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げんしけんSSスレ10
- 1 :マロン名無しさん
:2006/08/14(月) 02:46:29 ID:???
- 「あのーワタクシ、てっきり次スレ立ては自分だと思ってたのデスガ…」
「それはない(笑)」
なくては困ります、高坂君。
そんな訳で、連載終了しても「まだだ、まだ終わらんよ」SSスレ。
遂に到達第10弾。
未成年の方や本スレにてスレ違い?と不安の方も安心してご利用下さい。
荒らし・煽りは完全放置のマターリー進行でおながいします。
本編はもちろん、くじアンSSも受付中。
☆講談社月刊誌アフタヌーンにて好評のうちに連載終了。
☆単行本第1〜7巻好評発売中。8巻は8月下旬発売予定。
☆作中作「くじびきアンバランス」今秋漫画連載決定&アニメ放映決定!
前スレ
げんしけんSSスレ9
http://comic6.2ch.net/test/read.cgi/csaloon/1150517919/
- 2 :マロン名無しさん
:2006/08/14(月) 02:47:59 ID:???
- >>1
禿同
ところで話は変わるけど、ヘリで飛び立って30分、南方の空は真っ赤に燃えていた。
中国・朝鮮連合軍は、既に佐世保市内へ侵攻したらしい。
状況は著しく不利だった。山崎部隊長が怒鳴り声をあげる。
「みんな、生きて帰るぞ!全員で帰ってくるぞ!!」
俺達は互いの頬をぶん殴りあって気合をいれた。
絶対に生きて帰る!!みんなで!!一人も死なせやしない!!
と、貨物室の片隅で座り込んでる今岡2等陸士の姿が目に入った。
手には黒いPSP。その機能美あふれるデザインは、高性能の銃器に通じる美しさだ。
「おい!今岡!!なにボケッと見てんだ!!」今岡はハッと驚き、照れ笑いした。
4.3インチワイドスクリーンには、素朴な田舎娘のあどけない笑顔。
480×272、1,677万色の表現力で、色白い肌が透き通るような鮮やかさだ。
「なんだ?ああ?もうやったのか?弾撃ちこんだのかあ?」
山崎部隊長の下品な冷やかしに、さっきまで武者震いしてた一同は爆笑した。
今岡の顔が真っ赤になる。もう戦闘前の緊張などふっとんで皆で笑い転げる。
「実は・・・」今岡もデレデレと締まりのない顔で自慢をはじめた。
「今度の戦争が終わったら結婚しようて約束したんすよ、えへっ・・・」
オメデトウ!!みんなで今岡のヘルメットをぶん殴った。
「よ〜し、今岡のためにとっとと戦争を終わらせるぞ!!」「よしきたっ!」「おうっ!」
ヘリは山の稜線をこえ降下しはじめた。佐世保市街地は紅蓮の炎に包まれている。
よ〜し、生きて帰るぜ!!みんなで!!持っててよかったPSP!!
- 3 :途中で送っちゃったので追加
:2006/08/14(月) 02:53:12 ID:???
- げんしけん(現代視覚文化研究会)まとめサイト(過去ログや人物紹介はこちらへ)
http://ime.nu/www.zawax.info/~comic/
げんしけんSSスレまとめサイト(このスレのまとめはこちら)
ttp://www7.atwiki.jp/genshikenss/
げんしけんSSアンソロ製作委員会(SSで同人アンソロ本を出そうという企画・参加者募集中!)
ttp://saaaaaaax.web.fc2.com/gssansoro/top.htm
エロ話801話などはこちらで
げんしけん@エロパロ板 その3(21禁)
http://sakura03.bbspink.com/test/read.cgi/eroparo/1144944199/
げんしけん@801板 その4 (21禁)
http://sakura03.bbspink.com/test/read.cgi/801/1127539512/
- 4 :さらに追加
:2006/08/14(月) 02:59:10 ID:???
- 前スレ
げんしけんSSスレ8
http://comic6.2ch.net/test/read.cgi/csaloon/1146761741/
げんしけんSSスレ7
http://comic6.2ch.net/test/read.cgi/csaloon/1145464882/
げんしけんSSスレ6
http://comic6.2ch.net/test/read.cgi/csaloon/1143200874/
げんしけんSSスレ5
http://comic6.2ch.net/test/read.cgi/csaloon/1141591410/
げんしけんSSスレ4
http://comic6.2ch.net/test/read.cgi/csaloon/1139939998/
げんしけんSSスレその3
http://comic6.2ch.net/test/read.cgi/csaloon/1136864438/
げんしけんSSスレその2
http://comic6.2ch.net/test/read.cgi/csaloon/1133609152/
げんしけんSSスレ
http://comic6.2ch.net/test/read.cgi/csaloon/1128831969/
げんしけん本スレ(連載終了により作品名は外されました)
木尾士目総合スレ132
http://comic6.2ch.net/test/read.cgi/comic/1149781675/
げんしけん ネタバレスレ9
http://comic6.2ch.net/test/read.cgi/csaloon/1145498528/
- 5 :「17人いる!」 筆者お詫び
:2006/08/14(月) 03:06:12 ID:???
- 皆々様、どうもご迷惑をお掛けしました。
ムダに長い話書いて、前スレに止め刺しちゃいました。
「17人いる!」の続きを投下します。
- 6 :「17人いる!」 その11
:2006/08/14(月) 03:10:39 ID:???
- 荻上「どしたの?随分疲れてるみたいだけど」
神田「みたいじゃなくて、ほんとに泳ぎ疲れました」
台場「蛇衣子とマリア、メチャメチャ速いんですよ、泳ぐの」
荻上「(意外そうに)へー」
ソフト出身で怪力の巴の力泳はともかく、肥満体の豪田が速いのは意外に思えた。
でもよく考えれば、全身を脂肪というフロートで覆われたその体は浮力の塊だ。
そうなると腕力と脚力(両方ともかなりの怪力だ)の殆どが推進力に使えるのだから、速いのも道理だ。
国松「ほんと速かったですよ、豪田さん。まるでツインテールみたい」
一同「ツインテール?」
日垣「国松さん、今時ツインテールって言うと、女の子の髪型の方だと思われちゃうよ」
荻上「それ以外のツインテールってあるの?」
日垣の説明によると、この場合のツインテールとは「帰ってきたウルトラマン」に登場した怪獣のことだそうだ。
最近新シリーズの「ウルトラマンメビウス」で再登場した際には、水中を高速で泳ぎ回っていたのでこういう例えに使ったのだ。
もともと特撮オタである国松は、特撮オタ特有の言葉を使って周囲をまごつかせることが時折あった。
荻上「それにしても国松さんはともかく、日垣君が何故それ知ってるの?」
日垣「いやー国松さんから勧められて、最近特撮もぼちぼち見てるんで…」
国松「メビウスにはリメイク怪獣が多いんですけど、日垣君元ネタ知らないって言うから、昔の作品のビデオ貸して上げてるんです」
荻上「そうなんだ。ところでみんな、今からどうするの?」
神田「ゴムボート出そうと思います」
浅田「俺と岸野は、みんなの写真撮りますよ」
日垣「えっ?岸野君も?」
岸野「ボートは2台だし、1台に3人乗るには狭いから、お前さんはとりあえず先発でボート漕いでな。俺たちは午後から乗るよ」
- 7 :「17人いる!」 その12
:2006/08/14(月) 03:15:34 ID:???
- こうして浅田と岸野は、デジカメを持って海に向かった。
彼らは海などの水辺での撮影にはデジカメを使用していた。
万が一水をかぶった時の為だ。
(ちなみにデジカメは一応生活防水仕様だが、もろに海にドボンすればアウトだ)
彼らの本来の愛機であるフィルム式カメラは、今ではデジカメよりも高価なのだ。
一方日垣と国松は、ゴムボートを出して空気を入れていた。
その様子を見た神田が台場に囁く。
神田「ねえあの2人って、何かいい感じじゃない?」
最近はヤオイにも進出し始めたものの、基本はノーマルなカップリング中心の神田らしい感想だ。
台場「そうかなあ…確かに仲いいけど、2人ともオタ初心者だからじゃない?(浅田と岸野の方を見て)それよりも私は、あっちの2人の方が怪しいと思うけど」
それに対し、台場は男女の仲には今ひとつピンと来ず、ヤオイの方は妄想全開だった。
そんな様子に苦笑しつつ、荻上会長は海に向かった。
少し歩き出してから、ふと荻上会長は考えた。
「何か大事なことを忘れてるような気がする…」
沖の方に見慣れた人影が見えた。
豪田と巴だ。
こちらを見ながら手を振り、何か叫んでいる。
遠くてよく聞こえないが、多分「荻様〜!」とでも叫んでいるのだろう。
彼女たちの居る辺りは足の着かない深さだ。
荻上会長の泳力では、浮き輪無しでは近付けない。
無視するのも何なので、皇族の人のように控え目に手を振って応えた。
波打ち際の少し後方で、浅田と岸野は泳ぐ2人をデジカメで撮影してた。
浅田「さすがはゴッグ(男子の間で定着した豪田のあだ名)だ。1時間近く泳いでも何ともないぜ」
岸野「それにしても巴さん、もったいないよな。ビキニ着て欲しかったなあ」
浅田「台場さんだって、胸は物足りないけどスタイルいいよ。本来ビキニってのは、ああいう子が着た方が似合うんだぜ」
岸野「胸と言やあ神田さん、意外と巨乳だったよな」
- 8 :「17人いる!」 その13
:2006/08/14(月) 03:19:23 ID:???
- 荻上会長が不意に2人の背後から声をかけた。
「写真係ご苦労様」
浅田「わっ、会長!」
岸野「見回りご苦労さんス!」
女子会員についてあれこれ批評してるのを聞かれたと思ってやや慌ててる2人を見て、クスリと笑う荻上会長。
不意に先ほどまで忘れていた「何か」を思い出した。
荻上「ねえ朽木先輩と斑目先輩知らない?」
浅田「先輩たちなら、あっちの方に行かれましたよ」
浅田が指差したのは、海水浴場の1番端っこの方の桟橋だった。
荻上「あっちの方って、どうなってるの?」
岸野「桟橋の向こうも砂浜みたいですけど、遊泳禁止らしいですよ」
荻上「んなとこで何やってんだか…」
海から戻って来た巴と豪田が口を挟む。
巴「えっシゲさん(斑目の愛称)とクッチー先輩が2人っきりで…」
豪田「前々から怪しいとは思ってたけど」
2人揃って赤面する。
荻上「(顔の前で掌をヒラヒラさせて)怪しくない怪しくない」
彼女のヤオイ妄想にクッチーの入る余地は無かった。
荻上会長は桟橋の方に向かった。
護衛するかのように、浅田、岸野、豪田、巴の4人も付いて行く。
近付くに連れて、向こうから「にょにょにょ〜!」という聞き慣れた絶叫が聞こえてくる。
荻上「何やってんだか…」
桟橋の向こう側も砂浜だった。
だがすぐ沖が深いらしく、遊泳禁止区域になっていた。
だから当然海水浴客はいない。
- 9 :「17人いる!」 その14
:2006/08/14(月) 03:23:14 ID:???
- その砂浜で、クッチーはサッカーボールを蹴っていた。
ちなみに下は海パンだが、上は袖のちぎれたTシャツという格好だ。
大波が来るのを待って、その波に向かってボールをぶつけるように裸足の足で蹴る。
当然ボールは波の壁に押し返される。
そしてシュートの直後、1本足になっているクッチーは波を被ってひっくり返る。
そこで竹刀を持った斑目が砂浜を叩き、檄を飛ばす。
「どうした朽木君!そんなことではブラジルゴールは割れんぞ!」
ちなみに斑目は、海パンにゴム草履のラフなスタイルだ。
外回りの仕事が増えて元々日焼けしてるせいか、今回は以前のように日焼けにはこだわっていないようだ。
その足元には、数個のサッカーボールが転がっていた。
クッチーは急いで立ち上がり、海岸線から5メートルほど離れる。
そして大波の到来に合わせて、海岸線沿いに斑目がボールを蹴り出す。
そのフォームが不思議とさまになっている。
案外少年時代はサッカー経験があるのかも知れない。
あるいは「キャプ翼」に影響されて、1人でリフティングやドリブルの練習をしていた口かも知れない。
スピードは無いが、クッチーの前方5メートルの地点にボールはピタリと止まる。
そこでクッチーは「にょにょにょ〜!」と奇声を上げつつボールに突進する。
クッチーは走るのが遅い。
足を出す角度やリズムが微妙におかしいので、消費したエネルギーに見合う距離や速度が生じない。
案の定、走ってきた勢いの殆どは、ボールの前に着いた時には消えている。
これでは何の為に走り込んで来るのか分からない。
そして大波に向かってシュート。
空手をやっているだけあってキック力はなかなかのもので、意外とそのシュートは速く威力はありそうだ。
だがそれでも、さすがに大波を突き破るまでは行かない。
そしてボールは再び海岸に帰ってくる。
斑目はそれを小まめに拾って集め、またパスを出してやるという流れだ。
荻上会長たち5人は、そんな様子をしばし呆然と眺めた。
- 10 :「17人いる!」 その15
:2006/08/14(月) 03:26:28 ID:???
- 大体何をやってるかは見れば分かるが、それでも荻上会長は2人に近付いて訊いた。
「何やってるんすか、こんなとこで?」
朽木「おお荻チン、見ての通りタイガーショットの特訓だにょー」
荻上「海水浴場でやらないで下さい!」
朽木「何をおっしゃる!荻チンは日本が予選リーグで負けて悔しくないのかにょー?」
荻上「???」
朽木「4年後の南アフリカでは、僕チンが仇を討つにょー!」
どうやらクッチー、すっかりワールドカップ熱にやられたらしい。
走るのが遅く長時間走るスタミナの無いクッチーが考えたワールドカップ対策とは、強力な必殺シュートを身に付ければいいという単純な結論だった。
朽木「僕チンは常に相手ゴール前に待機し、残り全員で守る。これならあまり走らないで済むし、守備は完璧だにょー」
荻上「で、斑目さんまで何故?」
斑目「1年の子たち、出来るだけ自由に遊ばしてやりたいからさあ。俺はどちみち泳げんから、今日は朽木君に付き合うよ」
荻上会長は悪いと思いつつも任せることにした。
荻上「…それじゃあお願いします。お昼になったら戻って下さいね『何で4年生の方が1年生より手間かかるのよ』」
立ち去る荻上会長の背中に、竹刀で地面を叩く音と共に「こら立てクッチー!そんなことではアジア予選すら勝ち抜けんぞ!」という斑目の叫びが聞こえてきた。
どうやら彼もいつの間にかノリノリのようだ。
海でタイガーショットの特訓というのは、男オタの琴線に触れるものがあるらしい。
- 11 :「17人いる!」 その16
:2006/08/14(月) 03:30:08 ID:???
- 4人のところに戻ると、相変わらず呆然としていた。
ただ、巴だけは何か考え込んでいるように見えた。
荻上「さあ戻りましょう」
みんな呆れているだろうなと思い、敢えて何も言わずに戻ろうとする荻上会長。
4人は彼女に続いて歩き出したが、意外な感想を述べた。
岸野「朽木先輩って、凄いっすね」
荻上「えっ?」
岸野「いや普通ああいう特訓って、4年生なら後輩にやらせるでしょう?それを自分でやっちゃうんだからなあ。なかなか出来ることじゃないっすよ」
荻上「いや普通やらないって」
浅田「そうでもないっすよ。うちの高校のOBに、やたらと後輩に特訓やらせる人が居ましたよ」
豪田「特訓って、何の?」
浅田「千本ノックとか、マラソンとか…」
岸野「あと毛布に包まって階段を転がり落ちる特訓もあったな」
豪田「…あんたらって確か写真部だったよね?」
浅田「そういう写真部だったんだよ」
岸野「まあ、あれはあれで楽しかったけど」
豪田・荻上「…(2人の意外な体育会系体質に声も出ない)」
突如、巴がクッチーたちの居た方に戻り始める。
荻上「どしたの?」
巴「ちょっと気になることがあるんで…」
豪田「何すんのよ?」
巴「すぐ戻るから、先戻ってて」
走り出す巴。
その後巴は、昼飯の直前まで戻らなかった。
- 12 :「17人いる!」 その17
:2006/08/14(月) 03:33:24 ID:???
- 昼飯の時間になり、再び全員集合する。
野外調理用の大型コンロを3台並べ、田中・大野コンビが次々と肉や野菜を焼き、1年生たちは恐縮しつつも次々とたいらげる。
神田「すいません、何か食事係にしちゃって。代わりましょうか?」
田中「いいよいいよ、俺らも焼きながら適当に食ってるから」
大野「そうですよ、さあみんな、遠慮しないで食べてね。あっ朽木君、その海老まだ早いから置いといて。肉先に食べちゃって」
朽木「イエッサー!」
田中「伊藤君、魚ばっかり食わないで野菜も食べて」
伊藤「はいニャー」
どうやら鍋奉行ならぬバーベキュー奉行を楽しんでいるようだ。
食事が終わると、デザート代わりとばかりにスイカ割りを始める。
わざとやっているのか、バットを持って海に入っていく者や、みんなの居る方にやって来る者などの爆笑シーンも交えて、次々とスイカが割られていく。
ただ最後の1個を、巴が怪力で木っ端微塵にしてしまい、しかも金属バットをくの字に曲げてしまった時だけは、一同ドン引きした。
さらに彼女のお詫びのひと言が、追い討ちをかけて場の空気を凍り付かせた。
「ごめん、手加減したんだけど…」
全力でフルスイングでやってたら、どうなったことやら…
午後になると、一部例外を除いて各自ポジション総入れ替え状態になった。
さすがに泳ぎ疲れたか、巴と豪田は日光浴を始める。
クッチーは再び必殺シュートを身に付けるべく、桟橋の向こうへ特訓に出掛ける。
さすがにクッチーの相手に疲れたらしく、斑目は助手役を伊藤と有吉に任せる。
- 13 :「17人いる!」 その18
:2006/08/14(月) 03:36:58 ID:???
- 荻上「あの2人ですか?大丈夫かなあ」
斑目「2人居ればボール拾いとパスを分業出来るから、さほど疲れないと思うよ。それにさあ…」
荻上「それに?」
斑目「午前中に巴さんが朽木君の走るフォームいじってたから、だいぶマシな走り方になったよ。だからタイガーショットとまでは行かないまでも、けっこう満足出来るシュートが打てるんじゃないかな」
荻上「巴さんが?」
斑目「凄かったよ巴さん。仮にも先輩相手にビシビシしごくんだもんな」
荻上「それを我慢出来たんなら、朽木先輩も丸くなったもんですね」
斑目「彼は割とマゾっ気あるから、女性に命令されるの好きなんだよ。巴さんのことも『監督』とか呼んで敬語使ってたし」
荻上「…仮にも4年生が1年生相手に監督って」
斑目「もっとも最後の方はトモカンって呼んでたけどね」
荻上「トモカン?」
斑目「巴監督の略らしいよ」
荻上「相変わらず、人を勝手な愛称で呼ぶのが好きな人だなあ」
呆れる荻上会長を背に、斑目は浅田と岸野のデジカメを握って歩き出す。
写真係2人は、午後からはボートで沖に出るのだ。
2人と一緒に乗るのは恵子と沢田だ。
ちなみに太陽光線に弱い沢田は、麦藁帽子に加えてサングラス装着という重装備だ。
台場、神田、日垣、国松はビーチバレーに興じる。
大野さんと田中は、また今年も砂の城を作っている。
どうやら「ハウルの動く城」らしい。
呆れるほど細かく、よくもまあ砂でここまで作れるものだと見る者を感心させる。
- 14 :「17人いる!」 その19
:2006/08/14(月) 03:40:32 ID:???
- そんな様子をボンヤリと見ていた荻上会長に気を使ったのか、ビーチバレー組はひと区切り付けて彼女を泳ぎに誘った。
神田「会長、せっかく来たんだから少し泳ぎませんか?」
台場「そうですよ荻様。失礼ですが、ひょっとして泳げないんですか?」
荻上「泳げないことはないけど、私肌弱いから日焼けが…」
国松「曇ってきたから今ならそんなに焼けないですよ」
荻上「それに私、あんまし遠くまでは泳げないし…」
日垣「みんなも付いてるし、浅瀬で浮き輪持って行けば大丈夫ですよ。」
何時の間にか起きた豪田と巴が突進して来た。
豪田・巴「荻様〜私も参ります〜!」
荻上「ちょっ!ちょっと待…」
まるで捕獲した宇宙人を連行するように、荻上会長の腕を持って海に向かう巴と豪田。
日垣「おーいちょっと、浮き輪浮き輪!(浮き輪を持って追う)」
あとの3人も追おうとするが、荷物番に想定していた2人が行ってしまったので迷う。
3人の背後から不意に声がかかる。
斑目「行っといでよ」
驚く3人。
神田「シゲさん!」
台場「いつ戻られたんです?」
斑目「今さっきだよ」
どうも現視研というところは、長く居座ると気配を消す術を自然に覚えるらしい。
斑目「そんなことより行っといでよ。荷物は俺が見てるからさ」
天然ボケの気のある国松は、素直に好意に甘えた。
国松「ありがとう、シゲさん!」
神田・台場「すいません、お願いします」
2人もそれに続く。
- 15 :「17人いる!」 その20
:2006/08/14(月) 03:44:50 ID:???
- そんな調子で、泳ぐ予定の無かった荻上会長も少しだけ泳いだ。
日垣の言う通り、彼女が小柄であまり泳ぎが得意でないことを考慮して、浮き輪装着の上であまり沖まで行かずに浅瀬で泳いだ。
幸い午後はずっと曇っていたので、太陽光線をあまり気にすることなく海水浴を楽しめた。
沖に出てたボート組も合流し、終盤にはかなり賑やかな状況になった。
波打ち際では砂の城作りを終えた田中と大野さんが、元写真部コンビのデジカメを借りてその様子を撮影していた。
(田中は自分のカメラは持って来てたが、殆ど大野さんの撮影に使い切ってしまった)
みんなの楽しそうな笑顔を見て、荻上会長は内心ひと安心していた。
『夏コミのネタ論争の時は、ちょっと険悪な空気になったけど、みんな基本的には仲良しだから何とかなりそうね』
そろそろ帰りの時間が近付いてきた頃、桟橋の向こうから「にょにょにょ〜!!!」という絶叫が轟いた。
先程までに比べ、格段に声が大きい。
絶叫に続いて、何かを吹き飛ばすような音と、何かが風を切る音が轟く。
次の瞬間、桟橋の先から沖に向かって、何かが高速で飛んで行くのが見えた。
その「何か」は沖に浮ぶ漁船の甲板に飛び込み、微かにガラスの割れる音が響いた。
どうやら窓ガラスを割ったらしい。
荻上会長が双眼鏡を向けてみると、船室からサッカーボールを抱えた漁師さんが出て来て、周囲を見渡して首をかしげていた。
急いで桟橋の向こうに向かう現視研一同。
途中で青い顔をした有吉と伊藤に会った。
有吉「あっ会長!」
伊藤「たいへんですニャー」
荻上「何があったの?」
- 16 :「17人いる!」 その21
:2006/08/14(月) 03:48:33 ID:???
- 桟橋の向こうに着くと、クッチーが寝っ転がっていた。
彼の足元の砂浜には、長さ30センチほどの深い溝が掘られていた。
荻上「朽木先輩、何があったんですか?」
朽木「おう荻チン、遂に必殺シュートが完成したにょー」
荻上「タイガーショットをですか?」
朽木「いやそれが、僕チンのサッカーセンスが凄過ぎて、一歩先を行ってしまったにょー」
荻上「どういうことです?」
有吉「朽木先輩、最後のシュート打つ時に軸足がカックンしちゃって…」
伊藤「それで思い切り砂浜蹴っちゃいましたニャー」
朽木「で、蹴り足が止まんなくてそのままシュートしたもんで、タイガーショットを完成させる予定が、雷獣シュートになっちゃったにょー」
こける一同。
朽木「でもねえ荻チン、やっぱり雷獣シュートが足首への負担が大きいってのは本当だったにょー。何かさっきから足首痛くて、上手く立てないにょー」
荻上「足首?(クッチーの足首を見て)ひへっ?」
青ざめる一同。
クッチーの右足は、爪先が後ろを向き、踵が前を向いていた。
朽木「やっぱちょっと挫いたかな?」
荻上「それどころじゃないです!思いっきり脱臼してます!」
朽木「にょ〜!!!」
結局クッチーは、巴に怪力で足首の関節をはめてもらった。
幸い靭帯には損傷は無かったので、テーピングでガチガチに固めることで何とか歩けた。
つくづくタフな男である。
- 17 :「17人いる!」 おまけ
:2006/08/14(月) 03:52:42 ID:???
- 帰りの車の内の1台の車中にて。
運転手は沢田、助手席には恵子。
そして後部座席には巴、荻上会長、クッチーという面子だ。
恵子「いやー今日は楽しかったね、姉さん」
荻上「まあ最後のあれが無ければね」
朽木「いやー面目ないにょー」
沢田「クッチー先輩、大丈夫ですか?」
巴「靭帯はやってないみたいだから大丈夫よ」
朽木「いやートモカンのおかげで助かったにょー」
一同「トモカン?」
朽木「でももう雷獣シュートは、やめた方がよさそうですなあ」
荻上「当たり前です!」
恵子「まあまあ姉さん、それより夏コミ済んだらまた合宿やんねえ?」
沢田「あの去年軽井沢行ったってやつですか?」
巴「いいですねえ。あと冬もスキーなんかどうです?」
恵子「ほんとに体育会系になって来たな、現視研。どう、姉さん?」
荻上「夏は恵子さんに任せます。冬の方は冬コミが当選するかによるけど、多分正月明けてからですね」
朽木「雪山で修行ですか。よし、今度はイーグルショットの特訓ですにょー」
一同「全然懲りてねえな…」
- 18 :「17人いる!」 後書き
:2006/08/14(月) 04:03:40 ID:???
- 以上です。
昔から「オールスター映画に名作無し」ってなことを、いろんな人が言ってます。
これはつまり、何人かのスターが共演して、それぞれに目立つ見せ場を作ると、物語進行上のメリハリが作りにくくなるからです。
だからいわゆるオールスター映画で名作と言われる作品では、もったいないような名優がチョイ役を演ってたりします。
前置きが長くなりました。
夏の日のありふれた日常を書く積りが、キャラそれぞれにそれなりの見せ場作ろうと欲張った結果、やたらダラダラ長いだけで面白くも無い話になっちゃいました。
おまけにスレの止めまで刺しちゃって、皆様方にもご迷惑をお掛けしました。
どうもすいません。
- 19 :マロン名無しさん
:2006/08/14(月) 04:18:26 ID:???
- ゥフフフ
- 20 :マロン名無しさん
:2006/08/14(月) 09:59:55 ID:???
- やたらめったらリンク貼り付けてんの誰だよ
- 21 :マロン名無しさん
:2006/08/14(月) 10:42:23 ID:???
- とりあえず>>1乙!
祭明けに大台突入なんて美しいじゃないか。次は単行本発売日に11スレ突入を(ォ
>>18
水着キター。あなたのシリーズは読み応えがあっていい(はぐれクッチーもあなたですか?)。
多人数ドラマは俺も苦手です。しかし17人?SS最多じゃないのか?
なんか謙遜されてますがなかなかどうして。新入会員も含めてみんな楽しそうでした。クッチーも必殺技開発するし後輩が育っていて安泰くさい。恵子も知らんうちに現視研に溶け込んでw そして斑目……初代会長化しとる……激ヤバ。
このぐらいの大所帯だとピックアップの仕方でいかようにもドラマ動かせるから楽しいかも知れません。夏合宿に向けてwktkしているとしようか。
ついでに言えばスレのとどめなんて誰かが刺すもんです。気にしなさんな。
- 22 :マロン名無しさん
:2006/08/14(月) 22:50:18 ID:???
- まずは>>1乙です。よっしゃキター!スレ番フタケタ!!
むしろ「17人いる」の人GJですww
>前スレの「かなしいライオン」
「かなしいライオン」、この童話って実際にあるんですか?この話自体がよくできてますね。
罪は消せないけれど、だからってそれをずっと引きずってはいけないということを、
笹原が荻上さんに説くところが良かった。
>……そうさ、物理法則だって塗り替えてみせる。
ササヤンが少年漫画の主人公になったよーだwwwカッコヨスwww
>「17人いる」!!
面白かったですよw作者の方の中で、独自のげんしけんの話が息づいてるのを感じました。
…むしろ1年に食われてる、頑張れ元メンバーwww
- 23 :マロン名無しさん
:2006/08/14(月) 23:22:11 ID:???
- シンスレ!シンスレ!
>>17人の人
あなたには、私が言われてとても嬉しかった言葉を捧げます。
カオスwww
…とりあえず、某所でSS書いてたら勝手にこちらの方々が登場したので、
それのこちらバージョンをお伝えします。
ちなみに、単品でも楽しめます。
小品なので、2レスくらい。
- 24 :げんしけんオープンキャンパス1/4
:2006/08/14(月) 23:23:56 ID:???
- 就職活動といえど、毎日あるわけではない。
つまりは毎日スーツを着なくても良いわけであって、
今日は笹ヤンにとってはそんな日であった。
「あー、暑いっすねえ…」
「朝のニュースでは最高気温35度だとさ」
相手はスーツを着ているが、これは社会人なのでむしろ当然。
正直、社会人がなぜ大学に居るのかの方が問題なのだが、
まあそこは流せ。
…流してあげよう。
「前期は結構深夜アニメ、豊作だったな」
「ええ、まさかあの漫画があそこまで映像として再現できるとは思っていませんでしたよ」
「『兜蟲氏』…か。悪い目の付け所ではないが、まだオタクとしては覚悟が足りんな」
「ええー、そうですか〜?結構俺、ああ言うのが好きなんですよ」
「おまえはどうせ『工学機動隊SWAT』とかが好きなクチだろう」
「ええ、まあ」
「そこが足りんと言うのだ。オタクたるもの、萌えを意識せずしてどうする!」
「ええ!でも、俺結構、アレの中ではマチコマ萌え〜って感じですが」
「うむ、動作に声もあいまって、確かにマチコマは萌える。だが、オタクはもう少し踏み込むべきだ」
「幼女…とかですか?外見だけで言ったら、そもそもマチコマ萌えは成立しませんよ」
「まあそれだけではないがな。萌えは正直難しい」
「んー…でもあんまりあからさまに『萌え』に特化してると、逆に『引き』ませんか?」
「ふーむ、確かに。…俺を論破するとは、お前も成長したもんだな」
「ええ…おかげさまで」
…成長しているというより、むしろダメ曲線をスパイラル落下しているように思うのは自分だけだろうか。
- 25 :げんしけんオープンキャンパス2/4
:2006/08/14(月) 23:24:57 ID:???
「暑いな」
「…ええ。ここまで来ると、もう『熱い』っすね」
「今度アキバで扇風機でも買うか」
「そうしましょう」
すると、ドアの外から人の気配がしてきた。
「…から、…なさい」
「…って、…待てよ」
どうやら、声の調子からして男女の高校生らしい。
…待ち人来たらず…だな、斑目よ。まあ今日は雨降りでもいつの日にか。
「誰か来ましたね」
「ああ」
すると、そのドアが「ばーん」という効果音付きで…のような気がして開いた。
ショートカットの美少女と、そのお供。
笹ヤンの第一印象としてはこんなところだった。
ただしショートカットの方の雰囲気に、なんとなく荻上を思い出したのは、他には言えない秘密だ。
しかし、そのショートカットの女の子(以下ショートと略す)は引いていた。
そりゃそうだろう。これだけアニメのポスターやら販促物やらフィギュアが満ち溢れていたら、
普通の人間は引く。…つーか入り口のポスターは見なかったのだろうか。
- 26 :げんしけんオープンキャンパス3/4
:2006/08/14(月) 23:26:07 ID:???
「お、見学か?」
それを察したのかそうでないのか、斑目は軽〜く、フレンドリーに声をかけた。
やはり斑目はこの4年間で、相当に進化している様だ。
「い、いえ…何ていうか…」
しかしながら、その心遣いが届くはずも無く、ショートは引きまくっていた。
あたかも「やわらか○車」の様に。退却開始だ。
すると、そのお供が、意外にも男らしく、前に出て聞いてきた。
「ここって何をしてるところなんですか?」
…案外このカップルの主導権を握っているのは、こっちの方なのかもしれない。
そう笹ヤンは思った。コーサカと咲を見てきた経験則もあるのかもしれないが。
さっきは気が付かなかったが、胸に「見学章」とデカデカと書いてある。
そういえば、今この学校はオープンキャンパスの日だ。
なるほど、で見学に来たというわけか。
ならば先輩としての威厳を見せろ、我らが笹ヤン!
「えーと…何ていうのかな…オタク?の集まるところだよ」
…ダメじゃん。
「そ、そうですか…で、では失礼します」
まだ呆然としているショートの手を引っ張ると、お供はドアを開けて、連れて行った。
ラブラブだな。今のこの二人には目の毒だぞ。
…まあ笹ヤンはこの後直ぐ報われるんだがな。
- 27 :げんしけんオープンキャンパス4/4
:2006/08/14(月) 23:27:36 ID:???
「いやー…」
「なんか、『飛び出せ青春』って感じでしたね…」
「…やっぱ、もう少し掃除しとくか?」
「でも、『お盆の一大イベント』が終わったら、また元の木阿弥ですよ」
「…そうだな」
「…ですね」
…ジーワジーワ…
蝉の声が外から響く。
そして強くなった照り返しがやたら明るく部屋の中の『それ』を映し出す。
「じゃあ、俺そろそろ会社行くわ。就職活動、頑張れな」
「ええ、それじゃあ、また」
「うぃ」
それにしても、今日は荻上さん来ないのかなあ…そう思う笹ヤンの午後であった。
終わり。
- 28 :マロン名無しさん
:2006/08/14(月) 23:28:12 ID:???
- すいません、数勘定間違えたw
- 29 :マロン名無しさん
:2006/08/15(火) 02:28:34 ID:???
- 新スレだー。二桁めバンジャーイ∩(・ω・)∩
とりあえず短い時間で読めたのだけ感想をば。
>>かなしいライオン
冒頭の童話がかなり好みなんですが、自作っすか?
些細なことで涙してしまう荻上をはげます笹原っていうパターンは
この二人の基本的な関係って感じがしていいですね
>物理法則だって塗り替えて
ここ、かなりグッときました。
ヘタレを自称していた笹原がここまで変わるとは。
>>げんしけんオープンキャンパス
斑目と笹原の二人が世間話をしているだけで満足ですよ。
こういう日常を切り取っている作品は大好きです。
高校生の目からは、スーツ姿でオタク部屋にたむろするメガネの人はさぞかし異様に写ったんだろうなぁ……w
- 30 :マロン名無しさん
:2006/08/15(火) 02:52:06 ID:???
- >げんしけんオープンキャンパス
いいですねえ〜日常いいですねえ〜。
ていうかもう、斑目が出てきたらもう!
こういう何気ない日常話でSSスレ、まだだ、まだ終わらんよ!!
- 31 :ライオンの人
:2006/08/15(火) 08:31:09 ID:???
- >>1には乙とか言っときながら生涯初立てスレが役目を終えるのは寂しいもんがありますな。いやいや我々は未来に向かって進まねば。
9スレは個人的に永久保存、っと。
>>22
>>29
童話ウケててうれしい。こんなおあつらえ向きの話が一般書店にあるはずもなく、自作でございます。
オギーのトラウマに関しては俺自身がこのように、つまり「自ら傷を克服する」のではなく「自分の生き方を受容してくれる人物に出会う」というふうに解決しているのだと解釈しております。
笹原にはそのぶん課題解決能力が期待されるところでありますな。オギーに襲い掛かる艱難辛苦を笹原が乗り越えさせてゆく。なんかICO(ゲームね)思い出した。
>>げんしけんオープンキャンパス
『天使たちの午後』を思わせるまったりと気軽に楽しめるお話で気分いい。オープンキャンパス、仕事がらみでたまに立ち会うけど高校生と大学生はかくも違うのだなあ、と昔を懐かしんだりします。
アレかつまりショートとお供が主役のSSをどっかで書いたってことだな?面白そうだ。縁があったらどこかで出会えるかな。
- 32 :マロン名無しさん
:2006/08/15(火) 22:38:10 ID:???
- なぁ、このスレの住人でSSアンソロ本買った椰子どのくらいいる?
- 33 :マロン名無しさん
:2006/08/17(木) 23:50:27 ID:???
- >>17人いる!
久々の続編、面白かったです。夢が広がりますね。
事前の解説も良かったです。前回、元ネタわからないのも有りましたので。
>>げんしけんオープンキャンパス
ショートの子とお供の男子の二人組みの元ネタも気になりますね…。
待ち人来たらずの二人の日常として、しみじみおもしろかったです。
>>32
僕はアンソロ参加なので…そしてコミケ不参加なので買ってません。
ここでは、ほぼ「住民=感想の書き手≒SSの書き手」っぽい感じ
なので、SS書いててアンソロ不参加で、コミケには行ったよ…
って人は少なそうですね。
- 34 :俺も斑目に放浪させてみましたw
:2006/08/20(日) 16:54:09 ID:???
- こんちゃ。
みなさん祭りの余韻に浸っているのか次作が待ち焦がれる今日この頃であります。
前スレにあった『斑目放浪記名古屋編』、大変に琴線を刺激されたのでちょっくら人のふんどしで相撲をとってみた。
この作者氏の行動範囲は日本の西側のようなので、俺の唯一住んでたことのある地方都市・札幌へ、斑目を行かせてみました。今回もパートナーはクッチー。もうそれだけで斑目がかわいそうなのが明らかだがw
前振りはこんなもんで。言い訳はあとがきで書きます(言い訳すんのかw)
『斑目放浪記札幌編』、本文14レス+おまけ1レス。それでは参る〜。
- 35 :『斑目放浪記札幌編(1/14)』
:2006/08/20(日) 16:55:21 ID:???
- 7月も後半にさしかかったある週末の晩、斑目晴信は現視研のドアを施錠しようとしているところだった。本来部室の鍵を持っていてはいけない身分だったが、まあこういうことはよくあることだ。
昼間に食事をとりに部室に来て、夜も何をするでもなくしばらく腰を落ち着けてから、一人家に帰る生活。昼間は現メンバーの荻上千佳と世間話をしたが、今の時間は誰にも会うことなく夕焼けを眺めることとなってしまった。
「はー、こういう日が続くと我ながらナニやってんだって気になるわ。なんかこう、どっか旅行でも行きたいねー、できればタダで。ははは」
ぶつぶつ独り言を言いながら鍵をかける。ボーナス時期は一般家庭からの修繕依頼が増え、忙しい日が多い。彼も営業課からの膨大な伝票整理に追われ、つい柄にもないセリフが口をついたと言ったところだった。
が、運命の女神はけっこうこういう言葉を聞いているものだ。
暗くなった廊下の向こうからバタバタとあわただしい足音が聞こえてきた。何事かとそちらを見た斑目の目に入ってきたのは……なにやら決死の形相の朽木学だった。
「斑目しぇんぱ〜い!会いたかったにょー!」
言うと同時に見惚れるような大ジャンプ。美しい弧を描いて彼めがけて跳んでくるのを、斑目は華麗にスルーした。廊下に長いブレーキ痕を残し、朽木は顔で着地する。
「朽木君……どうしたの一体」
「その前になぜボクチンの思いの全てを込めた抱擁を避けるのでしゅか!」
「あたりまえじゃあんなもん。で、どーしたんだ」
「そうなんですよ聞いてくだしゃい斑目先輩。そしてボクチンを助けてください」
「助けるかどうかはともかくまず内容を話せ、そんなら」
- 36 :『斑目放浪記札幌編(2/14)』
:2006/08/20(日) 16:56:51 ID:???
- 「実はですね。親戚の叔父さんに就職の世話を頼んだんですが……」
彼の話によると、こうだった。受ける会社受ける会社ことごとく不採用となっている朽木は、母方の叔父に就職の斡旋を依頼した。叔父からはもちろん楽な道筋は示されなかったが、少なくとも面接から入ることだけはできると知人を通じて会社に口を聞いてくれたそうだ。
「なんだ、よかったじゃない。エントリーシートパスできるだけで相当楽だろ?」
「そりはそうにゃんですが……会社が身の丈を超えてるのですよ」
朽木は携帯電話を取り出し、叔父から来たというメールを見せた。
「……おー。すずらん銀行にハマナス乳業にエア・ディー?うわ、超大手ばっかりじゃん。……あれ、しかも3社とも明日?」
「しょうなんでしゅ。クッチーいくら物怖じしない性格とは言っても、こんな恐ろしい企業の面接を1日に3社もブッキングされたら足の震えがおさまらないのです」
「いいじゃねえか。これも経験だ、どーんと当たって砕けて来い」
「斑目しゃんはカンタンにおっしゃいますがね。親戚に紹介されたとなればいつもみたいに入室即不採用コースとは行かないわけで。せめて叔父さんの人格を守るだけの印象を残さないとならないにょ」
「キミいつもは一体どういう……」
「そこで斑目しぇんぱいに、ゼヒ付き添いをお願いできないかと」
「はあっ?付き添い?」
「別に会社の中までついて来て欲しいとは言わないにょですよ。せめて尊敬する斑目しぇんぱいが近くで見守ってくれていると思えれば、ボクチンの空気読みスキルも上乗せされて、採否はともかくきっちり挨拶ぐらいできると思うですにょ」
「小学生かね、きみは」
「後生ですにゃ斑目しぇんぱい!この不肖の後輩クッチーを助けると思って、明日一日ボクチンに預けてもらえないかにょ?」
- 37 :『斑目放浪記札幌編(3/14)』
:2006/08/20(日) 16:57:51 ID:???
- とはいえ朽木の切迫感は解らなくもない。斑目自身も大手の面接を前に動悸がおさまらなかった記憶がある。それに実際明日の日曜日にはすることもなく、秋葉原あたりを流そうにも夏コミ前の追いこみ時期のため、同人誌ショップにめぼしい品物があるとも思えなかった。
「ま、まあ明日は休みだし、特に予定も入ってないからな、近所の喫茶店で時間つぶすくらいでいいんなら」
朽木の瞳が輝く。
「斑目しぇんぷぁあい!」
再び全身全霊の抱擁が迫ってくるのを間一髪で避ける。ピザ生地をシンバルにたたきつけるような音とともに、朽木の顔全体が現視研の鉄扉に貼りついた。
「だから襲いかかるなって!」
「……斑目しぇんぱい、そんなに身のこなし良かったでしたかのう?」
「人間、身に危険が迫ったときはいかなる動きでも可能なのだよ」
「まあいいですにょ。斑目しぇんぱい恩に着ます。叔父さんにお願いしてあるので交通費と食事代や諸経費は全部こっち持ちでOKっすよ」
「おお、ラッキー」
「ではボクチンはこれから就職課に寄って面接先の下調べをしてくるでアリマス。しぇんぱいは明日の朝7時半に駅の改札で集合っちゅうことで。では失礼しますにょ〜」
脱兎の如く走り去る朽木の背中を見送る。
「7時半?面接3件も掛け持ちすると大変だなあ」
まあメシも出るそうだし、話のタネにはなるか。そう呑気に思う斑目だった。
- 38 :『斑目放浪記札幌編(4/14)』
:2006/08/20(日) 16:58:50 ID:???
- ****
翌朝、斑目が駅の改札に着くと、朽木はすでに緊張の面持ちで彼を待っていた。リクルートスーツを着ているが、フレッシュな感じや落ち着いた印象は微塵もない。
「しぇんぱい!しぇんぱいなら来てくれると信じてたにょ!」
「すっぽかしたら呪い殺しそうな顔してたもん、朽木君。今回はタダメシにもありつけるし、大手企業の門構えくらい眺めても楽しいだろ」
「なんにせよありがたいでゴザイマス。さあ、まずは空港ですぞ」
斑目の登場に勇気づけられたと見え、颯爽と改札口へ歩いてゆく。斑目もあわてて後を追った。
「あ、エア・ディーからだっけ。しかし今の就職活動は日曜日も面接かー」
「今年は去年に引き続きけっこうな売り手市場なのです。企業側も積極的に動いてるし、おかげでボクチンみたいなのがもぐりこむチャンスもあるというわけで」
「ふーん。なんでキミはその売り手市場でこんなに苦労してるんだ?」
毒にも薬にもならない話をしながら歩いてゆく。
****
……そして3時間後、『機内シートベルト着用』のランプが消えた。同時に機長からのアナウンスが流れる。
『ただいまシートベルト着用のサインを解除いたしましたが、安全のためご着席の間はシートベルトをお締めになりますようお願いいたします』
「……な……」
『本機ADO709便は順調に飛行を続けております。新千歳空港への到着は11時35分の予定となって……』
「なぜ俺はこんな所にいるーっ!!」
「斑目しぇんぱい、声が大きいですにょ」
ジャンボジェット機の広い機内は、乗客でいっぱいだった。今週から全国的に夏休みなのだ、家族連れがたくさん乗っている。朽木はたった今配られたお茶とお菓子をほおばりながら斑目をたしなめる。
「なんでお前そんなに落ち着いてるんだ!俺は北海道まで行くなんて聞いてねえぞ?」
「あれ?言ってませんでしたか?まあでも全部札幌本社の会社じゃないっすか、斑目しぇんぱいならご了解済だろうと」
「東京採用ぐらいにしか思ってませんでしたともよ、ああ!」
- 39 :『斑目放浪記札幌編(5/14)』
:2006/08/20(日) 17:01:29 ID:???
- 1社目の面接が航空会社なのだと油断していたのがよくなかった。
空港でチェックインしたときにあれっと思ったのだが、朽木に「ちょっと手続きしてきますにょ」「連絡取るんでここで待っててくださいにょ」などとはぐらかされ、気づいたときには二人で搭乗口に並んでいたのだった。
面接地が全て札幌だと聞かされたときにはすでに機内で、朽木の情けない期待顔とこのハイシーズンにチケットを出してもらっている負い目も手伝い、斑目は結局同行に応じてしまった。すでに7回ほど繰り返されている先ほどの叫びが、彼の精一杯の抵抗だった。
「なあ、この『拉致って飛行機でGO』ってシチュエーション、きみから借りたDVDで見たような気がするぞ?まさか向こうの空港に降り立った途端、サイコロ振って全国飛び回らされるようなことにならんだろうな?」
「ご希望とあらばそういうパターンもご用意してるでしゅが」
朽木が鞄の中の厚紙のボードを見せる。『深夜バス』とか『謎のまち・臼杵』とかいう文字が見えた。
「でも今回はボクチンの面接が最優先ですにょ」
「ならなぜそんなフリップを持って来るんだ!ああまったく、こんなことならちゃんと準備してくりゃよかった。カメラとか」
「持ってきてマスよ?」
「あっちのガイドブックぐらい読んどきたかったし」
「さっき売店で買ったにょ。どぞ」
「……きみ何しに北海道行くの?朽木君」
「言ったじゃないスか。大企業の面接ですがな」
「そうは見えんぞぉっ!」
「しぇんぱい声が大きいですって。回りに迷惑じゃないっしゅか」
ぶつくさ言い続ける斑目と必要以上にリラックスしている朽木を乗せ、飛行機は一路北の大地へ飛んで行った。
- 40 :『斑目放浪記札幌編(6/14)』
:2006/08/20(日) 17:02:49 ID:???
- ****
二人が札幌駅に到着したのは12時半を回った頃だった。駅を出て、大通公園まで歩きながら話す。
「おー。北海道だ。俺生まれて初めてだよ」
「ボクチンもでアリマス。空港からほとんど外に出なかったですが、夏だっつうのにサワヤカな陽気ですな」
「ああ、噂には聞いてたが日影に入ると涼しいくらいだな。朽木君、面接はいつからなの?」
「13時半ですな。ほら、あそこのビルがそうです」
「うわ近っ!街のスケールが本州と違うというが本当だな、東京駅から霞ヶ関まで10分で歩いたみたいだ」
「さらにまっすぐ10分歩けば魅惑の街・ススキノですにょ。霞ヶ関から歌舞伎町までも10分で歩くようなもんですなあ」
大通公園が妙に騒がしいのに二人は気付いた。機内で読んでいたガイドブックの写真とは違い、公園中が祭りのような飾り付けになっている。
「お、おい朽木君、こりゃあ……」
「しぇんぱい、特集ページに載ってたヤツでは」
「ビアガーデンか!」
「我々ツイてるでありますっ!」
大通公園ではこの時期、公園の大半を利用したビアガーデンを催すのだ。5丁目公園から西へ、10丁目公園までの全てに各ビール会社ごとのブースが居並ぶ風景は、北海道の夏の風物詩とも言える。
公園に入ると、祭提灯が並ぶ芝生に屋台がいくつか出ているのが見えた。
「お、朽木君、北海道名物『とうきび』だぞ」
「コッチではとうもろこしとは呼ばないんですにゃ。斑目しぇんぱい、ここでなんか腹に入れて、昼メシあとでもいいでしょかの?申し訳ないんですが時間がちょっと」
「おう、かまわんとも」
一番手前の屋台で焼きとうきびを買い、さっそくかじりながらブラつく。札幌の夏の日差しは思ったよりは暑いが、湿度が低いせいか風が吹くと不快感がぬぐい去られるようだ。と、そのとき朽木が声を上げた。
「しぇんぱい!小生オモシロ食品発見したでアリマス!」
- 41 :『斑目放浪記札幌編(7/14)』
:2006/08/20(日) 17:03:50 ID:???
- 朽木が斑目に指差してみせる先には、一見普通の『じゃがバター』の屋台。
「ん?どこが面白……え、塩辛?」
二人の前では先客のカップルがひとつ購入していたが、スチロールのトレイに載った巨大なふかしジャガイモの上に、イカの塩辛が山盛りになっていた。
「ジャガイモに塩辛ですよしぇんぱい!」
「うわ、あんなの見ちゃったら食わないワケに行かねーじゃねーか。よし朽木君、ソッコー買ってきたまえ!」
「ラジャ!」
飛んでいった朽木は、両手にトレイを持って帰ってきた。
「なんで2個も買ってくるんだぁっ!」
「えー、1個は普通のじゃがバターでしゅよ?」
「ソフトボールほどもあるじゃんか、コレだけで満腹になってしまうわ。まーいい、食ってみっか」
二人で同時に塩辛ジャガイモを口に入れる。
「……おや、うまい」
「うまいスけど……塩辛はごはんで食いたいですなあ」
「うーむ、それも解る」
地元産のジャガイモ、バター、塩辛の渾然一体となった味は絶妙なバランスを保ったまま二人の胃袋に収まった。朽木が時計を見て、ネクタイを締めなおす。
「おおぅ。集合の時間でゴザイマス。しぇんぱい行ってまいります」
「よっしゃ、頑張れ、俺はこの辺ブラブラしてるよ。終わったら電話してくれ」
「しぇんぱいビール飲んでてもいいっしゅよ?」
「なに気ィ遣ってんの。全部終わってから盛大に打ち上げよーぜ。だいたい朽木君がスポンサーじゃない」
「斑目しぇんぱい、イイ人ですねえ」
「後輩にだまくらかされて北海道にまで来ちゃう程度にはな。行って来い!」
「イエッサ!」
- 42 :『斑目放浪記札幌編(8/14)』
:2006/08/20(日) 17:04:51 ID:???
- 朽木の後姿を見送り、手近のベンチに腰を下ろした。太陽がかんかんに照り付けるのに、すがすがしいくらいの風が通り過ぎてゆく。目の前を通り過ぎてゆく人々の顔つきも、心なしか東京より穏やかに見える。
「はー、落ち着く。さて」
ふと思い立ってガイドブックを開く。有名な観光スポットが公園のそばにあったはずだ。
「お、あった。時計台」
地図を見ながら歩き出す。目的地へはものの数分でたどり着いた。道路の向かいがわに、手元の写真と同じたたずまい。
「……なんか……小っちぇえな」
札幌時計台の観光写真が全て同じアングルから撮影されているのには理由がある。もともと広大な敷地に経っていたわけでもないこの建物は、そのものの保存は継続されているもののすぐ隣地に普通のビルが建っているのだ。
たとえばカメラを普通に構えて横長の写真を撮ろうとするだけで、周囲に最新の建造物が映りこんでしまう。間近から見上げたアングルの、青空にそびえる時計台の文字盤という絵面は、幾多の写真家の苦労の末に完成されたものだった。
「まあいいか。記念に1枚」
携帯電話のカメラで自画撮りする。その写真もやはり、観光ガイドのものと同じアングルになった。
せっかく来たのだからと内部を見学して回り、そろそろ公園に戻ろうかという頃、携帯電話が鳴った。朽木からだ。
「もしもし、朽木君?終わったの?」
「しぇんぱい、大変であります」
「どうした?」
「また……入室即不採用コースに……」
「お前いったい何をしたーっ?」
公園に急いで取って返し、肩を落とす朽木に会って理由を聞く。
「しょれがですね……エア・ディーって航空会社じゃないっスか」
「うん」
「だから航空業界に興味を持っているってことをアピールしようと、入室でバックフリップからコーク720のダブルエアーを決めたんでしゅが、着地するなり審判がボクチンの書類にでっかいバッテンを……」
「そのエアーはモーグルの技だ!そして審判じゃなく面接官だー!」
- 43 :『斑目放浪記札幌編(9/14)』
:2006/08/20(日) 17:05:51 ID:???
- ****
気を取り直して2社目に向かう。大通公園から札幌駅の向こう側にタクシーで移動し、北大近くで降りる。時間が少しあるので、ここで昼食をとることにした。
「朽木君……今度はハマナス乳業か。くれぐれも余計なことしないでくれよ、俺がついててコレじゃあ、何しに連れてこられたかわかんないじゃない」
「申し訳ないっス!小生北国に来てハッスルしすぎておりました。でももう大丈夫っスよ、もう普段のボクチンですから」
「それは心配だ……ものすごく心配だ」
「それよりメシっスよメシ。タクシーの運ちゃんが言ってたとおりならガッツリ食える店でごじゃいます」
二人は移動に使用したタクシーの運転手に、『疲れているのでばっちり元気になれそうな定食屋を教えてくれ』と頼んだのだ。面接場所に近く、美味しくて腹いっぱいになること請け合いと案内された店は、大学近くの『宝来』という中華料理屋だった。
こぢんまりした店内は東京で見るラーメン屋と大差ない。平日なら学生でにぎわうであろうこの店も、休日のため空いている。
「おっちゃーん、チャーハンとあんかけ焼きそば各1コ、お願いするにょー」
朽木は入店するなり声をかける。
「お、おい、メニューも見ないで」
「大丈夫っしゅよ、運ちゃんお墨付きの二品じゃないスか。元気出るスよー」
運転手が請け合ったのは、実は『腹いっぱい』の部分だった。数分後テーブルに運ばれた二皿は、それぞれがパーティ料理かと見まがうばかりの大皿に盛られてきた。
「しぇんぱい……大当たりっスよ、ある意味」
「それはそうかも知れんが……この店はナニか、客の胃袋を破壊するのが存在意義なのか?」
大学近隣と言う場所柄もあるがこの店、盛りのいいので有名である。チャーハンを注文するとライスを茶碗に山盛り三杯炒めるような店で、これで普通の値段なのが信じられない。食べればうまいが、もともと細身の二人はこれをたいらげるのに大変な労力を要することとなった。
- 44 :『斑目放浪記札幌編(10/14)』
:2006/08/20(日) 17:06:50 ID:???
- 「しぇ、しぇんぱい、クッチー北の地にて胃下垂で果ててしまうかも知れましぇん」
「コレで死んだら浮かばれねーし、胃下垂だけじゃ死なん。頑張れ。まだ時間あるんだろ?腹ごなしに歩こうぜ」
北大キャンパスに足を踏み入れる。ガイドブックには、有名な『ポプラ並木』があると書いてあった。
「ほほう、これが北の帝大」
「いまどきそんな言い方するヤツいないっスよ」
「うわ、クッチーにツッコまれた」
「いま身体能力の大部分を消化に費やしてるんで面白いこと考えられないんでアリマス。ポプラ並木こっちみたいっスよ」
ポプラ並木の観光写真が全て同じアングルから撮影されているのには理由がある。でもその理由は時計台と大差ないので省略。
「しぇんぱい……意外と短いっスね、並木道」
「100mねーな、こりゃ……ところで朽木君」
「はい?」
「きみさっき『身体能力の大部分を消化に費やしてるんで面白いこと考えられない』って言ったよな?」
「ええまあ」
「ならば行け」
「は?いずこへ?」
斑目は朽木の両肩をつかんだ
「面接だよメ・ン・セ・ツ!腹ごなしなんかしないで今スグその状態で行って来い!」
はたして面接はおおむねうまく行ったようだった。3社目の時間が迫るまで彼は戻って来る事はなく、それはとりもなおさず『つまみ出されなかった』ことを意味したのだから。
- 45 :『斑目放浪記札幌編(11/14)』
:2006/08/20(日) 17:07:51 ID:???
- ****
「さあ3社目は超大物ですぞしぇんぱい。銀行なんてそもそもボクチンの進路のどこにもなかったでアリマス」
「すっかり元気になってしまったみたいだな、朽木君……俺はまた不安になってきたよ」
「ご安心めされい!さっきの面接でコツをつかんだにょ。ボクチンにも道産子気質が読めてきた気がするにょ〜」
二人は大通公園に戻ってきていた。最後の面接先はいま彼らの目の前にそびえ立っている。
「頼むぞ、地元大手の破綻で漁夫の利とか軒貸して母屋を取られかけてるとかしょせん無尽上がりだとか余計なこと言うなよ?」
「しぇんぱい……なんでボクチンにそんな素敵なフリを?」
「フリじゃねえっ!」
「大丈夫ですにょ。なによりコイツが終わればビアガーデンが待ってるであります。どうせ酒盛りするなら敗残者の気分でいたくはないっしゅよ、さしものボクチンも。きっちり採用ブン取るつもりで行ってまいるでゴザル」
「……よし、その心意気、買った!もう何も言わん、今日のうちに頭取まで会ってくるつもりで行って来たまえ!」
「サー!」
意気揚々と歩いてゆく彼を見送り、斑目はベンチに腰を下ろした。まあ、地方銀行とはいえ北海道最大級の企業だ。一次面接程度の縁故でどうこうなるわけはないし、本人もそれを解ってのさきほどの大口だろう。
気楽に待って、彼が中でどんな大技を披露してこようが酒のツマミにしてやればいい。叔父さんには悪いが、彼は甥っ子を買いかぶりすぎているとしか言いようがない。
近所のメイド喫茶『プリムヴェール』で一服していると、朽木からの電話が着信した。慌てて店外へ出て通話ボタンを押す。
「もしもし、どうした?」
「しぇんぱい、大変であります」
「……」
胃のあたりにいやな重みを感じる。
- 46 :『斑目放浪記札幌編(12/14)』
:2006/08/20(日) 17:08:51 ID:???
- 「……朽木君、今度はナニやらかしたの?」
「しょ、しょれが……二次面接に進んでしまいまして」
「何ィッ?」
斑目の声が狸小路に響き渡る。
「すごいじゃないか朽木君!なんだ人間並みのことできるんじゃねーか」
「しぇんぱい、褒めてるようでむしろ酷い事言ってるでござるよ」
「おおう、すまんつい本音が」
携帯電話を持つ手が汗ばむ。
「よしッ、燃えてきた!燃えてきたぞ朽木君!我らが現視研から上場企業の社員が出るなぞ快挙もいいところだ!いいかクッチー」
「ハッ!」
「君の任務は北海道札幌の市中・すずらん銀行に単独潜入、役員面接を確保して内定を奪取することだ。夏休みが終わる前に内定を取得しなければ大変な事になる」
斑目の脳内にはミッション遂行もののゲーム音楽が流れ始めている。朽木にもそれは伝わったようだ。
「……!斑目しゃんは耐えられるのかにゃ?」
「俺ののどの乾きを考えてもタイムリミットは数時間。順調にいけば数十分で終るミッションだ」
「乾杯までには帰れそうだにょ」
「鳥になって来い!幸運を祈るっ!」
「行ってくるにょ!」
通信、いや通話は途切れ、斑目は店内に戻った。メイドたちが迎えてくれるがそれどころではない。ほとんど強制連行ではあったが、ついて来てしまえば気分は彼の保護者も同然だ。
結局、斑目は朽木を憎めないのだ。とんでもない人格を装備したダメオタだが、朽木の人付き合いの不器用さは斑目にそっくりだった。……ヤツは俺の縮小コピーだ。ヤツが大きく羽ばたけるなら、俺は喜んで彼を送り出そう。
「ひょっとしてひょっとしたら、現視研札幌支部?そして支部長がクッチー?……うわーダメそう……だがそれがいい!」
わずかな期待とちょっとした野望と、そしてそれらよりはるかに大きい不安が胸に渦巻く斑目であった。
- 47 :『斑目放浪記札幌編(13/14)』
:2006/08/20(日) 17:09:52 ID:???
- 何分が経過したろう。陽が落ち始めた窓の外を眺める斑目の視線が、見覚えのある不審な影を捉えた。
「お!クッチー?」
「斑目しぇんぱぁい!」
朽木が窓越しに駆け寄り、ガラスにべったりと顔を貼り付ける。店内ではメイドたちがどん引きだ。
「朽木君、そーゆーことをするな。本州のオタクがみんなこうだと思われたら困るだろ。……てゆーかナゼここがわかった?」
汚れた窓ガラスを拭きつつ、朽木は店内に入ってくる。
「いやもうカンっスよカン。朽木学、無事任務を果たして参りましたッ!」
「え、もう結果出たの?」
「ああいや、次は電話来るそうっス。電話が来なきゃご破算ですな」
「ちゃんとこなしてきたんだろうね?面接。……いや、今は聞くまい!最大の賛辞をもって君を迎えよう。よくやったぞクッチー!」
「ありがとーございます斑目しぇんぱい!」
「そうとなったら打ち上げと行こう。さ、ともかくビアガーデンだ!」
「ラジャー!と言いたいとこですがしぇんぱい」
「ん?」
「大変残念なお知らせがございますんですが」
「なんだよ、残念な……って……え、まさか」
はっと気づき壁の時計を見る。朽木はばつの悪そうな顔をしてみせる。
「タイムリミットでございます。千歳から出る飛行機で帰るには、札幌駅までダッシュして30分後の電車に乗らねばなりませぬ」
「何イィッ?」
明日は月曜日で、この時期に会社を休むわけには行かない。今日中に東京に帰るためにはその飛行機を使うしかなく、そもそもこんな時期に他の便の空きが期待できないのは考えるまでもなかった。
「な……」
呆然とする斑目をよそに、朽木はカフェの代金を精算している。釣銭と新規入会したメンバーズカードを右手に持つと、左手で斑目の手を引く。
「行きますぞ斑目しゃん。我々の光り輝く未来をこの胸に抱いて、あの懐かしいふるさと八王子へっ!」
「……なんて……」
言うが早いか走り出す。斑目は勢いに負け、半ば宙を舞うように朽木に引っ張られてゆく。
「……なんてこったあああぁぁっ!!」
斑目の叫び声は、薄暮の札幌の空に細く長く響き渡っていった。
- 48 :『斑目放浪記札幌編(14/14)』
:2006/08/20(日) 17:10:51 ID:???
- ****
帰りの機内。二人はあらためて缶ビールで乾杯した。
「カンパーイ!」
「はいはい乾杯っと」
「しぇんぱいもちっと気合入れて欲しいにょ」
「はは。ワリ」
空港までの列車の中でもヤケ気味の酒盛りをこなして来ていたが、北の大地を離れてようやくひと仕事終えた実感がわいてきたのだ。
「なあ朽木君。昨日きみがこの話持ってきた時にさ、俺ちょうど『旅行行きたいなー』って思ってたんだよね」
斑目が朽木に言う。
「んで今日のコレだ。いま俺は確信したよ、運命の女神はたしかに居るのだと」
「そりゃまた……ボクチンが言うのもなんでしゅが、ずいぶん乱暴な女神しゃまですな」
「いーや違う、違うぞ朽木君。乱暴なのではないのだよ」
「と言うと?」
斑目は朽木に顔を寄せる。
「俺の運命の女神はな、『ちょっぴりドジっ娘』なのだ!」
「斑目しゃん……あんた本物のダメオタですな」
「お前に言われとうないわあっ!こうでも思わにゃやっとれんのだ」
「あ、でもあながち間違ってないっすよ、たぶん」
「は?」
「飛行機が出る直前に、今度は父方の伯母からメールが来たんですが、来週の土日に福岡で面接を7社ブッキングされまして」
「……知らん……俺はもう知らんぞ」
どうやら彼のドジっ娘女神は着々と活動しているようだ。二度と余計なことなど言うものか……と、心に誓う斑目なのであった。
おわり。
- 49 :『斑目放浪記札幌編(おまけ)』
:2006/08/20(日) 17:11:53 ID:???
- 【その1】
「あっこんにちわ、斑目先輩」
「や、荻上さん。お?笹原もいるのか、どうしたんだ月曜なのに」
「振替休日とれたんです。やー久しぶりっスよ、休めたの」
「そか、ご苦労さん。ちょうどいいや、これやる」
「……とうきびチョコ?斑目さん北海道行って来たんですか?」
「そのチョコは羽田空港で買ったヤツだがな、ハハ」
「?」
【しょにょ2】
「それで朽木君、例の会社のほうから連絡は?」
「1社目はもちろんのこと、2社目も3社目もナシのつぶてでございます」
「ありゃ、やっぱ無理だったか」
「まったくガッカリっスよ!」
「まあ、そんな気を落とすな」
「せっかくプリムヴェールのメンバーズカード作ったのに」
「そっちの話かぁっ!」
- 50 :『斑目放浪記札幌編(あとがき)』
:2006/08/20(日) 17:12:51 ID:???
- 札幌は独身時代に転勤で4年ほど住んでました。俺が唯一描ける地方都市(っつうほど描けてないなw)で、自分的には第二の故郷。
半年間雪に埋もれて経済活動も凍りつく以外は人柄も街柄も良く、とてもいい街だと思います。リタイヤ後北海道で第二の人生なんて人がいるのもわかる。行けるもんなら俺もそうしたい。
名古屋編の作者氏には「斑目が名古屋楽しめずにかわいそう」なんて言っときながらこちらでも彼はメインイベントを逃しております。ああ、斑目はかわいそうが似合う。
札幌にはまだまだしゃべりたい場所やイベントがあるけど、まあ1作にはコレが限界かな。プリムヴェールは行ったことないけど宝来は実在。チャンスがあったら是非行ってみて頂きたい。
俺もほかの人が書いた放浪記が読みたくなりました。本作も斑朽で書いたけど、ほかの人との組み合わせでも広がりが出ていいな。アンスーと組めば海外だってOKだw
ま、そんなわけで。本日はこんなもんで失礼いたします。
- 51 :マロン名無しさん
:2006/08/20(日) 17:32:13 ID:???
- くは〜、一気に読んじゃったです。
なんかこう、一緒に旅行している気分になれるとっても面白いお話でした!
とにかく、お疲れ様です!
- 52 :札幌編の人
:2006/08/20(日) 17:37:27 ID:???
- うわ、てゆーか投稿見直してる間に?反応早っ!
スピード感想ありがとうございます。チャットかw
札幌いいとこですよ。もうビアガーデン終わってるけど、チャンスがあったら是非どうぞ〜。
- 53 :マロン名無しさん
:2006/08/20(日) 21:56:27 ID:???
- >>斑目放浪記札幌編
名古屋編書いた者ですが、続けて頂きありがとうございます!
率直に、面白かったです。
そして「俺の運命の女神はドジっ娘」。
まさに!そしtwドジっ娘なのにSですよwww
北海道行った事無いですが、楽しめました。西日本編でまた書きます。
- 54 :札幌編の人
:2006/08/20(日) 22:54:02 ID:???
- あ、おおもとの作者氏だ。ありがとーございますー。
楽しんでいただけたなら光栄っす。こういったシリーズものでもほかの人のあとを受けて書くのってけっこうドキドキものですな。
ドジっ娘女神はきっと斑目を幸福にすることができるのでしょう。紆余曲折の末にw
西日本は俺はほとんど知らないので、彼がそっちのほう旅すると楽しいと思います。
さっきテレビで由布院やってたけど温泉いいな。あとなんだろ、尾道三部作?
夢は広がりますなw俺もなんか思いついたらまた書きますね〜。
- 55 :マロン名無しさん
:2006/08/21(月) 02:48:41 ID:???
- >>斑目放浪記札幌編
やーなんつーか…なんつーかね…。ニヤニヤ
むしろ斑目、今回はなかなかいい思いをしてますな。タダだし。いいなあ北海道。一度行って見たい。
クッチーに振り回されつつも皮肉を忘れない、そんな斑&朽が大好きだ。二人の掛け合い漫才、最高でしたにょ。
…あああ、書きかけのSSが進まん!!仕事とかが忙しかったりして中々…。
くそう!ワシもまた頑張らねば!!
- 56 :札幌編の人
:2006/08/21(月) 06:56:08 ID:???
- >>55
むう、斑目がいい思いをしてはまずかったな、たしかに(オ
斑朽はTEAMダメオタで相性いいのかもしれませぬ。他のSSでもちょこちょこ絡んでるし。
>くそう!ワシもまた頑張らねば!!
楽しみにしてます〜。ただお体もいとうてくだされ。
こちとら盆休みの間1週間1歳児の相手をしたらカラダがガタガタにw
- 57 :マロン名無しさん
:2006/08/22(火) 01:45:50 ID:???
- もうすぐ8巻発売ですが、暑い日々が続きますね。
絵がド下手なので、暑中見舞いのつもりでSS書きました。
では6レスでいきます。
- 58 :終わらない夏(1/6)
:2006/08/22(火) 01:47:10 ID:???
- 荻上会長の下、無事に終了したコミフェス後のこと、お盆も過ぎて
日暮れとともに涼しくなるかと思われたが、暑い日々が続いていた。
「予約していた9人っすけど……。あと、焼き網も2つお願いします。」
「お待ちしておりました、テーブルこちらになりますので、ご案内いたします。」
半袖カッターにネクタイを外した姿で、斑目を先頭にゾロゾロと歩いて
案内された席に向かうのだった。屋上にテーブルと椅子が並んだホールには
少し時間が早いのか、まだ斑目たち以外は2組ぐらいしかお客は来ていない。
荻上さんが斑目のすぐ後ろを付いていく。
「斑目さん、ココはよく来られるんですか?」
「あー、まぁ、先月会社で来てネ――。ところで笹原遅れるけど来れるって?」
「ええ、あと1時間ぐらいで来られるそうです。」
「集合時間を遅くしても良かったかねぇ。」
「いえ、仕事が終わる時間も確定して無かったそうですから。」
そんな斑目と、荻上さんの後ろから歩いてきてた春日部さんも話に入ってくる。
「平日の夜だし時間も早いし、最初に言い出したアタシの都合だかんねぇ。」
「俺はだいたい定時に帰るから良いけどサ。コーサカも休みだって?」
「遅い盆休みなんだよ。後ろで歩きながら寝てっけど(苦笑)。」
椎応大にほど近いデパートの屋上のビアガーデン。コミフェスで顔を
会わせたりしたが、飲み会では久しぶりに集まる現視研の旧メンバー達だった。
- 59 :終わらない夏(2/6)
:2006/08/22(火) 01:47:49 ID:???
- 「お料理お飲み物、バイキング形式でセルフになっております。
こちら焼き網になりますので、肉とお野菜もあちらにございます。
それでは閉店22時まで飲み放題になりますので、ごゆっくりどうぞ。」
暑い中かっちりと洋食のウェイトレス姿をした店員の説明を受け、
各自まずは料理やビールを取りに行くのだった。
朽木はビールを皆の分まで注いできたが、泡が半分以上だったので
春日部さんは自分で注ぎ直しに行こうとしている。
「あぁ、俺が注いで来るよ。朽木君も教えてあげるからおいで。」
そう言って田中がビールサーバーの方へ向かった。
二人で運んできたジョッキには、綺麗な泡の比率が出来ていた。
「こういうサーバーだと本当はあんまり難しくないんだけどなぁ。」
「ありがとうございますっ!感謝感激にょ〜。勉強になりました。」
そこへ大野さんと荻上さんがサラダや点心、焼き鳥などを。恵子と斑目が生肉を
持って戻ってきた。高坂は枝豆や刺身を確保していた。
2往復ぐらいでとりあえずは乾杯となる。
「ゴホ…、我々は一人の英雄を失った!―――。」
思わず左手を胸に当て、右手を掲げた演説ポーズを取りかける。
「おいおい!早くしないと呑めないぞー。」
田中から素早くツッコミが入る。
「いやいや、じゃなくって……(苦笑)。んじゃ、まぁ、
OB会?の開催とお互いの残暑見舞いの為に、乾杯―――。」
「「「乾杯〜〜〜。」」」
現会長の荻上ではなく、斑目の音頭でそれぞれジョッキを掲げるのだった。
カルビやハラミ、ウインナーやイカなども焼き始め、しばらくして肉の臭いと
煙が立ち昇ってきた。だんだんと周りの席も騒がしくなってきた。
「あー、今日は適当なシャツ着てきて良かったよ。なんか風向きで
煙がこっち来るかんね。屋外だけど。」
「咲ちゃん、席変わろうか?」
- 60 :終わらない夏(3/6)
:2006/08/22(火) 01:48:36 ID:???
- そんな二人の様子を目の端に映しながら、荻上や恵子と話す斑目だった。
「で、最近どうなの?現視研は?俺はたまに昼休み行くのと
朽木君や笹原から聞くぐらいなんだけど。」
「部員は2人入ってきましたけど、それよりもうすぐスーが来るのが
心配というか、不安というか―――ですね。」
「アメリカの子だっけ?あたし初めてだけど、なんつーか 向こうにも
オタクって居るんだねぇ。しかも女の子って…やっぱホモ好きなの?」
「なんでそこに直結するんですかっ!」
「えーーだってそうじゃん。あたしだって読むしさぁ。」
「スーが引っ越して来たら歓迎パーティーしましょうね!」
テーブルの向こうから大野が言ってくる。地獄耳か。
「ん?大野―――。その左手の包帯、どうした?」
「え?まあこれはおいおい話しますぅ。」
そう言ってジョッキを一気に空けるのだった。
しばらく呑み進み、焼き網に焼き過ぎた肉の成れの果てである炭の塊が
数個出来てきた頃になって、春日部さんが立ち上がって提案した。
「さてそれじゃあ、皆はコミフェス?行って会ってるだろうけど
アタシは久しぶりだから、近況報告と暑気払いも兼ねて、最近有った
涼しくなるような話か怪談でも一人ずつ言ってみようか?」
「はーーい、じゃあワタクシめが一番槍でっ!」
「あー、クッチー=(イコール)寒い芸風だもんねぇ。」
春日部さんのツッコミで既に出オチ状態だ。
「朽木学ことクッチー、現視研の風物詩と言いますか毎年恒例ですが
また、就職が決まっておりませんっ!」
- 61 :終わらない夏(4/6)
:2006/08/22(火) 01:49:35 ID:???
- 「………名前とあだ名の『こと』の前後が逆じゃねぇか?」
「彼の中ではクッチーが真の名なんですよ、きっと(笑)。」
「勝手に風物詩にしないで欲しいですね。人聞きの悪い。」
「うーん、なんかキレが無くなったような気がするね。最近どうなの?」
「知りませんよ。私も最近会ってませんでしたから。」
数秒の沈黙の後、皆口々に就職出来ていないことそのもの以外について
批評し始める。すごい滑りっぷりだ。
(うわーーー僕チンの心はブリザードですぅ〜〜〜。)
一応、クッチー自身の納涼は果たされたようだ。
その後、春日部さんが近くの峠の古寺に深夜ドライブに行って
一人減った話や、恵子がトンネルでの人柱と血の手形の話など、
生暖かい夜の風と焼肉の中、屋上ということで少し雰囲気が
有るような無いような感じで、定番の怪談を披露した。
そしてビールや黒ビール、酎ハイなど呑み進み、だんだんと一同ともに
酔いが回ってきた。
斑目の寒い話もダブルオチが効いている。朽木に負けていない。
「えー。ネタがマジで何もアリマセン………。」
「うそー?」
「空気読めよ。」
「で、オチは?」
皆のツッコミの冷たさもかなりのものだ。
「あ、そういえば、誰も久我山呼んでねえの?俺も忘れてたけど………。」
その斑目の一言で、予定調和的な滑り芸の域を一気にブッチギリだ。
どうやら今日は本当に誰も久我山に連絡してなかったようである。
斑目は灰になったジョーのようにテーブルの端の席に座ってしまい、
横目で少し心配そうに荻上さんがチラ見している。
- 62 :終わらない夏(5/6)
:2006/08/22(火) 01:50:15 ID:???
- そこへ田中が話し始める。
「あー、じゃ、じゃあ次は俺ね。洋裁でミシンを使ってるとね、色々と―――。」
「ストップ!!もうオチは判ったから!」
今日も春日部さんはツッコミに大忙しだ。
「ん?俺はわからねぇけど?」
「ほらほら、聞きたがってるよ。えー、指の爪をね…。」
「だからヤメロつってんだろ!」
立ち上がって春日部さんのチョップが炸裂する。
「おおーーっ、久しぶりに見たっ。」
男子諸氏の歓声が上がる。
「あつつ。こういうのって斑目や朽木君の役回りじゃないか?」
「俺かよ!しかしお前の話もう俺もわかったぜ。痛い話はゾクっとするからなぁ。」
「おい、斑目。なんか羨ましそうじゃないか?」
「馬鹿かおめーわ!俺がドMみたいな事言うんじゃねーよ!」
そして殴られた田中をジト目で眺めていた大野さんが立ち上がった。
「では私の話を。コミフェスのあと、山に撮影に行ったんですけど
田中さんたら『クヌギの樹液の匂いがする』とか言い出して、
どんどん林に入っていったんですよ。それで本当にクワガタを
見つけたのは良いんですけどね―――。」
話が始まるやいなや、田中は新たにビールを注ぎに席を離脱してしまった。
「私は知らなかったんですけど、樹液ってスズメバチも居るんですね。
それで何故か私だけ襲われて…。それでこの左手ですよっ!
あとから『黒いものが襲われるから』とか 『香水の匂いに寄るらしいよ』
とか、知ってるなら先に言って下さいって話ですよ!」
そこへ冷や汗なのか暑さなのか、汗を流して田中が戻ってきた。
「だから埋め合わせはするって―――。ま、まあ呑んでよ。
ハーフ&ハーフ作ってきたからサ。」
そう言われて田中からジョッキを受け取ると、グビっと呑んで座る大野さんだった。
「あうー。そう言ってから何日経つんですかぁ。」
「……なんだこの夫婦漫才。」
今日、何回目かわからないツッコミを入れる春日部さんだった。
- 63 :終わらない夏(6/6)
:2006/08/22(火) 01:50:58 ID:???
- そこへ遅れてやってきた男が登場した。
「お待たせ―――。荻上さんに、みんなも。しかし暑いねぇ。」
「あぁ、笹やん久しぶり。」
「えーと、春日部さんだけ久しぶりかな。こないだコミフェス有ったから。」
当然のように荻上さんの横の席に移動するかと思いきや、まず田中の方へ
歩いていく笹原だった。荻上さんだけが少し不思議がる。
「田中さん、この荷物ですか?例の。やー楽しみですね。
俺も少し恥ずかしいですけど―――。」
「任せてよ。これは俺自身の為でもあるからな。」
「「何の話をしているんですか??」」
大野さんと荻上さんがハモって疑問を投げかける。
「え?俺が蛍野先輩のコスプレしたら、荻上さんが鍬形ハサミの
コスプレしてくれるって聞いて来たんだけど。」
「言ってません!!!」
0.5秒で否定する荻上さん。
「いえ、是非やってください!田中さんGJ!」
その否定に0.5秒で被っていく大野さんだった。
「えーーもう、早く二次会のカラオケボックスで披露しましょうよ〜。」
ジョッキを空けながら笹原は少しのんびりしている。
「もうちょっと呑んで食べて良い?俺まだ腹ペコなんだけど。」
「あーもう、笹原さん弱スギ!!そんなの一気に詰め込んでください!
それよりも荻上さんをもっと詰めて下さいよ!見たくないんですか!」
「え―――?『きっと可愛いヨー。俺も見たいなー。』こんな感じ?」
相変わらずのヘタレっぷりが健在なようで、それを見て少しホッとする
斑目と朽木であった。希望の星でありながら身近な存在であって欲しい。
複雑な男心とともに、残暑の夜は更けていくのであった。
- 64 :マロン名無しさん
:2006/08/22(火) 01:52:33 ID:???
- >>57「暑中見舞い」じゃなくて「残暑見舞い」ですねorz
すんませんでした。
- 65 :マロン名無しさん
:2006/08/22(火) 06:59:11 ID:???
- >>終わらない夏
>希望の星でありながら身近な存在であって欲しい。
このフレーズ素敵。笹原の立ち位置はまさにこうでしょう。斑目や久我山のように安定を求めるのではなく、高坂のように超人でもなく。
ところでコス計画、大野さんも知らなかったのがスゲエw ハーフ&ハーフのくだりといい、このフットワークの軽さはなんか昔の田中を見ているようだ。
よい残暑見舞いでございました。ゴチ。
- 66 :マロン名無しさん
:2006/08/22(火) 14:28:37 ID:???
- >>げんしけんオープンキャンパス
これは(目欄)SSスレのやつですね。
- 67 :マロン名無しさん
:2006/08/22(火) 18:09:27 ID:???
- >終わらない夏
いいですね。夏の一コマ。すごい和みます。
田中がクッチーにビール泡についてレクチャーする場面、初期の良い先輩ぶりを思い起こさせたり、大野さんとの夫婦漫才がとてもいい味だしてます。
個人的には田中が影の主役かも。
>あとから『黒いものが襲われるから』とか 『香水の匂いに寄るらしいよ』とか、知ってるなら先に言って下さいって話ですよ!
ここ爆笑!
たしかに「黒いものが襲われる」。
大野さん黒いから、いろんな意味で。
- 68 :先刻現視研ZZ(1)(まえがき)
:2006/08/22(火) 18:33:26 ID:???
- 8巻の発刊がいよいよ明日ですよね。
それまでには1本SSをと思っていたので、仕事サボって大急ぎで書きました。アラが目立つし面白くもない導入部でスミマセン。
先刻現視研の決着をつけようと思っていたのですが、タイムトラベルが主ではなくなっていて、もはや「先刻」の「現視研」とした意味がないは、どうかご勘弁いただきたいです。
甲子園の「思いで作り代打」みたいなもんだと思ってください。
この後7レス投下します。
- 69 :先刻現視研ZZ-1(1/7)
:2006/08/22(火) 18:35:49 ID:???
- 【2006年2月某日/現視研部室】
昼下がり。
部室の「会長席」に大野が一人で座っている。
彼女は先日、咲と2人で撮影した卒業記念のコスプレ写真を整理していた。厳選された写真のセットを咲に渡すためである。
机の上には、あられもない姿の咲が、インデックスプリントされて広げられている。
大野は時折、インデックスの1枚を手に取って眺めては、「うふふ」と満足そうな微笑みを浮かべた。
作業を始めてからしばらく経ち、大野は、「ふう…」と一息ついて、窓から階下の広場を見た。
サークル棟に囲まれた中央の庭木は、ついこの間まで冬枯れの寂しいたたずまいを見せていたのに、次第に芽吹いて、新しい葉を広げようとしていた。
もうすぐ、春が来る。
1年前、咲の胸で泣いた頃に比べると、不思議と哀しみを感じない。
現視研の会長として、やるだけのことをやり、荻上の件を含めて、多くの喜怒哀楽を皆と共にした。
去年ほどの涙が出ないのは、充実感が満ちているからだと、大野は自分の心に言い聞かせていた。
- 70 :先刻現視研ZZ-1(2/7)
:2006/08/22(火) 18:38:28 ID:???
- ガチャリ。
不意にドアの空く音がした。
大野が振り帰ると、そこには高坂がいた。
「やあ大野さん。今日は一人なんですか?」
「はい。高坂さんもお一人ですか?」
「うん、咲ちゃんは開店の打ち合わせがあってね。僕は自分の荷物を取りに来たんだよ」
「そうですか」
会話はこれ以上は続かなかった。
大野は再び咲に渡す写真の整理を続け、高坂はロッカーを開いて、私物の同人誌を2つ3つ取り出していた。
無言のまま時間が過ぎていく。
沈黙を続けるうち、大野は(苦手だな)と思った。
(考えてみたら、高坂さんと2人だけというのは初めてじゃないかしら。そうでなくても、話題がないのよね……)
単純に「この人とはそりが合わない」という問題ではなかった。
アメリカで生活していた大野だからこそ、他のメンバーよりも分かる感覚があった。
他人と向き合う時、日本人は最初から「自分」を見せることはない。オタクならなおさらだ。
大野自身も、比較的オープンな欧米人との付き合いには苦労したものだ。
それでも、現視研の仲間たちのように、長く付き合えば、やがてその人のパーソナリティが見えて来るはずである。
大野が田中と愛し合うようになったのも、「コスプレ好き」という共通点の奥に見える人柄を見い出し、認め合えたからだろう。
(でも、この人には何もない。いや、何も見えない…)
- 71 :先刻現視研ZZ-1(3/7)
:2006/08/22(火) 18:39:45 ID:???
- 容姿端麗で完全無欠。プログラミングの勉強も1か月でマスターしたというまさに「超人」の高坂。
でも、その奥にあるはずの「人間味」を、誰も見たことがないのではないかと、大野は思った。
(もしかしたら咲さんでさえも、高坂さんの内面にふれたことがないんじゃないかしら?)
ふと、咲の写真インデックスに目を落とす大野。
再び上目使い気味に高坂の方を見た。
(高坂さん、咲さんのコスプレ写真には興味ないのかしら?)
机の上、大野の周りにはインデックスプリントが数枚無造作に置かれているのだ。
「これ咲ちゃん?」と、関心を持って話掛けてきてもおかしくないはずだ。
それなのに高坂は、棚の整理に黙々と時間を費やしている。
(そういえばあの時も……。コスプレ、嫌いってわけじゃないハズなのに……)
大野は、咲が初めて本格的なコスプレ衣装に身を包んだ学祭のコンテストを思い出した。
- 72 :先刻現視研ZZ-1(4/7)
:2006/08/22(火) 18:40:51 ID:???
- ※ ※
【2003年10月某日】
「きょう3人目の律子・キューベル・ケッテンクラートさんです!」
場内アナウンスと共に会場中からフラッシュが焚かれ、注目を集めた咲の晴れ姿。大野はその時、舞台袖からその姿を感激の面持ちで眺めていた。
お立ち台インタビューの最中には、大野は袖から会場内にいるはずの現視研の面々を探した。
久我山、斑目、笹原は会場後方で顔を赤らめながら見物しているのが見て取れた。
だが、高坂は……。
大野はその時のことを思い起こして背筋がゾッとした。
あのコンテストで、咲が最前列の盗撮者を発見してシバいた騒動もあって、今まで忘れていたのだ。
高坂の目を。
コンテストの最中も時折(それは咲と視線が合った時なのだろうが)いつもの笑みを見せるものの、大野は、感情の表れを感じない高坂の無表情の瞳を見たのだ。
大野はさらに記憶をまさぐる。
咲が盗撮犯を見つける前に、咲の側に近付きはじめていた高坂のことを。
(北川さんたちが収拾に動いた時、高坂さんはすでに舞台近くまで来ていた。後方の混雑からすれば、何かが起きることを予見して動いていたとしか……)
※ ※
- 73 :先刻現視研ZZ-1(5/7)
:2006/08/22(火) 18:42:41 ID:???
- 【2006年3月某日/現視研部室】
「大野さん、大野さん?」
「……っ、ひゃい?」
ビックリして思わず間抜けな返事をしてしまった大野。高坂が覗き込むような視線でこちらを見ていた。
うろたえる大野を優しく見守りながら、高坂は話し掛ける。
「これ、咲ちゃんのアレ……?」
高坂はインデックスを一枚取り上げて笑顔で眺めた。
大野は少しホッとした。
さっきのコトはただの杞憂だと思った。
高坂はちゃんと咲のコスプレ写真に気付き、興味を持って話し掛けてくれたじゃないか。
「そうだ。高坂さんにも写真を1セット差し上げますよ。咲さん燃やしちゃうかもしれませんから、記念に持っていてください!」
「うん。ありがとう!」
しかし、高坂は続けて、意外なことを口走るのだった。
「大野さん、もう一人、咲ちゃんの写真を見せたい人がいるんだけど」
「へ?」
- 74 :先刻現視研ZZ-1(6/7)
:2006/08/22(火) 18:43:57 ID:???
- 高坂は、自分のカバンからiPodを取り出して、大野に差し出した。既に動画がスタートしている。
ディスプレイには、見慣れた景色が、見慣れないアングルで映り込んでいた。
そこは現視研部室。
本棚の上あたりから見下ろすようなアングルで、広角レンズが部屋全体を映し出していた。
テーブルの一角に、咲が一人タバコをくわえながらマンガを読んでいた。
大野はディスプレイから一瞬顔を上げて高坂を見た。
「コッ、高坂さんコレは一体?」
「初代会長の……置きみやげとだけ言っておきます」
(初代会長って……何をしていたの?)
自分が学祭や新人勧誘のたびにこの部屋で着替えをしていたことを思い出し、軽く動揺する大野。
(そういえば咲さん、部室での着替えに凄く神経使ってたような……)
大野は判然としないながらも、ディスプレイに目を向けた。
すぐに、広角で歪んで映し出されたドアが開き、リュックを重そうに抱えた斑目が入ってきた。
斑目は、読書に熱中する咲に声を掛けてはシカトされ、ジュースを買って来ては断られる。
その挙動不審ぶりに、大野は見入っていく。
やがてディスプレイの中では、「何か(←実は鼻毛)」に気付いた斑目が、咲に近付いて殴られた。
斑目は謝る咲を不自然なくらいに穏やかになだめながら、やがて姿を消していった。
斑目の一人芝居を俯瞰して見てみれば、まるで気になる女の子に自分の存在を気付いてほしいと動き回るいじらしい姿に映っていた。
「……斑目さん、まさか……」
- 75 :先刻現視研ZZ-1(7/7)
:2006/08/22(火) 18:45:02 ID:???
- 大野は呆気にとられながらも、ディスプレイの中の意外な展開に目が釘付けとなった。
そして動画が終了すると同時に高坂の方へと向きなおり、「高坂さんは、いいんですか?」と、いぶかしげに尋ねた。
高坂は、いつもの笑顔で事も無げに応える。
「僕も初めてコレを見せてもらった時は驚いたよ。でも、咲ちゃんが卒業しちゃう今、斑目さんにも悔いのないようにしてもらいたいと思ったんだ」
高坂の答えに、(……スゴイ自信。なのかしら……)と驚かされる大野だった。
数日後のサークル棟。
大野は、マスクにサングラスという怪しい姿で廊下の陰に立っていた。
斑目を待ち伏せて、咲のコスプレ写真を渡そうとするが、残念ながら、斑目の拒否と、咲に見つかったせいで受け渡しはかなわなかった。
同じ頃、プシュケの事務所内には、作業に追われる高坂の姿があった。
ふいに手元の携帯電話が振動する。
『斑目君は写真を受け取らなかったよ』
電話先からはその一言だけが聞こえてきた。
「そうですか。では卒業式が『最後』になりますね。はい。よろしくお願いします」
高坂は、静かに通話を切った。
椎応大学の卒業式は、間近に迫っていた。
<つづく>
- 76 :先刻現視研ZZ-1(あとがき)
:2006/08/22(火) 18:49:49 ID:???
- えーと、最終回前の回で、大野が斑目に「咲コスプレ写真」を渡そうとした裏付けを、先刻現視研の形でやってみました。
真意は次に、ということで、真意考えなきゃ(汗
咲の学祭コスプレの際(例の見開きコマ)、高坂は他のみんなの盛り上がりとは一線を画して冷静な視線を送っていました。
その回の挙動でも不審な部分があり、それでまあ、ちょっといじってみたくなりました。
ではまた次の機会に。
お目汚し、失礼いたしました。
- 77 :マロン名無しさん
:2006/08/23(水) 00:37:29 ID:???
- 終わらない夏、感想ありがとうございます!
>>65
>フットワークの軽さはなんか昔の田中を見ているようだ
そりゃもう、喧嘩して機嫌を損ねたらいきなり俊敏になりますよね?
ってそれは自分自身n(ry
>>67
田中にスポットを当てまくりは無意識でしたが、最近集中して田中×大野の
SSを読んだ影響でしょうか。
>大野さん黒いから、いろんな意味で。
思いもよらない解釈に、僕も爆笑ですwww
>先刻現視研ZZ-1
サスペンス&ミステリ!続編にぞわぞわしながら期待です。
高坂オソロシス…
- 78 :マロン名無しさん
:2006/08/23(水) 01:05:29 ID:???
- >終わらない夏
コミフェスの後キター!時期的にいいですねこういうの!!
相変わらずなクッチーとマダラメも含めてほほえましかったです。
「大野さんは(色んな意味で)黒いから」にワラタwwwww
>先刻現視研ZZ
……うわーーー、ちょっとちょっと(汗)こりゃすごい展開だ!
高坂の行動(咲会長コスのとき)の洞察、思わずなるほどと思ってしまいました。
…高坂のあの目、確かに違和感ありますよね。ただ個人的には、「高坂が無表情=素で驚いたとか、感情の揺れ」を表してるんじゃないかと思ってるんですが…。
>咲が盗撮犯を見つける前に、咲の側に近付きはじめていた高坂
確かに言われてみれば!高坂ニュータイプか(汗)
あと、大野さんが斑目の気持ち知ってた理由とか、写真渡そうとしてた理由がSSの中できちんと説明されてて、とてもよかった。
今後の展開が楽しみでなりません。早く読みたい!…長文スマソ。
- 79 :「17人いる!」の人
:2006/08/23(水) 02:38:17 ID:???
- 皆々様、感想ありがとうございました。
>>21
この話と前作「11人いる!」の基本的なコンセプトは、忙しくて気苦労も多いが賑やかで楽しい荻上会長奮戦記です。
こう言っては何ですが、11人の1年生はその為の状況設定とか舞台装置みたいに考えてます。
だからこの11人は基本的にはバラでは使わない積りです。
ただ今後は、書き進める内にキャラが勝手に動き出すかも知れません。
ちなみにはぐれクッチーも私です。
>>22
食われてましたか、旧メンバー?
自分としては逆に、全員はさすがにキャラ立て切れなかったかなと反省してたのですが…
>>23
カオス…最高の褒め言葉ですな。
ありがとうございます。
>>33
パロディの元ネタばらしみたいなのは野暮かなとも思ったのですが、思い切って書き込んで今回は正解でしたね。
- 80 :「17人いる!」の人
:2006/08/23(水) 02:58:15 ID:???
- 前スレでは感想サボり気味だったのを反省して、まとめて感想
>げんしけんオープンキャンパス
元ネタが分からんので訪問者の男女が誰なのか分からん。
だけどオタサークルの部室にスーツ男2人のシュールな絵に呆然、という状況はよく分かった。
まあこれで訪問した2人も1つ学んだことでしょう。
オタクと言っても、必ずしもみんな「電車男」みたいな格好じゃないということを。
(当たり前だ!)
>斑目放浪記
作者違うみたいなんでまとめて感想は何だけど、いいなあこのシリーズ。
「オタクはつらいよ」シリーズみたいに、シリーズ化してあちこち行かせてみたいね。
それにしても「ちょっぴりドジっ娘」の運命の女神ですか…
ちょっぴりじゃねえよ!
命に関わりそうなドジっ娘じゃねえか!
次はこんな感じかな。
朽木「斑目先輩、今度は海外の会社で面接ですにょー」
斑目「で、どこの国の、何の会社なの?」
朽木「レバノンの警備会社ですにょー」
斑目「朽木君、それ仕事傭兵じゃねえか?(冷や汗)」
- 81 :「17人いる!」の人
:2006/08/23(水) 03:16:40 ID:???
- 感想の続き。
>終わらない夏
やっぱりこういう後日談的な話っていいなあ。
こちらでは新人さんは2人ですか。
その2人も連れて来て欲しかったな。
それにしても斑朽コンビのスベリ芸、もはやここまで行くとアートだな。
>先刻現視研ZZ
ZZキター!
有りそうで無かった高坂VS大野のマッチメイク。
(まあ別に戦わないと思うけど)
そして初代会長と高坂の怪しい関係。
これは興味深い。
つづき、お待ちしてます。
- 82 :マロン名無しさん
:2006/08/23(水) 09:34:11 ID:???
- ちょっと!
「9巻」ってどういうコトよ!
- 83 :マロン名無しさん
:2006/08/23(水) 09:36:02 ID:???
- すんません誤爆です。
- 84 :マロン名無しさん
:2006/08/23(水) 14:31:40 ID:???
- 買って来たよ8巻。昼休みっつーか昼飯の時間犠牲にしてアキバの虎まで行ってきたよ。俺昼遅いのね。いま帰ってきた。
もう解禁なんだろうけどネタバレはしないでおこう。ただコレだけは言える。空腹を抱える価値はあった!
コレだけだとスレ違いみたいなのでSSがらみの独り言も書いとく。
_| ̄|○ ネタカブッタ...
ゆうべ書き上げて今晩から推敲しようと……
でもメゲない。素敵な燃料が手に入ったから〜。
書いたやつは近いうちに投下します。
じゃ、俺仕事に戻るからみんなも早く買いに行けよ。今日は定時退社なw
- 85 :マロン名無しさん
:2006/08/23(水) 14:43:05 ID:???
- 久我山乙
……いや、「職場がアキバに近い」ってだけのネタなんだが、スマン。
- 86 :「17人いる!」の人
:2006/08/23(水) 20:49:39 ID:???
- 8巻買って来ました。
俺もSS絡みでチト感想。
いやーまさか9巻まで続く上に、新キャラ3人も登場するとは思いも寄りませんでした。
嬉しい誤算です。
実は「17人いる!」の続編(今年の夏コミの話)を秘かに考えていたのですが、もう企画段階でメインキャラ全員出す積りだったんで、登場人物23人ぐらいいるんですよ。
でも8巻で初登場の漫研腐女子3人組、キャラ立ちまくりで捨てがたい上に、今後9巻でも荻上会長との絡み有りそう。
うーむ「26人いる!」で書いてみようかなあ…
(俺書くの遅いから完成は秋頃だな)
- 87 :先刻現視研ZZ感謝
:2006/08/23(水) 21:09:43 ID:???
- 昨晩は駄文にご感想をお寄せいただきありがとうございます。
>>77>>78>>79>>81の皆様ありがとうございます。
本来ならば1件1件にお返事を書きたいところではありますが、誠に申し訳ありません……ご無礼承知でひとことだけ、
「大野さん、単行本になってから『そんな事だから……!』とか『不発弾を炸裂させる』
とか、斑目の気持ち知ってるなら連載中に言って下さいって話ですよ!」
……まさか咲以外、暗黙の了解的に知っている(ように見える)とは……。
ショック&テラオモシロス。すげーよげんしけん
ちょっと構成のやり直しだなZZ。……9巻が恐い(笑
- 88 :マロン名無しさん
:2006/08/23(水) 22:41:29 ID:???
- 「終わらない夏」の感想、引き続きありがとうございます。
SS書こうにも、8巻の内容を知ってないと再構築多そうですね。
まだ入手できてないので血涙ものですが、まだまだ戦えるようで
嬉しい限りです!
>>78
朽斑萌えですか〜。掘り甲斐がありますよね!
>>81
新入部員を登場させるとすると、本気でキャラ作りしないと…。
滑り芸は僕自身がデフォで搭載していますのでお手の物ですorz
- 89 :マロン名無しさん
:2006/08/23(水) 23:58:02 ID:???
- 早速、漫研女子を入れたSSを書いてみようと思った夏の夜。
- 90 :マロン名無しさん
:2006/08/24(木) 02:55:23 ID:???
- うお、どうしよう(汗)
明日にならないと買えない方がいるのか…。
…実は8巻書き下ろしのネタを使ったSSをさっき書いたんだけど、明日まで待ったほうがいいのかなあ…。
- 91 :マロン名無しさん
:2006/08/24(木) 12:06:23 ID:???
- まあ…九州の人は25日らしいし、公式日も過ぎてますから、おkでしょう…
- 92 :84 :2006/08/24(木) 18:11:14 ID:???
- 8巻ショックのあまり感想すっ飛ばしてました。
>>先刻現視研ZZ-1
うわ、なんだこのハードボイルド感。確かに大野さん−高坂という組み合わせは珍しいっすね。
真意を!真意を早く!
……って言ってみたりしてるが>>87見る限り作者氏にもイバラの道がw
でもSSのドキワク感に加えて大爆笑もできました。申し訳ないけれどありがとう。
さらに>>86も大変そうです。俺のショックなぞてんでキャワイイことが判りましたよ。
そんなわけで推敲・レス分け終わった。週末まで日を空けるとイキオイがそがれそうな気がするんで今から投下する。
今から30分、会社の人が誰一人帰って来ませんように(>人<)。
それと>>90氏、コレ読んでたら錯綜しないようご注意ください。
『勇者の祭典』本文10レス+おまけ1レス。ちなみにバレはないので(っつうかぶっちゃけ無関係)ご安心してお楽しみください。
あ、もひとつ。
>>85
なっなに言ってんだよ、く、久我山じゃねーよオレ。
っつうかきっとクガピーなら何をおいてもメシは食うんだろうな、こんなときもw
- 93 :『勇者の祭典(1/10)』
:2006/08/24(木) 18:12:26 ID:???
- 天高く馬肥ゆる秋。椎応大学は大学祭の初日を迎えていた。
毎年3日間開催される大学祭は椎応の学生ばかりでなく、近隣他大学の学生や中高生も覗きに来る大きなイベントだ。模擬店やフリーマーケット、アイドルやお笑い芸人のライブなど盛りだくさんで、この時期このキャンパスはお台場や浦安に負けないテーマパークになる。
現視研の面々も今年は張り切っていた。まあ張り切らざるを得まい。会員数の減少が深刻なこのサークルは、次の春に新入会員を集めなければ存続の危機が訪れるのだ。この大学祭は、彼らの知名度を上げるラストチャンスというわけだった。
斑目晴信が現視研の展示会場に姿をあらわしたのは昼を少し回った頃だった。会場入口に立っている笹原完士を見つけ、声をかけた。
「よう笹原。どうだ?入りのほう」
「ああ斑目さん、こんちわ。今日はスーツじゃないんスね」
「バカヤロ、祝日じゃねえか」
「あー。スーツで弁当食ってる絵ヅラしか浮かばないんですよね、斑目さんって」
「ハイハイ毎日部室に来てて悪うござんした」
今年の展示は去年までのコスプレ撮影会と、数年振りに新たに書き起こしたパネル展示の二本立てだ。なるべく広い層に展示を見てもらい、在学生受験生にかかわらず来年へ向けての勧誘を図るのが今回の最大の目的だった。
気合の入ったメンバーたちはそれぞれの持ち場で実力を遺憾なく発揮し、結果満足の行く展示物が大量に揃った。
OBながら駆り出された久我山光紀は荻上千佳とともに大量のイラストやカットを描き上げ、高坂真琴はその神の手でもって各種ゲームの最速クリア動画、斑目も仕事中に会社のパソコンで力作の文書を叩き出した。
田中総市郎と大野加奈子のコスプレ班は例年にも増して気合の入ったクオリティと数量の衣装を制作し、自分もコスプレやりたいとゴネる朽木学をなだめすかしてMC役に徹させて、毎日3回それぞれ違ったテーマの撮影会を催す企画を立ち上げた。
そしてこれらを、笹原が修行中の編集技術と春日部咲の店舗ディスプレイノウハウでもってスタイリッシュな展示会場を作り上げたというわけだ。その成果はこれまでの現視研の展示とは明らかに一線を画す完成度を見せていた。
会場に一歩足を踏み入れ、斑目は息を飲む。
「はー……すげえじゃん」
- 94 :『勇者の祭典(2/10)』
:2006/08/24(木) 18:14:40 ID:???
- 「よ、斑目。今来たの?」
入口の内側の壁に寄りかかっていた咲が彼を見付け、挨拶する。隣にはいつものようにニコニコ笑う高坂の姿もあった。
「ああ、ちょっと漫研でヤナにつかまってた。……春日部さんの言ってた飾りつけ?これ」
卒業後は自分で店を出すと言っている咲は、今回のディスプレイを自分から買って出ていた。彼女なりに試したい事があったのだと言う。
「うん。やっぱ洋服とは勝手が違うね、100%イメージ通りとは行かなかったけど、でもどう?」
「いやいやスゴイっすよ。手前から奥に向かってせり上がる感じ?あ、じゃなくて入口が球体の中心なのか」
部屋は二つに仕切られている。入口側がパネル展示、奥の半分が撮影会場だ。
入口に立ってみると、展示物がどう系統分けされているかが一目で判り、自分の興味のあるコーナーへ歩いて行けばいいようになっていた。
入口側には既製のテーブルより低い展示台を作ってケースに入れたフィギュアやモニタが並び、奥側の壁や撮影ブースとのパーティションには巨大なポスターやタペストリーが天井まで貼られている。壁と床で切り取られた球体の内側に立っているように感じられる作りだった。
「解ってくれるねー。スペースの空きを丸く確保できるから意外と広く感じるし、あとこれはやってみて実感したけどオタグッズに包み込まれてる感じしない?」
「ん、それじゃ春日部さんには居心地悪いんじゃないの?」
「まーね、と言いたいとこだけど、そうでもないよ。コーサカに聞きながらあたしなりに『好きなものに囲まれてる空間』を演出してみたんだけど、うん、手直しすればいろいろ応用ききそう」
確かに、過去やっていた迷路のようなパネル展示よりはるかに見やすいし、現に入口を通りかかる通行人が雰囲気に惹かれて中を覗いてゆく。入口脇にしつらえた受付テーブルから、人が切れたタイミングで千佳が歩み寄ってきた。
「こんにちわ、斑目先輩。これ完成品です」
「おー。これはなかなか」
千佳が持ってきたのは入場者に無料配布しているサークル紹介誌だ。『現視研の歩きかた』と題された小冊子は千佳のアイデアで、過去のサークル誌からアピール度合いの強いページを抜き出して、端的に現視研を解ってもらおうという趣旨だった。
- 95 :『勇者の祭典(3/10)』
:2006/08/24(木) 18:15:49 ID:???
- 千佳はこの本に表紙イラストと数ページの漫画を書き下ろしており、この学祭に関しての彼女の仕事量はサークル最大となっていた。
「いいじゃない、荻上さん。イラストとかものすごい量描いたんだよね、お疲れ」
「やおいじゃない絵こんなに描いたのはじめてですよ、はは……あ、久我山先輩もいらしてます」
千佳のセリフと同時に、撮影会ブースの出入口から巨漢の影が現れた。タオル地のハンカチで汗を拭きながら、こちらへ歩いてくる。
「よ、よう斑目、久しぶり」
「おー久我山。仕事忙しいのか?」
「ま、毎日死んでるよ。見てくれよ、こんなに痩せちまった」
「……自分の体をジョークに使えるとは成長したな、お前。ちなみに俺が見る限りむしろデカくなってるぞ」
「ん……夏バテかな?」
「11月だぞ、おい」
久我山の出てきた方から加奈子の大声が聞こえてきたのはその時だ。
「ええー!田中さんカウボーイハット置いてきちゃったんですかぁ?」
「しまった!こっちの箱明日のヤツだったのか」
「もうっ、ロープと帽子はデキシーのレゾンデートルなんですからねー」
何事かと斑目たちが撮影会場のほうに移動すると、舞台袖の更衣室から田中が走り出てくるところだった。
「ごめんごめん、すぐ部室行ってくる」
「場所判りますかぁ?あ、キャ」
カーテンの隙間から、加奈子が顔だけ出し、ギャラリーが増えているのに気付いて小さく声を上げた。斑目が声をかける。
「なにごと?大野さん」
「あ、こんにちわ斑目さん。いえ、衣装の取り違えがあって」
「え、大変じゃねーか」
腕の時計を確認する。次回の撮影会まで20分くらいか。
「お前、衣装の着つけやってるんだろ、俺が代わりにとってこようか?」
斑目の提案にしばし思案するが、田中は残念そうに首を振る。
「いや、説明してる時間が惜しいな。あ、春日部さんと荻上さん、すまないんだけど中で大野さん手伝ってもらってもいい?」
「ん、オッケ」
「あっはい」
二人が更衣室に入ったのを見届け、田中は部室へ走っていった。
- 96 :『勇者の祭典(4/10)』
:2006/08/24(木) 18:17:01 ID:???
- 「コスで忘れ物か。田中ともあろうヤツがなー」
「でも今回すごいんですよ、今日の3回戦で15ポーズって言ってましたし」
斑目のつぶやきを笹原が隣で受ける。加奈子は午前中に『FFファウンデーション』と題した撮影会で、ファンタジーゲームがテーマのコスプレを、早変わり込みですでに5種類こなしていた。
「気合い入ってんなー。……あれ、受付いないんじゃないか?いま」
ふと入口が気になる。撮影会の受付や展示物の番をしていた千佳が、加奈子の手伝いでカーテンの向こうに行ってしまっているのだ。これには久我山が軽く手を振ってそちらへ向かう。
「あー、じゃあ俺行ってるよ。立ってるの、疲れたし」
「あっ、久我山先輩すいませえん」
更衣室の中から千佳が声を張り上げた。
「……なんか……活気あるな」
感慨深げに斑目がもらす。
確かにいつもの現視研らしからぬ活きのよさだ。いつもなら、単なるパネル展示や加奈子の撮影会をメリハリもなく行ない、適当に時間が来たら居酒屋で打ち上げをして終了する大学祭が、まるで違うもののように生き生きして見える。
「そうですね……俺たちってこんなにやる気ありましたっけ、はは」
笹原も少し違う雰囲気に苦笑している。実際にはこのテンションを引っ張ってきたのは笹原と咲だったが、本人にもここまでの完成度は予想できていなかったようだ。
「でも、みんないい顔してるね。全員が主役って表情してる」
高坂も満足げだ。
「僕たちも大学最後だし、いい感じじゃない。最後にみんなで、自分の趣味の集大成を出し切ったみたいでしょ」
更衣室の中でも女子3人できゃあきゃあやっているが、あれはあれで同じように楽しんでいるのだろう。
「ところで」
斑目が言った。
- 97 :『勇者の祭典(5/10)』
:2006/08/24(木) 18:18:11 ID:???
- 「この状況、去年のこと思いださないか?」
「去年?ああ、荻上さんのコス」
去年の学祭で、ちょうど同じように加奈子の着替えを咲と千佳が手伝っていた。少し事情は違うが、あの時は咲のセールストークに乗せられた千佳が生涯初のコスプレを経験していたのである。
「蓮子コス、ちょっと見てみたかったなー」
「……そーっすね」
遠い目で1年前に思いを馳せる二人に、高坂は笑いながら言った。
「でも笹原くん、これからは荻上さんにいっぱい見せてもらえるんじゃないの?」
「え……は?」
「コスプレ。お願いしたらいいじゃない」
「高坂君……きみ何言ってるの」
赤くなる笹原、冷や汗が止まらない斑目。
「見たいんでしょ?コスプレ」
「う……いやまあ、その……」
と、その時。
「ちょっと!どうしてまたこんな衣装が出てくるんですか!」
更衣室の中からひときわ大きく聞こえてきたのは、千佳の声だった。
「えー、どうしてって言われてもー。だから田中さんの新作ですってば、荻上さん用の」
「たはは、お前らは毎年毎年」
千佳の声にかぶせるように加奈子の声、そして咲の苦笑が続く。どうやら千佳は今年もコスプレの誘いを……いや、強要を受けているらしい。
「……うわー」
「あははは、まるで僕たちの声が聞こえてたみたいだねー」
「笑い事か?」
- 98 :『勇者の祭典(6/10)』
:2006/08/24(木) 18:19:22 ID:???
- カーテンの外のギャラリーをよそに、咲と加奈子の包囲網は徐々に狭まっているようだ。
「いいじゃんもう。荻上、お前すでに何回もコスプレやってるんだし」
「だっ、あれはそういうことじゃなくてぇ」
「そうですよ、ついこないだもベレッタやってくれたじゃないですかぁ」
「それとこれとは状況がちがいますっ!」
なんと言っても2対1では分が悪い。加奈子は徐々にテンションが上がっているし、咲も自分に矛先が向かないように会話をコントロールしている。
「ちょっ、さ、笹原さんっ、そこにいるんなら大野さんなんとかしてくださいよっ!」
「あ……っ」
たまりかねたのか笹原の名を呼ぶ。笹原もそれに反応するが、加奈子が着替え中の更衣室には近づきあぐねている。
「あ、あのー大野さん?時間もあるんだしその辺でー……」
「えっでも笹原さんも見たいですよねー?」
「う」
「んもおっ、黙んないで下さぁいっ!」
恐る恐る声をかけても図星をさされる始末。そうこうするうちに加奈子はしびれを切らしたらしく、強硬手段に出たようだ。カーテンの内側の空気が変わった。
「そういえば咲さん、わたしコツつかんだんですよ。荻上さんはココをこう押さえてこう」
「やーっ?」
「おやま、大野あんた武術のエキスパートみたいな動きだね」
「今からの回は『ランブルロード・ラッシュ』ですからね。レイヤーはその時それぞれのキャラになり切るのが重要なんですふふふ。そーれぃ」
「ああッ!ちょっとやめてください大野さぁん」
- 99 :『勇者の祭典(7/10)』
:2006/08/24(木) 18:20:40 ID:???
- 更衣室の外では聞こえる声に笹原がハラハラしている。
「いいのか笹原、助けに行かなくて?」
「あああ、斑目さん俺どうしたら」
「俺に聞くな」
「う……そりゃそうですよね」
「やんっ、ちょ、ちょっとそこは……っ……きゃっ、笹原さぁんっ!」
中からふたたび、千佳の叫び声。
「……よしっ」
笹原は意を決し、立ち上がった。つかつかと歩を進めながら着ていたジャケットを脱ぎ、薄紅色のカーテンをオーバーにくぐり抜ける。中の三人に目をつぶっているところをアピールする。
「ちょっとごめんね!」
「キャッ」
「わ、笹原?」
流れるような体の動きでもう一歩踏み込み、仕切りの中心で棒立ちになっている千佳にジャケットをかぶせた。
実は入りしなに薄目で確認していたが、幸い千佳はまだ上着を脱がされ、ブラウスのボタンが外された程度で、ほとんど服を着た状態だった。内心胸をなでおろしながら彼女の肩から下を上着で覆うと、彼はそこで目を開いた。加奈子が頬を染めてガウンの前をかき合わせる。
「あ……ごめん」
「いっ、いえ」
「大野さん春日部さん、ホントごめん!今日のところはカンベンしてね」
返事も聞かず、千佳の肩を抱いて脱出する。千佳はあっけに取られたまま、笹原のエスコートに従っている。仕切りの内側の二人も、鳩が豆鉄砲といった風情で笹原たちを見送るばかりだった。
- 100 :『勇者の祭典(8/10)』
:2006/08/24(木) 18:21:51 ID:???
- 「荻上さん、とりあえず服直してもらっていいかな?」
「あ……はっはい」
壁に向かって立たせた千佳に笑いかけ、さらに今帰ってきたらしい田中のほうに視線を向ける。
「田中さん、そろそろ準備しないと」
「あ、おう、そうだな」
更衣室の方に走る田中と入れ違いに、頭をかきながら咲が出てくる。斑目はその光景を、ぽかんと口を開けて見ていた。
「(うあー笹原……かっこえー)」
服を整えた千佳が返してきたジャケットを羽織り、笹原はようやくひと息ついた。
「……ふぃ〜。ドキドキしたぁ」
「ドキドキしたのはこっちのほうですよ!大野先輩ガウン一枚だったんですからね!」
千佳も落ち着きを取り戻したようで、いつもの口調で笹原を叱責する。
「うひゃー、ヤバかったー。場合によっては俺ノゾキ大魔王じゃん」
「ノゾキどころか突入してきたじゃないですか……でも……あ、ありがとうございました」
「とか言いながら、ササヤン」
近寄ってきた咲が笹原の肩に手をかける。
「あんた実は薄目あけてたんじゃないのかぁ?」
「え!いや、いやいやいやそんなっ」
「まあいーか、今日のところは。さっきのナイトっぷりが見事だったから突っ込まないでいてやる。やるじゃん笹原」
「いやほら、大野さん常々言ってたじゃん?嫌がる人に無理やりコスやらせるのは邪道だって。俺は大野さんが悪の道に染まったら田中さんが悲しむと思ってね」
「いーからいーから。荻上、いーなお前の彼氏カッコよくて」
「えっ、いえ、そんな……っ」
「あたしなんか同じ状況でコーサカに助けを求めたら『コスやらなきゃダメ』って言われたからね」
「それは同じ状況じゃなかったでしょ、咲ちゃん」
- 101 :『勇者の祭典(9/10)』
:2006/08/24(木) 18:23:01 ID:???
- 「あはは。……荻上ゴメンなー。ちょっと熱が入っちまった。大野もたぶん気合入りすぎただけだから許してな」
すまなそうに千佳に詫びる。
「だっ大丈夫です、解ってますから」
「笹原も、ごめん」
「うわ、よしてよ春日部さん」
「あんたのこと試したつもりはなかったけど、上出来だったよ。あんなんされたらあたしでも惚れるね」
「もうしないでください。オネガイシマス」
そうこうするうちにコスチュームに着替えた加奈子も現れた。一着目はデキシーのようだ。カウボーイをアレンジした白いウェアが眩しい。
「荻上さぁん、ごめんなさい。わたしったらちょっと興奮してしまって」
両手を合わせ、平謝りする。
「もういいですから。みんなしてそんなに謝らないで下さい」
「笹原さんも」
「いいって、ほんとに。俺こそ着替え中にごめんね。荻上さんのことにしたってちょっと無粋だったかなって思うし」
「でも、荻上さん奪って行った時の笹原さん、素敵でしたよぉ」
恐縮する彼に賞賛の言葉を重ねる。
「あはは。俺でよければ埋め合わせはするからさ」
「あ!笹原さん、そんなこと言ったら……」
照れて言う笹原の言葉に、加奈子の瞳が輝いた。それに気づいた千佳が慌てるが、もう遅い。
「ありがとうございますっ!では早速」
「えっ?って?うわぁっ!」
礼を言うや否や加奈子は笹原の背後に回った。猫科の動物を思わせるしなやかな体さばきで彼の両腕をがっちり極めると、そのまま更衣室へと引きずっていく。
「ああっ!ささはらさーん!」
「耐えろ荻上。あの自己犠牲の精神まで含めて、ヤツは立派な勇者だったよ」
千佳が助けに行かないように肩をつかみ、咲が言う。
「って過去形で言わないでくださいよっ!」
- 102 :『勇者の祭典(10/10)』
:2006/08/24(木) 18:24:13 ID:???
- ****
ステージの脇に持ち込んだ大型のスピーカーから、心臓を揺さぶるような重低音の入場テーマが流れ始める。
「ウェールカーァムッ、トゥ・ザ、ルルルァーンンブル・ロオオオードォォォッ!」
色とりどりのスポットライトが踊りまわる中、撮影会が始まった。
この回のテーマは女子プロレスのゲームだ。すでに続編の発売も決まっているこのゲームの売りは美しくリアルに躍動する女子レスラーの肉体美であり、コスプレイヤー神無月曜湖、すなわち加奈子を知る撮影会参加者の期待も最高潮に達していた。
「イン・ザ・レェェェッドコーナァァァ! フロォム、アンメェリカァァ、デーェェェクスィ、クゥゥレメーッッッツ!」
Wooooooo!
派手な巻き舌の入場コールとともに加奈子が登場した。投げ縄を肩に担いでカウボーイハットを観客に振ると、ノリのいいカメラマンたちが一斉に大きな歓声を上げる。そしてコールは次の選手の入場を告げる。
「イン・ザ・ブルゥゥゥーコーナァァァ! フロォム、ジャパーァァァンン、ベェェェ・ニィィィ・カァァァ・ゲーェェィッ!」
どこで練習したのか二連の前方伸身宙返りで登場してきたのは、黒い鎖帷子の忍者装束に身を包んだ……朽木学だった。
「ボクチンの時代がやって来たにょ〜〜〜!」
Booooooo!
本人は感無量でポーズを取るが、観客からは怒涛のブーイングが沸き起こる。入場をコールしたレフェリー姿の笹原も、困り顔で冷や汗をたらしていた。
「あああ、私のせいで笹原さんがあんな姿に〜」
「いいじゃんかあのくらい。てゆーかレニーハートのモノマネかます余裕すらあるんじゃねーか」
おろおろする千佳をとりなす咲。高坂はいつもの調子で笑っている。斑目は様子をのぞきに来た久我山と顔を見合わせていた。
「な、なんか現視研、ヘンな方向に進んでない?」
「やっぱそう思うか」
後日、参加者によるアンケートで上位の人気を獲得してしまった現視研に、自治委員会からの魔の手やら学生プロレス研究会によるヘッドハンティングやらが忍び寄ることとなる。ともあれ、今年の大学祭は無事に幕を閉じたのだった。
おわり。
- 103 :『勇者の祭典【おまけ】』
:2006/08/24(木) 18:25:25 ID:???
- その晩。
「うわっ」
「笹原さん?どうしたんですか?」
「大野さんから『お詫びだ』って渡されたんだけど……中身、相原誠のコスチュームだ」
「もうっ!なに貰ってきてるんですかぁ!」
「でも……俺もちょっと見たいかも……」
「!?」
「あ、ってうそうそ、ごめんね」
「……昼間の……」
「ん?」
「昼間のコール……やってくれたら、ちょっとだけなら着てもいいですよ?」
ほんとにおわり。
- 104 :『勇者の祭典(あとがき)』
:2006/08/24(木) 18:26:58 ID:???
- 『かなしいライオン』に引き続き、笹原カコ(・∀・)イイ!!キャンペーン第二弾作品でございます。……カッコよく書けてるのか俺?
お判りいただけたかもしれませんが、カブったというのは『大学祭ネタ』って部分です。一応執筆スタンスとして、
「できる限り原作世界のストーリーの流れを尊重する」
というのを守りたい方だったので(たとえば「夏コミ初日に荻上さんが笹原に告白しちゃう」なんていう話は、書くとしても心の準備からして違う)、もうないと思ってた学祭話を原作者本人からぶっつけられて目が点でございますよ、もう。
この調子だとクリスマスとかバレンタインとかも今後油断できんワケですが、まーいいか、新作読めたし!メイドオギー見れたし!(あっバレだ)
ハナシ戻しますね。
各作者氏の既存SSでも2005年の学祭エピソードがいくつかありますが、しばし考えた結果俺ん中では「オギーはコスプレしない」んじゃないかと思ったわけですよ。学祭はオマツリではありますが、彼女には彼女なりの表現すべき手段があるわけですから。
てなこと考えながらちょうどライオン書き上げましてね、ああ笹原ってB型だったよなあと。もっともっと自己中にオギーを好いてもいいじゃんかと。自己中じゃないB型の人スマン。
そーいうわけでオギー独り占めテイストの強まった笹原を書いてみました。
この8巻書き下ろしはSS書きには劇薬だなw 俺以上に設定いじらにゃならん皆様頑張ってください。
しかし負けん!要は公式設定が充実しただけだーっ!
ふう。またなんか書いたら来ます。てゆーか仕事に戻りますw ではまた。
- 105 :マロン名無しさん
:2006/08/24(木) 19:45:52 ID:???
- >勇者の祭典
>「あたしなんか同じ状況でコーサカに助けを求めたら『コスやらなきゃダメ』って言われたからね」
>「それは同じ状況じゃなかったでしょ、咲ちゃん」
ここがすんごい壷でした。
- 106 :マロン名無しさん
:2006/08/24(木) 20:50:23 ID:WKaSBOcX
- 中大出身としては毎回楽しみだったのに何故おわった
- 107 :マロン名無しさん
:2006/08/24(木) 21:26:39 ID:???
- >勇者の祭典
ぶはっ!!いい!おもしろかった!!
2005年の学祭は梶先生が描いちゃった(やったーーー!)…ので、ワシは2006年のを書きたいなあとかちょっと思った。
…この前、感想で、「斑目かっこよすぎ」と言われたんで、ワシにも言わせてくれいw
笹原カッコよすぎだろwww
うんでも、すごく面白かった。
個人的には現視研の展示室内の様子とかの描写が目に浮かぶようで、「ああ、いい学祭風景だなあ…このへんはむしろ原作より(ry」
と思いました。自分が実際に客として参加してきたような気分になれたよ。
- 108 :マロン名無しさん
:2006/08/24(木) 23:01:43 ID:???
- まえがき
8巻のネタバレSSは25日まで自粛してみる。
他にネタバレなしのSSを書いたんでこっちを先に投下してみマス。
- 109 :空と雲1
:2006/08/24(木) 23:03:47 ID:???
- ちょっと小品を。息抜きに読んでもらえたら幸いです。
空と雲(4回生の秋)
***
今日はすごくいい天気で嬉しいなあ。
朝起きた直後は、ウチで昨日の格ゲーの続きをしたいなと思ってたんだけど、
(ふと思いついた連携技をためしてみたくなったから)
咲ちゃんに「外へいこうよーーー!ていうか朝からゲームはやめよう。マジで。ホント。おねがい」
って泣きつかれたので、こうして外に出てきたんだ。
で、改めて、今日は外に出て良かったと思ったんだ。すごく気持ちいいから。
ふわふわの形のいい雲が空にたくさん浮かんでる。
全く雲のない快晴より、僕はこういう空のほうが好きだなあ。
僕が空を眺めていると、咲ちゃんは「どーしたの?」と不思議そうに聞いた。
「うん、今日はいい天気だなあーと思って」
僕がそう言うと、「そうだねー。昨日は雨降ったじゃん。雨だと靴が濡れるからヤなんだよね」と言った。
「うーん、でも明日はまた雨降るよ」
「え。そうなの?…何でわかるの?」
「何となく。雲の流れ方とか?」
「は?……そんなんでわかんの?あ、でもコーサカ、前にも明日の天気当てたことあるよね。あのときはびっくりしたよ。天気予報では晴れって言ってたのにさ、ちゃんと雨降ったし」
「天気予報は大雑把だからねえ。全国の天気を予想しないといけないし。大変だよねえ」
「…はあ。」
咲ちゃんは眉間にシワを寄せて考え込んでいる。
公園のベンチで、さっきからずっとこうして咲ちゃんと座ってるんだ。空を見ながら。
頭の上の木がわずかに揺れる。気持ちのいい秋風がふく。
今日はすごくいい天気だなあ。
- 110 :空と雲2
:2006/08/24(木) 23:04:36 ID:???
- 僕は変わり者らしい。
夏に、内定の決まっている会社で泊り込みで手伝いをやったときに、同じ職場の人に言われたんだ。
うーーん、自分ではそんなに変わってると思ってないんだけどなあ。
というか、そんなコト言ってたら、世の中変わった人だらけだよ。
みんな色んな個性があって、性格があって、思想があって、主義主張があって、一人として同じ人なんていないじゃない。
そしてそれは、すごく素敵なことじゃない。楽しいじゃない。
だから僕は、「変わり者」って、誉め言葉だと思っているんだ。
マイペースだよねって、よく咲ちゃんに言われるんだ。
でも自分のペースを保つのって大事じゃないかな?
ていうか自分のペースを保っていかないと、無理すると、結局どこかで疲れちゃうと思うんだ。
そうすると結局、人に合わせられなくなると思うんだ。人に合わせる余裕がなくなってしまうと思うんだ。
だから僕は、自分のペースを保とうと思うんだ。
好きなことをずっとしている間が一番楽しい。
ゲームをやってて、ここはもっとこうすれば時間短縮になるかな?とか、こうすればカッコいいかな?って、どんどん思いついてくるんだ。
それを納得いくまで練習して、自分の思ったとおりに出来たときが一番楽しい。
…出来たときのことを想像するのが楽しい。
よく、「何でそんなにゲームうまいの?」って聞かれるんだけど、何でと言われても、「うまくなるのが楽しいから」としか答えられないんだ。
何であれ楽しいのが一番じゃない。ねえ?
- 111 :空と雲3
:2006/08/24(木) 23:05:13 ID:???
- …ちょっとの間考え込んでいたようで、気がつくと咲ちゃんに肩をつつかれていた。
「ちょっと、コーサカ。さっきから呼んでるんだけど」
「…ん?あ、ごめん。」
「さっきからずっと空見てるけど、そんなに空見るのが好き?」
「え?ああ、僕空のほう見てたんだ?」
「って、今見てたじゃん」
「でもあまり見てた覚えはないんだよねー(ニッコリ)」
「………コーサカ?」
「あ、でも空見るのは好きだよ」
「…はあ。」
咲ちゃんはまた考え込んでいる。
咲ちゃんは、僕のことをもっと分かろう、理解しようとしてこんなに考えてくれてるみたいだけど、それってそんなに大事なことなのかなあ?
もちろんある程度は大事だと思うけど、全部が全部理解しあうのなんて無理だと思うんだけどなあ。
でももちろん、共感しあえる部分もあって、互いの円と円が重なる部分があって、そんなときには嬉しいと思う。
でも、全部重ならないと一緒にいられないかっていうとそんな事ないでしょ。
こうして今まで4年も一緒にいるんだし。
それでも咲ちゃんは考える。こうして考えて、分かろうとするのが咲ちゃんなんだ。
だから、それはそれでいいんだ。咲ちゃんらしいんだ。
らしさ、ってすごく大事だよね。
- 112 :空と雲4
:2006/08/24(木) 23:05:46 ID:???
- 考え込みすぎてパンクしかけてるときは、ちゃんと助けるよ。
できる限りのことはするよ。
「咲ちゃん」
「んー?」
「ちょっと歩こうよ」
「ん。そだね。そろそろお腹空いたし、ちょっと歩いたらどっかのお店にでも入る?」
「そうだねえ。それがいいねえ」
僕らはベンチから立ち上がって歩き始めた。
落ち葉が道に散らばって、歩くたびにカサカサと音をたてる。
「秋だねえ……」
咲ちゃんはのんびりと言った。
「秋は涼しくて、過ごしやすくていいねえ。」
「そだね。まぁ私は春の方が好きなんだけどねー」
「昔からそうだよねー、咲ちゃんは。春が好きだよねえ」
こうしてとりとめのない会話をしながら、ゆっくりと歩き続ける。
あと半年。冬がきて春が来たら、卒業だ。
「こうしてのんびりできるのは今の間くらいかなー…」
咲ちゃんはそう言った。今、同じことを考えてたんだなあ。
「そうだねえー」
「仕事始めたらこうしてゆっくりする時間も少なくなるんだろうね…。会う時間もさ…」
「んー、そうだねえー」
- 113 :空と雲5
:2006/08/24(木) 23:06:51 ID:???
- 「コーサカ」
咲ちゃんは僕の手を少し強めに握った。
「…店、ちゃんとやってけんのかな…。今さら不安になってきてさー…」
「咲ちゃんなら何とかやれると思うよ」
「……私らのこともさー…」
僕は咲ちゃんの目を見た。
「大丈夫だよ。」
「…うん、コーサカがそう言うんなら」
咲ちゃんが笑顔になった。僕の手を握っていた力が、少しだけ抜けた。
大丈夫って言い続けて、実際に大丈夫になるよう頑張ったら、本当にその通りになると思うんだ。
だからきっと大丈夫。
まだ未来のことはわからないけど。
好きって思い続けて、実際に付き合い続けられるよう頑張ったら、本当にその通りになると思うんだ。
だからきっと大丈夫。
今日は本当にいい天気だなあ……。
END
- 114 :空と雲あとがき
:2006/08/24(木) 23:07:43 ID:???
高坂視点に初挑戦。なんかものすごいポジティブシンキングな人になりました。
8巻読んでから、再び妄想が止まらなくなったんで、ちょっとだけ吐き出してみた次第です。
…今日はマのつく人に土下座しながら寝ようと思います……orz
- 115 :マロン名無しさん
:2006/08/25(金) 01:48:11 ID:???
- >勇者の祭典
これは…シンクロニシティってやつか?
微妙に原作の展開と被ってるな。
(コスプレと展示の2本立てとか、クッチー意外に活躍とか)
書いてからメゲかけるのも無理も無い。
でもまあこちらはオールスター大作だし、笹原カッコイイし、神展開とまでは言わぬが神のコピーぐらいの完成度はある。
セカンドインパクトに気をつけよう。
>空と雲
高坂の内面って、ほんと純粋で無邪気だな。
何か「ウルトラマンメビウス」のミライにオタ知識フル注入すれば、こういう感じになりそう。
やっぱり高坂、他の銀河系から来たのかな?
- 116 :マロン名無しさん
:2006/08/25(金) 02:33:37 ID:???
- >勇者の祭典
ほんとに勇者でした!笹原すごいですw
これは良いパラレルですね。なんか8巻が増量したようなお得感が有りました。
>空と雲
高坂ものって難しいのに、こんなに納得いくものが出ようとは。
こんな高坂でも想定の範囲外とか有るんですよねぇ(咲ちゃん泣いちゃった時とか)。
しかしマの付く人に土下座が気になりますw
- 117 :祭典の人
:2006/08/25(金) 06:59:59 ID:???
- 各関連スレはどこもまつりあがっていて読むのが大変です。超楽P。
そしてみなさん感想ありがとう。
>>105
人に壷を差し上げられるなんて光栄。やはり学祭でコス話となればこのエピソードを織り込まない手はないでしょう!
>>106
ついでなんで一言。まずはメール欄にsageと書き込むことをお勧めする。そして「毎回楽しみだった」→連載派ならその書き込みは6月中までにしておくべきだったなw さらに単行本派なら終わってないことはもう知ってるだろ?
俺ガッコは違うが仕事がらみで一時期中大に顔出してた。あの学内描写は俺もすごくうれしかったよ。ぜんぜん一言じゃないな。
>>107
おうっ?アンジェラの人ですな?
イエース。あなたが斑目を愛しているように俺は笹荻の成就を愛しているのでございます。二人が一緒の墓に入るまでサポートしてやりたいw
そのためには笹原にはもっとオギーを愛して欲しいし、オギーにはもっと笹原を頼って欲しいと思う俺がいるのです。
ほんで学祭はオマツリ感が重要なので、原作より云々は褒めすぎにしても(ハッ?うちのこと褒め殺そうっちゅう魂胆やな?バーイ藪)楽しめていただけたら幸いです。
空と雲はまた後ほど感想書きます〜。
>>115
なぐさめていただき感謝〜。そうなんすよシチュが「めちゃめちゃ違う」か「予言者並のモロかぶり」ならまだ笑えたんですが。
コピーちゅうほどすごくはないですが(ハッ?うちのこ(ry セカンドインパクトはマジ怖いw ナニ書けば安全なんだ。
>>116
そんなわけで笹原にはもっと頑張っていただきたい今日この頃w
俺もSSスレ自体に「増量したお得感」を感じています。みんながいっぱい妄想してくれて嬉しくてしょうがない。
ほんじゃまた〜。
- 118 :マロン名無しさん
:2006/08/26(土) 02:06:50 ID:???
- >>115
>>116
感想ありがとうございますー。
高坂って超人とか二重人格とか色々言われてるけど、原作見るかぎり「見たまんま」の人なんじゃないかと思ってかいたのでした。
あと、高坂ってガンダム占いで「ギャン」ですが、身内にもギャンがいるんですが、かなりの自由人です。そしていつも自分の格言みたいなモンを持ってます。
…だから、高坂もそういう感じかなとおもったのですた。
…さて、ようやく自分的解禁日が過ぎたので、8巻読んで書いたSSを投下しようかと思います。
- 119 :まえがき
:2006/08/26(土) 02:08:33 ID:???
注意。最初の部分が鬱っぽいけど、基本的にはほのぼの話です。
8レスで投下。
罪と罰 (8巻の書き下ろしの漫画を読んで得た妄想〜)
- 120 :罪と罰1
:2006/08/26(土) 02:09:41 ID:???
「これは罰です。」
「全部忘れて浮かれてた私への これは罰です。」
もうあれから5年以上ががたとうとしている。
私は何か変わったろうか?
服装や髪型や言葉使いや、周りの環境のことを言ってるんじゃない。
私の中にある「核」のようなもの、本質の話だ。
何も変わっていない。
今でもオタクで。あんな事したのに、身近な人でやおい妄想をする癖が抜けなくて。身近にいる人をひどく傷つけたことを今でも忘れられなくて、心がいつも不安定で。
忘れない、と誓ったのに時折忘れて浮かれるようなおめでたい人間で。
オタクやめる、って何度も何度も何度も誓ったのにやめられない嘘つきで。
…これでも私は冷静に自分を見れてるつもりだ。
そうやって一人で自分を罵って、自分を貶めることに酔ってない?ともう一人の自分が囁く。そんなことはない。
これでも私は冷静に自分を見れてるつもりだ。
思考のベクトルが降下しはじめたら止まらなくなる心の中に拭いがたい嫌な感覚がいつまでたっても消えない
…でも逆に、そんな思いなど忘れて、つい笑ったり喜んだりしてしまうことがあるのだ。
……己の罪を忘れて。
- 121 :罪と罰2
:2006/08/26(土) 02:10:23 ID:???
- 笹原さんはどうして私なんか好きになったんだろう?
こんなに変わり者で、根暗な私を。
私はことあるごとに笹原さんに聞く。笹原さんは、ただ照れくさそうに笑う。
好きって気持ちをうまく言葉で言い表すことなんかできない、と、また別の私が囁く。
好きになったから、好きだ、としか言えない。
……わかってるでねか。聞くことじゃないんでねが。自分だってそうなくせに。
好きで、相手も自分を好きで、それだけで体があったかくなって心が軽くなって、この人のために何かしようと思って、
何ができる?と考えて、少しでも笹原さんの好意に応えよう、と思って後ろ向きで攻撃的な自分がなりをひそめる。
うまくいってるときは、本当に穏やかな気持ちで過ごすことができる。
……己の罪を忘れて。
どんどん気持ちが降下していくのがわかる。笹原さんには、本当には理解してはもらえないだろう理由で落ち込んで、困らせる。
そんな自分が嫌いだ。
どうしたら私は変われるだろうか?…自分を好きになることができるのだろうか?
『無理だ。変われない。だって今まで変われなかったんだから。』
『いや、変われるよ。だって現にもう変化が起きてるじゃない。』
…え?変化って何。
『だって今までは、「どうしたら自分を好きになれるか」なんて考え方はしなかったはずだから。』
……それって変化なのかな。
『そうだよ。』
- 122 :罪と罰3
:2006/08/26(土) 02:10:56 ID:???
- 私が一人で色々考えている間、笹原さんは黙って私の後ろで、ウチにあった漫画(BLではない)を読んでいました。
ふと笹原さんのほうを振り向くと、笹原さんもこっちに気がついて笑いかけてくれました。
私は…どんな顔で笹原さんを見ていたのでしょう?自分でもよく分かりません。
「…あ、あのさ」
笹原さんはいつもと変わらない困ったような笑顔で私に話しかけました。
「コミフェス落ちたのは残念だけど…。また他にも、今から参加申し込みできるイベント探してさ、そこで本出したらどうかな?
コミフェスはホラ、また来年もあるし、夏もあるし!ね?」
「………………」
「すごく残念なのはわかるけどさ…、ねえ?」
笹原さんにそう言われて、ようやく私は、サークル参加できなかったことが残念でこんなに思考が暗くなっていたのだ、と言う事に今さら気づいたのでした。
そうか。わたすはそんなにがっかりしてたのか。
我ながらオーバーなくらいの落ち込みっぷりだと思いました。
というか、何かあるごとに私は、あの出来事を持ち出してこんな風に思考が暗くなるんだなと思いました。
…これが罰なのかも知れません。自分をいつまでも縛り付ける罰。
わかっています。こんな風に後悔したからといって、巻田君や私が傷つけた、壊した、色々なものはもう元には戻らないんです。ただの自己満足です。
そのことを思うと、自分には笑う資格がないんじゃないかとか、楽しむ資格がないんじゃないかとか、悪いほうへ考えてしまうんです。
- 123 :罪と罰4
:2006/08/26(土) 02:11:33 ID:???
- …だから笹原さんには申し訳ないことをしてると思います。
そうやって私が沈んで、意味不明の言葉を吐き出すのを聞いてなきゃいけないんですから。
私が「これは罰だ」と思って一人落ち込むのは私の勝手。
でも笹原さんまで巻き込むのはどうなんでしょうか。
……また私が思考を急降下させていると、笹原さんはまた私に話しかけてくれる。
「…漫画、もう描かないなんて言わないでよ。」
「え?」
私がびっくりして笹原さんの顔を改めて見ると、笹原さんは口元に笑みを浮かべたまま、真剣な目で言いました。
「俺、荻上さんの漫画好きだから。」
「………………………」
その言葉一つで、私は暗い思考から一気に開放されるのでした。
胸がどきどきして、嬉しくて、うまく言葉にできません。
「…やおい漫画をですか。」
でも私はまた、いつものようにきつい言葉を投げかけてしまうんです。
言った直後にいつも後悔するんです。後悔するくらいなら言わなきゃいいのに。
「…はは。」
笹原さんは困ったように笑います。本当は困らせたくないのに。
- 124 :罪と罰5
:2006/08/26(土) 02:12:03 ID:???
- 「いや、ね?やおいっていうか、なんていうか…荻上さんが漫画描いてること自体が好き、って言ったらいいのかな。」
「…ええ?」
「荻上さんが夢中で漫画描いたり、絵を描いたりしてるのが好きといいうか…。
俺は自分が絵が下手なもんだからさ、尊敬…っていうのもあるのかな?」
「えっ、や、ちょっと、やめて下さいよ!」
私は焦って笹原さんの言葉を遮りました。尊敬?こんな私を?
……人を傷つけたことのある、この趣味を?
混乱していると、笹原さんはもっと優しい顔で私に笑いかける。
「…だからさ、漫画描かないなんて言わないでよ。」
……どうしてこの人は、私が一番楽になる方法を知ってるのでしょうか。
描きたいです。描きたいに決まってるじゃないですか。
だって、あんな事があってさえ、やめられなかったんですよ。
何度自分を詰っても、気持ちを抑え切れなかったんですよ。
「…アリガトウゴザイマス。」
ようやくそれだけ言えました。
- 125 :罪と罰6
:2006/08/26(土) 02:12:48 ID:???
- 「…じゃ、またイベント情報とか集めなきゃね。」
「そうですね。落ちたからって、落ち込んでるワケにはいかないですね。」
「…荻上さん…、それギャグ?」
「はい?」
「落ちて落ち込むって………」
「……は?」
私は呆れ顔で笹原さんを見ました。笹原さんはちょっと焦りながら私にこう言いました。
「いやー、ギャグだったらどんな風につっこもうか色々考えちゃったよ〜。」
「…何言ってんスか」
「だってさ、つっこみたくても、最近斑目さんがなんだか覇気がなくてさあ…。」
「ああ、この前のくじvアンの対談ですか。『他にやるヤツいなかったんか』って、最後まで文句言ってましたねあの人。」
「そうそう、元気ないように見えて皮肉るトコはきっちり皮肉ってるし。んでまぁ、俺としても色々つっこんでみたけどさ」
「…笹原さんはツッコミがきびしすぎますよ(汗)」
「そうかなーーー?」
「せめて敬語使いましょうよ。タメ口でつっこんだときはちょっとヒヤッとしましたよ。でも、斑目さんも指摘する元気もなかったようですけどね…」
「せっかくつっこんだのにスルーされたね。スルーは駄目だよね。」
「…もういいです。」
「でも何であんなに元気ないんだろう?」
「ああ、それは、もうすぐかすか…………っっ」
私は言いかけた名前を慌てて飲み込んだ。
- 126 :罪と罰7
:2006/08/26(土) 02:13:44 ID:???
- 「え?今何て言ったの??」
「…いっ、いや!何でもねっす!!」
(わ、わたすの口から言うのはちょっと悪いっすよね、こういうのは…(汗))
「ええ〜〜気になるなあ」
「あ、え〜〜〜と…覇気のない斑目さんも流され受けらしくていいかな、と」
「はは、そうなんだ?…う〜〜〜ん、やっぱ眼鏡のほうが…」
「いやですから、斑目さんのやおい絵はあくまでキャラとしてなんで」
「いや、俺も眼鏡かけてみようかな、なんて」
「は?…でも笹原さん目悪くないでしょ?」
「う〜〜んでも、このごろゲームやりすぎて目がちょっと………」
「…なんのゲームですか」
「え?え?いや、えっと(汗)」
「…別にいいですけどね」
「いやそういうゲームばっかしてるわけじゃないよ?まぁ、してないワケでもないけど…」
「………………」
「…やっぱイヤ?俺がそういうゲームしてるの」
「別にいいですって。前にもそう言ったでねすか。」
「あ、ならいいんだけどね。」
笹原さんはちょっと照れくさそうに笑う。
私のすぐそばで。