友人であったなら」というスタンスで心が痛い。
が、一方彼だからこその行動とも言え、それが彼を必ずしも哀れに感じさせない読後感をもたらしたとも言えます。「セカンドジェネレーション現在」のエピローグも巧い組み立てですな。
いいお話でした。ごちそうさま。

ちなみにこの後は『オタクはつらいよ』シリーズに続く気がする寒い夜。

155マロン名無しさん :2006/11/22(水) 01:42:42 ID:???
ほしゅ柿

156マロン名無しさん :2006/11/22(水) 17:49:39 ID:???
参戦してぇが馬車馬のように仕事が……待ってろよSSスレ!

157マロン名無しさん :2006/11/22(水) 22:22:14 ID:???
参戦する気はあるけど咲斑ばっかり書いてて投下できない俺が通りますよ。
久しぶりに笹荻書き始めた。今度は書きあがるかな〜。

158マロン名無しさん :2006/11/23(木) 02:41:46 ID:???
>>157
咲斑!?投下できないような!?
wktkしてていいデスカ

159マロン名無しさん :2006/11/23(木) 22:12:38 ID:7ETunQFs
長編は20レス以下に分けて数日 間を空けて投下してほしい。
なかなかいっぺんに読めないもんで。
個人的なお願いなので無理だったらいいですけど・・・。

160マロン名無しさん :2006/11/24(金) 01:17:18 ID:???
>>159
次からなるべくそうしようと思います。
何しろ今書いてる長編、ざっと今できた準備稿の時点で47レスぐらいありますので。
前に投下した話の続きなんですが、前の話も44レスぐらいあって、1度に投下したら何やかんやで5時間近くかかりました。
1度に投下したら、今度のは何時間かかることやら…
むしろ投下する側としても助かります、そのお願い。

161マロン名無しさん :2006/11/24(金) 03:05:05 ID:???
あなったとはぁ〜とばらんすぅ〜
くっじびっきあんば〜らんす!

とか旧版のOP歌いながら私が通りますです。
というわけで木尾士目脚本の第7話。
本当に浮いてました。びっくりしました。
そういうわけで、面白かった会議第7回、開催します〜。
4レス(増えた!)で投下します。

162第七回くじびき以下略 :2006/11/24(金) 03:06:48 ID:???
マ「え〜、第七回くじびきはーとアンバランス、略してやっぱりくじアンよかった本会議〜。
  ・・・原作者はとんでもないことをしてくれました・・・。それは七話の脚本です。」
ベ「・・・カリオストロ?つか、マムシさんあの脚本嫌いっすか?」
マ「なんつーの?なんか萌え萌えしてればよかった今までのなんかノリ違うじゃん。」
K「で、でも、あの話はいいアクセントになると思うけどね・・・。」
ト「この後もあのノリで続くとは思えませんし、実際しないでしょうしね。」
梟「なんだ、黒ゆかな最高!って回だな。」
K「ち、ちげーだろ、ぜ、ぜんざい食ってるいずみ萌えーだろ。」
べ「いやいや、ハミ乳忍者小牧ねーさん万歳!じゃないんすか?」
マ「さすが巨乳好き!」
ベ「いやはは。」
マ「ま、なんつーか脇役大紹介みたいな回だったのは確かだな。」
梟「4話で幼馴染3人で、5、6話で他のメイン2人、今回で他、か。」
ト「紹介に回を消費してますね。」
K「で、でもよ、こ、今回は物語が進んだような気はするぞ。」
ベ「ええ?でも、本線は幼馴染の三角関係でしょう?」
K「あ、あ、そうか。こ、これ進んだように見えるのは話が重いせいかな?」
マ「そうなんだよなー、重いから、話が進んだように見えるけど、
  実際メインの話は何一つ進んじゃいねえのな。」
梟「まぁ、原作者に脚本書かせてる時点でこの回はあまり重視しなくていいのでは?」
マ「それはどうかな?小牧、いずみの存在は今後の重要なファクターだぞ。」
K「た、確かに、いずみっていう『力』を時乃が得た、っていうのは大きいかもね。」
ベ「本人は理解してなさそうですけどねー。」
ト「それが時乃のいいところでしょ。」
ベ「そうなんだけどねー。」

163第七回くじびき以下略 :2006/11/24(金) 03:08:35 ID:???
マ「さて、物語を整理すると・・・。」
ベ「ぶっちゃけちゃえば、今回の話は副会長の手のひらの中だったと。」
梟「いやぁ、歪んでる歪んでる。すごいぞ、今回の会長の設定。
  小説版読んだか?」
ト「そういえば昨日発売でしたっけ。」
梟「おう。あの美しく気高い律子の心を、丸裸にして、屈服させ、
  自分だけに依存させたいという偏執的な愛、だそうですよ、マムシのだんな。」
マ『それは本当かい、梟どん。いやぁ、最強の変態と言われているだけのことはある。」
K「げ、原作者が設定資料で言ってたんだよな。」
ベ「変なところで急に笑い出したり人とどこかズレてますよね。」
ト「つまりは一番大切なのは会長であり、かつ自分が一番会長の期待を背負いたい。
  なのに優秀でない次期生徒会が何かと目をかけられている。
  けっこう不満が募ってるってことですかね?内心。」
マ「だろうなぁ。しかし、少し見直したっていうか興味でもわいたんじゃねえの?」
梟「というと?」
マ「時乃の思い切った言動とか自分には無い思考回路とかに、
  初めて珍しい動物を見るような感覚でも沸いたんじゃねえかと思う。」
K「な、なるほど。会長に害をなさない限りは少し放って置こう、と。」
ベ「そう考えてもやっぱ常人の思考回路じゃないんですね。」
ト「なんか、完全に見下している感はあるよねぇ。」
マ「後から小雪たんが一発見舞ってやりゃあええんじゃい。」
ク「L・・・。」
梟「そうは言うがな大佐。ん・・・?クッチー何か言おうとした?」
ク「いえ・・・。」
梟「そう?で、副会長もな、色々な責務をこなしてきた責任というものもあるだろうしな。」
K「ぜ、全部が甘い生徒会じゃ、ち、千尋たちの成長も望めないと思うぞ?」
ベ「そういう意味じゃ副会長は次期生徒会のいい壁になっている、と。」
ト「そういうのが無いと、物語的に面白くないしね。」
マ「乗り越えるべき壁か。そういう意味では今回がそれに焦点を当てているだけに、
  多少重い話になってもしょうがないというわけか。」
梟「『えらいひとのはなしをきく』。まさに副会長のことだな。
  確かにこの話は副会長回といっても過言ではない。」

164第七回くじびき以下略 :2006/11/24(金) 03:09:43 ID:???
K「ま、まてよ。この話はいずみ回でもあるぞ・・・。」
マ「そうだなぁ、序盤は完全にいずみだったな。」
ベ「スパイばかりしていた少女が始めて触れる人の温かみですか。」
ト「良くあるネタだけど、その相手を時乃にしているから、説得力が増すよね。」
マ「時乃は心底ええコじゃの。おじちゃんむず痒くなっちゃうよ。」
ベ「前作でもあった時乃←いずみが出てきましたねー。」
マ「それはワシも少し予見してはいたがな。小牧→千尋は小雪が受け取っているしな。」
梟「世界が時乃と千尋を中心にまとまり出しているんだよな。」
K「そ、そうそう、こ、これで会長との関係がどうなるか・・・。」
マ「すなわち次回がたのしみ!ということじゃの!」
ベ「で〜、小牧さんですが〜。」
マ「巨乳はんた〜い!ツルペタばんじゃ〜い!」
ベ「少し黙っててください。」
マ「ああん、ベンちゃんつれないのう。」
梟「ああもあっさり正体ばらすとはね。」
K「ち、ちょっと拍子抜け?」
ト「でも、小雪が全く知らないっていうのもそれはそれで納得いきませんしね。」
マ「まぁ、このくらいの脇キャラになっちゃったってことなんだろうなぁ。
  でも、ハミ乳はずるいよな。あれはな。」
梟「曜湖さん、今度あれもやってみたいんでしょ?」
神「いいですね〜。副会長は少しイメージとはなれちゃいましたしねぇ。」
於「・・・そうですか?」
神「・・・どういう意味ですか?」
べ「あ〜、あ〜落ち着いて〜。」
於『・・・。」
神「・・・フン!」
マ「会長も大変ね。ベンジャミン君。」
ベ「・・・返上しましょうか?」
マ「いやぁ、就活忙しいのよねぇ〜。」

165第七回くじびき以下略 :2006/11/24(金) 03:10:58 ID:???
梟「さ、さて話を戻そうか。」
K「と、時乃の甘さをそのまま甘いまま進めようとするのはどうなんだろうな。」
マ「ん〜、そのほうがいいかな。下手にあの性格が真面目っていうか深刻になられてもなぁ。
  時乃の幸運もなくなっちゃいそうじゃね?」
ベ「確かに、幸運を呼び寄せているのは性格もあると思いますね。」
ト「実務的なところはそれこそ語られていたように、皆で乗り越えていくという、
  今の生徒会とは違う方法でやっていこうということなんではないでしょうか。」
梟「敵を味方に、時乃が笑えば世界も笑うか。」
ト「ま、まるで神様だね。」
マ「かみときの!・・・ゴロ悪っ!
  というわけで今までとは色の違った7話じゃったが、概ね楽しめたわい!
  だがこの方向性に二度目はない・・・。っつーこってお願い監督様!」
ベ「ですねぇ、面白い話ですけど、こんなのが何話も続けられると、
  このアニメの根本から外れていくような気がしますよ。」
マ「ところで梟君よ・・・。」
梟「なんだい?」
マ「あいかわらず副会長が好きと。」
梟「ま、まぁ、そうだけど、なんで?」
マ「お前はMケテーイじゃ!」
梟「何言ってんだバカヤロウ!」
マ「冗談じゃ冗談〜。・・・でも曜湖さんって少し・・・。」
神「なんですかぁ〜。」
マ「なんでもないです!・・・クッチー、今回本当に話さなかったね。」
ク「はぃ!?えっと、ええとですな!」
マ「あー、無理して話さんでもいいよ、小雪出番ほとんどなかったもんなぁ。」
ク「最後の茶をすする小雪はかわいかったであります!」
マ「それには同意じゃ!」
K「や、山田もな・・・え、演歌も最高・・・。」
マ「山田は本当一人空気読めてないのう。だがそれがいい。
  そういうわけで今回はここまでじゃい!まったな!」

166第七回くじびき以下略 (後書) :2006/11/24(金) 03:16:22 ID:???
二レス目の「会長の設定・・・。」は「副会長の・・・」間違いでした。orz
よく文章を読み返そうな!俺!

という訳でくじアンも折り返し。
げんしけんもくじアンも大好きな私としては、DVDのオマケやらなんやら全てが
楽しみでありますであります。
早く動く荻上さんを見たいものですなw
(ここまで書いてSSの後書ではないような気がしたけど反省はしていない)

167マロン名無しさん :2006/11/24(金) 04:01:35 ID:???
>第7回
いつも乙カレー様です。今回木尾先生の脚本ですたか。

>マ「会長も大変ね。ベンジャミン君。」
>ベ「・・・返上しましょうか?」
>マ「いやぁ、就活忙しいのよねぇ〜。」

於木野さんと神無月さんの間の雰囲気とか、、マムシとベンジャミンのこのあたりの会話を読んで、
なんか懐かしくなったのはワシだけじゃないはず。

168マロン名無しさん :2006/11/24(金) 08:18:50 ID:???
>>第七回くじびき以下略
お疲れ様です。いつも楽しく読ませていただいてます〜♪

>> マ「いやぁ、就活忙しいのよねぇ〜。」
まだ斑目たちが四年の時の話だとは思わなかったんでびっくり。
サブキャラたちについても細かく話していく様子はまさにげんしけんですね!
次回も楽しみにお待ちしております。

追伸 4レス目の
>> ト「ま、まるで神様だね。」
これはKODAMAさんでしょうか?

169マロン名無しさん :2006/11/24(金) 22:37:42 ID:???
くじアンDVDの差し替えジャケ絵に鼻血も止まらない今日この頃、みなさまいかがお過ごしでしょうか。
>第七回くじびき以下略
各話論的には、「もし半年/1年シリーズだったら」番組開始から半分経って、後半戦突入前に雰囲気変える目的の刺激的な話が入ってくるタイミングなので、流れそのものはおかしくないんじゃなかろうかね。
前後編にして副会長やいずみの心境の移り変わりが描き出せてれば尚良しだったが無理は言うまい。
あとね、初めて副会長が仮面トークを脱ぎ捨てており、あのキャラの中では数少ない「前フリを踏まえてキャラ描写がされている」人物になっている。
そういう意味では梟氏おっしゃるように『副会長回』でありました。

あっSSの話もしなきゃ。クッチー出番ねえw空気だけじゃなく間も読めませんかこの頃は。
そしてこの時期まだ冷戦中の大野さんvsオギーがちらっと出てきておもろかったw
とりあえず今はがんばっとけベンちゃん。



個人的には『山田回』をどこかで……無理か……しゃあない自炊でもすっかな。

170マロン名無しさん :2006/11/26(日) 03:42:50 ID:???
梅ぼしゅ

171マロン名無しさん :2006/11/26(日) 15:46:21 ID:???
>面白かった会議第7回
このシリーズを読んで、TV「くじアン」を見るようになってしまった。
今回の脚本が木尾サンだったり、副会長の挙動不審の笑いや、ラストシーン(会長の表情)の意味合いが分かってなかなか素晴らしいガイドになってます。
しかも、それを現視研の彼らと楽しむ感じで、とってもグーです。
ちなみに本編予告編がTV「げんしけん」の面子だと知って、「くじあん」初回から見ておけば……と後悔しておりますorz





(個人的追伸)
まとめの人、スレ見ておられますでしょうか。
アンソロの「マダラメセブン」のものです。
トラブって遅れてしまい申し訳ありません。

例のモノを送ってみましたが、難儀なことがあったらご連絡ください。

他のみなさま、私用のご無礼をお詫びします。大変失礼いたしました。

172マロン名無しさん :2006/11/26(日) 20:12:22 ID:???
>>171
この馬鹿野郎がー!!!


ものすごいワクワクするじゃないかwww

173マロン名無しさん :2006/11/27(月) 00:38:29 ID:???
 今更怖じ気づいたってもう遅い。
 これは私にこんな気持ちを植え付けたあなたへの罰なのだ。

 荻上は今幸せのまっただ中にあった。彼女にはとても大切な人がいて、
相手も自分のことを大切に思ってくれている。この大切な人とは当然笹
原のことである。それまで、自分の趣味をひた隠しにし、そんな自分が
大嫌いであった彼女を受け入れてくれた、とても愛しい人。一緒にいる
だけで幸せな気分になれる、今や自分にとっては無くてはならない存在。
荻上にとって、笹原が近くにいるということの意味は大きい。
 が、懸念が一つある。最近、笹原の態度が何となくそっけないのだ。
会話をしていてもどこかぼんやりとしているし、荻上が新しい服を着て
みてもその反応は薄い。デートに出かける回数も少なくなっている気が
する。極めつけは、今朝のキスの拒否だろう。付き合い始めてからしば
らくして、笹原が荻上の家を出る際に際にキスをすることが習慣になっ
た。最初は照れくさかったのだが、今ではそれをしないと気分よく笹原
を見送れない。ところが今朝、荻上が笹原に顔を近づけると、彼は彼女
を押し返し、「じゃ、急ぐから」と言ってそのまま玄関を出て行ってし
まった。
 ―――やっぱり、おかしい…。
 そう思うのは当然であった。以前の笹原は、荻上がキスをすれば、本
当にうれしそうな顔をしたものである。ところが今では、それすらない。
荻上は、一度笹原を問いつめようと思った。


174マロン名無しさん :2006/11/27(月) 00:39:19 ID:???
 数日後の夜、荻上と笹原は外で食事をとっていた。高級そうな印象の
フレンチレストランで、場所は笹原が選んだ。彼は会社の付き合いなど
で外食に行くことが多いらしく、こういう場所に詳しくなってきている。
しかし、荻上の機嫌は悪かった。久しぶりのデートにも関わらず、であ
る。
「荻上さんどうしたの?なんだかあんまり食べてないよね?」
不審に思った笹原が聞いた。
「…なんでもないです」
荻上がそっけなく答えると、笹原は苦笑した。
「なんでもないわけないんじゃない?俺から見たら、相当つまんなそう
なんだけど」
「…………」
「そういう隠し事、無しにしようよ」
その言葉を聞いた荻上は、顔を上げて笹原をにらみつつ、言った。
「じゃあ、言いましょうか?…私の機嫌が悪いのは、最近、誰かさんが
全然相手にしてくれないからですよ」
笹原が驚いてその言葉に反応する。
「誰かさんって、俺?相手にしてないつもりは無いんだけど…」
「私にはそう見えます!」
思わず荻上は声を荒げてしまった。周囲の客たちが驚いてこちらを見て
いることに気づいて、彼女は小さくなる。


175マロン名無しさん :2006/11/27(月) 00:40:43 ID:???
「落ち着いてよ。俺は荻上さんがすごく好きだし、大事に思ってる。別に
冷たくしてるとか、そんなことは全然ないよ。…俺、何か変なこと、した
かな?」
笹原は、わけがわからない、という表情で聞く。
「…この間、キスしてくれなかったじゃないですか…」
「この間って、いつ?」
「私の家に来た時ですよ。帰る時は、いつもしてくれてたじゃないですか」
「ああ、あのことか…。いや、そのときは、そういう気分じゃなくてさ」
弁解する笹原は、明らかに歯切れが悪かった。
「そういう気分じゃないって、どういう…」
荻上がそういいかけると、笹原はメニューをとり、
「この店で季節限定のデザートがあるんだよ。結構評判いいんだけど、食
べる?」
と、話をはぐらかしてしまった。荻上は何かを言う気が失せた。


176マロン名無しさん :2006/11/27(月) 00:41:33 ID:???
「アニキが冷たい?」
都心部にほど近い、とある喫茶店の店内で恵子が声を上げた。もちろん、
その相手は荻上である。
「ええ…。最近の笹原さん、なんだかおかしいんです」
荻上の表情は深刻そうだ。恵子がさらに聞く。
「おかしいって具体的には?何か変な行動とったりとかしてんの?」
「そういうわけじゃないんですけど、なんかそっけないっていうか…」
「考えすぎじゃね?妹のあたしがいうのもなんだけど、あいつ優しいし、意味も
なくそういう態度取れるタイプじゃないよ?」
「じゃあ、そういう態度を取ることになにか意味があるんじゃないですか?」
逆に荻上が聞いた。明らかにいらだっているといっていい。
「意味があるって…例えば?」
「例えば…。浮気…しているとか…」
荻上の返答に恵子は一瞬固まり、そして吹き出した。
「あはははは!ありえねー!あいつにそんな甲斐性あるわけないじゃん!」
彼女のそんな反応を見て、荻上は顔を真っ赤にしながら、
「今のは笑うところじゃないです!」
と、声を大きくした。それでも恵子は笑うのを抑えられないようだ。


177マロン名無しさん :2006/11/27(月) 00:42:18 ID:???
「はははっ…ははっ…。いや、ごめん。…でもさ、ホントにねーってそんなこと。
あいつマジで奥手でさ、中学や高校の時なんか好きな人がいても告白なんかで
きなかったんだから。だからちゃんとした彼女が出来たのってあんたが最初な
んだよ。他に女作る余裕なんてないと思うなあ」
「でも、万が一ってこともあるじゃないですか」
荻上はさらに食い下がる。恵子はそんな彼女に微笑みながら、
「安心しなって。アニキがおねーちゃんを愛してることはあたしもちゃんと知
ってるから。あいつあたしに会うたびに言うんだぜ?『この間の荻上さんはこ
んな服来てた』とか、『荻上さんはああだった』とかね。もうウザいくらいの
ろけててさ。そんなの余計な心配だって」
と、荻上をなだめた。それを聞いた彼女は少し安心したように、
「そうですか、それならいいんですけど…」
とつぶやき、手元にあったコーヒーをすする。その後、
「まあ、あいつが浮気なんかしたらあたしはむしろ褒めてやりたいけどね」
と、恵子が言った途端、荻上は表情を変え、
「…それ、本気で言ってるんですか?」
と、低い声で聞いた。彼女の雰囲気にはっとした恵子は、
「わりい…冗談だよ…」
と言って罰の悪い顔をした。


178マロン名無しさん :2006/11/27(月) 00:43:03 ID:???
 軽快なメロディーで笹原の携帯が鳴った。彼は発信源を確認し、荻上の方を
ちらりと見てから、応対するために外へ出て行った。
 ―――私の前で出ればいいのに。
 最近、笹原に対して疑心暗鬼になっている荻上は、笹原が応対している相手
が気になった。そのため、彼女は笹原のいるキッチンと、そして自分の部屋を
分け隔てているドアに近寄り、聞き耳を立てた。
 「うん…そう。それでちょっとお願いしたくてさ…」
一体何をお願いしたいというのだろうか。最近の笹原の態度と関係があるのだ
ろうか。
 荻上は注意深く笹原の会話を聞いていたが、彼は電話中、具体的なことは一
つしかいわなかった。「うん。じゃあ、明日の三時に…」と、いうのがそれで
ある。


179マロン名無しさん :2006/11/27(月) 00:43:47 ID:???
 笹原は電話を切った後、部屋に戻り、
「ごめん、急ぎの用事ができたよ。だから明日は会えないから」
といった。
「急ぎの用事って何ですか?」
荻上は当然の疑問を口にする。それに対して笹原は、
「うん…まあ、ちょっとね…。仕事」
 この時点でいう明日、というのは日曜であり、笹原の担当している作家の締
め切りはしばらく先のはずであるから、当然笹原は休みのはずなのである。
「…ああ、そういえばもうこんな時間なんだ。じゃあ、おれは帰るよ」
 時計の針は午後5時過ぎを指していた。普段の彼ならば、まだ荻上と別れるに
は早い時間である。先ほどの電話といい、この時間帯といい、明らかに今の笹
原はおかしい。荻上はそのことについてはあえて追求せず、
「そうなんですか。それじゃあ、また…」
といって、笹原を送り出した。


180マロン名無しさん :2006/11/27(月) 00:44:32 ID:???
 翌日の二時頃、笹原は鉄道のホームで電車が来るのを待っていた。あまり落ち
着いた様子ではない。そして、そんな彼を少し離れた場所から注意深く観察す
る二つの人影があった。荻上と恵子である。
「だから前にも言ったじゃん…考えすぎだって…」
「そんなことないですよ…本当に変なんですから…」
ひそひそ声で離す女の二人組がいるのは端から見れば奇妙だったが、幸いなこと
に笹原本人はそのことに気づいていない。何度も時計を確認しては、電車の案内
表示に目をやっている。
 そのうち、快速電車がホームに滑りこんで来た。笹原はどうやら都心部へ向か
うつもりらしい。
「ほら、行きますよ!」
「はいはい…」
荻上と恵子は、笹原にばれないように、彼の乗っている車両の一両後ろに乗り込
んだ。笹原は車内で、携帯のメールをチェックしては返信するということを繰り
返していた。
「さっきから何度も…相手は誰なのかな…」
「そんなこと言い出したらきりねーぞ…」
笹原に不信の目を向け続けている荻上を、恵子は繰り返しなだめていた。別に今
回のことに対して無条件に楽観視していたわけではない。「浮気をしたら褒めて
やりたい」と言っていた恵子であるが、もちろんそれは本心ではなく、むしろ浮
気をしているかもしれないという疑惑が本当のことであってほしくない、という
気持ちの方が強い。誰よりも長く笹原とつきあってきた彼女は、そういう風に彼
の弁護をすることで、実の兄の誠実さを信じ込もうとしたかったのかもしれない。


181マロン名無しさん :2006/11/27(月) 00:45:19 ID:???
 新宿駅で笹原が電車を降りたため、二人もその後を追った。あくまでも本人に
は気づかれないように、である。公園まで来ると、笹原は立ち止まり、周囲を見
渡したため、荻上と恵子はあわてて物陰に身を隠した。どうやら、ここで待ち合
わせをしているらしい。
「さっきのメールの相手っすかね…?」
「ん…じゃねーかな」
ここまで来るとさすがに恵子も不安になってきた。さきほどまでの荻上をなだめ
ようとする姿勢は多少弱いものとなっている。
 十五分ほど待っただろうか。いきなり、笹原が荻上たちのいる方向とは別の方
向へ手を振った。二人がその方向へ目を向けると、同じく手を振りながら笹原に
近づいてくる一人の女性がいた。遠目では詳しいことはわからないが、かなりの
美人である。
「誰だ、あの女…!」
「ちょっと、落ち着けって!」
下手をすれば笹原たちに向かって突進して行きそうな荻上を、あわてて恵子が止
める。
「まだ決まったわけじゃねーんだから。ここはしばらく様子をみよ?な?」
荻上はまだ何か言いたそうであったが、ここはこらえたようだ。笹原たちを観察
する姿勢に戻った。
 当の笹原は、例の女性と一言二言、言葉を交わし、そのまま二人で歩き出した。
当然、そのあとを荻上たちがつける。
 尾行されているとはまったく想像していない笹原は、女と雑談をしながら、迷
うことなく歩いて行った。そのうち、二人は洒落た雰囲気のレストランに入った。
一瞬、荻上は怒りで血が沸騰しそうになったが、それを察した恵子がなだめ、笹
原の様子を見ることにした。
 二人は窓側の席に座っており、外からはそれがよく見える。笹原が何かを言え
ば、女性がそれに答えるように笑い、女性が何かをしゃべりだせば、笹原はにこ
にことそれを聞いている。第三者から見れば、まるっきりデートである。
「あたしのことを放っておいて、自分は知らない女とメシってか…!」
「まだだ!まだわかんねーから!」


182マロン名無しさん :2006/11/27(月) 00:46:17 ID:???
恵子の声が先ほどよりも鋭い。ここまでくると、浮気は事実かもしれないが、ま
だ、信じたくない。
 レストランでの食事を終えた後、二人は再び新宿の街を歩き出した。今度も迷
うことなくまっすぐ歩いて行く。当然、その後を荻上と恵子がつける。
 ―――次はどこへ向かうんだろう。目的がないのならこんな歩き方はしないは
ず…。
 後をつける二人がそのようなことを考えていると、ふいに笹原がとある店を指
差した。高級そうなジュエリーショップである。女性が笹原に何かを語りかけ、
笹原がうなずいて、二人は中に入って行った。しかも、入るときに女性は笹原と
腕を組んでいた。
「そんな……そんな…」
それを目撃した荻上は顔面蒼白となり、オウムのようにそのような言葉を繰り返
していた。そして、恵子は視線をまっすぐ前に向けながら、
「ふざけやがって…確定かよ…」
とつぶやいた。


183マロン名無しさん :2006/11/27(月) 00:47:08 ID:???
 次の日の荻上は、あまりのショックに自分の部屋の中でふさぎ込んでいた。前
日にどのように帰ったかは覚えていない。途中まで恵子と一緒にいたことは確か
だが、いつ、どこで別れただろうか。
 ―――どうしよう…どうしよう…。
荻上は心の中で叫び続けている。笹原が奪われてしまう、という危機感は、それ
までの彼女が感じたことのない深刻さをともなっていた。笹原の心が荻上から離
れようとしている。笹原を取り戻さなくては、とは思うが、そのためにはどのよ
うな方法があるのか。この際、どんな卑怯な方法でも構わない。とにかく、笹原
を自分の側から離れないようにしなくてはならない。
 かなりの時間、荻上はそのようなことを考えながら部屋の隅でうずくまってい
たが、突然、
「ふふ…ふふふふ…」
と、笑い出した。
「そうか…そういうことか…。なんだ、簡単じゃない…」
彼女の頭の片隅に、一つの方法が思い浮かんだのである。ただし、体を張る必要
はあるが、今の彼女にとってはそのようなことはどうでもいい。


184マロン名無しさん :2006/11/27(月) 00:47:58 ID:???
 方法というのはこうである。まず、飲み会などの名目で笹原を自分の部屋に呼
び出し、こっそりと睡眠薬を飲ませる。粉末にしてさりげなく酒の中に混ぜてお
くのがベストだろう。アルコールとともに服用することで睡眠薬の効果は倍増す
る。そして、眠りに落ちた笹原を身動きの取れないようにベッドに縛り付け、そ
の状態で襲ってしまえばいい。幸いにして危険日が近い。「妊娠した」と言えば、
笹原は責任を感じて二度と自分から離れることなど考えなくなるだろう。大学の
ことなどこの際二の次である。冷静に考えれば穴だらけの作戦なのだが、荻上に
そのような余裕はなく、これが笹原の逃げ道をふさぐ最善の方法だと信じた。
「ふふふ…逃げちゃダメですよ笹原さん…私以外のことを考えられないようにし
てあげます…」
口元は笑っているし、笑い声も出ている。だが、なぜか涙が止まらない。そして、
その源泉となっている瞳の色は、もはや狂人のそれに近かった。


185マロン名無しさん :2006/11/27(月) 00:48:43 ID:???
 数日後、作戦の決行日が来た。笹原の仕事のスケジュールと、自分の生理の周
期を照らし合わせて、この日、と決めたのである。
「わあ、豪華だなあ!今日なんかあったっけ?」
と、笹原が言った。それに対して荻上は、
「いえ、特に何もないですけど、たまにはいいじゃないですか」
と、言い逃れた。笹原はそれを不審に思うこともなく席に着いた。
「あと、ワインもあるんですよ」
「へえ、何?」
「ボージョレー・ヌーヴォーです。この間解禁になりましたから」
そういって荻上はワイン入りのグラスを差し出した。中には睡眠薬が入っている。
この日の前日に心療内科に行って貰ったもので、「眠れない」と言ったら割と簡
単に処方された。元は青い錠剤で、ハルシオン、と言うらしい。
 荻上はもう一方にグラスを手に取ると、
「じゃあ、乾杯しませんか?」
それに対して笹原は、
「あ、ちょっと待って」
と、言った。予想外の反応だ。笹原は手元のバッグの中に手を入れ、「ええと、ど
こだったかな…」などとつぶやいている。
 そのうち、荻上に一つの小箱が差し出された。予想外の展開に混乱している荻上
は、
「なんですか、これ?」
と、素直に聞いた。
「ん…まあ、開けてみて」
と、笹原は言うだけである。荻上はそっと箱のふたを開けた。


186マロン名無しさん :2006/11/27(月) 00:49:32 ID:???
 指輪であった。ダイヤモンドに装飾が施されている。
 荻上は固まったままである。
「どうしたの?」
と、笹原が聞くと、先ほどよりもさらに混乱している荻上は、
「あの、これ、指輪に見えるんですけど…」
と、間の抜けた質問をした。それに対して笹原が答えた。
「うん、最近買うかどうか迷ってたんだけどね…。いわゆる、『給料の三ヶ月分』
ってヤツ」
「!!」
「つまりは、そういうこと。荻上さん…俺と、ずっと一緒にいてくれないかな?」
その瞬間、荻上の目に涙があふれた。どうやら、自分が空回りしていただけだった
ようだ。笹原の心は、ずっと彼女の隣に並んでいた。
「で、でも、最近冷たかったじゃないですか。…どうして?」
「ああ、そのことか…。うん、俺も色々悩んでてさ…マリッジ・ブルーって言うの
もおかしいけど」
「…………」
「『本当に、俺は荻上さんを幸せにできるのか?』とか、『俺は荻上さんにふさわ
しいのか』とか考えてたら、どんどん深みにはまっていったんだよね…。それで、
最近荻上さんに変な態度とってたかもしれない。…ごめん」
笹原は謝った。だが、謝らなくても、荻上は笹原を許していただろう。
「それで…その指輪、受け取ってくれないかな?」
「…!と、当然です!一生大事にして、墓の下まで持って行きます!」
それを聞いた瞬間、笹原はとてもうれしそうな顔をした。
 ―――ああ、私が見たかったのは、この笑顔なんだ…。
ようやく見れた。逆に、自分が変な行動を起こしていたら、この笑顔はおそらく死
ぬまで見れなかっただろうと思うと、荻上は自分が怖くなった。


187マロン名無しさん :2006/11/27(月) 00:50:32 ID:???
 そういえば、疑問が一つあった。荻上はそれを口にする。
「ところで、この間新宿で一緒に歩いていた人って誰ですか?」
「えっ…荻上さん、見たの?」
「あっ…!い、いえ。たまたま買い物で行っていたら笹原さん達を見まして…」
彼女は下手な嘘をついた。だが、笹原はそれを疑問に思うことはなかったらしい。
「うん、会社の同僚。女の人の趣味って良くわからないし、そういうものって一生
物じゃない?だからついて行ってもらって、一緒に選んでもらってたんだよ」
「そ、そうだったんですか…」
荻上は本当の意味で安心した。浮気相手ではなかったのだ。ところが、笹原はこん
なことを口にした。
「そういえばあの人、相談した時は変だったなあ…なんか妙に難しい顔してさ。最
終的には『お詫びに食事をおごれ』とか言ったしね。何が、お詫びに、なのかもよ
くわからないし…」
荻上ははっとした。しかし、笹原は理由が本当にわからないらしい。空中に視線を
向けて首をひねっている。
「と、とりあえず飲みましょう!」
彼女は笹原の思考を断ち切るために大きな声で言った。笹原は驚いたように、
「あ…うん。そうだね。…乾杯!」
といって、一気にワインを流し込んだ。それを見た荻上は、その中に睡眠薬が入っ
ていたことを思い出した。
「さ…笹原さん!!ちょっと待って!!」
と、彼女が言ったときには既に遅く、飲み終えた笹原は、次の瞬間にはテーブルに
突っ伏して寝入ってしまっていた。


188マロン名無しさん :2006/11/27(月) 00:51:32 ID:???
「やべー…どうしよう…」
そう荻上はつぶやいた。しかし、「その中には睡眠薬が入っています」とも言えな
いし、笹原のプロポーズを受けることが出来たのであるから、結果としてはオーラ
イであろう。
 荻上は笹原を引きずり、ベッドの上に寝かせた。もちろん、縛って襲うようなこ
とはしない。
 すやすやと寝息を立てている笹原の顔はとても穏やかだ。この先もこの顔を見て
生きて行けるのだ、と思えば、荻上としては何も言うことがないが、一つだけ不安
がある。この件でわかったことだが、笹原が案外女性にモテるということである。
当の本人にとっては失礼な話かもしれないが、荻上は、彼があまり女性受けするタ
イプではないと思い込んでいたのである。しかし、それでも構わない。言い寄る女
はすべて追い払う。荻上はそこまでの覚悟を決めた。
 幸いなことに、この荻上の覚悟にかなりプラスになる材料がある。
 笹原は、女性からのアプローチに鈍い、ということである。


                               おしまい


189173-188作者 :2006/11/27(月) 00:54:31 ID:???
お目汚し失礼しました。

タイトルは「逃げ道」ということで一つ。

190マロン名無しさん :2006/11/27(月) 01:40:41 ID:???
>逃げ道
久しぶりにリアルタイムで笹荻読みました。乙&GJでした。
荻上怖っw ああ、でもこの激しさと一途さこそ荻上ですねー。
ササヤンやけにカコイイなあw  

191マロン名無しさん :2006/11/27(月) 02:26:23 ID:???
>逃げ道
ささやんナイスフラグ折り!
しかしながらそれでよかったw
気づいたら下手に優しいササヤンは浮気してしまう
(流される)タイプのよーな気もする・・・。
オギーは少し思いつめるところあるよねぇ。
怖い怖い。
しかしながら丸く収まってよかった良かった。
思わずニヤリとしてしまいました。

192マロン名無しさん :2006/11/27(月) 19:51:19 ID:PCabp0va
>逃げ道
鬱展開となって一時はどうなるのかと気を揉んだけど
うまく着地してヨカッタ。
甘いと言われようとこの2人にはハッピーエンドが似合うと思う。

ところでSSと直接関係無い話で申し訳ないけど
先週OAされたくじアンアニメ(8話)内であった第9話予告で、笹荻が遂に登場!
(自分は最終話予告で登場すると思っていた)
驚いたのが荻上の饒舌なこと。これまでは他メンバーの問いかけに
ぽつぽつ答える程度だったのが笹原相手だと喋る喋る、
おかげで笹原すっかりタジタジといった感じ。
これって笹荻成立しているという設定ですよね。でなきゃこんなオタ話はしないか。

・・ちなみにこの回での荻上の指摘、自分も懸念していたことです。

193マロン名無しさん :2006/11/27(月) 20:51:22 ID:???
>逃げ道
久々に前置き抜きでいきなり始まる通り魔型のオープニングに、当初は「また誰か変な思い付きでも書き込んだか」と偏見を持ってしまった。
まずそのことを謝罪します、ごめんなさい。
なかなかどうして、もし初めてだとしたら上出来の仕上がり。
一時は空気とまで言われた笹やんが、今では相手の気持ちに鈍感なモテ男になるとは、いやはや隔世の感です。
それにしてもオギー怖過ぎ。
笹やん本当に浮気したら、一気に刃傷沙汰かダイブ沙汰だな。
でもそんなオギーがステキだった。

194マロン名無しさん :2006/11/27(月) 22:43:01 ID:???
>逃げ道
げんしけんサスペンス劇場キタ━(゚∀゚)━!!
っつうか怖い、怖いよオギー。さらに情景が目に浮かぶのがなお怖いw
はまりこむと一方向にしか物事を考えないオギーの心はガラス細工と言うより爆発物のようで、笹原はこれからも幾多の誤解と相対せねばならないんでしょうね。しかし頑張れササヤン。
タイトルも一般的な"way to escape"の意味ではなく、『逃げ水』なんかの意味合いでの造語だと解釈するとさらに深くて良い(ホントにそのつもりだったら余計な事言ってスイマセン)。
後日談想像するとちょっとほのぼのします。怒りと落胆で激烈なツッコミくれる恵子に事情が飲み込めず戸惑う笹原とか、誤解が解けた後でめっちゃくちゃからかわれるオギーとか。
あと寝こける笹原に衝動を抑え切れず色々デッサンとか始めるオギー。これ最強(エロパロ行け俺)。
いい読後感をいただきました。おみごと。

195マロン名無しさん :2006/11/28(火) 13:24:37 ID:???
GJ!
荻上のヤンデレは似合うな

196マロン名無しさん :2006/11/28(火) 17:20:31 ID:???
誤解したままの恵子が、咲と大野を巻き込んで大騒動……という展開を妄想。

197逃げ道作者 :2006/11/28(火) 23:36:27 ID:???
こんな駄文に付き合っていただいてありがとうございます。


酒に酔った勢いで書き上げてそのまま投下してしまったので
投下の宣言とか名前欄にタイトル入れるのとか色々忘れてました。
すいません(土下座)

タイトルは…特に意味はないです(汗)
まあ、気楽に読んでいただければいいかと。


何か思い付いたらまた書きますので
その時はよろしくお願いします。

198マロン名無しさん :2006/11/29(水) 13:21:30 ID:???
>逃げ道
荻上さんKOEEEEE(汗)
でも、なくはない…かな?と、やっぱ思ってしまった。
んでも情熱的だなあ…。思わずひきこまれました。

>何か思い付いたらまた書きますので
期待してまってますよー!

199マロン名無しさん :2006/11/29(水) 17:50:56 ID:???
ひさしぶりにテンプレを一生懸命読んだ。けっこう重要ポイントとして「くじアンSSも受付中」と書いてあるじゃないか。
いや俺>>169なんですが山田ネタで1本書きました。
レスの後日8話観たら、なんだか9話で山田活躍しそうな予感(まあ山田回とまではいかないと思うが)。期待ついでに妄想にも火が付き、まんまと炊き上がってしまいましたw
ちゅうわけで投下させていただきます。タイトルはさっぱりヒネれてない『山田にっき』、本文13レス。
さっそく参ります〜。

200山田にっき(1/13) :2006/11/29(水) 17:53:40 ID:???
○月×日、はれ。

 頭の中でアラーム音がして、いつものように目覚めました。今日もいい天気です。
 今日もなんだかいいことがありそうで、ワクワクします。毎日が楽しくて、幸せ。
 わたしは、朝起きるとまず蓮子さまを起こしに行きます。寄宿舎の隣の部屋で暮らしている蓮子さまは毎晩、なんだかよくわからない研究をしているので朝起きるのが苦手なんです。
 一足先に制服に着替えて、隣の部屋をノック。どうせ返事はないので、一呼吸だけおいてドアを開けます。

「おはよーございます、蓮子さまぁ。今日もいいお天気ですよー?」
「zzzz」

 あらあら。今日も机に突っ伏して眠っています。パジャマの上に白衣。片手にはドライバーを握ったままです。
 机にはなんだか大型の機械がいっぱいのケーブルでつながれていて、ガラス製のシリンダが呼吸するみたいに動いています。しゅー、しゅーって。

「蓮子さまぁ?」
「んー……それじゃだめなのよニューロンがコネクトしないのよ……」

 なんの寝言かわかりません。たぶんまた新しい発明なんでしょう。
 いけない、早く起こさなきゃ。今日はさいわい、ゆうべ蓮子さまが取り付けてくれた発明品があります。ふふ、新しい機械試すのって楽しくなっちゃう。
 にまっと笑って、わたしは左手で蓮子さまの寝顔を指差しました。

201山田にっき(2/13) :2006/11/29(水) 17:55:16 ID:???

「蓮子さまー、朝ですよー。いーいお天気ですよー。『早起き最高ガン・コブラ2006』起動〜!」

 ガシャコン。わたしの左肘から先が黒光りする大口径の銃に変形しました。蓮子さまの説明によると、この銃口から発振されるマイクロ波が対象物を焦点に、1秒あたり24.5億サイクルの振動を与える仕組みだってことなんですが……。
それって電子レンジの説明じゃなかったですかねえ。まあいいや。セット、フォーカス、レディ、5、4、3、……。

 チャ。ピピピピ……キン。

「ふぁ?」
「あ、蓮子さまぁ。おはようござ」

 チュイイイィィィ……ドオオォン!
 あらあら、蓮子さまが起きちゃったので狙いが逸れてしまいました。机の上のマシンが大爆発を起こし、わたしも蓮子さまも黒焦げです。
 一瞬で瓦礫の山と化した机の下から、蓮子さまの下半身が覗いています。パジャマのズボンは消し飛んで、可愛らしい白い下着をはいた足がジタバタと動いています。

「おはようございます蓮子さまぁ。大丈夫ですかぁ?」
 最高ガンを人間の手に戻し、両足を持って引っ張り出します。常々蓮子さまってすごいと思うんですが、この有様でも体には傷一つ負わないし、トレードマークのおでこだって一点の曇りもないんです。たぶんすごい武術の達人なんだと思います。

「あはは、なんか爆発しちゃいました」
「……や」
「や?」
「山田あああっ!なーにやってんのよ朝っぱらから部屋が吹き飛ぶなんてどんだけ素敵な趣向なのよ!一体この学校はどうなってるわけ?寄宿舎の各部屋に爆弾でも仕掛けてあるのかっつってんのよ!!!」
「えー、わたし蓮子さまを起こそうとぉ。コレで狙ってぇ」

202山田にっき(3/13) :2006/11/29(水) 17:56:49 ID:???

 言いながらさっきのガンを見せて説明すると、なんか蓮子さま、顔色が青くなりました。

「や!ま!だ!あんたってヒトはあたしのこと殺す気なの?そうね殺す気なのね?それは朝のスープを一瞬で温められるようにって取り付けてあげた奴で人に向かって撃つもんじゃないの!」
「えーだって早起きできること請け合いって」
「おいしい朝食があると早起きが楽しいわねって昨日話したでしょーがっ!」

 グワン。蓮子さまが機械の残骸でわたしを殴りつけました。しっぱいしっぱい。あう。

 結局朝食はあきらめて、蓮子さまは生の食パンだけ齧って登校することにしました。わたしはお水を一杯いただきました。
 校門前では千尋さんと時乃さん、小雪ちゃんが待っていました。

「おはよう上石神井さん、山田さん」
「おはよーレンレン!薫子ちゃんも!今日はいい天気だねー」
「あの、おはようございます」

 みなさんいつも元気一杯です。小雪ちゃんはまだちょっとわたしのこと怖がってるみたいですけど。

「おはようございますー、みなさん」
「おはよう。秋山時乃、あんたあたしのことその呼び方するのやめてって言ったでしょ!」
「えーなんでダメなの?レンレン」
「やめてってば!!」
「まあまあ二人とも。早く行かないと学校、始まっちゃうよ」

 千尋さんが蓮子さまと時乃さんをとりなそうとしていたら、全校放送が聞こえてきました。

『次期生徒会は直ちに生徒会室に集合すること』

 いつもながら簡潔明瞭な指示です。今日も授業そっちのけで生徒会のお仕事、することになりそうです。

203山田にっき(4/13) :2006/11/29(水) 17:58:31 ID:???

 今日のお仕事は動物のお医者さんだそうです。この前大騒動になったパンダが妙に気が立っているので、なんとかしなさいっていう指令。
でも獣医さんが原因特定できないって匙を投げてるのに、生徒に振るのって間違ってる気がします。

「薬よ、十中八九」
「薬って?」
「あの時の惚れ薬」

 さすが蓮子さまです。あの時はパンダに顔を踏み潰されて気絶してたのに、あとで事情聴取とデータ収集して事件の内容を把握していたんですねぇ。
 蓮子さまの話によると、忍先生が鏑木先生に作ってもらったアヤしい惚れ薬が原因だろうと言うんです。
 あのごたごたで薬の入った瓶はパンダの頭で割れ、千尋さんにもちょっとふりかかったんですが、あれって要するに合成麻薬の一種だから禁断症状が出てるんじゃないかと。

「あれを結果的に使ったのは榎本千尋、あんたと忍先生だけど、二人は吸引量が少ないからなんともなかったのね。パンダたんはかわいそうに直接浴びちゃったから、きっとリバウンドも激しいんだわ」

 蓮子さまの計画では、体質的にデリケートなパンダに急激なドラッグ断ちはできないから、千尋さんの体内に残ってるはずの薬剤成分から効き目の弱いお薬を作り、スローダウンさせるのが安全なんだそうです。

「ま、そんなわけで榎本千尋。ちょっとコッチ来なさいよ」
「えーっ、なにされるの?俺」
「すぐ済むわ。あたしの部屋にあるイングリーディエントディバイダーであんたの体内から例の薬の成分を抽出するの」
「いんぐりでんぐり?」
「かー!あったま悪いわね秋山時乃!要するに素材を細胞レベルに分解して必要な要素を抜いて再構成する装置よ!」
「細胞レベルに分解?」

 あ、コレわかります。

204山田にっき(5/13) :2006/11/29(水) 18:00:07 ID:???

「つまり生きた人間をジューサーにかけて液体状にするんですよね、蓮子さま」
「うえええ!?じょ、冗談じゃないよーっ!」

 あら、千尋さんが逃げ出しましたよ。痛くないのになー。

「あ!待ちなさいよ榎本千尋ぉ!サンプル採れるのあんたしかいないんだからねー!」
「鏑木先生にまた作ってもらえばいいじゃないか!」
「あいつヤバイって思ったらしくて素材と資料全部廃棄しちゃったのよ。忍先生もあたしらに協力的じゃないし、待ちなさいって!」

 次期生徒会になってから全力疾走が増えたって言う千尋さん、確かに足が速くなってます。蓮子さまがしゃべってる間にどんどん小さくなっていきます。

「山田ぁ!追うわよ!」
「はいいっ?え、でもどうやって」
「こんなこともあろうかとね、抜かりはないわよ」

 蓮子さまの瞳とおでこが怪しい光を放ちます。こういうときは大体わたしがオチになってるんですけど。

「山田、あんたを変形できるように改造しておいたのよ!チェンジ山田ボーガー!!」
「えええー?」

 ギュイイン、ガシャコンガシャコン、ザシャアッ!
 みるみるわたしのおなかからタイヤが二本出てきて、手足が固定されてゆきます。ほんの数秒で人間バイクの完成。

205山田にっき(6/13) :2006/11/29(水) 18:01:40 ID:???

「前に朝霧小雪を追いかけた時のマシンを小型化したのよ。今回は榎本千尋センサーつき。バイク型だから機動性もアップしてるし人間型にも戻れるし、言うことないでしょ山田?」
「はいぃ、言うことないって言うか、二の句が継げませぇん」
「ナマイキ言ってんじゃないわよっ!」

 ポカッ。

「はううう。すみませええん」
「山田はあたしの言うとおりに動いてりゃいいのよ。さ、みんな乗って」
「蓮子さまあ、『ぼーがー』ってなんですかぁ?」
「うっさいっ!」
「三人乗りも危険ですよう」
「いーから早く行きなさいよっ!」

 ポカッ。

 気を取り直して追跡開始です。ぴこーんぴこーん……あ、発見。

「見つけた?山田」
「はいー。山田ボーガー・バイクモード、いっきまーす」

 ぶろろろー。千尋さんは動物園に逃げ込んでいました。パンダもいるし都合いいです。ほどなく姿を捉えることもできました。

「千尋さん発見ですー」
「よーし山田、きっちり捕まえるわよ。待ちなさい榎本千尋!」
「わ、もう来た?ってか山田さん、なんだよそのカッコ!」
「わたしに聞かれてもぉ」
「つべこべ言わない!山田、チェーンパンチ!」

206山田にっき(7/13) :2006/11/29(水) 18:03:20 ID:???

「なんですか?それ」

 わたしの疑問とはまったく無関係に、わたしの拳が勝手に千尋さんに照準を合わせ、ドカンっていう轟音とともに発射されました。
 千尋さんは間一髪で避けますが、わたしのパンチは手首の鎖で巻き戻されます。あ、これちょっと面白いかも。

「千尋さーん、はぐはぐしましょー、はぐはぐー」
「そんなハグないよーっ!」

 ドカン。ドカン。ドカン。千尋さんはうまいことわたしの攻撃を避け続けます。狙いが外れるたび、檻の鉄棒やコンクリートの門柱が破壊されていきます。

「……ねーねー蓮子ちゃん、そんなのが当たったら千尋ちゃんケガしちゃうよ、もうちょっと……」

 あまりの破壊力が心配になったのか、時乃さんが声をかけます。でも蓮子さまはへっちゃら。

「大丈夫!」
「ほんとに?」
「よしんば体が真っ二つになっても直せるから!」
「えええー?そんなのダメーっ!」

 時乃さんが追跡を止めようと、わたしの首を握り締めます。

「きゅーっ、とっ、時乃さぁん、そんなに強く握ったら……」

 握ったら……どうなるのかしら。

「バカ秋山時乃!そんなことしたら山田が過剰防衛モードにっ!」

 ……どんなシステムですか。わたし聞いてませんし。もっともそれ言ったらバイクモードも知りませんでしたけど。

207山田にっき(8/13) :2006/11/29(水) 18:04:53 ID:???

 ガシャコン。

 わたしの体がヒューマンモードに戻っていきます。と同時に、空から何か機械が降ってきました。
 蓮子さまのお部屋から飛んできたらしいそれはわたしのボディに装着されます。禍々しい砲身が何門も突き出した、ハリネズミのような戦闘形態。
 今なら地球の全軍隊を相手にできそうな気がします。うふふふ。いやいや、喜んだらおかしいですって。

「蓮子さまぁ、なんかスイッチ入っちゃいましたぁ」
「過剰防衛モードに入った山田は、自分の周囲500メートル以内にある全ての動くものに攻撃を加えるようにできているの」
「ええっ?薫子ちゃん、なんでそんなことに」
「あんたのせいよ秋山時乃!」

 てゆーかそんな物騒な装置つけたの、蓮子さまですよね?

「蓮子さまぁ、わたしどうしたらー?」

 わたしが質問する間にも、砲身に銃弾やエネルギーが充填されていきます。あと数秒で、わたしのビッグマグナムたちが一斉に火を噴きます。

「くっ……なんてこと」

 蓮子さまの瞳孔が小さくなり、頭脳がフル回転しているのが判ります。最強の脳髄が千尋さんたちやパンダや、希少動物のサンプルがひしめくこの施設を破壊せずに済ます方策をシミュレーションしているのです。

「……仕方ないわね」

 でも、しばらくして、蓮子さまは悔しそうに唇をゆがめました。

「山田、……自爆なさい」
「えええー?」
「榎本千尋を捕える以前に被害が大きくなりすぎる。悪いけど、そこまでのことはできないわ」

208山田にっき(9/13) :2006/11/29(水) 18:06:25 ID:???
「蓮子さま……」

 やるせなげな表情。わたしを見つめて。……え、わたしのために、ですか?

「骨はひろってあげるわよ……必ず」

 うつむいて、蓮子さまが後ろを向きました。肩を震わせているようです。
 蓮子さまが泣いてる、と、わたしは思いました。

 蓮子さま、わたし、またちょっと失敗しちゃったんですね。
 蓮子さま、せっかく蓮子さまが改造してくれたのに。
 蓮子さま、解りました、わたし自爆しますね。
 蓮子さま、またわたしのこと、改造してくださいね。
 蓮子さま、今度は頑張りますから。
 蓮子さま、……さよなら、蓮子さま。また会えますよね、蓮子さま。

 全方位攻撃開始のカウンターがゼロになる前に、わたしは自爆スイッチをオンにしました。こんなスイッチがあるのもわたし、知らなかったんですけど。
 同時に過剰防衛モードが解除されました。これで全ての弾薬とエネルギーが自壊方向に作用し、最小限の爆発とともにこのボディが蒸発します。
 最後に蓮子さまの後姿を見てみました。メガネが熱でゆがんだみたいで、蓮子さまの姿もぼやけています。
 蓮子さまの両肩を支えている時乃さんと、こちらを見てなにか言いたげな小雪ちゃん。二人とも悲しそうにわたしを見ています。
 みなさんにもご迷惑、かけちゃいましたねえ。

「だめええぇーっ!」

 小雪ちゃんの声が聞こえました。
 あたりが白い光に包まれます。あれ、自爆ってこんな感じでしたっけ。
 みなさんさよなら、と呟いて、わたしは目を閉じました。

209山田にっき(10/13) :2006/11/29(水) 18:07:59 ID:???

 次に目を開けたとき、蓮子さまや時乃さん、千尋さん、そして小雪ちゃんがわたしの顔を覗きこんでいました。
 わたしはヒューマンモードのまま地面に寝かされていました。ストロングアーマー(あー、そんな名前だったんですねえ)は外されています。わたし、自爆しなかったみたいです。

「あら?」
「山田ぁ!」

 蓮子さまがわたしの体に覆いかぶさります。蓮子さま、服が汚れちゃいますよぉ。お洗濯するの、わたしなんですけど。

「蓮子さま、わたし自爆まで失敗しちゃったんですねえ」

 蓮子さまの後ろで小雪ちゃんがビクッと体をこわばらせます。また怖い思いさせちゃったかしら。

「いっ……いいわよ、おおかた熱で回路がショートでもしちゃったんでしょ」
「すみません蓮子さまあ」
「まあいいわ。結局被害はほぼゼロで済んだし、あんたの回収の手間も省けた。それにパンダの問題も解決したし」
「わあ、よかったですね」
「あのね、パンダさん赤ちゃんができたんだって」
「へえ!交配に成功していたんですかぁ」
「小雪ちゃんが気付いて、上石神井さんが検査して確認したんだ」

 千尋さんが説明してくれます。

210山田にっき(11/13) :2006/11/29(水) 18:09:30 ID:???

「薬の影響も実際にちょっと残ってたみたいで、学校の獣医師会の設備じゃ特定しきれなかったんだって」
「近いうちにパンダたんの赤ちゃんも見れるし、交配がらみの件での国交バランスも保てるみたいよ」
「よかったですねえ。無事に役目も果たせましたし」
「千尋ちゃん千尋ちゃん、祝杯上げに行こ!」

 時乃さんが梅屋に行こうと提案します。

「え?だってまだお昼前」
「いーじゃない、お仕事終了だもん」
「授業出なきゃダメだよ」
「ぶー。じゃ、放課後打ち上げ。絶対だよ?」
「はいはい」
「レンレンも小雪ちゃんも、薫子ちゃんも来るんだよ?」

 いつものように自分のペースでことを運ぶ時乃さん。

「あのぉ〜、お誘いは嬉しいんですけどぉ」
「どしたの?薫子ちゃん」
「わたしちょっと……むぐ」

 体がガタガタで動けないっていう話をしようとしたら、口を押さえつけられちゃいました。そちらに目をやると……蓮子さま?

「ちょっと働いたくらいで疲れたとか言ってんじゃないわよ。山田のクセにあたしの行くところについてこないなんてどういう了見?」

 にっと笑って、ウインク。あら。

211山田にっき(12/13) :2006/11/29(水) 18:11:02 ID:???

「放課後まであればきっちり回復できるわよ。さ、寄宿舎へ戻りましょ」

 あらあら。なんか胸があったかいです。

「え?上石神井さんだって授業あるでしょ?」
「あんな幼稚な授業、かったるくって出てらんないわよ」

 止めようとする千尋さんに、振り向きもせず言うと立ち上がります。

「またあとでね榎本千尋。それからあたしたち二人の分、席取り忘れたらタダじゃおかないからね!行くわよ山田」
「ですから蓮子さまぁ」
「あーもうめんどくさい奴ね!山田、緊急回収モード」

 ういいぃぃん。わたしの背中からキャタピラがせり出し、わたしは寝転がったまま蓮子さまの後を進み始めました。コレはいったいいつ取り付けられてたんでしょうか。聞いても無駄ですね、きっと。

「千尋さん、時乃さん、小雪ちゃん、ではのちほど。こんなカッコで失礼しますー」

 みなさんにご挨拶して、二人で寄宿舎へ向かいます。千尋さんたちはちょっとびっくりした顔をしていましたが、気を取り直したのか笑顔で手を振ってくれました。

212山田にっき(13/13) :2006/11/29(水) 18:12:41 ID:???

 二人で授業中の静かな敷地を進んでゆきます。

「……まったく山田ったら役立たずなんだから。結局カラ回りで終わっちゃったじゃないの」
「すみません蓮子さまぁ」
「まあいいわ。いくつか新装置の稼動実験もできたし。マイクロデバイス関係はまだ改良の余地がありそうね」
「はあ」
「いいのよ返事しなくて!」
「はぁい」

 ぶつぶつ言いながら歩く蓮子さまは、それでも時折わたしに声をかけます。でもそのことを言うと、きっとまた『山田のクセに余計な気ィ回さなくていいのよ!』とか言うんでしょうね。
 わたしは、そんな蓮子さまが大好きですよ。
 いつも気づくとわたしは改造されてて、それも事前検証いっこもなしのピーキーなセッティングになってて。
 上手く動けば『山田のクセにやるじゃない』、失敗したら『山田のクセにだらしないわね』って言い放って。
 それでもあとで、元のわたしに戻してくれる蓮子さまが、わたしは大好きなんですよ。
 どんな状況でもわたしをわたしのままでいさせてくれる蓮子さまと、わたしはずっと一緒にいたいです。

「蓮子さま、この『背中にキャタピラ』って、なんだか昔の5台合体超電磁ロボみたいですね」
「いい勘してるじゃない、山田のクセに。その話、続きも聞きたいでしょ?」
「あーいえ、聞きたくないですぅ」
「なによつまんないわね、あんたも山田なら超電磁スピンの一発もかましてみせなさいよ!」
「えぇー。勘弁してくださいよう」

 ずっと一緒ですよ。
 これからもずっと、いつまでもずっと。



おわり

213山田にっき(あとがき) :2006/11/29(水) 18:13:40 ID:???
なんか最近一人称描写の作品ばっか書いてんな俺。
蓮子が時乃とケンカしたときのフォローだとか、ちょうどアフタで爆弾解除の話やってたけどあのときの行動とか、山田は蓮子のことが大好きなんだと。そういう解釈で臨んだ作品でございます。

……え?
洗脳?脳改造?そもそも生体部分なんかとっくに?

……。



 ヘ○ヘ
   |∧  <そんなこと言う奴はこうだァァァッ!!
  /



ハァハァハァ。ありがとうございました。

214マロン名無しさん :2006/11/30(木) 03:17:20 ID:???
おお!くじアンSSktkr!!
私も書く!書くよぉ!

山田は空気読んでないけど、蓮子が好きなのはよく分かったデス。
たぶん、不治の病とかで死にかけたところを蓮子が改造によって助けたとか妄想。
脳みそは山田だよ!っていうかどうなっても山田は山田だよ!

というわけでまとめ更新(久々だ!)
くじアンカテゴリーも作ったよ!

215マロン名無しさん :2006/11/30(木) 03:58:53 ID:???
ども、毎度おなじみくじアン会議です。

今回のは、予告をごらんになってからの方が楽しめます。
くじアン公式ページで予告を見よう!

3レス投下で〜す。

216第8回くじびき以下略 :2006/11/30(木) 04:00:14 ID:???
マ「え〜、第256回ベンジャミンはまともにアニメを見てないんじゃねーか会議〜。」
ベ「ちょっとまってくださいよ!」
梟「そんなやってたっけか。」
K「そ、そこはながそうぜ。」
マ「うるさいわい!ったく、会長職になってちったあ眼力も増したかと思っていたのに。
  失望したわい!」
ベ「だ、だってですね・・・。」
マ「所詮は時乃と会長と小牧の胸にしか目が行ってなかったんじゃろう!」
ベ「そんなことないですよ!」
梟「まぁ、普通に見てたら気付かんかもしれんけどね。」
K「お、オタクとしてはそこまで見なきゃ話にならないって言うか・・・。」
ト「まぁ、まぁ、みなさん、ベンジャミン君も胸しか見てなかったわけじゃないですよ。」
ベ「そ、そうだよ、さすが、トシゾー君はわかってくれてる・・・。」
ト「フトモモも見てましたよ。」
ベ「ブッ!」
ト「今回はベンジャミン君的にご褒美回ですね。
  会長の着替えはあるわ、時乃の着替えもあるわで。」
於「・・・なるほど、そういうわけですか。」
ベ「ちがうよ!こ、これは罠だっ!」
マ「まぁ・・・。萌アニメだからそういう見方でもいいんじゃろうけどね・・・。」
ベ「うう・・・。おかしいなぁ・・・。」
梟「書記は犬だろ。」
ベ・於「はぁ?」
K「い、一話で生徒会が揃っているシーン、な、七話で寮にやってきた生徒会のシーン、
  どっちにも犬がいる。わ、腕章してね。」
ベ「え・・・。あ、今流れてるところですよね?」
マ「しょうがないから7話持ってきたわい。」
ベ「あ、本当だ・・・。犬いる・・・。」
於「ちゃんと腕章もしてますね・・・。」
マ「そういうわけじゃ、マンガ版で蓮子たんが『くじを拾えば犬でも・・・。』って言う台詞は
  この前フリじゃろ。そう思ってるけどな。」

217第8回くじびき以下略 :2006/11/30(木) 04:02:03 ID:???
ベ「普通気付かないっすよ!」
梟「でもなー、ネットとかで情報収集してれば出てくるネタだろう。」
K「ち、ちょっと、あ、アンテナ弱いんじゃない?」
ベ「うう・・・。」
マ「まぁ、ベンジャミンいじりはこの辺にして、本編じゃ本編。
  ホラ元気出せ、会長回じゃろうに。」
ベ「そうでしたね!今回は・・・作画は落ちましたけど。」
梟「その辺ちょっとうまいな、と思ったのは、話が詰め込みすぎな回は作画で押して、
  こういう話がいい回は作画を落とさざるをえない回に持っていく、
  というのは平均したクオリティを保つ上でいい戦略だなと。」
K「たしかに、止め絵多かったし、バストアップ多用だったしね・・・。」
マ「お話の雰囲気が動く感じではなかったがね。
  確かに作画は落ちてたな。しかしまぁ、許容の範囲ではある。
  細かいところは作監が修正したのか、いいシーンもあったわい。」
ベ「ダンスの後の指とか、細かい視線とか、表情とか・・・。
  会長の表現はよかった所はよかったですよね・・・。」
ト「これでダメダメいってたら例えば・・・。」
ベ「だめ、他のアニメの悪口はダメ!」
ト「ごめーん。」
マ「まぁ、そういうことだな。」
於「あの・・・。今回の話は三角関係をクローズアップしたと思ったんですが。」
マ「お、於木野さん、続けて続けて。」
於「はい、結局どっちとくっつくんですかね。」
マ「んー。」
梟「俺は時乃かと思うけど。」
K「か、会長ということも考えられなくない。」
ベ「会長に幸せになって欲しいですけどねー。」
マ「ワシは時乃かな。」
ト「あ。」
マ「なんじゃ、トシゾー。」
ト「『僕たちの結末はこれからだエンド』はどうでしょうか。」
ベ「あー・・・。それはありそうで怖い。」

218第8回くじびき以下略 :2006/11/30(木) 04:03:04 ID:???
マ「12話で終わるのかっていう話でね。」
梟「DVDに13話つくけどな。」
K「あ、あのね商法かよ。」
マ「ケリつけてくれんかなぁ。」
ベ「期待したいですね。こんな感じ、けっこうどこでも割れてるみたい。」
於「ナルホド・・・。」
マ「でも、於木野さん、よく見てるよねー。やっぱ面白い?」
於「別に普通ですけど・・・。皆さんみてるから見ておこうかなと・・・。」
マ「じゃあDVD買わない?」
於「買いません!そんなオタク臭いもの・・・。」
神「じゃーん、これなーんだ。」
於「あ・・・!」
ベ「なにそれ・・・。あ、DVD予約票。ムジナの。・・・名前・・・於木野さん・・・。」
神「しっかり特典付きの狙って予約してるじゃないですかー。」
於「か、返してください!」
神「あら、落ちてたのを拾って差し上げたのにお礼も無しですか。」
於「どうも、ありがとうございました!」
ベ「まぁ、まぁ、落ち着こうよ、於木野さん。」
於「ふん!」
マ「・・・はは・・・。でも今回の話でよもや告白するとはねー、時乃。」
梟「4話同様、他の面子が一切関わってこない構成といい、
  やはりこの三人はメインなんだなと思うな。」
K「こ、告白で次回どうなるか・・・た、楽しみだな。」

219第8回くじびき以下略 :2006/11/30(木) 04:03:48 ID:???
ト「しかし次回は山田回という。」
K「い、いいじゃねーか、山田回。」
マ「正直、この流れで次山田かよっ!とは思った。反省はしていない。」
K「う、うるせーな、山田の正体、つ、ついに分かるんじゃねえか。」
梟「そこは楽しみではある。」
ベ「何はともあれ、三角関係はお預けと。」
マ「そうじゃの!」
ク「EDで小雪出てましたですぞ〜!」
マ「・・・本当にそれだけだよね。クッチーは・・・。」
ク「海より深く反省でございます・・・。」
マ「まぁ、いいか。ではまた次回!
  君は 山田の正体を 見る・・・。」

220アトガキ :2006/11/30(木) 04:09:39 ID:???
ついに投下されたくじアンSSを読み、
自分も書いちゃおうかなぁと思う今日この頃。

後数えるほどで面白かった会議も終わりか・・・サビシス

221マロン名無しさん :2006/12/01(金) 22:12:50 ID:???
>やまだ日記
有りそで無かったくじアンSS、ついに来ましたな。
それにしても、最高ガンはまだしも山田ボーガーの元ネタ分かる人、果たしてこのスレの住人で俺以外に居るのだろうか?
もしリアルタイムで見ていた人なら、推定年齢30代後半から40代前半ぐらいといった所か。
そう言えば、主人公を演じた山口暁さんも共演の根上淳さんも、既に鬼籍に入られてたな…(遠い目)
って、何の話だ。
まあ何にせよ、新路線開拓を祝してGJ!

>第8回くじびき
13話はDVDのおまけというのはマジですか?
困るよ、俺そんなの買う金ねえぞ。

まあそれはともかく、みんな細かいとこまで見てるんだなあ。
俺はせいぜい、クッチー以上ベンジャミン以下ってとこかな。
次回(ケーブルテレビでは今日だな)は山田回ですか。
これは興味深い。




222マロン名無しさん :2006/12/02(土) 06:33:38 ID:???
>>221
当方37才。今回の話は楽しく読ませてもらいました。
電人電人ザボーガー♪

223にっきの人 :2006/12/02(土) 12:27:46 ID:???

『山田回』観た。

……本家のパワーには勝てねえwww
まあ山田分大量に補填できたしSSで先走った部分も大きな不突合なく済んだので満足。こいつの放送前に投下できてホントによかったと胸をなでおろしております。
そしてクッチーも転びよったか。ぶっちゃけどうでもいいけど。

まいどみなさまご感想ありがとうございます。
>まとめ人さま
わざわざカテゴリ制作恐れ入ります。っつかホントになかったのねくじアンSS。このカテの充実も待たれる!
>ジェネレーションギャップの件
『このスレの住人はむしろ20代が少数派』にベット。しかもオッズ低そう。
あの時代の特撮はいいの揃ってますよね。お次があるなら山田には遠当ての術を使わせるか、ホンダZから変形させましょうかね。


ほいで感想〜。
>第8回くじびき以下略
於木野さんDVD予約してたんだw ムジナの特典気になるなぁ。
まだ観てない人もいるので告白の行方は秘密にするとして、こんな話を8話でやってる以上もう生徒会就任云々は二の次になってると思われます。
TV放送12話で三角関係決着、DVD13話で生徒会就任スペシャル?マーケティング的には逆の方が売れるか?てゆーか買えってのか俺に?
くぁー悪い商売人に見込まれちまったorz

それから寂しいとか言ってますが12回会議の時はオギー会議とダブルヘッダーっスよ。冬コミ準備もあるんでしょうし忙しいっスよ。
ではまた。

22426人いる! 夏コミ開幕戦 前書き :2006/12/03(日) 01:15:35 ID:???
ついに「26人いる!」の続編が…すいません、またまた未完です。
今回は夏コミ1日目の話です。
以前に「あんまり長い話は1度に投下されても困る」という意見がありましたので、今回はその前編を投下します。
何しろ52レスもありますので、今日は26レス投下して、続きは明日(正確な日付は多分同じですが)投下しようと思います。
5分後に投下開始します。

22526人いる! 夏コミ開幕戦 その1 :2006/12/03(日) 01:24:53 ID:???
2006年の夏コミ初日。
現視研と「やぶへび」の面々は上野から始発に乗り、ビッグサイトに着いた。
とりあえず1度、全員で一般参加の行列に並ぶ。
一行は、いろんな意味で周囲の目を引いていた。
主な理由は三つあった。
一つ目は人数だ。
コミフェス参加サークルで、大手を除けば総勢22人という人数は、かなりの大人数の部類に入る。
二つ目はメンバーの外見だ。
先ず目を引くのが、巨乳とロリロリの金髪外人女性コンビだ。
あとのメンバーも、巨乳の女性が2人、身長180台のノッポが2人、肥満体の女性が2人、そしてロリ顔ロリ体型の女子たち(しかも1人は筆頭)等、多士済々な面々だ。
そして三つ目は、彼らの尋常ではない荷物の量だった。
多くの者のリュックは通常の物より大型で、しかも今から買い物するとは思えぬほど膨らんでいる物がいくつか見られる。
有吉、神田、巴のリュックには、サークルとして出品する同人誌におまけとして付ける、コピー本を3部ずつ袋詰めにしてパッキングしたものが、全部で200袋入っている。
サークルチケットを持って先乗りするのが、この3人だからだ。
1冊当り10ページ程度のペラい本とは言え、各200冊で計600冊ともなるとかなりの体積と重量になる。
完売するかどうかは分からないし、お客さん全員がおまけを欲しがるかどうかも分からないが、最悪余れば別のイベントに出品する覚悟で一応サークル参加の同人誌と同数揃えた。
コミフェスのサークル参加の経験回数が1番多い有吉と神田という、最も手馴れた2人で売り場のセッティングを行なおうという訳だ。
一方巴はコミフェス初参加であった。
彼女がベテラン2人とサークル入場するのはコピー本を運ぶ為であったが、真の任務は開場前行列に並ぶことだった。




22626人いる! 夏コミ開幕戦 その2 :2006/12/03(日) 01:26:08 ID:???
あとの1年生の荷物には、同人誌の売り子用のコスが入っている。
この後、売り子の予定は次のようになっていた。
男子会員は入場後、コスに着替え次第売り場に向かい、神田・有吉と売り子を交代する。
(と言っても、浅田と岸野は神田と共に、一旦神田が別口で参加するサークルに向かうが)
1日目は女性向けの出品がメインだ。
だから午前中は男子会員が売り子のメインとなり、その間に女子会員は買い物を済ませる。
そして午後からは女子会員中心で売り子になるという流れだ。
ちなみにコスプレ組も昼から開始するので、午前中は買い物に費やす。
だから荻上会長もまた、午前中は買い物をしつつそれらの様子を見守る積りだ。
今回は笹原もA先生に頼まれたレポート作成の為の取材を兼ねての参加なので、2人であちこち回るにはちょうど良かった。

先乗り組の3人以外の面々の荷物も、かなり大きかった。
中でも伊藤、日垣、浅田、岸野、そしてクッチーのリュックサックは異様に大きかった。
伊藤は有吉の、日垣は神田(女の子のコスを持つのは交替の都合上)のコスも預かっているので、それぞれ2人分のコスを持っている。
有吉と神田の荷物がコピー本でいっぱいなので、伊藤と日垣が彼らの分のコスを持ってやることにしたのだ。
この2人は自分が着替え次第現視研の売り場に向かい、有吉と神田にコスを渡して売り子を交代するのだ。
(ちなみに巴は、リュックが大型の上に本人が力持ちなので、コピー本を他の2人より多目に持っているにも関わらず、自分用のコスもちゃんと持っていた)
クッチーのリュックには、着ぐるみのベムが丸々入っているので、どうしてもかさばる。
浅田と岸野の本格的な登山用リュックは、それらをさらに上回って巨大だった。
その中には昨夜神田の家に寄った際に預かった、神田が現視研と別口で売るコピー本が入っている。
彼らは売り子のコスに着替え次第売り場に向かい、神田と共に彼女のコピー本を委託されたサークルまで運んでから、現視研の売り場の売り子を務める予定だ。
(神田が先乗りで現視研のコピー本を持って入ることが分かっていたので、別口のコピー本は全部浅田と岸野が持った)





22726人いる! 夏コミ開幕戦 その3 :2006/12/03(日) 01:28:31 ID:???
当初みんなは、2人の荷物の尋常ではない大きさをそのせいだと思っていた。
だがそれだけが理由でないことが、みんなで並び始めてから分かった。
2人が座布団ほどの大きさのビニールの風呂敷の束を取り出してみんなに1枚ずつ渡し、列が停滞して動かない間はそれに座るように言ったからだ。
(しかも急遽合流したにも関わらず、「やぶへび」の面々の分まである!)
豪田「あんたらコミフェス初めてにしては、随分用意がいいわね」
浅田「まあ大体の状況は、みんなから聞いてるからね」
岸田「長時間並んで少しずつ列動くんならと、各自持って動けるようにわざと小さいビニールシートたくさん揃えたんだ」
浅田「本当は椅子持って来たかったんだけど、さすがにこの人数分は無理だったんで、せめてこれぐらいと思ってね」
巴「それにしてもよくそんなに入ったわね」
台場「そうよ、あなたたちもコス1着ずつ持ってるんでしょ?」
浅田「ああ、あれは堅く巻いて紐で縛ってあるから、これぐらいの大きさになってるよ」
浅田が両手で示した「これぐらい」とは、ヘアスプレーや殺虫剤などの一般的なスプレーの缶ほどの大きさだった。
沢田「うそっ、何でそんなに小さく出来るの?」
浅田「俺たちの高校の写真部って、年中いろんなとこへ撮影旅行やら合宿やら行ってたから、自然と荷作りの仕方が身に付いちゃったんだよ」
岸野「まあアームストロング少佐風に言うなら、『我が母校の写真部に代々伝わりし、芸術的荷作り法』ってとこかな」
浅田「それに、俺たち海やら山やらサバイバル前提に考えないといけない場所によく行ってたから、先の先まで必要な道具を想定する思考が自然に身に付いたってのもあるし」
岸野「おかげで俺たちの荷物には、今日に限らず3日ぐらいは生存可能な道具が常に入れてあるんだ」




22826人いる! 夏コミ開幕戦 その4 :2006/12/03(日) 01:30:12 ID:???
開場までの暇つぶしも兼ねて、浅田と岸野は2人が普段持ち歩いているという、3日間生き残る為に最低限必要なグッズの数々を公開した。
神田「これってマッチなの?」
浅田「防水仕様のマッチだよ。風雨の中でも火が着く」
巴「これは懐中電灯?」
岸野「マグライトだよ。頑丈で明るいし、完全防水になってる」
台場「これもビニールシート?」
浅田「それは米軍仕様のポンチョだよ。2つ合わせると簡易テントになる」
岸野「まあ1つでも作れなくは無いけどね。当然居住性は劣るけど」
腐女子一同『浅田君と岸野君が2人でテントで…ハアハア…』
国松「これって、紐?」
浅田「パラシュートコードだよ。パラシュートの紐と同じ規格の紐で、200キロぐらいの重さにも耐えられる」
豪田「方位磁石と東京の地図…こんなもんまで持ってるんだ」
沢田「この畳んだアルミ薄みたいなのは?(広げかける)」
浅田「あっ広げないで。それ1回広げたら綺麗に畳めないから」
岸野「それはエマージェンシーブランケットだよ。まあ一種の簡易毛布さ」
弁当箱程度の大きさのポーチを開ける大野さん。
大野「あのう、これは?」
浅田「それは救急キットです。よほどの大怪我でなければ大抵のことは何とかなりますよ」

岸野「あと最小限だけど、一応食料と水も用意してるよ。カロリーメイト4個入りが3箱と浄水剤、それに塩をひと握り、これだけあれば何とか3日ぐらいは生きられるよ」
恵子「試したことあるのー?」
やや意地悪い口調で尋ねる恵子。
岸野「(真顔で平然と)夏山で遭難した時は、これだけで何とかなりました」
恵子「(冷や汗を流し)マジかよ…そうだ、水はどうすんだよ?浄水剤だけあっても入れもん無きゃ困るだろ?」
岸野は水筒を差し出した。
恵子「持ってるんだ、水筒…それ軍用か何か?えらくいかついけど」





22926人いる! 夏コミ開幕戦 その5 :2006/12/03(日) 01:32:00 ID:???
岸野「米軍仕様です。これだとキャンティーン・カップ(水筒の下半分に被さってる、アルミ製の大型カップ)付きなんで湯も沸かせますから」
恵子「中身何?麦茶?」
岸野「1回沸かして冷ました水道水を冷やしたもんです。本当はミネラルウォーターにしたかったんですが、高いですから」
恵子「ただの水とは味気ねえなあ」
岸野「その代わり汎用性は高いですよ。料理の煮炊きにも、顔や体拭くのにも、怪我した時に傷口洗うのにも使えますから」
恵子「…お前ら何処へ戦争しに行く積りだよ」

浅田「あと普段ならビクトリノックスのスイスアーミーチャンピオン持ってるんですが、コミフェスに本格的なナイフはまずいと思って、今日はこれにしました」
浅田が出したのは、角ばった小さなニッパーと、四角い金属の板だった。
荻上「何この角ばったニッパーと鉄板?」
岸野「ニッパーの方は、レザーマンツールっていう万能工具です。ニッパーをベースにいろんな工具が組み込まれています」
浅田「で、板の方は俗にライフツールって呼ばれてるサバイバル工具で、この板1枚にいろんな工具が組み込まれています」
荻上「例えば?」
岸野「(ライフツールのあちこちを指さして)例えばこれが栓抜きで、こっちが缶切りです。で、こっちがマイナスドライバーで、こっちはナイフです」
浅田「あと例えば、釣りのルアー代わりとか、棒にくくり付けて鉈にしたりも出来ます」
岸野「まあ両方とも、言ってみれば10徳ナイフみたいなもんと思って頂ければいいです」
浅田「もっともこいつはものによって強度の差が大きくて、鉈代わりとかに使ったら曲がるかも知れないんで、かさばらないこともあって何枚か余分に持ってますが」
そう言いつつ、浅田は手に持ったライフツールを指でスッとトランプのように動かした。
すると扇状に数枚のライフツールが現れた。
浅田「まあこれだけの枚数があれば、たいがいの状況には対応出来ます」
荻上『この2人、サバイバル能力って点では現視研最強かも…』




23026人いる! 夏コミ開幕戦 その6 :2006/12/03(日) 01:34:16 ID:???
やがてサークル入場の時間になり、有吉・神田・巴の3人と「やぶへび」の3人は、一緒にサークル入場の列に行く。
藪崎「うっしゃー!(両手で自分の頬を叩く)ほなな、オギー」
荻上「うん、頑張って!」
藪崎「おう!」
神田「それじゃあ会長、行ってきます」
荻上「うん、頑張ってね!」
台場「あのう会長、何かもちっとひと言、先乗りの3人に檄飛ばすようなひと言をお願い出来ませんか?」
荻上「檄?」
台場「だってほら、周りの人はいろいろやってるじゃないですか」
確かに周りを見渡すと、どうも今年は体育会系ノリのサークルが多いらしく、いろんなことをやっていた。
円陣を組んで「にしうらーぜオー!」などと叫んでる者たち。
仲間たちに「すまんがみんなの命をくれ」などとのたまう者。
「あえて言おう、カスであると」とギレン総帥の演説をやってる者等々。
荻上「…んじゃ、うちもやるか。えーと…(姿勢を正し)今さら言うことは何もない!思う存分暴れてこい!」」
有吉・神田・巴「(姿勢を正して敬礼し)了解!」
入り口に向かう3人。
豪田「あのう荻様、あとの2人はともかく、マリアに思う存分暴れさせたらまずいですよ」
荻上「(青ざめて)あっ…(遠ざかる3人に)戦闘は可能な限り避けてね〜!」
台場「可能な限りですか…」
沢田「半分あきらめてますね」
笹原「何かうちも随分カラー変わったね」
荻上「もともと現視研は型にはまらない、ヌルオタのサークルですよ。その時その時の会員が、オタクとしてやりたいようにやる。私はそれでいいと思います」
笹原「まあそれには俺も賛成だけどね」





23126人いる! 夏コミ開幕戦 その7 :2006/12/03(日) 01:36:12 ID:???
現視研の売り場に着いた有吉、神田、巴の3人は、ただちに準備にかかった。
先ずはそれぞれの荷物から、同人誌のおまけのコピー本を出す。
次いでレイアウトにかかる。
いや正確には、殆ど神田が1人でテキパキとレイアウトしていく。
それを巴と有吉が呆然と見つめる。
夏コミ初参加の巴はともかく、有吉は高校の頃から毎年参加している。
サークル参加の経験もあるし、コミフェス以外のイベント経験も豊富だ。
その有吉が、まるで割り込む隙が無い。
いつの間にかほぼレイアウトが完成した。
最後に予め用意したらしい、「おまけコピー本付き特装版あります」の貼り紙を机の前に貼る。

レイアウトが済んだ直後、開場前行列が出来始めた。
巴「そんじゃ私、行くわ」
神田・有吉「がんばってね」
次の瞬間2人は、巴の背後に炎に似たオーラを見た。
神田・有吉「ひっ?」
巴「(闘志をたぎらせた顔で)ふふふ、こわっぱどもめ、蹴散らしてくれるわ!」
有吉「あの、巴さん、冷静にね。ラフプレーはダメだからね」
巴「大丈夫よ、朽木先輩にこれもらって予習してきたから」
巴はポケットから手書きらしい小冊子を出して、2人に渡した。
有吉「(表紙を見て)開場前行列入門?(ページを開き)何々、考えるな、人の隙間を感じ取れ?」
神田「(ページをめくり)とにかく押す時は押し、引く時も押せ?何か相撲の入門書みたい」
巴「もう丸暗記したし、本番になったら読んでるヒマないから預かってて。(大声で)巴マリア!行きま〜〜〜〜す!!!!!」
猛スピードで開場前行列にダッシュする巴。
有吉「速っ!」
神田「確かマリア、100メートル10秒台らしいわよ」
有吉「何でそんな逸材が現視研に…?」





23226人いる! 夏コミ開幕戦 その8 :2006/12/03(日) 01:37:39 ID:???
コミフェス開催宣言の放送から約10分後、早くも1冊目が売れた。
初めてのお客さんは、清楚で大人しそうな、お下げ髪の女性だった。
(以下、便宜上このお客さんを「お下げさん」と呼称する)
お下げ「あの、すいません、ここ椎応大学の現代視覚文化研究会の売り場ですよね?」
有吉「あっ、はいそうですが」
お下げ「あのう…こちらに於木野先生が所属していると聞いたのですが…(辺りを見回す)」
有吉「おぎの?」
神田「会長の同人ネームよ」
お下げ「会長になられたんですか、於木野先生?」
神田「はいっ、おぎう…於木野先輩が今の会長です」
お下げ「そうですか…それじゃあ今年も於木野先生が?」
ここまでの話しぶりで神田はもちろん有吉にも、お下げさんのお目当てが荻上会長作の同人誌であることが分かった。
有吉「あいにくですが、今年のは我々1年生の合作です」
お下げ「そうですか…」
お下げさんの反応に落胆の色を感じた神田は、彼女を慰める意味も込めてフォローした。
神田「会長は春夏秋冬賞で審査員特別賞を受賞されたのがきっかけで、秋から月刊デイアフターで正式に連載が決まったので、今年はその原稿執筆に専念されてたんです」
お下げ「春夏秋冬賞?ひょっとして…『傷つけた人々へ』ですか?」
神田「そうです。よく分かりましたね、あの作品の時はペンネーム違ってたのに」
お下げ「絵柄とか構図とかが似てましたし、ペンネームも荻野だし」
有吉「なるほど…」
お下げ「そうですか、あの方デビューされるんだ、凄いなあ…あなた方って先生から漫画について、ご指導受けてらっしゃるんですか?」
神田「漫画そのものについては、指導というほどのものは受けてないです。会長は我々の自主性や個性を尊重してくださいますから。でも、影響は大きいですよ」
有吉「特に四天王の4人は凄いですよ」
お下げ「四天王?」





23326人いる! 夏コミ開幕戦 その9 :2006/12/03(日) 01:39:01 ID:???
有吉「うちの女子の絵描き4人がそう呼ばれてるんです」
神田「正確には腐女子四天王って言いまして、4人とも会長を崇拝してて、会長を追ってうちの大学に来たんです。この同人誌の漫画の主な部分は、彼女たちの担当です」
神田は四天王の4人の、人となりを説明し始めた。
それを聞くお下げさんの表情は明るく、楽しそうだった。
お下げさんの表情に、現視研同人誌への興味を感じた有吉は押してみることにした。
有吉「あの、よろしかったら見ていって下さい」

お下げさんはマジ顔で同人誌を読んだ。
読み終わった彼女に、脈有りと見たか神田がたたみ掛けるように感想を訊いた。
神田「どうですか?」
お下げ「絵柄は随分違うけど、確かに先生のリアルでハードコアなスピリッツは引き継がれてますね」
有吉「スピリッツ?」
お下げ「従来のヤオイみたいにヤオイ穴なんてぼかした表現せず、位置関係や角度から言って明らかにピーをピーに入れてるあたり、妥協無き於木野イズムは伝承されてますね」
女性に面と向かってピーだのピーだのとはっきり口頭で言われ、赤面する有吉。
有吉「妥協無きって…うちの会長はカール・ゴッチですか」
神田「じゃあ合格ですか、うちの本?」
にっこり笑うお下げさん。
お下げ「1冊下さい」
有吉「ありがとうございます!あとうちの同人誌には、おまけコピー本付きの特装版と、おまけ無しの通常版があります。値段はどちらも同じですが、どちらになさいますか?」
お下げ「じゃあ特装版でお願いします」




23426人いる! 夏コミ開幕戦 その10 :2006/12/03(日) 01:41:27 ID:???
立ち去り際にお下げさんが尋ねた。
お下げ「ひょっとして、私がお客さん第1号ですか?」
神田「そうです」
嬉しそうに微笑むお下げさん。
神田・有吉「???」
お下げ「実は去年の夏コミの時もそうだったらしいんです」
神田「そうなんですか?」
お下げ「立ち去り際に於木野先生と彼氏らしい男の人の会話が聞こえたんです。初めてって明言した訳じゃないけど、話しぶりから多分そうだと思います」
有吉「そうだったんですか。いやあ、何か初っ端から縁起がいいなあ」
神田「お客さんにも、きっと何かいいことありますよ」
お下げ「ありがとうございます。それじゃあ、連載始まったら読ませて頂きますんで、於木野先生によろしくお伝え下さい」
立ち去るお下げさん。
神田「ほんとに何かいいことありそうね、有吉君」
有吉「うん、こりゃ完売いけるかも知れないね」
神田「でも今のって…言ってみれば会長の顔で売れたようなものよね」
有吉「そうだね。これからだよね、僕たちの力が試されるのは」
改めて気を引き締める2人だった。

それから20分ほど後、ハルヒの高校の制服コスに着替えた伊藤、日垣、浅田、岸野の4人が売り場にやって来た。
日垣、浅田、岸野のブレザーの着こなしがぎこちないのに対し、伊藤の着こなしがさまになってるのは、元々この制服が有吉と伊藤の高校の制服だからだ。
ぎこちない3人が着てるのは、2人が元同級生や後輩から借りてきた物だ。
一方伊藤の制服は(そして後で着替えてくる有吉も)3年間着て高校生活を過ごした自前の物だ。
ただ胸ポケットには、後から簡単に外せるように加減して、田中作のハルヒの高校のエンブレムを付けてある。





23526人いる! 夏コミ開幕戦 その11 :2006/12/03(日) 01:42:52 ID:???
日垣「お待たせ、(コスの入った袋を差し出し)はいこれ、神田さんのコス」
伊藤「(同じくコスの入った袋を差し出し)で、これは有吉君のだニャー」
浅田「どう、調子は?」
神田「(コスを受け取って、自分の荷物に仕舞いながら)とりあえず5冊売れたわ」
岸野「特装版はどう?」
有吉「(コスを受け取って、自分の荷物に仕舞いながら)売れた分は5冊とも特装版だよ」
日垣「やっぱり効果あったのかな、おまけ付きの?」
神田「まだ始まって30分かそこらだから分からないわよ。でも、特装版あることと、どっちでも値段一緒だってことトークしたら迷わず特装版にしてたわ、どのお客さんも」
有吉「だからトーク忘れないようにね」
伊藤「了解したニャー」
神田「うーん…伊藤君、その猫喋り、自分の意思で止められるんならなるべく…」
伊藤「売り子やってる間はやめときますニャー、あっ(両手で口ふさぐ)」
神田「しょうがないなあ。(自分の荷物をゴソゴソし)念の為これ着けてて。それなら不自然じゃないでしょ、猫喋りでも」
神田が差し出した物は猫耳だった。
浅田『何でそんなもん持ってるんだ…?』
岸野『そりゃまあ、こういう場だからそういうのもアリかも知れんけど…』
日垣『このブレザーでそれ着けてる方が不自然でしょうが…』
猫耳を見た途端に固まってしまった、そんな3人の思いに関係無く、伊藤は上機嫌でそれを着ける。
伊藤「うん、これなら猫語でも問題無いニャー!ありがとう、神田さん!」
浅田・岸野・日垣『問題無いのか!?』
ちなみに有吉は、そんな伊藤の奇行に慣れてるせいか、平然としていた。

日垣「しかしこのブレザー、暑いね」
伊藤「まあ冬服だからしょうがないニャー」
神田「でもなるべく上着脱がないでね。上着無しじゃ何のコスか分かんないから」
浅田「そうだ、ちょっと待って」
自分の荷物をゴソゴソする浅田。





23626人いる! 夏コミ開幕戦 その12 :2006/12/03(日) 01:44:44 ID:???
浅田は自分の荷物の中から、小型の扇風機を出した。
浅田「(売り場の机の上に扇風機を置き)これ使って。(さらに荷物をゴソゴソし)あとこれ電池式だから、予備の電池出しとくね」
そう言って机の上に乾電池を並べる。
日垣「ありがと…」
有吉「そんなもんまで持ってたんだ…」

現視研の売り場を出る直前、神田が思い出したように言った。
神田「あっ、それからこれ、会長からのアドバイスなんだけど、売り子2人の内の1人はなるべく浅田君か有吉君にしてって」
浅田「そりゃまた何で?」
神田「何でもサブリミナル効果があるんだって。売り上げを伸ばす」
男子一同「???」
有吉「でも、どのみち僕は今から着替えに行くし、浅田君は神田さんの同人誌運ぶし…」
伊藤「なるべく早く帰って来てニャー」
有吉「それしかなさそうだな。じゃあ後頼むね」
神田「じゃあ私たちも行こうか」
岸野「そんじゃあ行って来るから、店番頼むね」
こうして売り場には、猫耳伊藤と長身の日垣という珍コンビが残った。
日垣「ところで伊藤君、何で会長は有吉君か浅田君が売り場に残るように言ったんだろ?」
伊藤「それは会長がメガネ受け基本だからだと思うニャー」
日垣「メガネ受け?受けっていうと…ヤオイのカップリングで言う女役のこと?」
伊藤「そうだニャー。だから多分、会長原理主義のうちの女子の間では、僕と有吉君、浅田君と岸野君で妄想カップリングが繰り広げられているニャー」
日垣「マジで?てことは、伊藤×有吉で?」
伊藤「多分ね。全くネコなのにタチ役とはこれ如何にだニャー」
ちなみにネコとタチとはレズ用語である。
(最近はゲイの人の間でも使われているらしい)
ネコがいわゆる女役、つまりヤオイで言う受けである。
そしてタチがいわゆる男役、つまりヤオイで言う攻めである。




23726人いる! 夏コミ開幕戦 その13 :2006/12/03(日) 01:46:28 ID:???
開場直後、会員たちの分担購入の配置を確認した後、荻上会長は久々の笹原とのデートをしばし楽しむ。
当初自分も分担購入の担当を持つ積りだった。
現視研と別のサークルで午前中売り子に駆り出されることを、神田が直前まで言い忘れていたのだ。
それで当初の分担購入計画に穴が出来たので、会長自らが埋めようとしたのだ。
だがそこでスーとアンジェラが、それなら自分たちがやると言い出した。
当初言葉の問題もあって分担購入の戦力には数えてなかった2人だが、予想以上に(多少難有りだが)日本語が上手かったので、1年生たちは賛成し荻上会長も了承した。
それはまた、1年生たちと2人がカラオケで早くも仲良くなって、お客様扱いでは無く仲間と認めたことの証明でもあった。
2人を入れて分担購入計画を練り直したおかげで、神田の穴を埋めてなおかつ1人当たりの担当範囲が狭くなった。
そのせいもあって1年生たちは「会長は笹原先輩とゆっくり買い物楽しんで下さい」と言ってくれた。
そこで素直に好意に甘えることにしたのだ。
笹原「荻上さん、どっかお目当ての買い物はある?」
荻上「うーん、殆どのとこは1年の子たちにまかせてあるし、大手は巴さんが何とかしてくれるから…」
笹原「あっ、そう言えばうちの売り場の方には顔出さないの?」
荻上「もうちょっと後で、1時間ぐらいしてから行きます。開始早々会長が行っても、会員たちに余計なプレッシャーかけるだけですから」
笹原「それもそうだね」
荻上「笹原さんこそ、お目当ては無いんですか?」
笹原「実はひとつだけあるんだけど…」
荻上「じゃあそれ行きましょう、どこです?」
笹原「企業ブースにプシュケが新作を出品してるんだよ」
荻上「高坂先輩の会社が?」
笹原「うん、この間電話で話したんだけど、高坂君が作ったらしいんだ、その新作」
荻上「…ちょっと興味ありますね。たとえ男性向けのエロゲーだとしても」





23826人いる! 夏コミ開幕戦 その14 :2006/12/03(日) 01:51:10 ID:???
笹原「それが男性向けだけじゃないらしいんだ、彼の話によれば」
荻上「…そんなたくさん作ったんですか?」
笹原「何でも、同じキャラや初期設定を使って、男性向け、女性向け、一般向けの3バージョン作ったんだって」
荻上「???」
笹原「まあそれ以上は高坂君教えてくれなかったから、実際に行ってみようよ」

企業ブースのエリアに来た笹荻コンビは、石化した。
プシュケのブースの前では、高坂がメイド姿の女装コスでビラを配っていた。
しかもそのコスは、普通のメイドコスとは違っていた。
布地の大半は黒のシースルーで、前面は白い前掛けで隠れているが、後ろからはパンティとブラの紐が丸見えだった。
前掛けの胸元には、ブラジャーのように貝殻のマークが2つ付いていた。
(49話の扉絵のメイドコスをベースに考えると、想像しやすいかも知れない)
そんな姿の高坂が、にこやかに笑顔を浮かべて「どうぞ見て行って下さい、ご主人様」などと言いつつビラを配っていた。
ビラをもらった客たちは皆、男女問わずまんざらでもない顔をしていた。

笹荻は2人とも、最大出力で赤面しながら固まり続けていた。
笹原『似合う、似合い過ぎる。それに可愛い。しかもきわど過ぎる、あの格好…』
笹原は不覚にも、己のピーが反応していることを自覚した。
笹原『やばい!こんなの荻上さんに見られたら…』
思わず荻上会長を見る笹原。
だが彼女の意識は、既に太陽系を脱出しかけていた。
笹原「『デスドライブ中かいっ!』荻上さん!気を確かに!」
筆を激しくシビビビする笹原。
荻上「はっ、ここは誰?私はどこ?」
そんな2人に、問題の高坂が笑顔で近付いてきた。
高坂「お久しぶりです、ご主人様」







23926人いる! 夏コミ開幕戦 その15 :2006/12/03(日) 01:53:25 ID:???
笹荻は高坂にプシュケの企業ブースの中に連れて来られ、新作ゲームの説明を受けた。
ゲームのタイトルは「どっきり魔冥土(マーメイド)サッキー」。
ストーリーは次の通り。
主人公は人魚のサッキー、海底の人魚の世界でメイドとして働いている。
ある嵐の夜、豪華客船の沈没事故に遭遇したサッキー、海に投げ出された乗客の、金持ちのお坊ちゃんを救出する。
お坊ちゃんにひと目惚れしたサッキー、人間になって人間界で生活することを決意する。
そして魔法使いのお婆さん、ではなくマッドサイエンティストのお爺さんに相談する。
お爺さんはサッキーがサイボーグの実験台になることを条件に、彼女の体を陸上でも生活出来るように改造する。
先ず魚の下半身を人間の下半身の完全義体に取り替え、呼吸器を水陸両棲可能に改造した。
ついでにサービスであちこち改造し、最終的にサッキーは脳以外殆どサイボーグ化される。
その結果、10万馬力の怪力、音速で走れる加速装置、人魚の数倍の水中行動能力、千里眼と透視能力を秘めた超視力、1キロ先で落ちる針の音を聞き取る超聴力等の能力を得る。
こうしてサッキーは人間界に行き、首尾良くお坊ちゃんの大邸宅にメイドとして住み込むことに成功する。

高坂「で、ここからのストーリー展開は3つに分かれるんだよ」
パターンA
お坊ちゃんがいずれ引き継ぐ予定になっている莫大な遺産を狙って、親類が次々と刺客を送り込んでくる。
それを知ったサッキー、お坊ちゃんを守るべく刺客たちと戦う、という格ゲーバージョン。
パターンB
お坊ちゃんの周りの親類縁者の男たちは、いずれもスケベな変態揃い。
新しいメイドのサッキーを狙って、彼らの魔手が次々と、というエロゲーバージョン。
パターンC
マッドサイエンティストのお爺さんは、サッキーが男性に変身出来るという、余計な追加サービスを施していた。
お坊ちゃんの親類縁者がみんな男色家で、彼らの魔手が次々とサッキーに、というBLゲーバージョン。



24026人いる! 夏コミ開幕戦 その16 :2006/12/03(日) 01:55:23 ID:???
高坂「まあうちみたいな弱小会社は、1度作ったキャラや設定は何回も使い回さないともったいないからね。それでこういうゲームを考えたんだよ」
笹原「それにしてもサッキーって…これってもしや」
高坂「(にこやかに)うん、主人公は可愛くて強くて優しいヒロインにしたかったから、咲ちゃんをモデルにしたんだよ」
ゲームのパッケージに描かれた主人公は、春日部さんを少し幼くした感じだった。
荻上「…それって、春日部先輩知ってるんですか?」
高坂「うん、ちゃんと話したよ。そしたら了解してくれた」
荻上「よく了解してくれましたね」
笹原『まあ多分、諦めたんだろうけどね…』

「それにしても、ほんとあの2人のおかげで助かったわ」
沢田と共に小休止していた豪田が呟いた。
沢田「そうね。ミッチーが他所の売り子に取られた穴を見事に埋めてくれたものね」
豪田「まあまさかあの2人、あそこまで日本語上手いとは思ってなかったからね。だから分担購入の戦力には数えてなかっただけに、ほんとありがたいわ」
沢田「まあこれで、押さえるべきとこは殆ど押さられたわね。笹原先輩に頼まれたA先生の資料用のも買ったし、荻様用のメガネ受け本も買ったし」
豪田「あと大野先輩用のハゲヒゲ本も買ったし」
そこへ国松と台場が来た。
豪田「おう、お疲れ。どうよ初参戦の戦果は?」
10数冊の同人誌の入った紙袋を差し出す国松。
豪田「まあ初めてなら、そんなもんね」
沢田「まあ千里の本番は、特撮ネタ扱う2日目だし」
国松「いやあ、まだ元ネタが分かる本の方が少ないのよ、正直言って。だから分担購入の分を買うのが精一杯だったわ」
台場「まあ確かに、初日は千里の未読未見の作品ばかりみたいね」
豪田「まあまた明日がんばんなさい」



24126人いる! 夏コミ開幕戦 その17 :2006/12/03(日) 01:57:17 ID:???
「あっ、あれマリアじゃない?」
豪田は並ぶ人混みの中に、見慣れた人影を発見した。
沢田「凄い荷物ね。紙袋4つは持ってるわよ」
台場「それに何あの動き、ズンズン前進してるじゃない」
国松「さすがは巴さんね。周囲の人の圧力に全然負けてないわ」
豪田「て言うか、むしろ周りの人押しのけてるように見えるんだけど…」

「あっ、あれクッチー先輩じゃない?」
今度は台場が人混みの中に、見慣れたひょろ長い人影を見つけた。
豪田「クッチー先輩も張り切ってたからね。午前中売り子やってる男子たちの分まで買うって」
沢田「いいのかなあ、4年生に買い物係やらせちゃって」
台場「あの人は好きでやってるから大丈夫よ。それに男子の本番は3日目だから、そんなに気合い入れて買いまくってる訳じゃないし」
国松「そうでもないかもよ。見て」
クッチーは異常な速度で前進していた。
巴のように周囲の圧力を押し返して進んでいるのではない。
何の予備動作も無しにスッと前進して行き、たちまち最前列に来てしまう。
台場「…ねえみんな、今の動き見えた?」
沢田「…見えなかった」
豪田「私も…」
国松「何か2〜3メートルずつテレポートしてるみたいに見えるんだけど…」
台場「毎年コミフェスでループしてると、あの域に達するのかなあ…」
一同「朽木先輩、恐るべし!」

その後4人は再び解散して、各自の分担エリアを再度回ることにした。
自分の担当エリアをほぼ回り終わった台場は、再び国松と合流した。
国松「そう言えば、確かこの辺に藪崎先輩の売り場があったわね」
台場「まああそこは多分会長経由で本はもらえるだろうから、分担購入のルートから外してたけど、一応行っとこうか」



24226人いる! 夏コミ開幕戦 その18 :2006/12/03(日) 01:59:01 ID:???
「やぶへび」の売り場では、藪崎さんとニャー子が売り子をしていた。
台場「どうですか、調子は?」
藪崎「まあぼちぼちや。開始1時間ちょっとで20ぐらいやから、まあこんなもんやろ」
国松「凄いですね。ん?」
国松は売り場に飾られた、不思議なオブジェに注目した。
いろいろな形のブロックをズンズン積み上げただけのような、やたら上に細長いオブジェ。
藪崎「ああ、それは『青春の塔』のミニチュアや」
国松「そんなの『ハガレン』に出てましたっけ?」
台場「それって『ハチクロ』のじゃないですか。何でまた?」
ニャー子「うちは最初は『ハチクロ』で本出す予定だったから、私が作ったニャー。でも先輩土壇場で『ハガレン』にしちゃったもんだからー…」
藪崎「そんでこのアホが、『せっかく作ったんだから、もったいないですニャー』とか言って飾りよったんや」
国松「じゃあこれニャー子さん作ですか?(顔を近付けて)うわあ凄く細かくてリアル」
台場「あんた『ハチクロ』読んだことあるの?」
国松「まだ読んでないけど分かるわよ。(あちこち指差し)この辺とか、この辺とか、ひと目見れば何かモデルになるものがあって、それを忠実に再現してるって」
ニャー子「そう言ってもらえると、作った甲斐があったニャー」
それがきっかけとなって、しばしの間国松とニャー子はミニチュア談義を展開した。

そこへスーがやって来た。
国松「お疲れ、スーちゃん。どう調子は?」
スー「(低音で)問題ナイ。全テハしなりお通リダ」
まだあまりスーとは話していない、藪崎さんが口を挟んだ。
藪崎「確かに物まね上手いなあ。それにしても、えらいようけ買うたな」
スーはパンパンに膨らんだ紙袋を2つ、カートにくくり付けて引っ張っていた。



24326人いる! 夏コミ開幕戦 その19 :2006/12/03(日) 02:00:38 ID:???
国松「凄―い!これだけの時間でよくそんなに…」
台場「途中で1回スーちゃん見かけたけど、この子いざとなると凄いオーラ出るみたいで、周りの人みんな左右にどいて道開けちゃうのよ」
ニャー子「まるでモーゼの十戒ですニャー」
スー「押忍!映画の「十戒」なら十回見たであります!」
固まる一同。
台場「もしかして…ダジャレ?」
藪崎「(感心し)ほう…なあスー、布団に爆弾仕掛けたら」
一同「?」
スー「吹っ飛んだ」
こける一同。
藪崎「電話鳴ってるのに誰も」
スー「出んわ」
またこける一同。
藪崎「裏の空き地に囲いが出来たんだってねえ」
スー「格好いい」
またまたこける一同。
藪崎「大変だ、屋根に穴開いちゃった」
スー「やーねー」
またまたまたこける一同。
台場「あの、何やってるんですか藪崎先輩?」
藪崎「この子の日本語の語学力のレベル、かなり高いで」
またまたまたまたこける一同。



24426人いる! 夏コミ開幕戦 その20 :2006/12/03(日) 02:02:18 ID:???
藪崎「お前らもなかなかえーリアクションしてるなあ」
台場「どこが語学力なんです!単なるダジャレじゃないですか!」
藪崎「ドアホ、ダジャレを侮ったらあかん」
スー「(右手の人差し指を立てて)侮ッテハイケナイ」
藪崎「あのな、ダジャレ言おう思たら、それなりの語彙が無いとでけへんのや。それにな、ギャグの基本はダジャレやけど、ギャグの奥義を究めた完成形もまたダジャレなんや」
台場「そうなんですか?」
藪崎「いとこい(夢路いとし・喜味こいしのこと)さん見てみい。上方漫才の無形文化財の漫才が、ネタそのものはしょーもないダジャレの連発やで」
台場「そう言えば1度聞いたことあるけど、確かにそうでしたね」
藪崎「せやろ。それを言い方とか間で笑わすのが、いとこいさんの腕やねん」
ニャー子「あの先輩、話の趣旨がズレてきましたニャー」
藪崎「まあとにかく、この子の日本語能力はかなりのもんやっちゅうこっちゃ」
台場「へえー、ダジャレって奥が深いんですね」
スー「(腕を組み)奥ガ深イ」

藪崎さんたちが話し込んでいる間に、国松はスーの買ってきた同人誌を広げていた。
国松「あの、スーちゃん。私この漫画まだ読んでないからネタ分からないけど、これって男性向けじゃない?」
確かに国松が持っている同人誌には、男女の絡みが描かれていた。
アンジェラ「スーも私も、あんまり男女の違いには拘らないあるよ。男×女でも男×男でも女×女でもセックスはセックス、萌えられれば問題無いあるよ」
そこへちょうど通りかかったアンジェラが、割り込んで説明する。
国松「(赤面して)そんなセックスなんて露骨に…そうなのスーちゃん?」
スー「ワイノしゅーとハ2枚刃ヤ」
台場「男女どちらでもオッケーてことね。そう言えばアンジェラの方の収穫はどう?」
アンジェラ「あんまり買えてないあるよ」
アンジェラが見せた紙袋の中身は、袋の半分にも満たなかった。




24526人いる! 夏コミ開幕戦 その21 :2006/12/03(日) 02:04:22 ID:???
台場「こりゃまた少ないわね。マリアと互角の怪力の持ち主にしては」
国松「何かあったの?」
アンジェラ「(赤くなり)実はね…」
アンジェラが喋りかけたその時、「おい、居たぞ!」という声と共に、大勢の男たち(言うまでもなくオタ)がこちらに向かって走ってきた。
何事?と身構える台場と国松。
事情が呑み込めず、彼らをキョトンと見つめるスーと藪ニャーコンビ。
男たちはアンジェラに向かって1列に並んだ。
そして先頭の男から順に、メモ帳やスケブや色紙等を差し出す。
それにアンジェラは順番にサインしていく。
男たちは意外と礼儀正しく、皆丁寧にお礼を言って去って行く。
国松「これはいったい?」
アンジェラ「(やや困り顔ながらサインをしつつ)何だか分からないけど、あちこちでサイン求められて、なかなか買い物が進まなかったあるよ」
台場「私こういうことあんまり詳しくないんだけど、アンジェラって誰か外人の歌手とか女優とかに似てるの?」
国松「(首を横に振る)そういうの関係無いみたいよ。だってアンジェラのサインって、本名を筆記体のアルファベットで書いてるだけよ」
突如強烈なオーラを感じて、振り返る国松と台場。
そのオーラは「やぶへび」の売り場から発せられていた。
藪崎さんが鬼の形相と化していた。
国松・台場「ひっ?」
ニャー子「あーあ、先輩キレちゃったー」
スー「?」
やがて藪崎さんは売り場の机を乗り越え、自分の座っていたパイプ椅子を振り上げて、サイン男たちに突進した。
藪崎「(椅子を振り回し)おのれら何時まで昭和40年代のメンタリティーしとんねん!」
たちまち退散するサイン男たち。






24626人いる! 夏コミ開幕戦 その22 :2006/12/03(日) 02:06:09 ID:???
ニャー子「あのー先輩、何ですか昭和40年代のメンタリティーって?」
藪崎「昔大阪で万博があった時な、外国人のお客さんにサインねだるのが流行ったんや」
国松「そりゃまたどうしてですか?」
藪崎「当時はまだ外人が珍しかったからや。それに敗戦からまだ25年しか経ってなかったから、外人コンプレックスが今より強かったってのもあるやろ」
一同「…」
藪崎「そやから外人ってだけで、5割増しぐらいで綺麗でかっこ良く見えたんやろな。そんでただの観光客の外人が、映画スターや歌手みたいに見えたんやろ」
ニャー子「あのー先輩って歳いくつですかニャー?」
藪崎「お前の1個上や!これはおかんから聞いた話や!私はまだその頃、生まれるどころか影も形も無いわ!」
国松「で、何でそれを今のオタクがやってるんですか?」
藪崎「多分『クレしん』の映画の影響やろ」
国松「『クレヨンしんちゃん』ですか?」
台場「あっ分かった!『オトナ帝国』だ!」
藪崎「せや。正確には『クレヨンしんちゃん 嵐を呼ぶモーレツ!オトナ帝国の逆襲』ちゅうんやけど、その映画の冒頭の万博再現シーンで今の話が紹介されたんや」
台場「それで一部のオタクの間で流行ってると?」
藪崎「そういうこっちゃ」

アンジェラ「あの、よく分かんないけど、ありがとうございましたあるね」
アンジェラはいきなり藪崎さんに接近し、頬にキスした。
藪崎「ぎえ〜〜〜〜!!!何さらすんじゃい、この変態外人!」
ニャー子「先輩落ち着いて下さい。アメリカじゃそのぐらい挨拶代わりですニャー」
藪崎「ここは日本や!」
アンジェラ「あのう、お礼の積りだったあるが、お気に召さなかったあるか?」
藪崎「当たり前や!」




24726人いる! 夏コミ開幕戦 その23 :2006/12/03(日) 02:08:27 ID:???
アンジェラ「そうか、キスでは足りないあるか…」
しばし考え込むアンジェラ。
アンジェラ「ならばしょうがないある。後で一緒にホテルに行きましょうある」
藪崎「何考えとんのや、この変態外人!」
アンジェラ「私の体では、お気に召さないあるか?」
藪崎「当たり前やろ!」
アンジェラ「私はあなたみたいなポッチャリ型が好みあるが、あなたは私みたいな金髪の巨乳は嫌いあるか?」
藪崎「そういう問題やない!そもそも私もお前も、両方とも女やないか!」
アンジェラ「男女の違いなんて、地球や宇宙のレベルから見れば誤差みたいなもんあるよ。そんなことは大した問題じゃないあるよ」
藪崎「ドアホ!大した問題や!お前みたいな変態外人には分からんやろけどな、私の女の操はな、理想のメガネ君に出会った時に捧げると決めてるんや!」
一瞬時が止まる周囲。
国松「あの先輩、女の操って…」
自分の言い放ったことの意味に気が付いた藪崎さん、自らダメ押しをしてしまう。
藪崎「知ったな!私が処女だということを知ったな!」
ニャー子「知ったと言うか、まあそんなことだと思ってましたニャー」
さらによせばいいのに、とどめのひと言を付け加えてしまう。
(本人に悪意は無いのだが)
ニャー子「まあ別に誰も先輩のこと非処女だとは思ってませんでしたけど、何もそんな大っぴらに公表しなくても…」
藪崎「うわあああああああああ!!!」
藪崎さんは泣きながら走り去った。



24826人いる! 夏コミ開幕戦 その24 :2006/12/03(日) 02:10:08 ID:???
藪崎さんは涙の逃避行の途中、笹荻コンビに会った。
荻上「ヤブ、どしたの?」
藪崎「(涙目で)勝ったと思うな!」
再び走り去る藪崎さん。
荻上「意味分かんね…」
笹原「でも泣いてたよ、藪崎さん」
荻上「何かあったかな?」
後を追おうとした荻上会長に、不意に背後から加藤さんが声をかけた。
加藤「そっとしておいてやって」
荻上「加藤さん?」
加藤「ちょっと事情があってね、今回ばかりは荻上さんが行くのは、傷口に岩塩すり込むようなもんだから」
笹荻「???」

10数分後、藪崎さんは現視研1年女子と「やぶへび」の中から急遽メンバーを選んで編成された救助隊に捕捉され、粘り強い説得によって何とか落ち着き、売り場に戻った。
ちなみに救助隊編成の条件は、処女であることだった。
前述のカテゴリーの女子群の殆どが該当した為にかなりの人数が集まり、藪崎さんが「自分1人じゃない」と思えたことが勝因となった。
(誰が非処女かは、個人情報保護の観点から発表は差し控えさせて頂きます)

その後1年女子からの連絡で、それらの顛末を聞いてひと安心した荻上会長は、笹原と共に現視研の同人誌売り場に顔を出した。
有吉と伊藤が売り子をやり、その後ろで日垣が同人誌におまけコピー本を挟む作業をしていた。
荻上「どう、調子は?」
伊藤「まずまずですニャー。今でもう50冊近く出てますニャー」
笹原「そりゃまた順調だねえ」
開始からまだ1時間半程度しか経っていない。



24926人いる! 夏コミ開幕戦 その25 :2006/12/03(日) 02:12:22 ID:???
有吉「思ったより特装版が効いたみたいですね。朝神田さんと2人でとりあえず50冊ばかり作っといたんですが、売れたの全部特装版でした」
日垣「だからとりあえずあと50冊ばかり特装版にしときます」
そこへ浅田と岸野が戻って来た。
浅田「すまん、遅くなって」
有吉「随分かかったね」
岸野「まあ、ちょっと…いろいろあってね…」
2人はその顛末を話し始めた。

浅田と岸野の2人は、入場後まず売り子用のコスに着替え、先に入って売り場の準備をしてた神田と共に、神田の一家が委託販売している売り場へと向かった。
その売り場の売り子を担当していたのは、神田の両親だった。
母親の方の服装はTシャツにオーバーオールにバンダナと、さほど奇異な感じはしなかったが、父親は少し異様だった。
中途半端な長髪に眼鏡に無精ひげという、いかにも古参のオタという風貌の上に、「宇宙戦艦ヤマト」の艦内服に似たデザインの長袖Tシャツにホワイトジーンズという服装だ。
2人とも軽く40代半ばには達していると思えた。
神田父「いやいや、わざわざコピー本を運んでくれて、ほんとにありがとう。まあちょっと寄って行きたまえ。ミッチー、店番頼むよ」
売り子を神田に任せると、父は浅田と岸野を売り場の中に招き入れた。

岸野「それでコピー本運んだお礼にって、これもらったんだよ。神田さんとこの家族の人が作った同人誌」
岸野が出した同人誌は、神田が作った分を含めて4種類あった。
興味深げにそれを見る一同。



25026人いる! 夏コミ開幕戦 その26 :2006/12/03(日) 02:15:06 ID:???
浅田「その『宇宙戦士バルディオス』のがお父さん作、『ケロロ軍曹』のがお母さん作」
岸野「そんで『魔法のプリンセス ミンキーモモ』のが神田さんのお兄さん作で、『テニスの王子様』のが俺らが運んだ神田さん作」
笹原「お父さん渋い…」
荻上「神田さんってうちでもコピー本出してるのに…凄いわね」
日垣「お母さん若い…」
有吉「いくつなんだ、神田さんの兄貴?ミンキーモモだってバルディオスとそう変わらんぐらい古いんだけど…」
荻上「笹原さんバルディオス見たことあるんですか?」
笹原「ビデオでね。まあ何しろ四半世紀ぐらい前の作品だから、今見ると粗も目立つけど、コアなファンの人がいるのも無理ないと思える、いい作品だよ」
浅田「実はそれを見せられてたんですよ、俺たち」
岸野「お父さんがノートパソコン持って来てて、それに全話入ってるもんで」
浅田「1話見終わったとこで神田さんが間に入ってくれたから助かったけど、下手すりゃあのまま全話見せられるとこでしたよ」
岸野「まあその代わり、宿題もらってきましたけどね」
岸野がDVDを数枚取り出す。
笹原「まさかそれに…」
浅田「ええ、全話入ってます。まあ確かに1話見た感じではけっこう面白そうだったんで、コミフェス済んだら一気に見てみようかと思います」
一同『神田一家恐るべし…』

その後現視研の売り場には、クッチーとスー&アンジェラも顔を出し、神田一家の同人誌をみんなで見ている中、春日部さんがやって来た。
春日部「よっ、久しぶり。今年も店出してたんだな」
荻上「あっ春日部先輩、こんちわ」
1年一同「こんちわ」
春日部「(外人コンビに)あっ、あんたらも来てたんだ」
アンジェラ「お久しぶりあるね、春日部先輩」
スー「押忍、春日部先輩!」



25126人いる! 夏コミ開幕戦 休憩 :2006/12/03(日) 02:20:17 ID:???
春日部さんが出て来たところで申し訳無いのですが、今日はここまでとします。
後編は明日(もう今日ですが)投下します。

25226人いる! 夏コミ開幕戦 再開 :2006/12/03(日) 21:25:35 ID:???
あれっ?
歳末とか冬コミの原稿の追い込みとかで忙しいのか、何かイベントでもあったのか、それともたまたまか。
昨夜から今夜にかけて、誰も来てないな。
これじゃあ読む側からしたら、結局いっぺんに投下されたのと変わらんな。
まあいいや。
「26人いる! 夏コミ開幕戦」、後編行きます。
5分後に残り26レス、一気に投下します。

25326人いる! 夏コミ開幕戦 その27 :2006/12/03(日) 21:32:22 ID:???
春日部「『何ちゅう日本語だ???』あんたたち、日本語喋れるようになったんだな…」
笹原「久しぶり、来てたんだ。今日はどうしたの?」
さすがに春日部さんが本格的にオタク道に目覚めて、自主的に来たとは思えなかった。
春日部「高坂がさあ、企業ブースとかいうのに出品するんで、初日と2日目の2日間ここに泊り込むから、着替えと食事の差し入れよ」
笹原「大変だね」
朽木「まるで刑事の妻ですな」
春日部「よしてよ縁起でもない」
荻上「あの、お店の方は?」
春日部「お盆は世間並みに休むわよ。都心部の服屋でお盆に店開けてても、人件費食うだけだしね…」
笹原は春日部さんの表情に微かな翳りを感じ、思わず尋ねる。
笹原「何かあったの?」

しばしの沈黙の後、春日部さんは事情を語り始めた。
春日部「うちの店員ってさあ、私自ら面接して、話し方とか頭の良さとかファッションセンスとかをポイントに選んだんだよね」
笹原「?」
春日部「最初はうちの後輩とか恵子をバイトに入れようかとも思ってたんだけど、最初からなあなあになっちゃいけないと思ったから、敢えて求人かけて全くの他人を雇ったのよ」
荻上「それでうちの子たち使わなかったんですね」
春日部「それなのに、そんな精鋭中の精鋭たちのはずのうちの店員たちが、全員腐女子だったのよ」
一同「えっ?」
春日部「全員盆休みを希望するんで、里帰りしたり墓参りするのかと訊いてみたら、全員言うんだよ。夏コミに出たいからだって」
一同「…(汗)」





25426人いる! 夏コミ開幕戦 その28 :2006/12/03(日) 21:35:12 ID:???
春日部「見た目は全然オタっぽいとこ無いんだよ。髪形も化粧も服装も全然普通で、中にはむしろ私よりセンス良かったり、美人な子もいるんだよ。それが全員オタだよ」
一同『(荻上会長を一斉にチラリと見て)つまりこういう風ではない訳だな』
春日部「そりゃ私はあんたらの仲間だし、彼氏はあの高坂だ。これでも一生オタと縁が切れるこたあ無いと悟ってる積りだよ」
朽木「何と、春日部先輩からオタクカミングアウト宣言が出るとは!」
春日部「(クッチーの頭をはたき)仲間だとは言ったけど、オタとは言ってないっつーの!
でもそれにしても、まさかあの職場の従業員が全員オタだなんて、普通予想出来んだろ?」
笹原「もはや何と言うか、運命(さだめ)としか思えないね…」
スー「サダメジャ」
春日部「だからさあ、最近よく考えるんだよ。もしかしてこの国の私以外のやつって、全員オタクなんじゃないかって。私は一般人の最後の1人なんじゃないかって」
スー「(機械的な口調で)残念ナガラ、アナタノ言ウ通リデス。コノ星ハ、我々おたく星人ガ占領シマシタ。アナタハ最後ノ地球人デス」
春日部「あんたが言うとシャレに聞こえんからやめろ〜〜〜!!」

春日部さんが立ち去ってしばらく後、昼食を済ませた笹荻はコスプレ広場へと向かった。
いよいよ荻上会長の出番だ。
やや気持ちを高ぶらせながら歩く荻上会長と、それを優しく見守る笹原。
笹原「リラックスして、荻上さん。今日のコスはそんなに露出激しくないし」
荻上「ええ、がんばります!」
笹原「あっ…」
荻上「どうしたんですか?」
笹原「春日部さんに高坂君のメイドコスのこと言うの忘れたけど、大丈夫かな?…」
心配と不安で固まる2人。
そんな2人の傍らを、救急隊員たちがストレッチャーを運んでいく。
その上に乗せられていた、気絶した金髪の女性の顔には見覚えがあった。
笹原「…今の人、春日部さんに似てなかった?」
荻上「て言うか、本人ですよ!」



25526人いる! 夏コミ開幕戦 その29 :2006/12/03(日) 21:38:27 ID:???
ストレッチャーから少し遅れて、高坂が走ってきた。
彼にしては珍しく慌て気味で、しかもメイドコスのままだ。
笹原「高坂君、何があったの?」
高坂「あっ笹原君、何だか分かんないけど、咲ちゃんが来るなりいきなり倒れちゃって…とにかく一緒に病院に行ってくる!」
走り去る高坂。
それを呆然と見送る笹荻。
笹原「どう見ても高坂君が原因でしょうが…」
荻上「そうですね、春日部先輩あの格好の高坂先輩見たら、また気絶しますね…」
いきなり走り出す笹原。
荻上会長もそれを追う。
荻上「笹原さん!」
笹原「荻上さん、悪い!俺彼を追いかけて病院の場所聞いてくるから、君はプシュケのブース行って高坂君の服持ってくるように伝えて!」
さらにスピードを上げて走り出す笹原。
もはや荻上会長には追いつけない。
荻上「笹原さんって、こんなに足速かったっけ?あの人ひょっとして、仕事でも全力で走らなきゃいけないことが多いのかな?」
後日荻上会長は、その理由を知ることになるが、それはまた後の話。

一方現視研の売り場では、豪田・沢田・台場の3人が集合し、店番を1年男子たちと交替した。
巴はまだ粘って並び続けていた。
神田も別のサークルの売り場の売り子を続けている。
国松はコスの着付けを手伝う為に、いち早くコスプレ広場に向かっていた。
現視研同人誌の売り上げは順調だった。
昼過ぎの時点で、すでに80冊以上出ていた。
殆どが特装版だ。
この調子なら完売も夢じゃない。



25626人いる! 夏コミ開幕戦 その30 :2006/12/03(日) 21:40:31 ID:???
これから男子たちはコスプレ広場に向かう。
みんな何のかんの言っても、大野さんと荻上会長と恵子のコスが見たいのだ。
(ちなみに彼らは買い物も、売り子の合間に交代でざっと回っていた)
特に浅田と岸野は、田中に続く次期写真係として張り切っていた。
彼らがオタ道に入ったきっかけが、とあるコスプレ撮影会だったということもあって、彼らのコスプレ撮影にかける意気込みは凄まじい。
ちなみに日垣はコスの着付けの手伝いの為に、既にコスプレ広場に行っていた。

1年男子たちが立ち去ったのと入れ違いに、神田が帰ってきた。
神田は大荷物だった。
カートでダンボール箱を1つ運んできた上に、背中のリュックサックもパンパンに膨れ上がっていた。
それをハルヒの高校のセーラー服姿で運んでる姿は、いかに夏コミ開場でもチト異様だ。
神田「ただいまー!ああ疲れた!」
豪田「えらい大荷物ね。どしたの?」
神田「分担購入に参加出来なかったお詫びに、知り合いのサークルからたくさんお土産持ってきたのよ」
沢田「それじゃあその荷物、全部同人誌?」
神田「パパとママとお兄ちゃんの知り合いのサークルだから、ちょっとネタは古いけどね」
台場「どれどれ、ちょっと見せて」
楽勝ムードの1年女子たちは、お気楽モードで店番しながら神田のお土産を観賞し始めた。
その間もぼちぼちと同人誌は売れ続けていた。

10数分後。
豪田「で、どうよ?」
台場「どうよと言われてもねえ…」
沢田「何かネタが古過ぎる上にマニアック過ぎて、よく分かんないのが多いんだけど…」
神田「そうかなあ、何冊か読んだけど、けっこう面白いと思うけどなあ」
豪田「ヤオイ系は何かやたらと乱交ネタが多いわね」




25726人いる! 夏コミ開幕戦 その31 :2006/12/03(日) 21:45:02 ID:???
台場「でも、『うっちゃれ五所瓦』で『五所瓦君総受け化計画』ってのはどうよ?」
沢田「会長の『傷つけた人々へ』の影響かなあ。やたらと『〜総受け化計画』ってのが多いわね」
神田「これもそうね。『バキ』ネタで『薫君総受け化計画』。会長なら気に入ってくれるかも。メガネ君受けだし」
台場「薫君って…オヤジ顔の巨漢やくざじゃないの!」
神田「でも一応未成年で法的には少年よ。名前も花山薫と耽美系だし」
豪田「そういう問題じゃないでしょ!」
沢田「『バキ』でオヤジでメガネと言えば、こっちには愚地×渋川本が…」
神田「両方メガネ君でリバ可だから、藪崎先輩あたりに受けそうね」
台場「メガネ『君』じゃないでしょう、メガネ『君』じゃ!むしろ大野さん向けでしょ、その組み合わせは」
神田「普通のヤオイもあるわよ。ほらアトム×コバルト本」
豪田「アトム攻めなんだ…」
沢田「て言うか、誰が買うのその本?」
神田「手塚治虫原理主義者の人にはウケるんじゃない?絵柄は原作そっくりだし」
沢田「そういう問題では…」
豪田「あっもう1冊乱交系ヤオイ発見」
台場「で、ネタは?」
豪田「『まんが道』…」
沢田「もしかして『満賀道雄総受け化計画』とか?」
冷や汗かきながら頷く豪田。
沢田「マジ?」
豪田「ドンピシャ大当たり」
台場「(パラパラと読んで)手塚先生に寺田先生に藤子F先生に石ノ森先生…亡くなった方だらけね。祟られるわよ、この作者」




25826人いる! 夏コミ開幕戦 その32 :2006/12/03(日) 21:47:52 ID:???
その頃、コスプレ広場の更衣室では、クッチーが油汗を流していた。
国松「朽木先輩、トイレは大丈夫ですか?」
朽木「さっき行ってきたから、多分大丈夫だにょー」
国松「それじゃあパンツとシャツだけになって、頭にタオル巻いて下さい」
朽木『これだけは何回やっても慣れんのう』
ノロノロと脱ぎ始める。
これからクッチーは、妖怪人間ベムの変身後の着ぐるみコスを着るのだ。
着ぐるみの中はたいへん暑いので、着る者はパンツとシャツだけになる。
あとはタオルの鉢巻き等で髪を止める程度だ。
着ぐるみ制作の過程で、体に合わせて調整する為に、何度かその格好になっている。
それでもクッチーは毎回妙な緊張をした。
小柄でロリ顔の美少女の目の前で服を脱ぐという行為は、いかにクッチーと言えどもやっぱり恥ずかしいのだ。
だが当の国松はと言えば、平然として顔色ひとつ変えない。

当初クッチーのそんな男心を理解した日垣は、こう提案した。
日垣「ねえ国松さん、やり方教えてくれたら俺やるからさあ…」
だが国松は最後まで言わせずに反論した。
国松「細かいとこは口では上手く説明出来ないから、やっぱり私がやるわ。その代わり、一緒に着付け手伝って」
それでは意味無いのだが、そう言われては反論しようがない。

ベムの着ぐるみは、胴体と四肢が一体になって繋がっている、ツナギのような構造だ。
肘から先と膝から先は、手袋と長靴のように本体から脱着出来るようになっている。
着る時は、先ず背中のチャックを開けて足から入り、次に両腕を袖に通してから背中のチャックを閉める。
そして頭部を被り、頭部と胴体のつなぎ目にある電極を接続する。
最後に膝から先を履き、肘から先をはめる。
あとは腋の下にある電池ボックスのスイッチを入れれば目が光り、完成だ。



25926人いる! 夏コミ開幕戦 その33 :2006/12/03(日) 21:49:48 ID:???
これらのプロセスは、着ぐるみを着る本人だけでは出来ない。
特に背中のチャックの開閉は、必ず誰かにやってもらわねばならない。
分厚い着ぐるみを身に付けたら、絶対に背中の真ん中まで手が回らないからだ。
クッチーが今回着る着ぐるみは、まだヒューマノイド型だからこの程度で済むが、本格的な怪獣だとこれだけでは済まない。
体の厚みや首の長さが全然違うので、例えば上体を着込む作業だけでも、上体を持ち上げてくれる助手が必要である。
それに視界が悪く、足元がおぼつかないので、撮影用のセットまで誘導する係も要る。
まあ今回のはヒューマノイド型なので、国松と日垣が少し手伝う程度で済んだ。

国松が、着ぐるみを着込んだクッチーの体中を撫で回す。
朽木「はうあ!」
思わず奇声を上げるクッチー。
国松の手が股間にまで及んだのだから無理も無い。
だが国松は全く気にせず、着ぐるみのチェックを続ける。
国松「じっとしてて下さい…よし、特に問題のある箇所は無さそうね。先輩、ちょっと動いてみて下さい」
シェーやコマネチなどのけったいなポーズを取るクッチー。
国松「どっか動かしにくいとこありますか?」
朽木「大丈夫、良好だにょー」
国松「のぞき窓から前は見えますか?」
朽木「視界良好とは言わんけど、何とか見えるにょー」
国松「息苦しくないですか?」
朽木「大丈夫、マスクを付けた程度ぐらいだにょー」
国松「機電のスイッチ入れてみますね」
クッチーの左の腋の下に手を入れる国松。
朽木「にょ〜〜〜〜!!」
国松「動かないで下さい!」
ベムの目が点灯した。



26026人いる! 夏コミ開幕戦 その34 :2006/12/03(日) 21:51:42 ID:???
国松「よしオッケー!朽木先輩、自分で操作出来そうですか?」
朽木「やってみるにょー」
クッチーは右手を自分の左の腋の下に入れた。
ベムの着ぐるみの手は、指が3本しかない。
その為クッチーの指は、親指、人差し指と中指と薬指、小指に3分割して、やや太目のベムの指の中に収納されている。
もちろんこれでは、手先は思うようには動かせない。
だがそれでもクッチーは、かろうじて親指でスイッチを操作することに成功した。
目の電球を1度消して、再び点ける。
朽木「大丈夫、やれそうだにょー」
国松「これで助手が要るのは、着ぐるみの脱着だけですね」

国松「それじゃあ私は売り場に戻りますけど、くれぐれも無理せずに15分か20分ぐらいごとに、必ず上半身だけでも着ぐるみ脱いで休憩取って下さい」
朽木「ラジャー!」
国松「水分の補給も忘れないで下さい。スポーツドリンクたくさん買っときましたから、小まめに飲んで下さい」
朽木「了解!」
国松「それからこういう時の返事は『GIG!』です」
朽木「GIG!『そうなのかにょー?』」
(注釈)「GIG!」
「ウルトラマンメビウス」に登場する怪獣攻撃チームGUYS(ガイズ)で使われる「了解!」の意味の返事で、「GUYS IS GREEN」の略である。
ちなみに元ネタは特撮人形劇「キャプテン・スカーレット」の地球防衛チームスペトラムの「SIG!」(「SPECTRAM IS GREEN」の略)。













26126人いる! 夏コミ開幕戦 その35 :2006/12/03(日) 21:55:37 ID:???
同人誌観賞会の真っ最中の売り場に、国松が戻ってきた。
豪田「お帰り。どうコスプレの方は?」
国松「エヘヘ」
得意気にデジカメを差し出す国松。
それを再生して見る一同。
そこには荻上会長・大野さん・クッチー・恵子が写っていた。
沢田「わー荻様可愛い!」
台場「こりゃまたえらく巨乳のベラね」
豪田「これクッチー先輩?何か本物っぽいわね」
神田「恵子さん、スッピンだと割と可愛いわね」
国松「どう?なかなかのもんでしょ」
豪田「あとで交替で見に行きましょうよ」

再び神田のお土産同人誌観賞会となった、現視研の同人誌売り場。
神田「これなんか国松さんにピッタリじゃない?(同人誌を差し出す)」
国松「(顔をしかめ)『セブン総受け化計画』?」
神田「ウルトラ兄弟全員でヤオイよ」
豪田「セブンってことは一応メガネ受けね」
台場「しかも絵柄内山まもるだし…あっこっちのは?(同人誌を差し出す)」
国松「『怪獣使い×少年』?」
台場「金山さん×良少年のカップリングみたい」
国松「原理主義者の人に見られたら殺されるわよ、この作者」
「帰ってきたウルトラマン」のエピソード「怪獣使いと少年」は特撮オタの間でも評価が二分している問題作だ。
暗い重い救いが無いの三拍子揃ってる上に、ウルトラマンに民族差別問題を絡めたことに拒否反応を示すアンチ派の人も案外多い。
一方で好きという人はトコトン押すこともまた事実で、中にはこの1本があれば他の話はいらないとまで言い切る原理主義者の人も多数実在する。



26226人いる! 夏コミ開幕戦 その36 :2006/12/03(日) 21:57:29 ID:???
濃過ぎるヤオイ話に付いて行けなくなった国松、再びコスプレ広場に戻ることにした。
国松「ちょっとコスの方見てくるわ」
台場「やっぱ気になるの?」
国松「うん、ベムの方ちゃんと動けてるか心配だし…」
走り去る国松。
数分後、入れ替わるように巴が帰ってきた。
豪田「おかえりー、随分遅かっ…わっ!!」
豪田が驚くのも無理は無かった。
売り子用のセーラー服に着替えた、巴の荷物は凄まじい量だった。
背負った大型のリュックサックは同人誌でパンパンに膨れ上がっており、そのパンパンのリュックの上からさらに紙袋がグルグル巻きに紐で括り付けられている。
その紐の隙間に、特典らしいポスターを巻いた筒が数本刺さっている。
両肩には半ダースほどの紙袋をぶら下げ、両手にも紙袋を数袋持っていた。
さらにリュックの下部には、カートの取っ手が登山用のD字金具で繋がれており、そのカートにも数袋の紙袋が括り付けられている。
いずれの紙袋も同人誌でパンパンに膨れ上がっている。
全部合わせれば、巴自身の体重より重いかも知れない。
(参考)
大日本帝国陸軍の歩兵は、自分たちの体重と変わらない50〜60キロの荷物を背負って、1日に何十キロも「徒歩で」行軍していた。
それが可能だったのは、当時の軍人には農家出身者が多く、畑仕事で鍛えられた為だと言われている。

豪田「まるで合宿の装備を全部背負ったあーる君ね」
台場「山ごもりの道具を全部背負った刃牙みたい」
沢田「デンドロビウムみたい…」
神田「いやむしろ、ミーティアと合体したフリーダムみたい」
各自が勝手な感想を述べる中、巴は荷物を降ろして椅子のひとつに座った。
巴「あー疲れた。主だった大手はあらかた押さえたから、あとでゆっくり読んで」
一同「お疲れ様!」



26326人いる! 夏コミ開幕戦 その37 :2006/12/03(日) 21:59:41 ID:???
巴「ほんとは昼飯抜きで最後まで並んでやろうかとも思ったけど、店番もしなきゃいけないからね」
やや遅めの昼食にかかる巴。
沢田「いくら何でも、それは無茶よ」
巴「そうでもないわよ。朽木先輩の時は、飲まず食わずで終了までやってたらしいわよ」
一同「凄―い!」
素直に感心する1年女子一同。

ここらで話を笹荻に戻そう。
結局笹原は高坂たちに追いつき、一緒に救急車に乗り込む破目になった。
病院から荻上会長に行き先の病院の名前と場所を連絡し、それを彼女は企業ブースに走りプシュケの人に連絡した。
プシュケの人は高坂の私服を持って病院に向かった。
荻上会長は笹原に、そのことを連絡した。
(この間笹原は、病院内で携帯が使えないので、外で連絡を待っていた)
笹原「そろそろコスプレの時間だよね。俺、こっちでプシュケの人来るの待ってるから、荻上さんはもうコスプレ広場の方行って」
荻上「すいません、それじゃあ、あとお願いします」

だが2人のそんな苦労は、結局のところ取り越し苦労に終わった。
笹原とプシュケの人が病室に入ると、意識を取り戻した春日部さんと高坂はデレデレしていた。
高坂がメイドコスのままなのにだ。
春日部「だって高坂、可愛過ぎるんだもん。思わず失神しちゃった」
我々の苦労は何だったのだろうと呆然としつつも、「でもあの格好で帰るのも何だから、まあいいか」と自分を納得させ、笹原は病院を後にした。



26426人いる! 夏コミ開幕戦 その38 :2006/12/03(日) 22:02:11 ID:???
そんな事情で笹原がコスプレ広場に来たのは、大野軍団が出撃してから1時間ほど後のことだった。
着くなり彼を迎えたのは恵子だった。
恵子はブレザーとミニスカートにベレー帽という格好だった。
それが「妖怪人間ベム」の新キャラの女の子キラの学校の制服らしい。
恵子「よう兄貴」
笹原「(コスを見て)ふーん、お前がそういう格好するとはなあ…」
恵子「なかなか似合うっしょ、これ?まあ設定上は小学校の制服らしいけどね、うちの高校セーラー服だったから、何か新鮮」
思いの他、お気に入りのようだった。
恵子「そんじゃあたし帰るから」
笹原「もう帰るのか?」
恵子「明日のコスの為に髪染めなきゃなんないからね。終わるまでここにいたら何時帰れるか分かんないから、ヘアサロン閉まっちゃうわよ」
笹原「そっか」
スッピンのせいか珍しく妹をもう少し見ていたい気になり、ちょっと別れを惜しむ笹原。
恵子「それに今、ちょっとややこしいことになってるのよ、コスプレ広場」
笹原「えっ?」
恵子「そんじゃあ、あとよろしく!」
トンズラーという擬音が聞こえそうな、見事な逃げっぷりで走り去る恵子。
笹原「ややこしいって…何が起きてるんだ?」

恵子の言う通り、コスプレ広場はややこしいことになっていた。
いや正確には、ややこしいと言うより何ともシュールな光景になっていた。
肩の露出した紫のロングドレスにマントという格好のベラ役の大野さん、赤いシャツに赤いズボンという格好のベロ役の荻上会長、そして普段通りの格好のカメラを抱えた田中。
その3人が、セーラー服姿の国松に怒鳴られて平身低頭しているのだ。
国松は髪に、ややオレンジがかった黄色のリボンを鉢巻きのように巻いていた。
しかもご丁寧に、セーラー服には「団長」の腕章が付いていた。
つまり思い切りハルヒコスなのだ。



26526人いる! 夏コミ開幕戦 その39 :2006/12/03(日) 22:04:45 ID:???
コスプレ広場で騒ぎが起こっていた頃、現視研の売り場では相変わらず同人誌鑑賞会が続
いていた。
途中からアンジェラとスーも加わっていた。
豪田「男性向けのやつも…微妙なのが多いなあ」
神田「そう?これなんかダメかな?百合ものなんだけど」
台場「で、お題は?」
神田「オバQ」
一同「オバQ?」
神田「うん、U子×P子本」
豪田「もしかして、原作通りの絵柄で?」
神田「うん」
固まる一同。
巴「そんな需要があるの?」
沢田「男女のノーマルなのは…一応あったけど…『ゲゲゲの鬼太郎』」
台場「で、カップリングは?」
沢田「子泣きじじい×砂かけばばあ…」
神田「どれどれ、(沢田の持つ同人誌見て)これはこれでなかなか…」
豪田「んな訳無いでしょ!」
台場「あと男女のカップリングと言えば…あるにはあったけど…」
豪田「どれどれ、おっファーストじゃない…これは…」
巴「どしたの?カップリングは?」
台場「ギレン×キシリア」
沢田「あるんだ、そんな需要が…」
アンジェラ「OH、ショタもの発見ある」
台場「何の?」
アンジェラ「『子連れ狼』あるね」
台場「…もしや、一刀×大五郎?」
アンジェラ「そのようあるね。パパさんが坊やに…」



26626人いる! 夏コミ開幕戦 その40 :2006/12/03(日) 22:11:47 ID:???
台場「鬼か一刀!まさに冥『腐』魔道!それにしてもアンジェラ、よく絵見ただけで分かったわね、『子連れ狼』」
スー「押忍!『子連れ狼』はアメリカでも英訳されて販売されてましたし、映画版もアメリカで公開されてヒットしたので、割と有名であります!」
ちなみにアメリカで公開されたのはシリーズ2作目の「子連れ狼 三途の川の乳母車」。
これを配給したプロデューサーのロジャー・コーマンは「この映画を作った奴は天才か、さもなくばキ○ガイだ!」と絶賛したそうだ。
まだスプラッタ映画の無かった70年代に、手足や首がポンポン切断され、噴水のように血が吹き出すこの映画は、今でもアメリカではカルト映画として人気がある。
そういった事情をスーが説明した。
1年女子一同『だとしても、何でこの2人が知ってる?あれ30年以上前の映画でしょ?』
アンジェラ「あっもう1冊『子連れ狼』本発見したある。こっちはヤオイみたいあるね」
台場「どんなカップリング?」
豪田「(横からのぞいて)烈堂×一刀みたいね」
台場「一刀受けなんだ…」
豪田「ちなみにタイトルは『柳生劣情』…何ちゅうセンスの無い…」
巴「新しい漫画やアニメのは無いの?」
台場「あんまし無いわね…原作は古いけど最近アニメ化されたのなら、『ガラスの仮面』があるけど…ヤオイみたいね」
豪田「で、カップリングは?」
台場「全日本演劇協会理事長×速水会長…」
沢田「またえらく大野先輩向けな…」
台場「ちなみにタイトルは『会長お願いします』…」
一同「…」
神田「どう?なかなかの個性派揃いでしょ?」
台場「どう評価していいか分かんない…」
(作者注)
神田さんの持ち込んだ同人誌は、可能な限り有り得ないと思えるのを考えてみましたが、もし実在したらお知らせ下さい。
このスレにて謝罪しますので。



26726人いる! 夏コミ開幕戦 その41 :2006/12/03(日) 22:14:33 ID:???
再びコスプレ広場に話を戻そう。
妖怪人間のベラとベロとチョンマゲのカメコが、涼宮ハルヒに叱られている。
そんなシュールな光景は、一般人の恵子には「ややこしいこと」と映ったのも無理は無かった。
ブレザーのままやって来た1年男子たちが、その光景を遠巻きに見ていた。
笹原「何が…あったの?」
日垣「あっ笹原先輩」
日垣の説明によると、クッチーが暑さでぶっ倒れたというのだ。
クッチーのベムは、カメコたちや年配のお客さんが連れてきた子供たちに大人気だった。
暑いんだからじっとしてればいいのに、思わぬ人気にクッチーはつい調子に乗った。
オリジナルのベムのアクションは、手の爪で襲い掛かる獣的な動きか、ステッキでのチャンバラが多い。
だがクッチーはパンチ(と言っても手は3本指で握れないなので、掌底突きに近い動きだが)のコンビネーションやハイキックなど、普段ベムの見せない空手的な動きを披露した。
おかげでさらにクッチーの周りにカメコが集まり、クッチーもノリにノった。
こうなるとクッチーは止まらない。
途中で小まめに休憩するようにとの、国松の忠告も忘れて動き続けた。
笹原「それでぶっ倒れたと…」
浅田「そこへちょうど国松さんが様子見に来て、こうなってる訳です」

国松「あなた方は何を考えてるんですか!」
国松に怒鳴られてシュンとなる大野さん、田中、荻上会長。
国松「着ぐるみってのは頻繁に休憩しなきゃダメなんです!それを炎天下の中で1時間以上もぶっ続けで着させて、しかもメチャクチャ動き回らせてどうするんです!」
大野「ごっ、ごめんなさい」
国松「会長も何で止めないんですか?!」
荻上「ごめん…」
田中「いっ、いやー朽木君タフなもんだから、つい忘れてて…」



26826人いる! 夏コミ開幕戦 その42 :2006/12/03(日) 22:16:46 ID:???
国松「いいですか、スーツアクターってのは、この世で1番過酷な仕事なんです!」
笹原は止めようと思ったが、国松の凄い見幕に割って入れない。
1年男子たちも同様だ。
国松「プロのスーツアクターでも、30分以上着続けて死にそうになった事例があるんです!それをいくらタフでも素人にこの炎天下で…」
(実例)
昔あるワイドショー番組で、ヒーローの着ぐるみの中の人とその家族を招いて、いろいろ話をするという企画があった。
その番組の冒頭で、スタジオでヒーローと怪獣のアトラクションショーが行われた。
ヒーローの人は、その後すぐに素顔で番組出演する段取りだったので、すぐ着ぐるみを脱いだ。
だが怪獣の中の人は、そのまま取り残された。
今回円谷プロの特撮班スタッフではなく、通常の番組スタッフが撮影していた為だった。
(特撮班の人は着ぐるみの中の暑さを知ってるから、撮影中カットが入るとすぐに着ぐるみのチャックを開けて脱がせてくれる)
怪獣の中の人の述懐によれば、途中でヒーローの人が気付いたので事無きを得たが、あと少し発見が遅かったら危なかったそうだ。

国松は怒りに耐えるようにブルブルと震え出し、ポロポロと涙をこぼした。
特撮オタ、もとい乙女の涙にたじろぎ、オロオロする3人。
そして国松は、ついに怒りを爆発させた。
国松「スーツアクターを甘く見るな!!!」
再びシュンとなる3人。
国松の後ろから、ふらつきつつも復活したクッチーが近付く。
首から下はベムの着ぐるみのままだ。
朽木「あの、もうそれぐらいでいいから、国チン」
国松「よくありません!朽木先輩は着ぐるみ脱いで日陰で寝てて下さい!浅田君!」
浅田「えっ?」
国松「岸野君と一緒に、朽木先輩日陰まで運んで!」
浅田・岸野「分かった!」



26926人いる! 夏コミ開幕戦 その43 :2006/12/03(日) 22:19:42 ID:???
首からぶら下げていたカメラを脇に回し、浅田はクッチーの両脇を、岸野はクッチーの両脚を持ち、落ち着いた様子で抱えて運んで行く。
この2人、こういう事態にも慣れているのかも知れない。
浅田「(運びながら)とりあえず着ぐるみ脱がせて、水飲んでもらえばいいかな?」
国松「あと浅田君塩持ってたでしょ?水筒1本ならふたつまみぐらい水に混ぜて!」
浅田「了解!」
岸野「(運びながら)俺の水はタオルにしませて頭に乗っけて、あとは体にぶっかけとくよ。あと売り場に小型扇風機あるから、それ持って来て風当てとくね」
国松「お願い!」
国松「あと有吉君と伊藤君、手分けしてコンビニに走って!」
伊藤「何買ってくればいいかニャ?」
国松「スポーツドリンクとミネラルウォーター、それに氷を出来るだけたくさん!」
伊藤「ラジャー!」
有吉「了解!」
走り出す2人。
国松「急いでね!前にも言ったけど、使える助監督の必要最低条件はフットワークがいいことだから!」
日垣「いや助監督じゃないし…」
国松「日垣君は私と来て!」
日垣「どうするの?」
国松「朽木先輩の着ぐるみ脱がせたら、すぐに着付けに入るから」
日垣「えっ、俺がやるの?」
ギロリと睨む国松。
日垣「ひっ!」
国松「元々そういう設計思想であの着ぐるみ作ったの忘れたの?朽木先輩が倒れた以上、あなた以外誰が着るのよ!」



27026人いる! 夏コミ開幕戦 その44 :2006/12/03(日) 22:22:10 ID:???
大野「あの国松さん、いいんですか?だってスーツアクターは過酷だって…」
カメコたちを指して国松が叫ぶ。
国松「あなた方にはコスプレを楽しみに来ている、子供たちの姿が見えないんですか?!お客さんが来てる以上、やらない訳には行かないでしょう!それでもプロですか?!」
荻上「いや、プロじゃないし…」
大野「それにカメコさんたちは、おっきなお友達だし…」
ギロリと睨む国松。
荻上・大野「なっ、何でもありません!」
国松「私は日垣君の着付けと朽木先輩の手当て手伝ってきますから、撮影続けてて下さい!」
さらに国松は、彼女の見幕に固まって待機してたカメコたちにも声をかけた。
国松「すいません撮影続けてて下さい。すぐに代わりのベムよこしますんで」
カメコたちに一礼して走り去る国松。

とりあえずベラとベロだけで撮影が再開され、その合間に小声で会話する2人。
大野「国松さんって、特撮のことになったら人間変わりますね」
荻上「それは私たちだって同じですよ。大野さんはコスプレ、私はヤオイのことになったら人変わるじゃないですか」
大野「そうですよね。その意味じゃ彼女も立派なオタクですね」
荻上「まあ彼女の代になったら、本格的な怪獣の着ぐるみ作りそうですね。日垣君に着させて映画でも撮るかも…」

遅まきながら声をかける笹原。
笹原「やあ、大変だったね」
荻上「笹原さん…」
笹原「ごっ、ごめん。もうちょっと早く止めに入りたかったんだけど、国松さんの見幕が凄くて、なかなか入る隙が無くて…」
大野「まあ…しょうがないですね。田中さんも止めれなかったし」
田中「面目ない」
荻上「それに国松さんの言う通りだし…」



27126人いる! 夏コミ開幕戦 その45 :2006/12/03(日) 22:24:19 ID:???
現視研の売り場では、売り子をしている台場と神田も含めた全員が、相変わらず同人誌を読み耽っていたが、それでも同人誌はぼちぼちと売れていた。
売れたのは殆ど特装版だった。
マスコミは景気回復と言い始めている昨今だが、まだまだ庶民レベルでは不景気が続いている。
そんな中、お値段据え置きでおまけコピー本が付いてくる特装版は、腐女子たちにもありがたかった。
台場「千里遅いわね。何かあったのかしら?」
神田「何か特撮系の同人誌かイベントでも発見したんじゃないかな」
豪田「ミッチー、あとどのぐらい残ってる」
神田「えーと40冊少々ってとこね」
豪田「何とか売り切っちゃいたいわね」
巴「(立ち上がり)よし、最後の追い込みにかかるか。(売り場の前に出て)いらっしゃいませー!どうぞ見ていって下さーい!」
景気良く客引きを始めた。
豪田「よし、私らもやるか!」
こうして現視研1年女子一同(スー&アンジェラ含む)は、売り場前で客引きを始めた。

そこへ浅田が戻ってきた。
急いでいるらしく、小走りだ。
浅田「(扇風機を持って)悪い、これ持ってくよ」
神田「どしたの?」
浅田「朽木先輩が熱中症で倒れたんだよ」
一同「朽木先輩が?」
浅田「このかんかん照りの中、1時間以上も着ぐるみで動き回っていたからね」
巴「無茶するわね」
沢田「あの、私たち何か手伝えることある?」
浅田「とりあえず大丈夫だよ。朽木先輩には日陰で休んでもらってるし、伊藤君と有吉君が氷やら何やら買いに走ってるし」
沢田「そう。(一同に)ねえ、みんなで様子見に行きましょうよ」



27226人いる! 夏コミ開幕戦 その46 :2006/12/03(日) 22:26:56 ID:???
浅田「あ、それなんだけど、こっちに来る前に朽木先輩に言われたんだよ。自分のことは心配無いから、同人誌完売目指して頑張れって」
神田「クッチー先輩…」
巴「分かった!朽木先輩の遺言、確かに受け取ったわ!」
豪田「こらこら、勝手に殺すなってば」
浅田「あの、朽木先輩ちゃんと意識はあるから…」
巴「よしみんな、こうなったら絶対完売するよ!こっからは朽木先輩の弔い合戦だ!」
台場「だから勝手に殺すなと言うに!」
こうして朽木効果で現視研同人誌は、無事完売した。
ほぼ9割がた特装版だった。

コスプレ広場に、国松が中身日垣のベムを連れて帰ってきた。
国松「(カメコたちに)みなさーん、お待たせしました!」
日垣「(いかにもモンスターという感じで両手を上げ)がああああ!!!!」
笹原「うわあ日垣君、ノリノリだ」
その後も日垣は、先程までのクッチー版ベムと対照的に動物的な動きを繰り返し、これはこれでウケた。
もはやベムと言うより、アマゾンライダーのような動きだ。
それを見て満足そうに微笑む国松。
国松「日垣君がんばった甲斐があったわね」
荻上「がんばった?」
国松「もしも朽木先輩が来れなかった時に代役やるとしたら、どう動いていいか分からないって日垣君言うんで、2人で大学の近所の動物公園行ったんですよ」
笹原「動物公園?」
国松「最初のゴジラの着ぐるみに入ってた中島春雄さんは、怪獣の動きを考える参考にする為に、動物の動きを見に動物園に通ったそうなんです」
笹原『…素直に「妖怪人間ベム」のビデオ見ればいいじゃん』



27326人いる! 夏コミ開幕戦 その47 :2006/12/03(日) 22:29:43 ID:???
国松「日垣君、誰かに客観的に見てもらわないと分からないからって言うんで、私も付いてって動物の形態模写の特訓やったんです」
荻上「それって、動物園で?」
国松「ええ、見本のいるとこでやんなきゃ意味無いですからね」
平然と言い放つ国松。
笹原『恥ずかしかっただろうな、日垣君…』
荻上『でもそれを傍で平然と見てた国松さんも、何か怖い…』
国松「まあ3回ぐらい行きましたからね、おかげでかなり上手くなりましたよ。うちに招いて晩御飯ご馳走した甲斐がありましたよ」
笹荻『おうちで晩御飯?これって、多少風変わりだけど、やっぱデートなのか?』
かつて自分たちがデートした場所ということもあって、笹荻にとって国松と日垣の行動は、かなり意味深なものに思えた。

1日目終了間際、荻上会長は「やぶへび」の売り場に寄った。
先程の騒ぎの顛末を知っていたので、笹原が一緒なのはまずいと判断して1人で来た。
笹原も彼女の判断を尊重し、現視研の売り場で待っていた。
藪崎「そっち完売したんか?」
荻上「まあ、おかげ様で。ヤブの方は?」
藪崎「10冊ちょいだけ残ってもた」
荻上「そう、残念ね」
藪崎「勝ったと思うなと言いたいとこだけど、今回は素直に負け認めるわ」
荻上「そんな、今回のは私あんまり関わってないし」
藪崎「いいや、あの本はあんたの魂引き継いでる子らが作った本や。だからあんたが作ったも同然や」
荻上「魂ってほどのもんは引き継げてないけどね」
藪崎「あっそや、大変やったらしいな、コスプレの方は。大丈夫なんか、倒れたアホは?」
荻上「まだちょっとふらついてるけど、何とか歩いて帰れそうよ」
藪崎「まああのアホやったら、歩けたら大丈夫やろ。あんまし気にしなや」
荻上「でも会長は私だから、責任は私にあるわ。あとで謝んないとね、朽木先輩と国松さんに」



27426人いる! 夏コミ開幕戦 その48 :2006/12/03(日) 22:36:49 ID:???
そして帰り道、例によって例のごとく、駅への道は行列状態だった。
現視研の面々も、その中でノロノロと進んでは止まりを繰り返していた。
荻上「あの、国松さん、朽木先輩、今日はごめんなさい」
荻上会長の意図に気付いた大野・田中コンビも、近付いてきて彼女に続いた。
大野「私もごめんなさい」
田中「ごめん」
頭を下げる3人。
朽木「まあまあお三方、どうか頭上げて下さいな。そもそも僕チンが調子乗り過ぎたのがいけないんだから。ねえ、国チンももう怒ってないでしょ?」
国松「(慌てて)えっええ。私も悪かったんですから、どうか頭上げてください」
荻上「国松さん…」
国松「初めて着ぐるみ作ったもんで舞い上がってて、スーツアクターに小刻みに休憩入れなきゃいけないこと、朽木先輩にしか言ってなかった私も悪いんです」
荻上「失敗は誰にでもあるわよ、気にしないで」
国松「自分の知識は全部常識だと思い込んで、特撮オタが自分だけだってこと、忘れてました。オタクの悪い癖ですよね」
大野「そんなの現視研じゃみんなそうですよ、自分を責めないで下さい」
国松「私こそ興奮しちゃって、生意気なこと言っちゃってすいませんでした。(ペコリと頭下げる)」
荻上「そんな、国松さんこそ頭上げてよ。責任者は私なんだし、あなたの言ったことは何ひとつ間違ってないわ。」
大野「そうですよ」
田中「気にすんなよ」
しばしの間、何やら考え込む国松、やがて口を開く。
国松「あの会長…明日は私にコスプレ班のマネージャーやらせてもらえませんか?」
一同「マネージャー?」



27526人いる! 夏コミ開幕戦 その49 :2006/12/03(日) 22:45:11 ID:???
国松「明日のコスプレって、ハガレンでしたよね。朽木先輩以外の人も、あの服じゃかなり暑いと思うから、全員の体調管理をしたいんです」
荻上「体調管理?」
国松「食事や飲料水の用意とか管理とか、私が一括してやろうと思うんです」
荻上「もしできるならありがたいけど、1人じゃ大変でしょ?大丈夫?」
国松「日垣君にもアシストしてもらいますから、力仕事は大丈夫です。私これでも、高校の時は柔道部のマネージャーだったから、そういうの慣れてるんです」
一同「柔道部?」
国松「ええ。あれっ?言ってませんでしたっけ?」
一同「(揃って首を横に振り)言ってない言ってない」
朽木「それで分かったにょー」
荻上「何がです?」
朽木「国チンって、僕チンにしろ日垣君にしろ、パンツ1丁で着ぐるみ脱いだり着たりするのを一緒に手伝ってて、顔色ひとつ変えないのよ」
国松「パンツぐらいで顔色変えてたらマネージャーなんか務まりませんよ。柔道着って、本格的にやってる人は道着のズボンの下にパンツ履かないんですよ」
しばし時が止まった。
一同「そうなの?」
国松「みんなが着替えてる中、洗う為に道着回収しに入ることなんてしょっちゅうでしたから…」
大野「(赤面して)そっ、それじゃあ、柔道部員の男の子がピーを…」
国松「(平然と)ええ、ピーモロ出しなんて、日常茶飯事ですよ」
固まる一同。
荻上「そっ、それじゃあマネージャーの件、お願いしていい?」
国松「はいっ!」
(参考)
柔道で本格的な寝技の攻防をやる場合、パンツ等を下に履いてると、それがよじれて性器を傷付けることがある。
その為、古くから柔道をやっている人には、ズボンの下に何も着けない人が多数実在する。



27626人いる! 夏コミ開幕戦 その50 :2006/12/03(日) 22:47:57 ID:???
一方クッチーのところには1年女子が集まった。
巴「朽木先輩、今日はありがとうございました」
朽木「にょっ?何のこと?」
豪田「クッチー先輩の檄のおかげで、無事に同人誌完売しました。アリガトウございました!」
女子一同「ありがとうございました!」
朽木「(赤面し)よっ、よしてよ、そんな大袈裟な!僕チンはただ、僕チンのせいで売り場の戦力が減っちゃまずいと思ったから、売るのに専念してって浅田君に伝えただけだから」
台場「でも、あのひと言は大きかったです」
沢田「そうですよ、もしあれが無かったら、私たちもっとダレた状態で売り子続けて、完売にまでは至らなかったかも知れません」
巴「そんな訳で、私が代表してお礼したいんで、ちょっと目を閉じて頂けますか?」
朽木「にょっ?(赤面して目をつぶり)こっ、これでいい?」
どうやら何か少しエッチな想像をしているらしい。
巴「それじゃあ下腹に力を入れて、歯を食いしばって下さい」
朽木「???」
次の瞬間、巴は体を大きく右に捻り、それを一瞬で戻すようにして、ピッチングフォームのような大振りの、だけど全体重の乗った右ストレートをクッチーの顔面に叩き込んだ。
朽木「にょ〜〜〜〜〜??????????!!!!!!!!!!!」
ギャラクティカ・マグナムを喰らったように、数メートル後方にクッチーは吹き飛んだ。
あ然とする女子一同。
豪田「ちょっ、ちょっとマリア、何てことするのよ!?」
巴「大丈夫よ」
豪田「何がだいじょ…」
そこまで豪田が言いかけたその時、クッチーの叫びが轟いた。
朽木「ふっか〜〜〜〜〜〜〜〜〜つ!!!!!!!!!!!!!!!!!!」




27726人いる! 夏コミ開幕戦 その51 :2006/12/03(日) 22:56:31 ID:???
再びあ然とする女子一同。
沢田「何が、起きたの?」
巴「前に春日部先輩に聞いたんだけど、朽木先輩は…」
巴の言葉に割り込むようにスーが語る。
スー「(政宗一成風の渋い声で)朽木学ハ女性ニ殴ラレルコトデ、3倍ニぱわーあっぷスルノダ」
豪田「まさか…」
巴「いや、スーちゃんの言う通りよ」
沢田「マジなの?」
荻上会長たちとの話を終えた国松が割り込む。
国松「て言うかスーちゃん、宇宙刑事シリーズ知ってるんだ…」
巴「まさか。スーちゃんも朽木先輩のこと知ってただけで、言い方が似たのは偶然でしょ?」
スーは自分の荷物から、どこかで特典でもらったらしい、ポスターを筒状に巻いたものを抜き、右手に持って大上段に構えた。
スー「(ポスターを左斜め下に振り下ろし)しゃりばん・くらっしゅ!」
スーがやったのは、シリーズ第2弾「宇宙刑事シャリバン」の必殺技であった。
ちなみに本物は、実剣にレーザーの刃を被せるように出して行なう。
台場「千里の言う通りみたいよ。シャリバン・クラッシュやってる…」
豪田「て言うか、宇宙刑事シリーズって私たち生まれる前の話じゃない。スーちゃんっていくつなのよ?」
巴「蛇衣子、その問題にふれるな」
思わず背後を見る豪田。

一方クッチーは、意気揚々と戻ってきた。
朽木「いやー、トモカン(クッチー限定の巴の愛称)のおかげで、すっかり熱中症の後遺症が治ったにょー。ありがとね」
女子一同「ほんとにパワーアップした…」

まあ、とにもかくにも、こうして夏コミ1日目は、何とか無事に(そうか?)終わった。




27826人いる! 夏コミ開幕戦 おまけ :2006/12/03(日) 23:08:32 ID:???
荻上会長が帰宅したのは、そろそろ日付が夏コミ2日目に変わりかけた頃だった。
明日は大学の最寄の駅から始発でビッグサイトに向かう。
寝る時間はわずかしか無いが、夕方からずっと起きていて夜明かしした昨日よりはマシだ。
外で現視研のメンバーと食事を済ませてきたので、あとは明日の用意をして風呂に入って寝るだけだ。

風呂から上がった荻上会長は、テレビを点けた。
ニュースを見ながら髪を乾かす積りだ。
トップニュースで、いきなりビッグサイトが映った。
「何だろ?夏コミの話題かな?」
だが見出しの文字を見て、荻上会長は凍り付いた。
「コミフェスで謎の頭痛続発」
ニュースの内容はこうだった。
今日の午前10時から12時にかけて、コミフェスが開かれていたビッグサイトで、来客11人が謎の頭痛で倒れ、病院に運ばれた。
幸い全員命に別状は無かった。
倒れた人の証言によると、同人誌を買う為に並んでいたところ、突然頭が締め付けられるように痛み出し、気絶してしまったというのだ。
ニュースはさらに会場の見取り図を映して、11人が倒れた場所を説明した。
「大手のとこばっかだな…」
警察が念の為、テロの可能性が無いか会場を捜査中と伝えてニュースは終わった。

荻上会長は、何時だったか何かの飲み会で、巴が余興で夏みかんを握り潰したのを思い出した。
「まさかね…いくら巴さんでも、人間を一瞬で気絶させるなんて芸当は無理よね…」
一抹の不安を抱きつつも荻上会長は床に付き、心の中で「考え過ぎ考え過ぎ」と唱え続け、やがて眠りに落ちた。
今は眠るがいい、荻上会長。
戦いは始まったばかりだ。



27926人いる! 夏コミ開幕戦 後書き :2006/12/03(日) 23:20:28 ID:???
以上です。
途中で何度も人大杉状態でスレにつながらなかったので、殆ど推敲せずに投下したにも関わらず、結局26レス投下に1時間半以上もかかってしまいました。
どうも長時間お邪魔いたしました。
あと分けて投下してくれと言ってた方、すんません。
結局まとめて投下したのと、あんまし変わらない状態になってしまいました。

しつこいようですがこの話、まだまだ未完です。
出来れば来週末ぐらいに、続きを投下したいと思います。
9巻発売までには何とか完結させる積りですので、もうしばらくお待ちを。
あとブーちゃんスマン、君の出番はちゃんと考えてるから、もうちっと待ってね。

280マロン名無しさん :2006/12/04(月) 05:12:48 ID:???
「26人いる!」の中の人GJ!
自分もコミケに行くようになってから毎回楽しみです。あの祭のようなみんなが本当に自由な空間が大好きです。
まだ2日目と3日目が有りますが読み応えのあるSSを期待しています。本当にGJ!

281マロン名無しさん :2006/12/04(月) 11:39:13 ID:???
まだ読んでないけどGJ!感想はまた別途しますがまずはこの筆力に感服します。

ふと思いついて手元にあった文庫本の字数×行数でワードに貼り付けてみたら、
第一話からここまでの三篇96レスで約200ページ。出来上がりこの倍くらいとして
リアルに単行本サイズです。ラノベフォーマットなら全2巻行くんじゃないか。
完結したら出版する?1000円までなら出すがw
これから頑張って読んで頑張って感想書きます。いつになるんだw

それから専ブラは導入した方がいいぞ。よもやこの分量で携帯ってこたあるまい?

282マロン名無しさん :2006/12/04(月) 16:08:08 ID:???
>26人いる!
い、いま修羅場っててよむひまが…
しかし、この圧倒的な文章量。すごす。
読めたらまた感想かきます。続きがんがってください。

283マロン名無しさん :2006/12/06(水) 12:26:20 ID:???
頑張って読んだ。ヒィハァ。
でも楽しかった。続きが投下される前に感想を。

>『26人いる!』第二部&第三部
素直に国松萌えなんですが持って帰っていいですか?
泣きながら「スーツアクターを甘く見るな!!!」なんて一見至極真っ当なのに実はそこはかとなくピントがずれてる怒りっぷりとかそこに至るまでの右肩上がりテンションとか最高です。
第一部からコスというより着ぐるみに青春かけてた前振りもキレイに決まっております。次回以降も出番多そうだし期待ダイナマイツだぜ!

さて一方作者氏の趣味か特撮ネタ偏向気味となり若干影の薄い同人誌組。まあ前回たんまりクローズアップされていたのでよしとすべきか。
「おかしな同人誌お披露目大会」は俺もたくさん経験あるw現場で見せあう段階だと、いい本よりインパクトあるヤツの方が仲間にウケるんだよね。
作者氏も楽しんで筆が進んだ様子、「これはどうだ」「これはどうだ」と畳みかける様子に、どうしたことか『三年奇面組』のラジオ体操ロック版のくだりを思い出した。意味判んなかったらすまん。
お客さん第一号は原作にも出て来た人ってことですね。おとなしそうな第一印象とは裏腹に深く鋭く考察をカマす様はなかなか意外性があって笑えた。

これほどまでに多量の説明セリフ・説明ト書き・別枠解説を余儀なくされるお話を書いていてちゃんと最後まで「読める」「読ませられる」作品になっているというのはとりもなおさず作者氏の筆力にあると言える。
……と小説版くじアン(旧版ね)を1巻目10ページで脱落した俺が力説してみる。
A4用紙に9ポイントでびっちり印刷しても34ページになる(あ、第一部からです)こいつを通勤しながら何回も読んで楽しんでおります。
ぜひ最終日とその後の打ち上げまで読みたいところだがw、まあどう終えるかは作者氏がお考えのことと思いますので。
とても楽しく読ませていただきました。ありがとう。
住人の多くは今ごろ修羅場で、2ちゃん断ちしてる人も多かろうと思うのでヒマな俺がたくさん言わせてもらった。
もっともっと書きたいことはあるが「感想書くヒマがあったらSS仕上げなさいよ」ってそう、その通りですね。
すでにこんな長文誰も読まんでしょ大体。下書き時点では2レスにまたがってたくらいだしw

続きもワクワクしながら待たせて頂きます。長乱文失礼つかまつった。

284マロン名無しさん :2006/12/06(水) 21:35:27 ID:???
脳内では違和感なく場面が想起されるのだが、誰がこれを絵にできるだろう…。
見てみたいっ!w

285マロン名無しさん :2006/12/09(土) 00:47:18 ID:???
相変わらずの面白かった会議、4レスで投下しま〜す。

9話よかった〜。

286第八回くじびき以下略 :2006/12/09(土) 00:48:02 ID:???
マ「え〜、第9回くじびきはーとアンバランス、略してやっぱりくじアンよかった本会議〜。」
ベ「今回はよかったですねぇ。」
K「な、なんといっても山田動きすぎ。」
梟「ここまでゴトゥーザ様がはじけた演技をしてくれると楽しくて仕方がない。」
ト「細かいところでも色々見所のある回でしたね。」
マ「なんてーの?ここまでの話あっての面白さっていうのかね・・・。
  蓮子たんが優しくなってるのも、ここまでの話の流れの結果だし。
  宇宙人到来にせよ、生徒会の会話にせよ、千尋と時乃の微妙な関係にせよ。
  八話分ひっくるめての面白さになってるんだよなぁ。」
ベ「ああ、確かに、自然と結束している四人とか、ここまでの話ありきですよね。」
K「も、物語の中じゃけっこう時間たってるから、に、人間関係も変わってきてる。」
梟「一ヶ月一話というペースだから合間合間に
  何かしら隠れたエピソードもありそうだよな。」
ト「そういう意味じゃ物凄く同人向きの題材ですね。」
マ「何でもありじゃからのう。宇宙人もロボットも超能力も特殊部隊も忍者も
  出てきちまった。あとはなに、魔法使いぐらい?」
梟「マリオ出てこないんかね・・・。」
ト「一応監督はどんな形にせよ全員出すような事いってましたけど。」
K「だ、ダブケンはすごい扱いになってたけど・・・。」
ベ「まぁ、前作ファンへのオマケみたいなもんでしょうし。
  もっとひどいのはアレックスでは・・・。」
マ「『書記のアレックス』だよなぁ。思わず吹いたわ。」
於「予想通り・・・犬でしたね・・・。」
梟「まぁ、それ以外考えらんなかったしな。」
K「ま、まぁ、なんにせよ山田回だよね、今回は。」
マ「山田はさぁ、いい意味で変わらないキャラなんだよね、メンバーの中で。
  最初はさ、時乃も天然扱いだからなんつーのかね、区別されてない感じたけどさ、
  時乃が実は色々考えてるキャラって解っていくうちに、区別されたよな。」
ベ「ド天然ですよね。山田。」
ト「忠誠というより心酔してるしね、蓮子に。」
K「そ、そこがいいんだよね、く、空気よめないわ、発言に責任感はないわなんだけど、
  蓮子のことだけは真剣に考えてるというか。」

287第八回くじびき以下略 :2006/12/09(土) 00:48:40 ID:???
マ「崩してる絵もワザとなんだろうなぁ、蓮子たんと山田が動き回る回はみてて楽しいわい。」
ベ「いいコンビですよねー。」
ク「最初はただのウザキャラだと思っていましたが、なんともかんともいえないじゃありませぬかぁ・・・。」
マ「あ、しゃべった。」
ク「フフフ。」
マ「何はともあれ作画もよかったな、今回は。」
ベ「亜細亜堂製作に戻りましたからね、今回。」
梟「まぁ、悪い作画ってワケじゃないんだが、ここ何回かは確かに少し落ちてたのも確かだからなぁ。」
K「さ、さっき出たけど、わ、わざと崩して、う、動きを大きく見せてるんだろうね。」
ト「見てて楽しいですよね。」
ベ「最後の花火、良かったよねえ。」
マ「なんだ、めちゃくちゃSUGEEEEEEEEEEE!!っていう、例えば某サーカスみたいな作画じゃないんだが、
  動きや間、物語の流れにあっている作画というか・・・。」
梟「いいよなぁ、細かく視線が動いたり、顔の向きが微妙に変わってたり。」
K「こ、このスタジオならではの作り方だよね。」
ベ「間がいいんですよねえ。山田の癇癪のシーンとか、時乃と千尋のシーンとか、
  宇宙人と蓮子の会話とか、いいんですよね。」
マ「最後の爆発からEDへの流れは神がかってたわい。
  一瞬『え?』って思った後で、暗転して音楽が流れてきて花火バックに宇宙人だもんなぁ。」
K「ふ、吹くしかないよね。」
梟「大爆笑だ。」
マ「総括して不満の無い回だったわい。」
梟「あえて言えば『書記のアレックス』発言か?」
K「あ、あれもうちょっとうまく出来なかったのかね。」
ベ「色々出来ると思うんですけどね。
  『よくやったアレックス』っていいながら腕章にズームインとか。」
ト「そこだけちょっと不満というか、何とかして欲しかったね。」
マ「あれだけ詰めたコンテ作ってるんだからなぁ。まぁ、しょうがないか。」

288第八回くじびき以下略 :2006/12/09(土) 00:49:26 ID:???
ベ「というわけで次回は小牧回でしょうか。」
梟「気になるよなぁ。『さがしてもそこにはない』だもんなぁ。」
K「小雪さらわれるんだよね。」
ク「小雪タンに害をなすものは私が殲滅し・・・。」
マ「あー、なんだ。」
ベ「小雪頑張れと。」
K「だな。」
梟「うむ。」
ト「アハハ。」
ク「・・・そう華麗にスルーされると立つ瀬がないでござる・・・。」
マ「そういや、公式の13話って表記、12話に直ってたな。」
ト「あれのおかげでてっきり13話が作られると思っちゃいましたよ。」
梟「だよなぁ。DVDに一話つけるのかと思ったぜ。」
ベ「某13話とごっちゃになっちゃったんですかね。」
マ「ああ、あのオマケのね・・・。」
べ「なにはともあれ、全話放送のようで安心しました。」
梟「どっちにしろ特典多いしDVD予約しちゃったけどな。」
K「お、同じく・・・。」
マ「なぁに、いいものは二本買えじゃ!」
ベ「・・・正直、ソレはきついっス。」
梟「ぶっちゃけお前も二本は買わないだろ。」
マ「お前ら少しは冗談を受け止めろよ。」
K「あ、あと発売まで一月無いんだよな。」
ト「いやぁ、DVDの綺麗な画像でもう一度最初から見直してみたいですね。」
ベ「だねー。」
マ「スルーすんなー!」

289第八回くじびき以下略 :2006/12/09(土) 00:50:13 ID:???
梟「しかし・・・あと三話・・・。」
K「お、収まるんかね。」
ベ「おそらく『俺たちの戦いはこれからだエンド』の予感がして・・・。」
ト「それはそれで二期に期待できる?」
マ「・・・くそぅ。まぁ、作れる題材だからのう。
  ぶっちゃけ全く違うキャラ出しても舞台設定が同じならくじびきアンバランスで成立するからな。」
梟「忍先生の時代とかね。」
K「ああ、は、反生徒会活動を先生がしてたころね。」
マ「それはちょっと見てみたいのぅ。どうか!どうか作ってはくれまいか神様!」
ベ「祈るなら講談社様ですかねぇ・・・。」
梟「加えて亜細亜堂様?」
K「む、ムジナ様も加えたほうがいいかもね。」
ト「今回の売り上げとか関わってきそうですけどね。」
マ「買えー!みんな買えー!」
梟「ここで叫ばれてもここにいる面子はみんな買うよ。」
ト「咲ちゃんは買わないかと。」
マ「買えー!春日部さんも買えー!」
春「アホか!」
マ「まぁ、気が向いたらってことで!では今回はここまで!じゃあまたな!」

290第九回くじびき以下略 :2006/12/09(土) 00:56:02 ID:???
ちょ、しまった、今回第9回じゃないか。
本文では間違ってないのに・・・。なんだそれ・・・。

くじアン後三話・・・。収まるんでしょうかね・・・。
なぁに、DVDが売れれば第二期が!げんしけん込みで!
・・・とかねぇかな。ないか。でも期待したいデス。

291マロン名無しさん :2006/12/10(日) 00:47:25 ID:???
>くじアン会議
いつもお疲れさまです。
クッチーの扱いがいつも笑えますwww

>DVDが売れれば第二期が!げんしけん込みで!
言ってたら ほんとになるのがげんしけんクオリテイ

292マロン名無しさん :2006/12/11(月) 18:03:22 ID:???
>26人いる!
ようやく読めた。やー…臨場感があってすごいっす。
クッチー大活躍なのがとっても楽しい。
オリキャラ(元ネタあり)のキャラが、最初初めて26人シリーズ読んだとき(新しく部室ができる話)は
読み手としては軽く違和感を感じておりましたが、今ではしっかりしたイメージを持って読むことができます。
続き楽しみにしてます、がんがってください。

ようやく修羅場抜けたとこですが、今修羅場中のSS師さまも多いんでしょか。
皆さんがんがってくださいーーー。

293マロン名無しさん :2006/12/11(月) 22:07:55 ID:???
>第9回くじびき以下略
(ご本人も気付いてるんで勝手にタイトル直しました失礼)
山田!山田!や・ま・だ〜(゚∀゚)
さてトリップはこんなもんでw
なんだかんだ言ってちゃんとした回だったのがよかったですね。前回の時乃告白をまあアリの展開で処理できた。
本当は恋愛ネタもっと掘り込んでもよかったのかも知れないけど、桟橋と最後の2シーンだけに絞ったのがメリハリになったのかな。それを思えば、
・タイムリミット型ストーリーが完全に形骸化してるとか、
・律ちゃんの行動もぶっちゃけ結構な脳内補完を要する展開だったとか、
・晩秋とか書くくらいなら花火大会にしなくても小雪たんのメイド姿は登場させられただろうとか、
・そもそもこのタイミングで蓮子−山田のツンデレストーリーを描く必要性があるのかとか、
・小雪の超能力シーンを前フリしたいんなら別に宇宙人再登場じゃなくたっていいだろうとか、
そんな些細なことは気にする必要すらないのです。こういったこと全てを律ちゃんの「書記のアレックス」発言に目を向けさせることでカムフラージュする力量は評価されてしかるべきでしょう。

そして咲ちゃんヒドスw デゴイチって彼女含め今の世代が判るフレーズなのか?

例によって感想になってなさげですいません。

294293 :2006/12/12(火) 10:13:39 ID:???
追加謝罪。
ふと思い出して確認したがデゴイチ発言は9話どころか……7話ジャンorz
クガピー登場で交錯したとはいえいくらなんでも記憶乱れすぎ。ゴメナサイでした。

295マロン名無しさん :2006/12/13(水) 11:06:24 ID:MAyx03a7
age

296マロン名無しさん :2006/12/16(土) 05:03:44 ID:???
ホシュホシュ

297マロン名無しさん :2006/12/16(土) 15:33:00 ID:???
一夜干しゅ

29826人いる! 夏コミ2日目 前書き :2006/12/17(日) 16:34:42 ID:???
遅なって、えろうすんまへん。
「26人いる!」の続編を投下します。
今回はタイトル通り、夏コミ2日目の話です。
つまり…重ね重ねすんません、まだ未完です。
どうやらこの調子では、9巻発売までには完結出来なさそうです。
もし9巻で「その後のげんしけん」みたいな話があった時には、このシリーズ完全なパラレルワールドの話とご容赦下さい。
(まあおそらくみなさん、そして俺自身もそう思ってますけど)
今回はやや短めで38レスです。
とりあえず今日19レス投下します。
続きは明日にでも投下します。
では5分後に開始します。

29926人いる! 夏コミ2日目 その1 :2006/12/17(日) 16:40:56 ID:???
2006年夏コミ2日目。
現視研一行は椎応大学の最寄の駅から始発でやって来た。
今日は「やぶへび」の面々は漫研の会員たちと行動するので居ない。
女子会員たちは初日でお目当ての大半をゲットしたので、2日目は軽く巡回する程度で、さほど熱心に買い物する積りは無い。
男子会員たちも、本番の男性向け中心は3日目なので、2日目は軽く流す積りだ。

ただ1人目を爛々と光らせているのは国松だ。
特撮命の国松にとっては、特撮ネタの出てくる2日目こそがメインだからだ。
昨日急遽、会員たちの昼食と飲料水を管理するマネージャー役を買って出たので、国松もある程度大荷物になるはずだったが、そういう理由で国松の分は日垣と巴と台場が持った。
巴と台場はカートに括り付けたクーラーボックスを持ち、日垣は昨日よりも大型の本格的な登山用のリュック(浅田が急遽高校の後輩から借りてくれた)を背負った。
それだけの大荷物になったのは、ざっと25人分の昼食を作ったからだ。
どうせならと、コスプレする人だけでなく会員全員分の昼食を用意したのだ。
家が近かったこともあり、台場と巴も朝からやって来て昼食の用意を手伝った。
そして迎えに来た日垣と共に、巴と台場が昼食を持ったのだ。

そんな訳で必然的に、2日目の現視研の活動の焦点はコスプレとなった。
今日は初日とは別な意味で、会員たちの荷物は異様に多かった。
前述のような理由で、日垣、巴、台場は異様な大荷物だ。
コスの大半はロングコートタイプの軍服なので、コス組の荷物は昨日よりかさばる。
特にクッチーのコスはソリッドな着ぐるみなので、昨日のベム以上にかさばる。
荻上会長のコスも、金髪のヅラにロングコート、そして樹脂とプラ板で出来た義手なので、これまたかさばる。




30026人いる! 夏コミ2日目 その1 :2006/12/17(日) 16:44:19 ID:???
昨日同様分担購入の割り当て(昨日ほど厳密では無く、大体この辺りが誰それという程度)を開場直前に確認し、入場すると各自散った。
当然のごとく、国松は特撮のエリア担当だ。
一緒に付いて行くのは、日垣と台場、そしてスーという変わった組み合わせだ。
ちなみに昼食を分担して持った巴は、この日は高校の時の知り合いのサークルの売り場に行くので別行動だ。
台場「スーちゃん特撮にも興味あるの?」
スー「押忍!」
台場「どんなのが好きなの?」
スー「(ナチュラルな英語の発音で)スパイダーマン」
台場「やっぱ向こうの人はアメコミ好きよね。サム・ライミ監督のやつ?」
スー「(スパイダーマン風の前傾姿勢から大声で)まーべらー!」
国松「そっちかい!」
台場「そっちって?」
国松「昔、70年代の終わり頃(正確には78年)に日本の東映が、アメリカのマーベルコミックスとキャラクター使用契約をして「スパイダーマン」の特撮ドラマ作ったのよ」
日垣「やっぱり壁登ったり糸出したりするの?」
国松「それはやってたけど、オリジナルと同じなのは名前と外見と能力だけよ」
台場「あとは違うの?」
国松「スパイダー能力は宇宙人から授かったし、レギュラー悪役は宇宙人の秘密結社だし、毎回終盤にマシーンベムっていう怪人が巨大化するし、殆ど別物の内容よ」
日垣「で、スパイダーマンどうやってその巨大化したやつと戦うの?」
国松「宇宙人にもらった宇宙船呼ぶの。それがマーベラーっていうのよ」
台場「で、その宇宙船で怪人と…」
国松「それにスパイダーマンが乗り込んで、さらにレオパルドンという巨大ロボットに変形して、巨大化したマシーンベムと戦うのよ」
日垣「何か戦隊シリーズみたいだね」
国松「そりゃそうよ。この番組が戦隊シリーズでお馴染みになったパターンのプロトタイプなんだから」
日垣「そうだったんだ」





30126人いる! 夏コミ2日目 その3 :2006/12/17(日) 16:54:10 ID:???
国松「戦隊シリーズは、元祖の『秘密戦隊ゴレンジャー』と後番組の『ジャッカー電撃隊』の後、1年ちょっとブランクをはさんで『バトルフィーバーJ』から再開するんだけど…」
台場「そのバトル何とかがスパイダーマンの…」
国松「後番組じゃないけど、スパイダーマンの終了間際に始まるのよ、バトルフィーバー。そして今の戦隊シリーズの巨大ロボ路線は、バトルフィーバーから始まるのよ」
スー「押忍!ちなみにバトルフィーバーの元ネタは、マーベルコミックスの『キャプテン・アメリカ』であります!」
日垣「そうなの?」
国松「そうよ。だから企画段階の仮題は『キャプテン・ジャパン』って言うのよ」
日垣「国松さんはともかく、何でそんなのまで知ってるんだ、スーちゃん?」
台場もちょっとスーに質問してみることにした。
スーの趣味の幅が知りたいので、わざとメジャーだが古めの作品を挙げてみる。
台場「アメリカのアニメはどんなのが好き?やっぱ『ワッキーレース』とか『ファンタスティックフォー』とか?」
スー「押忍!『チキチキマシン猛レース』と『宇宙忍者ゴームズ』は大好きであります!ムッシュムラムラ!」
台場「だから何でそっちを知ってる!?」





30226人いる! 夏コミ2日目 その4 :2006/12/17(日) 16:55:52 ID:???
察しのいい方は既に気付いているだろうが、台場が挙げた作品名はアメリカで制作されたオリジナル版タイトル、そしてスーが挙げたのはその日本語版タイトルである。
1970年前後の数年間、地上波で夜の7時台に海外のアニメを放送していた時期があった。
当時は海外との情報の行き来は少なく、著作権の意識も薄かったので、日本語版のタイトルやキャラクター名や台詞などは、語呂合わせやその場のノリやアドリブで決められた。
その結果、直訳どころか意訳にすらなっていないタイトルやキャラ名や台詞が横行した。
特に台詞は、当時の声優にはお笑い系の人(由利徹、牧伸二等)が多かったせいもあってか、アフレコと言うよりネタをやってるような人も多かった。
ちなみに「ムッシュムラムラ!」とは、「宇宙忍者ゴームズ」(ファンタスティックフォー)のキャラのガンロック(ベン・グリム)が、パンチ等で怪力を使う時のかけ声。
これは当時の日本語版スタッフの間でポーカーが流行ってて、関敬六(ガンロックの中の人)が最後にカードを見せる時のかけ声だったそうだ。
もちろんオリジナル版には、そんな台詞は無い。


30326人いる! 夏コミ2日目 その5 :2006/12/17(日) 16:57:35 ID:???
その頃荻上会長は、またもや笹原とデート気分で買い物に勤しんでいた。
昨日は思わぬアクシデントに振り回されて、あっと言う間にデート気分が吹き飛ばされたので、今日はその分を取り返そうと意気込んでいた。
(とは言っても、どのみち昼までの限定的なデートだが)
笹原もその気のようだが、それでも時折取材の為に立ち止まり、他のお客さんに声をかけて写真を撮ったり、インタビューめいたことをやっていた。
入社してから買ったらしい、デジカメとワイヤレスマイク状の録音機を駆使して、次々と相手を変えて「簡略に」取材を繰り返す。
それは夏コミを楽しみに来たお客さんたちに手間を取らせまいとする、オタクならではの気配りからだった。
その一方で笹原は、取材一辺倒にならぬように荻上会長にも気を使っていた。
それが分かるだけに、荻上会長も文句は言えなかった。
『まあたまには、彼氏の仕事ぶりを間近に見るのもいいか…』
お客さんに対して、真剣だが穏やかでにこやかな顔で接する笹原の顔を、荻上会長は飽かずに眺めていた。
笹原「ごめんね荻上さん、ほったらかしにして」
荻上「しょうがないですよ、仕事なんだから」
笹原「昨日バタバタしてて、あんまし取材出来なかったから、つい熱中しちゃったよ。今日はこの辺にしとくよ。あとは1年の子たちに話聞けば何とかなるし」
再び歩き始める笹荻。

笹荻が2人組の男性とすれ違いかけた時、ふと笹原は立ち止まった。
1人は少々肥満気味で頭にバンダナを巻いており、もう1人は中途半端な長髪と無精髭でガリガリという、ありがちなオタコンビだ。
ただバンダナが普通のTシャツにGパンなのに対し、もう1人は薄手の作務衣を着ていたのが周囲の目を引いた。
バンダナは色の薄いサングラスを、作務衣はメガネをかけていた。
2人組は何故か、笹荻の方を見てうろたえた表情を浮かべていた。
いや正確には、笹原を見てうろたえていた。



30426人いる! 夏コミ2日目 その6 :2006/12/17(日) 16:59:08 ID:???
ため息を付く笹原。
荻上「?」
笹原「『全く、メガネかけたら変装になると思ってるのか、この先生は?そんな作務衣なんか着てたら、余計目立つでしょうが』あの…こんなとこで何やってるんですか、B先生?」
B先生とは、笹原が担当している漫画家の1人だ。
ちなみに隣のバンダナは、B先生のアシスタントのM君である。
(彼は普段はメガネをかけている)
作務衣の男ことB先生は露骨にうろたえて自爆する。
漫B「知ったな!僕がプロになってからも毎年コミフェスに来てることを知ったな!」
よく見ると2人とも、けっこうな量の荷物を持っていた。
漫B「うわああああああああ!!!」
荷物を放り出して、泣きながら走り去るB先生。
M「あっ先生、待って下さい!」
M君は助けを求めるような顔で一瞬笹原を見ると、B先生を追いかける。
笹原「ヤバい!」
笹原も走り出した。
荻上会長も追って走り出す。
荻上「笹原さん!B先生って?」
笹原「俺が担当してる漫画家の先生だよ!あの人自殺癖があるから止めないとヤバい!」
荻上「自殺?」
笹原「まあ多分本気じゃないとは思うけど、もし成功しちゃったらヤバいから俺も止めに行って来るよ!悪い、後で連絡する!」
笹原はスピードを上げて走り去った。
もはや荻上会長には付いて行けない猛スピードだ。
1人取り残された荻上会長は悟った。
『これだったんだな。笹原さんが足速くなった理由は…』



30526人いる! 夏コミ2日目 その7 :2006/12/17(日) 17:01:02 ID:???
笹原がB先生に追いついた時、B先生はコスプレ広場から飛び降りようとしており、M君はそれを必死に止めようとしていた。
笹原もM君に加勢して止めに入るが、結局もつれて3人とも落ちてしまう。
だが幸い彼らの下に、催し物のテントがあったので奇跡的に全員無傷で済んだ。
(さすがにテントは壊れたが)
笹原はポケットから気付け薬(B先生の前の担当の人から、常時持っておくようにと渡された)を出し、気絶したB先生の鼻先で開けて目を覚まさせる。
笹原「大丈夫ですか、先生?」
漫B「死んだらどうする!」
笹原・M『それは俺たちの台詞だろうが、全く…』

「うっしゃー!」
笹原がM君と共にため息を付いていた頃、国松は勝利の雄叫びを上げていた。
「ウルトラマンメビウス」ネタの同人誌を紙袋いっぱい買い込んだのだ。
国松「ねっ晴海、私の言った通りだったでしょ?」
台場「そうね、まさかリュウ、ここまで総受け状態とは思わなかったわ」
リュウとは「ウルトラマンメビウス」の怪獣攻撃チームGUYSのアイハラ・リュウ隊員のことである。
彼の親友でメビウスの正体でもあるミライ隊員、彼の慕うセリザワ元隊長はもちろん、他の男性キャラ全員がリュウ相手だと攻めとなった。
たまに女性隊員と絡んでるノーマルカップルのもあるが、それとて逆レイプっぽい。
粗暴で、偉そうで、巻き舌気味のダミ声で、言葉使いが荒くて、一部の2ちゃんねらーたちからはDQN呼ばわりされているリュウ隊員。
そんな彼は、一見ヤオイなら攻め系のキャラに見えるかも知れない。
だが彼はその一方で、涙もろくて、死んだ元上司に何時までも恋々とする女々しい、もとい乙女チックな一面も持ち合わせていた。
最近見始めた台場には分からなかったリュウの本質を、第1回からずっと見ていた国松は看破していた。



30626人いる! 夏コミ2日目 その8 :2006/12/17(日) 17:02:32 ID:???
途中で会った大野さんが口を挟む。
大野「うーん、国松さんの薦めでメビウス見てみたけど、私も攻めっぽいと思ってたな…」
国松の表情が一変して鬼の形相と化した。
国松「受けですう〜!絶対受けですう〜!」
大野「!?」
国松「リュウさんは全身から受けオーラ出てますよ!総受けですよ総受け!分かってない!大野先輩、リュウさんのこと全っ然分かってない!」
大野「(冷や汗)ははは、ごめんなさい…『何か前に、これに似たこと誰かに言った覚えがあるんだけど…』」

ひと通り回り終わり、現視研の面々は昼食を済ませることにした。
日垣と国松が昼食を並べる。
国松の献立はシンプルだった。
主食もおかずも、おにぎりオンリーだ。
中身はかつおぶしと、梅干と、たらこの3種類。
あとは各自の好みに応じて付けられるように、ごま塩と味付け海苔が別添えになっている。
その代わりに、量は凄まじく多かった。
国松はざっと25人前用意したと言うが、軽く30人前以上はあった。
それにデザートに、1人3本ぐらいはありそうな大量のバナナを用意してある。
そして飲み物は、1ダースもの大型ペットボトルに入ったコーラだった。

神田「あれっ?スーちゃんとアンジェラは?」
大野「もう少し買い物の方粘ってから来るそうですよ。アメリカの友だちに頼まれた分が売ってるのが今日らしいんで」
国松「それじゃあ2人分取って置きますね」
国松は竹の皮を2枚取り出し、その上におにぎりを10個ずつ置いて包む。



30726人いる! 夏コミ2日目 その9 :2006/12/17(日) 17:04:25 ID:???
恵子「そんなもんまで用意してたんだ…」
沢田「初めてリアルで見たわ、竹の皮でおにぎり包むのなんて」
有吉「僕も。時代劇でしか見たことない…」
豪田「つーか千里、アンジェラはともかくスーちゃんに10個は多過ぎない?」
国松「育ち盛りなんだから、無理してでも食べなきゃダメよ」
一同『スーの年齢、育ち盛りって想定してるんだ…』
食べ始める一同。
豪田「おいしい!でも何か変わった味の御飯ね。所々茶色いし」
国松「特性のブレンド米使ってるからね」
沢田「ブレンド米?」
巴「白米と、麦飯と、玄米と、もち米のブレンド米よ」
荻上「そりゃまた随分凝った組み合わせね」
国松「栄養とエネルギー効率と腹持ちの良さ最優先で考えましたから。と言ってもこれ実は、高校の時の柔道部の合宿のメニューの1つなんですけどね」
笹原「あれ?国松さん、このコーラ炭酸入ってないよ」
国松「それわざと炭酸抜いてあるんです。そうすると即エネルギーになりますから」
笹原「そうなの?」
国松「マラソンの選手には、炭酸抜きコーラを競技中の水分補給に使う選手も居るぐらいですから」
一同「へー」
斑目「もしかしてバナナも?」
国松「はいっ、即効性のエネルギー食です」
斑目「何かほんとに栄養とエネルギー本位だね、まあ美味いからいいけど」
国松「あと食事の後でいいですから、これ1人2〜3錠ずつ飲んどいて下さい」
国松は錠剤がパッキングされた束を取り出した。
荻上「これは?」
国松「塩の錠剤です」
一同「塩?」



30826人いる! 夏コミ2日目 その10 :2006/12/17(日) 17:06:02 ID:???
国松「浅田君がたくさん持ってたんで分けてもらったんです」
浅田「軍用の救急キットとかサバイバルキットなんかに少量入ってるんですけど、夏場は熱中症予防にたくさん使うんで、別口で大量にまとめ買いしといたんです」
朽木「それならおにぎりに塩ふって食べれば済むのでは?」
国松「それだと塩辛過ぎて、水余分に飲み過ぎちゃうから錠剤にしたんです。あっ、朽木先輩はこれだけ飲んどいて下さい」
国松は、ざっと20〜30錠の塩の錠剤をクッチーに渡した。
朽木「隊長、いくら何でもこれは多過ぎるのでは?」
一同『隊長?』
周囲がその呼び方を奇異に感じてるのに対し、国松はそれを完全に流して続ける。
国松「これでも少ないぐらいです。朽木先輩はきくち英一さんをご存知ですか?」
朽木「菊地エリなら知ってるけど…いや、何でもないです。で、どなたですかな?」
20歳にも満たぬ女の子が、現在でも熟女もので活躍してるとは言え、80年代半ば頃の人気AV女優の名前を知る訳も無く、あっさりクッチーのボケを流して国松は解説する。
国松「帰ってきたウルトラマンに入ってた人です。彼は当時、サラダを食べる時にはサラダが見えなくなるぐらいの量の塩をふって食べていたそうです(作者注、本当です)」
朽木「もはやサラダというより生野菜の塩漬けですな」
国松「そんな食生活を送ってたきくちさんが、最終回の撮影後に精密検査に行った際に、塩分不足だと言われたそうです」
朽木「何ですと!」
国松「分かって頂けました?」
朽木「たいへんよく分かりました!(塩の錠剤をコーラで一気に流し込む)」
国松「今日はクーラーボックスで水やスポーツドリンクたくさん持って来てますから、塩の錠剤と一緒に小まめに補給して下さい。くれぐれも、ぶっ続けでやらないで下さい!」
朽木「GIG!」



30926人いる! 夏コミ2日目 その11 :2006/12/17(日) 17:09:02 ID:???
食後のデザートのバナナを頬張る斑目。
それを傍らで見てニャマリと笑う台場。
その視線に気付く斑目。
斑目「?」
台場「なっ、何でもないですよ!」
斑目「?」
台場「ほんとですってば!参考になんかしてませんから!」
その声に反応してシンとなる一同。
沈黙に耐えられなくなった台場、自ら墓穴を掘ってしまう。
台場「知ったな!斑目さんがバナナをくわえてるのを見て、私がピーをくわえてる図を想像してることを知ったな!」
斑目を筆頭に、バナナを食べていた者たちは思わずバナナを吹きかける。
固まる一同。
荻上「あの、誰もそこまで言ってないから、そんなハッキリ言わなくてもよかったのに…」
台場「うわあああああ!!!」
泣きながら走り去る台場。
荻上「もう、しょうがないなあ…」
立ち上がり、台場を追おうとする荻上会長。
それを神田が制する。
神田「大丈夫ですよ、会長。あれ最近私たちの間で流行ってるんです」
荻上「あれって『知ったな!』が?」
豪田「ああやれば大概の恥ずかしい場面は、笑ってごまかせますから」
荻上「あんまりごまかせてない気がするけど…」
斑目「むしろ却って傷口広げてるような気がするんですけど…」



31026人いる! 夏コミ2日目 その12 :2006/12/17(日) 17:10:54 ID:???
食事が終わり、各自コスへの着替えタイムとなった。
例によってクッチーの更衣室には、国松と日垣がやって来た。
今日のアルのコスは、本物の鎧を参考に作ったから、構造は本物の鎧とほぼ同じだ。
だから基本的には1人でも着付けは出来る。
ただそれでも、やはり助手が居るに越したことは無い。
それに本物の鎧と違い、今日も機電を仕込んで目が光るようになっている。
鎧の目の部分は黒いメッシュが張られ、その上にLED球が付いている。
ベムの時と違い目の位置がクッチーの目の位置に近い為、クッチーは電球の脇からやや寄り目でのぞき見るような格好になる。

鎧を着込み終わったところに田中が入ってきた。
田中「着付けは終わったみたいだね。朽木君、ちょっと股間に手を入れてみて」
自分の股間に手を入れるクッチー。
国松・日垣「?」
田中「股間に何かつまみみたいな物があるの分かるかな?」
朽木「ありますなあ」
田中「それを捻ってみて」
つまみを捻るクッチー。
鎧の腰から股下にかけての部分が、パンツを前後に切ったようにパカッと外れ、クッチーのトランクスが丸見えになる。
朽木「にょ?田中さん、こりゃいったい?」
田中「昨夜ちょっと思い付いて改造したんだよ。(国松に)ごめん、夜中に急に思い付いたんで、連絡しないでやっちゃったよ」
国松「いえ、それは構わないですけど、これは何の為に?」
田中「朽木君のことだから、夢中になったらギリギリまでトイレ我慢しちゃうだろうと思って、最悪の場合鎧のままトイレに駆け込めるようにしたんだよ」
日垣「なるほどね」



31126人いる! 夏コミ2日目 その13 :2006/12/17(日) 17:12:54 ID:???
国松「うーん…おっしゃる意図は分かるんですけど、トイレは出来るだけコス脱いでから
行って欲しいですね。休憩の意味も込めて」
日垣「国松さん、もちろん朽木先輩も田中先輩も、原則はそうされるお積りだよ。ただね、男性は女性に比べてトイレをかなり我慢出来るんだよ」
国松「???」
日垣「特に朽木先輩の場合、ノッてきたら我慢すると言うより忘れちゃうから、いざトイレとなると待った無し状態になりかねない。だからこういう非常手段は必要だと思うよ」
田中「日垣君の言う通り、これはあくまでも非常手段だから、なるべく使わないでね。(鎧の腰を元に戻しつつ)これ1回開けちゃうと、自分で元に戻すのは手間だから」
朽木「GIG!」
田中「すっかり気に入ったみたいだね、その返事の仕方。あと、ちょっと動いてみてくれるかな?」
昨日と違って、真面目に空手式のキックやパンチを放つクッチー。
鎧の可動範囲は意外と広いようで、軽々とハイキックや後ろ廻し蹴りを放てる。
朽木「良好であります!」
国松「あの田中先輩、ひょっとして関節も改良なさったんですか?」
田中「股間を改造するついでに、少し関節の可動範囲を拡げたんだ。よく分かったね」
国松「私の設計だと、あそこまでは動けないはずですから…」
国松が少し落ち込んだので、田中はフォローする。
田中「まあ国松さんの設計も、初めてにしては上出来だよ。普通に動く分にはあれで問題無いと思うよ。ただ朽木君の動きっぷりは普通じゃないからね」
朽木「いやーお手数をお掛けします」
田中「まあファーストで言えば、国松さんがテム・レイで、俺がモスク・ハンってとこかな。だから気にすんな」
実はファーストはひと通り見たものの、キャラクター名を完全には把握出来てない国松には、この田中の例えはピンと来なかった。
ただ最初に叩き台を作ったことを評価してくれたことは理解した。
だがそれでも田中と自分の差を思い知り、自省の念に駆られる。



31226人いる! 夏コミ2日目 その14 :2006/12/17(日) 17:15:32 ID:???
国松「やっぱり田中先輩は凄いですね。私なんかまだまだですよ」
日垣「まあそう落ち込むなよ。田中先輩と国松さんじゃ、キャリアが全然違うんだから」
日垣は単純に、この間始めたばかりの初心者と、大学生活の殆どをコスにつぎ込んだOBとの差をイメージして言ったのだが、田中の話はそれを軽く凌駕した。
田中「あのさあ、俺が初めてコス作ったの、小学5年生の時なんだよ」
一同「えっ?!」
田中「まあ正確には学芸会の劇の衣装だけど、俺が衣装全部作る条件として、当時人気のあったアニメやゲームのキャラの衣装そのまんまのを作ったんだ」
一同「え〜〜〜〜!!!」
田中「まあ当時はファンタジー系のゲームが一般化し始めていた頃だったから、中世の話の衣装として使っても、さほど違和感無かったよ。けっこう好評だったし」
一同「…」
田中「だから国松さんも日垣君も、俺と比べてあれこれ悩むなよ。君らは始めてひと月も経ってない。俺はもう干支ひと周りしたんだ。それで同程度だったら、俺かわいそうだろ?」
国松「それもそうですね…(明るく)分かりました!」
田中「さてと、それじゃあ分かってもらえたようだし、朽木君の方はこれで良さそうだから、お2人はこちらに来てもらおうか」
国松・日垣「えっ?」
朽木「何をなさるのですかな?」
田中「まあそれは後のお楽しみということで」

現視研の面々は、コスプレ広場に集結した。
コスをする会員プラスOBだけでなく、コスをしない1年生たちも集まった。
姿を見せてないのはスー&アンジェラのコンビと伊藤、そして田中、大野さん、日垣、国松の新旧コスプレカップル(日垣と国松はそう言っていいかは微妙だが)だけだ。
荻上会長(エド),笹原(マスタング)、恵子(ホークアイ)、斑目(ヒューズ)、クッチー(アル)は、既にコス姿でスタンバっている。



31326人いる! 夏コミ2日目 その15 :2006/12/17(日) 17:17:58 ID:???
豪田「わー荻様すてき!エドそのまんま」
巴「ほんと、オートメールもよく出来てるし」
荻上会長の髪や腕を撫で回す2人。
荻上「ちょっ、ちょっとやめて、くすぐったいから」
台場「よく出来てると言えば、朽木先輩のアルもよく出来てるわね」
沢田「ほんと、とてもプラスチックで出来てるようには見えないわね」
そう言いながら、クッチーの胸板を軽く叩く。
コンコンと、プラスチックの軽い音がする。
朽木「にょ〜?」
沢田「すいません、見た目は金属みたいな質感なんでつい。何かもっと金物的な音がしそうな気がしたんで」
神田「恵子先輩も金髪似合いますね。春日部先輩みたい」
恵子「そう?」
まんざらでも無さそうな恵子。
豪田「ほんと、恵子先輩ステキ!」
恵子をハグする豪田。
恵子「ムギュッ、ちょっ、ちょっと離れろよ、重いし暑いから」
神田「笹原先輩も、その格好するとほんと大佐そっくりですね」
笹原「ハハハ…」
浅田「斑目先輩、今日は四角いメガネですね」
斑目「ああ、これ就活の時使ってたやつだよ。今日はヒューズのコスだから、それに合わせる為に久々に出したんだ」
岸野「ひょっとして、その不精ヒゲも?」
斑目「1週間ほど剃らなかった」
浅田・岸野「何て真面目な人なんだ…」


31426人いる! 夏コミ2日目 その16 :2006/12/17(日) 17:19:49 ID:???
豪田「あれっ?有吉君、伊藤君知らない?」
有吉「何か昼からは、別口の知り合いと一緒に回るらしいよ」
そう言う有吉は、少し寂しそうだった。
豪田「どしたの?」
沢田「伊藤君の知り合いって、実は彼女らしいのよ」
1年女子一同「なっ、何だって〜〜〜!!!?」
沢田「そんなMMRみたいな驚き方しちゃ伊藤君かわいそうよ」
豪田「マジなのそれ?」
沢田「私、伊藤君が女の子と並んで歩いてるの見たのよ。顔は見えなかったけど、ツインテールの女の子だったわ」
豪田「それで落ち込んでるのか、有吉君。伊藤君が女の子に取られたって」
有吉「あの、僕と伊藤君って、そんなみんなが期待するような関係じゃないから」
豪田「じゃその落ち込み方は何なの?」
有吉「僕も伊藤君も、高校の3年間彼女無しで過ごしたからさ、ちと寂しいだけだよ」
豪田「伊藤君に裏切られたとか抜け駆けされたとか思ってるの?」
有吉「全然無いとまでは言い切らないけど、伊藤君には幸せになって欲しいとはマジで思ってるよ」
豪田「有吉君、いい人なんだね。まあそう落ち込みなさんな。現視研には彼氏募集中の女の子がたくさんいるし、ヤブさんに頼めば漫研の女の子にもつなぎ取れるだろうし」
有吉「ありがと…」
豪田「(そっぽを向き)何なら、私でもいいし…」
有吉「えっ?」
豪田「何でもない!」



31526人いる! 夏コミ2日目 その17 :2006/12/17(日) 17:23:28 ID:???
笹原「荻上さん、田中さんと大野さんは?」
荻上「何でも日垣君と国松さんに、急遽コスしてもらうっておっしゃてましたよ」
笹原「そりゃまた急にどうして?」
荻上「2人とも今日はマネージャー役でコスプレ広場にずっと居るから、それならコス姿の方がいいって田中さんが言い出したそうです」
笹原「てことは、昨日いきなりコス用意したのかな、田中さん?」
荻上「大野さんの話では、昨夜の内に突貫工事で作ったらしいですよ」

そこへ問題の4人がやって来た。
田中「すまん遅くなって。ちょっと日垣君の方で手間取ってね」
ハゲヅラの田中が謝る。
大野さんのラストと田中のグラトニーについては心の準備が出来ていたので、感心はしてもさほど驚かなかった一同だったが、国松と日垣を見て呆然とする。
国松はチャイナ服風のシャツとズボンを身に着けていた。
髪は左右2つのお団子に束ね、その根元には弁髪状の髪の束を左右各3本ずつ下げている。
国松はさほど髪が長くないので、おそらくヅラであろう。
ブルース・リーがブームになった頃のカンフー映画で、カンフーをやるヒロインにありがちな格好だ。
その肩には、子猫ほどの大きさのパンダの縫いぐるみが、鷹匠の鷹のように立っていた。
もっと異様なのは日垣だ。
服装こそノースリーブのシャツに黒のジャージのズボンとありきたりな格好だが、上半身の皮膚は褐色に塗られ、頭のてっぺんには白髪のヅラを被っている。
しかも右腕には奇怪な模様の入れ墨があり、額から目にかけて×状の傷跡がある。
国松がちょっと嬉しそうなのに対し、日垣は恥ずかしそうだった。
豪田「スカー…なの?」
巴「なかなか似合ってるじゃない。日垣君背高いし体格いいから、ピッタシのキャスティングね」
浅田「国松さんのは…メイ・チャン?」
岸野「よくこんな短時間で用意したな、田中先輩」



31626人いる! 夏コミ2日目 その18 :2006/12/17(日) 17:26:35 ID:???
グラトニー姿の田中が説明する。
田中「日垣くんのコスは彼の私物での間に合わせだよ。国松さんのは、前に荻上さん用に試作したものを改造したんだ」
荻上『私に何のコスさせる積りだったんだ、田中さん?…』
沢田「日垣君の肌の色はどうやったんです?」
国松「明日の絶望先生のコスで使うファンデーション使ったのよ」
台場「そう言えば千里、明日はマリア役だったわね」
国松「昔シャネルズが黒人メイクで使ってたやつよ」
台場「シャネルズって…ラッツ・アンド・スターのこと?」
斑目「この場合、オタ的には国松さんの言い方の方が正しいな」
台場「といいますと?」
斑目「昔『キン肉マン』の中で、キン肉マンが黒塗りメイクでサングラスかけてシャネルマンって名乗ったことがあっただろう?あれの名前の由来がシャネルズなんだよ」
台場「ああ、ありましたね、そんな話が」
国松「???」
台場「あんたの言い方の方が正しいって話よ」
斑目「まあ何にせよ、これだけは言えるな。(1拍間を置いて)田中恐るべし!」
一同「激しく同意…」

田中「しかし今日は、ほぼみんなコスプレ広場に集まったな。これならみんなの分のコスも作っときゃよかったな」
それを聞いた会計担当の台場の顔に影が差し、地獄の底から響くような低音で呟く。
台場「よさ〜〜〜〜〜〜〜〜〜ん!」
田中「ひっ?」
台場「今回作ったコスだけで赤字なのに、よさ〜〜〜〜〜〜〜〜〜ん!」
どこからともなく算盤を取り出し、まるで神社の巫女が鈴を鳴らすようにシャカシャカと算盤を鳴らす。
田中「落ち着け台場さん!あくまでもそうだったらいいなって話だから!」
台場「(急に普段の顔に戻り、算盤もどこかに仕舞い)ならいいです」
荻上『とりあえず会計は、引退まで台場さんに任せて大丈夫そうね…』



31726人いる! 夏コミ2日目 その19 :2006/12/17(日) 17:28:45 ID:???
そこへ藪崎さんと加藤さんがやって来た。
藪崎「うわー、こりゃまた化けたなオギー」
加藤「よく似合ってるわよ、荻上さん」
荻上「ありがとうございます。今日は漫研の方はどうです?」
加藤「まあ可も無く不可も無くってとこかしら」
藪崎「不可です!甘いこと言うてたらあきません、加藤さん!」
加藤「でもさっきのあれは、ちょっと言い過ぎよ」
荻上「あれ?」
加藤「藪崎ね、さっきうちの女子たち泣かしちゃったのよ」
藪崎「人聞きの悪いこと言わんといて下さい!私は正論を言うただけです!」
荻上「何言ったの?」
加藤「うちの同人誌見て、絵が型通りだのコマ割が在り来たりだのと滅多切りにしたのよ」
荻上「うわー容赦無いなー」
藪崎「あんたはあの同人誌見てないから、そない言えるんや。あとで1冊持って来たるから見てみい。絶対文句言いたなるわ」
荻上「そんなに酷いの?」
藪崎「絵えそのものは悪うないんや。けどな、漫画の入門書でも見ながら描いたみたいに全て型通りで、描いた本人の個性とか主張とかが全然無いんや」
加藤「まあ確かに、藪崎の評は間違ってないわ」
藪崎「要するに、夏コミで出品出来る枠があるから描いてみたみたいな、その程度のノリなんや。現視研みたいに、今回で終わりかも知れんちゅう切迫感があらへんのや」
加藤「だからって、今回の絵描きの子が泣いちゃったのに、それにさらに追い討ちかけちゃやり過ぎよ」
荻上「追い討ち?」
藪崎「ちょっ、ちょっとやめて下さいよ加藤さん、みっともない!」
構わずに加藤さんは続けた。
加藤「藪崎はこう言ったのよ。『その涙は何や!あんたの涙でええ同人誌が作れんのか!完売出来んのか!』って」



31826人いる! 夏コミ2日目 その20 :2006/12/17(日) 17:30:34 ID:???
そこへ国松が割り込んできた。
国松「藪崎先輩って、まるでモロボシ・ダンみたいですね」
藪崎「出たな特撮娘。モロボシ・ダンって『ウルトラセブン』の人やろ。どういうことや?」
国松「ダンは『ウルトラマンレオ』ではMACの隊長やってるんですよ。それでレオに変身するオオトリ・ゲンにいろいろ特訓するんです」
藪崎「特訓?何の?」
国松「もちろん怪獣倒す為の特訓ですよ。それが厳しくてゲンが泣いちゃった時に、ダン隊長が言うんですよ。『その涙は何だ?お前の涙で怪獣が倒せるのか?』って」
藪崎「…『ああ喋らせるんやなかった』」
国松「ダメですよ藪崎先輩、後輩の人たちに無茶な特訓させちゃ」
藪崎「せえへん!」
国松「ジープで追い回したりしちゃダメですよ」
藪崎「するかい!て言うか、それ何の特訓やねん?」
ちなみにジープで追い回すとは、突進して来て肩の角で突くのを必殺技にしているカーリー星人なる宇宙人に勝つ為の特訓である。
特撮系の2ちゃんねらーの間では、レオと言えばジープと言われるほど有名なエピソードである。
これはまた後の話だが、「ウルトラマンメビウス」の11月の放送の際にレオが登場した。
レオことオオトリ・ゲンはミライに対し、かつてダンに言われた「その涙で〜」の台詞をまんま言い放ち、ジープで追い回す特訓こそ無かったが空手の特訓を命じる。
2ちゃんねるのメビウススレは祭状態と化し、当然国松も翌朝までスレに参加した。
月曜になっても興奮冷めやらぬ国松は、現視研でも何か特訓をやろうと言い出した。
体育会系の巴と特訓大好きのクッチー、そして今や国松の舎弟状態の日垣もそれに乗った。
そこへ更に、野外でのサバイバル経験の豊富な浅田・岸野コンビが、どうせやるなら冬の雪山でサバイバル訓練をやろうと言い出し、他の会員たちも賛同しかけた。
荻上会長が部室に来た頃には、行き先は八甲田山(明治時代、帝国陸軍が行軍訓練中に遭難し、ほぼ全滅しかけたことで有名な難所)で具体的に話が進みかけていた。
さすがにまずいと判断した荻上会長、会長就任以来初の強権発動を断行し、特訓をかろうじて止めさせた。



31926人いる! 夏コミ2日目 休憩 :2006/12/17(日) 17:38:55 ID:???
本日はここまでです。
続きは明日にでも投下します。

すいませんすいませんすいません!!!!!!!!
いろいろ用事のある中、合間を縫って投下したせいか、いろいろ間違ってしまいました。
レスの番号増やすの忘れて、その1が2つになってしまいました、すいません。
その3とその4は本来は1レスだったのですが、「本文が長過ぎます」の為に分割しました。
その結果、19レスの予定が20レスになっちゃいました、すいません。
今回推敲が雑で、あちこち誤字が目立ちます、すいません。
しょうもない話ですいません。
生まれてしまってすいません。

32026人いる! 夏コミ2日目 追記 :2006/12/17(日) 18:03:03 ID:???
もう1つ大事なことを忘れてました。
夏コミ開幕戦の感想への返事を忘れて、いきなり投下してしまいました、すいません。
遅まきながら感想いろいろありがとうございました。
>>280
今回のは読み応えという点では、チト物足りないかも知れません、すいません。
>>281
携帯でこんなの書いたら腱鞘炎になりますって。
専ブラですか…
パソコンよく分からんので、相変わらずワードで文書いてコピペで投下してます、すいません。
>>283
国松のモデルになった国枝千里は、あーるの終盤に入った新入生なので、原作ではあまり目立たないまま終わってしまいました。
で、この人のその後という意味合いも込めたキャラだったのですが、まるで違うキャラになってしまいました。
同じゆうきまさみ作品のキャラで言えば、むしろ泉野明や渡会ひびきみたいになっちゃいました、すいません。
>>284
俺も見たいですな、絵で。
どなたか絵心ある方、絵板で集合写真風なのを1発お願いします。
絵描き属性無くてすいません。
>>292
多分>>282の人とお見受けします。
修羅場は無事終わられましたでしょうか?
最初「11人いる!」を書いた時、11人の1年生たちは荻上会長奮戦記の為の状況設定に過ぎませんでした。
でも続編書いてみたら、キャラが暴走開始し出しました、すいません。


321マロン名無しさん :2006/12/17(日) 18:32:15 ID:???
>『26人いる! 夏コミ2日目』
とりあえずまえがきとあとがきで15回も謝ってるのがワロタ
そんな恐縮せんでもw
投下お疲れ様です、これから読ませていただきますねー。

322マロン名無しさん :2006/12/18(月) 17:32:53 ID:???
>『26人いる! 夏コミ2日目』(の前編)
読んだ。相変わらず読み応えのある作品サンクス。
こいつが投下された翌日は通勤時間と昼休みがほとんど読書の時間になる。嗚呼楽し。

国枝さん、いいタイミングで最萌に支援キャプがあったので思い出しました。ケムラーの説明してる図は記憶あった。あの子かw
まあ作者氏おっしゃるとおりもっとパワフルなキャラになってるが、まあきっと大学生になって身も心も成長したのであろうと。
もうすっかり主役級の大活躍で頼もしい限りであります。
スーの姿を借りた作者氏の懐アニネタもばっちりだ!次の機会にはシャザーンとラムジーちゃんも頼む。

そして……ツンデレジャイ子キタ━━(゚∀゚)━━━!!

腐女子なのにノーマルとはそこまで荻上さんのフォロワーを目指すのか。
もし伏線だったらゴメン。そのくらいショックつーか面白かった。

あと本編以外にもツッコミを。
>生まれてしまってすいません。
違www

これで折り返しかな?いやもっともっとあってもかまいませんが。
残りも楽しみにしてます。ではでは。

32326人いる! 夏コミ2日目 再開 :2006/12/18(月) 22:12:32 ID:???
昨日投下しました「26人いる! 夏コミ2日目」の続きを投下しようと思います。
この時間帯、よく人大杉になるので時間どれぐらいかかるか分かりませんが、倒れるまで投下し続けようと思います。
その前にチトご返事。
>>321
読んで頂けましたでしょうか?
今回は少し短めですので、今しばらくのお付き合いを。
>>322
国枝さん、最萌に挙げた人が居たんですか…なかなか通な人ですな。
実は11人の新入生の元ネタを決める条件の1つが、大元の漫画の主役じゃなく目立たないことだったんです。
彼らはあくまでも荻上会長奮戦記の状況設定に過ぎない、そういう考え方から始まった話だからです。
(まあ一部例外も居ますが)
それが話を続ける内に、変な方向に動き始めてしまいました。
荻上会長体制下の現視研の明後日はどっちだ!

ではまた5分ほど後に…

32426人いる! 夏コミ2日目 その21 :2006/12/18(月) 22:17:09 ID:???
藪崎「あかん、悪い子やないのは分かんねんけど、この子の話には付き合い切れんわ」
日垣が国松を呼びに来た時、正直言って藪崎さんはホッとしていた。
そしてコスプレ中の他の現視研メンバーを見渡し、突如動きを止める。
藪崎「なあオギー、あの人誰や?」
あの人とは、ヒューズコスの斑目だった。
荻上「ああ、OBの斑目さん…ヤブ、どしたの?」
藪崎さんの目がハート型になっていた。
荻上「あの、ヤブ?」
藪崎「直球ど真ん中や!」
荻上「えっ?」
藪崎「いやーこんな近くに理想のメガネ君が居るとは気付かなんだ、盲点やったわ」
フラフラと斑目の方に近付く藪崎さん。
だがそこへ猛スピードで接近する影があった。
アンジェラだ。
アンジェラが一直線に斑目に突進する。
藪崎「何や?」
斑目「アンジェラ?」
アンジェラ「ハーイ、ミスター総受け!」
こける一同。
笹原『斑目さんの総受けは、もはや国際的認識なのか…』
アンジェラは斑目に飛び付くように抱き付き、頬にキスした。
次の瞬間、斑目は硬直して最大出力で赤面し、白目を剥いて気絶した。
それを見て硬直する藪崎さん。
一同「斑目さん!」
アンジェラ「オーミスター総受け、どうしたあるか?」
笹原「(斑目に駆け寄って体を探り)気絶してるだけみたいだね」
荻上「お医者さん呼んだ方がいいかしら?」



32526人いる! 夏コミ2日目 その22 :2006/12/18(月) 22:23:20 ID:???
そこへスーがトコトコと近付いて来た。
スー「(左上腕部を右手で押さえながら)医者ハドコダ」
沈黙する一同。
台場「スーちゃん、『ねじ式』知ってるんだ…」
沢田「…偶然じゃない?」
その時斑目の鼻から、ひと筋の血が流れた。
笹原「ヤバイ!鼻血だ!」
斑目の顔を横に向けつつ、ティッシュを取り出す笹原。
ティッシュで栓をするまでの間に、鼻血はポタポタと地面に垂れて丸い血痕となった。
それを凝視していたスーが呟いた。
スー「花ダ、紅イ花ダ」
台場「やっぱり知ってるみたい、つげ義春。ってスーちゃん、そんな場合じゃないでしょ!」
次の瞬間、スーは上体を後ろに反らし、自分の股の間から顔を出し、両腕で自分の両脚を抱え込む。
スー「必殺スルメ固メ」
台場「もういいから!」
巴「へー、スーちゃん体柔らかいんだ」
そこへまたもや国松が割り込む。
国松「ダメよスーちゃん。キングアラジンなら、その格好でゴロゴロ転がって行かなきゃ」
一同『キングアラジン?』
スーはするめ固めの体勢のまま、後ろに倒れるようにしてゴロゴロと転がって行き、やがてその体勢を解いて立ち上がり、体操のフィニッシュのようなポーズで決めた。
国松「凄いスーちゃん!完璧にキングアラジンじゃない!」
台場「て言うかスーちゃん、キングアラジンが何だか知ってるの?」
(注釈)キングアラジン
特撮ドラマ「怪奇大作戦」に登場した怪盗の名前。
特殊な繊維とガスで保護色を作り出し、壁に溶け込むように消えることから「壁抜け男」とも呼ばれ、それが登場回のサブタイトルにもなっている。
この怪盗、体がたいへん柔軟で、先程スーがやったような、体を反らして丸めてゴロゴロと転がる特技を持つ。



32626人いる! 夏コミ2日目 その23 :2006/12/18(月) 22:26:48 ID:???
笹原「それはそうとみんな、大事なこと忘れてない?」
神田「あっそうだ。大丈夫ですか斑目先輩?」
笹原「まあ気絶してるだけだから、寝かしといても大丈夫だけど」
大野「そうは行きません!コスを着ている限りは起きてもらわないと!」
荻上「鬼だ、この人…」
アンジェラ「よしっ!私が人工呼吸で起こしてあげるあるよ」
斑目に近付くアンジェラ。
その時、我に返った藪崎さんがアンジェラに突進する。
藪崎「私の斑目さんに何する気や、この変態外人!」
しばし周囲の時間が止まる。
アンジェラ「あの、私のって…」
自分の言ったことの意味を悟り、またもや自爆する藪崎さん。
藪崎「知ったな!私が斑目さんのことを…」
ここまで言いかけた瞬間、藪崎さんは気絶した。
その背後には、手刀を構えた加藤さんが立っていた。
加藤「大丈夫よ、頚動脈を打って気絶させただけだから」
荻上「頚動脈って、そんな平然と…」
朽木「加藤さん、なかなか鋭いチョップでしたなあ。最低でも黒帯クラスの腕前と見たにょー」
加藤「藪崎まで騒ぎ出したら話がややこしくなる一方だから、とりあえず眠らせたわ。(笹原に)今の内に斑目さんの方をお願いします」
笹原「分かった。それにしても何で俺の周りって、こうも自爆スキーキャラばっかりなんだろう?」
スー「サダメジャ」
笹原「そうかもね、ハハ…(汗)」
スーのひと言に、マジで納得してしまう笹原だった。


32726人いる! 夏コミ2日目 その24 :2006/12/18(月) 22:30:40 ID:???
荻上「で、笹原さん、どうするんですか?」
笹原「俺が斑目さん起こすよ」
腐女子一同『笹原さんがキスで斑目さんを起こす、ハアハア…』
さすがは荻上会長の一門だけあって、1年女子たちも太陽系から脱出可能な程度の小ワープは出来るようになっていた。
その気配を感じ取った笹原が釘を刺す。
笹原「あの、みんなが希望するようなことはやらないから…」
そのひと言で1年女子たちは地球に帰還したが、1人荻上会長だけはバラン星を通過しかけていた。
笹原「やっぱり本家のワープ能力は違うな。誰か荻上さんの頭の筆、シビビビしてあげて」
豪田「了解です。(筆をシビビビしながら)荻様、戻って来て下さーい」

荻上会長の意識が地球に帰還したその時、笹原はポケットから気付け薬を出し、斑目のティッシュを抜いた鼻先で開けようとしているところだった。
荻上「笹原さん、それは?」
笹原「気付け薬だよ」
斑目は目を覚ました。
斑目「はっ、ここは誰、俺はどこ?」
笹原「まあ、お約束ですね。ハハッ…」
荻上「あの笹原さん、何でそんなものを?」
笹原は平然とした顔で、当然のように答えた。
笹原「B先生の担当になってから、前の担当の人にもらったんだよ。これからはたびたび使うだろうから、いつも持ってろって」
一同『どういう人なんだ、B先生って?』



32826人いる! 夏コミ2日目 その25 :2006/12/18(月) 22:34:43 ID:???
斑目騒動を吹き飛ばすかのように、クッチーは今日もノリにノッていた。
今日のアルコスは、昨日のベムコスよりもはるかに軽く動きやすい。
内側に貼られたウレタンも、中に入るクッチーの体が傷付くのを防ぐ為のものだから、最小限の量だ。
だから鎧の中はけっこう隙間があり、昨日ほど暑くない。
だから例によって調子に乗って動き回る。
本物のアルも空手的なアクションが多い為、思う存分空手のスキルを披露する。
と言っても素人目にはよく分からない動きだ。
ボクシング的なフットワークとパンチ連打を見せたかと思えば、次の瞬間には中国拳法的な腰を大きく落としたゆったりとした動きも披露する。
そして仕上げは、テコンドー的な半身のスタンスからの派手な蹴りの連打だ。
だがこれがカメコたちにウケた。
それでまた調子に乗り、ワンツーからの浴びせ蹴りとか、ハイキックからの掃腿など、派手な技を見せる。
(注釈)掃腿
中国拳法の技で、大きくしゃがんで回転しつつ脚を伸ばし、相手の足を掃くように蹴る、足払いの一種。

さすがに心配になって荻上会長が声をかける。
荻上「あの朽木先輩、今日はほどほどにして下さいよ」
朽木「大丈夫だにょー」
さらに動きを加速するクッチー。
大野「朽木君、いい加減にしなさい!」
朽木「さあ、ますますもって絶好調ですにょー」
まるで注意が耳に入らない。
荻上「懲りねえ人だなあ、ったく…」
国松「朽木先輩、休憩行きましょう」
突如ピタリと動きを止め、直立不動で姿勢を正すクッチー。
朽木「GIG!」
国松はクッチーを連れて日陰へと移動し始めた。



32926人いる! 夏コミ2日目 その26 :2006/12/18(月) 22:38:23 ID:???
大野「国松さん、すっかり朽木君手なずけましたね」
荻上「まあ、あの人を手なずけられるのなら、大概の人は従えられますね。これならあの子を次期会長にしても…」

荻上会長の頭の中のイメージ。
1年後の部室。
天井には、ウルトラホークやマットアローやガンフェニックスの模型が吊られている。
壁際の棚にはバルタン星人やカネゴンなどの怪獣ソフビ人形が並ぶ。
さらにその傍らには、着ぐるみの怪獣が展示されている。
壁には怪獣のポスターがズラリと並ぶ。
妙にメカニカルになった机を囲んで座る、GUYSの制服を着た会員たち。
上座には、隊長用の白い襟の制服を着た国松が座っている。
国松が立ち上がり、会員たちも一斉に起立する。
国松「(直立不動で姿勢を正し)現視研、サリーゴー!」
一同「(直立不動で姿勢を正し)GIG!」
(注釈)サリーゴー! 「出撃!」の意。

荻上「やっぱりマズいかも。ヌルオタサークルとしては、何か間違ってる気がするし…」
大野「?」

荻上会長が苦悩する一方で、恵子は満足していた。
金髪に染め直し、周りが注目してカメラを向けてくる、この状況に酔っていた。
まあカメラを向けてくるのがイケメン率0パーセントのオタたちなのが難点だが、それでも人にチヤホヤされて悪い気はしない。
だがカメコの1人の不用意なひと言が、彼女をキレさせた。
「なああのホークアイって、顔マスタングとそっくりじゃない?」
恵子は笹原のことをここ数年で兄として見直し、秘かに高く評価していたのだが、それでもなお男兄弟とそっくりという事実は、年頃の女の子にとってはコンプレックスだった。
恵子「誰がアニキとそっくりじゃゴラ〜〜〜!!!」



33026人いる! 夏コミ2日目 その27 :2006/12/18(月) 22:41:07 ID:???
カメコにつかみかかろうとする恵子。
それを大野さんや荻上会長が、しがみ付いて必死で止める。
笹原も駆け寄る。
大野「ダメですよ恵子さん、お客さんに手出しちゃ」
荻上「落ち着いて下さい、恵子さん!」
恵子「えーい放せ!」
さらにスーがしがみ付いて叫ぶ。
スー「殿中デゴザル!」
固まる一同。
荻上「…何で『忠臣蔵』なんて知ってるの?」
スー「押忍!日本では揉め事の際には、こう言って止めると日本語の先生に教わりました。違うでありますか?」
荻上「…微妙に間違ってます」
こうして間を外されたこともあって恵子は落ち着き、騒ぎが収まった。
恵子は笹原に近付き、小声で尋ねた。
恵子「なあアニキ、『ちゅうしんぐら』って何だ?」
笹原「アホ」

ふと気が付くと荻上会長の周りには、十数人の女の子が集まっていた。
顔を紅潮させ、まるで男性アイドル歌手でも見るような憧れに満ちた目を向けている。
彼女は前にこれに似た経験をした記憶があった。
荻上『この子たちの目って…そうだ、うちの1年の腐女子の子たちが、初めて私に会った時とおんなし目だ』
女の子たちの1人が意を決したように声をかけてきた。
「あの、すいません、握手してもらえませんか?」
荻上「握手?」
その女の子によれば、彼女たちは荻上会長のオートメールの右手を見て、これならエドとの握手の擬似体験が、かなりリアルに出来ると考えたのだそうだ。



33126人いる! 夏コミ2日目 その28 :2006/12/18(月) 22:43:21 ID:???
彼女たちの意図が分かった荻上会長は快諾し、次々と握手してあげた。
すると周囲に居た他の女の子たちや、年配のお客さんが連れてきた子供たち、果てはカメコやレイヤーたちまでもが荻上会長の前に並び始め、臨時の握手会状態となった。
会員たちも集まってきて、いつの間にか列を整えて回る場内整理係と化していた。
握手会やったアイドルとか選挙の候補者とかが、手を痛めたという話を聞いたことがあるので、最初は躊躇した荻上会長だったが、こうなったらと腹をくくった。
そして1人1人にそれなりの力を込めて握手してあげた。

ざっと百人前後握手したところで、ようやく人が途切れた。
ぼんやりと自分の右手を見つめる荻上会長。
笹原が駆け寄る。
笹原「お疲れ様。手、痛くない?」
荻上「それが意外と痛くないんですよ。それどころか相手の人の方が時々痛がってました。まあ痛がってた人も『さすがはオートメールだ』って、むしろ喜んでましたけどね」
笹原「オートメールのせいじゃない?」
荻上「そうかも知れませんね。相手の人、みんなけっこう力入れて握ってるみたいなんですけど、あんましそれ手には感じなかったし」
笹原「それにそのゴツゴツした硬い手で握られたら、素手だと痛そうだし」
巴「それだけじゃないかも知れませんよ」
突如巴が話に割り込んだ。
笹原・荻上「…どゆこと?」
巴「荻様、試しに私の手を握って下さいな(右手を差し出す)」
荻上「えっ?」
巴「大丈夫ですよ。私は力入れませんから」
荻上「そっ、そんじゃ」
巴と握手する荻上会長。
巴「思い切り力入れてみて下さい」
さらに強く握る荻上会長。
巴「はい、もういいですよ」



33226人いる! 夏コミ2日目 その29 :2006/12/18(月) 22:46:09 ID:???
しばし考え込んだ後、巴は解説を始めた。
巴「結論から言うと、荻様ってご本人が思ってるよりも握力ありますよ」
笹原「そうなの?」
荻上「でも、前に体育で体力テストやった時には、大して握力無かったわよ」
巴「どれぐらいです?」
荻上「(赤面し)ここではちょっと言えないわ。だって体重と同じぐらいなんですもん」
顔色変える巴。
巴「あの、荻様、それってかなり凄いですよ」
荻上「えっ?」
巴「多少個人差はあるけど、特別にスポーツや肉体労働やってる人とか、極端に太ってる人とかを除けば、普通は握力って体重の5割から7割ってとこなんです」
荻上「そうなの?」
浅田「巴さんの言う通りだと思いますよ」
浅田と岸野も話の輪に加わった。
岸野「例えば柘植久慶のサバイバル関係の本によれば、ロープにぶら下がって高いとこから脱出するには、体重の8割程度の握力が要ると書かれています」
浅田「つまり、8割もあればけっこう握力のある方の部類になるってことです」
巴「だから特別鍛えてる訳でもない荻様が体重と同じ握力ってのは、かなり凄いことなんですよ」
荻上「そうなんだ。数字的には大したことないから、握力弱い方だと思ってた」
巴「そりゃ絶対値で行けば私や蛇衣子の方が上ですよ。体が大きいんだから。でも体重比例させて比べた相対評価なら、実は荻様が現視研の握力王かも知れません」
荻上「あんまし嬉しくないわね。女の子が握力王と言われても…」
笹原「で、何で荻上さんがそんなに握力があるのかな?」
巴「原因は分かりませんが、さっき握ってもらって分かったのは、荻様が極端にピンチ力が強いということです」



33326人いる! 夏コミ2日目 その30 :2006/12/18(月) 22:49:19 ID:???
一同「ぴんちりょく?」
巴「簡単に言うと、親指と人差し指で摘む力です」
浅田「でも握力って、どっちかと言えば小指で決まるんじゃないの?」
巴「もちろん小指も重大な要素よ。でも人間の手が、構造上親指とその他4本で挟んで包み込むように物を握るように出来てる以上、握る動作を締めくくる親指の働きも重要よ」
岸野「それもそうだな」
巴「荻様の場合、中指・薬指・小指の3本はさほど力があるようには感じられなかったけど、親指と人差し指だけは、並みの体格の男の子ぐらいの力を感じたわ」
笹原「荻上さん、親指と人差し指だけ酷使したり鍛えたりしてるの?」
荻上「いえ、別にそんなことは…あっ!」
笹原「どうしたの?」
荻上「私ペンの持ち方が変なんです。親指と人差し指で少しペン挟むような感じで、しかも極端に力入れる癖があるんです」
笹原「でも、それぐらいで力付くかな?」
巴「荻様、その持ち方って子供の時からですか?」
荻上「ええ、最初は先生や親も直そうとしたらしいけど、結局さじ投げちゃって」
巴「荻様が漫画描き出したのって、何時ごろからです?」
荻上「本格的に描き出したのは中学入ってからだけど、落書きレベルのは小学校入った頃からやってたわ」
巴「それで分かりました。それなら十分ですよ、ここまでの握力付けるのには」
笹原「どういうこと?」
巴「握力ってのは他の筋力と違って、短時間に大きな負荷かけて付けることが出来ないんです。時間をかけて、軽い負荷から少しずつ負荷上げて継続的に鍛えるしか無いんです」
浅田「なるほど、小学校入った頃から今までなら、ざっと15年。まさに継続は力なりだな」
こうして荻上会長は、現視研の握力王に認定される破目となった。



33426人いる! 夏コミ2日目 その31 :2006/12/18(月) 22:59:47 ID:???
笹原のところにも、妙な客層が集まった。
彼はマスタング大佐のコスをやることが決まってから、毎日大佐のトレードマークとも言うべき指パッチンの練習を始めた。
最初はなかなか鳴らせなかったが、日々精進する内に素手なら鳴らせるようになった。
そしてさらに修練を積み、遂には大佐用の錬成陣を描いた絹の手袋をはめてでも鳴らせるようになった。
写真撮影の時に指を鳴らして見せるとカメコたちに大いにウケ、リクエストが殺到した。
真面目な笹原は、ご要望に応えて指パッチンを連発した。
だんだん調子に乗ってきて、左手でも鳴らして見せたり、遂には両手でダブルでの指パッチンまで披露した。
ノリノリでダブル指パッチンを連発しているところに、休憩から戻ってきたクッチーが通りがかった。
しばらく笹原の指パッチンを見つめていたクッチー、やがてひと言ポツリと言った。
朽木「まるでポール牧ですな」
このひと言で、笹原の頭上の重力は突然木星並みに増大した。
打ちひしがれる笹原に、何故かカメコたちが殺到した。
「おおこりゃ貴重だ。大佐の無能呼ばわりされてイジケ状態バージョンだ」
カメコたちの絶賛(?)が、笹原のブルーな気分にさらに追い討ちをかけた。

一方斑目は2人の外人女性の相手に苦戦していた。
斑目「あの、すいません。何故俺にそんなに接近するのですか?」
先程アンジェラにキスされて気絶した為に、彼は必要以上に2人を警戒していた。
アンジェラ「私たちの服装見て、何か気付かないあるか?」
斑目「服装?…あっ!」
よく見るとアンジェラは、いつもに比べるとシックな大人っぽい服装をしていた。
一方スーは、いつもそうだが今日は更に輪をかけて子供っぽい服装だ。
長い金髪をツインテールに束ねてリボンを飾ってるので、よけい幼く見える。
斑目「グレイシアとエリシア…なのか?」
アンジェラ「今日の私たちの服装、あなたのコスしたヒューズさんの奥さんと娘をイメージしたあるね」



33526人いる! 夏コミ2日目 その32 :2006/12/18(月) 23:02:42 ID:???
斑目「田中〜!コスで入場するのはアリなのか!?」
田中「いや、それコスじゃないし。それに似た格好の私服で来て、キャラになりきるのは本人の自由だしな」
アンジェラ「(斑目の腕に自分の腕をからめ)あなた〜」
スー「(アンジェラの反対側から斑目にしがみ付き)パパ〜」
田中「まあ男が生涯で両手に花状態になることなんて、そうそうあることじゃない。ここらが年貢の納め時だと思って、潔く身を固めろや」
斑目『(最大出力赤面で滝汗)助けて…』

コスプレ広場のあちこちで、祭状態を巻き起こしている現視研の面々。
ふと気付くと、コスプレでは1番張り切っていた大野さんと田中は、それらの騒ぎの蚊帳の外に居た。
もちろん大野さんの胸の谷間には道行く男性たちは必ず注目するし、田中も子供たちに割とウケていた。
だが1人で大騒ぎしまくるクッチーや握手会状態の荻上会長、それに指パッチン連発の笹原や両手に花の斑目に比べると、どうしても地味な感じがする。
田中はともかく大野さんは、みんながコスプレにノリノリなのが嬉しい反面、自分が目立てないのは寂しかった。
コスプレイヤーという人種は、やはり多かれ少なかれ自己顕示欲が強い。
そんな大野さんに、田中が悪魔の誘惑を仕掛けた。
田中「あの、大野さん。よかったらお色直ししない?」
大野「お色直し?まさか、別のハガレンコスがあるんですか?」
田中「あることはあるんだ、ちょっと微妙なのが。ただ、目立てることだけは保証するよ」
目立つという殺し文句に大野さんが落ちた。
大野「やります!コスどこにあるんですか?」
田中「今持って来てもらうよ。(ポケットから携帯を出してかける)ああ高坂君、今忙しい?…分かった、じゃあ俺の方が取りに行くよ(携帯を切って仕舞う)」
大野「高坂さんが預かってるんですか?」
田中「ちょっと大荷物になるコスなんで、高坂君に頼んで予めプシュケのブース内に預かってもらってたんだ」



33626人いる! 夏コミ2日目 その33 :2006/12/18(月) 23:05:13 ID:???
30分後、お色直しに行った大野さんと田中は、新たなコスでコスプレ広場に戻って来た。
大野「お待たせ、ただ今戻りました!」
大野さんと田中を注目する現視研一同。
全員驚愕の表情を浮かべた。
笹原「大野さん…だよね?」
荻上「隣にいらっしゃるの…田中さんですよね?」
大野「(嬉しそうに)分かります〜?」
荻上「声でね」
国松「どうしたんですか、そのコス?」
田中「実はね、今まで隠してたけど、俺夢遊病の気があるんだ」
一同「夢遊病?」
田中「大学入った頃から、朝起きると妙に疲れてて、そして作った覚えの無いコスが増えてるってなことが何度かあったんだ」
一同「…」
田中「材料のストックも該当するのが減ってるし、仕上がりから判断するに明らかに俺制作なんだ。それで試しに、タイマーセットして俺の部屋の中をビデオ撮影したんだ」
笹原「そしたらコス作ってる自分が映っていたと…」
田中「その通り」
国松「でも、田中先輩、これを寝ながら作ったんですか?!私起きてても作れる自信無いですよ」
日垣「確かにこれは、起きてて作っても手間ですよ、かなり」
斑目「久々に本心から『田中恐るべし』と言わせてもらうよ」
そこへ台場がトイレから戻って来た。
台場「(2人を怪訝な顔で見て)田中先輩と大野先輩…ですよね?」
どうやら先程までの会話を途中から聞いていたようだ。
朽木「そうだにょー」
突如台場の顔が鬼の形相に一変した。
台場「よさ〜〜〜〜〜ん!!!!!!!」
またもやどこかから算盤を取り出し、大上段に振り上げながら田中に近付いた。
台場「予定のコスだけでも赤字なのに、あなた方って人は〜〜〜!!!」



33726人いる! 夏コミ2日目 その34 :2006/12/18(月) 23:07:43 ID:???
田中「台場さん落ち着け!このコスは俺の自腹だから!」
台場の動きがピタリと止まった。
台場「じ・ば・ら…」
田中「そう、自腹だ!だから現視研の会計には迷惑かけん!」
台場の表情が平常に戻った。
そしてどこへともなく算盤を仕舞う。
台場「(ニッコリ笑い)それならいいです!」
ホッとする一同。

そして数分後、田中と大野さんはへばっていた。
大野「暑〜〜〜〜い!」
田中「まあ予想はしていたけど、いざ自分で着てみるとやっぱり暑いな」
2人がコスプレ広場に戻って来てから、10分程度しか経っていない。
田中「それにしても朽木君は元気だな。何回か休憩しているとは言え、よくあんな暑い格好で激しく動き回れるな」
大野「私には無理です」
そんな2人の様子を見た国松が声をかける。
国松「あんまり無理しないで下さい。とりあえず休憩しましょう」
田中・大野「そうします…」
こうして3人は休憩に向かった。
それにカメコが注目した。
「おい、すげー珍しい組み合わせのスリーショットだぞ」
「ほんとだ。こんなの原作では有り得ないぞ」
そう、それは確かに有り得ない組み合わせだった。
何しろシン国のメイ・チャンが、第五研究所の鎧の番人スライサーとバリー・ザ・チョッパーを連れて歩いているのだから。

結局田中と大野さんは、わずか1時間程度の短時間に十数回休憩に行き、遂に鎧コスを断念し、元のグラトニーとラストに戻った。



33826人いる! 夏コミ2日目 その35 :2006/12/18(月) 23:09:56 ID:???
斑目は相変わらず2大外人娘に激しく迫られていた。
アンジェラ「あなた〜!」
スー「パパ〜!」
そこへようやく気絶から醒めた藪崎さんが戻って来た。
荻上「大丈夫?」
藪崎「大丈夫や。何やあの外人、私の斑目さんに何すんねん?」
荻上「私のって…しゃあねえべ、あの2人は奥さんと娘の役なんだから」
藪崎「そしたら…せやオギー、あんたんとこのコスって、手作りやったな?」
荻上「うん、あそこでグラトニーやってる田中さんのお手製」
藪崎「よっしゃ!」
田中に詰め寄る藪崎。
藪崎「ちょっと田中はん!軍の制服、他に無いんか?」
田中「ちょっ、ちょっと待って!(傍らのバッグを探って制服を取り出し)これ、念の為に作っといた予備のやつだけど…」
藪崎「(制服を引ったくり)ちょっと借りるで!」
制服を服の上から羽織りつつ、走り去る藪崎さん。
田中「あっ、ちょっと…」
その時、田中は背後に殺気を感じた。
そして次の瞬間、シャンシャンと算盤を振る音がした。
恐る恐る振り返ると、鬼の形相の台場が算盤を握って立っていた。
台場「よさ〜〜〜〜〜〜ん!!!!!」
田中「わー落ち着け台場さん!あれ余った布で作ったから、余分な金かかってないから!」
だが頭がオーバーヒートした台場には、もはや田中の声は聞こえていなかった。
台場「よさ〜〜〜〜〜〜ん!!!!!」
台場は算盤を上段に振りかぶった。
田中「ひっ!」
台場「よさ〜〜〜〜〜〜ん!!!!!」
とうとう田中は恐怖で逃げ出したが、台場はそれを追う。
こうしてメガネっ娘腐女子が算盤を振りかざしてグラトニーを追い回すというシュールな光景が展開し、これはこれでカメコたちにウケた。



33926人いる! 夏コミ2日目 その36 :2006/12/18(月) 23:12:09 ID:???
一方藪崎さんは斑目に接近しつつあった。
三つ編みを解き、さらに自分のバッグからメガネを取り出してかける。
メガネ受け基本の薮崎さんは、来たるべき初体験の時に備えて、常にメガネを持ち歩いているのだ。
(童貞君の財布の中のコンドームのようなものだ)
そして斑目に迫る。
藪崎「何やってんですか、ヒューズ中佐!すぐ職場に戻って下さい!」
斑目の腕を取って引っ張る藪崎さん、顔は最大赤面。
斑目「あのー…どなた?」
藪崎「部下の顔忘れたんですか?シェスカです!」
こける一同。
荻上「ヤブ、それはいくら何でも無理があるって!」

2日目終了間際、藪崎さんと加藤さんは一旦漫研の売り場に向かった。
藪崎さんは現視研のみんなと、いや正確には斑目と一緒に居たがったが、戦況不利と判断した加藤さんが一時撤退を命じたのだ。
加藤「明日の勝利の為に、今日の敗北を甘んじて受け入れるのが真のいい女よ」
藪崎「いや加藤さん、それ元ネタは男だし…」
そんな2人が前方から歩いてきたカップルと目が合い、両者ともに硬直した。
カップルは2人とも猫耳(それも同じ縞模様で色違いのお揃い)を着けていた。
それがまた気味が悪いほど似合っていた。
何故ならその猫耳カップル、顔も猫顔だったからだ。
そしてその猫顔には見覚えがあった。
藪崎「ニャー子?」
加藤「伊藤君、だっけ?」
赤面して露骨にうろたえる伊藤に対し、ニャー子はいつも通りの態度だ。



34026人いる! 夏コミ2日目 その37 :2006/12/18(月) 23:13:57 ID:???
藪崎「何やお前ら…」
伊藤「いや、これはそのう…」
ニャー子「先輩、私伊藤君と付き合い始めましたニャー」
加藤「いいんじゃない?なかなかお似合いよ」
伊藤「(赤面し)ありがとう…ございます」
ニャー子「ありがとごじゃりまーす」
藪崎「くそー猫同士くっつきおって、勝ったと思うな!」
伊藤・ニャー子「意味分かりませんニャー」

例によって例のごとく、ノロノロとしか進めない帰り道。
自分の右手の親指と人差し指をくっつけたり放したりしつつ、不思議そうな表情で見つめる荻上会長。
そのすぐ左隣では、クッチーが1年男子たちを相手に今日のコスプレについて何やら話している。
一方荻上会長の右隣で並んで歩く笹原は、顔をしかめて自分の両手の親指と人差し指を見つめる。
笹原の向こうでは、1年女子たちと恵子が話し込んでいる。
後方では、田中・大野カップルがみんなの様子を眺めている。
そして斑目は、みんなから少し離れた前方を歩いていた。
相変わらずスーとアンジェラを連れて。

恵子と1年女子たちの会話が荻上会長の耳に入った。
恵子「今日の斑目さん、可愛かったよね」
一同「ですよね〜〜〜」
豪田「今時ほっぺにキスしたぐらいで気絶するなんて、純よね〜」
一同「そうよね〜〜〜」
当の斑目は、彼女たちの会話が聞こえないのか、聞こえないふりをしてるのか、スタスタと前方を歩き続ける。



34126人いる! 夏コミ2日目 その38 :2006/12/18(月) 23:15:50 ID:???
神田「ねえ、誰かシゲさんの誕生日知ってる?」
台場「ちょっと待ってね。(自分の荷物から手帳を取り出して開き)10月25日だけど、どうするの?」
神田「シゲさんのお誕生日にパーティーやらない?」
巴「いいねえ、それ」
豪田「派手にやりましょうよ」
沢田「さんせーい」
恵子「ミッチーあんた、何か企んでるだろ?」
神田「分かります?」
恵子「そりゃ分かるだろ。思いっきり目が笑ってるぞ」
神田「フフ…誕生プレゼントに、みんなで一斉にシゲさんにキスしちゃうってのはどうですか?」
一瞬沈黙。
一同「いいね〜それ!」
国松「(赤面して)でもキスなんて…私まだしたことないのに…」
恵子「バカだな。別に誰も唇にはしねえよ。ほっぺだよ、ほっぺ」
国松「ほっぺかあ…」
豪田「それなら問題ないでしょ?アンジェラ御覧なさい。アメリカじゃほっぺにキスなんて挨拶代わりよ」
国松「それもそうね…よし、やりましょ!」
巴「決まりね。喜ぶだろうな、シゲさん」
斑目の誕生プレゼントに1年女子プラス恵子の一斉キス攻撃が決まりかけたその時、荻上会長が口を挟んだ。
荻上「やめなさい!斑目さんが心停止したらどうするのよ!」
一同「ほわ〜〜〜〜〜〜〜い」
珍しく荻上会長に対し、不満ありげな返事をする1年女子たち。
でもその一方で、確かに斑目なら心停止しかねないなとも思い、一応納得していた。



34226人いる! 夏コミ2日目 その39 :2006/12/18(月) 23:17:58 ID:???
笹原「どうしたの、荻上さん?」
再び自分の親指と人差し指を見つめ始めた荻上会長に、笹原が声をかけた。
荻上「いやあ、私の指ってそんなに力あるのかなあって思って。笹原さんこそ、指どうしたんですか?」
笹原「指パッチンやり過ぎて豆出来ちゃった」
荻上「たくさんやってましたもんね、指パッチン」
笹原「荻上さんは右手何とも無いの?」
荻上「ええ、信じられないぐらい何とも無いです」
人差し指と親指の開閉を繰り返す荻上会長。
そこへ話に熱中するあまり、身振り手振りを加え始めたクッチーの右手が、彼女の顔の前まで来た。
しかもタイミングが悪いことに、閉まる瞬間の親指と人差し指の間に。
結果クッチーの右腕は、思い切り荻上会長につねられる格好になった。
朽木「にょ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」
荻上「(慌てて手を放し)すっ、すいません!朽木先輩、大丈夫ですか?」
だが次の瞬間、クッチーは背筋を伸ばし、胸を張る。
朽木「りふれ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜っしゅ!!!!!!!!!!!!!!!!」
こける一同。
朽木「いやー荻チンの指圧のおかげで、今日1日の疲れが取れましたにょー。明日はベストコンディションで臨めるにょー」
荻上「何で、つねって元気になるの?」
スー「(政宗一成風の渋い声で)朽木学ハ女性ニツネラレルト、3倍ニ…」
荻上「もういいから!」

こうして夏コミ2日目も無事に(そうか?)終わった。
折り返し地点を通過し、いよいよ明日は最終決戦だ。
がんばれ荻上会長。


34326人いる! 夏コミ2日目 後書き :2006/12/18(月) 23:25:14 ID:???
以上です。

まことにもって、申し訳ありません。
どうやら最終日の話は、多分9巻発売後になりそうです。
年内には何とか…出来ると思いますが自信はありません。
ただ今俺の部屋、今週の軍曹さんのガンプラだらけの部屋のごとく、本だらけで途方に暮れています。
果たして年内に片付くやら…
その片付けと残業の為、正直3日目の話は進んでません。
でも、最後の瞬間まで頑張ってみる積もりです。
あとブーちゃん、ほんますまん。
絶対3日目には出すから、もちっと待ってね。

344マロン名無しさん :2006/12/19(火) 19:07:29 ID:???
>>322でございます。ついでに>>321も俺。
他の住人はきっとクリスマスとかコピー誌とかで忙しいんだろう。俺ばっかで申し訳ない限りだが感想いっときます。

>『26人いる! 夏コミ2日目』(の後編)
面白かった〜。
さあて怪しいカップルと危険なハーレム計画が顕在化しましたよ。
幸せになれ猫ップル。
命を大切にな眼鏡の人。

>国枝さん、最萌に挙げた人が居たんですか…なかなか通な人ですな。
……とか言われながら、落選はしたものの同日ライバルの恵子より藪崎さんより山田薫子より得票数があったのは秘密。なんてこったw

なかなかナカヨシできませんな、笹荻。まあ笹原は仕事で来てるしオギーも後輩たちの面倒見ててそれどころではなかろう。しょうがないから全日程終了してから二人でまったりしてくだされ。
でもなんのかんのと楽しくコスやってる様子のオギーを思うと結構嬉しかったりする。笹原と一緒にいられるし、本日のカップリングならきっと彼女自身幾多のワープを経験しているだろう。アタマん中大変なことになってそうだ。三日目にも期待ッッ!
なんだか新設定も出てきてますますパワーアップしてるオギー、会長ってなスキルがひつようですな。


すこし間も空きそうなので作者氏ひとまず乙。大変楽しく読ませていただきました。
週末は9巻とOVAで新たなる燃料を注入しましょうぞ(俺の手元に届くかは微妙だが)。そんなこともあるし焦らず頑張ってくだされ。
ではまた。

345マロン名無しさん :2006/12/20(水) 18:22:14 ID:???
ちょっと待て虎!フライングにも程があるわーっ!!!

みなさまいかがお過ごしでしょうか。もうじき9巻発売ですね。
俺は通販頼んじゃったのでアキバへも行けず悶々としております。いいものは2冊買え?あうぅ。

「発売前に」投下したかったんですが、一本上がりましたんで置いていきますね。
直前に大物の投下もあって毎度毎度の小品に赤面の限りなんですが。
タイトルは『カエデ』、本文13レス。
なーにつべこべ言わずに投下投下いえ〜。

346『カエデ(1/13)』 :2006/12/20(水) 18:23:48 ID:???
 荻上千佳が笹原完士と水道橋駅の改札を出たのは、11月の終わりの日曜日のことだった。今日も空は高く、よい天気だ。朝の風はもう冬の冷たさだが、日中は小春日和の1日となるだろう、と出掛けに見た天気予報は伝えていた。
「……笹原さん、なんかニヤケてますよ?」
 千佳の服装は普段とあまり変わらない。チノパンに重ね着のシャツに、ピーコートスタイルの薄手のコート。地元駅からここまでの1時間、世間話をしている間中も笹原は普段以上の緩んだ笑顔で千佳に接していた。
「いやー、ははは、ごめん。なんかさ、『デート』だなあって。カンゲキしてるとこ」
 笹原も綿のパンツにセーター、ハーフコートというスタイルだ。
「まだ何回もしてないじゃない?こんなデートっぽいデート」
「んー、まあそうですね……秋葉原とか即売会とかとは、なんか違う感じです」
 恋人にデートデートと連呼されて軽く頬を染める。ふと自分の姿が気にかかる。
「ひょっとしたら笹原さん、私こんなラフなカッコじゃないほうがよかったですか?なんかもっとこう、キチンとした」
「いやいや。そんなんされたら俺キンチョーしちゃうし」
「だってホテルのレストランなんて」
「その前に遊園地だよ、俺たち。ドレスとタキシードでジェットコースターでもないでしょ」
「まあ……ソレ言ったらチョイスからして変だつうコトすかね」
 ことの始まりは、学園祭で笹原が応募した大学生協の懸賞だ。
 彼らに限らず学生たちが気軽に応募するこの抽選会は学生食堂や売店、大学周辺の商店などが協賛して提供した豪華な賞品が目玉で、飲食店が多いせいか割引券やサービス券に混じって高額の食事券もいくつか入っている。
 笹原が当選したのは都心にある、椎応大学の理工学部キャンパスに隣接したホテルの食事券だった。
『東京エッグホテルとは言え、バイキングだそうから気負わないで行けるし、どう?』
『ありがとうございます、うれしいです』
『そしたら晩飯食うだけじゃなんだし、昼間どこか行かない?映画とか……』
『あ、それなら』
 誘われたときの会話を思い出す。彼女が行きたいと言ったのは、東京エッグホテルの敷地内にある東京エッグシティアトラクションズだった。ようするに遊園地である。

347『カエデ(2/13)』 :2006/12/20(水) 18:25:19 ID:???
「やっぱ、いい年して遊園地なんておかしいですかね。せめて東京デスティニーリゾートとか言っといた方がよかったかな」
 恐縮してしまった千佳に、笹原は慌ててフォローを入れる。
「い、いやいやそんなことないよ、俺も楽しみだもん。オバケ屋敷とかティーカップとか」
「……私、田舎にいたときは遊園地なんか行く機会なくて。親があんまり連れて行ってくれなかったんですよね。遠足とか修学旅行とかで行ってすごく楽しくて、また行きたいなって思ってたんですけど。でも、大学生になって一人で行くのもおかしいじゃないですか」
「そうなんだ。なんか意外だね、荻上さんと遊園地って組み合わせ」
「そうですか?」
 都心随一の遊園地と言う謳い文句にたがわず、駅から5分で二人は遊園地の入り口に着いていた。
「あれ?入場券はどこで……」
「笹原さん、ここは入場券要らないんです。中でアトラクションチケット買うだけでいいんですよ」
「え、マジ?俺子供の頃来た時は買ってたよ?」
「5年ほど前にシステム変えたんです」
 笹原に誘われた翌日、学内の書店でガイドブックを購入したのは秘密だ。
「荻上さんよく知ってるね、頼りになるあ」
「あ、ダメですよ笹原さん。ちゃんと私のこと引っ張ってってください」
「うわぁアウェイだよ、厳しー」
「あはは、お願いしますね」
「わかった。頑張らせていただきます」
「あ、それから」
「ハイ?」
「……オバケ屋敷は禁止ですから」
「……よし。オバケ屋敷からGo!どこだ?お、アレがそうか『13月の扉』!」
「あああー!ヤですってばあそんな強気はぁ」
 笹原が千佳を引きずって移動する途中で、二人はある集団に出くわした。普段着とは明らかに違う服装、彼らの間を流れる、身に覚えのある雰囲気。

348『カエデ(3/13)』 :2006/12/20(水) 18:28:06 ID:???
「あれ、コスプレ?なんでレイヤーがいるの?」
「え、ああ。昨日と今日、ここでコスプレフェスティバルやってるんです。ここの目玉企画らしくて」
 エッグシティでは年に数回、コスプレのイベントを行なっている。これもまた一般の遊園地らしからぬ特徴のひとつだった。もともと、30年以上も以前から遊園地のオリジナルキャラクターを作ったり、ヒーローショーを行なったりしている場所だけのことはある。
 数年前に敷地を拡張した時からのイベントだが、毎回多くの愛好家たちでにぎわっており、近隣住民からも若干引き気味ながらおおむねの歓迎を受けていた。
「……オタクの市民権もずいぶん広がったもんだ」
「ここだけだと思います、こんなの」
「ねえ荻上さん?いま俺ちょっと思い当たったことあるんだけど」
 ふと笹原が口を開く。
「こーいうイベントに参加しそうな知り合いがいるっつうことなら、私も。でもダメですよ笹原さん、そういう事って考えちゃうと実現しちゃうんですから」
「あー、そうだね……っていうか」
 せっかくの二人きりを、たとえ頭の中でも邪魔されたくない千佳は笹原を牽制した。……が、少し遅かったようだ。
「ごめん荻上さん、実現しちゃった」
「あらぁ?荻上さんに笹原さんじゃありませんか」
 詫びる笹原の声にかぶさるように、千佳の背中から聞き覚えのある声が二人を呼んだ。眉間に皺を寄せて振り向いた千佳の目に入ってきたのは、案の定特製の衣装に身を包んだ大野加奈子と、カメラを抱えた田中総市郎だった。
「大野先輩……おはようございます。田中さんも」
「お二人も今いらしたところなんですか?いいですねえ遊園地デート」
「荻上さんおはよう。すまんな笹原、声掛けないでおこうって言ったんだけどさ」
「なに言ってるんですか田中さん、大学からこんなに離れた場所でめぐり合えるなんて、とぉっても素敵なことじゃありませんかぁ」
 少し遠くから二人を認めた田中は恋人初心者の笹原たちに気を使い、それぞれで楽しめばいいと加奈子に提案したそうだ。しかし楽しいことはどんどん大きくしたい主義の加奈子は田中の静止を振りきり、二人の元にまっしぐらと言うわけだ。
「いいんスよ。お互い隠しだてすることじゃないし、俺たちが気づかないままだったらもっと恥ずかしいことになるじゃないスか」

349『カエデ(4/13)』 :2006/12/20(水) 18:29:59 ID:???
 笹原は言った。同じ敷地にいる以上もっともな話ではある。
「今日のは戦隊物ですか?」
「ああ。東京エッグに来たらコレだろ、やはり」
 二人の今日のコスチュームは、ちょうど今放映中の戦隊ヒーロー物を題材にしたものだ。
 田中は謎の強敵として現れる甲冑の剣士、加奈子は主人公サイドを見守る精霊の衣装を着ていた。田中のアレンジスキルはたいしたもので、放映時には正直ちょっと野暮ったかった精霊が、健康な色香を振りまく美女に仕上がっていた。
 周囲を通るギャラリーは、コスプレ愛好家の男どもばかりか、家族で遊びに来た男の子や女の子、父親までもが加奈子に目を奪われながら行き過ぎてゆく。
「いつものイベントとは違って、子供たちがたくさんいるのがいいんですよね。わたしたちを見る目が純粋で」
 加奈子はいつにもまして楽しそうで、それを見守る田中の顔もほころんでいる。ヒーローたちを苦しめる最強の剣士が、娘の入学式を喜ぶパパの顔をしていた。
「こないだの学祭のお食事券か。いいな、ホテルのレストランでディナー」
「からかわないでくださいよ」
「まあ楽しめ。俺たちは午後くらいまではこの辺にいるから、お前らの邪魔にはならんよ、多分」
「わたしたちはそれからアトラクション三昧なんですよねー」
 コスプレフェスティバルに登録するには費用がかかるが、代わりに登録証と一緒にフリーライドチケットがもらえる。コストパフォーマンスがいいのも、このイベントの人気の理由だった。
「じゃ、俺たちは一回りしてきますね。せっかく来たんだし、いろいろ楽しみたいし」
「ああ。あのジェットコースター、お勧めだぞ。観覧車くぐるのがスリリングだし、一番高い位置で理工学部の校舎が見える」
「遊園地まで来て学校思い出したくないっすよ」
イベントのメイン会場へ歩いてゆく田中たちを見送り、笹原はあらためて千佳に向き直った。
「……あはは、あなどれないね、あの人たち」
 千佳もまだ少し口元がこわばっていたが、しばらく考えて不機嫌になるのも無意味だと思いなおした。小さくため息をついて、あらためて笹原に笑いかけた。
「まあ、いいです。コスプレあるところ大野先輩あり、ですからね」

350『カエデ(5/13)』 :2006/12/20(水) 18:31:31 ID:???
 東京エッグシティは遊園地としては老舗もいいところで、ビルの建ち並ぶ都心にあることもあって遊具のラインナップはむしろ地味な方だ。ビルにまとわりつき、ドーナツ型の観覧車をくぐりぬけるジェットコースターの他はごくごくオーソドックスなアトラクションが揃う。
 刺激を求める若者は郊外の巨大遊園地へ出向くため来場者は小さな子供連れのファミリー客が多く、全体的にゆったりとした空気が流れている。
 いろいろ回ってみると、千佳はスカイフラワーに夢中になった。高いタワーに沿って昇って行き、すとんと落ちるパラシュートの遊具だ。
「笹原さん、あの、これもう一回いいですか?」
「あ、うん」
 ほんのひと月ほど前に動物園の『初デート』で見せた無邪気な笑顔をまた見つけ、笹原はなにやら頬を緩ませて千佳を見つめる。
「なんか変ですか、わたし?」
「あ、いや、そんなことないよ。荻上さん、高いところ好きなの?」
「……なんだかバカだって言われてる気がします」
「わわ、ごめん、そんなつもりじゃ」
「ウソですよ。確かに私、背が低いですから大きなものや高いものに惹かれる部分あるのかもしれませんね。ほら、この間の象とか」
「あ、俺も思い出してた」
「……あの日、すみませんでした」
「なに言ってんの、済んだ話」
 広くはない敷地内に効率良く並べられたアトラクションを堪能し、近くのショッピングビルにも足を運ぶ。何軒もある雑貨屋でペアカップを選んだり、比較的リーズナブルなファッションショップで互いにどのセーターが似合うか見定めたり。
 あまりにベタなデートコースに、二人で何度も顔を見合わせては吹き出した。
「……お揃いのセーター、買ってみる?」
「ヤですよそんなの。一体いつ着るって言うんですか」
「じゃ、お揃いのパジャマとか」
「……知りませんっ!」

351『カエデ(6/13)』 :2006/12/20(水) 18:32:12 ID:???
 夕食を豪勢に予定しているので、昼食は遊園地のファーストフードに入店した。ガーデンチェアに腰掛けてハンバーガーを片手に、目の前を行き交うコスプレイヤーを眺める。田中と加奈子のペアも何回か、手を振りながら通り過ぎて行った。
「なんか大野先輩」
 ジュースのストローから口を離し、千佳が笹原に話しかける。
「今でもほとんど田中さんの家から大学通ってるみたいなんですよ」
「へー、聞いてなかった。すごいね」
「お金大変じゃないですかって言ったら、にんまり笑って定期券見せてくれましたよ」
「ははは。でも楽しそうじゃない」
 ポテトを口に放り込んで続ける。
「あの二人、お似合いだもんね。案外そのまま……おっ」
 わあっ、と大歓声が上がった。そちらを振り返ると、どうやら戦隊物のコスプレイヤーが一堂に会し、全キャラ集合で決めポーズを披露したようだ。『東京エッグでボクと握手!』というわけだ。サブキャラクターの中にはもちろん、田中たちの顔もあった。
「うはー、すごいね荻上さん、あの人数」
「え……ええ、そうですねー。あはは」
 午後に差しかかり、アトラクション巡りの後半戦。いま二人は観覧車のゴンドラの中だった。
「あっほら、来るよ」
「うわ、真横なんてタイミングいいですね」
 ここの観覧車はドーナツ型をしており、中心に空いた穴をジェットコースターが通りぬけるデザインになっている。二人のゴンドラはちょうどコースターの線路をかすめる位置におり、千佳は思わず椅子を立ちあがって窓に貼りついた。
 ほんの数メートル脇を高速のローラーコースターが通り抜ける。先頭車両の客と目が合った気がし、あまりの近さに思わず腰が引ける。ゴンドラの微細な揺れに乗ってしまい、体のバランスを崩す。
「ふぁ……」
「荻上さん!」

352『カエデ(7/13)』 :2006/12/20(水) 18:32:44 ID:???
 慌てて笹原が、千佳の背中を抱き止めた。肩越しに顔を覗きこみ、心配そうに尋ねる。
「危ないよ。大丈夫?」
「あ……すっすいません、大丈……」
 『……夫』の口の形を捉え、笹原が素早く千佳にキスした。
「!」
「……あ……ごめん、嫌だった?」
 唇が触れ合ったのはほんの一瞬だったが、そのコンマ数秒で彼は真っ赤に顔を染めている。千佳の顔も似たようなものだが、こちらは驚きが若干濃い。
「その……つい、したくなっちゃって」
「……もう。やらしいですね」
 戸惑いながら目を逸らす。少しの間の後、視線を戻す。
「べつに……ヤじゃないですから」
「……ん」
 アクリル張りの個室は弧を描きながら上昇して行く。頂上に差しかかったところで、二人はもう一度キスをした。
「あ、あれ、小石川庭園ですよね」
 眼下に見える公園に気付いて千佳が言った。遊園地のすぐ隣地には、江戸時代からの庭園が残っているのだ。
「うん、実はこのあと、夕食までの腹ごなしにどうかなって思ってたんだけど。行ってみる?」
「へえ、風流ですね」
「今ちょうど紅葉の時期でしょ。ゼミの友達に聞いたんだけど、夕方までライトアップやってるんだって」
 水戸光圀の上屋敷跡としても知られる小石川庭園は都心にありながら幾重にも植生の連なった見事な枝振りの樹々で有名な場所である。数キロ圏内にある帝大植物園、駒込庭園とともにこの地域を緑豊かな場所として知らしめている。
 入場料の安さもあいまって近隣住民もしばしば深呼吸に訪れる庭園は、11月の後半には「紅葉まつり」と題して落葉樹のライトアップを行ない、普段と違った賑わいを見せていた。
「へー、けっこう暗くなるんですね」
「足元落ち葉だらけだよ、気を付けてね」
「はい」

353『カエデ(8/13)』 :2006/12/20(水) 18:33:17 ID:???
 外周を壁と背の高い樹で覆い、内側に池と小川、四季折々の草木をちりばめた庭園は視覚効果も考え尽くされており、ほとんどの場所で外界のビルが目に入ることはない。殊に日が落ちてからは、油断すると本当に深い森に入りこんでしまったかのような錯覚を受ける。
 晩秋のひんやりとした風が草いきれを運ぶ中、二人は他の見物客とともに声もなく順路を進んでゆく。
 ところどころに銀杏や楓を照らし上げるスポットライト。光の柱がそれもまた一本の幹であるかのように見える。
「きれいですね」
 木々の隙間の草地に立って、光る紅葉をながめては感嘆のため息を漏らす千佳に寄り添い、笹原もうなずく。
「ぶっちゃけオッサンくさいかと思ったんだけど、意外とアタリだったね」
「あ、いや、でも実際オッサンくさいですよ?」
「うえええ?」
「ふふ、そこがいいんです」
 そっと体を傾け、笹原に寄りかかる。
「さっきの遊園地とここで、なんかバランス取れた気がしませんか?」
「きみがいいんなら、よかった」
 笹原は千佳の両肩を抱く。
「一歩入って思ったんだけど、大学の裏山の方がよほど紅葉きれいだったんじゃないかなってさ」
「あれとは趣が違いますよ。スポットライトもありませんし。それに」
 つい、と笹原の手を逃れ、千佳は人の途切れた広場へ歩み出た。
「それに、私の田舎は八王子なんかメじゃないくらいの山の中ですから。自然のままの森って言う意味なら、もっとすごいの知ってますよ」
「なるほど」
「ここの紅葉もすごくきれいで、よく考えられてるって思います」
 笹原が歩み寄るのを感じながら、楓を見上げて言う。
「でも郷里の山の紅葉も、圧倒されますよ。大学入ってから帰ってないですけど……あの」
 彼の方を振り返り、顔を見上げる。
「うん?」
「あの……いつか、一緒に見に行きたいです」

354『カエデ(9/13)』 :2006/12/20(水) 18:34:33 ID:???
 笹原の顔を見ていられなくなり、頬を染めてうつむく。
 笹原はそんな千佳に優しく笑いかけた。
「うん。俺もぜひ連れて行って欲しいな」
「はい」
 上目づかいに見上げ、にこりと笑みを返した。
 エッグホテルの3階レストランは大賑わいで、『シティホテルのレストラン』に気迫負けしていた二人をほっとさせた。もともと遊園地と野球場に隣接した施設だ。休日の晩はファミリーと酔客ばかりで、ファミレスと大した違いはない。
「緊張して来たけど……なんか拍子抜けだね」
 両手に料理の皿を持って戻ってきた笹原が、テーブルで待つ千佳に言った。彼女も半笑いで、笹原を元気付けるように言う。
「いえ、でもよかったじゃないですか?これで紳士淑女の社交場だったら私たち、絶対お食事おいしくなかったですよ」
「ま、そうとも言えるか」
「食べましょうよ、せっかくのバイキングですし。あ、そうじゃなくて『ブッフェ』って言うんでしたっけ」
 笹原が戻ってくる直前にテーブルに置かれた、ビールのピルスナーグラスを指し示す。
「そうだね。じゃ……」
 二人でグラスを持ち上げる。千佳は笹原を見つめ、笹原は少しの躊躇の末こう言った。
「君の瞳に乾杯」
「……ハア。言うんじゃないかと思いましたよ」
「あれ、ダメだった?」
「もう全部ブチ壊しです。あははは」
 食事を続けるうち、周囲の客も落ち着いてきたようだ。広いホールである上テーブルの間隔も贅沢にとってあるため、時折横を通る人を気にしなければ悪くない雰囲気がただよう。
 予約しておいたのが良かったのか、二人の席は窓の外にエッグドームのイルミネーションがまたたく場所だった。真っ暗な空と、金のランプが幻想的なコントラストをもたらす。

355『カエデ(10/13)』 :2006/12/20(水) 18:38:04 ID:???
「あとで、あそこも歩いてみようか。ちょっと気が早いみたいだけど、どうせ俺たちクリスマスは忙しいしね」
「1ヶ月前倒しですか。でも笹原さん、あんまり遅くなっても、明日も会社行くって言ってましたよね?」
「まだ大丈夫でしょ。それにいざとなったらこっちに泊まるって手も」
「またそんな事を」
 先ほどの乾杯と言いあまりに古臭い展開に、千佳は若干引きつり気味の苦笑を見せる。ところが、笹原の顔は真剣そのものだ。
「笹原さん?どうかしましたか?」
「……荻上さん、あのね」
 上着のポケットに手を入れる。なにか思いつめたような顔をして取り出した手には、アクリルのキーホルダーにつながった鍵があった。
「……このホテルの部屋をさ、取ってあるんだ。実は」
「!?」
 パタン、という音とともにキーがテーブルの上に転がる。
 二握りほどの長さの透明なアクリル棒に太いチェーン、その先には……部屋の鍵。
「……っ」
 千佳は息を飲み、笹原の顔を見た。頬を染め、まるで呼吸まで止めているような真剣な表情。
「あっ……あ、の……」
 一瞬で体温が上がるのを感じる。自分を見つめる笹原の熱を帯びた視線が、さらに顔をほてらせるようだ。
 胸の鼓動が早くなる。笹原の顔を見る。キーホルダーに目をやる。自分の膝に視線を落とす。ますます動悸は早くなる。
「え……と」
 ルーティーンが3周目に入ったとき、あることに気付いた。はっとして身を乗りだし、キーホルダーの印字を読み取る。
 筆記体の英字フォントで箔押しされていたため気に止めていなかったが、そこに書かれた文字は『Tokyo Egg Hotel』ではなく……『Genshiken』となっていた。
「……えっ」
 部屋番号も見たことのある数字。304……部室のナンバー。ひとり部室で原稿を描くことも多い千佳自身が持ち慣れた、先端に特徴的な切り欠きが並んだ鍵。
 顔を上げて笹原を睨む。『ような』、ではなく、噴き出さないように本当に呼吸を止めている、真っ赤な顔。千佳はからかわれたのだ。
 一瞬、怒りをぶちまけて帰ってしまおうかと考えたが、ふと思い当たった。要するに今日のキーワードである『デート』の一環ではないのか。

356『カエデ(11/13)』 :2006/12/20(水) 18:41:55 ID:???
 遊園地。観覧車でキス。落ち葉の道を二人で歩き、ホテルでディナー。夜景を見ながら『君の瞳に乾杯』、極めつけは今の『上の部屋を取ってあるんだ』。子供の頃に故郷のリビングで観た、古いラブストーリーさながらの展開。
 つまりは全て、笹原なりの演出なのだ。
「さ……笹原さんって……こんなデートしたかったんすか」
 思わず脱力し、テーブルに突っ伏す。
「あー……その、最後のキーは俺じゃなくて田中さんから、でして」
 怒らせてしまったと思っているのだろう、探り探り言う。
「荻上さんトイレ行ったとき、ちょうど田中さんも一人で通りかかってさ。俺だけだって知ったら『秘密兵器を貸してやろう』って、コレを」
 おおかた見当がつく。田中もきっと、加奈子をこれで赤面させたことがあるのだ。
「ったく……だいたい今時のシティホテルが、こんな地方のビジネスホテルみたいなキー使ってるわけないじゃないですか」
「あ、それは俺も思った。でも荻上さんもドキっとしたでしょ?」
 まったくだ。我ながらどうかしてる。
 図星を差されて再び睨みつけると、笹原はたじたじとなる。
「俺さ、荻上さんとオタっぽくないデートできるって思って、はりきってたんだよね。ぶっちゃけ彼女できるなんて生まれて初めてのことだし、そうしたらどんなのがスタンダードなのかさっぱり判んなくて」
 キーホルダーに視線を落とし、話し始める。
「恵子に聞くのもなんか癪だし、ネットでいろいろ調べてみたんだけど……途中で、そういうんじゃないって思ったんだ」
「『そういうの』?」
「んー、マニュアルとか、今どきの流行りとか、そういうのに乗っかるのは俺らしくないんじゃないか、って」
 一口ばかり残っていたビールを手に取り、飲み干す。
「俺がさ、これまで自分で妄想していた『理想のデート』を、荻上さんに見てもらうほうがむしろ、俺にとっても荻上さんにとってもいいんじゃないかって思った。言ってみれば、それそのものが俺自身だから」
 笹原の『理想』の出どころは、千佳が感じたのと同じく子供のころのテレビドラマだった。家族が食卓で、たいして集中もせず眺めるラブストーリー。

357『カエデ(12/13)』 :2006/12/20(水) 18:46:29 ID:???
 原典はいろいろだが、そのエッセンスが落ち葉の道の散策であり、ホテルの夜景だったのだという。ひとつひとつのシーンで俳優たちが、ある時はほのぼのと仲むつまじく、あるときは灼熱の恋のさ中で、それぞれの愛を確かめあう姿が強く印象に残ったと言うのだ。
「ホテルの食事はラッキーなことにタダ券が手に入ったし、すぐそばに小石川庭園があるのもすぐ思い当たった。荻上さんのリクエストの遊園地に関しても、俺ん中ではビジョンがあってさ」
「それ、観覧車の時の……ですか?」
「あ……バレてた?あははは」
 照れて笑いながら頭を掻く。
「今日のそれぞれが、俺の思っていた『恋人と一緒にいる時間』だった。我ながらベッタベタだし、ひとつひとつがつながってないのは判ってたけど、でも俺はそういうシーンを、好きになった人と過ごしてみたかったんだ」
「……ホテルのキーも?」
「ん、実はそう。田中さんからこんなもの貰って、渡りに舟デシタ」
 ばつのわるそうにこちらを見る笹原に、千佳は怒る気が失せていた。
 キーのことにしても、結局悪気や下心でからかっていた訳ではない。それに他のイベントも、千佳自身が楽しんでいた。
 今の打ち明け話で、笹原の心も受け取れたように思う。いま言われた通り、彼にとっても自分にとってもよかった、ということは間違いではない。
 自分も彼も、こと恋愛に関しては笑えるくらい経験不足だ。この点で笹原が嘘をついているとは思えないし、自分の知っている恋愛は手すら握れない、ひどく幼いものでしかない。
 そんな自分たちには、このくらいありがちなものの方が似合いなのかも知れない。ピアノで言えばバイエルだし、絵画なら素描の段階なのだ。
「ふう。大体解りましたよ、笹原さんの言ってること」
 苦笑混じりの溜息をついて、千佳は笹原を問い詰めるのをやめることにした。
「笹原さん、それで、楽しかったですか?」
「そりゃもう!……あ、荻上さんがつまんなかったら申し訳なかったけど」
「いえっ」
 謝罪を遮って言う。
「私も、デート満喫しました」
 彼を元気づけるように微笑み、続けた。
「動物園の時も、今日のことでも思ったんですけど、私、こういうの意外と好きみたいです。いつもの同人ショップめぐりとかも楽しいんですけど、今日みたいなのって、その……ドキドキします」
「よかった」

358『カエデ(13/13)』 :2006/12/20(水) 18:47:01 ID:???
 笹原もほっとしたように笑う。
 私たちは図体こそ大学生だが、その中身は実年齢ほど育っていない。せいぜい高校生くらいなのだろう。私と笹原さんは今、高校生の恋愛を楽しんでいるのだ。
 すでに肉体関係もあるクセに、彼氏彼女の経験はこれから築くという本末転倒なカップル。事前の知識理論ばかりが先行する、オタクならではの生態というわけだ。それも一興ではないか。
「あの、笹原さん」
「ん?」
「笹原さん、まだこの手のビジョン、持ってますよね」
「ん、んー、まあ」
「私もあるんです。冬コミまでにもう一回くらいこんなデート、してみませんか?今度は、私のプロデュースで」
「あ……うん!面白そうじゃない」
 笹原の楽しそうな笑顔につられ、千佳も頬を緩ませた。
 ふと窓の外を見ると、風が庭園から運んできたものか、二枚の楓の葉が宙を舞っていた。建物の壁でつむじを巻く風に乗り、ひとしきりダンスを踊るようにして視界から飛び去って行く。
 触れては離れる小さな手のひらのような紅葉は、互いに手をつなぐことにさえ不慣れな自分たちのようだと思った。そうだ、今日だって並んで歩いていても、手をつないですらいないではないか。
「ちなみに荻上さんのビジョンって、一体どんな……?」
「秘密ですよ。言ったら面白くないじゃないですか」
「うっ、そか」
「楽しみにしててくださいね。ところで笹原さん、ベルばらとかポーの一族とかお好きですか?」
「……今の流れとソレと、もしかして関係あるんでしょうか?」
「さあ?あはは」
 あとで行こうと誘われたイルミネーションの道もきっと彼のビジョンの一つで、道の真ん中で抱き締めてくれるとか、ひょっとしたらもう1回くらいキスしてくれるつもりなのだろう。
 このあとの笹原の『ビジョン』にまた胸を高鳴らせながら、千佳は自分の理想のデートを練り始めていた。もちろんベルばらだのは冗談だ。
 千佳はその計画の内容を今、まず一つだけ決めていた。残りは帰ってからゆっくりと考えればいい。
 そのデートでは……、

 二人でずっと手をつないで歩くのだ、と。


おわり

359『カエデ(あとがき)』 :2006/12/20(水) 18:47:43 ID:???
おそまつさま。

わたくし八巻発売時に学祭のシチュかぶりした者ですw今回はそうなってませんようにと祈りつつ。
笹荻がただデートしてるっつう話なんですが、せっかくなのでベタベタデートコース作ってみました。またの名を笹荻放浪記後楽園編。
後楽園ゆうえんちといえば「ボクと握手!」なので田中ペアにも来てもらいました(コスプレフェスタはホントに開催している。あの遊園地どうなってんだ実際)。

九巻楽しみっすね。俺は我慢してワクテカしながら待つとしましょう。ではまた。


360マロン名無しさん :2006/12/20(水) 19:37:48 ID:???
東京デスティニーリゾートと聞いて、デスティニーランドにはエキドナがいるんだなと思ってしまった俺がいる

361マロン名無しさん :2006/12/21(木) 01:12:05 ID:???
カエデ作者様

とりあえずいいものをありがとうと言わせて下さい!
こういうほんわかしたお話大好きなもんで・・・
とりあえず、今日はいい夢見れそうです・・・

362マロン名無しさん :2006/12/21(木) 08:11:15 ID:???
いやー、いいものを読ませていただきました。
スペクタクル長編も大好きですが、こーゆー「もしかしたら本編の間にあったかもしれない話」大好きです。

GJ!

363マロン名無しさん :2006/12/21(木) 20:46:40 ID:???
特装版を取りに行ったら、まあ凄い積んであるw
この近くには『同士』が多いのだなあ…と。
おまけCDも込みで、ネタ満載でなんかオラ発想がワクワクしてきたぞ!みたいな。

それはともかく。
>>359さん
ベタベタながら、序破急の『破』の部分で、本編にある
『メタ感』がとてもよく出ていていい、と思いました。

しかしげんしけんはファンに恵まれているなあ…

364マロン名無しさん :2006/12/21(木) 23:50:22 ID:???
>カエデ
特装版入手前に正統派笹荻読めてよかった!! 
季節感のある描写もいいいですねー しかし、田大イベントというイベントに
出没するのかww

365マロン名無しさん :2006/12/22(金) 11:09:06 ID:Q1JhJRwY
26人いる!の作者の人おめでとう!!
木尾先生は多分ここ読んでるね

366マロン名無しさん :2006/12/22(金) 22:41:29 ID:???
まだ9巻を手に入れてないのでkwsk

367マロン名無しさん :2006/12/22(金) 23:14:50 ID:???
>366
あ、じゃ、じゃあまだ9巻のネタバレSSなんか投下しちゃ…ダメ…かな…?
さっき書いたんですが

368マロン名無しさん :2006/12/23(土) 00:12:17 ID:???
366ですが、ネタバレ要素ぜんぜんOKです。躊躇させてすみません。
仕事早いっすね!

369カエデの人 :2006/12/23(土) 00:26:19 ID:???
9巻読んだ。今回は衝突回避。リアルに(書き下ろし同イベントのプロットは実は持ってた。えーい、いいもん読んだから喜んで封印だ)。
みなさん感想ありがとうございます。
この手の「普通の話」も原作あってのものだなあと今回しみじみ感じております。
9巻では作者氏、これまでの風呂敷をけっこう畳んでしまわれたので(いや当たり前のことなんですが)俺のスタイルのSSはこの先つらいのうwww

>>357さん
あなたのタイミングで投下すべし。っつうか早っ!!!

SSスレでも祭りになることを期待しつつとりあえず寝ますオヤスミ。

370マロン名無しさん :2006/12/23(土) 00:35:24 ID:???
>>368
>>369

どもです、でわ投下させてもらっちゃいます…。
ネタバレ駄目な人は飛ばしてください。

371マロン名無しさん :2006/12/23(土) 00:36:40 ID:???

9巻完結記念SS

「恋と妄想の初詣」
〜春日部さんもうちょっと酔っててください!〜

注:9巻第51話「ボンノーはとめどなく」から妄想を膨らませてかいたものです。
…先に謝っておきます。ごめんなさい。
勝手に改変してごめんなさい。
だって妄想は誰にも…(略


372恋と妄想の初詣1 :2006/12/23(土) 00:38:07 ID:???

「あっ…春日部さん!?」
「ん?」

…本当、偶然だった。
俺が道に迷って春日部さんがトイレに行かなけりゃ会えてなかった。
…いや、あんだけ探しながら歩いてたんだ、偶然も何もないかも知れない。

「……ってうわ!え?この辺みんな飲み屋?…とは限らないか。
こんな広場あったのか……」
状況を把握しきれないまま広場のほうに目を向けたとき、春日部さんが急に視界の左下に消えた。

「………………………!!??」
考える前に反射的に手が伸びて、フラついた春日部さんの腕をつかんだ。
クタっとなった春日部さんの表情にドキッとする。

「…………」
春日部さんが何か言いかける。
「え?何!?」
「おしっこ」
「………………………………(汗)」


373恋と妄想の初詣2 :2006/12/23(土) 00:39:34 ID:???
トイレの前で待ちながらなんだかソワソワする。

(待ってていいものやら…。いや、別に変なこたないだろ。
「連れ」だし…。第一さっきみたいに倒れられちゃかなわんからな)

やがて春日部さんがトイレから出てくる。
「……あれ?待っててくれたの?ありがと。
つーかあれ?…そーか、むしろキモいんだよね、そーだよね」
「は?…いや違ーよ、春日部さんがいねーとどこの飲み屋かわかんねーだろ」

(やっぱ何かしら言われるんだな…)
思わず苦笑する。
「それに、さっきみたいに倒れちゃ………っ!!!」

言ってるそばから、春日部さんがまたよろける。
慌てて後ろから肩を支える。
「ちょ、飲みすぎ…」
「………くかーーーーー」
「えええ、立ったまま寝んなよ!(汗)って、重…!」
「………すー、すー……」
「か、春日部さーーーん(汗)」

とりあえず道の端まで引っ張っていき、壁によりかからせる。
「あーも、どーすんのよコレ…。」

(…とりあえずみんないる店見つけて…。って、春日部さんここに放置しとくわけにいかんし。
広場のどこにいるかわからんもんな…。)

374恋と妄想の初詣3 :2006/12/23(土) 00:40:40 ID:???
春日部さんが肩に寄りかかってきて小さな寝息をたてている。
さっきまで迷っててテンパってたのもあって、考えがまとまらない。

(…うう、煩悩に邪魔される…)
(…春日部さん運びながら探すしかなさそーだ。運………。)
(………………。)
(…無理だ!お姫様抱っこは俺には無理だ!!(汗)
えと、じゃあ背負うか…。)

「…春日部さん起きて」
「…うう…ん」
肩を揺さぶると、春日部さんは小さく目を開けた。
「だ、大丈夫、だーいじょうぶ…」
「いやいや、全然大丈夫じゃねーから。倒れてんじゃん」
「倒れてないよ…さっきのだってちょっと…フラついたらけれ…」
「ろれつ回ってねーから!(汗)背負うから後ろ乗って」
しゃがんで背中を見せると、春日部さんはフラつきながら背中にしがみついてきた。
予測していたはずなのに思わずビクっとする。

(…ええい、考えるな!背中にあたってるやらかいのとか考えるなー!!(汗))
自分に渇を入れて、背負ったまま立ち上がる。
立った反動で落ちそうになったためか、春日部さんが後ろから首に手を回してしがみついてきた。
(………うわーーー…。)
後ろからぴったりくっつかれて、平静でいられない。


375恋と妄想の初詣4 :2006/12/23(土) 00:41:37 ID:???
とりあえず歩き出し、広場を見回す。

(…どこかなーーー…)
(…えと、アレだ。
「トイレでばったり会ったあと、春日部さんが酔って倒れそうになったからこうなって…」
…って、何で言い訳みたいに考えてるんだ俺は。)
(ああもう、探すのに集中しろ!!)
(………背中あったけーーー…。)
(…スーの肩車といい、新年早々縁起がいいなあ…縁起いいっていうんかなこういうの)
(………てバカ、探すのに集中しろ!…あれ?どこだここ(汗))
歩いてるうちに広場の端のほうまで来てしまった。

(げ、見落とした!戻らなきゃ…)
(と、とりあえずトイレのとこまで………くぁー何やってんだ俺は)
急いでトイレのところまで取って返す。
(…振り出しに…ホント何やってんの?orz)
そのときポケットの携帯が震えた。

「!…お、笹原。え?ああ、スマン。近くまで来てるはずなんだけど…。
あ、春日部さんがだな…。え?ああ、そう、トイレのとこで会った。
そのーー、春日部さんつぶれちゃってっから迎えに来てくれるか。場所わかる?
あ、そっか!そりゃ近くに決まってるよな、春日部さんそっからトイレ来たんだもんな…。
俺何やってたんだか…。
え?いやこっちの話。うん、うん高坂が。ん、じゃ…」


376恋と妄想の初詣5 :2006/12/23(土) 00:42:26 ID:???
電話を切り、とりあえず春日部さんに話しかける。
「春日部さん、降りて、高坂来っから」
「…んん………」
またその場にしゃがむと、春日部さんがのろのろと背中から離れる。

「…大丈夫?」
「………ん、少し楽になった…」
「…そんならいいんデスケド」
春日部さんはまた壁によりかかり、目をつぶる。
お酒のせいか、眠いせいなのか、頬が赤く染まっている。

さっき、この人を探して境内をうろうろしたのを思い出す。
どんな気持ちでその影を追っていたことだろう。
こうして近くにいると、それだけでほっとする。
離れているとなんだか物足りなくて、さっきのように探してしまう。

俺はいつまでこんなことを続けるつもりなんだろう。

そのとき高坂が向こうから歩いてくるのが見えた。
「よう」
「どうもすいません。咲ちゃん、仕方ないなぁ」
高坂がいつもの笑顔で言い、春日部さんをひょいとお姫様抱っこで抱き上げた。
「さ、行きましょっか。…どうしました?」
「え、あ、いや、何でもない、あはは」


377恋と妄想の初詣6 :2006/12/23(土) 00:43:51 ID:???
高坂の後をついて行きながら、思わず苦笑する。
(高坂にはかなわねーなあ…)

高坂の背中越しに、春日部さんの安心しきった寝顔が見える。
(………幸せそうだなぁ。)

(…うん、その顔をしていてくれれば、俺は………。)


「すいません、咲ちゃんも、みんなも飲みすぎちゃって」
高坂が話しかけてくる。
「…はは、ったくこのオゴソカナ夜にしょーがねーなー」
「あははは。まあ、でも煩悩は除夜の鐘だけじゃ消えてくれませんしね」
「……ヤベ、それすげえ実感できるわ(汗)」
「はい?」
「いや…。」

「ここです」
「………ホントだ」

店のあたたかい光の中に、みんなの顔が見えた。

             END


378あとがき :2006/12/23(土) 00:45:32 ID:???

いや、ホント9巻面白かったです。
スー話とか荻上さんの投稿話とか、斑咲話追加してくれたのとか!!
文句なしに最高でした。
うん、その、何だ。大目に見ていただければ幸いです…orz
…カ○オストロネタとか「11人しかいない!」とか
やっぱ梶先生、ここ見て…ゲフン!ゲフン!!


37926人いる!の人 :2006/12/23(土) 00:51:38 ID:???
今回は皆さん年末でお忙しい上に、本スレは祭に突入。
おかげで感想は一件のみとお寂しい限りです。
>>344
貴重な感想をありがとうございました。
9巻での新たな展開との矛盾をどうするかという、嬉しい悩みが増えてしまいました。
しかしそこはそれ、ウルトラシリーズや宇宙戦艦ヤマトでパラレル展開にもまれた世代、何とか辻褄合わせて最終戦にもつれ込む積もりです。
まあ年明けになると思いますが、今しばらくお待ち下さい。
>カエデ
こういう話書ける方、ほんと羨ましいです。
この歳になると、この手のベッタベタな話って、読んでるだけで恥ずかしくなります。
これが若さというやつか…
(褒め言葉の積もりです)
>>365
荻上さん、アフタヌーンにて漫画家デビュー決定のことかな?
ありがとうございます。
ただ、上にも書きましたが矛盾も山ほど出てきたから、これからの辻褄合わせが大変です。
(例えば、俺のSSでは掛け合いやってるスー見たら、何故かヤブさん逃げるし)


38026人いる!の人 :2006/12/23(土) 01:08:40 ID:???
>恋と妄想の初詣
えろうすんまへん、俺の書き込みが投下とバッティングしちゃいました。
中断させなかったことだけが不幸中の幸いでした。
やはり先ずは、お約束から。
スレッガーさんかい?速いっ、速過ぎるよ!
原作ではわずか1コマほどの間が、3レス近くにも増殖するとは…恐るべき妄想力!
しかも昨日の今日で…いやあこれはもう、パチパチ(拍手)としか言い様がありません。
漢なり、作者の人!
(女性だったらゴメン)

38126人いる!の人 :2006/12/23(土) 01:27:09 ID:???
たびたびすんません。
>「11人しかいない!」とか
こっちかも知れませんな、>>365の人のおめでとうは。

382マロン名無しさん :2006/12/23(土) 06:13:23 ID:???
>恋と妄想の初詣
特定しますた(っつうかアナタ以外いないくらい思ってましたがw)まあ野暮はともかく。

じーんとくる話THX。やはしヘタレてこその斑目です。
春日部さん発見するまでの彷徨する斑目が悲しいだけに、このほんの一瞬のフタリキリは温かい。
彼自身はそう考えてないようですが、実際には108の煩悩を超えて彼の中にあるからこそ、除夜の鐘では打ち払えない想いなのでしょうね。

さあ。俺はどうしよう。
まずなんか書いてみるか。

383あ、そうそう :2006/12/23(土) 06:25:32 ID:???
>>379

>これが若さというやつか…

判って書いてんでしょうが、実年齢はたぶんあなたといい勝負w


木尾センセは以前本スレで当人と見られる書き込みを行ない、「作者本人がこんなトコ来ちゃいかん」と怒られたという経験をお持ちです。木尾ファンは真摯だなしかし。
ねらーがそんなので懲りるはずないですから、きっと関連スレや主だったファンサイトはひととおり巡回してるんじゃないでしょうか。
漫画家デビューは本筋がらみのストーリーなので微妙ですが、初詣の人が書いてたフレーズなんかはファンへのメッセージじゃないかなーと思ってます。
そゆ意味ではある意味代表者だ。おめでたう。

384マロン名無しさん :2006/12/23(土) 13:10:24 ID:???
「こっちこそ、4年間ご迷惑をおかけしました! ありがとね」
そういいながら微笑む咲の涙を見た瞬間に
斑目は我知らず立ち上がり咲に歩み寄っていた。
きょとんと見つめる咲に、
「今度は殴らないでくれよ」と斑目は言うと、
震える手で咲を抱きしめた。
「俺は4年間ずっと・・・」
その斑目のうわずる声を遮るように咲が口を開いた
「4年間のことを思い出してみると、
なぜか、斑目の顔ばかり浮かんでくるんだよね。
あんたはいつもあたしの側にいた・・」
咲は体の力を抜き、斑目の抱きしめるがままに話した。
「いや、あの・・」どんな顔をして咲が喋っているのか
斑目は怖くて直視できなかった。
「ここで過ごした4年間は、コーサカより斑目といる時間の方が多かった。
あたしにとってのげんしけんの4年間は、
あんたと過ごした4年間だったんだなぁって気がついた」
はっとして咲の体から手を離そうとする斑目の背中に
咲の手が回された。
「本当、気持ち悪いったらありゃしない」と言うと、
咲は微笑んで斑目を抱きしめ返した

385マロン名無しさん :2006/12/23(土) 20:22:47 ID:???
すっごく遅い感想なんですが、「26人いる!」にひとこと。
いろんな意味で凄い。
特オタ傾向があるので、あまりにも濃いオタに爆笑。国松躍動しまくり。
メビウスは見てるけど、「GIG!」の由来も分かって勉強になりました(笑)。
クッチーの「GIG!」は「Genshiken Is Green」ってことになるのか?

最近、伊藤君の元ネタの人が案外近くにいらっしゃることを知って胸ときめいてます。
共通の知人介してサインプリーズしようかしらと画策中。


>初詣
げに恐ろしきは妄想のチカラ。コマ間にこんなドラマがあったなんて、いいなあ膨らむなあ〜。
108つの煩悩どころじゃないですね。
あ、さかさにしたら「801」だし(笑)

斑目せつなすぎだけど、斑目らしくもあってとてもグー。

あとがきにひとこと。
>…カ○オストロネタとか「11人しかいない!」とか
>やっぱ梶先生、ここ見て…ゲフン!ゲフン!!

カリ城ネタSSは自分が書きましたが、さすがにスーのアレは正調カリ城ネタでしょ。
しかし個人的にゾクゾクしたのは「オギーのパンツをはいているスー」でした。
僕がSSに書いたのは、オギーもスーのパンツはいているんですけどね。さてどのSSでしょう?www


>>384
斑目ハッピーエンド推奨派GJ!
「もしもあのとき言えたなら」「想いを行動に表せたなら」
咲の気持ちを引き寄せて、こんな結末になったのだろうか……こういうif大好きです。

386マロン名無しさん :2006/12/24(日) 01:16:41 ID:???
>26人いる!夏コミ2日目
ようやく読めました。
やはり特撮とか塩の錠剤とか、作者のひとにしか書けないSS、という感じて、
個性的で、読んでてとっても興味深かったです。
スーの「ねじ式」とかはわかったwwwしぶいしぶすぎるwwwww


…「マダラー」として言わせてもらっていいですか。

無精ひげ。
無精ひげ!!無精ひげ!!!!!!!(小躍り)
そして両手にはアンとスー?萌え殺す気ですか。
そしてヤブ?くはーーー!もはーーー!!
ハーレム状態であっぷあっぷの斑目さん。もっと幸せいっぱいにいぢめてあげて下さいwwwwww

>カエデ
正統派笹荻SSの流れを汲む新作ここに…。
デートってのは形より、まず本人たちが楽しめるかどうかにかかってると思いますが
(そういう意味で原作のアキバデートは楽しそうでいいのう…。)
ベタなデートにササヤンの思いがしっかりこめられてるのがいい、すごくいい。

で、荻プロデュースのデート(続編)マダー?w


…さて、こっからはレス返しを。


387マロン名無しさん :2006/12/24(日) 01:36:47 ID:???
SSの感想ありがとうです。急いで書いたんで話が練れてない部分もあるけど、久しぶりにかけて楽しかった。
>>380
いやいやお気になさらずー。スレッガーさん言われたwww
そういや前やったガンダム占い(キャラクター編)では、自分、スレッガーだった…。………ハヤジニシナイヨウキヲツケマス
>漢なり、作者の人!
うす!光栄でありまっす!!

>>382
どもです。また斑目ネタですw
>108の煩悩を超えて彼の中にあるからこそ、除夜の鐘では打ち払えない想いなのでしょうね。
そう簡単には消せない思いだからこそ、彼ん中で昇華して、成長のエネルギーになってくれればと願ってやまない今日この頃。
幸せになって欲しいなあ…。

>>385
こんな風に膨らませるのって、原作好きな人は怒りそうですね…(汗)
んでも、同人ぽいかなあ?と思いながら書きました。

>カリ城ネタSS
あのSSすごく面白かったです。
「ああ、ここまで面白く話を融合できるものか」と感心しながら読んだのを思い出します。
いやあ、9巻、あんだけセリフパロってるの見てると、インスパイアされたとしか…
いや、ワシがそう思いたいのかもしれません。
しまパンはどうみても某荻サイト様の威力です、本当にありがとうございました。
>オギーのパンツをはいているスー
うわ!えー、どれだろ?w題名教えてホシスw

…さて!感想。
>>384様!!素敵な夢をありがとうございます!!
>「本当、気持ち悪いったらありゃしない」と言うと、 咲は微笑んで斑目を抱きしめ返した。
ここ、すごく好きです!セリフと態度のギャップがすごくうまいなと思いました。くそう、そのセンスに嫉妬!

388マロン名無しさん :2006/12/24(日) 03:13:41 ID:???
>うわ!えー、どれだろ?w題名教えてホシスw
自己満足の世界だからあんまし気にしないで下さい。
恥ずかしいので題名は申せませんが、とりあえず下のような感じでした。

>怒って立ち上がり、部室を出ようとする荻上の服をスーが引っ張る。
>荻「?」
>大野が通訳しようとするが、「えーー!」と驚いた後、真っ赤になって上手く言えない。
>「あ……あの、荻上さん? 服を交換した時…勢いに任せて脱がせたから…その…“下”を戻すの忘re○□ッ※ッ……!」
>一同赤面(コイツら“全部”取り替えたのか!)
>荻上はどこぞのマンガの赤ダルマの様に真っ赤になった。もうすぐ自然発火しそうな勢いだ。


原作でスージーが初登場して、荻上と向かい合って背丈が近いと知ったときから、「服交換させてみてぇ!ついでに下着もー!」と思っていました……変態だなwww
9巻の荻上のスウェット着たスーにもやられました。妄想実現www


ひょっとしてこのスレもうすぐ終了ですか?

389388 :2006/12/24(日) 03:18:03 ID:???
言葉足らずですみません。
「もうすぐ終了ですか?」は、容量の問題です。
自分も後日SSを投入しようと思っていたので……。

スミマセン。そしてオヤスミナサイ。

390マロン名無しさん :2006/12/24(日) 04:16:51 ID:???
>>388
あ!あの話ですか!!!思い出した。
「Z」、ですな。挿絵描かせてもらいましたなあ。ナツカシス…。
SS、期待してますです!

391マロン名無しさん :2006/12/24(日) 05:15:56 ID:???
あと86KBあるので、よっぽど長くなければ大丈夫だと思いますよん。

392マロン名無しさん :2006/12/26(火) 05:02:47 ID:???
念のため…。

天日干しゅ

39326人いる!の人 :2006/12/27(水) 22:05:12 ID:???
>>391
と言う事は、俺の次回は次スレということになりそうですな。
どのみち年内に最終回上がりそうにないし。
ちょっとだけ予告しておくと、次回でも斑目先生の女難は続きます。
ではみなさん、ちと早いけど良いお年を。

394マロン名無しさん :2006/12/28(木) 01:09:29 ID:???
>>393
wktkして待ってます。良いお年を。

395どうなってるの? :2006/12/28(木) 13:28:53 ID:H3+/9b1n
自分は単行本派なので知らなかったけど、アフタ5月号「告白」
の冒頭6ページ?冬コミの場面が9巻では、分離して独立した
エピソード(スージーといっしょ)になってるんですね。あるサイト
で3月の日記に「告白」とスージーの話がでてくるから最初、混乱
してしまいました。

つまり アフタの5月号では

1p 表紙 リュック背負った斑目
2p スー、アンジェラ、大野「着きましたよー」
3p スー「シンカン!」
4p スー、笹荻成立を知る
5p スー攻撃「ココカ」
6p 「モエロオレノコスモヨ」来年...
7p 斑目、咲 部室でばったり 

というつながりでよろしいのでしょうか。
いまさら、そんな前のバックナンバーなど手に入らないし
確認のしようがないのです。アフタ読んでた人、誰か教えてー。

396マロン名無しさん :2006/12/28(木) 15:47:01 ID:???
ここはSSスレ何だが

397マロン名無しさん :2006/12/28(木) 22:09:05 ID:QHbIhQti
明日からいよいよコミケ71開催。げんしけん&くじアン関連同人誌もてんこ盛り。
明日はSSアンソロ本第2弾も委託販売されるし。
参加者の皆様、頑張りましょう。

・・但し、明日は同人誌の前にまず企業ブース!メディアファクトリー発行のくじアン&
げんしけんアニメ設定資料集を優先して入手の予定!それは並んで購入するだけ!!
いける、余裕でいける・・・(西から入場なら)

398マロン名無しさん :2006/12/29(金) 09:56:15 ID:???
9巻の肩車の辺り見て、斑目とスーはアリだと思った。

399マロン名無しさん :2006/12/30(土) 07:15:55 ID:QUWB3duF
あげ

400マロン名無しさん :2007/01/01(月) 00:15:41 ID:???
あけおめ
今年も楽しみにしております

401マロン名無しさん :2007/01/01(月) 00:29:30 ID:0qO/BpMl
あけましておめでとうございます。
げんしけん終われどSSスレは死なず。
弾はまだまだ残っとるけんのう。


402マロン名無しさん :2007/01/01(月) 14:07:23 ID:???
おめ〜
弾だけ残して戦線離脱できませんよ
今年も宜しくデス

403がんかけ :2007/01/03(水) 21:54:38 ID:???

「荻上さん、なにお願いしたの?」
「あ、ええ、春の読み切りの願掛けって言うか」
「アンケよかったら連載かもって言ってたもんね。頑張ってね」
「はい。……あの、笹原さんは?」
「いやその……その、春の読み切りの願掛けを……」



「大野さん、なにお願いしたの?」
「えー、田中さんと同じことですよお」
「え。まさか……」
「コ・ス・プ・レ」
「うはー、俺たち気が合うね」
「今年もいっぱいイベント行きましょうね」



「咲ちゃん咲ちゃん、なにお願いしたの?」
「うふふ、コーサカと同じことー!」
「へえ、それじゃ咲ちゃんもエロゲー三昧?」




あけましておめでとうございます。
天才秀才バカ風味でお届けしました。
ぶっちゃけ今の咲ちゃんはこんなこと言わないと思うけど(゚ε゚)キニシナイ!
今年もよろしくお願いします。

404マロン名無しさん :2007/01/03(水) 23:02:13 ID:???
>がんかけ
正月番組の大喜利みたいですな。
こりゃきれいだ、山田君、楽さんに一枚やっとくれ。

405マロン名無しさん :2007/01/06(土) 21:28:38 ID:???
 | |l ̄|
 | |l韓|
 | |l国|
 | |l_|
 |   .|_∧  クックック
 |   .|`∀´>
 |   .⊂ ノ
 |   .| ノ
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄

406マロン名無しさん :2007/01/09(火) 03:14:16 ID:???
荻ラヴ絵板に年末出ていた絵を元ネタに頂きました。
斑目をヒロインとしてよってたかって攻略する恋愛シミュレーション
いやテキストアドベンチャー?ゲーム
「まだらめメモリアル」のプレイ日記をSSにしてみました。
それでは6スレで。

407まだメモ初回プレイ(咲) 1/6 :2007/01/09(火) 03:15:33 ID:???
よっしゃ!!「まだらめメモリアル原作版」買ってきたぜ!!
他のバージョンは、まあ小遣いに余裕が出来てから…だな。
さっそく起動して…と。俺が幸せにしてやるぜ。
斑目、首洗って待ってろよーーーっ。
『〜〜〜♪斑目、メモリアルっ!〜〜〜♪』
お、オープニング始まった。この辺は原作に有るシーンだな。
うは(笑)、斑目が妙にカッコイイんだけど〜。
おおっ、斑目が青春してる…このカップリング有りなんだ?
いやぁ、期待が高まるなぁ。さて、スタートスタート、と。

『キャラクターを選んでください
   春日部咲
   大野加奈子
   笹原恵子
   荻上千佳



                        』

なんか空白が、まだキャラ増える期待を膨らませるね。
だいたいオープニングでも笹原と抱擁してたし、男キャラも
使えるようになるんだよね?スーとかアンも出るんかなぁ。
よし、まずは王道たるべく、斑目の無念を晴らすには…
春日部さんしか無いっしょ!いや待てよ、こういうゲームは
メインヒロインは一番難しいはず?

408まだメモ初回プレイ(咲) 2/6 :2007/01/09(火) 03:16:14 ID:???
いやいや、春日部さんなら斑目も元から好感度MAXだし
攻略も余裕か…どっちだ?えーい、せっかくだから俺はこの
赤い炎の春日部さんを選ぶぜ!放火イベントばっち来い!!

『椎応大の入学式も終わり、サークル勧誘が盛んな中、
 あなたは幼馴染の高坂真琴を見つけました。
   声をかける
   声を掛けない                  』

ええっ?うーん、高坂と知り合わなかったら現視研に入れない
気がするけど、高坂と付き合っちゃうと斑目が追えないんじゃ
ないかと思うし…どっちだ?よし、

『→声を掛けない』

さーて高坂をすっ飛ばして斑目一筋の学生生活を…。

『あなたは元彼をあしらったりしつつ、オタクとは無縁の
 立派な一般人として 大学を卒業しました。
 しかし波乱が少なく面白味のない学生生活を送ってしまった
 せいか、卒業後立ち上げたショップは経営が上手くいかず、
 路頭に迷うのでした。』


409まだメモ初回プレイ(咲) 3/6 :2007/01/09(火) 03:16:43 ID:???
えええっ、ちょ、早いって!
ああっエンドロールと悲しげな音楽がーーっ。
ちょっと待ってよ、これシビア過ぎるって!!
何この明日のジョーの最後みたいな春日部さん(笑)!!!
やり直し!やり直し!!

………はぁ、はぁ。さっきの所まで戻ってきたぞ。

『→声をかける』

ああ、このあとは原作と同じ流れね。
おおっ、喋ってる喋ってる。アニメの台詞の流用もあるかな。
しかしこのまんまじゃ、原作どおり斑目が空しい卒業を
させてしまいかねんな。気をつけないと。

『高坂の部屋に遊びに行こうとしたら、現視研の面々も居る
 との事です。笹原が気を遣って出て行こうとしています。
   笹原の提案を受け入れる
   行くのをやめる
   むしろ全員で遊ぶ                     』

これはもう、斑目狙いとしては全員と遊ぶしか無いっしょ。

『→全員と遊ぶ』

ポチッとな。

410まだメモ初回プレイ(咲) 4/6 :2007/01/09(火) 03:17:52 ID:???

『現視研の皆でゲーム大会が開かれています。
 ちょっと気まずい空気が流れていますが、高坂が率先して
 遊んでいるようです。
 「あんたら何よ、女の子が居るのにもっと他の遊び無いの?
   それか遊びに出たりしないの??あーもう酒買ってきてよ。
   ほんっとオタクって理解出来ないわ!!」』

ちょ、ちょっと自キャラの春日部さん暴走してる(笑)!!
あかん、あかんてソレは!!

『その時、斑目のつぶやきが聞こえてきた。
 「…君が……か、帰ったらイイんじゃないですかぁ…。」
目をそらしながら小声で言っている斑目に対して
右の拳を大きく引き絞った。
 「あんたが帰れ!!」(メキィ)
 結局あなたは斑目を殴り倒して帰ることになるのだった。』

ええぇぇっ!選択肢出ないの?まぁこの時期ならこうなる。
のかなぁ…。意外と難しいね、このゲーム。
ていうかこのペースだとクリア出来ないじゃん!!
…おっ新展開。

411まだメモ初回プレイ(咲) 5/6 :2007/01/09(火) 03:18:33 ID:???

『高坂の部屋でアニメ絵のエロ本を大量に見つけました。
   現視研に相談に行く
   高坂を問い詰める
   見なかったことにする                  』

うーん、高坂を問い詰めるっても、あの性格じゃぁな。
こっちが泣くだけで全然意味無いような。
いや、これで別れることになるのか?でもそれじゃ
現視研に出入りしなくなるような気もするし…。
ちょっと単行本取ってこよう。
ふむふむ。ここで相談して高坂と付き合うようになるのか。
相談しなかったら付き合わずに引っ張られて、付かず離れず
で現視研に出入りするのかな?
そしていつしか斑目に慰められて…とか?
いや、ここはちょっと問い詰めてみるかな。

『→高坂を問い詰める』

よっしゃ修羅場来い!どうだ?あれ…やっぱり受け流されて…
あー高坂って鬼畜だなぁ笑顔で。咲ちゃん泣いてるし!

『気まずくなって疎遠になりました。』

412まだメモ初回プレイ(咲) 6/6 :2007/01/09(火) 03:20:15 ID:???

まぁこれはこれで良いか…ってオイ!!行き先から
現視研の部室が消えてるジャン!駄目じゃん!
えーどうなるの?うは、展開早っ。またバッドエンドかっ?
だいたい好感度とかトキメキ度とか初代会長に会ったら
屋上で聞けるようになるはずなのに、そこまで行けてないし!
あ、またさっきの悲しい曲がーーー。

『たまに見かける現視研の様子はというと、斑目は遠くに就職
 し二度と見ることは有りませんでした。やがて大野さんと
 笹原が3年生の 夏になってようやく付き合いだした様子が
 見て取れました。しかし女主人と下僕のようでした。
 荻上さんは入部しましたが打ち解けずに退部したようです。
 あなたの学生生活も苦い味わいになり、その後(ry』
 
うわーひでー。誰も幸せになってない気がする…。
なんだこれ…さっきから欝になってばっかりじゃん!!
攻略本でも買うか…もしくは別舞台の高校編でも買い直すか?
食費を削ればいけるはず…。
なんだよーもうー、斑目にみんな群がるハーレムゲームじゃ
ないのかよぅ、もうー。
きょ、今日は徹夜だな、こりゃ。とりあえずキャラ変えよ…。
頑張るぞう。朝まで遠いぜ!

413まだメモ初回プレイ(咲) 6/6 :2007/01/09(火) 03:23:18 ID:???
以上です。
この手のゲームはときメモぐらいしかしたこと無いんですけど
BAD ENDの唐突さは昔やったゲームブックの影響かもしれません(汗)。

他のキャラとか他のバージョンとか書かれる方が居られたら是非!
そもそも失敗しかしてませんしorz
いや、最初ってこんなじゃないですか…。

414マロン名無しさん :2007/01/09(火) 03:24:07 ID:???
名前欄をあとがきに変えるの忘れてました。投下久しぶりだったです(汗)。

415マロン名無しさん :2007/01/09(火) 04:12:17 ID:???
>>まだメモ
ひどいwww
バッドエンドオオスwwww
当分は漫画と同じルートで行かないと攻略出来ないようですね。
たぶん、ターニングポイントは鼻毛か・・・。

416マロン名無しさん :2007/01/09(火) 17:06:59 ID:???
これ、咲で斑目攻略ムリw

417マロン名無しさん :2007/01/09(火) 18:30:36 ID:???
>まだメモ
鬼ゲー来たw
これは攻め落とすのが大変そうだ。燃える。
うっかりすると咲ルートいちばんキビシかったりして。
乙でしたー。

>>416
逆に考えるんだ、攻略できたらすっごいハッピーエンドを迎えられると考えるんだ。

418マロン名無しさん :2007/01/09(火) 22:24:57 ID:???
>まだメモ
こりゃまた新年早々新ジャンルですか。
やっぱり、まだまだ弾残っとるがの。
これでSSスレは10年戦える…
っていくつなんだよ俺、10年後は?
…そこは流せ。

それはさておき、ありそうで無かった新ジャンルGJ!
ゲームの上でまで難攻不落の要塞と化している咲ちゃんにワロタ。
こうなったら次回はげんしけん全キャラ(北川さんとか、小野寺さん含む)で恋のバトルロワイヤル、「スーパー現視研大戦」熱望。
あとぬぬ子とか児文研会長とか11人の新1年生とか、SSスレオリジナルのキャラも交えた「スーパーげんしけんSSスレ大戦」でも可。

419マロン名無しさん :2007/01/10(水) 04:03:46 ID:???
>>415
バッドエンド多過ぎですね(汗
ターニングポイントはたくさんありそうというか、春日部さんは攻略本
頼りか、チャート図しっかり作り込むかしないと無理かもですねー。

>>416
無理じゃない、無理じゃないですwww!!

>>417
一番厳しいのはもちろん春日部さんですよー。
その難しさは、9巻特装版同人誌の後方に…。
そして攻略のヒントも同ページにありますとも!
このネタで、このシリーズ含めまだ長期戦可能になってます。

>>418
この形式だとテキストアドベンチャーじゃなくても、シミュレーションでも
シューティングでも格ゲーでも何でも再現できますね。
言われて気付きました、ありがとうございます〜。

というわけで感想ありがとうございます!
スーパー対戦はともかく(wまだまだ書けますよ、まだメモ。

420マロン名無しさん :2007/01/10(水) 07:05:37 ID:???
ttp://ogilove.breeze.jp/cgi-bin/ogiblue/data/IMG_000635.png

まだメモ!まだメモ!

新ジャンルの活性化楽しみにしとります。



421マロン名無しさん :2007/01/11(木) 00:20:35 ID:???
まだメモ書いてみたっす。
私は荻上さんで攻略してみました。
所々興奮してますが気にしないでください。

422まだメモ攻略ガイド(荻上編)1/5 :2007/01/11(木) 00:21:12 ID:???
これが噂の「まだメモ」っすね。咲シナリオがひどいと知り合いから聞いたけども。
ふふ、攻略が難しいゲームはゲーマーの血が騒ぐってもんだ。
しかも所詮はテキストアドベンチャーだろ、全ルート総当りすりゃいいだけさ。
【今思うと、こう考えていたのが不幸の始まりだったと思う(クリア後に思ったこと)】

さて、マニュアルは読まずにまず起動だな。
テキストアドベンチャーなんて(ry
【別にテキストアドベンチャーに恨みがあるわケじゃないです。】

OP気合はいっとるな。アニメもこのくらい(ry
ぶふっ!!マダラメ美形化フイタwwww
マダラメカックイイ!
このマダラメなら惚れ(ry

さて初回攻略キャラは・・・。
うはスクナスwww
え〜、藪崎期待してたんだけどなぁ。スーもアンも無しかい。
恵子は集中するかもしれないなぁ。人気シナリオになるかも。
しかし、ここはあえて・・・。

『→荻上千佳』

地雷女行ってみようか!

いやね、荻上さんを選ぼうと思ったのはさ、
下手すると咲ちゃんより酷いんじゃないかと。
あと、笹原と公式ではくっついてるわけだから、そのあたりどうするつもりなんかなァと。
テキストライターの実力拝見ですよ。

423まだメモ攻略ガイド(荻上編)1/5 :2007/01/11(木) 00:21:59 ID:???
はじまたー。
ん?4年?え、もしかして、斑目の学年表記?
まさか・・・一年で落とす必要があるのか・・・。
よし、漫研からスタートだな。

「なんやねん!ならお前はちがうっていうんか!」
おお〜、藪ちゃん登場〜。これはウレシス。
オギー攻略すれば出てくるかな?
ってこのシーン、漫研飛び降りの時のか。
「ふん・・・。興奮して方言が出てますよ。」
うわ、いやな女。
「うっさいわ!所詮お前も同じ穴のムジナやろが!」

『 「なら、出て行ってあげますよ」といって窓に向う
  「すいません、その通りです。」といって頭を下げる
  「私の本性はこんなだぁ!!」と叫びつつスケッチブックを撒き散らす』

・・・どう考えても最初のなんだけどさ、最後・・・超選びてぇ・・・。
まぁ最初だし選んでみるか。
ぽとっとな。

「なんや!お前話わかるやないか!」
友情が芽生えました。二人は、その業界で有名な名コンビに。
『ノーマルエンド 二人はヤオラー』

なんじゃそりゃーーーーーーーーーーーーー!!
はぁはぁはぁ・・・。
うん、大丈夫。俺は正常だよ?(何

424まだメモ攻略ガイド(荻上編)1/5 :2007/01/11(木) 00:22:55 ID:???
まぁ・・・気を取り直して・・・。
元の選択肢まで戻ったところで、二番目はバッドエンド。
なんか楽しくない大学生活を送って卒業か・・。寂しいなおい。
さてようやくストーリー通りに進めていくぞ。
このあたりの流れは原作どおりだな。
クッチーウゼーw

お、普段の生活かな?4月27日。
「特にいる場所も無いから・・・部室いこうかな。」
うわ、すっげー寂しい台詞だなオイ。
でもいく場所があるだけいいじゃないか。僕には帰れる場所があるんだぁ。
部室前ですよ。うわ、ノック無しであけるか。
「こんにちは。」
「やぁ・・・こんにちは。」
「こんにちは。」
斑目いる〜。よし、狙いを定めるぞ。
笹原もいるな・・・ちょっといやな予感がする・・。
【この嫌な予感が、大的中することをまだ知らなかったり。】

「あの・・・。」
「なんだい?」
うは、お前じゃねえよw笹原。
「部室って好きにつかっていいんですか?」
「もちろん構わないよ。他の人に迷惑にならなければね。」
「・・・はい、有難うございます。」
・・・あれ?斑目?お前話に参加せんの?
「ふー・・・。」
そっぽ向いて茶なんか飲んでやがるよ!
うわ〜、かなり怯えてる。いや、恐怖とかじゃなくて触れるのが怖いようデス・・・。

425まだメモ攻略ガイド(荻上編)4/5 :2007/01/11(木) 00:24:12 ID:???
さて、あの荻上さんの「同人誌参加します話」も終わって。
結構日数立ったのに全く進展しないのはなぜですか。
っていうかね、部室行く度に笹原がいてね、
会話しようとするとどの選択しても笹原との会話になるですよ。
斑目も、雑談で入ってくるときはするんですけど、
明らかに好感度は笹原急上昇でして。っていうか荻上さんがね。
うわー、このままじゃ正史を突き抜ける感じ?ロケットで?

案の定でしたー。普通に告白あって付き合ってしまいましたよー。
幸せそうだなぁおい!
『バッドエンド 笹原さん・・・好き・・・です!』
ちょっとまてぇええええええええええええええええええええ!!
このゲームまだメモよね。
まだらめメモリアルよね!?
これだけ幸せそうな画像用意しといてバッドエンドはねーだろ!?
あ、斑目的に?あ、そういうこと!?

途中から一切斑目が出てこないのって仕様ですか?そうですか。
しかもさー、ササヤン超美化されてるのどうにかならねえの?
荻上ビジョンってやつですか?くそぅ。

その後も選択肢変えて色々試したんですよぅ。
でもね、今まで試したの95%笹原ルート。
オールバッドエンディング。の癖して画像は超幸せそうなのよ。
っていうかこれでよくね?だってオギーが幸せならそれでいいじゃん・・・。
残りの5%ですか?大野エンドと藪崎エンドですが何か。
あー、まぁこのへんでいいか。もうクリアするのだるい・・・・。

426まだメモ攻略ガイド(荻上編)5/5 :2007/01/11(木) 00:28:33 ID:???
でも・・・ひとまず・・・。マニュアルを見てみよう。
わ!薄!
まぁ、テキストアド(ry
それはともかく荻上の項を拝見っと・・・。
『彼女は基本的に笹原による傾向があるので、
 運がよくないと斑目に流れる事がありません。』
・・・?おれ、ちょっと目悪くなったかなぁ。
なんか、『運』って目に入ったんだけど。
ゴシゴシ・・・見えるな・・・。
嘘おおおおおおおおおお!
つまりはあれですか、笹原が部室にいないことが多い場合でないとクリアできないと。
っていうか、運によるゲームってどうよ?
あ〜、でもその運を上げる選択肢もあるんだろうなぁ・・・。
このゲーム、さり気に超むずくないか。
舐めてた。完全に舐めてた。
くそ、ゲーマーの誇りにかけて、ぜってー斑目と引っ付けてやる。
ぜってーにな!

〜後編に続く〜

427まだメモ攻略ガイド(荻上編)後書 :2007/01/11(木) 00:30:53 ID:???
勢いで書いたけどこんな感じでよかですか。
おそらく荻上編は『笹原ウゼェ編』だと思ったのでそんな感じで書いてみました。

あと・・・
ぽとっとな は ぽちっとな です。
ではでは。

428マロン名無しさん :2007/01/11(木) 01:28:11 ID:???
>>420
斑目が大変な事にっ!!www

>>まだメモ荻上編
ええええええええええええええええええ
斑目とあんなことやこんなことで、どきどきトキメキの展開が
今の所まったく無いですねw
確かに、笹原が凄く邪魔…。もっとキツイ台詞を奴に叩き込むべきか?
続編に期待!

429マロン名無しさん :2007/01/11(木) 17:51:46 ID:???
>>420
俺もちょっと泣いてしまいましたが、俺はいいから斑目にハンカチを貸してやってくれ誰か。

>まだメモ荻上編
このルートも厳しいのかー!
いま大野さんルートやってますが(成果と講評は週末にでも)「プレイヤーキャラ」と「攻略対象キャラ(すなわち斑目)」以外のキャラクターが動きすぎですこのゲームw
どうやら誰のルートでも原作展開を追うことはできるようなので、そういう楽しみも盛り込んだっつうことなんでしょうが。

こういう激ムズゲーを何と呼ぶかはプレーヤー氏みずから表現しています。
>くそゲーマーの誇りにかけて(ry
すいません意識的に誤読してしまいました。

ともあれGJ。ではまた。

430マロン名無しさん :2007/01/11(木) 23:13:51 ID:???
まだらメモリアルが難関不落の要塞なのについて。
難しい中でも特に難しそうな咲ルートの、ハッピーエンドルートを書いてみたいです。
そこまでいくのにものすごい努力を要するからこそ、めっさ幸せな結末にしてやるぅーーー

431マロン名無しさん :2007/01/12(金) 16:52:41 ID:???
荻ルートをあらかたクリア(ゲームオーバー)したら笹原ルートが出てきたんだが…

432マロン名無しさん :2007/01/12(金) 16:54:08 ID:???
>笹原ルートが出てきたんだが…

間違い。
選択キャラに笹原が出てきた。

433マロン名無しさん :2007/01/12(金) 17:54:39 ID:???
笹×斑ktkr

434マロン名無しさん :2007/01/12(金) 19:50:04 ID:???
何か楽しそうなんで参加してみるか。まだらメモリアルw

とりあえず簡単そうな恵子ルートで。個人的な感想で他意はないデスヨ?
一年目〜。接点なし。笹原に金借りにいったときの背景。高坂の背景。って選択肢
が出ね―よ!(w。一本道じゃないか。
二年目。いきなり海編ですか。おお、のっけから選択肢、ってどれ選んでも同じ答
えなんですが。以後選択肢なし…と思いきや、最後の最後に来ましたよ!隣に座っ
て居眠り!赤くなる斑目が可愛いw、って涎たらすなよ!恵子!
次はコミフェスですか。相変わらず接点がない…。と、またラストに一つ。
「今日はいっぱい〜」一択。何の意味があるんだよ、これ…。
三年目。イベントが、というか「げんしけん」メンバーとの接点がないぞ!たまの
咲との電話イベントぐらい。あの、これ、まだらメモリアルですよね?
四年目。「夏合宿しないの〜」発言来ました!ってそのままスルー?時間が飛ぶ飛
ぶwはい、秋です。合宿ですね。結構イベント有り。一緒に写真撮ったり、着替え
覗かれて「スケベ!」だったりw結構ベタですねw
んで、最後に打ち上げコンパで終り、と。結構フラグ立てた気がするから、何かあ
るかな…と思いきや、何もなしですか。そうですか。あれ、まだある?
「ある日偶然町で…」ベタベタ過ぎじゃ〜〜!!(恵子グッドエンド)

ちなみにボイス省略無しで、プレイ時間20分w省略したら10分切るぞ、このシナリ
オwとにかく時間の飛びがすごい。半年どころか、三年目なんかほぼ丸一年飛ぶぞ。
数が少ないながらも、攻略ポイントがわかりやすいので一回目にはお勧め。
でも原作知らないと意味不明の初心者向けって、どーよw

435マロン名無しさん :2007/01/12(金) 23:23:20 ID:???
ttp://ogilove.breeze.jp/cgi-bin/ogiblue/data/IMG_000640.jpg



436マロン名無しさん :2007/01/13(土) 01:09:33 ID:???
>>まだメモ@恵子
選択肢少ないの!?って飛ばしすぎでしょww
でも普通にエンドか・・初めてのグッドエンド!?

さてさて。
これから投下するブツは半年以上熟成されてたものです。
その頃からSSスレ見てた人には「ああ、こんなのあったなぁ。」
最近見始めた人には「なんじゃこれ?」っていうようなものです。

・・・読んでくれたら幸いです。前編、20レスで投下。


437801小隊リツコ・レポート :2007/01/13(土) 01:11:03 ID:???
正式タイトル 第801小隊アフターストーリー『リツコ・レポート』【宇宙編】

この記録は、かの連盟の星「リツコ・キューベル・ケッテンクラート」が
ある『仲間』の半生ということで秘蔵していたものである。
内容はその『仲間』の戦後記録となっており、
戦後起こった軍離れについて克明に記録された私的文書として、
研究の大きな対象となっている。

438801小隊リツコ・レポート :2007/01/13(土) 01:11:39 ID:???
「もう二年か・・・。」
窓から見える無限の宇宙を見つめながら、マダラメは薄ら笑い浮かべる。
「早いもんだな。」
戦争終結から丸二年。小規模な衝突はまだあるものの、
世界は落ち着きを取り戻しつつあった。
「早いと感じるのは、無為に過ごしたせいじゃなくて?」
メガネをかけた明朗そうな女性──
キタガワが奥の机に向かいながらマダラメのほうを見ずに話しかける。
「もっとあなたにはこちらの仕事をして頂きたかったのですけどね?」
「あはは〜、私の力はこんなもんですからねぇ。買いかぶっちゃ困りますなぁ。」
マダラメは視線を窓からキタガワに移し、
オーバーなリアクションをしながらキタガワのほうへ近付く。
「そう?あの曲者ぞろいの小隊をまとめていたぐらいですから・・・。」
「なぁに、私は担いでもらってただけですからねぇ。
 一人の時の本当の実力は・・・。お察しくださいよ、キタガワ大尉。」
「あなたは中尉のまま?まぁ、それはいいです。今回お呼び出ししましたのはですね。」
ようやく視線を上げ、マダラメの方を見る。
「木星くんだりから久々に地球圏に来たんだ。それなりの用件でしょうな?」
この二年、マダラメは木星開発の任についていた。
本来なら地球圏復興の任につくはずだったのだが、
彼以外の小隊メンバーが軍属から抜けたこともあり、志願してのことだった。
ここはかつて801小隊が宇宙に出てきたときに利用した宇宙ドッグである。
キタガワは結婚した夫と共に、ここを統括する任についていた。
「・・・気になる方々がいらっしゃるでしょう?」
「・・・!まさか!」
「ええ、情報がようやく入りました。」
「しかし・・・そのために軍が動くとは思えませんが・・・。」
気になる方々。そう、あの戦いの後、消息を絶った二人のことである。

439801小隊リツコ・レポート :2007/01/13(土) 01:12:16 ID:???
「・・・とあるお方がこの件に妙にご執心でしてね。関連性はわかりませんが・・・
 この件について動きやすいと思われる人選を頼まれました。」
「ほう・・・。それでこの私を・・・。」
「ええ。他にも何人かお願いしています。」
「・・・は?他に軍属でこの件に関して動く人間など・・・。」
「軍属ではなかったんですがね。私のほうからお願いすることにしました。」
「はぁ。」
「あとでお会いするでしょうから、この件に関してはそのとき本人からお聞きください。
 それより、とあるお方、がですね。」
「はい?」
「・・・その・・・。共に探したいということで・・・。」
(厄介ごとか・・・。)
口調、小声になったことを考えても、非常に厄介なことであることがマダラメはわかった。
「・・・重要人物ですか。」
「・・・ええ。」
マダラメも同じように小声になり、話を続ける二人。
「・・・なぜそんな地位の方が・・・。」
「ご本人に確認された方がよろしいかと・・・。」
「・・・来ているのですか。」
「ええ・・・。」
そういって、キタガワはそのまま扉の方へと向う。
黙ってついていくマダラメ。

440801小隊リツコ・レポート :2007/01/13(土) 01:13:05 ID:???
無言のまま無重力である廊下を移動していく二人。
ある場所に差し掛かったとき、キタガワが壁に手を置く。
機械の音が響いたかと思うと、隠し扉が開く。
「ほー。」
「早く。」
感心するマダラメに、急かすように入り口に佇むキタガワ。
その態度に焦りつつも中に入るマダラメ。
「・・・こんな隠し扉があったとはねぇ。」
「緊急時にしか使わないのですよ。まぁ、ここなら盗聴の危険性も皆無ですので。」
「ほう?なんでまた。」
「ミノフスキー粒子が半端じゃないんですよ。ここ。研究所の中心ですから。」
「なるほどね。」
そのまま進むと、一室あり、その中に、一人の少女・・・だと思われるのだが。
(・・・風格あるな。年はまだ18くらいだろうに。)
かもし出すオーラが違う。しかし、そのオーラもどこか儚げに感じられる。
(こんな態度にならなきゃいけないだなんてな・・・どんな生活送ってきたのだか・・・。)
遠めに見るその少女のこれまでを思うマダラメ。
「ご機嫌いかがでしょうか。少々不自由な生活だと思われますが・・・。」
「かまいません。こちらが無理を言ってるのですから。」
手に持った紅茶をテーブルに戻しながら、その少女は厳かな口調で言った。
髪の毛は金髪のロング・・・ウェーブが掛かっていて長い。
その顔は・・・マダラメも見たことがあった。

441801小隊リツコ・レポート :2007/01/13(土) 01:14:17 ID:???
「リツコ・キューベル・ケッテンクラート!?」
「・・・その通りです。」
マダラメの叫びにも似た言葉に。苦笑いしてリツコは答えた。
ケッテンクラート家といえば連盟のトップとよばれる家系である。
リツコ・キューベル・ケッテンクラートといえば、その容姿と風格ある姿勢が好まれ、
連盟軍の士気を上げる広告塔に使われていた。
かく言うマダラメらの中でも人気は高く、特にササハラはポスターを貼っていたほどだった。
「そ、そのリツコ様が何でここに・・・。」
「立ったままなのもなんですので、どうぞ、お座りください。
 ・・・システム、といえば思い出していただけるでしょうか。」
呆然とするマダラメをよそに座るよう促すリツコ。
そのリツコの言葉に、マダラメとキタガワは同時に向かいのソファに座った。
「システム・・・うーん・・・あっ!」
「・・・カンジ・ササハラの機体に乗っていた物です。」
「あれが・・・・・・まさか・・・あのシステムの精神体の正体が・・・。」
「・・・ええ。私でした。」
少し俯きながら、リツコは口を噤んだ。

442801小隊リツコ・レポート :2007/01/13(土) 01:14:54 ID:???
「なるほどね・・・。」
リツコから詳細を聞くマダラメ。
彼女が戦争前期、あの「連盟の白い奇跡」にいたこと。
戦争の最中、ここで実験の事故に巻き込まれたこと。
そして、あの戦いの後、意識を取り戻したこと。
「しかし・・・あの期間も活動してたはずじゃ・・・。」
「あれは影武者です。私が倒れる前も、常時、2〜3人いたんですよ?」
少し笑いながら再び紅茶をすするリツコ。そして、羊羹に手を進める。
「それは羊羹ですかい?」
「ええ。和菓子の究極ですから。」
取り留めのない会話であったが、少し、リツコの気勢が落ち着いたように思える。
「なるほどね・・・いや、わかりましたよ。あなたがあの二人に会いたい理由も。
 そして、あの二人を最後に見たのもあなただって言うこともね。しかし・・・。」
「マダラメ中尉。言いたいことは分かりますよ。私も何度も言いましたから・・・。」
キタガワがはぁ、と溜息をついて困った顔をする。
「わかります。私の立場がいかに危ういものかを。狙われる危険性は大きいのも・・・。」
「ならなぜ。」
マダラメが急に真剣な表情で聞く。
「・・・あの二人に会わないと・・・終わった気がしないからです。
 これは我侭なのはわかっています。私とて・・・でも・・・。」
搾り出すようなリツコの言葉。少し、沈黙が流れる。

443801小隊リツコ・レポート :2007/01/13(土) 01:15:31 ID:???
「・・・わかりましたよ。あなたが真剣なのも。覚悟も出来てらっしゃる。
 ならあとは私ども軍人の仕事でさ。しっかりお守りしましょう。」
沈黙を破るように少しおどけたように言うマダラメ。顔は少し笑っていた。
「・・・有難うございます。」
「なぁに、あなたが動いてくれなければあいつらを探すことも出来なかったんだ。
 みんな忙しいからな。生きるので精一杯さ。
 こういうことがあって俺が動けなきゃむりだとは思ってたんですよ・・・。」
「ではマダラメ中尉、E−5の部屋で諜報員が待っていますから。
 リツコ様に関してはシャトルの方へあとで案内しておきます。」
「りょーかい。」
キタガワの言葉に、マダラメは頷いて外へ出て行く。
「・・・本当によかったんですね?」
キタガワが改めてリツコに問う。
「ええ。決めてたことですから。
 でも・・・隊長さんがきていただけるならこんなに心強いことはありません。」
そういって、微笑んだ。

444801小隊リツコ・レポート :2007/01/13(土) 01:16:07 ID:???
「E−5、E−5っと・・・。」
たくさんある小部屋を、認識票を見ながら回るマダラメ。
この宇宙ドッグは「テナント」型である。
基本的な管理は連盟軍によってされているが、
部屋一室一室はレンタルされているものの方が多い。
研究向けの部屋が多いため、いくつかの研究所が店子となっているわけである。
もちろん、居住区も多く、一つの研究都市のように形成されているのである。
場所によっては危険な実験をしている横で、人が生活することもあるので、
なんともいえない問題もはらんではいるのだが。
「よぉ!マダラメじゃーん!」
その声に振り向くと、見知った顔が一人。
「ああ、カスカベさん・・・。」
「木星じゃなかったの?」
「ちょっとした任務でね。戻ってきたところさ。」
「お久しぶりです、隊長。」
その後の方から、コーサカもやってくる。
サキとコーサカの二人は研究員に戻り、ここで活動を続けている。
「どう?義手の方。問題ない?」
「まぁね。特に激しく動かすこともないしね。」
わざとらしく手を動かすマダラメに、サキは苦笑いして言う。
「まー、何かあったら言いなさいよ。」
「はいはい。・・・そういえば結婚したんだよね?」
一年ほど前に木星で受け取った電子メールを思い出す。
「うん。子供もいるよ。」
「出来ちゃった婚ですか。」
「ちげーよ!ったく、久々に会ったっていうのに。」
マダラメの言葉にお約束の突込みを入れつつ笑うサキ。

445801小隊リツコ・レポート :2007/01/13(土) 01:17:24 ID:???
「見に来「見に来ませんか?」
コーサカの言葉に、マダラメは慌てて手を振りながら言う。
「いやー、いいよ。今急いでるしね。今度戻ってきた時にでも・・・。うおっ!?」
その背中に衝撃が走る。
「なんだぁ!?・・・って!?」
驚いて後ろを振り返ると、なんと赤ん坊が浮いていたのである。
「あ、ハルナ!?何でこんなところにいるの!?」
サキの叫びを尻目に、赤ん坊はのんびりマダラメの方へ向う。
「あの・・・まさか・・・。」
「・・・ええ、うちの子ですよ。ふぅ。」
立ちくらみで倒れそうになるサキをコーサカが抱える。
赤ん坊はすっぽりとマダラメの手の中に納まる。
「あのー・・・。どうしたら・・・。」
「あはは・・・。隊長の事感じて来ちゃったのかもしれませんね。」
「冗談言うなよ・・・・。」
「いえいえ。冗談抜きにハルナのお気に入りみたいですし。
 将来もしかしたら・・・。」
「笑えねー。」
ははっ、とコーサカの言葉を受け流そうとするマダラメに、
「いえ、僕の言うことってけっこう当たるんですよね。」
そういってコーサカは満面の笑顔で笑った。
「・・・さて。かえろうか、ハルナ。」
コーサカがサキを抱えながら赤ん坊も抱えようとする。
すると急に泣き出す赤ん坊。
「・・・ほら。」
「・・・あー、もう。離れた方がよさそうね。」
「ええ。なんかこの子勘が鋭いんですよ。僕らが離れようとするとすぐ泣き出して。」
「ふーん・・・。じゃあこういえば大丈夫かな。『また来ますよー。』」
そうマダラメがいうと、ぴたりと泣き声がやむ。

446801小隊リツコ・レポート :2007/01/13(土) 01:18:16 ID:???
「あはは。本当に来てくださいよ。グレたら隊長のせいだ。」
「やめてくれよー。まぁ、また顔は出すよ。・・・懐かしい顔も連れてな。」
「!・・・なるほど、任務って言うのは・・・。」
コーサカの表情が引き締まる。
「極秘なんだ。色々あってな、まぁお前は把握してるかもしれないが・・・。」
「ええ。・・・朗報、期待しています。」
そういって、再びいつもの笑顔に戻った。

「んで、何で君がいるわけかな?」
「えー、隊長さん、私の実力知らないでしょー?
 こう見えても立派な諜報員の一人なんだよ、私。まぁフリーのだけどね。」
「それってタレコミ屋っていうんじゃ・・・。」
「うるさいなっ!」
E−5にいたのは、懐かしい顔、ケーコであった。
「んで、情報持ってきたのは君なのね?」
「まーねー。私も二人の行き先は気になってたしぃ?
 暇見つけては色々聞いて回ってたんだよね。」
「ほーん。」
「そしたらさ、面白い情報が入ってさ。
 壊れたちょっと普通じゃないジムの残骸を見たって言うね。」
「・・・なるほど。それでそれはどこなんだい?」
「・・・それが驚いちゃってさ。シイオーバレー。」
「え?まさか。」
「そう、そのまさか。第801小隊の基地があった、あの密林の谷なんだよね。」
「・・・そうか、ありがとう。」
そういって立ち上がるマダラメに、ケーコは告げる。
「あ、私もついてくかんねー。」
「はぁ?何を言ってるんですかチミは。」
「だって私いないと道案内も出来ないでしょ〜。」

447801小隊リツコ・レポート :2007/01/13(土) 01:19:20 ID:???
「いや、場所をいってくれれば問題な」
「あのね〜、私だってね、心配してるの、わかってよね。」
口を尖らして不満そうに話すケーコに、思わず苦笑いするマダラメ。
「・・・はいはい、わかったよ。」
「本当にわかってんの?まーいいよ。
 そうそう、Fー36でも待っている人がいるから会いに行って?」
「へ?ふーん。わかった。じゃあとでシャトルでな。」
「はーい。」

「・・・まったく、何があるって言うんだよ。」
F−36を探しつつ、再び無重力廊下を移動するマダラメ。
「・・・おお!やっぱりマダラメじゃないか。」
「ん?ああ、ヤナじゃねえか。相変わらずここか。」
「まぁなぁ。ここはいつでも防衛が必要だからなぁ。」
研究都市というだけあって、様々な研究がされている。
それを利用することが連盟政府の狙いなのだが、
その研究群を狙ったテロリストなどもたまに現れるのである。
もちろん、連盟軍の防衛は最新技術によるものに当然なるので、
成功したためしはないのだが。
「で、お前は木星だったんだろ、どうしてまた。」
「ああ、ちょっとあいつらに関する情報が入ってな。」
「ああ・・・。そういう事か。良く上が許可したな。」
「色々ありましてね。」
「・・・機密っぽいな。まぁいいや。でも気をつけろよ、最近テロが多くてな。」
「テロ多くなってんのか。」
「テロって言うより・・・海賊だな。宇宙海賊。」
「海賊ぅ?また突拍子もないもんが生まれたもんだ。」
海賊という語感に、少々驚きの色が隠せないマダラメ。
それもそうなのである。宇宙という環境が環境なだけに、
他から略奪を行う海賊は、なかなか危険が伴うものである。
「なんか白いMSが中心になってな。形はなんか・・・見たこともないやつだったが。」

448801小隊リツコ・レポート :2007/01/13(土) 01:19:56 ID:???
「戦ったのか。」
「まぁな。なんか、漏斗みたいなの飛ばしてきてさ。自在に動きやがんの。」
「・・・そいつはファンネルって奴だな。前見たことがある。」
「・・・・・・らしいな。まったく・・・・・・厄介なもんだぜ。
 あの時は何とかなったけどよ・・・。また来たら勝てる自信はねーよ。」
ヤナが少しヤレヤレと言ったふうに肩をすくめる。
「しかしまぁ・・・豪華な海賊だな。」
「ああ・・・。」
「ちょっと隊長さん!何油売ってますのん!」
そこに、大声で声が掛かる。
その声にヤナは直立状態で身を固める。
「ああ・・・すまんね、ヤブサキ准尉。旧友に会ったもので。」
「旧友さん?ああ、これは失礼しました・・・。」
恥ずかしそうに身を縮めるヤブサキ・・・
とは言っても身長の割りに大きめの体は小さくはなってないのだが。
「ですがね、そろそろ準備していただかんと・・・。」
「わかってるよ。」
「カトウさんたちも待ちくたびれてはりますよ。」
「ああ・・・それは怖いな。じゃあ、また機会があればな。」
「・・・ああ。またメールくれよ。木星は暇でね。」
「ああ、わかった。」
そういって互いに敬礼すると、ヤナはヤブサキと共に奥のほうに消えていった。
「やれやれ、あいつも大変そうだな。相変わらず女性部隊なのかね?」
ヤナは厄介者を押し付けられてるのかもな、と少し笑って移動を開始した。

449801小隊リツコ・レポート :2007/01/13(土) 01:20:35 ID:???
「ハーイ!隊長さん久しぶり〜!」
「マタ、アエタネ・・・。」
「・・・なんで君らはここにいるんですか。」
ようやくたどり着いたF−36には、見知った二人・・・傭兵家業のアンとスーがいたのだ。
「ちょっとキタガワさんに頼まれてね。私達なら動きやすいでしょうって。」
「タノマレタナラダマッチャイレネエ。」
「そうですか・・・いやね、でもこんな大所帯・・・目立つとちょっと怖いなぁ。」
そういいながら、腕を組み悩むマダラメに、アンが気楽そうに声をかける。
「なに、昔の仲間が集まってるって言えばすむじゃない。」
「まぁ、そうなんだけどね。しかし・・・連れている人物が人物だけに。」
「でもねぇ。いざという時は人数いたほうがいいでしょ。」
「まぁそうだな。グチグチ言っても仕方ない。よろしく頼むよ。」
そういって手を差し出すマダラメに、ウインクをしながら握手を返すアン。
「キアイダー!ナニゴトモキアイダ〜!」
そういってそういって手を突き出すスー。
「ははは・・・相変わらずだねー、この子は。」
苦笑いするしかないマダラメであった。

450801小隊リツコ・レポート :2007/01/13(土) 01:21:34 ID:???
「にぎやかな旅路になりそうですね。」
「ええ、全く。」
三人でシャトルに向うと、すでにリツコとケーコは座っていた。
聞いた話によると、リツコが来ることをしならなかったケーコが叫び声を上げそうになり、
キタガワによって抑えられたということもあったらしい。
「・・・聞いてなかったんだもん。・・・普通驚くでしょ・・・。」
そういって拗ねてブーたれているケーコをよそ目に、アンとスーはいたって涼しい顔だ。
「まー、あの二人は特別かもしれんがね・・・。」
そういって笑いながら隣に座って慰めるマダラメ。
「さて・・・このまま順調にいけばいいんだが・・・。」
『シャトル発射10分前です。皆様、席に座りシートベルトの着用の方を・・・。』
俺の予想は悪い方にはよく当たる、と少し自嘲気味に笑うマダラメであった。

451801小隊リツコ・レポート :2007/01/13(土) 01:22:12 ID:???
「さて、今後はどう動くつもりだね?」
隣のケーコに今後の予定を尋ねるマダラメ。
皆聞きたかったようで、耳を傾ける。
「あ、とりあえずね、タナカさんとこにいって、クガヤマさんと合流。」
「え、あいつらに会うのか。」
「うん。移動用のトラックとか、護衛用のMSとかね、借りにいくの。」
そういって、取り出した手帳・・・なぜかかわいいシールなどがついている・・・
を見ながら楽しそうに語るケーコ。
「ふーん・・・元気なんかねー。」
メールはもらっていたが、やはり実際会うとなるとそれなりに気になるものだ。
「みたいだよー。」
「カナコ元気かな。楽しそうなメールはよく届くんだけど。」
「・・・シアワセナラソレデイイ・・・。」
「・・・タナカさん・・・はあの技術士官の?」
おずおずと声を出したリツコにマダラメがえる。
「そうですよ。そうか、整備は大概タナカがやってたんでしたね。」
「ええ・・・何か一方的にあなた方のことを知っているのというのも妙な感じですね。」
そういって微笑むリツコ。それを見て少し気が緩むマダラメであったが・・・。
急にシャトルがゆれる。
「なんだぁ!?」
「隊長さん、外外!」
窓際に座っていたケーコの声にケーコの座っている上に体を乗り出し、
窓から外を覗くとそこには数機のリック・ドムが移動していた。
「・・・テロリスト?・・・・・・違うな。動きから見て・・・例の海賊って奴らか・・・。」

452801小隊リツコ・レポート :2007/01/13(土) 01:23:06 ID:???
「あの・・・。」
「なに?」
ケーコの声に気付いて下を向くと、思いっきり胸のうえに手を付いていたことに気付く。
慌てて手を離すマダラメ。
「・・・うわ!ごめんごめんごめん!!」
「いや、事故だしいいんだけど・・・。」
「いやはは・・・。いやね、それよりね。どうにかせんとね。」
かなり動揺しているのか、しゃべり方がおかしくなるマダラメ。
「ちょっと、しっかりしてよ!」
「おおう、わっかてるよ〜、わかってるよ〜。」
ケーコの言葉に急いで席から離れ、操縦室に向うマダラメ。
「おい!勝手に入るな・・・」
「連盟軍士官マダラメ中尉だ!!現状はどうなっている!」
「え、あの、その。・・・荷物の引渡しを迫られています。
 あと・・・この艦にある人物が乗っているから引き渡せとも・・・。
 ・・・あの、何かご存知なのですか。」
「・・・まぁな。ちっ、どこで洩れやがった。」
操縦席にいた副操縦士から話を聞くと、マダラメは舌打ちをする。
「引渡しは不可能ですか。このままでは艦ごと落とされます。」
そういうメイン操縦士である艦長にマダラメはため息をつく。
「・・・ああいう輩が引き渡したからといって無事に済ますとお思いで?」
「・・・まぁ、そうですよね・・・。」
「・・・プチモビぐらい積んでますよね?貸して貰えますかね?」
「ありますが・・・どうするおつもりで?」
「何とか時間稼ぎをする。その間救援信号を送りまくるんだ。
 ・・・10分。これ以上は無理だと思うが、きっと近くを巡回中の隊がいるはずだ。」
「・・・わかりました。こうなれば一蓮托生ですな。」
そういう艦長に、マダラメは敬礼を送る。
「うまくいくよう願っててくれ。」

453801小隊リツコ・レポート :2007/01/13(土) 01:23:50 ID:???
「私達も手伝うよ!」
「・・・フフフ、マッカセナサ〜イ。」
気付くと後にアンとスーが立っていた。
「・・・お前ら・・・よろしく頼む!」

プチモビ、というのは作業用のMSで、
・・・いやMSというにはちょっと貧相な二頭身ほどの作業用機械である。
基本的に戦闘能力は皆無に近く、緊急時の補修などに使われるため、
大概の輸送艦には積んであるのだ。
「よし・・・あくまで目標は牽制だ。無理はするなよ。」
「モチロン!こんなので落とそうとは思わないよ!」
「・・・ムリハシナイ。」
三機のプチモビに乗り込む三人。
「よし・・・みんな、生きて帰るぞ!」
「ヒュ〜、久々に聞いたね!」
「・・・コレヲキカナキャハジマラナイワ。」
「・・・なんか恥ずかしいな。まぁいい、いくぞ!」
宇宙に三機のプチモビが出撃する。
「ふいー、地球圏は重力影響が弱くて操作しやすいな。」
「やっぱ木星は大変?」
「まあなぁ。重力影響は半端じゃないよ。事故でたまに木星に持ってかれる事もあるからな。」
「重力ニ魂ヲヒカレタモノヨ!」
「それ使い方違うような・・・。まぁいいか。よし来るぞ!」
前方にドムの編隊が広がる。数にして三機。多くはないが。
「ま、数の上じゃ同じでも、性能差が大きく違うしね。」
そうぼやきつつ、スイッチを操作する。
「さて、どの程度慌ててくれますかねっと!」

454801小隊リツコ・レポート :2007/01/13(土) 01:24:33 ID:???
そういうと、プチモビのボディから一本のアンカーが飛び出す。
それはそのままドムに張り付いて・・・。
「作業用のマグネットアンカーのお味、いかがかなっ!」
そのまま、回転を開始し、ドムは慣性のまま回転を始める。
同時にアン、スーの機体もマグネットアンカーを射出し、同様に回転を始めた。
「そのままどこかへ飛んできな!」
ボタンを押した瞬間、電磁石になっている先端から磁力がなくなり、
その勢いのまま、遠くへ飛んでいくドム。三機とも、遠くへ飛んでいく。

「ひゃー、奇襲だっただけにうまくいったな。」
『でも次はうまくいかないでしょうね。』
そういいながら通信越しにアンは少し笑う。
「さて、残りは・・・二機?」
『意外と多いわね!』
編隊構成は普通4機で行うものである。
大概そのうち一機は情報収集タイプ
・・・EWACなどがついている機体であるのが一般的である。
しかし、この襲撃隊はドム5機による編成なのである。
「まぁ・・・軍隊の常識が通じるとは思っちゃいねえけどな。」
『センソウハカズダヨ!アニキ!』
「・・・兄貴って誰やねん。」
そうスーの言葉に突っ込みを入れつつブースタを点火させるマダラメ。
「さて・・・あとは動きまくっときますかね。」
ドムからビームバズーカの光が迸る。
「ビーム兵装かよっ!安定感不足であまり配備されてないんじゃなかったのかよ!」
ビームの処理というのはデリケートであり、
皇国軍は最後までビーム兵器を量産させることが出来なかった。
ゲルググは確かにビームを標準装備していたが、
一般兵が多く使っていたのはリックドムであり、
リックドムはビームの扱いに長けてはいなかった。
三機のプチモビは移動を繰り返しつつ砲撃を避ける。

455801小隊リツコ・レポート :2007/01/13(土) 01:25:09 ID:???
「やれやれ、安定してるじゃねえかよっ。」
ビームの迸りをギリギリで交わしつつも、だんだんと追い詰められていく三機。
「さすがにビーム兵装はつらいな・・・。」
普通のリックドムの武装は実弾兵器であるジャイアント・バズ。
これは単発で出てくるため、数発よければ後は弾切れである。
しかし、ビーム兵装はそれよりも発射数が多い。
「あと・・・数分・・・早く来てくれ・・・。うおっ!?」
乗機の片手が吹っ飛んだのがわかる。
「く・・・。大丈夫か!」
『何とか・・・ね。』
『マダダ、マダオワランヨ!』
その瞬間である。
一筋の閃光が宇宙を奔る。その元には、大きな影が。宇宙用戦艦である。
「来たか?・・・なに?あれは・・・うちの軍じゃない!?」
このあたりを巡回している巡洋艦であれば、見覚えがないものはない。
仮に新造艦があったとしても、そう大きく様相を変えるもんでもないはずである。
しかし、その艦は明らかに異質であった。
『帆』があるのである。
「おいおい、こりゃ何の冗談だよ・・・。」
『こいつが噂の・・・宇宙海賊って奴かしら!?』
「ならおかしいだろ・・・じゃあこのドムたちは何者だよ・・・。」
ドムは明らかに挙動がおかしくなっていた。
襲い掛かっていた二機に、先ほどぶっ飛ばした三機が戻ってきて、
共に逃げようと後退を始めた。
「なんだ・・・??」

456801小隊リツコ・レポート :2007/01/13(土) 01:26:00 ID:???
すると、海賊船から二機のMS・・・。一方は白く、一方は黄色の・・・。
見たこともない所属不明の機体が飛び出してきた。
すぐさま、その黄色い機体は変形し飛行形態になったかと思うと、
ドムたちの前に立ち、ビーム砲を打ち放つ。
これによって二機が致命傷を負い動けなくなった。
残りの三機が地理尻に逃げようとしたところを、
白い漏斗・・・が打ち落としていく。まるでその純白の機体は・・・
堕天使とよぶにふさわしい姿であった。
「ファンネル!?あれが噂の・・・本当の宇宙海賊か・・・。」
しかしなぜ宇宙海賊はドムを倒しているのだろうか。
『え〜・・・お騒がせしました・・・シャトルにご搭乗の皆様。』
女の声だ。マダラメはどこかで聞いたことがある・・・気がした。
『このたびは私どもの脱走兵がご迷惑をおかけしました。
 私どもは一般市民の乗っている艦は襲わないよう心がけているのですが、
 モラルのないもの達が逃げ、このような結果になってしまいました。
 それではよい航海を。』
そういって通信をきる。どうやら、白いMSに乗っている女性であるようだ。
「なんなんだ・・・こいつら・・・皇国の敗残兵なのか?」
『そのようだね・・・。』
その時である。ようやく駆けつけた連盟の巡洋艦が、MSを展開してきた。
『またせたな。マダラメ。』
「お?ヤナか?もう大丈夫だぞ、終わった。」
『は?何を言ってるんだ、目の前にいるじゃいか!はよ逃げろ!』

457801小隊リツコ・レポート :2007/01/13(土) 01:26:36 ID:???
「いやぁね・・・。」
『ごちゃごちゃ言ってないでぶちかましたりましょうや!』
そういって、ヤナ機後から巨大なランチャーを構えたジム・カスタム
・・・色がピンクなのが目もあてられない・・・
が、それを構え、白いMSを打ち倒そうとする。
搭乗者は・・・先ほどのヤブザキ准尉である。
『おちろやぁ!この海賊がぁ!』
シュウウウウウウウウウウウウウ・・・・。
収束音が通信越しにも聞こえる。
「ちょ、おま、それ、やば、だろ!」
声にならない声を上げ、マダラメが講義するも。
バシュウウウウウウウウウ!!
光の迸りが宇宙を駆ける。
しかし、二機はあっさりそれを交わし、
光はそのあたりを漂うゴミを焼いたに過ぎなかった。
『慌てんでも、今度相手になってやるさね。』
『なんだと!かかってこいやぁ!』
白いMSのパイロットとはもはや顔見知り状態らしく、
罵声を浴びせかけるヤブサキ。
『・・・では、ごきげんよう。』
そういうと、二機は艦船に引き返す。
『く、追いかけますわ!』
『バカヤブ。無駄弾撃った上に無駄な追い討ちもしようとするのか?』
『カトウ少尉・・・。でもですね!』
『ばかですにゃ〜。』
『お前にだけは言われたくないわ!』
『・・・あ〜みんな落ち着いて・・・帰るぞ・・・。』
騒ぐ三人の部下に、おずおずと声をかけるも、完全無視されるヤナ。
「・・・大変だな。」
『・・・うん。』

458801小隊リツコ・レポート :2007/01/13(土) 01:27:28 ID:???
事の顛末をヤナに伝え、シャトルに戻ってきた三人。
「おつかれさん〜。」
ねぎらいの
「本当だよ。全く・・・前途が多難だぜ・・・。」
ふう、と息をつきつつ、椅子に座るマダラメ。
「・・・あの方々・・・いえ、あの方・・・。」
「え?白いのに乗ってた奴かい?」
リツコが、何か思い出したようにマダラメに語る。
「声、聞いたことあります。あれは、あの基地にいた・・・最後の相手だったはずです。」
「なにぃ?じゃあ、あの兵器使おうとしてた奴かよ・・・。
 妙に紳士的になりやがって・・・。」
不満ありげに鼻息をふかすマダラメ。
「よくは分かりませんが、今度は違った方向で戦うつもりなのでは?」
「ふーん・・・。しかしまぁ・・・。とりあえず当面の航海は大丈夫かな・・・。」
『当機は、もうすぐ大気圏に突入します。』
振動と共に、機体が地球へと降下していく。
久々の、地球という重力を感じながら、マダラメは少しの眠りについた。

前編 終わり

459801小隊リツコ・レポート :2007/01/13(土) 01:30:02 ID:???
地上の降りた一行を待つのは希望か、絶望か。

それは・・・誰にもわからない。

いや・・・それがどうなのかを・・・
決めるのは、自分自身なのである。

第801小隊アフターストーリー『リツコ・レポート』【地上編】
お楽しみに

460801小隊リツコ・レポート :2007/01/13(土) 01:31:45 ID:???
というわけでいまさら感ありありのアフターストーリーいかがだったでしょうか。
楽しんでいただけたら幸いです。
後編も投下可能なのですが、今日はこの辺で。

あ・・・【地球編】だってばよ・・・ orz

461マロン名無しさん :2007/01/13(土) 04:47:07 ID:mDrgIyrV
>801小隊リツコ・レポート

まずは、待ちに待ってた番外編、お疲れ様でした。
忘れるもんかね、SSスレの代表作を!
リツコレポート、ずっと楽しみにしてたのです。だって、マ(略

キタガワさん、カスカベさんとコーサカ、ケーコ、アンとスー、ヤナ、漫研女子。
そして「精神体」として会ったことのあるリツコ。
そうやって登場人物が出てくるたびに懐かしい気持ちが広がりました。
げんしけんの、というよりも、「801小隊の」という思いで。

後編に超期待しつつ投下を待ってます。

462マロン名無しさん :2007/01/13(土) 04:49:09 ID:???
>>461です
あげちゃったスマソ

463マロン名無しさん :2007/01/13(土) 14:48:40 ID:???
>リツコ・レポート
ゲームについては門外漢なんで皆にまかせるとして、久々の続編というか外伝というか、先ずは前編GJです。
やぶへび3人娘参戦、ほとんどパトレイバーの太田状態のヤブサキ准尉、ここでも問題女子に囲まれて必殺苦労人状態のヤナ、そしてここでも微妙にハーレム状態のマダラメと見所満載ですな。
後編にも期待してます。
あとスーの台詞って全部元ネタありそうだけど、分からんのもあるので後書きで元ネタ一覧表希望。


464マロン名無しさん :2007/01/13(土) 14:51:31 ID:???
463ですが追記。
あと後編も前編と同じぐらいかそれ以上の分量なら、次スレの用意が要るかも。

465マロン名無しさん :2007/01/13(土) 14:57:31 ID:???
>まだメモ@恵子
早ッ!原作で接点少ないキャラは描写減りがちですからねえ。恵子なんてノゾキイベントあるからあそこから一気に愛情を育ててっ、なんて構想してましたがこいつは大変だw
大丈夫!きっと長いシナリオがどこかに隠れてるから!


>『801小隊リツコ・レポート』
久しぶりの登場お待ち申し上げておりましたっ!
まずは面々のご健勝をお喜び申し上げます。ハルナちゃんは末恐ろしもとい将来が楽しみです。
そして謎のっつーかアイツラじゃん海賊!無茶な武器振り回すピンクのジム!気苦労の多いヤナ隊長!
宇宙(ソラ)の上でもまだお話かけるじゃないすかw
でも先に地上の人たちですね。彼らも元気でやっているのでしょう。
こちらも待ち遠しいです。



そしてそして、パラグラフアドベンチャーと言えば『Deathtrap Dungeon』(PSソフトではなく書籍の方)をやったのが最後っつう俺ですが、みんながあんまり楽しそうなんで『まだメモ』参入するっすよ。
大野さんシナリオでプレイしましたが、ちょっとドラマチックな展開があったのでリプレイノベルに仕立ててみました。
まだメモ@恵子作者氏、801小隊作者氏、間隔空けずに投下でまっこと申し訳ない。時間かけて書き込みできるチャンスが今しかないのです。

>>464
いま467kbですな。俺のが今から15kb程度ですよん。

13レスでGo!よろしく〜。

466まだメモ@大野(1/13) :2007/01/13(土) 15:02:31 ID:???
 アメリカから帰国したわたしが入学した椎応大学には、わたしを受け入れてくれる場所がありました。その名は現視研。
 同学年でも半年遅れとなるわたしが、向こうでも特殊な趣味だと微妙な距離を持たれていたわたしが現視研に溶け込むことができたのは、同期のみんなや田中さん、そしてあの人が、この場所にいてくれたからだったのです。



まらだめメモリアル リプレイ



『幸せであるように』



 コスプレ写真の横流しが失敗した夜、わたしは斑目さんを居酒屋に呼び出しました。
 あのときの失態を謝罪したかったのと……わたしはどうしても、彼が何を望んでいるのかを聞き出したかったのです。
 咲さんはもうあと数日で卒業してしまいます。斑目さんと違い、都心で自分の店を持つという職業を選んだ彼女は今後、部室に顔を出すことはほとんどないでしょう。
 斑目さんが、咲さんとお話をする機会はもう、わずかしか残されていないのです。

467まだメモ@大野(2/13) :2007/01/13(土) 15:04:32 ID:???

「斑目さん、ほんとごめんなさい!まさか咲さん本人に見つかるとは思っていなかったんですぅ〜」
「いやいや!いいんスよそんなの。それより大野さん、いいの?田中放っといて」
「今日は田中さんの学校の追いコンなんですよぉ。縫製のお師匠様っていう人がいて、そっちにお付き合いしないとならないんです」
「へー、確かに学校行くようになってからあいつ、ますます腕を上げてっからな」
「ほらほら斑目さん、とりあえず乾杯」

 強引にジョッキをぶつけますが、斑目さんはあまり乗り気ではないようです。

「いったい何にスか」
「えーと、じゃ……」

 わたしはちょっと考えました。斑目さんは今日のことを、どう思っているのでしょう。

「斑目さんの秘めたる想いに」
「ぶっ!?」

 漫画みたいに泡を吹き飛ばし、斑目さんはむせ返りました。

「ああもう!なにやってるんですか斑目さんたらぁ」
「げほげほっ、そっ、それはむしろこっちのセリフだっつーの!」

 あわてておしぼりで彼の服を拭きます。涙目になった彼が、こちらを見つめました。

「昼間といい、なんだってんだよ大野さん。俺は別に――」
「――『別に春日部さんのことなんか』って、言うつもりですか?」

 斑目さんの瞳の色が変わりました。

468まだメモ@大野(3/13) :2007/01/13(土) 15:06:03 ID:???

「『春日部さんのことなんか好きになってない』って、そうやって自分に嘘をつくつもりですか?斑目さん」

 斑目さんは何も言わず、わたしの顔を見つめています。わたしも言ってしまった以上あとには引けず、彼の眼鏡の奥に視線を送り続けました。

「斑目さん、斑目さんが咲さんのこと好きだって、わたし知ってました。たぶん他の女の子たちも知ってると思います、咲さん以外は」

 斑目さんは、ふと視線をそらしました。居酒屋のカウンターで手元のジョッキに目を落として、でも彼は何も見ていないのでしょう。角度の加減で、眼鏡にカウンターの照明が映り込んで彼の表情は見えません。

「咲さん、自分のことにはなんかニブいんですよね。でもわたし、斑目さんのその想いをどうこうしようとは考えてなかったんですよ……この間までは」
「……この間?」
「わたしがコスプレの衣装を部室に運び込んだとき、斑目さん、咲さんと二人きりでいたんですよね」

 十日くらい前のこと。逃げるように帰ってしまった斑目さんとどんな話をしたのか、咲さんからはそれとなく聞いていました。

「斑目さんが咲さんにお別れめいたこと言ったって聞いて、もう我慢できなくなったんです。斑目さん」

 わたしは斑目さんに詰め寄りました。

「咲さん、もう卒業しちゃうんですよ?いいんですか、このままで?」

 ……でも、どうして。

469まだメモ@大野(4/13) :2007/01/13(土) 15:07:55 ID:???

「斑目さん!自分の心を告げないままで、好きって言わないままで、咲さんを行かせちゃっていいんですか?」

 どうしてわたしは、斑目さんのことにこんなに一生懸命になっているのでしょう。

「ちょ、ちょっと待ってよ大野さん、なんで大野さんが俺のことにそんなに入れ込むの?」

 ちょうど彼もそこに思い当たったようです。

「あのさ、春日部さんには高坂くんという彼氏がちゃんといるわけでさ、それをどうして大野さんが二人の間に波風立てるようなことしてるのさ?」

 斑目さんの表情にも困惑交じりの焦燥感が見て取れます。

「これは俺の問題であって、大野さんには関係ないでしょ?俺が俺の感情にどんな決着をつけようが、それは全部俺に跳ね返るわけで、大野さんには損も得もないはずだよ、そうじゃない?」
「それは――」
「……あ、それとも大野さんは面白がってるのかな?今の俺の状況」

 自嘲気味の光が、彼の瞳に宿りました。

「俺は今勝ち目のない勝負にハマり込んで、進むも地獄、引くも地獄だ。それなのに大野さんは、俺に進めと言ってくる。どうしたいんだよ、俺が春日部さんの目の前で玉砕するのを見たいってのか?」
「そ……そんな」
「大野さんには解らないんじゃないの?いま自分は田中とうまく行ってるし、そもそも付き合い始めも自然だったじゃんか。タダでさえ恋愛経験ゼロの俺がこんな高度な三角関係に手を出せるはずがないでしょ?」

 さっき飲み損ねたビールを思いだしたのか、ジョッキに口を付けて一気に飲み干します。

470まだメモ@大野(5/13) :2007/01/13(土) 15:09:26 ID:???

「あはは。こんな感情の引きずり方してるオタなんざさぞ珍しいんだろうな。そうか、おおかたアレだ、アンジェラあたりと俺がどうなるか掛けてるんじゃないの?」
「斑目さん!?何を――」
「そうだな、きっと大野さんは俺が告白する方にベットしてるんだ、そうだろ?ひょっとしたら玉砕するオプションもついてるかもな」

 今飲んだばかりのお酒がすぐさま脳まで回るわけがありません。斑目さんは酔ったふりをして、わたしが触れてしまった逆鱗を鎮めようとしていました。

 わたしが言った余計な一言に腹を立てて、それでも直接わたしを攻撃することができなくて、こんな回りくどい方法で胸の内を明かす彼を……。
 もう卒業してるのに、ただの後輩に刺された図星を打ち消すことができないでいる優しい人を……。
 多分わたしと同じように現視研を愛していて、そのあまり自分の真実さえ後回しにしようとする不器用な人を……。
 そんな斑目さんを見ていて、わたしはようやく悟りました。

 わたしは、斑目さんが好きなのだ、と。

「オッズはどうなのかな?俺から見ても鉄板レースだろ、低いよな。うっかりしたら0.9倍とか――」
「斑目さんっ!」

 私は居酒屋の椅子を蹴り、斑目さんを抱き締めていました。
 わたしは田中さんを愛しています。アメリカ帰りというだけで誤解されがちな腰の軽い女でもありません。
 でも、わたしは斑目さんが好きだったのです。……たった今気付いたことですが。
 田中さんを好きなのとは多分まったく違った次元で、今わたしの腕の中で息を飲んでいる人のことが、わたしは大好きだったのです。

「そんなのじゃ……ありませんっ!」

471まだメモ@大野(6/13) :2007/01/13(土) 15:10:56 ID:???

 わたしの行動は結果的に良い方に転んだようです。考えてみれば、斑目さんに口で勝てるはずがありません。彼は驚愕のあまり、我に返ってくれました。

「……大野さん?」
「そんなのじゃ、ないんです」
「大野さん、人が見てるよ」

 居酒屋の全てのお客さんが……正確には従業員の人たちまでもがわたしたちに注目しているのに気付いたのはその後でした。

 代金を支払って早々に居酒屋を出て、わたしたちは近くの公園に移動しました。わたしにはまだ話したいことがあったし、斑目さんももう少し付きあうつもりになってくれたようです。

「大野さん、どーぞ」
「あ、すいません」

 向かいのコンビニで買って来たビールを二人で取り分けます。

「ふう、今日のわたし、なにからなにまでダメですね」
「まーまー。さっきのはホラ、俺も悪かったしさ」

 今度は何も言わず、二人でビールのタブを上げて缶の縁を合わせます。

「斑目さん、もう言いかけちゃったんで全部言いますね。わたしは、やっぱり斑目さんには咲さんに告白して欲しいと思います」
「ええー、その話続けんの?」
「ふふ、続けますよぉ。斑目さん、咲さんのこと、いつから好きだったんですか?」

 彼はまだ少し躊躇しているようでしたが、やがて心を決めたようです。わたしが座っているベンチの向かい側、ウサギの遊具に腰掛けて、こちらを見ました。

472まだメモ@大野(7/13) :2007/01/13(土) 15:12:39 ID:???

「……初めはさ、『なんだよあのドキュン女』って感じだったんだぜ?春日部さんのこと」
「あはは、オタクの対極にあるような人ですもんね」
「そもそもウチがどんなサークルかって知らないで来たんだよ、高坂くんに付きあって覗きに来ただけで。それが高坂くんが居ついちゃったもんだから」
「ああ、聞きました。わたし来た時も、まだ全然こなれてなかったんですよね、咲さん」

 缶ビールをちびちびと飲みながら、斑目さんは咲さんの思い出を語り続けます。その年月が自分の一生分ほども重いとでも言いたげな話し振りで。

「……みんなで海行くちょっと前かな、春日部さんと部室で二人っきりになったことがあったんだよね、ちょうどこないだみたいに」
「え、え、え?それはなにかすっごいイベントが」
「ねーよ、ないない!俺は彼女に何も話しかけられなくて、結局挙動不審で気持ち悪がられて泣きながら撤退。……でも」
「でも?」
「その時に感じたんだよ。あ、俺、春日部さんのこと好きなんじゃん、って」

 今の、表情。

 斑目さんの今の顔つきが、全てを物語っていました。
 海に行ったのって、2年の夏です。その前からっていうことは、ほとんどまる3年間。

「それ以来、部室に来るたんびにまず春日部さんの姿探して、卒業してからもなんだかんだ理由つけて部室に顔出してさ」

 斑目さんは、総受けタイプの人間です。これはオタクかどうか、腐女子の趣味がどうとかとは別の話で、彼は人間の性格自体が受動的に出来ているのです。
 自分からは動くことなく、降りかかってくる刺激はうまいこと受け止めて人生を生きてゆくタイプの人間です。そうやって社会や人間関係をコントロールしてゆく人なのです。
 自分の趣味にしか興味を示さず、その他のことは他人事。巻き込まれた時は小器用に脱出して、また普段通り生きてゆく。

473まだメモ@大野(8/13) :2007/01/13(土) 15:14:10 ID:???
 そんな斑目さんがオタク趣味以外で、能動的にアクションを起こした数少ない相手が咲さんでした。

「こないだのことさ、春日部さんから聞いたんでしょ?お別れめいた、ってのは言いすぎデスヨ」

 部室から離れたくなくて就職活動を後回しにして。いよいよ進退きわまったのかと思ったら大学の近所の会社にちゃっかり内定受けて。

「彼女と同じ空気を吸っていられた4年間を、春日部さんに感謝したかっただけ。でも『ありがとう』とか『さようなら』なんて言ったらきっとびっくりされるだろうから、『お疲れさま』ってさ……って、大野さん!?」
「あ、はい?」
「どっ、どうしたの?」

 斑目さんが、驚愕の表情でこちらを見ています。え、と思って、そのあとで自分の頬を流れる温かいものに気付きました。

「……あ、れ?」

 わたしは泣いていました。

「あらら、ごめんなさい……ひくっ」
「ちょっとちょっと、ごめん俺なんかマズいこと言ったかな?あ、えーと、ほらハンカチ」

 慌てて立ち上がり、わたしに近づいてズボンのポケットからハンカチを渡してくれます。

「すみません……斑目さんの話聞いてたら、つい泣けてきて」
「ええ?俺ってそんなに悲しい?」
「いーえー。感動してるんです」
「……は?」
「咲さん、幸せ者だなあって」

474まだメモ@大野(9/13) :2007/01/13(土) 15:16:31 ID:???

 斑目さんの匂いのするハンカチを目に当てながら、なるべくしゃくりあげないように喋ります。だってわたしが泣いたら、斑目さんが困りますから。

「ほら、斑目さんみたいな人に好きになってもらえて。高坂さんとお付き合いしてるのも幸せなんでしょうけど、それに加えて斑目さんがそばに居てくれて」

 顔は笑顔を作れましたが、涙が止まりません。

「大野さん……」
「あーあ、くやしいなあ」
「えっ?」
「わたしが咲さんだったら、斑目さんのことこんなに苦しめないのに。わたしが咲さんだったら高坂さんなんか放っといて、何も言われなくたって斑目さんの心を解ってあげられたかもしれないのに」

 だめだって思っても、表情を留めておけませんでした。斑目さんに見せちゃいけないって思っていた、泣き顔に変わってゆきます。

「ひくっ」

 鳴咽を止めることもできません。おろおろする斑目さんに申し訳ないと思いながら、わたしはふたたび彼に抱きつきました。

「!?」
「まっ……斑目さん……ごめんなさい、ちょっとだけ、肩、貸して、ください」

475まだメモ@大野(10/13) :2007/01/13(土) 15:18:08 ID:???

 彼が何も言わないのは、わたしを思いやってでしょうか。それとも、処理能力がオーバーフローしてるのかもしれません。
 黙ったままわたしを支えてくれる斑目さんに少しだけ甘えることにして、わたしは彼をぎゅっと抱き締めました。

「大野さん……なんか、ごめんな。要するに俺が不甲斐ないから大野さん、泣いちゃったんだろ?」

 腕に力を込めるわたしに応えるように、彼もわたしの背中に両手を回してくれました。ぽんぽんと軽く叩いてくれる手のひらから、ほんのりと温かさが伝わってきます。

「田中といい笹原といい、俺の回りでオタクどもが急に色気づきやがってさ。ぶっちゃけ乗り遅れた感じは抱いてたわけよ、俺も」

 わたしの背中に手を当てながら、話し始めます。

「俺自身もその頃には好きな人がいて、でもその人には大切な人がいて。俺にはその人が幸せであることの方が大事だったから、そうなるように行動したんだ」

 ……『その人が幸せであるように』。わたしもそう思います。わたしは、斑目さんに幸せであって欲しいのです。

「漫画やアニメみたいに、たとえば強引に彼女を奪うとか。男らしく告白して、正々堂々とフラれるとか。どれもこれも俺らしくないし、だいいち彼女が困るって思ったんだ」

 でも、そのやり方を、わたしは勘違いしていたようです。わたしはわたしの経験の中で、好きならそれを相手に伝えるべきだと信じきっていました。でも、斑目さんの方法論は、わたしのものとは違っていたのです。

「だからこないだも、『お疲れさま』ってさ。今はこれが精一杯、ってわけですよ。……大野さん」
「……ハイ」
「俺のこと気に掛けてくれて、ありがとね。俺一人で墓の中まで持ってくつもりだった秘密を喋る羽目になったけど、今はちょっとすっきりしてる」
「わたしも、打ち明けていただいて嬉しかったです。ちゃんと秘密は守りますから」

476まだメモ@大野(11/13) :2007/01/13(土) 15:20:11 ID:???

 いつの間にかわたしの涙は止まっていました。

「頼むぜ、ホントに〜」
「斑目さん、それじゃ、鍵掛けてください」
「へ?カギ?」
「わたしの口が、余計な事を言わないように!」
「え?」

 唇を付き出して、目をつぶります。

「わ!?お、お、大野さん、ちょっとちょっと!」
「は・や・くぅ!」
「いっいやいや待ってよ!大野さんには田中というやつが、それにほら、俺もさ」
「俺も?」
「その……ハジメテは心に決めた人と……」

 あーあ。
 やっぱりダメでした。でもこれは、予想の範囲内です。わたしはすねた表情を作って目を開けました。

「斑目さんのいくじなしー」
「えー?」
「それに斑目さん、心に決めた人って咲さんじゃないですか!それって一生ムリってことですよ?妖精さんになっちゃいますよ?」
「妖精さんとか言うな!あーいやその、ほれ、いつかどこかできっかけがさ」
「ありませんよそんなの!もー、わかりました!」

477まだメモ@大野(12/13) :2007/01/13(土) 15:21:16 ID:???

 わたしは、斑目さんが好きです。

 もちろん田中さんも愛しています。今しがた少しだけ心が揺れましたけど……いさぎよく身を引きましょう。斑目さんの心の中には咲さんが陣取っていますし、事態が変わる公算は万に一つもありません。

 それに……。

 それに、わたしは斑目さんが幸せであることの方が大事です。
 斑目さんたら、今の状況を幸せだと思っているじゃありませんか!これじゃ、わたしにはなにもできませんよね。

「鍵がどうとかはもういいです!その代わり、今日は飲み明かしますから付き合って下さい」
「えええ?マジですか?」
「マジですよ、田中さん今晩はこっち来ないんですから」
「ハイハイ。でも大野さんの酒の相手か、正直体力不安だ」
「斑目さぁん?寝たら言いふらしますからね、さっきのこと」
「ウワそんな縛りアリかよぉ〜」
「ふふ。さ、そのビール空けちゃって下さいよ。次のお店行きますからね」
「なんかハメられた気がする」
「気のせいですって。ほらほら乾杯」
「またかよっ!」

 わたしは構わず、缶ビールを派手に打ち鳴らしました。

 斑目さんの幸せに乾杯……と、胸の内で願いながら。



おわり

478まだメモ@大野(13/13) :2007/01/13(土) 15:22:46 ID:???
【リプレイ後記】

……バッドエンドですたorz

クライマックスで2ショットに持ち込めた上、居酒屋から公園に場面転換した時はシメタと思ったんですけどねえ。原作展開を重視するあまり田中との関係構築に時間を掛けすぎたのかもしれません。
4週間連続のコスプレデートとかこなしてるうちに(このコンボにはまり込むと交際発覚イベントまで斑目が登場しません)ゲーム画面に出てないところで斑目→咲ラヴ度が育ちすぎてしまいましたw

他にも何パターンかやってみたんですが、大野さんシナリオの特徴は二つある様子。

ひとつはムードメーカー的スキルとでも言いましょうか、大野さんがいるだけでその場のキャラクターの親密度が勝手に上乗せされてるみたいです。細かくバイタリティチェックしてなかったんでウソだったらすいません。
原作通りに展開しなくても笹荻がくっついてたり、全然関係ないところでクッチーが恵子と付き合ってるような描写があったりで、基本的にバッドエンドでも誰かしら幸せになるシナリオみたいです。

もうひとつはアメリカ仕込みのハグの威力の凄いこと凄いこと。リプレイでは割愛しましたがこの時の展開、田中もハグで落としてます。それに荻上さん登場直後までならコレを活用して笹原と交際することも可w
まあ攻略対象キャラではないので描写は淡白ですし、この場合荻上さんが大学中退してしまうので笹荻派としては許せない。なおエンディングで、編集者になった笹原の担当作家として漫画家荻上さんが再登場します。
大野さんが田中と付き合わない状態で斑目にハグで流れを持って来れるかもしれません。あーでもあんまり早いと斑目が心開いてくれないしなー。

かたやツルペタ、こなたヒゲハゲデブと属性の重なりが全くないだけに予想通りとでも言うべき困難さです。でもプレイしててけっこうホンワカする!これは中毒性高いですよ。

……問題は斑目なんだよなあ……どうしたらいいんだ実際。
また新展開あったらご報告にまいります。では。

479マロン名無しさん :2007/01/13(土) 20:01:23 ID:???
>まだメモ@大野
何か普通にいい話にまとまりましたね。
特に斑目の総受け体質の解説とか、キス迫る大野さんと拒む斑目とか。
GJです。


480まだメモ@恵子バージョン2 :2007/01/13(土) 22:20:15 ID:???
>まだメモ@大野
一人称形式はけっこう読んでて感情移入しそうになります。
はまりこみそうw 原作を読み込んでますよね。GJでした〜。

以下 恵子バージョン2 間に合うかな スレの容量・・・。
プレイヤー主観スタイル なお、プレイヤーの選択、嗜好、品位人格は
作者とは一切関係ありません。いや、本当に・・・。

481まだメモ@恵子バージョン2 :2007/01/13(土) 22:22:00 ID:???
よーし、これが今話題の『まだメモ』か・・・ 何々?
よってたかってヒロイン斑目を落としましょう?
ムフフ、そうか、複数の主人公を逆に選ぶなんて斬新だな。
どれどれ、邪道だがエロシーンから・・・。あれ? 見れない?
なっなにい? 『このゲームはストーリーを重視している作品です。
グットエンドにならないとピーは見れません。』
ちっ、しょうがない・・・。ええと選択できるキャラはと・・・。

        『春日部 咲 難易度 S or C』

何だ、この難易度 S or Cってのは? 何々?
『このキャラはヒロインの本命中の本命ですが、
        ヒロインのこのキャラの第一印象はとても悪いので
        ストーリーの展開で非常に難易度が高低します』
ひっひでえ・・・。俺には難しいな・・・。別のキャラは、荻上はどうかな?

        『荻上 千佳 難易度 A』
        『序盤はかなり攻撃的な発言しかしません。ツンデレの
ツンツンです。上級者向け。秘密兵器でヒロイン
を失踪させかねません。』


うわ、これも難しい・・・。やっやっぱ俺には大野さんだな! うんうん。

        『大野 加奈子 難易度 B』
        『比較的難易度の低いキャラです。ハゲ好き、レイヤー等の
         嗜好をヒロインが受け止められるかにかかってます。
         しかし選択を誤ると、ダークモードに突入し暴走します。』



482まだメモ@恵子バージョン2 :2007/01/13(土) 22:24:53 ID:???
うっ・・・。初心者の俺にもできるキャラは・・・。恵子? C? 意外だな!! よし・・・これなら。
エロシーンも簡単に・・・ムフフ。
ゲーム、スタート!!

おっ、笹原に金を借りるシーンだな・・・。くっ口悪りー。キタキタ、斑目登場!! この辺は
オリジナルストーリーなんだな・・・。ほうほう斑目に一目ぼれ・・・。よしよし、愛想
良く・・・。なっ!! ギャル系の化粧に斑目ドン引きしてるー。

@ここは本心を明かさず本命を高坂と思わせておく
A積極的にアタック!!
Bここは引いてチャンスを待つ

うーん、第一印象悪そう・・・。これで本当に難易度低いのか?
引いても接点少ないしなー。ここはイケメン好きという原作のシナリオに
沿って進めてチャンスを待つか・・・。
@・・・と。

ぐはー、イベント少くねー。中々二人きりになれないなー。
おっ、海水浴!! ここは斑目に迫るチャンス!!
おお、元カレ登場!!

@高坂に助けを求める
A笹原に助けを求める
B斑目に助けを求める

ははは、ここは決まってるだろ、B・・・と。

ちょっちょっと待てーーーーー。斑目、他人の振りしてんじゃねーーーーー。


483まだメモ@恵子バージョン2 :2007/01/13(土) 22:27:29 ID:???
くっ・・・・。ここでもチャンス逃した・・・。ええと、ああ、試験に落ちた・・・。
恵子・・・不憫な子・・・(涙)。斑目卒業しちゃうしー。合宿は笹荻一本で
無理だこりゃ・・・。
しかしまだチャンスはあるぞ。あの男、卒業しても部室に入り浸りだからな・・・。
昼時を狙えば・・・。やはりいた!! しかも一人だ!

恵子「あれー、斑目さん、また今日もきてたんだー」
斑目「またはないだろう、または。恵子君だって部外者なんだし。」
恵子「あたしは違うよー。れっきとしたげんしけん部員だよ。
   卒業した斑目さんとは違うよー」
斑目「ははっ、違いない。でも高坂は今日は来てないよ。」
恵子「うん・・・。でもいいんだ。斑目さんに会えたから・・・」

よし!! よし!! いいぞ 恵子!! 可愛いぞ(涙) 

斑目「え? またまた!」

@「斑目さん・・・ねーさんの事、好きでしょう?」
A「いやー、お世辞バレバレ?」
B「そんな事、無いって!! 斑目さんに会えて嬉しいよ」

むむ、これは難しい・・・。Aはせっかくのチャンスを照れで逃しそうだし
Cが無難か? いやしかし斑目の性格を考えると・・・ここはリスクを覚悟
で@を選んでみよう!!


484まだメモ@恵子バージョン2 :2007/01/13(土) 22:29:13 ID:???
斑目「え!! いやだなあ!! 」
恵子「バレバレだって。みんな気付いているよ。」
斑目「そっそうか・・・。みんな知ってたのか・・・。」
恵子「せつないよね。好きな人をそばでずっと見てるだけなんて・・・」
斑目「ははっ。・・・恵子君もつらいだろう・・・。高坂の事・・・。」
恵子「あたしは・・・本当は・・・」
斑目「え?」
恵子「ううん」
斑目「俺と同じだね。」

いいぞ!! いいぞ!! 共感できる立場で親近感と好意が急上昇!! 
さあ、恵子、もう少しだ。

恵子「ねーさんはきっと高坂さんと別れられないよ。」
斑目「・・・分かってる。」

@「ねえ、兄貴もめでたくオタップル成立した事だし、あたしらも付き合ってみない?」
A「わたしって・・・ねーさんより魅力無いかな?」
B「ねーさんじゃなくてあたしじゃ駄目かな・・・」

くー、恵子、可愛いぞーー!! お前なら大丈夫だ!! うーん、@は直接的過ぎる
か・・・。Aは慎重すぎるか・・・。ここはBでいこう!!


485まだメモ@恵子バージョン2 :2007/01/13(土) 22:31:44 ID:???
斑目「え?あのその○×△ 恵子君、さっ笹原とそっくりだよねー。
やっぱ兄妹だよねー。」

ギリギリ(怒) こっこのやろう・・・。ここまで言わせて、それしか言えんのか・・・。
恵子のどこが不満だと言うんだ、可愛いじゃねえか、このやろう。
ふっ不憫な・・・(涙)。はっいかん、いかん。

@ああ、もう面倒くさい。押し倒せ。
A泣け
B殴れ

ああ、もう面倒くせー @だーーーーーー

斑目「おわーーー、恵子君?」

おっ、やけくそに選択したら、何かいい感じ。偶然、恵子が下敷きになって、
斑目の手が恵子の胸に・・・。二人が見詰め合って、顔真っ赤にしちゃって・・・。
こりゃ、グットエンドか?やったーーー。カモーン、カモーン、エロシーンwww

  ( ゚∀゚)彡  おっぱい!おっぱい!
  (  ⊂彡
   |   | 
   し ⌒J


486まだメモ@恵子バージョン2 :2007/01/13(土) 22:32:23 ID:???
ガチャ

笹原「まっ斑目さん・・・。俺の妹に何してるんですか・・・。」
咲 「ありゃゃゃゃ。あんたら場所わきまえないとー。ササヤン
   顔面蒼白になっちゃって」
斑目「さっ笹原!! 春日部さん!! これは違うんだ・・・。」
恵子「ちっ、いいとこだったのに。」

斑目 部室出入り禁止
恵子 強制退部
BADEND

(゚Д゚)・・・・・・・・・・・・。
以下、プレイヤーが暴れだしたので、実況はここまでにしたいと思います。
さよなら さよなら 


487まだメモ@恵子バージョン2 :2007/01/13(土) 22:34:45 ID:???
スレの容量間に合った〜 選択肢の数字一部間違ってました
軽くスルーしてください 

488斑目、歩く 1 :2007/01/14(日) 00:09:29 ID:???
9巻読んで、斑目の余りの切なさに泣きました。斑目、切ないよ、斑目。

で、思わず、書きました。初の投下になります。お目汚し、失礼。

53話の補完。会社抜け出して、部室行くまでの斑目さん。

 ●
 
もし俺が「フツー」の奴だったら。
 斑目晴信はふと考えた。足を止めて目を空に泳がせる。手を顎に当てようとしてやめた。わざとらしいポーズに思えたのだ。
 冬は終わり、春も近い。
異常なほどに冷え込んだ空気も今は若干の暖かさと湿気を含んでいる。乾いて軽かった冬の空気を斑目は懐しんだ。空気が肌の表面を舐めているように彼は感じた。
 汗がこめかみから頬を伝って首へと落ちた。肌着の中に入り込んだそれに気づいて彼は顔をしかめる。手で軽くつかんで服を二三度揺さぶった。しかしそうして送り込まれた空気もやはり重たく肌に吸い付いてくる。眉間に皺寄せて彼は天を仰いだ。
 太陽の光は圧倒的だった。
 降り注いでくる光線はアスファルトの上で弾けて四方に跳ねている。
 頭上から降り注ぐ光の雨。粉々に砕けて身体を打つ。その眩しさに文字通り目が眩む。健康的に過ぎる。そう思って再度彼は顔を顰めた。
 悪い酒を飲んだような気分だった。不透明な酩酊感に支配されていくのを彼は感じていた。きらめく光の刃に身が苛まれる。そんな錯覚さえ抱く。あながち錯覚にも思えなかった。
 再び天を見る。そして太陽に向かって舌打ちを漏らした。
 太陽は嫌いだ。

489斑目、歩く 2 :2007/01/14(日) 00:11:19 ID:???

 立ち止まったまま、周囲を見渡した。
 公園を人の群れが泳いでいる。群れはあるいは一人であったが、多くは番いを成していた。
 彼らは手を絡め、あるいは腕を取って歩いている。口に出す声は喜びを含み、目は親愛の情を伝えている。
 一組の男女が横を通り過ぎた。そして彼のことを見た。
 視線を感じたのは一瞬だった。
 彼は通り道に立っていた。女は身を引いて彼を避けた。道の中に立つ彼を胡乱げに眺めて通り過ぎる。それはただの反射であり機械的な反応にすぎない。
 彼が女の進路上にいた、だから避けただけ。
 そこに特殊な意味はない。
 だからそこに「意味」を読み取るのは彼自身だ。視線に自己卑下を重ねて俯いた。アスファルトの向こうに池の水面がある。水面の向こうに見えたのはやはり男女の嬌声だった。
 何がそんなに楽しい。
 僻みだ。自分でもそう思う。しかし黒色の感情は心を浸して犯す。それは今、身を包む陽光の激しさにも似た感情だった。
 もし俺がフツーの奴だったら。
 もう一度考えた。あるいは違う姿もありえたのだろうか、と。
 そして首を振った。
 そんな仮定に何の意味がある。そう思ったのだ。仮定は仮定であり、現実は現実だ。仮定に蓋然性があるのならば思いを巡らせる価値もある。しかし、斑目晴信は明らかに「フツー」ではない。

 ――俺は「オタク」だ。

490斑目、歩く 3 :2007/01/14(日) 00:12:44 ID:???

 自分の姿を省みる。
 おざなりな格好だった。一枚千円のワイシャツ、数百円のネクタイ、セールで買ったスーツにダッフルコートを羽織っただけ。見るものが見れば、どの程度の品物かはすぐにわかるだろう。そう、例えば、春日部咲が見れば。
 頭の中に浮かんだ顔は斑目の心を揺らす。本来ならば、春日部咲は自分のような人間とは触れ合うはずのなかった人間だ。
 数学の時間に習った「ねじれの位置」。
 自分と春日部咲はあの関係だと斑目は思う。決して交わることがない。
 彼女の整った顔立ちを斑目は思い出している。嫌味ではない程度に施された化粧がはっきりとした目鼻立ちを際立てている。黒めがちの瞳を斑目は濡れているようだといつも思う。

――もし俺がフツーの奴だったら。

 詮無き仮定を再び心に思い浮かべた。
 そして可能性を否定する。オタクではなかったとしても自分は随分と冴えない人間だっただろうと思ったのだ。春日部咲の恋人高坂に勝てる見込みは万に一つもない。
 今自分を動かしているのが願望であることを斑目は自覚している。しかし、それは心を灼く願望だった。
 だから彼は足をとめられない。再び大学へと足を動かし始めた。
 目指しているのは、椎応大学サークル棟304号室。現代視覚文化研究会部室。
 そこに「彼女」がいる。
そう思って、彼は足を急がせる。いるかもしれない、会えるかもしれない、それだけで十分なのだ。
 斑目晴信は恋をしている。
 打ち明けるつもりはない。ただ彼女と会うために昼休みに会社を抜け出し、部室へと足を急がせる。
 手元でコンビニの袋が音を立てた。カップルとすれ違う。自分と咲があのように一緒に歩くことはないだろう。斑目は思う。それでも、あの部室でならば、一緒に空気を吸い、一緒に話すことができるのだ。それでいい。

――春日部さんに言わせれば、やっぱオタってキモイねーってところか。

 斑目は苦笑を頬に浮かべた。確かに我ながら随分と気持ち悪いと思ったのだった。その「キモイねー」という彼女の声を聞きたい自分がいたからだ。
 百万分の一の「もし」を心に思いながら、彼は歩を進める。

―もし俺が「フツー」の奴だったら、高坂抜きでも、春日部さんの友達くらいにはなれたのかな。

 そんなことを思っていた。

491マロン名無しさん :2007/01/14(日) 01:21:39 ID:???
hoshu?

492マロン名無しさん :2007/01/14(日) 02:06:37 ID:???
>まだメモ@恵子
これで現視研女子は全員出揃いましたな。
しかし斑目をハッピーエンドにする道は険しいですな。
今までの中では1番いいとこまで行ったのに…

さてこの後はこの面子で別パターンが出てくるか。
それとも「やぶへび」の面々とか中島とかの参戦があるか。
あるいはいっそ男衆も参戦するか。
まだまだこのシリーズ続きそうですな。

>斑目、歩く
シクシクシク…
あっ失礼、あまりにも悲しい斑目に泣いてしまいました。
初めてですか。
いやいやなかなかどうして、いい話ですよ。
もしも俺がオタクじゃなかったら、これ1度は斑目考えたことあると思います。
でもオタクであるが故に春日部さんに出会えた、悲しいけど現実はこうなんですよね。
そんな斑目の自己矛盾の迷宮に泣けました。

493マロン名無しさん :2007/01/14(日) 02:10:09 ID:???
もうじきSS完成するのですが、40レス近くあります。
(1レスあたり25行前後あります)
投下しても大丈夫でしょうか?

494マロン名無しさん :2007/01/14(日) 02:10:37 ID:???
新スレの季節にです

げんしけんSSスレ12
http://comic7.2ch.net/test/read.cgi/csaloon/1168708176/

495マロン名無しさん :2007/01/14(日) 02:13:46 ID:???
えっと、あと容量があと3kbなので、新作は次スレへどぞ〜

496マロン名無しさん :2007/01/14(日) 02:23:48 ID:???
>>493です。
>>495
ご忠告ありがとうございます。
完成次第そうします。
>>494
スレ立て乙です。

497マロン名無しさん :2007/01/14(日) 02:52:56 ID:???
感想ありがとうございます。

>>461
いやはや、覚えていただいたなら恐縮です。
後編は、もう少し内面に突っ込んでいくつもりです。

>>463
>パトの大田巡査
そういえば似てますねwwヤブサキさんはいつもぶっ放してはカトウさんに
なじられるひびです。
スーの台詞は・・・大半はそれっぽく書いてるだけで元ネタはないと思うんです・・・。
でも、昔見たのが自然と出てるかもなのでよく分かりません・・・。
あ、「マダダ・・・」はクワ(ry ←誰だって知ってる

>>465
そう、海賊は彼らなのです。ヤブザキさんとは(一方的な)ライバル関係になっているのです。
海賊vs宇宙警備隊 というのも面白・・・はっ!

では、後編は次スレに投下しておきます。
前編のような投下ミスはしないようにしないと・・・。

498マロン名無しさん :2007/01/14(日) 03:08:02 ID:???
あ、上は第801小隊のものです・・・。

>>まだメモ大野編
うは、大野さん積極的!ほかのストーリーより全然いけそうだっ!
こりゃ大野さんならやってくれるかも・・・。

>>恵子編2
めんどくさがっちゃったwwwww
もうちょっとじんわり進行すれば何とか・・・。
再挑戦期待ww

>>斑目、歩く
あ〜葛藤わかるなぁ・・・。こう一人で色々考えちゃうんだよね。
これがオタクか・・・。泣ける・・・。

499マロン名無しさん :2007/01/14(日) 22:23:54 ID:???
最近の投下の多さ&ほとんど斑目話で胸がはちきれんばかりに嬉しい。
感想が追いつかねエエーー(汗)

>まだメモ大野さん編
いやー、すごい!原作の「田中と付き合ってる」という状況に折り合いをつけつつ、
話が展開していくのがすごく良かった。斑目にガンガンせまる大野さん。
大野さんのせまり具合にタジタジになってるヒロインに笑ってしまいました。
でも、斑目のセリフがあまりに切なくて…ナミダデガメンガミエナイヨ
大野さんはすごいおせっかいですが、相手を思う気持ちをいっぱいに内包してるので嫌味じゃないんですよね。
最後斑目の気持ちが軽くなって、読んでてすごくほっとしました。

>恵子編
うはw恵子編もなかなか一筋縄ではいかないですねwww
プレイヤーも恵子さんっぽいwwwww
しかし、この話もきっと、すごくいい方向に転がる可能性を秘めているので
またがんがって進めて下さいw

>斑目、歩く
初めての投下、お疲れ様です。いきなりクオリテイ高っ!
こうしてもやもやとしたものを吐き出せずにいるのが、読んでてすごく切なくなりました。

>確かに我ながら随分と気持ち悪いと思ったのだった。その「キモイねー」という彼女の声を聞きたい自分がいたからだ。
ここが泣けました。まさしく茨の道だなあ…。

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