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げんしけんSSスレ9
- 1 :マロン名無しさん
:2006/06/17(土) 13:18:39 ID:???
- 「……いやぁでも……こんなふうにSSスレで書き込みしてるなんて……
昔の俺は考えもしなかったなあ……」
「それは私も一緒ですよ。
入学当初の私に……言ってやりたいです『新スレ立てるんだよ』って。
糸色 文寸 信じませんよ」
「あはは、だろうねえ」
げんしけんSSスレ第9弾。
未成年の方や本スレにてスレ違い?と不安の方も安心してご利用下さい。
荒らし・煽りは完全放置のマターリー進行でおながいします。
本編はもちろん、くじアンSSも受付中。
よっしゃ目指せスレ番フタケタ!!
☆講談社月刊誌アフタヌーンにて好評のうちに連載終了。
☆単行本第1〜7巻好評発売中。8巻は8月下旬発売予定。
☆作中作「くじびきアンバランス」今秋漫画連載決定&アニメ放映決定!
前スレ
げんしけんSSスレ8
http://comic6.2ch.net/test/read.cgi/csaloon/1146761741/
げんしけん(現代視覚文化研究会)まとめサイト(過去ログや人物紹介はこちらへ)
http://ime.nu/www.zawax.info/~comic/
げんしけんSSスレまとめサイト(このスレのまとめはこちら)
ttp://www7.atwiki.jp/genshikenss/
げんしけんSSアンソロ製作委員会(SSで同人アンソロ本を出そうという企画・参加者募集中!)
ttp://saaaaaaax.web.fc2.com/gssansoro/top.htm
- 2 :マロン名無しさん
:2006/06/17(土) 13:19:30 ID:???
- エロ話801話などはこちらで
げんしけん@エロパロ板 その3(21禁)
http://sakura03.bbspink.com/test/read.cgi/eroparo/1144944199/
げんしけん@801板 その4 (21禁)
http://sakura03.bbspink.com/test/read.cgi/801/1127539512/
前スレ
げんしけんSSスレ7
http://comic6.2ch.net/test/read.cgi/csaloon/1145464882/
げんしけんSSスレ6
http://comic6.2ch.net/test/read.cgi/csaloon/1143200874/
げんしけんSSスレ5
http://comic6.2ch.net/test/read.cgi/csaloon/1141591410/
げんしけんSSスレ4
http://comic6.2ch.net/test/read.cgi/csaloon/1139939998/
げんしけんSSスレその3
http://comic6.2ch.net/test/read.cgi/csaloon/1136864438/
げんしけんSSスレその2
http://comic6.2ch.net/test/read.cgi/csaloon/1133609152/
げんしけんSSスレ
http://comic6.2ch.net/test/read.cgi/csaloon/1128831969/
げんしけん本スレ(連載終了により作品名は外されました)
木尾士目総合スレ132
http://comic6.2ch.net/test/read.cgi/comic/1149781675/
げんしけん ネタバレスレ9
http://comic6.2ch.net/test/read.cgi/csaloon/1145498528/
- 3 :ガンバレあたし!1/5
:2006/06/17(土) 13:37:40 ID:???
- 「もう完全に怒った!だってそんじゃいつ会えるって言うのよ!」
そう愚痴りながら咲は大学への道を歩いていた。
高坂が朝は数少ない睡眠をとり、夜は会社に詰めていて、
直接には全然会えない日が続いていたからだ。
(もう完全に夜行性になってるしさあ、電話だって躊躇うっちゅーの)
訂正。直接ではなく電話ですら会えない日が続いたようだ。
彼女の研究室のゼミは三時から。それなのになぜこんな昼ごろに来てしまったかと言うと、
「怒りのせいでゆっくりしてもいられなかった」と言うのが正解らしい。
「はぁ…」
咲の足は、自然と部室棟へと向いていた。
万が一にでも高坂に会えるかも。
あるいは誰か怒りを誤魔化せる話を出来る相手が居るかも知れない。
その辺に当たりを付けたのか、それとも単なる習慣なのか。
「よぉ」
居たのは斑目だった。
眉毛がピクリと動く。
(はぁ…コイツか…まぁ良いけどね。高坂が本当に居るとは思ってなかったし。)
「ん…?どうした?
…ああ、高坂なら今日は…いや今日もか。来てないぞ。」
尋ねてもいないのに答えられる。
- 4 :ガンバレあたし!2/5
:2006/06/17(土) 13:38:53 ID:???
- 「そっか…まぁそうだよな。納期がどうとか言ってたしな…
今のコーサカは、こんなオタサークルで時間の無駄遣いなんてしないよなあ。」
「…それは社会人の俺に対する挑戦か?
そりゃー事務は暇ですけど〜今居るのは昼休みだからだ。」
半分は嘘だ。割と無理やりに時間を作ってきている日もある。
理由は…まあ言うまでもないだろうが。今日はその意味で斑目にとってはラッキーデイだ。
「会えないのよ。」
はぁ〜と息を吐き出す。
「誰と?ああ、高坂とか。いいじゃん、家にでも会いにでも行けば。
流石に予め約束しとけば、来られる事を嫌がるような奴じゃないだろ。」
今日の斑目の弁当は鮭弁。ふたを開けて先ずは鮭を一切れ箸で食べる。
「んー、まぁそうなんだけどね。」
……
「そりゃそれは思ったけどさ。
最近コーサカ寝てないのよ。仕事が詰まっててさ。
学生でまだ本式に勤めてないんだから、そんなに詰めなくても良いと思うんだけど。」
すっと顔を下に向ける。
「数少ないフリーな時間は、せめて寝かせてあげたい…とか思うのよ。」
「はぁ。」
しかし、再び顔を上げると、どデカイ怒筋付きで声を張り上げた。
「でもさ!私に会いたいとか思わないの?!一緒に居たいとか思わないの?!あのバカは!」
…なんか咲は自分で言っていて、凄い矛盾しているような気がしてきた。
『会いたい』『寝かせてあげたい』
どこまでがわがままで、どこからがそうでないのかも全然分かんない位には。
- 5 :ガンバレあたし!3/5
:2006/06/17(土) 13:40:12 ID:???
- そこで斑目にキュピーンと効果音が入った。…ような気がした。
「そっかー。つまりだ。春日部さんはこう思っているわけだ。
『自分のやりたいことはやっててもらいたい。
だってそうじゃないと高坂らしくないから。
でも会えないことは不満。っていうかナイガシロにされて居るようで納得がいかない。』
それを高坂じゃなくて俺にぶつける辺り、春日部さんらしいよなあ…」
(それだけ信頼されているのは嬉しいやらなにやら…)
自然と顔がにやける。
(しかしやっぱり高坂が一なんだろうな…)
とは思ったが。
しかし咲はやや三白眼気味になる。
「あぁ?だれが冷静に私の性格を分析してくれなんか頼んだよ!?
つーかニヤニヤすんな!」
斑目の襟を引っ掴んだ。
しかもそれが当たっているだけに余計に腹が立つ。
斑目は少しキョドった…が、そこは開き直った。
というかいまさら引けないと言うべきか。
冷や汗を一筋たらしながら…
「『「会いたい」「気を使いたい」「両方」やんなくっちゃあならないってのが「彼女」のつらいところだな。』」
決まった。…少なくとも斑目的には。
- 6 :ガンバレあたし!4/5
:2006/06/17(土) 13:41:31 ID:???
- 「はぁ?何それ?
…あ、ひょっとしてまたオタワード?」
咲の目が元に戻り、手が少し緩んだ。
そしてゆっくり手が襟から離れた。
「あ、ああ、漫画…「ダダ」ってやつの五部…」
開放された斑目はカラカラになった喉を午後ティーで潤す。
……
また少し間があいた。
「あのさ斑目…」
「?」
「…もしかして…いやもしかしなくてもさ…」
「??」
「今の私って凄いブス?」
(は?何を言っているんだこの人はそんな口説いてるみたいなこと俺に言うってことは俺の気持ちを知っているのか
ひょっとして脈でも有るって事なのかいやしかし高坂が居るからそれはないだろうっていうかあったらむしろ困るつーか
なんだこのシチュエーションはありえねーだろってこういう痴話喧嘩って普通恋人同士とかでやるもんだろ普通はそうだ
だったら高坂とっとと来て俺と代われというかいやむしろ代わらなくても良い俺的にはある意味おいしいし)
冷や汗がさっきの当社比2.5倍位だらだら流れる。
夏にそんなに汗を流すと脱水症状になるぞ斑目よ。
- 7 :ガンバレあたし!5/5
:2006/06/17(土) 13:42:19 ID:???
- 咲は座席の上の荷物を持って立ち上がり、ドアの方へ立ち上った。
そしてぼそりと。
「ゴメン。」
半分空の鮭弁と赤い缶の前で固まっている斑目を放置して、ドアは閉まった。
(ふぅ…なんか言うだけ言ったらスッキリした。
でもアイツの言っているように押しかけてみるってのもありかも。)
「うし、ガンバレあたし!」
小声で自分に言い聞かせるように咲は呟いた。
おわり。
- 8 :マロン名無しさん
:2006/06/17(土) 13:44:47 ID:???
- >ガンバレあたし!
やっぱ咲ちゃんはこうでなくちゃねえ。
格好つけているつもりが駄目駄目な斑目もやっぱりこうじゃなくちゃねえ。
脱水症状には気をつけろよ・・・。
- 9 :マロン名無しさん
:2006/06/17(土) 13:46:40 ID:???
- む、このSSはっ!!
コーサカの愛読書が「ダダの奇妙な冒険」
↓
咲ちゃんも、薦められていつの間にかハマった。
と、脳内設定している俺への挑戦とみたっ!!(ねーよ)
- 10 :マロン名無しさん
:2006/06/17(土) 14:03:02 ID:???
- >ガンバレあたし!
「キュピーン」以降の斑目と、キレ気味の咲のやりとりが、原作初期の雰囲気を漂わせていて楽しめました。
咲は機嫌悪いのが頂点に達すると、こうなるのかも?
「アタシの精神テンションは今! 1年生時代に戻っているッ! 」
- 11 :前スレ546で今スレ10
:2006/06/17(土) 14:05:11 ID:???
- 今日は大漁の日ですね。
こんな時に駄文を投下しますスミマセン。
「入学当初の私に……言ってやりたいです“笹原さんとつき合うんだよ”って」
このセリフを目にした時から、「木尾神からのメッセージだべ!」と勝手に思い込んで「このネタ」をやろうと思っていました。
ついでに、今回の話を足がかりにして、今まで書いた、「先刻現視研」「同Z」「マダラメF91」をひっくるめた続編へとつなげたいと思います。
どうかご容赦くださいませ。
昨晩からW杯見ながら一気に書きなぐったので、アラの目立つ話になっちゃいましたが、約12レス。よろしくお願いします。
- 12 :妄想会長Vオギウエ(1/12)
:2006/06/17(土) 14:06:59 ID:???
- 【2006年3月/現視研部室】
「さあ ほら」
「みなさん一度帰って着替えるんでしょう」
「ボーッとしてないで動く!」
現代視覚文化研究会5代目会長・荻上千佳の指示が飛ぶ。
賑やかに談笑しながら行動に移る仲間達。
この日、笹原完士、高坂真琴、春日部咲の3名が卒業式を迎えていた。
追い出しコンパに備えて、笹原の部屋で着替える予定だった荻上だが、皆と一緒にサークル棟を出たところで、ハッと自分の手元を見回した。
ハンドバックを部室に忘れていたのだ。
普通、そんなものを忘れるなんてありえないのだが、新会長就任で気持ちが舞い上がっていたのかと、荻上は自分を恥じた。
オロオロする彼女に、傍らの笹原が、「どうしたの?」と声を掛ける。
「ちょっと待っていて下さい。すぐに戻ります……」
1人で踵を返す荻上。何を忘れたのかは、マヌケで恥ずかしいので言えない。
笹原は、ふーんと考えたあと、ポンと手を叩いた。
「荻上さんも行方不明のお気に入り同人誌が…?」
「違いマス! てゆーか私はまだ卒業しませんから!」
笹原を置いてサークル棟に戻った荻上は、1人で部室に入った。
そっとドアを開ける。
もう陽は傾きかけていて、部室の中は薄暗い。
窓はトワイライトの綺麗な空の色を映し込んでいた。
2人で入った時とはまた違う感慨が浮かんできた。
ちょっと寂しい。
- 13 :妄想会長Vオギウエ(2/12)
:2006/06/17(土) 14:07:35 ID:???
- 独りでこの時間の部室にいると、現視研に入りたてのころを思い出す。
(あのころの私は、寂しかった……)
誰も部室に来なかった時は、日が暮れるまでノートに妄想を描き込んでいた。
あのころの創作物は、妄想を止められないでいる自分を責めたり、自己嫌悪の気持ちが入り混ざり、叩き付けるようにペンを走らせていた。
独りで苦しんで、周りを突き放して……。
「なんてバカだったんだろ……。ほんと、言ってあげたいな……あのころの私に……」
ふと、我にかえる。
今ごろ笹原が、サークル棟の前でしびれを切らしていることだろう。
「帰ろう」
荻上がテーブル上のハンドバックを手にした時、背後で、ガチャリとドアの開く音がした。
「あ、すみません笹原さん、お待たせし……」
振り返りながら詫びた荻上だったが、途中で言葉が出なくなった。
そこに居たのは笹原ではなかった。
『……あれ? ……私?』
同じセリフを両者が呟く。開かれたドアを挟んで、2人の荻上が立ち尽くしていた。
- 14 :妄想会長Vオギウエ(3/12)
:2006/06/17(土) 14:08:52 ID:???
- 【200?年?月/現視研部室】
現視研部室のドアを挟んで向き合った2人の荻上。
2人は確かに同一人物でありながら、雰囲気は全く違っていた。
“部室にいた荻上”は、瞳に輝きをたたえ、目元も柔らかく優しい印象を与えている。目を丸くして、もう一人の自分を見つめている。
いつもの筆頭を下ろして、女の子らしいシャツやミニスカートを身にまとい、大きく開けた首周りにはネックレスが光っている。
全体的に女性らしい温和な感じがある。
しかし、“後から入ってきた荻上”の瞳に光は射していない。
目そのものが、あらゆるものを拒絶するかのようにキツくつり上がり、無愛想なまなざしが鋭く相手を凝視している。
髪型はいつもの筆頭、しかし左右のブレードアンテナはやや下がり目である。
顔の輪郭も鋭さを感じさせる。体の線も細いが、それを隠すかのようにブカブカのパーカーとジーンズを着ている。
洒落っ気や女の子らしさということを意識していない印象だ。
2人の荻上は、しばらくの沈黙の後で同時に、『誰?』とだけ呟いた。
だが、2人は向き合った瞬間すでに、「私の前に居るのは私」だと直感していた。
それは本能というべきか、魂の共鳴というべきか、それとも、説明描写を避けたがっているというべきか……。
- 15 :妄想会長Vオギウエ(4/12)
:2006/06/17(土) 14:10:14 ID:???
- 髪を下ろした方の荻上は、去年の夏に見た「悪夢」を思い出した。
(※SS「せんこくげんしけん」参照)。
あの時の夢は、自分が入学する前の椎応大学に迷い込み、当時の笹原に出会うというものだった。
(これも夢なのか?)と考えあぐねている中、「筆頭」の方が無表情と冷静さを装いながら尋ねた。
「私……だよねあなた? 何で私のくせにそんな格好してるの?」
根本の問題に触れるのは難儀なので、最初はごく普通の質問が投げかけられたようだ。
髪を下ろした方の荻上は、あっ、と自分の服に目を移した。
「こ、これね。今日、笹原さんたちの卒業式だったから……」
「ええっ? あなた、いつの私なの?」
「に……2006年……」
筆頭はよろよろと倒れそうになって、何とか踏み止まった。
「私は、……2004年だども。やっぱコレって夢だよね?」
同意を求められた2006年の荻上も、「うん、私も夢だと思いたい」と呟いた。
「荻上06」と「荻上04」は、再びお互いを凝視したまま沈黙した。
(夢なら早く覚めてほしい)と、同じことを考えていたが、再び、荻上04が話しかけた。
04「夢なら夢でいいけど、あなたナニをしに来たの?」
06「な、何をしにって……あなたが部室に来たんじゃない」
- 16 :妄想会長Vオギウエ(5/12)
:2006/06/17(土) 14:15:50 ID:???
- 荻上06は反論するが、その時ふと、卒業式の後で笹原に告げた一言を思い出した。
「入学当初の私に……」
「言ってやりたいです“笹原さんとつき合うんだよ”って」
「絶対信じませんよ」
(あんな事を言ったから、こんな夢を見てるのかな)
そう思った荻上06は、意を決して話しかけることにした。
夢よ早く覚めろと願いながら。
06「あ、あのね、伝えたいことがあるんだけど」
04「なんですか?」
無愛想な荻上04の瞳が、まっすぐに荻上06をとらえる。
荻上06は、過去の自分の姿に躊躇した。
(私ってこんなキャラだったんだ……)
(ああ、でもやっぱり恥しくて言えないよォ)
荻上06は両手で真っ赤になった顔を隠す。
目を閉じたまま、一気に言い放った。
06「わ、わたしね……さっ…笹原さんと…つき合うんだよ」
04「え、ええエエェーーーっ!」
さすがの荻上04も驚きを隠せない。
だが、歯を食いしばるように口を真一文字に結び、ツンの表情を維持した。
06「やっぱり、い、意外…だよね?」
04「ぜっ、絶対信じませんッ!」
06「つ、ついでに言うと、私同人誌作って、笹原さんと一緒に売るんだよ」
04「ええエエェーーーっ!」
- 17 :妄想会長Vオギウエ(6/13)
:2006/06/17(土) 14:16:46 ID:???
- 荻上04はがく然としながらも、一拍置いて真顔で尋ねた。
04「あの〜、PNは於木野鳴雪ですか?」
荻上06は(ツンケンしたってやっぱりオタクじゃない……)と呆れながらも簡潔に答えた。
06「Yes.」
04「ひ…評論本?」
06「No.」
04「い…イラスト集?」
06「No.」
04「じゅ… 18禁女性向けですかあああ〜」
06「Yes.」
04「もしかして麦×千ですかーッ!?」
06「Yes.Yes.Yes.Yes.Yes.Yes.Yes.Yes.Yes.Yes.Yes.!」
オタ嫌いホモ嫌いのプライドが打ち砕かれ、がっくりと肩を落とす荻上04。
ぼつりと、「そっ、そんなっ……。しかも笹原さんごく普通のオタクじゃないですか……」と呟いた。
- 18 :妄想会長Vオギウエ(7/13)
:2006/06/17(土) 14:17:40 ID:???
- 06「失礼ね。……でも笹原さん、優しいじゃないですか?」
04「優しくったってオタクじゃないですか! 私はッ……」
06「うん……オタクが嫌いなんだよね。分かるよ、私もそうだったもん」
04「『そうだった』……?」
荻上04はかたくなに「強い自分」を維持していたが、次第に、光の射さない瞳に涙が溢れ出した。
彼女はそれを拭おうともせず、未来の自分を睨み据えた。
04「……未来のあなたは、過去の私を許せるの?……大事な人を不幸にしたことを忘れたの?」
忘れるわけがない。
自分を慕ってくれた牧田を、自分の妄想の玩具にしてしまい、彼の心に深い傷を負わせてしまった。
それは消えることのない十字架だ。
06「……忘れるわけない。今でも思い出すと体が震えるもの……すべてが奇麗に終わるわけないじゃない」
睨んでいた荻上04がギョッとするような、抑揚のない冷たい言葉が荻上06の口から放たれた。
- 19 :妄想会長Vオギウエ(8/13)
:2006/06/17(土) 14:18:41 ID:???
- 荻上04は、(やっぱりそうだ。この先も背負い続けるんだ)と思うと、呑気に洒落た服を着て立っている未来の自分が腹立たしくなってきた。
(お前も同じじゃないか)という憤りを言葉にして叩き付ける。
04「結局どんなに着飾ったって、男を作ったって、逃れることなんて出来ないじゃない!」
06「!!!」
04「……それなのにオタクだなんて、同人誌だなんて……。だから私はアンタが、自分が嫌いなんだ!」
荻上06はその言葉をまっすぐに受け止めた。
一瞬、唇をかみしめて苦しそうな表情をしたが、苦悶はすぐにフッと消えた。
柔らかい口調で、言葉を返す。
06「ごめんね。……でもね……私、最近結構好きなんだ……あなた(昔の私)のこと」
04「はあッ?」
意外なセリフに、荻上04の鋭かった目がまあるく見開かれた。
荻上06は、恥ずかしそうにちょっとうつむき気味になり、やや上目遣いに04を見つめて話しかけた。
「だって、『オタクは嫌い』と言いつつ、どうしようもなくオタクなところとか。それを隠そうとして失敗するとことか……」
荻上06が口にしたのは、大野が自分を好きだと言ってくれた時の言葉、そのものだった。
(大野先輩は、そんな私を認めてくれた)
(そう、今の私には、みんながいるもの)
彼女は再確認した。今の自分には、かけがえの無い人達との「つながり」があることを。
オタクとして共感を持ってくれる人がいる。
親身になって心配してくれた人がいる。
そして、妄想も心の闇も含めて、すべてを受け入れてくれた愛しい人がいる。
荻上06の脳裏に、大野、咲、そして笹原の笑顔が浮かんだ。
直後に何故か恵子と朽木の笑顔も浮かんだが、ぶるぶると頭を振ってそのビジョンを振り払った。
- 20 :妄想会長Vオギウエ(9/13)
:2006/06/17(土) 14:20:16 ID:???
- 荻上04は真っ赤になってワナワナと震え出した。
04「わ、わだすは、失敗などしねえ!」
06「してたでねか! 都産貿のスラダンイベント行った時、朽木先輩に盗撮されたでねーか!」
一瞬の間が空く。
04「……朽木先輩、許せないですよね」
06「……んだ。2年経った今もなお許せねえ」
2人の荻上は時を超えて共感し合った。
朽木の話題でひと呼吸置いたおかげで、部室は静かになった。
荻上06は、あらためて過去の自分を見つめ直した。
(傷は残っているけれど、それを包んでくれる人たちがきっと現れる)
(……彼女は、これから作るんだね、みんなとの絆を……)
(いま言い聞かせても、理解できるわけないわ)
(……彼女は、これからだもの……)
未来の荻上は、不器用にもがいている過去の自分が愛おしかった。
一歩二歩と近づいて、スッと荻上04を抱きしめた。
「!!」驚く04。
目を閉じてもう一人の自分を感じる06。
2人は頬を合わせ、ドキドキと波打つ鼓動を確かめた。
圧迫や抵抗感が感じられない薄い胸には、お互いに嫌気がさしたが……。
06が優しく言葉を掛ける。
「ま……あんたなりに頑張って……」
- 21 :妄想会長Vオギウエ(10/13)
:2006/06/17(土) 14:23:29 ID:???
- 2人は体を離すと、同じタイミングでフゥとため息をついた。
荻上04は頬を真っ赤に染めていたが、「だども……わだす信じないから!」とツンとした口調で言った。
04「わ……私は私。誰を嫌いになろうが好きになろうが、私の勝手だから!」
06「うん」
04「これはきっと悪い夢。私は今まで通り、自分がオタクとか腐女子だなんて絶対認めない!」
06「うん」
04「笹原さんだって、オタクはオタク。嫌いです!」
06「うん」
04「お、おしゃれなんか…、あなたみたいな気取った服なんか絶対に着ないし!」
06「あ〜、ひょっとしてあなた失敗したばかりでしょ。店員に言いくるめられて……」
04「!!!」
言葉に詰まった荻上04は、間を置いて、恥ずかしそうに未来の自分に尋ねた。
04「み、未来からきて、そこまで知ってるなら、ちょっと聞きたいんだども……わ、私が……この先ハマるカップリングって、どんなの?」
06「……」
この質問には、荻上06も躊躇した。腕を組んでう〜んと唸る。
(もう〜、腐女子嫌いを公言しながら……しかし教えるべきか、黙っているべきか……)
荻上06は荻上04を手招きした。
2人きりしか居ない部室だが、声に出すのも恥ずかしいので、そっと耳打ちする。
06「悪い夢だと思っているんだったら、教えてあげるけど……」
ゴニョゴニョと、自分が何ページも書きためたカップリングを教える。
04「…………ッ!!」
直後、荻上04はウルウルと涙目になってガクガク震え出す。
ドカッ!
いきなり机を弾き飛ばすように窓に向けてダッシュする04。飛びつく06。
06「ここは3階だーっ!」
- 22 :妄想会長Vオギウエ(11/13)
:2006/06/17(土) 14:24:12 ID:???
- サークル棟の外にまで、現視研部室からガタガタンと、もみあう音が聞こえてくる。
「ウソだー!」「だどもホントなんだもん!」
夕闇が辺りを包み始めたサークル棟の屋上で、騒ぎに耳を傾ける人影があった。
「入部当初の荻上さんを刺激しようと思ったけれど……少し薬が効きすぎたかな」
一人は初代会長だった。
「でも、おかげで“今の荻上さん”にも“昔の荻上さん”にも、いい影響が出ますよ」
初代の後ろにいた人影が応える。
その姿はハッキリとは見えない。
振り返った初代は、その影に礼を述べた。
「そうだね。君もご苦労様だったね……」
- 23 :妄想会長Vオギウエ(12/13)
:2006/06/17(土) 14:24:53 ID:???
- 【2006年3月/現視研部室】
…………ハッ!?
荻上06は目を覚ました。
部室のテーブルに突っ伏して寝ていたらしい。
「いけね時間!」
携帯電話を取り出してモニタに目をやると、部室にハンドバッグを取りに来てまだ5分も経っていなかった。
「夢……だったの?」
荻上06が呆けていると、ガチャっとドアが開き、隙間から笹原が顔を出した。
「荻上さん、大丈夫?」
荻上は慌てて立ち上がり、「だっ、大丈夫デス!」と答えた。
そして、笹原の手を取って歩き出し、「さ、行きましょ」と、そそくさと部室を出て行った。
サークル棟の廊下を歩きながら、荻上06は笹原に詫びる。
「すみません、遅くなっちゃって……」
「いやいや、全然ダイジョーブだよ」
いつもの優しい笑顔を返す笹原。それを見て荻上は癒される思いがした。
早く昔の私も気付けばいいのにと、さっきの「夢」に出てきた自分を思い起こす。
「やっぱり信じてもらえませんでした……」
「え、何のこと?」
「何でもないです。スミマセン」
荻上は頬を染めながら、ニコリと笑顔を浮かべた。
- 24 :妄想会長Vオギウエ(13/13)
:2006/06/17(土) 14:25:41 ID:???
- 【2004年6月/現視研部室】
…………ハッ!?
荻上04は目を覚ました。
部室のテーブルに突っ伏して寝ていたらしい。
「いけね寝ちまったのか?」
携帯電話を取り出してモニタに目をやると、部室に入った時間から、まだ5分も経っていなかった。
「夢……だったの?」
荻上04が呆けていると、ガチャっとドアが開き、隙間から笹原が顔を出した。
「あ、荻上さん、こんにちは」
荻上は慌てて立ち上がり、「こっ、コンニチハ!」と答えた。
そして、赤い顔を伏せて隠れるように歩き、「私はこれで失礼します」と、笹原と入れ替わるようにドアを出て行った。
後日のこと、荻上04が部室のドアを開けると、斑目と笹原がいた。
この日、コミックフェスティバルの当選通知が届いたのである。
「……やあ荻上さん、こんにちは」
そそくさとスケッチブックをたたみ、頬を赤らめている2人。
「………」
荻上04は、過日の「悪夢」を思い出した。
将来ハマるカップリング。
未来の自分が耳打ちしたのは……笹×斑……。
この時ばかりは、さすがに全力で自分の妄想を否定した。
さらに後日、荻上は咲に、「じゃ笹原みたいなタイプは?」と聞かれることになる。笹原がハラグーロを撃退した時のことだ。
「どんなタイプでもオタクはオタク」「嫌いです」
とは言うものの、荻上は、ほんの少しずつ笹原を意識しはじめていた。
<おわり>
- 25 :妄想会長Vオギウエ
:2006/06/17(土) 14:28:04 ID:???
- 以上です。お粗末様でした。
改行が多くてレスが一つ増えてしまいました。
荻上VS荻上の展開は、先刻現視研で書いた斑目VS斑目の焼き直しみたいになってしまいました。
なぜ「V」かは言わずもがな…で。
どうも失礼しました。
- 26 :チェーンの人
:2006/06/17(土) 15:20:41 ID:???
- メシ食ってきた。
なんだか堰を切ったように書き込みが増えててびっくりしたよ。作品も2本あるだと?
お前ら……本当に書き込み控えててくれたんだなw
チッキショウさっきのざるそばのワサビが今頃になって効いてきやがったぜ。ぐしッ。
>>前スレ542〜546
お前らみんなまとめて大好きだ。
数日前から桃絵板でシチュ先取りされてしまって(こっちは式当日だけどね)ハラハラし
ながら完成させた甲斐があったよ。
>>ガンバレあたし!
咲ちゃんが若いなあと思いながら読んでたがみんなも感じていた模様。そうだ1〜2巻の
ころの咲のテンションだね。卒業後のことがどんどん固まってきてるのに、高坂とのこと
だけが足踏みするようになってきてイラついてたところに、斑目に痛いところを突かれた
てわけだ。最後のセリフ、可愛かった。頑張れ咲ちゃん。
それから>>9氏がなにか挑戦を受けておられるようです。wktkしてていいですか?
>>妄想会長Vオギウエ
せんごくの人だったのか。この作品の投下を躊躇させるほどのもんではないよ、俺のは。
それはそれとして、ホントに言うのかオギー。入学当初の私にw
2年大人になったオギーが優しく頼もしく、それを否定したくてしょうがないオギー04も
かわいらしく、かー漫画で読みてえって気分になった。絵板に期待。
斑目VS斑目も楽しかったが、掛け合い描写上手だね。参考にしたいが、自分と何が違うのか
判らないので俺の向上にはつながらなさそうだorz
続編楽しみにしてます。
- 27 :アルエ第二話まえがき
:2006/06/17(土) 15:54:30 ID:???
- どうも。
アルエの第二話できました。
それは一先ず置いといて、
>スレ8の515
全然御気に為さらずに。
このタイトルつけた時点でオウンゴールですから。
>スレ8の516
仕掛けが上手く動いてくれるといいんですが…。
まあ、かなり先行き不透明で書いてます。どうなることやら。
今回、ハルコさんもののはずなのに、ハルコさんが出てません。
ハルコさんを待っていた方、申し訳ない。
それじゃいきます。宜しくお願いします。
- 28 :アルエ第二話
:2006/06/17(土) 15:55:55 ID:???
- 「おう、荻上。こんちわ」
大学の構内。
特徴的な筆頭に春日部は声をかけた。呼ばれた筆頭が振り返って小さく傾く。
横にいる真琴と笹原にも会釈を投げた。
「荻上さんも部室いくとこ?」
「そうです」
笹原にそう言うと、荻上はくるっと前を向いてそのまま歩き出そうとする。
笹原は慌てて言葉をつないだ。
「折角だから一緒にいこうか」
荻上は立ち止まった。もどかしそうに視線を下向けていた。
「はあ、いいですけど」
だいぶ現視研に馴染んだと思うけど、まだこういうところがあるなあと笹原は思った。
ちょっと集団行動に慣れていないというか、一人になりたがるようなところが。
「あー、痛い痛い」
春日部は呆れて笑う。荻上はギンと目尻を尖らせた。
「何がですか」
「いーや別に」
「まあまあ、行こうよ部室…」
荻上はふんとばかりに顔を背けてさっさと歩いて行こうとする。でもその足取りは、決して三人を置いていこうとはしていない。
三人は早足でついていった。
きっとこんなふうなやり取りを重ねるうちに、荻上さんもいつの間にか現視研に染まるんだろう。
春日部君を見習って、会長としてもっと話し掛けなければ。
- 29 :アルエ第二話
:2006/06/17(土) 15:56:35 ID:???
- 四人組になって笹原会長以下現視研メンバーは部室棟に歩いていく。
と、そこで一人の人物が笹原たちを待ち受けていた。
「や」
漫研の高柳だ。
「どうかなその後、荻上さんは。問題起こしてない?」
紹介した手前気になるのだろう。荻上は無関心無表情であちこち余所見をしているが、
聞き耳はしっかり立てているといった様子だ。
「今度ウチで出す同人誌に何か描いてもらうことになって、むしろ助かってますよ。ウチで描けるの久我山さんだけでしたから。
まあ…、小規模の小競り合いがあるぐらいです…」
荻上は目だけを滑らせて笹原を睨んだ。笹原は笑って受け流す。
その様子に高柳は安心したように表情を崩した。
「あー、なら良かった」
そして今度は如何にもすまなそうに眉尻を下げた。
「あとさ、原口来たんだって? ごめんねぇ、ウチの後輩が話しちゃったらしいんだよ」
なるほど、原口が現視研のコミフェス当選を知ったのはそういうことか。
「いや、まあ何とかなりましたんで…」
とは言ったものの、これから有名同人作家さん数名に断りの電話を掛けなければいけないことを思うと正直気が滅入る笹原だった。
まったくあの人は…。
あの時の疲労感がまざまざと思い出されている笹原。察した高柳は下がり切った眉を更に下げた。
何だかこの人のこういう表情ばかり見ている気がする。
「そんな気にしなくていいスよ。悪いのは漫研の人じゃないですから」
「そう言ってくれるとありがたいよ――…」
面倒見が良いというか、根が真面目というか、こういう星回りの人なのだな。
ぱっちりオメメを片方閉じて、高柳は苦労の隙間風のような滲み出た声を漏らした。
そして少しおかしなことを言った。
「ホント悪かったよ、斑目にも謝っとくわ。漸く卒業して顔見ずに済むと思ってのにさ」
- 30 :アルエ第二話
:2006/06/17(土) 15:57:36 ID:???
- 「………は?」
は?という顔を高柳もしていた。それは笹原も春日部も真琴も荻上も同じだった。
なに? 何でそこにハルコさんが出てくる?
そう現視研一同が心を一つにした瞬間、高柳の目に『不覚!』という字が浮かんだ。
「それでは失礼」
「待て」
春日部の腕が有り得ないほど伸びて高柳の肩を掴んでいた。
「取り合えず、場所変えましょうか?」
「え〜〜〜、第1回〜〜〜〜、『ハルコさんと原口の間に何があったのか会議』〜〜〜〜。
ゲストに漫研の高柳さんを迎えてみました」
高柳は緊縛され、頭にズタ袋を被せられていた。
やはりこういう星回りなのか。
「モガガガガ」
「これ、やばくないですか?」
荻上は現視研入会の恩人ということもあり同情的だが、
「まー、いーですけど…」
さりとて積極的に止めようともしなかった。というか、この状況に妙な想像を働かせていた。
(緊縛…、目隠し…、密室…、男同士…、メガネキャラ……。やっぱ東京の大学は本格的だァ……)
春日部はこの手の話題のときに発現させる持ち前の悪ノリ体質を如何なく発揮し、真琴はいつも通りそれをニコヤカに見守り、
笹原は知りたいような知りたくないような気持ちで、もがく高柳を苦笑いで見下ろしていた。
「じゃー、言っちゃって。高柳さん」
「え〜……、もうしょうがないな〜〜〜。だが断る」
「なに?(だが?)」
春日部は一瞬怯んだ。
- 31 :アルエ第二話
:2006/06/17(土) 15:58:11 ID:???
- 「悪いが黙秘権を行使する。斑目との友情を裏切るつもりはないよ」
高柳は決然とした顔で言った。まあ、袋を被ってるから見えないんだけど。
しかし言ってることは至極当然の正論である。
迷っていた笹原はそれで漸く正気を取り戻した。
「春日部君…、今日はこの辺にしとこうよ…。無理に聞いちゃハルコさんにも悪いし…」
荻上も異世界から帰還した。
「そ、そうですね…。もう充分…、だと思います」
「いーや、訊く」
言うや否や春日部は高柳のジーンズのベルトに手をかけた。
「ちょ、こら、やめろ!」
「言うなら今だよ。さもなくばこの場で下半身を剥く!」
ベルトの穴から留め具が外れる。
「うおーー! 何言ってんだお前! ちょっと笹原君、速く止めてーーー!」
高柳に言われるまでもなく笹原は春日部を羽交い絞めにかかる。
「ダメだって。流石にそれは掟破りだから」
荻上はキャーと言いつつ、
(む、無理矢理! 力尽く! 辱めーー!!)
真琴は笑っている。
高柳はジャッキー・チェンの映画の如き動きで椅子に縛られたままぴょんぴょんと跳ね回っていた。
「おたすけーーー!」
「放せ、笹原。逃げちゃうだろ」
「だからダメだって」
(う、後ろから強引に抱きしめてーー…)
真琴は笑っている。
「うーす…」
「こ、こんちわ…」
ドアを開けた先が阿鼻叫喚の地獄絵図と化しているなど、久我山も田中も想像だにしていなかった。
- 32 :アルエ第二話
:2006/06/17(土) 15:58:52 ID:???
- 「どうもスイマセンでした。私はどうかしておりました。ごめんなさい。許して下さい」
春日部は当然、深々と頭を下げていた。笹原も成り行き上そうしていた。
なぜか久我山と田中もそうしていた。
危うく一生ものの心の傷を負うところだった高柳だが、荻上移籍の恩とチャラということでギリギリ勘弁してくれた。
いい人だ、高柳さん。
「ま、斑目と原口? あ、ああ、うん。し、知ってるよ」
「ていうか俺らの年代の漫研かアニ研のヤツなら、だいたい知ってるよな?」
「そーなんだー…」
ほとほと疲れたという感じで春日部は椅子に仰け反っている。
笹原はそんな春日部の骨折り損または一人相撲的な無駄な苦労に呆れつつ、少しだけ先輩二人に身を乗り出した。
「それって聞いちゃっても…」
「ああ、まあ。いいけど…」
春日部は首だけ持ち上げて田中に注目する。荻上は漫画を読んでいるが耳が異常肥大していた。
二人は少し躊躇するように言葉を選んだ。
「まあ、何ていうか…、噂っていうか」
「じ、実際デマなんだけどな…」
「はあ…」
「まあよくある話なんだけど、斑目と原口が付き合ってるっていうさ。そういう話が流れたことがあってな」
「でも、それってデマだったんだろ?」
春日部は上半身を起こして口を挟んだ。
「まーね…。でもほら、俺らは一緒にいるから嘘ってのはすぐ分かるけど、他のサークルのヤツらは分かんないだろ?」
「でもタダの噂なんだから、うんなの気にすることねーじゃん」
強気で言い放った春日部に、久我山は苦笑いを返した。まさにタダの噂ではないという雰囲気を漲らせて。
「そ、それがその噂流したの、原口らしいんだよね…」
うわ…
「マジですかそれ…」
笹原はそう言うのがやっとだった。
- 33 :アルエ第二話
:2006/06/17(土) 15:59:40 ID:???
- 「まーね…、原口本人から聞いたわけじゃないけど…」
「またどうして…?」
「ま、まあ。原口の方が気があったみたいなんだけど、ま、斑目は全然だったから。は、腹いせかな…、よく分からんけど…」
「最低ですね」
荻上は漫画を読むフリを続けるのは無理だと言わんばかりの顔をしていた。
真琴も珍しく表情がなかった。
「う、噂自体もさ、原口って前からあんなんで嫌われてたから。ま、斑目、結構嫌な思いしたみたいだよ…」
春日部は腕を組んで、じっと眉間にシワを刻んでいた。
口を固く結んでいるせいで、何か言うのは出来そうになかった。
視線を部室の隅にぶつけて心と体の何か微妙なバランスを保っているようだった。
「やあ〜〜〜、こんにちわ〜〜〜〜」
よりによってこんなときに来るか。
「はい笹原くん。これ約束の連絡先。ちゃんと断っといてよ?」
「ははっ…」
笹原は自分のきつい表情を笑って誤魔化した。出来れば一刻も早く出て行ってほしい。
部室に漂うどうしようもなく重苦しい空気の中を意に介すこともなく、原口は悠然と部室を見回している。
「あー、ハルコは今日来てないの?」
こいつ分かってて言ってんのか?
「今日は見てないですよ」
田中は落ち着きを払った調子で、原口に対して多少は免疫があるところを見せた。
「ふ〜ん」
いつもの溶けた粘土のような顔で原口は含んだ笑いを浮かべている。
「就活? 研究室かな? 授業はもう出てないだろう?」
「さあ…、どうですかね」
「あいつ内定出たって言ってたかい?」
「知らないです。自分らもいろいろ忙しいんで…」
またふ〜んと呟いて、原口は笹原に目をやった。
- 34 :アルエ第二話
:2006/06/17(土) 16:00:29 ID:???
- 素早く目を逸らした笹原の態度に、原口は満足気に口角を上げる。
「やっぱ出てないか〜〜〜、そりゃそうだよね〜〜。ただでさえ女子は厳しいからね〜〜」
笹原は謂れのない敗北感に顔を歪める。
「あいつ資格も何も持ってないしね〜〜、サークルの会長って言っても、ただ漫画読んでアニメ観てるだけのサークルじゃあなあ。
コミフェス参加くらいしないと活動とは言えないからねぇ。だから新会長さんは斑目より随分見込みがあるよ」
今度は苦笑いも出ず、笹原は押し黙った。
原口は倍率ドンで声を弾ませる。
「まーそれでも? 僕の紹介ならすぐに決まると思うんだよね〜。ほら、いろいろ面倒見てるからさあ。
どうせ頼るなら早めに言ってほしいんだよね。ずれ込んでくると先方にも迷惑が掛かるからさ」
シーンと静まり帰った部室に原口の笑い声だけが響いた。
「まあ……、そのうち決まるでしょ……」
田中の蚊の鳴くようなフォローの後、原口は決定的な一言を言った。
「そう? でもなかなか無いよ。あんなの雇いたいって会社」
「うっせーぞ、ブタ」
キレたのは春日部だった。
「クダラネーこと言ってねぇで、用が済んだらさっさと帰れよ。ウザがられてるのぐらい分かんだろ?」
空気が一瞬で張り詰めた。
春日部は射るような眼で原口を見ている。口元から僅かに覗いた歯は今にも噛み付きそうなほどだった。
笹原も他のメンツも、呼吸するのを忘れて二人に視線を注ぐ。
吹き出した汗で滑った眼鏡を抑えて、原口は冷静を装う。鼻つまみ者とはいえ、付き合うのはオタクか仕事上の相手。
ここまで面と向かって罵倒されたことは皆無だった。
「へ、へぇ。ハルコの話は癇に障ったかなぁ」
辛うじて声は上擦っていない。春日部は座ったまま原口を睨み上げている。
「当たり前だろ? 散々ハルコさんのこと馬鹿にしてよ。ふざけんなよ。フラれた腹いせか何か知らねぇけど、
いつまでも付きまとってんなよ。気持ちわりぃ」
図星を突かれた原口の顔は平手打ちをくったように赤くなっていった。
「関係ないだろ、お前なんか。何だ、ハルコの彼氏か何かかお前」
「そうだよ。付き合ってんだよ、俺たち」
- 35 :アルエ第二話
:2006/06/17(土) 16:01:04 ID:???
- それは言い過ぎだろう、と笹原は思った。
でも、間髪入れずに言い返したのは、正直カッコいいなと思った。
「なんだ…、随分ガラの悪い男と付き合ってんだなあ」
「性格悪いよりはマシだろ、顔は俺のがずっと良いしな」
原口は一瞬、眉に深いシワを寄せて、顔を田中の方へ向けた。
「田中、ハルコに言っといてよ。就職の相談ならいつでも乗るって。こいつじゃどうにも出来ないだろ?」
「テメッッ!!」
春日部は反射的に原口に掴みかかろうとしたが、立ち上がる瞬間に引き止められた。
真琴に腕を掴まれていた。
真琴は無表情で春日部の顔を見ていた。
引っぱたかれて様な気がして、いつの間にか春日部は席に戻っていた。
原口はそれを見てちょっとは溜飲が下がったのか、また泥のような笑顔を浮かべてわざとらしく尻を掻いた。
「まあ、いいや。そんじゃ笹原くん、ちゃんと電話しといてよ」
そう言うと、再びバイバーイという別れの挨拶を残して部室を出て行った。
笹原は前回その捨て台詞を聞いたときと同じに溜息を漏らした。
でもそれは原口へというよりも、春日部へのものだったが。
「いやーごめんねー。ちょーとエキサイトしちゃいましたぁー」
春日部は場の空気をマイルドにしようと必死に笑顔を振り撒いている。照れ隠しもコミだ。
あと、馬鹿にされた仲間のためにキレるというのも微妙にオタクっぽいような気がして、春日部は恥かしかった。
「まあ、気持ちは分からんでもないがな」
「きゅ、急にヒートアップしたから、び、びっくりしたけどね」
ロープから抜け出した捕虜のように、みんな肩を回したり伸びをしていた。
何せ体に力が入りっぱなしだったから。
「見てるだけで疲れましたよ」
「久しぶりに入学当初の春日部君に会ったような…」
「ははは…、ごめんなあ…」
ただそんな中、真琴には珍しく笑顔がなかった。
- 36 :アルエ第二話
:2006/06/17(土) 16:01:40 ID:???
- 「ね、怒ってる?」
大学からの帰り道、国道を跨ぐ陸橋の上。二人きりになったのを見計らって春日部は訊いた。
夕暮れの車列はヘッドライトを点して、二人の下をテールランプの赤い光の列とヘッドライトの薄いオレンジの列が
車幅を縮めてゆっくりと流れていた。
横にいる真琴に恐る恐る視線を向ける。
「何が?」
「何がって…、部室のアレだけど…」
ずっと表情が冴えないのは気が付いていたが、皆も前で訊くわけにもいかず、今やっと訊けた。
でも真琴は前を向いたままだ。
「アレの何?」
まだ笑ってくれない。
「何って…、え〜…、………いろいろ」
「いろいろって?」
ああ、やっぱり怒ってる。普段の真琴は決してこういうことは言わない。
いつも笑って俺の意見に付いて来るようで、いつの間に自分のペースに巻き込んでるような。
こんな真正面から気持ちをぶつけてきたりはしない娘なんだ。
「まあ、ケンカしそうなったし…。笹原とかちゃんと我慢してんのに…」
でも、そういうことじゃないよな。
「まあ、その、『付き合ってる』ってのは売り言葉に買い言葉っつーか、つい負けたくなくて言っちゃって…。
でも、嘘なんだしさ。そんな怒らないでも…」
「怒らないと思った?」
真琴は足を止めて恋人の顔を見上げた。
「春日部君がハルコ先輩と『付き合ってる』て嘘ついても私が傷つかないと思ったの?」
そんな風に言われると、
「え……、えと…」
真っ直ぐに見つめる真琴の瞳に、春日部君は思わず空に目を逃がしてしまった。
言葉が出てこない。
- 37 :アルエ第二話
:2006/06/17(土) 16:03:07 ID:???
- 「私は春日部君が好きだよ」
その言葉に、春日部は彷徨っていた視線を真琴に戻す。
「だから、嘘でもハルコ先輩と『付き合ってる』なんて言われるのは、とても嫌だし、悲しいの」
別に真琴は悲しそうな顔をしているわけでなかったが、それでも春日部には本当に悲しそうに見えた。
だから漸く言うべき言葉を告げることができた。
「ごめん…」
陸橋の上を強い風が吹き抜けて、真琴は顔に纏わりついた長い髪を中指と人差し指で掻き上げた。
そしていつものように微笑みを返した。
「私、春日部君のこと、ちゃんと見てるからね」
その時、珍しく真琴が春日部の手を取った。
敵わないな、と春日部は苦笑する。
確かに、今日はちょっとらしくなかった。ツチブタにはマジでムカついたが、子供っぽいことをしてしまった。
何でかな?
春日部を暗くなっていく空を見上げる。そこに何かを思い浮かべるように。
その時、真琴がグイっと手を引っ張って、また無表情で春日部を覗き込んだ。
「あ、何?」
「ちゃんと見てるのよ」
真琴とはフフフと不敵に笑って前を向いた。
額に汗をかいた。春日部は、それも何故だか分からない。
そして、まあ、いいやと呟いた。
つづく
- 38 :ガンバレあたし!の人
:2006/06/17(土) 16:23:03 ID:???
- うお、まさに堰を切ったようにSSが出まくりましたねえ…
いや、びっくり。皆考えてたことは同じだったんだなあ。
>>9
んー…それもアリだなっ!
つーことで妄想が形になったところで投下してくださいお願いします。
言いだしっぺの法則という奴でw
>妄想会長Vオギウエ
おお、夢のカップリング荻×荻!w
しかしジョジョネタを出すところまで被るとは…
これはむしろスタンド使いは引かれ合う?『重力』?(違
>アルエ
もはや何角関係だか分かんない所までw
真琴さんのキャラもいいです。
ハルコさんネタは好きなので、結構楽しみにしています。
しっかしこれ割とリアルな文科系クラブの内情のドロドロだあ…
ジョジョネタも…これはむしろス(ry
ガンバレあたし!には実は元ネタがあったりするんですが、
マイナーすぎて分からないかも。
一応元ネタのセリフ全部使ってます。違和感が無いとすれば
自分的にはおらっしゃー!って感じです。
- 39 :マロン名無しさん
:2006/06/17(土) 17:38:20 ID:???
- すげー。
ものすごいラッシュでにこにこが止まんない。
- 40 :マロン名無しさん
:2006/06/17(土) 18:39:46 ID:???
- …9スレ、ようやくここまで読めた…。いやーすごい投下量。しかも全部好きなシチュで興奮して止まらなくなったよ!くっはーーー!
>がんばれあたし!
咲ちゃん視点の話キター!しかも斑目相手。ごちそうさまでした。
キュピーンとか、信頼されて嬉しいとか、オタワードとか、汗かきすぎて脱水症状なりそうとか。
咲ちゃんを励まそうとしてちょっとズレてる斑目が愛しくて仕方ありませんでした。ほのぼのいいなあ。
…そんで、高坂のことを真剣に考えて「がんばれあたし!」と、戦う咲ちゃんがまぶしくもありました。かっこいいなあ。
高坂と幸せになって下さい。斑目は……………自分のSSで何とかしよう。(泣)
>妄想会長Vオギウエ
キターーーーーー!荻上さんが二人キターー!
せんこくげんしけん大好きです。ZもF91も。この荻上さん編は、焼き直しなんかじゃない、立派に「せんこく」荻上さんバージョンとして完成してますよ!
こうして対比すると、やはり最終話の荻上さんかわいいですねえ…妹に欲しい…血の繋がってない(ry
そして、過去の荻上さんの辛さや苦しさを改めて思い返して、もう一度今の荻上さんを考えて、嬉しくてたまらなくなります。
笹原もよくやったよ。荻上さんもがんばったよ。うんうん。
…こっそりマ(ryが出てたのも美味しかったとさ。
>アルエ
春日部くんがかっこええなあ…。嫉妬する真琴さんも、人間らしさ、女性らしさを感じて可愛い。
続きも期待しとります!
- 41 :マロン名無しさん
:2006/06/17(土) 21:55:37 ID:???
- >妄想会長Vオギウエ
Vキタ━━━━━(゜∀゜)━━━━━!!
荻上vs荻上の構図はとても面白かったw
こんな風に困った新入生が入ってきても荻上さんは
きっとフォローできるようになってるんだなろうなあ。
そんな成長がよく現れていました。
>アルエ
原口をとりあえず殴りたい。
あと、ヤナがかわいそうな件について。
・・・お前は俺が幸せにしてやるさ・・・。
前から思ってた斑目が女だったときのドラマ性がかなりいい感じで出てますねエ。
しかしこの後どうなるのか。期待大。
しかしスンゲーラッシュ。まだだ、SSスレはまだ終わらんよっ!!!
・・・やば、これ言った人この後終わったんだった・・・。
- 42 :まとめ中の人
:2006/06/17(土) 22:14:15 ID:???
- あ、ヤバス、>>1のテンプレの中のSSアンソロのところ、
募集中のままだ・・・。
・・・まあ、いいか・・・。募集中って事で・・・。
・・・・・・まだ間に合うかもしれません・・・。
相談承ります・・・。
- 43 :アルエ第二話あとがき
:2006/06/17(土) 23:02:52 ID:???
- 感想ありがとうございます。
>>38
今作のテーマはズバリ『三角関係』。ラブコメの王道を行こうと思ってます。
ハルコ、春日部、笹原、真琴、荻上、高柳?、の織り成す
トライアングルラブストーリーを書きたいです。
む、無理かも…。
>>40
高坂は女の子の方がいいですね。動かし易いです。
気持ちを素直に出してもいいし、ちょっと意地悪でもカワイイので許される。
活躍させたい。
>>41
ヤナは可哀想と思うのはまだ早い。もしかしたら彼も三角関係に絡んで…、こねーな。
すいません、やっぱり可哀想です。
- 44 :1 :2006/06/18(日) 10:10:37 ID:???
- >>42
ギャー!!!
すいませんすいません、
「えーっとアンソロは……っと、夏発売だから残しといていいな」
位の感覚で文章の中身まで見てませんでした。
平に、ひらにお許しをーっ!
奥さん買い物に行ってるのでその隙にひと謝り。いやほんとすいませんでした。
- 45 :筆茶屋はんじょーき5
:2006/06/18(日) 15:42:42 ID:???
- お久しぶりです。筆茶屋の続きです。
読んでいただけたら幸いです…
- 46 :筆茶屋はんじょーき5
:2006/06/18(日) 15:44:17 ID:???
- 千佳が目を覚ますと、暗闇に包まれた自分の部屋,、その布団の中だった。
ため息をつく。
どうやら、また倒れてしまったらしい。
家事の方は、あの後中島が雇ってくれた北川という女性のおかげで、順調に回っている。
彼女の手際に感心しつつ、ついそれに張り合おうとして倒れてしまう自分が、滑稽に思えた。
辺りを見渡す。
人の気配はない。
今度は安堵のため息をつく。
中島がかつてのように接してくれる事は、うれしくもあり、同時に苦痛でもあった。
彼女は千佳の過去そのものだったから。
千佳は彼女に聞きたいことがあった。
なぜ江戸にいるのか。
なぜ原口と供にいるのか。
…そして、あの噂は本当だったのか。
だが聞けなかった。
ただ、怖くて。
- 47 :筆茶屋はんじょーき5
:2006/06/18(日) 15:45:52 ID:???
”筆茶屋はんじょーき”
- 48 :筆茶屋はんじょーき5
:2006/06/18(日) 15:47:09 ID:???
- 不意に火種の臭いがすると、行灯に火が灯る。
千佳が驚いてそちらを向くと、人影があった。
原口だった。
原口は足音一つ立てずに近づくと、驚きの為に声すら出せない千佳を、布団の上から押さえつけた。
「お前は、あの女の何だ?」
酒臭い息を吐きながら、原口は尋ねる。
千佳が何も言えずにいると、原口は片手で千佳の首を掴んだ。
「あの女は俺が仕込んだ。女としても、盗賊としても」
手に次第に力が入る。
「俺が岡場所で拾った時、あの女は酷い様だった」
「客に愛想の一つも言えず、仲間には喧嘩を売り、売れ残っては折檻を受ける」
「見えないところを痣だらけにした、やせ細った女だった」
「だが、俺はその反骨が気に入って、落籍した」
千佳は必死に原口の手を外そうとする。しかし原口はもう一方の手で千佳の両手首を捕まえると、床に押し付けた。首を絞める手にさらに力が入る。
「あの女は実に憶えが良かった…この俺の片腕になれるほどに」
「いや、それ以上だな。いつ寝首をかかれるかわからないほど、だ」
言って原口は楽しそうに笑った。
「だが今のあいつは、まるでどこぞの町娘だ。おまけに指一本触らせようとしない」
ひときわ強く首を絞めると、原口はその手を離した。そして尋ねる。
「なぜだ?」
千佳は咳き込みながら首を振る。
「わからないのか?」
千佳は頷く。
「役立たずめ」
原口はそう吐き捨てると、布団を剥ぎ取った。
「なら、せめて女として役に立って見せろ」
- 49 :筆茶屋はんじょーき5
:2006/06/18(日) 15:48:13 ID:???
- 原口は千佳に圧し掛かる。
千佳は全力で抵抗する。しかし、上げようとした悲鳴は原口の分厚い手でふさがれ、押しのけるには千佳の腕はあまりに非力だった。
原口の手が千佳の体をまさぐる。はだけられた胸元から滑り込み、乳房を握り締める。
くぐもった声以上に、千佳の心は悲鳴をあげていた。
(やめて!いや!触らないで!)
(助けて!誰か!)
(……笹原さん!!)
鈍い音と供に、原口は千佳に覆い被さる。
千佳は目を閉じ、全身を固く緊張させた。
だが、原口はピクリともしない。
おそるおそる目を開けると、台所からでも持って来たのか、太い薪を持った中島が息を切らせていた。
中島は、呆然としている千佳を原口の下から引きずり出すと、着物の乱れを直し、自分の着物を脱いで千佳に着せる。
さらに、自分の財布を千佳の胸元に捻じ込んで言った。
「逃げな」
千佳にもようやく状況が飲み込めてくる。
部屋を出ようとして、千佳は足を止め、中島の手を握った。
「中島も一緒に…」
同情だったのか、義憤だったのか、それは千佳にもわからない。ただ、彼女はここにいるべきじゃないと、そう思った。
中島はうれしそうに、そして哀しそうに笑うと、千佳の手を振りほどいて言った。
「ねえ、千佳。いい事を教えてあげる」
「あなたの書いた本が上の目に留まったのはね、私がそう仕向けたの」
- 50 :筆茶屋はんじょーき5
:2006/06/18(日) 15:49:26 ID:???
- 信じられなかった。
信じたくなかった。
かつて聞いた、一番信じたくなかった噂を、彼女自身が肯定したとしても。
「どう…して…?」
千佳はかすれた声で尋ねる。
「私はね、あなたが大好きで、大嫌いだったの」
答える中島の声は澱みない。
「あなたは私にはない、全てを持っていたから」
「暖かな家庭。信頼できる友人。優しい許婚…」
「そんなこと…!」
「妾を好き放題抱えて家に寄り付かない父と、色小姓に囲まれて暮らす母。互いに競わされいがみ合う兄弟。家老の娘というだけでへりくだり、おべっかを使う友人。色にしか興味のない、父よりも年上の許婚。それがあなたに想像できるとでも?」
食い下がる千佳を笑い飛ばす。
「私にはあなたしかいなかった。私にきちんと向きあってくれたのはあなただけだった」
「あなたと付き合う事で、自分がどんなに惨めか思い知らされても、それでも…」
「あなたは幸せだった。そしてさらに幸せになろうとしてた。私はそれが許せなかった」
「だから、すべて壊してやったの」
中島は心底楽しそうに笑った。
千佳は思わず後ずさる。そんな千佳に中島は、凄みのある笑顔を見せながら告げた。
「わかったでしょう?ここには、あなたの味方は一人もいない」
千佳は逃げ出した。一目散に。振り返ることなく。
中島は千佳の姿が見えなくなるまで見送ると、懐から煙管を取り出し一服つける。
煙をくゆらせながら、涙をこぼす。
「馬鹿だね…彼女に一言謝りたくて、そのためだけに生きてきたのに…」
- 51 :筆茶屋はんじょーき5
:2006/06/18(日) 15:50:52 ID:???
- しばらくして原口は目を覚ました。
辺りを見渡すと、千佳の姿はなく、中島が煙管を吹かしていた。
「…小娘はどうした」
「逃がしたよ」
原口の問いに、中島は悠然と答える。原口は中島の襟首を掴んで凄む。
「どういうつもりだ」
「それはこっちの台詞だよ。人の物に手を出すなんてね」
「小娘はどこだ」
「知るもんか。知ってても教える気はないよ」
中島の人を食った答えに、原口は襟首から手を離し、喉笛を締め上げる。
「自分の立場をわかってるのか?」
「…わかってる…とも。あんたを…獄門台の…道連れに…できること…ぐらいね」
原口はさらに強く力を込める。
中島は煙管を吸うと、原口の顔めがけて煙を吹きかけ、笑った。
原口は憤怒の形相を浮かべると、全力で締め上げる。
中島の手から煙管が落ちる。
中島は、最後の一瞬まで抵抗しなかった。
「おい」
「…なんだぁ」
ごろつきの一人は蹴り起されて不機嫌な声を上げた。
「お頭の命令だ。全員叩き起こせ」
「今度はどこに押し込むんだ?」
「違う。小娘を狩り出すんだ」
走る。走る。走る。
人通りの絶えた道を、千佳はひたすらに走りつづけていた。
いくつ目かの角を曲がり、千佳は気付いた。
この道が、荻上屋へ向かう道だと。
- 52 :筆茶屋はんじょーき5
:2006/06/18(日) 15:53:41 ID:???
- 笹原は、釘付けされた荻上屋の表戸に寄りかかり、月を見つめていた。
「何をしてるんですか?」
女の声に、笹原は我に返った。
振り向くと、加奈子がこちらを見つめていた。
少し離れて、総市郎と光紀と斑目がいる。
それを見て、今日が総市郎と加奈子の結納の日であり、式の後で皆で飲みに行く事になっていたのを思い出した。
「ごめん。確か今日は…」
「気にしてませんよ。むしろそんな顔をして来られたら、かえって迷惑です」
加奈子は微笑みながら、笹原を言葉で切って捨てた。そして再び問い掛ける。
「それより、笹原さんはここで何をしてるんです?」
「いや、別に…」
「千佳さんのことを考えてるんですか?」
適当に誤魔化そうとした笹原を、加奈子は正面から見据える。
「多分…いや、きっとそうなんだろう」
笹原は月を見ながら答える。
「俺は彼女のことを何も知らない」
「知ろうとしなかった」
「俺が知っているのは、ここにいた彼女だけで」
「だから…」
加奈子は呆れ顔で尋ねる。
「他人に聞こうとは考えなかったんですか?」
「知ってるのか!!」
笹原は気色ばむ。
加奈子は逆に問い掛ける。
「笹原さん。千佳さんのことを好きですか?」
加奈子は待っていた。
千佳を本気で求めている事を、それを自分に見せてくれる事を。
そうでなければ、友人として、また一部とはいえ過去を知るものとして、千佳を託す気にはなれなかった。
- 53 :筆茶屋はんじょーき5
:2006/06/18(日) 15:55:06 ID:???
- しかし笹原は固まっていた。身動き一つせず、一点を見つめている。
そしてその目は加奈子を見ていなかった。
疑問に思って視線を追うと、そこには千佳がいた。
息を切らせ、驚愕の表情を浮かべ、こちらを見ている。
数瞬の後、千佳はこちらに背を向けて走り出した。
振り返ると、笹原は呆然と立っている。
「さっさと追いかけなさい!この馬鹿!!」
弾かれるように笹原は駆け出す。
加奈子が呆れるほど速く。
笹原は全力で千佳を追いかける。
程なく追いつくと、千佳の腕を掴んで引き止めた。
「離して!!」
「いやだ!」
笹原はそう叫ぶと、千佳の腕を引いて抱きしめる。
「俺は千佳さんが好きだ。だから離さない。絶対に」
千佳の動きが止まる。抱かれながら、その顔を上げ、笹原を見つめる。
笹原も見つめ返す。そして告げた。
「好きです」
千佳は驚きに目を見開き、顔を赤面させ、涙を滲ませながら応える。
「わたし…わたしは…わたし…」
「見つけたぞ!!」
だが、その言葉は男の大声にかき消された。
- 54 :筆茶屋はんじょーき5
:2006/06/18(日) 15:56:05 ID:???
- 二人が声の方向を向くと、一人のやくざ者が、こちらを指差して叫んでいた。
呆然としていると、見る間に十人ほどのやくざ者や浪人らしき男達が集まる。
そしてその中から、原口が現れた。
「やれやれ、千佳。許婚を放り出して他の男と逢引か?とんでもない女だな」
そう言うと、わざとらしいため息をつく。
「まあ、この方が都合がいいか。祝言には代役を立てておいて、『姦夫姦婦を重ねて四つ』というわけだ」
原口は笑う。そして真顔に戻ると、言い放つ。
「殺れ」
その声を受けて、男達が一斉に刃物を抜き放つ。
笹原は千佳に囁く。
「店の前に、斑目さんたちがいる。そこまで逃げて」
「笹原さんは…?」
「大丈夫。さっきの返事を聞くまでは、俺は死なない」
不安げに尋ねる千佳に、笹原は笑って答えた。
男が一人、笹原たちに切りかかる。
笹原は千佳を置いて飛び出すと、男を切り捨てた。
「行け!」
その声を受けてわずかに躊躇った後、千佳は走り出す。
- 55 :筆茶屋はんじょーき5
:2006/06/18(日) 15:57:53 ID:???
- 二人の男が左右から笹原に突きかかる。
右の男に踏み込む。抜き胴。向きを変え、もう一人を袈裟に切って捨てる。
男たちを睨みつける。
数人の男達が目配せをする。
そして、一人が笹原に切りかかると同時に、二人が左右を駆け抜けようとする。
笹原は躊躇わずに刀を右の男に投げる。刀は男の腹に突き刺さる。
正面から切りかかって来る男の刀を身を捻ってかわすと、男の手首を掴んで極める。
男が刀を落とす。
男を突き飛ばすと、刀を拾い、もう一人に投げる。男の足を掠める。男が転ぶ。
駆け出す。再び刀を拾い、男に止めを刺す。
新たな男が後ろから切りかかる。
転がってかわす。男はさらに切りつける。転がりながら男の足に切りつける。
男の動きが止まる。
その瞬間に、笹原は立ち上がりながら切り上げた。
(あと五人!)
笹原は荒い息をつきながら確認する。
一方、瞬く間に半数を失った男達に動揺が走る。
次の瞬間、笹原は深く息を吸うと、男達に飛び掛った。
一人目の首を突き刺し、抜きながら二人目を横なぎに払い、さらに他に切りかかろうとして。
刀を弾き返された。
「やるな…だが、そこまでだ」
男が一人歩み出る。
- 56 :筆茶屋はんじょーき5
:2006/06/18(日) 15:58:53 ID:???
- 「やっちまえ、沢崎!」
残った男が囃し立てる。
「…お前は小娘を殺ってこい。こいつは、俺が、殺る」
囃し立てる男にそう答えると、沢崎と呼ばれた男は刀を鞘に収め、腰を沈めた。
(できる)
笹原の五感が警鐘を鳴らす。
一方、囃し立てた男が笹原の横を駆け抜けようとする。
笹原の注意がそちらに向かう。
その瞬間、沢崎の刃が光る。
笹原は本能的に見を捻る。
…わかったことは二つ。
自分の首筋を浅く切り裂いた、相手の技の確かさと、
目の前の男を倒さない限り、自分が身動きが出来なくなったこと。
息を切らせながら千佳は走る。
逃げるためでなく、笹原に助けを呼ぶために。
ようやくたどり着いた荻上屋の前には、提灯の灯りに照らされた加奈子の姿があった。
しがみつき、訴える。
「お願いします!助けてください!!」
「え?えーと…笹原さんに襲われたんですか?」
「違います!!!」
千佳は本気で憤る。
(今、この瞬間にも笹原さんは命をかけているのに!!)
千佳がその思いを口にしようとした時には、加奈子達は別の理由で固まっていた。
刀を持った男の存在に。
- 57 :筆茶屋はんじょーき5
:2006/06/18(日) 15:59:55 ID:???
- 男も固まっていた。
小娘一人が相手だと思っていたら、4人も増えたのだから。
しかし、場数を踏んだ男にはすぐにわかった。
彼らが全く脅威にならない事を。
千佳を抱き寄せながら、加奈子は総市郎を見る。
(何とかしなさい)
その思いを受けて、総市郎は隣の光紀を見る。
(頼む)
その思いを受けて、光紀は斑目を見る。
(まかせた)
光紀の視線と思いを受けて、斑目は辺りを見渡した。
そこにはもちろん他にだれも居ない。
そして皆の目が語っていた。
『お願い』
『頼みます』
『やっちまえ』
『ただし俺ら抜きで』
斑目は刀を抜く。ため息をつきながら。
(悲しいけど俺ってサムライなのよね…)
- 58 :筆茶屋はんじょーき5
:2006/06/18(日) 16:01:15 ID:???
- 斑目は震えながら刀を構える。
せめてもの慰めは、刀が鳴るほどには震えていないことだった。
気が付けば、他の皆はじりじりと後退して、自分ひとりが男に向かい合っていた。
男は実戦から来る余裕なのか、構えもせずに近寄ってくる。
男は無造作に斑目の間合いを割り、切りつける。
刃が斑目の頬を切り裂く。
斑目は半歩下がる。
(痛い)
(怖い)
(俺はこんな所で何をしてるんだ?)
(なぜ俺は…)
悩み出した斑目に、男が再び切りつける。
今度は腕を切られる。
更なる痛みと恐怖が斑目を襲う。刀を投げ捨てて逃げ出したくなる。
その時、斑目の脳裏に咲姫の姿と声が浮かんだ。
そして思い出す。自分がなぜ剣の練習を始めたか。
(俺は逃げない)
(そして彼女に認めてもらうんだ!)
斑目は刀を振りかぶる。
それは笹原に教えられたただ一つ。
何千、何万と繰り返した型そのままに。
ただ、無心に。
斑目は刀を振り下ろした。
- 59 :筆茶屋はんじょーき5
:2006/06/18(日) 16:02:32 ID:???
- 振り下ろした斑目の刀は、止めを刺すべく踏み込んできた男の頭を、真っ二つに切り裂いた。
男が崩れ落ちる。
それを見て、斑目はへたり込んだ。
歯が鳴る。全身が震える。手は柄を握り締めたまま離そうとしない。
そんな斑目に千佳は駆け寄って叫んだ。
「斑目さん!お願いします!笹原さんを助けて!!」
だが斑目には聞こえていなかった。
あるのはただ目の前の、自分が初めて”殺した”相手の姿だけだった。
千佳は二度三度と叫ぶ。
それでも斑目が動かずにいると、千佳は男の落とした刀を拾い、もと来た方へ、笹原の下へと駈け出した。
「千佳さん!」
加奈子は叫びながら千佳の後を追う。
そしてその声に我を取り戻して、総市郎と光紀は斑目の元へ駆け寄った。
- 60 :筆茶屋はんじょーき5
:2006/06/18(日) 16:03:30 ID:???
- 笹原は荒い息をつく。
既に体には、多数の傷を負っている。
致命傷が無いのは、笹原の技と、沢崎自信がそれを望んだせいだった。
「どうした…御宅流はそんなものなのか?」
沢崎が問う。
「そんな訳はあるまい…さあ見せろ、その全てを」
「俺の仕官をぶち壊した高坂を、奴を超えた事を、お前の死で示せ」
笹原には沢崎の言葉など聞こえていない。
あるのはただ、一刻も早くここを離れ千佳を助けに行く、それだけだった。
あせりだけが募っていく。
最悪の事態を思い、それを否定し、思ったこと自体を振り払うべく笹原は切りかかる。
だがその刃が届くより速く、沢崎の居合が笹原を浅く切り裂く。
笹原は慌てて飛びのく。
沢崎は追撃しない。
ただ笹原をいたぶるために。
- 61 :筆茶屋はんじょーき5
:2006/06/18(日) 16:05:32 ID:???
- 今回はここまでです。
終われませんでした。
あと一回続きます。
お粗末でした。
- 62 :マロン名無しさん
:2006/06/18(日) 20:32:27 ID:???
- >>前スレ547
引き続きありがとう。苦労した部分を褒めてもらえるとまだまだ頑張ろうという気分になるよ。
「つながってます」は解って書いてんでしょーが穿ちすぎw
>>アルエ第二話
大作になりそうだが読ませる。すばらしい。高柳かっこいい。荻上さんあんたはキャーとか
言いつつ喜んでるんじゃありませんっ!
>>筆茶屋はんじょーき
緊迫感があってたまりません。てゆーかどの作品に出てきても超悪役になる原口って一体w
次回最終回ですか?ハラハラしながら待たせていただきます。
今回は結構書き込めたので満足。
スキあったらまた来るけど忙しければ来週末までさよーなら。
ノシ
- 63 :アルエ第三話まえがき
:2006/06/18(日) 21:23:30 ID:???
- どうも。
昨日投稿したくせに、もう第三話が書きあがりました。
原作の流れに乗って書けるから早いのか、ただ暇なだけなのか。
クロアチア戦前に書けて良かったです。
それでは宜しくお願いします。
- 64 :アルエ第三話
:2006/06/18(日) 21:24:22 ID:???
- 澄んだ朝の光がアイボリーのカーテンをぼんやりと照らし上がらせている。
排気ガスの成分をそのまま音に変換したような騒音で走り去るスクーター。
うつ伏せ気味に体を捻っていた笹原の瞼が少しだけ開く。
部屋はまだ薄明るいだけで、それは笹原の充血した目に優しい。
まどろみの中、笹原は徐々に世界を認識していく。
隣に誰かいる。
暗がりに、布団から露になった肩が絹のように白く光っている。それは女性の持つ曲線だった。
不意に身じろぎして、サヤから白い実が抜け出るように彼女の体が空気に触れる。
細い背中は下着を纏っていなかった。
笹原は手を伸ばす。一体誰なのだろう? ある種の期待を込めて。
あるひとを思い浮かべて、手を伸ばし、肩に触れる。そして壊れないようにそっと力を込めた。
クガピー…。
「うわわあああああーーーー!!!!」
跳ね起きたところは久我山の部屋だった。もうかなり陽が高い。エアコンを点けっ放しの部屋は肌寒かった。
ボサボサの髪と隈を従えた目、油の浮いた顔。笹原は動悸を抑えて部屋を見回す。
久我山はテーブルに突っ伏して死んでいた。もとい、死んだように眠っていた。
笹原の絶叫を聞いてもピクリともしないわけだから、どっちでもいい気がする。
自分が眠っていたのもフローリングの床の上。どうやらカーペットにすら辿り着けなかったようだ。
「あ、そっか…。原稿…完成して…」
スキャナーで取り込んで、CD−Rに焼こうとしたところまでは記憶にある。
その後、朝になってるということは、焼き上がりを見守ってるうちに気を失ったのか。
椅子に座っていたはずなのに。よく寝れたな。転げ落ちて怪我してないかな?
そういや何だか、変な音がさっきから聞こえる。
ピンポンピンポン、ブゥー、ブゥー。
ピンポンピンポン、ブゥー、ブゥー。
笹原は暫くぼーっとしてその音に聞いていた。まったく頭が働かず、お経でも聞ているような気持ちで
玄関のチャイムと携帯が床の上で暴れ回る音を聞いていた。
思考能力がどうにか小学生レベルぐらいまで回復したところで笹原は電話を取った。
「はい…、もしもし…」
「おー…、生きてる…?」
出たのはハルコだった。チャイムが止んだ。
- 65 :アルエ第三話
:2006/06/18(日) 21:24:56 ID:???
- 「はい、何とか…。久我山さんは死んでるみたいですけど…」
「はは…、そっか…。お疲れ様……。取り合えず外いるから、鍵開けてよ」
「うぃス…」
笹原は立ち上がって、ドアへ歩いて行った。が、ピタリと立ち止まった。
何か歩きにくい。そっか、寝起きだもんなあ…、疲れてるし、心持ちいつもより元気…。
「すいません。ちょっと待って下さい…」
「ぅん? どした?」
えーと、どーしよー…。
「あー…、寝起きなんで、ちょっと顔洗います」
「は? や、鍵開けてって。それから洗えばいいじゃん」
ハルコの怪訝な表情が声から伝わってくる。そりゃそうだ。どーしよー。まだこいつは元気いっぱい勇気百倍だ。
「そだ、トイレも行かないと…」
「だから鍵だけ開けてよ。それから好きなだけしなさいって」
そこでハルコの声が小さくなった。
外で階段を下りて行く足音が聞こえた。
「ちょと! ドアの前で電話してるの恥かしいんだけど。開けて、早く」
ドアを開けるとこっちが恥かしいんだけどな…。でもそれは言えないし。
笹原はキョロキョロと部屋を見回す。いい言い訳なんて転がってるわけないのに。
テンパった挙句に出てきたのがコレだ。
「あ、あれです、ダメですこれ。難しい。開けられません。何だろ。暗証番号が…」
「ふざけてると殴るよ?」
ふざけてないんです。むしろ真剣極まりないんですけど。
一度座布団をあてがってみたが、ダメだ。最低だコレ。隠してるけど隠せてない。
もういっそ素直に言っちゃうか? ダメだ、セクハラだソレ。
ハルコに冷ややかな目で見られる自分を想像する。けっこうなダメージだ。それは回避しなければ。
でも、どうやって?
途方に暮れる笹原。結局鎮まるまで右往左往するしかなく、
ドアを開けたときハルコさんにごっさ冷ややかな目で見られることになりました。
合掌。
- 66 :アルエ第三話
:2006/06/18(日) 21:25:28 ID:???
- 笹原の座席の隣は空席だ。1つ空けてハルコが座っている。
昼間の電車は空席だらけで、それがより一層物悲しさを誘っていた。
笹原はパイプに肘を掛けて横目でハルコを見やる。
ミントグリーンのブックカバーを纏った文庫本を読み耽っている。
瞳は眼鏡越しに文字を追って上下していて、笹原の方を見る気配もない。口はキュっと閉じられていた。
キマズイ…。
それはミナミ印刷さんの最寄り駅に着くまで続いた。何度か乗り換えたのに。
まあ、いいんですけどね…。徹夜明けで着替えてないし、風呂入ってなくて汗臭いし。
そんで『うわ、笹原クサッ!』とか思われるのヤですから。
いいんですけどね…。最悪から二番目ぐらいには…。
はぁ……、情けな……。
「……では確認いたしますので少々お待ち下さい」
「はい」
ハルコは堅苦しく腕を膝に突っ張って応えた。印刷所に来るのは当然初めて。
ちょっと緊張する。
受付の女子社員が出力見本をめくる。それは言わずもがな、でき立てほやほやのくじアンのエロパロマンガなわけである。
(うあ……、見られてる。まー私が描いたんじゃないけど……)
仄かに赤面して彼女の手元を見つめる。隣の笹原は顔を伏せて置物のように座っていた。
寝てるのかな?
「……笹原?」
「ぅわっ!?」
笹原は突付かれたようにビクッと体を震わせて、精一杯瞼を開いてハルコを見た。
瞼が意思に従わないものだから、額の動きで引っ張ろうとしてオデコに何本もシワが寄っていた。
「すいません…」
「いいけど…」
でもまた見ると12ラウンド戦い切ったボクサーみたいな体勢でパイプ椅子に座っている。
電車の中で寝ないようにしていた分、眠気が半端でないようだった。
ハルコはちょっと反省した。
朝のワケの分からないやり取りからこっち、ちょっと冷たく接していたのだが、それも疲労のせいかもしれない。
三日連続徹夜の後なんだから、頭に変なものが湧きもするだろう。
どんな蟲が湧いたにせよ、大人気なかったな。これだけ頑張った笹原に対して。
- 67 :アルエ第三話
:2006/06/18(日) 21:26:06 ID:???
- 入稿が終わると、二人は駅に向かって歩き出した。
いつもは一緒のペースで歩いていく二人だったが、今日の笹原は遅れ気味。
ハルコは何度も振り返って、足を止めて笹原を気遣った。
「ダイジョブ?」
「はい…、大丈夫です……」
笹原は真っ直ぐ歩いているつもりのようだったが、気が付くと道の右へ右へ寄って行ってしまうらしかった。
「まだまだ空だって飛べますよ……」
マサルさんネタで返した笹原だったが、そのセリフは笑えない。
明らかに『オクレ兄さん!』状態に突入している。
「どっか休んでこっか? 昼時だし、何か食べてく? 奢るよ?」
眉を下げて心配そうに覗き込むハルコさん。笹原はブロック塀に手をついて気丈に笑い返す。
「いっす、いっす。悪いっすから…。それにこうなったのも自分の責任ですからね…」
そう言ってまた歩き出すが、地面が傾いているように右へ右へと寄って行く。
ハルコの眉は下がったままだ。
ちょうど喫茶店の横を通ったところで、ハルコは笹原の手首を掴んだ。
「入るよ」
笹原は慌てた。5分の1ぐらいしか開いてなかった目が全開になった。
「いいですよ。大丈夫、帰れます」
笹原はぶんぶんと腕を振ったが、力が入らず振り解けない。
結果として、それはハルコに溜息をつかせる効果しかなかった。
「ちょっと休んでこ? そんなじゃホームから転落するって」
「いや、でも…」
笹原は恥かしそうに顔を伏せた。
「徹夜明けで風呂にも入ってないし、髪ボサボサだし…、汗臭いですから…。……イヤでしょ?」
「そんなの気にしてんの?」
そう言えば印刷所でも妙に離れて座ってたよーな。
ハルコは呆れ顔で笹原の肩を叩いた。
「ほら、入るよ」
笹原はハルコに引き摺られて喫茶店に入った。
何だか、ちょっと嬉しかった。
- 68 :アルエ第三話
:2006/06/18(日) 21:26:38 ID:???
- 「あーそう! できたんた!」
部室には春日部と真琴と荻上がいた。
「ええ、今、入稿しに行ってます。笹原先輩と、……ハルコ先輩が」
荻上も久我山たちほどではないとはいえ、連日連夜の執筆に疲れているようだった。
元気がないように見えたのはそういうことだろう。
「クガピーは?」
「力尽きて寝てるそうです」
「アハハハー、ギリギリだなー」
春日部は快活に笑った。
「な、本当ダメなサークルだろ? あまり多くを期待しない方がいいと思うよ?」
荻上は少し思うような仕草をしてから、
「最初から期待なんかしてないです」
と言った。
「あ〜〜らそ」
春日部はからかうように言って真琴に目配せした。真琴は荻上を見て柔らかに微笑んでいる。
「でも、まあ、笹原のことは許してやってよ」
春日部の唐突な言葉に、荻上はドキリとした。
「何がですか?」
「会議で原稿描かなくていいって言ったこと。あれ一応、笹原なりの優しさなんだよな〜、ちょっとズレてんだけど」
春日部は頬杖の上に乗った顔を捻り、まったくなあ、と呟いた。
「別に荻上をおミソ扱いしてるとか、そーいうんじゃないから。女の子だから負担かけないようにしたかったんだろうけど。
まったくな〜、会長だからって気張ってんだよな」
荻上の頬が見る見る赤く染まって、彼女はぷいっと顔を伏せた。
耳の奥でどくどくと打つ脈の音色が聞こえる。
「わ、分かってます」
「あ〜〜らそ、そのわりには泣いちゃったり?」
「そんなことっ、忘れましたっ」
「ならいいや」
クククと笑う春日部を荻上は憎々しげに睨んだが、頭はもう別のことを考えていた。
そっか、ウザかったとか、そういうことでねぇんだよな…。
春日部の言った『女の子だから』というフレーズが、妙にむず痒く感じた。
- 69 :アルエ第三話
:2006/06/18(日) 21:28:21 ID:???
- ハルコはアイスコーヒーにガムシロップとミルクを注ぎ込んで入念にかき回す。
下にガムシロップが溜まってたりすると嫌だし、ちゃんと均等に混ぜないと苦くて飲めない。
笹原はサンドウィッチセットを頼んでいた。飲み物はオレンジジュース。
疲労回復にはビタミンCが効果的。
笹原はソファの隅にハマるように腰掛けて、ゆっくりそれらを口に運ぶ。
お陰で少しは顔色が良くなっていた。
「すいません…。こんな体たらくで…」
「しょーがないって。無事入稿できたし、よく頑張ったじゃん」
ハルコの励ましに、笹原は力なく笑った。心の中は情けなさでいっぱいだった。
初のコミフェスサークル参加に意気込んだものの、久我山との調整は大失敗。
就職活動で忙しいハルコまで会議に駆り出すハメになり、そのくせ自分は久我山を責めていて、
会議では醜い罵り合いを演じて荻上を泣かせてしまい、最終的に春日部が仕切るしかなくなって、
挙句にこんなところでグッタリしているのが自分だった。
笑らけるぐらい情けない。
笹原は、やはり自分は会長に向いてないと思った。
実際、委員長的役割は小中高を通じて皆無だった。よっぽど春日部のが向いている。
グズグズのあの状況から何とか本が出せるところまで持って行けたのは、春日部の決断があったからだ。
決断か、本当は俺がしなきゃいけなかったんだろうなあ。
春日部君、カッコよかったよな。
笹原の頭に浮かんでいたのは、ハルコのために原口に言い返している春日部の姿だった。
「なんか…、悪かったね…」
不意にハルコが言った。
笹原は驚いて顔を上げる。
「え…?」
「うん…、いや…、まあね…」
- 70 :アルエ第三話
:2006/06/18(日) 21:30:47 ID:???
- ハルコは言い難そうにアイスコーヒーをかき混ぜ続けている。
「急に会長を押し付けちゃったしね…。前もって笹原の意志ぐらい聞いとくべきだったなと思って…」
笹原はハルコに向かうように座り直した。
「でも、コミフェス参加は自分が言ったことですから」
「それもノリで言ってみただけってとこあったでしょ? 急な思いつきみたいな…」
正直に言ってその通りだけど…。
「ヤナに引き合わせてサークル参加セット買い取っちゃったのも…、あの辺で冷静になっとけばなぁ…」
「あー……」
ハルコがはははと自嘲するのを見て、笹原は喉の奥が詰まりそうになった。
ついさっきまで自虐に浸っていた自分が、急に腹立たしくなった。頭にきた。
自分で自分のケツを拭けないばかりか、ハルコにまでこんな顔をさせているのが許せなかった。
「でも結構楽しいですから」
笹原は言った。
コーヒー色に染まっていたハルコの目が、笹原を映した。
「つい言っちゃったことがどんどん現実になって、ビビったのはビビリましたけど。当選通知見たときはもーテンション上がりまくりで。
三日徹夜で缶詰とか、それはそれで普段できないですからね」
「ははは、それは無い方が良かったけどねぇ」
表情から憂いの色が薄らいでいく姿に、笹原はほっとした。
うじうじしてたってしょうがない。もう後は当日を楽しむだけなんだから。
「コミフェス楽しみですよね?」
笹原の問いかけに、ハルコが笑って頷いた。
それは笹原にとって、疲労回復に何より効果的に違いない。
つづく
- 71 :マロン名無しさん
:2006/06/19(月) 00:12:21 ID:???
- >筆茶屋
シリアスですねー。原口は本当にヤな奴ですね!荻上さんを襲うなんて!
笹原カッコヨス でも自分的には斑目が…よくやったよ。うん。へたってたけど。
>アルエ
笹原大変だァ(色々と)
コミフェス苦労話がSSで補完された、という雰囲気ですね。なかなか面白かったっすー。
…コスプレまだー?w
- 72 :アルエ第三話あとがき
:2006/06/19(月) 22:11:47 ID:???
- 感想ありがとうございます。
>>71
コスプレどーしよー。
何となく面白いかなと場当たり的に書いたのを後悔してます。
- 73 :マロン名無しさん
:2006/06/20(火) 00:23:19 ID:???
- >筆茶屋はんじょーき
原口の悪ぶりが憎々しいね。
まさか中島を殺めるとは、ますます許せぬ。
一方、笹原の殺陣が凄いですね。強い!
斑目の動揺ぶりもいい。「初めての斬撃後の茫然自失」は、「日本の一番長い日」を思い起こしたりして、きっと手が硬直して刀の柄が離せないに違いないw
次回の決着を期待してます。
>アルエ第三話
コミフェスの話を補完するような展開が面白く読めました。
冒頭を徹夜後の笹原久我山から始めて、あの会議のやり取りを回想で持ってくる構成も、ハルコ&笹原に焦点当てていて良かったです。
- 74 :Vオギウエ感謝
:2006/06/20(火) 00:55:48 ID:???
- Vオギウエ、駄文にご感想いただき感謝感謝です。
>>26
>大人になったオギーが優しく頼もしく、それを否定したくてしょうがないオギー04もかわいらしく
荻上対荻上の見所はやっぱりこの成長度合いのギャップなんで、2人の違いを感じてもらえたらとても嬉しいです。
>参考にしたいが、自分と何が違うのか判らない
とんでもない&もったいない言葉。僕の駄文は参考になんかならんですばい。
「みんな違ってみんないい」(金子みすず)ですよ。
>>38
>ジョジョネタを出すところまで被るとは…
かぶりましたね〜。ジョジョ好きとげんしけん好きは意外とかぶるのかな?
僕は愛着がある分、1部〜3部からのネタ出しが多いです。
>>40
>過去の荻上さんの辛さや苦しさを改めて思い返して、もう一度今の荻上さんを考えて、嬉しくてたまらなくなります。
過去の荻上から見たら、今のデレ分増量の荻上は絶対に許せない存在だろうなと思います。現在と過去の違いは、やっぱりげんしけんの仲間との絆が深まったおかげと、笹原とつながっ(ry
> …こっそりマ(ryが出てたのも美味しかったとさ。
……そう思いますか? そう思います? クククッ……。
>>41
>こんな風に困った新入生が入ってきても荻上さんはきっとフォローできるようになってるんだなろうなあ。
そうですよね。自分のことを振り返る視点(自分を認める心)が生まれたら、他の人のイタさにも多少は優しくなれると思います。
>Vキタ━━━━━(゜∀゜)━━━━━!!
はい「V」です。
♪終わりのないディフェンスでも……いいわきゃねーだろ!>日本代表
無印、Z、F91、Vが出ましたので、やっぱり最後は、「ヌルオタの修羅場が見られるぞ!」のZZでっす。
長文失礼しました。
- 75 :マロン名無しさん
:2006/06/20(火) 02:35:57 ID:???
- >>74
ZZ!?ZZ!!超期待。
…え、マ(ryじゃなかったの?えっ?えっ?(汗)
- 76 :マロン名無しさん
:2006/06/20(火) 05:04:48 ID:???
- >>筆屋はんじょーき
うお・・・殺陣ですな・・・。斑目がんばった、超がんばった。
しかし、ハラグチの悪役ぷりはすごいなあ。
げんしけんで悪役っていったら彼しかいないせいなのかもしれませんが・・・。
ラスト期待シテオリマス。
>>アルエ
なんかすごい展開になりそうだぞぉ・・・?
次回もwktk・・・w
>>74
フ・・・「ZZ」は奴と見たっ!
そして・・・今回出てきた奴も・・・。ニヤリ
楽しみにしておきますw
- 77 :まとめ中の人
:2006/06/20(火) 05:05:47 ID:???
- >>44
気にせんで下さいー。
HP見ていただいてるんですね、完成楽しみにしていてください。
- 78 :未来予想図・4月
:2006/06/22(木) 01:31:37 ID:???
- さて、「未来予想図・序章」からだいぶ時間がたってしまったけど、ようやくだいたいの準備ができてきました。
一応前スレに投下した斑目と朽木の話、の続きです。
今回は斑目出てこないけど。
- 79 :カレーライス1
:2006/06/22(木) 01:32:38 ID:???
- 12レス+おまけで投下します。
「カレーライス」
(未来予想図・4月)
***
クッチーは疲れていた。
4月からようやく始めた就職活動と大学の授業で、体力だけには自身があったのだがさすがに疲れていた。
朽「にょ〜…。」
荻「…大丈夫ですか?」
夕方、朽木君は珍しく部室の机の上で伸びていた。
心配になった荻上さんが声をかける。
朽「む〜。毎日色々考え過ぎて頭が痛い…。体は別に平気なんだけど〜…。」
疲れすぎていつもの変な口調も出ないようだ。
朽「単位取らないと卒業できないし…。さすがに留年はまずいにょ…。」
荻「自業自得とは思いますが…でも、いつもの朽木先輩らしくなくてちょっと心配です。」
朽「うう…オギチンに心配って言って貰えると…早くいつものクッチーこと朽木学に復活しないと!!」
カラ元気を出し、がばっと起き上がる。
荻「いや復活しないでいいです。なんならずっと今くらい忙しくしてて下さい。」
荻上さんにバッサリ言われてしまう。
朽「にょ〜〜〜…」
再びへたる朽木君。
荻「…でも先輩、最近本当によくやってると思いますよ。昔に比べれば。」
荻上さんがフォローを入れる。
- 80 :カレーライス2
:2006/06/22(木) 01:33:32 ID:???
- 荻「人の話落ち着いて聞けるようになったし。偉いモンですよ。」
朽「…小学生デスカ、ワタクシ。…いや、でも本当のことだからにょ…」
荻「それに、周りの空気を読めるようになったじゃないですか。一人で騒いだりしなくなったし。」
朽「え?」
それは疲れていて騒ぐ気力がないだけなのだが、荻上さんはこんな話をし始めた。
荻「朽木先輩と、以前の私は…似てるんですよ」
朽「…ほぇ!?どこがデスカ??全然似てないにょ。ボクチン、荻上さんみたいに目が大きくないにょ」
荻「いえ、顔じゃないですよ(汗)…現視研に来る経緯とか、似てると思ったんですよ。私も先輩も、前にいたサークルを半ば追い出されるようにしてここに来たじゃないですか。」
朽「む、ボクチンは追い出されてないにょ!アニ研じゃ誰も僕を分かってくれなくて、逆ギレ勝負を挑んだら丁重に他のサークルを薦められただけにょ!!」
荻「それを追い出されたって言うんですよ」
朽「む、そーなのか」
荻「…最近、あの頃の自分を振り返ってみるんです。そうしたら、なんとなく朽木先輩のことも分かったような気がして」
朽「?どーゆーことかにゃ?」
荻「…寂しかったんです」
朽「…?」
荻「ずっと、自分がいてもいいところを探してたんです。でも、私はコンプレックスや変なプライドや、不器用さから、どこにいってもうまくいかなかった。孤立して、でも孤立している時は寂しくない、平気だと自分に言い聞かせてたんです。
でも本当は辛かった。…だから、そのモヤモヤを周りにぶつけてたんです。周りを攻撃することで自分を守ってたんです。…そうやって、また周りと溝を作る。悪循環でした。」
朽「………………。」
- 81 :カレーライス3
:2006/06/22(木) 01:35:03 ID:???
- 荻「だから、現視研に来たときもなかなか素直になれなかった。
また攻撃的になって、周りを引かせるようなことばかり言ってました。…我ながらイタいヤツでした。
でも誰も私を追い出そうとしなかった。だからここにいた。
…そのうち、ここに入り浸るようになりました。それから春日部先輩や大野先輩と話せるようになりました。
他の先輩や、…そして笹原さんとも。
私は………。」
荻上さんはいったん言葉を切った。
荻「…私は、ずっと誰かに『かまって』欲しかったんです。自分がかまってもらうことばかり考えていた気がします。本当は。
誰かに受け入れてもらうことばかり…。
でも怖くて、素直になれなくて、逆に拒絶して、周りを振り回してました。
…でもある時、この場所が自分にとっていかに大事な場所になっていたか悟ったとき、なんだか自分が情けなくなりました。」
朽「…むむ?情けないって何デ?」
荻「…自分のことばっかり考えてて、他の人の気持ちとか、思いとか、考えてなかったんです。
だから平気で人を傷つけるようなことが言えたんです。
『オタクが嫌い』だとか…私にそんなこと言う資格なんかなかったのに………。」
荻上さんは俯いた。
荻「そう気づいて、自分が今いかに恵まれているか分かったんです。こんな自分でもいていい場所があって、大切な人たちがいて…。
だから、自分を変えたいと思いました。攻撃的で悲しい自分を変えて、もっと人を思いやれるようにならないと、
大切な人たちに申し訳ない気がして。
…そして、自分もそんな周りの人たちの役に立てるように。少しでも、受けた恩を返せるように。」
朽「………………フーン…。」
(オギチン、そんな風に思ってたのかぁ…。)
- 82 :カレーライス4
:2006/06/22(木) 01:35:55 ID:???
- 荻「…で、以前の私と朽木先輩が似てるってさっき言いましたけど」
朽「へ?」
荻「…朽木先輩もそうなのかなって思ったんです。誰かに『かまって』欲しいんだけど、自分がかまってもらうことばかり考えてたんじゃないのかな、って。
でもうまくいかなくて、周りを振り回してるんじゃないかって。
私は素直じゃなかったけど、朽木先輩は逆に素直すぎて駄目なんじゃないですかね?一方通行なんですよ。
自分のことばっかりで、他の人の気持ちとか考えてないから、うまくいかないんじゃないですか?」
朽「………………………。」
荻「もっと相手のことを知りたい、分かりたいって思ってたら、人の話を聞こうと思うようになります。
そうしてたら自然に相手の人と仲良くなってるモノなんですよ。」
朽「………………………。」
荻「…偉そうに言ってすいません。
でも、もし朽木先輩がこの場所を大事に思っているのなら、私たちを仲間と思っているのなら、一度そういう風に考えてみて欲しいんです。」
朽「………オギチンはどーゆー人なのかにゃ〜??」
荻「え?」
朽木君はいきなり聞いた。
朽「オギチン、今言ったでしょ。相手のことを知りたかったら、話を聞けって。
で、オギチンはどーゆー人なの?」
荻「…ええ〜〜?い、いきなり聞かれても…、そ、そうですね。わたすっていつも偉そうっすよね、先輩相手に」
朽「そーだね!!もっとボクチンを敬うのダ!」
荻「無理です。ていうかもっと敬えるような人になって下さい。」
朽「うわ、キツいツッコミ!!アハハハハ!」
- 83 :カレーライス5
:2006/06/22(木) 01:36:52 ID:???
- 荻「…じゃあ、朽木先輩はどーゆー人なんスか」
朽「ボク??…ボクは自分のこと、よく分かってるつもりにょ〜〜。ちょっと個性的で前衛的なんで、ボクチンのナイスアドリブに世間がついてこれない!
周りが理解してくれない!」
荻「ちょっとどころじゃないッスよ。それに、裏を返せば朽木先輩がズレてるから世間を納得させられないだけじゃないスか」
拳をつくり力説する朽木君にツッコミを入れる荻上さん。
朽「オギチンはネガティブだにゃ〜〜。もっとポジティブに生きなヨ!!」
荻「度を越したポジティブは思考停止とどう違うんですか?」
朽「む?思考停止??それって駄目なの???」
荻「…もーちょっと考えたほうがいいと思いますよ。それに、思考停止して何かが好転するんですか?」
朽「考えすぎて悪いほーに転がってったんじゃないのカナ、オギチンは?」
荻「う、反論できね…(汗)」
朽「オギチンに理屈で勝ったにょ!ヒャッホウ!!」
荻「勝ったからどーだって言うんですか(怒)」
朽「う、そんな睨まないでにょ〜…。ボクチンだって、色々考えてるんだにょ〜」
荻「どんなこと考えてるんですか?」
朽「さっきオギチンが言ったみたいに、ボクチンだってこの場所が大事だと思ってるにょ。」
荻「…そうですか。」
朽「ボクチンみたいなちょこっと個性的な人がいてもいい場所があるのは助かってるし。
だから空気読むとか苦手なコトでも、苦手とか言ってられないって思ってるし。オギチンや大野先輩も大事な仲間だと思ってるし。」
荻「………そう、ですか。」
朽「だから、今さら…」
荻「良かったです」
朽「え??」
朽木君が荻上さんの顔を見ると、荻上さんは少し俯きがちになっていたが、口元が少し笑っていた。
- 84 :カレーライス6
:2006/06/22(木) 01:37:24 ID:???
- 荻「朽木先輩がそう思っていてくれて…良かったです。ホッとしました」
そう言って顔を上げた。少し赤くなった顔には笑みを浮かべていた。
朽「………………………………………………………。」
朽木君はびっくりしていた。
荻「…どーしたんですか?」
朽「へ!?…いや、オギチンが笑いかけてくれるのなんて初めてじゃないかナ??」
荻「そうですか?」
朽「いやそーでしょ。昔、顔合わせたとたん舌打ちされたことあるにょ!」
荻「…そんなことしましたっけ私」
朽「うわ、忘れてるにょ!?『チッ!!』て、聞こえよがしに舌打ちして出て行ったにょ!確か去年の新歓の時!!」
荻「…そんなコト言ったら、朽木先輩に私、初対面で殴られたんですけど!」
朽「ヘ??そんなことしたかにゃ?」
荻「しましたよ!!ていうか朽木先輩こそ忘れてるんですか!?他にも色々…盗撮されたり!人のプライベートを!」
朽「まあまあ、あれは結果オーライじゃないかにゃ?どのみちそーゆー趣味があるってバレるのは時間の問題だったワケだしー」
荻「そーゆー問題ですか!盗撮自体に問題があるって言ってんですよ!!」
朽「む〜。じゃあ今度は声かけてから撮るにょ」
荻「…撮らないで下さいって言ったら、引き下がってくれます?」
朽「そこで引いたら漢がすたるにょ!!」
荻「だから駄目なんですよ!(怒)」
朽「にょ〜〜〜。人に合わせるのって、むずかしいにょ〜〜〜…。」
- 85 :カレーライス7
:2006/06/22(木) 01:37:55 ID:???
- 荻「…でも、こうして朽木先輩と普通に話してるのって初めてッスよね。というかマトモに話せたんですね朽木先輩」
朽「…オギチンはボクを何だと思ってたんだにょ?」
荻「異性人…?」
朽「地球外生物扱い!?まさかそー来るとわ!!!(汗)」
荻「アハハハ…冗談ですよ、半分」
朽「なーんだアハハ…って半分本気!?オギチーン!!」
荻「あははは、はは…!」
荻上さんはずっと笑っていた。
その時、荻上さんの携帯が振動を始めた。
荻「あ、笹原さんから…」
荻上さんは通話ボタンを押した。
荻「はい、はい。………あ、そうなんですか?いえ…今日は遅くなるって聞いてたから。ああ、そうなんですか。
いえ大丈夫です。はい、はい、じゃまた後で………」
電話を切った。電話でのそっけない口調とは裏腹に、顔は少し緩んでいる。
朽「オギチン、帰るのかにょ?」
荻「ええ、笹原さんが今日は早く家に来れるようになったらしいんで。」
朽「フーン。」
荻「朽木先輩はどうします?もう出ますか?」
朽「いや、僕はもー少しここにいるにょ。」
荻「わかりました。最後カギかけといて下さいね。」
そう言って荻上さんは部室のドアを開け、出て行った。
- 86 :カレーライス8
:2006/06/22(木) 01:38:33 ID:???
- 恵「お、ちゅーす。」
荻「あ、…ども。」
荻上さんが帰ろうとして廊下に出た数分後、恵子とばったり会った。
相変わらず派手な格好をして、化粧も濃い。
恵「ん、今帰るとこなんだ?お姉ちゃん」
荻「…お姉ちゃんはやめて下さい。帰るトコです。」
恵「んーそっか、今部室に誰かいるー?」
荻「朽木先輩ならいますけど」
恵「あいつか…うーん、せっかく来たんだけどなー…」
恵子は考え込むように顔を横に向けた。
荻「…恵子さん、もう来ないと思ってました。高坂先輩とか春日部先輩が卒業したから」
恵「ん?それはもー部室に来んなってことっすか?」
荻「え、いや、そういう意味で言ったんじゃないっす。」
恵「あ、そー。まーいいけどさー。何でお姉ちゃん、敬語なの?年上なのにィー」
荻「いつものクセです。だからお姉ちゃんはやめてと…」
恵「ふーん。ていうかー、じゃあ何て呼んだらいいわけ??」
荻「えーと…ふ、普通に」
恵「普通?荻上ーとか?えーつまんねーなー。あっ、オギッペは?前に春日部ねーさんが呼んでたし」
荻「…どっちでもいいです。」
恵「じゃーオギッペね。ワタシのこともさ、恵子でいーし。呼び捨てでさ」
荻「え、よ、呼び捨てっすか?」
荻上さんの顔が少し赤くなる。
恵「えー何照れてんの、オギッペ。うわ、カワイーー!!」
荻「か、からかわねーで下さい!そんじゃわたすはこれで!」
焦ってなまりが出てしまう荻上さん。
ニヤニヤしながら、荻上さんの走ってゆく後姿を眺める恵子。
- 87 :カレーライス9
:2006/06/22(木) 01:39:09 ID:???
- 廊下を走りながら、荻上さんは考えていた。
(呼び捨てかァ………こういうのって中学生ん時以来だァ………)
口元がほころびそうになるのを必死で抑えていた。
部室では朽木君が、珍しく色々考え込んでいた。
(ウームム…他の人の気持ちを考えてないから、かあ………。一方通行かあ…。
ボクチンなりにちょっとは考えてたつもりなんですがのう?いつも読みが外れたりするにょ。
いや、うーん…そんなに深く考えてはなかったのかにょ?
でもどーせ他人の思ってることなんてその本人にしかわからないしのう。
だいたいボクチンはそーゆーの苦手なんだよ。)
(………って、さっきまではそう思ってたにょ。
でも………うーん………)
さっき荻上さんが笑ったのを思い出した。
自分が思ってたことをそのまま言っただけなのだが、喜んでくれた。珍しいことだ。
(さっき何て言ったっけ?「大事な仲間」って言ったんだったっけ。
いやでも、あれ言ったのはオギチンが「私達を仲間と思ってくれているのなら…」って、言ったからにょ。)
(んで、オギチンが「安心しました」って笑ってくれたんだにょ。
それで、何だか………。
こっちもホッとしたんだにょ。)
- 88 :カレーライス10
:2006/06/22(木) 01:39:39 ID:???
- (ふむ、これが「他の人の気持ちをナントカ」ってやつなんですかね?
ムム、そーかあ………。)
そこまで考えたとき、部室のドアがノックされずにいきなり開いた。
恵「ちわ!」
朽「あ、笹原先輩の妹サンだ」
恵「…そーだけど。笹原の妹はやめろよなー。恵子って名前があるんだからさ。ていうかー、アイサツしてんだからアイサツで返せば?」
急に不機嫌になる恵子。
朽「はあ。恵子サン」
恵「何?」
朽「1回呼んでみただけにょ」
恵「あっそう」
恵子は近くの椅子に座った。まだ機嫌は直らない。
恵「あーあー、つまんねー!せっかく来たのに、オギッペ帰っちゃうしさー。あんたしかいないしさー」
朽「大野先輩は就職活動で忙しいにょ。ボクチンもだけど」
恵「フーン………あんた就職活動してんだ」
朽「してるにょ」
恵「………ワタシもなんだけどさぁ」
朽「そーなんデスカ??」
恵「専門学校、去年の秋に中退しちゃったからさー。勉強つまんなかったし、いいんだけどー!
でもそろそろさぁ、仕事探さないとさー。このままバイトっつーのもさー…」
恵子は小さくため息をついた。
- 89 :カレーライス11
:2006/06/22(木) 01:40:08 ID:???
- 朽「何かバイトしてるのかにょ?」
恵「今は居酒屋のバイトしてるけど。でもずっとそこってワケにはいかないしィ。
あーもう、考えるのめんどくせー!」
そう叫んで机にガバッと伏せた。
朽「考えるのめんどくさいのはボクチンもにょ〜〜。エントリーとかイチイチめんどくさいにょ!何で面接が3次まであるにょ!
いっぺんで終わらせて欲しいにょ!何で不採用の通知に1週間もかかるにょ〜!」
恵「へー、そーなんだ…」
朽「ム、就職活動やったことないにょ??」
恵「そーゆーちゃんとしたのはやったことない。バイトの面接だったらもっと簡単だしィ」
朽「フーン」
恵「でもなかなか決まらないんでしょー?兄貴も大変そうだったしー」
朽「まだまだ就職難ですからにょ……」
恵「あーもう、働きたくねー!」
朽「働きたくねーーー!」
恵「でもプーもヤなんだよねー」
朽「ボクチンも就職浪人は嫌だにょ!」
………妙なところで息が合った二人であった。
- 90 :カレーライス12
:2006/06/22(木) 01:41:27 ID:???
- (…とは言っても。ホントにどーしよ…)
恵子は悩んでいた。部室を後にし、兄貴の家に向かっているところだった。
兄貴に連絡したら、「今日は俺、荻上さんのとこに行くから好きに使え」…とメールで返信が来たのだった。
普段兄貴や周りの人に将来のことを聞かれたときには軽く受け流していたが、これからの自分のこと、将来のことについてやっぱり不安がある。
今まで好きなようにやってきて、深く考えずに行動していた過去の自分。
…いや、考えないといけないことをずっと先延ばしにしてきたのだった。
最近、たまに家帰ると、放任主義の親にもさりげなく聞かれる。「どうするつもりなのか」…と。
(『どうするつもりか』って………。わかんねーよ。そんなんこっちが聞きたいっつの。どーしたらいい?って。
どーせ自分のことは自分で考えろ、とかありきたりなことしか言われねーんだろーけどさー………。)
(………………………)
(特に何がしたい、ってのがないから困るんじゃん………。具体的なモンがないから………。)
春日部ねーさんのことを考える。
(…ねーさんはカッコいいよなあー…。自分のやりたいことがあって、それに対してサクサク行動してさー。
自分の店まで持っちゃってさー。あんなカッコいい彼氏までいてさー。)
高坂さんのことは今でも好きだが(やっぱ男は顔でしょ)
…でも今はむしろ、春日部ねーさんと仲良くなれたことの方が良かったと思える。
(そだ、春日部ねーさんに会いいこっかな。ねーさんならちゃんと話きーてくれそーだし。うん。店行ってみよー。
閉店してからなら話す時間あるっしょ。)
心を決めたときの恵子の行動は早い。さっさと目的地を変更して、駅から新宿行きの切符を買ったのだった。
END 続く。
- 91 :おまけ4コマ的な。
:2006/06/22(木) 01:42:01 ID:???
- 荻上さん宅にて。
笹「こんばんは。」
荻「こんばんは。…どうぞ。」
笹「あ、ごはん作ってくれたんだね。」
荻「ええまあ、待ってる間時間があったんで…」
笹「………またカレー…(ぼそり)」
荻「…嫌なら食べなくていーです」
笹「え、い、嫌だなんて!俺カレー好きだし!ありがとう荻上さん!」
荻「…言い方がわざとらしいです」
笹「いやホントに!………………この前の肉じゃがよりは………………」
荻「何か言いました?」
笹「え?いや何でもないよ?あははは………」
- 92 :あとがき。
:2006/06/22(木) 01:42:43 ID:???
- 続きます。
シリーズとして、これから一月分ずつ話をつづけていきたいと思っています。(本当に書き続けられんのだろうか(汗))
さて次回(5月)は斑目さんの話。
恵子の話もまた今度続きを書くつもりです。お楽しみに。
- 93 :マロン名無しさん
:2006/06/22(木) 17:48:49 ID:???
- 例によってサボりに来ましたよ。
とりあえず感想など。
>>アルエ第三話
くがぴーが溶けた餅のようにテーブルに垂れてる絵が鮮やかに脳に焼きつきましたorz
微妙にキャラの立ち位置が変わりながらも、コミックスで読んだ話の行間が埋まっていくのを
見るのはとても楽しい。荻上さんをフォローする春日部くん男前〜。一方で足元の定まらない
笹原おまえなあw
曲モチーフの話って大好きなんだよね。アルエは聞いたことなかったけど先日借りて聞いた。
いいじゃなーい?歌の成り立ちはググって知ったけど、こんなトコにも二次元にマジ惚れする
仲間がいたw
続き楽しみにしてます。
>>カレーライス
お、『俺たちに明日はある』の続編かぁ。現視研の春のホンワカ感が出ていて好きなのです。
クッチーは前作も今作もソレどころではないようだが。あと明るくなったオギー可愛いね。
そして恵子やっぱりガッコやめてたか。
恵子は二次創作上でも比較的キャラクター安定してるよね、斑目とくっつくかどうかはとも
かく。俺たち(いい?みんなひとくくりにして)オタクに理解しがたい人種だからかな。
彼女のアルゴリズム考えるのって大変だけど(俺にはムリ)主体的に動いてるときの彼女の
描写は読んでて楽しいよ。早い再登場を待つ。
あなたの世界ではオギーは料理あんまりなのかw 笹原死んでも残すなよ。
そんで今週もまた1本書けた。ゆうべ上がったトコなのでこれから字数数えるんだけど、
ファイルサイズからすると10レスくらいかな。章あたり行数が中途半端なので少し増える
かも知れない。
また土曜に置きに来まーす。でわ!
- 94 :マロン名無しさん
:2006/06/23(金) 00:48:58 ID:???
- 今本スレ行ったら、早くもネタバレ来てたwww
みなさん気をつけて下さいwwwww
- 95 :マロン名無しさん
:2006/06/23(金) 03:52:23 ID:???
- むしろみんな負けるなwwwww
- 96 :マロン名無しさん
:2006/06/23(金) 05:40:44 ID:???
- >>カレーライス
うーん、二人の会話が真に迫ってますな。
あえて言えばここまで深い会話をしなさそうっていうのはあるけど、
人が少なければ自然と話したりするものかもしれないですね。
次は恵子の話なのかな?
楽しみ。
- 97 :801小隊
:2006/06/23(金) 06:09:49 ID:???
- 感想のレスは前スレに書いておきました。
最終話、16レスでいっきまーす!
風呂敷、たたみ終えれたと思うんだけどなぁ・・・。
- 98 :1 :2006/06/23(金) 06:12:06 ID:???
- 俺は銃を握り締めながら考える。
・・・人を殺すというのはどういうことなのだろうか。
今まで散々殺してきた俺がこんな事考えても意味はないのかもしれない。
だが・・・いや、だからこそか。
目の前の人間を殺せば、多くの人が助かることは間違いない。
それは、今までしてきた戦いだってそうだ。
・・・・・・戦争なんてそんなもの。
しかし・・・そんな言葉だけじゃ納得できなくなってきている。
俺はこの引き金を引く事が出来るんだろうか?
・・・一人を殺して多くを助ける。
それが例え・・・悪人であっても許されることなのだろうか。
・・・・・・答えは、もうすぐ出さなければならない。
- 99 :第801小隊第18話地球(ホシ)へ帰る2
:2006/06/23(金) 06:16:51 ID:???
- 「右舷、敵MSの攻撃が再開されました!」
サキが叫ぶ。振動が艦内を伝う。
「状況はどうなっているんだ!?」
そこにタナカとオーノが飛び込んでくる。
「・・・失敗したんですか・・・?」
不安そうな顔をするオーノに、皆答えることが出来ない。
「・・・・・・おそらくMAをとめることには成功したんだろう・・・。
後は・・・我々が持ちこたえるだけだ・・・。」
周りをドムが移動しているのが見える。
「タカヤナギ隊、攻勢に出ています!もうすぐ到着・・・。」
その瞬間。目の前でデッキに向かいビームバズーカを構えるドム。
「く、か、回避!」
クチキが叫び、舵を動かす。しかし、その砲撃は今まさに放たれようとしていた。
刹那。ドムの機体が破壊される。
「・・・何が起こったでありますか!?」
『よー、クチキ。無事だったか?』
「そ、その声は、サワザキ君?」
目の前にはライフルを構えたジムが一機。
『ドッグにいたらな、隊長がやってきてさ・・・。
一緒に行かないかって行ってくれたんだよ・・・。』
クチキがジムの後方に目をやると、一隻のサラミスが・・・。
『クチキくん、お元気?』
「は、はい!隊長こそお元気そうで!」
クチキが映し出された人物に敬礼をする。
「良く来てくれたね・・・。助かったよ・・・。」
大隊長がその人物に例を言う為に立ち上がる。
『いーえぇ。あと、お土産もお二人ほど連れてきましたよー。』
「お土産?」
サキがその言葉に不思議そうな顔をする。
『あなたにとって、一番の朗報かも知れませんねぇ。
お二人ともすでに前線へ向われました。』
そういって、にっこり笑った。
- 100 :第801小隊第18話地球(ホシ)へ帰る3
:2006/06/23(金) 06:19:55 ID:???
- 『ははは、何をしている!』
白い機体から放たれたファンネルは、ジムを執拗に狙う。
『上です!』
会長の言葉に反応し、オギウエはジムを動かす。
「く、反応が鈍い!」
先ほどの戦闘でのダメージが大きく、ジムの稼動部はまともに動かない。
だがそれでも、持ち前の反応力で切り抜けてはいた。
「・・・聞いているのより動きが遅い・・・?」
ファンネルはNT、もしくは強化人間の空間認知力を利用し、
操作するサイコミュ兵器である。
使う人間が使えば、接近を気付かれる前に敵を撃破することも可能といわれている。
「・・・使い慣れていないのか?」
オギウエは、一機のファンネルユニットをサーベルで切り払った。
『・・・やるな!さすがといえばいいのかな?オギウエェエ!?』
不敵な声が響く。ファンネルはまだ数多く残っている。
『・・・厄介ですね・・・。』
「でも・・・やるしかない・・・。」
ちらっと背中で気絶しているササハラを見る。
先ほどの痛みによって、意識が飛んでいるようだ。
『来ますよ!!』
「くっ!」
会長の言葉に反応するたびに徐々に空間が認識できてくる。
(これが・・・これがこのシステムの力・・・。)
元々、オギウエにはNT能力はない。
ただ、人体実験によって擬似的なNT能力──とはいってもの物凄く弱いが──
を得る事は出来ていた。それが拡大されているのである。
感覚は分かるだけにこのシステムへの許容性も高いようである。
『右っ!』
「はいっ!」
また一機、ファンネルユニットを破壊する。
「このままファンネルだけを破壊できれば・・・!」
- 101 :第801小隊第18話地球(ホシ)へ帰る4
:2006/06/23(金) 06:23:17 ID:???
- 『そうはいくかっ!』
そこにナカジマのMSが接近する。
『直々に切り落としてやる!』
「くっ!!」
ビームサーベルが閃く。ぶつかり合うエネルギー。
「・・・う、動けない・・・!」
このタイミングでファンネルで狙われたら終わりである。
『・・・後ろ!』
「やはりきたかっ!」
切りあいながら後ろから放たれる粒子砲を避けようと、
機体を上方に浮かせる。
放たれた粒子砲は、ジムに当たらず、そのままナカジマの機体に当たる。
『くぅ・・・!やってくれるじゃないかぁ!』
「・・・何を焦ってるの?」
『焦ってる?私が・・・?』
「らしくないじゃないか!いつも冷静でみんなの相談役で!
誰よりも頼りになったあんたが!地球殲滅作戦からして!らしくないよ!」
オギウエが叫び、ナカジマに同様が走る。
『・・・うるさいうるさいうるさい!私にはもうこれしかないんだ!』
ナカジマの悲痛な叫びに、オギウエは思う。
(・・・止めてあげなきゃ・・・。・・・彼女が歪んだ原因は・・・私にも・・・。)
サーベルを構えなおし、ジムは再び接近する。
ファンネルは一段と動きを早めているようにも見えるが・・・。
『動きが・・・単調です!』
「・・・周りが見えなくなってる・・・。・・・でも!」
ファンネルユニットをかいくぐり接近し、再びサーベルを切り合わせる。
「今度こそ・・・止める!」
『・・・嫌な感じ・・・!逃げて!』
「えっ!?」
会長の叫びを聞いて、オギウエは怪訝な顔をする。
- 102 :第801小隊第18話地球(ホシ)へ帰る5
:2006/06/23(金) 06:27:56 ID:???
- 『ははははっ!おしまいだぁ!』
ナカジマのMSの胸部が開く。光が閃く。
「うわぁああああああ!!」
ジムの各所が破壊される。胸部拡散ビーム砲である。
『・・・おしまいだ、おしまいだよ!』
体がのけぞり、動けないオギウエに向って、サーベルを振り下ろすナカジマ。
『・・・ダメ!』
その瞬間。オギウエの手がぎゅっと握られる。
操縦桿を、力強く動かし、回避行動をとる。
「ササハラさん!」
『ごめん!』
そのまま、ジムはサーベルを操り、ナカジマのMSの脚部を切り払う。
『うぐぁあああ!・・・まだだ!』
『それはこっちだって同じ事だっ!』
サーベルを構えなおし襲い掛かる相手に、ジムは隙を突き後ろを取る。
そのままファンネルポッドにサーベルを突き立てる。
『これでおわりだっ!』
「・・・ナカジマ、もう終わりだよ!・・・でも・・・
何で最後ファンネルを使わなかったの!?」
最後、サーベルでなくファンネルで勝負を挑まれていたら・・・。
さらに機体にがたが来ていたジムでは一たまりもなかっただろう。
『・・・重力圏じゃ・・・ファンネルはあまり使えなんだよ・・・。』
オギウエの問いに、ササハラが苦しそうに答える。
『・・・それもあるさ・・・。だけど・・・。私は・・・。
フフフ・・・楽しかったよオギウエ。あんたと・・・最後に触れ合えた気がした・・・。』
不敵な笑みを浮かべながら、ナカジマはジムを引き剥がし上方へと移動していく。
『それと・・・あんたの愛した人は・・・。強いね。
バイバイ、オギウエ。幸せにネ・・・。』
そのまま姿が消えていく。
『・・・これで・・・よかったのかな・・・。』
「・・・分かりません・・・けど・・・。」
ナカジマの去ったほうに視線を追いながら、オギウエは自然と涙を流した。
- 103 :第801小隊第18話地球(ホシ)へ帰る6
:2006/06/23(金) 06:30:21 ID:???
- 「・・・疲れた・・・。」
誰もいなくなった基地の中で、ナカジマは一息つく。
「・・・らしくない、か。」
先ほどオギウエに言われた一言を考える。
「ちがうよ、オギウエ。一番弱かったのは私。これが私。
みんながいなければ何も出来ないのが私・・・。」
故郷を壊されてみなのいる場所がなくなって・・・。
また互いに笑い会える日がきてほしい。そのために戦ってきた。
「・・・やり方、間違っていたかな?でも、それもこれで終わり。」
いいながら、ここで死のうと決めたその時。
『・・・ナカジマ。』
振り向くとドムが一機、目の前にいた。
「その声・・・!まさか!・・・マキタ・・・。何で・・・。」
『あはは・・・幽霊じゃないよ?』
言いながらドムは壊れたナカジマの機体を抱え、移動する。
『君の執事さんがね。助けてくれたんだよ。』
「・・・じいが・・・。」
『相方も生きてる。みんな、ナカジマの事待ってるんだ。行こう。』
その言葉に、驚きながら首を振る。
「私は・・・あんた達を殺そうとしたんだぞ・・・!?」
『・・・生きてるからいいさ。やり方をちょっと間違えただけだろ?』
そういって、マキタは笑う。
『思いは一緒さ・・・。死んだら何も出来ないじゃないか。生きよう。
いきて、連盟の連中に一泡吹かせよう。』
「・・・分かった。オギウエは・・・。」
『・・・彼女は違う道を見つけたんだろ?
こんな道、行かなくて済むならそれに越した事はないさ。』
少し寂しそうな、しかし優しい笑顔をたたえ、マキタは言う。
「・・・ああ。そうだな。それじゃ、行こう。」
ナカジマは、笑う。まるでつき物が取れたような顔をして。
「本当にさよならだね、オギウエ。また・・・会えたらいいな。」
二機は宇宙へと飛び出す。その先には、彼らの脱出艇が見えていた。
- 104 :第801小隊第18話地球(ホシ)へ帰る7
:2006/06/23(金) 06:32:54 ID:???
- 銃口を握る手に汗が滲む。
『・・・撃たんのか?』
蔑むような声。その間も、老人は操作を続ける。
『発射5分前です。』
無常にも、発射の点呼が響く。
「・・・くっ。」
歯を食いしばるマダラメ。
いまだに気持ちが定まらない。
「くそぉおおお!」
銃声が、部屋に響いた。
- 105 :第801小隊第18話地球(ホシ)へ帰る8
:2006/06/23(金) 06:35:01 ID:???
- 『貴様!』
老人が、目を剥きマダラメを睨む。
銃声がさらに数発響く。金属が壊れるような音が響く。
「・・・これで発射できねえだろ?」
ニヤリと笑うマダラメ。銃弾は、コントロールパネルを貫いていた。
『馬鹿者!これではエネルギーが逆流するぞ!?』
「・・・生かせるものなら生かしてえ。お前が大量殺人鬼であってもな。
甘い考えかも知れねえけど・・・。」
『そんな事は聞いていない!ここはすぐに爆発するぞ!』
その声と共に、爆発音が辺りを包む。
「分かってたさ。でもよ、逃げれば済むことだ!」
言って、マダラメは老人に駆け寄り、抱える。
『は、離せ!逃げられるものか!』
「うるせーよ爺さん。あんたには生きて償ってもらう。
多くの人や物を消した罪をな。・・・だから生きろ!」
マダラメは駆け出した。元来た道を走り、MSの元へ戻る。
「よっし、さっさと脱出だ!」
その瞬間、爆発が目の前で広がった。
「くぅ!」
間一髪その炎から避ける事が出来た。
「こりゃ、本気でやべえかもな。」
『・・・だから言ったではないか。お前も死ぬぞ。』
皮肉な声を出し、マダラメを嘲笑する老人。
「あー、うるせえな、俺は自分が死ぬのは怖くねえんだよ。
他の連中が死ぬ方がずっと嫌だ。今もお前が死なねえかとヒヤヒヤしてるぜ。」
そういってニヤリと笑うと、ゲルググは駆け出した。
「・・・ちぃ、所々壊れてやがる・・・。」
再び小規模な爆発が起こる。
その爆発のために、大きな塊が上方から降ってくる。
「く、避けきれねえか!?」
必死にブースとを閃かせるが、間に合わないと考えるマダラメ。
- 106 :第801小隊第18話地球(ホシ)へ帰る9
:2006/06/23(金) 06:39:39 ID:???
- 大きな砲声が響く。
「なに!?」
その瞬間、塊は壊れ、四散していく。
『間に合ったね!隊長さん!』
目の前には、半壊したジムが、両肩のバズーカを構えていた。
「アンジェラ!?何で来た!?」
『何言ってんの!助けられそうな仲間をほっとくことは出来ねえって言ったの誰?
私はあんたに死んで欲しくない、それだけだよ!』
「・・・すまん。」
思わず涙が出そうになる。
『・・・誰だって死んで欲しい人なんていない。』
ふと見ると、その後ろにスーのジムもいた。
「お前ら・・・命令違反で修正だからな・・・。」
『望むところよ!』
アンジェラの声に、笑うしかないマダラメであった。
「よし!さっさと脱出するぞ!」
『こっちだよ!』
三機のMSは最速で移動を再開する。
「急げ・・・急げ・・・!」
爆発はその間も所々で起こっている。
まだ、小規模なものが多いが、後に大爆発に繋がるのは否定できない。
『この先を抜けたらもうすぐだよ!』
アンジェラの声にマダラメは操縦桿を握る手に力が入る。
しかしその瞬間、目の前でかなり大きな爆発が起こる。
「アン!スー!」
『大丈夫!それより!』
二機のジムは停止し、その進行方向を呆然と見る。
爆発の影響で道が塞がれているのが見えた。
- 107 :第801小隊第18話地球(ホシ)へ帰る10
:2006/06/23(金) 06:43:16 ID:???
- 「くそ!マジか!」
『早く他の脱出口を!』
『ククク・・・間に合うものか・・・。』
老人の哄笑が響く。
「・・・ここまでか・・・?」
『・・・聞こえる・・・。』
諦めを感じたマダラメ。しかしそこにスーの声が聞こえた。
「・・・どうしたんだ!?」
『・・・そう・・・ここ・・・。お願い!みんな、避けて!』
叫びと共に、三人が中心に空間を作るように広がる。
その中心を狙うように、メガ粒子砲の光が飛び込んできた。
「なんだ!?」
『・・・これで外に出る道が出来た・・・。』
言いながらスーはその光が作り出した穴に進んでいく。
「・・・よし!いくぞ!」
全速力でその穴を進んで行く三機。
『・・・このスピードじゃ間に合わない?』
「・・・かもな・・・。爆発はもうすぐだ・・・。」
奥歯をかみ締めるマダラメ。
『・・・これに捕まって!』
スーが指し示したところには、チェーンがぶら下がっていた。
「なんなんだよ?こりゃ!」
『今はスーを信じましょ!』
何がなんだかというマダラメに、アンジェラが叱責する。
三機がチェーンに捕まると同時に、それは高速に引き上がりだした。
「うおおおおお!?」
強烈なGを感じながら、あっという間に外が見えてくる。
宇宙に、放り出される三機。
「・・・まさか!?」
- 108 :第801小隊第18話地球(ホシ)へ帰る11
:2006/06/23(金) 06:47:48 ID:???
- チェーンに捕まりながら考えたのは、奴の事である。
目の前に、二機のMSか佇んでいた。
一機はメガランチャーを構えたジム。
一機は、黒い塗装が施された・・・チェーンを引っ張るガンダムであった。
『早く!ここから離れましょう!』
聞き覚えのある声にマダラメたち三機と、その二機は移動する。
その瞬間。
後ろから大きな光が放たれる。
『わ、私の夢が・・・!』
「爺さん、諦めて人々の為になるもんでも研究するんだな、この先。
・・・よう、遅かったじゃねえか、二人とも。」
爺さんに皮肉を浴びせながら、斑目は二機のMSに向けてニヤリと笑う。
『・・・ま、待たせたな。ち、ちょっと撃たれちゃってさ・・・。』
『・・・・・・あの時はすみませんでした・・・。』
「・・・まあいい。クガヤマ、コーサカ。帰還ご苦労。」
その言葉を行った後、ふう、と溜息をつきながら天を仰ぐ。
「そうだ!ササハラ!?」
ばっ、っとササハラの侵入した基地の方を見るマダラメ。
「・・・あれは・・・地球に向っている!?」
基地は徐々に地球のほうへと引き寄せられていく。
『今の爆発の影響で地球の重力圏に入ってしまったんですよ!』
コーサカの言葉に、唖然とするマダラメ。
「ばかな!あの中には二人がまだ!」
『しかし、今行くと我々まで大気圏に突入する事に!』
「ち、ちくしょう!」
手を握り締め、二人の安否を思うマダラメ。
その間も、徐々に地球へと向って基地は降下していた。
- 109 :第801小隊第18話地球(ホシ)へ帰る12
:2006/06/23(金) 06:51:16 ID:???
- 「この爆発音は!?」
丁度マダラメたちが脱出を果たした頃。
二人は壊れた基地の中で脱出を試みていた。
しかし、すでに先の戦いでMSはほぼ大破。
移動するのも困難な状況であった。そのため、脱出が遅れた。
右往左往しているそのときに、大きな爆発音が響いたかと思うと、
基地の内部は大きく揺れた。そして、ある異変に気付く。
『・・・基地が・・・加速している・・・!』
オギウエのその言葉に、最悪の事をイメージするササハラ。
「ま、まさか・・・地球に近い位置にあったとはいえ・・・。
大気圏に・・・突入しようとしてるのか?
『・・・重力に惹かれている感覚があります・・・。
間違いないようです・・・。』
会長の言葉に、顔を青くする二人。
「くそ・・・。どうすれば・・・。」
大気圏への突入。それは、空気の摩擦により加熱し、燃え尽きる事を意味する。
たとえ燃え尽きなくとも、高温が基地内を覆い、そうなれば死・・・。
『・・・方法はあります。』
『え?』
会長の発言に、オギウエは聞き返す。
『・・・先ほどの分身を利用した防御法です。
あれは表面の塗装を剥離させることで生み出した質量のある幻影です。
降下寸前にそれを行う事で一種のフィールドを生み出せば・・・。」
「・・・では、それを行うしかないって事ですね!?」
『それには完全な同調が必要・・・それに・・・。』
少し寂しげな表情を浮かべる会長に、二人は不思議な顔をする。
『・・・いえ。タイミングを考え全力で行います!』
「はい!」
破壊が進む基地の中で、心を落ち着かせながら時を待つ。
- 110 :第801小隊第18話地球(ホシ)へ帰る13
:2006/06/23(金) 06:52:22 ID:???
- 一時間ほどたった頃だろうか。周囲の温度が上がってくる。
「そろそろか・・・。」
『・・・それでは・・・。行きますよ!』
光を放ち始めるジム。綺麗な・・・光が広がる。
『・・・うう・・・!』
『会長さん!?』
「どうかしましたか!?」
苦悶の声を上げる会長に、二人が心配した声を出す。
『・・・いえ・・・。こうなる事は分かっていました。
私の力が最大限に引き出される時・・・それは私とあなた方との別れだと。
このシステムから、私の意識は解き放たれるでしょう。』
寂しげな笑みを浮かべ、会長は二人を見る。
『・・・お会い出来てよかった。また・・・会えますよね?』
「・・・会長!今までありがとうございました!」
『・・・また会えますよ!いえ、会いましょう!』
その言葉に、会長は笑顔になり、手を広げる。
『・・・・・・きっと!また!』
一段と光が広がり、周囲からMSが隔絶される。
そして、光と共に、加速していく基地は、大気圏へと降下していく。
『・・・・・・さよなら・・・。』
システムから、会長の意識が解き放たれていくのが分かる。
「さよなら・・・。」
『さよなら・・・また会える時まで・・・。』
地球への降下はますます加速を強めていく。
「・・・オギウエさん。」
『はい?』
今までで一番と思えるくらい優しい声をササハラはオギウエにかける。
「・・・・・・どこに落ちたい?」
ドキッとするその声。優しい目。首を振りながら、オギウエは言う。
『どこでも。あなたと一緒なら。』
- 111 :第801小隊第18話地球(ホシ)へ帰る14
:2006/06/23(金) 07:00:16 ID:???
- 光が基地から放たれるのを、マダラメたちは見た。
「・・・あれは・・・?」
基地への突撃を敢行しようとするマダラメを止めていた皆が、その方向を一斉に向く。
『光・・・?ササハラ君たちか?』
「・・・だろうよ!きっと、きっと無事さ!勝手に死ぬなんてそんな事・・・ゆるさねえ!」
叫びながら、マダラメは泣きながら笑う。
「地球で・・・また会おうぜ・・・、ササハラ!オギウエさん!」
- 112 :第801小隊第18話地球(ホシ)へ帰る15
:2006/06/23(金) 07:01:10 ID:???
- 地球のとある場所にある豪邸の一室。
「ん・・・。」
一人の少女が目を覚まし、体を上げた。
「・・・夢・・・?いや・・・違う・・・。ササハラさん・・・オギウエさん・・・また・・・。」
食器を落とす音が響く。
「・・・リツコ様?」
ふと見ると、手に持っていた食器を落とした黒髪の少女が目を見開いていた。
「・・・カスミ。いままでありがとう。」
にっこり笑うリツコ。そこにカスミは駆け寄り抱きつく。
「よかった・・・本当によかった・・・。」
涙を流し、嗚咽を漏らす。
「・・・チヒロたちは?」
「・・・はい。いま第100特別部隊は『サン・シャ・イン』のほうへ侵攻中。
あともう少しで戦闘に入るそうです。」
「そう・・・。みんな・・・無事でいて・・・。」
窓に映る夜空には、一筋の流れ星が見えた。
「・・・あれは・・・きっと・・・。」
そういって、リツコはにっこりと笑った。
- 113 :第801小隊第18話地球(ホシ)へ帰る16
:2006/06/23(金) 07:01:53 ID:???
- 戦いは終わった。
第801小隊はドッグへと帰還した。
戦争はこの後1週間後に終結する事となる。
だが、この部隊の戦いの記録は、残る事はなかった。
危険性の高いこの事実を無視した無能を政府高官が認める事になるからだ。
都合のいい事に証拠は全て消滅していた。
・・・しかし、彼らにとってそんな事はどうでも良かった。
肝心なのは、皆生き残った事。
また、笑いあえているという事。
軍を大半が辞め、皆思い思いの地へと旅立つ。
・・・いつかまた会えるときを信じて。
あの二人にもまた会えるときを信じて。
「ササハラさん?」
「なに?」
「・・・もう戦わなくて、いいんですね。」
「・・・・・・うん。そうだね。」
- 114 :第801小隊 外伝予告
:2006/06/23(金) 07:02:44 ID:???
- リツコは、あのときの約束を果たそうとする。
戦争から一年。
元第801小隊のメンバーにめぐり合いながら、
地球にいるはずの二人を探す。
案内役は、臆病者の元隊長。
外伝「リツコ・レポート」
お楽しみに
- 115 :後書き〜完結に寄せて
:2006/06/23(金) 07:10:05 ID:???
- え〜、長い間お付き合いいただいたこの話も、終わりにたどり着けました。
毎回感想を書いてくださった方々、書かずとも読んでくださっていた方々、
本当にありがとうございました。
ガンダムとげんしけんの融合。
オタクならではの舞台に彼らを呼び込んで、戦わせてしまいました。
どうでしょうか?皆さんの思っていたラストと違っていたでしょうか?
誰もが生き残ったという(もちろん、名の無い死者はいましたが)
この物語は、ご都合主義の塊です。
でもま、物語なんてそんなもん、と開き直っています。
後は外伝をかいて、この物語は一旦お終いです。
この作品を使って何かをしたいって方がもしいたら、ご自由にどうぞ!
ッていうか誰かアニメ化してくれ!(殴
SSスレと共に歩んだこのSSに、私自身が感謝。
そして、SSスレはこれからも新しい人を迎えながら進んでいくんだと思って。
さて、次は何を書こうかな・・・。
- 116 :マロン名無しさん
:2006/06/23(金) 10:37:51 ID:???
- >801小隊
>「・・・・・・どこに落ちたい?」
009キター!
ここでこのパロを出してくるなんて、懐が深いですな。
「流れ星」になった2人を見ながら、「戦いのない世の中になりますように」と祈る姉弟がいたに違いない(w
とにもかくにも乙彼!
よくぞここまでまとめました!
- 117 :マロン名無しさん
:2006/06/23(金) 11:26:15 ID:???
- >801小隊・完結
今読み終えて、頭が真っ白です。敵役(名前のある登場人物)が誰も死ななかったのは、
想像を超えてました。ナカジかじいさんのどっちかは死ぬと思ってたから。
でも今読み終わって、誰も死なずに話をまとめたこと、戦争という一人ではどうにもならない大きな流れの中で、
登場人物一人一人の願いや思い、後悔や苦しみが清算されてゆくのを見て、奇跡を見た!と思いました。
大げさだけど、自分にとってはそう思えました。
ホントに面白かった。外伝の話も楽しみにしています。…特に臆病者の元隊長!!!
とにかくお疲れ様でした。
うああああ、絵描きたいけどMSがかけねえええええ!
というわけでだれか たのむ
- 118 :マロン名無しさん
:2006/06/23(金) 11:59:02 ID:???
- MSは描けるけどレイアウトが思いつかないので…
- 119 :マロン名無しさん
:2006/06/23(金) 12:08:24 ID:???
- 漏れも描きたいけど、ジムのコックピットとナカジのMA(MS?)の資料を探す根性がない・・・
いや、あったら描くのかって言われたら悩むけどw
- 120 :マロン名無しさん
:2006/06/23(金) 12:20:46 ID:???
- マダラメゲルググなら曲線多いから何とかなりそう。
- 121 :マロン名無しさん
:2006/06/23(金) 13:10:34 ID:???
- え〜2chで画像のうぷなんて初めてなんだけど、昔801小隊に触発されて描いて、下書き途中で挫折したものをあげてみる。
スーのカスタムジムのデザインわかんない。。。左下にいるのは斑目さんのゲルググのつもり。
↓こーすればいいのかな?
ttp://sund1.sakura.ne.jp/uploader/source/up14347.jpg
- 122 :117 :2006/06/23(金) 22:29:03 ID:???
- >>121
絵だ!やった!…と思ったけど×ボタンで見れなかった…orz
あれーなにがいかんのだろう?
- 123 :マロン名無しさん
:2006/06/23(金) 22:44:38 ID:???
- >>122
わしSafariとIE使ってるけど、Safariで見ることができて、IEだめだた。
- 124 :マロン名無しさん
:2006/06/23(金) 22:53:05 ID:???
- >>123
そーかIEではダメなのか…シクシク
- 125 :マロン名無しさん
:2006/06/23(金) 23:53:45 ID:???
- ネスケでも駄目でした
- 126 :描いた本人
:2006/06/24(土) 00:06:44 ID:???
- 本当にすみません。
家に帰ったらやり直したいと思いますが、どうせ‥‥な絵なのでスルーして忘れていてください。
迷惑かけてすみません。