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「在留特別許可」の整理

「在留特別許可」の概要

「在留特別許可」というのは、入管法50条にある法律上の制度で、在留資格のない外国人に対して一定の条件を満たした場合に在留資格を付与するというものです。この制度の運用に当っては、法務大臣には(フリーハンドに近い)広範な裁量権が与えられています。
在留特別許可された事例及び在留特別許可されなかった事例について 法務省
http://www.moj.go.jp/NYUKAN/nyukan25.html
1  在留特別許可の運用について
 入管法第50条に規定する在留特別許可は,法務大臣の裁量的な処分であり,その許否判断に当たっては,個々の事案ごとに,在留を希望する理由,家族状況,生活状況,素行,内外の諸情勢その他諸般の事情に加え,その外国人に対する人道的な配慮の必要性と他の不法滞在者に及ぼす影響とを含めて,総合的に考慮しています。

在留特別許可は、2005年の実績だと、退去強制手続きにのった外国人の人数が57,172人で、在留許可者総数は10,834人(不法入国:2,077人、不法残留:8,483人)になります。

コラム・主張  国際人権法学会第15回研究大会の概要
http://blhrri.org/topics/topics_0068.html
 一般国際法上、出入国管理は主権事項とされ、退去強制に関して極めて広範な自由裁量が認められてきたが、国際人権法の発達と共にその裁量が制約される、という形態をとる。いくつかの人権条約には、かかる制約を目的とした規定がいくつかあるにせよ、その実施は第一次的には国内制度に依存している。それゆえ、各国家機関が人権条約をどの程度誠実に実施するかが問題となる。その点で、行政法学的な国際比較は極めて示唆的であった。
 報告に拠れば、退去強制を決定する主体には所管行政庁が行う場合(これは更に内務省系と司法省系とがある)と、裁判所による場合とに分けられる。日本は行政庁・司法省系に該当するが、比較法的観点からすると、当該行政庁の権限は、その位置付けからすると、広範な権限を有しているとのことだ。
 とりわけ、退去強制手続き中の外国人の地位に関しては、全ての事案において収容することとされ、保釈手続に関しても、仮放免の決定が収容所長や主任調査官に委ねられている点で、極めて特殊である。さらには、退去強制事由該当性判断に関しても、少なくとも入管法違反に関しては裁量的に運用され、さらには不法な滞在が長期にわたる場合の治癒も法的には認めていない。

関連項目

参考サイト

在留特別許可のガイドライン

不法滞在の在留特別許可、指針具体的に 法相が表明(朝日新聞/2009/07/10)
http://www.asahi.com/national/update/0710/TKY200907100140.html
 出入国管理法の改正で在日外国人向けの新たな在留管理制度が3年以内に導入されるのを受け、森法相は10日、不法滞在でも特別に在留資格を与える「在留特別許可」のガイドライン(指針)を見直すと表明した。判断を左右する「積極要素」と「消極要素」の具体的な内容を追加。指針をより明確にすることで、国内に約13万人とされる不法滞在者の出頭を促す。
 「積極要素」は本人が長期間(20年以上)日本で暮らしているなど。一方、消極要素も重大犯罪で刑罰を受けたなどと具体化した。従来は子が中学生以上なら認められる例が多かったが、新指針では「学校に通い、10年以上日本で暮らす子と同居している」としており、実質的に対象を広げた部分もある。
 すでに申請済みの事例にも適用する。これまでに不許可となったケースでも、再申請があれば新指針で判断する。
 在留特別許可は、「基準があいまい」として外国人の支援団体や弁護士から批判が強かった。4月に両親が帰国し、長女だけが在留を認められたフィリピン人のカルデロンさん一家のケースでは、不法滞在の発覚時に小学5年生だった長女が裁判で争ううちに中学生になったこともあり、大きな論争となった。両親は偽造旅券で入国していたことから、法務省は「新指針でも許可されない」としているが、指針の明確化で、同様の事例で今後は迅速な判断、解決が期待できるという。(延与光貞)

■新たに追加したガイドラインの主な内容
◎小、中、高校に通い、10年以上日本で暮らす実子と同居
◎本人や親族が難病で、日本での治療が必要
○自ら出頭して不法滞在を申告
○日本滞在が20年以上になる
○永住者、定住者、日本人配偶者など、資格を持つ外国人との結婚が安定
×凶悪犯罪や薬物・銃器の密輸入などの重大犯罪で刑罰を受けた
△密航、不法入国
△犯罪組織の構成員など

◎・×=特に考慮する積極・消極要素
○・△=その他の積極・消極要素

参考サイト

「在留特別許可の基準」の変遷

「在留特別許可」が認められる基準の変遷(カテゴリの追加)ですが、大きく分けて以下の3段階の変化があります。
但し、ここでの言及はおおざっぱな傾向と、時代の変化に伴って追加されていったカテゴリの「最低基準」を示しただけのものであり、あくまでも「在留特別許可」は「許可される可能性がある」といったものに留まります。
個別具体的なケースに関しては、専門家の弁護士・行政書士等に問い合わせて下さい。

①1990年「入管法改正」以前
1990年の入管法改正以前は、日本在住の外国人の数自体が少なかったため、「在留特別許可」制度自体が、主として不法残留や刑罰法令違反等の旧植民地出身者(在日コリアン等)が退去強制を免れるための制度として機能していました。基準は「法務大臣の裁量」で不透明でしたが、戦前から日本に長期滞在していた・親族が日本にいる、などが主な理由になっていたようです(1985年に「在留特別許可」が認められた人数は511人。1980年代後半までは、許可者の8割~9割が在日の韓国・朝鮮人という報告があります)。

②1990年「入管法改正」後~1999年「一家全員集団出頭」以前
1990年の入管法改正で日本に外国人が大量に流入し、その結果として、オーバーステイ等の正規の在留資格が無い状態の外国人も増加しました。
そういった背景を踏まえ、「在留特別許可」制度は、在留資格がない外国人への(強制送還を前提とした)退去強制手続きにおいて、何らかの理由で「このまま日本で生活したい」という事情を訴え、それが認められた場合に在留資格が与えられるという制度として機能するようになりました。

この段階においての基準は「法務大臣の裁量」で不透明なままでしたが、上記のような背景を踏まえて、(1)日本人又は永住者との婚姻を行った外国人(2)日本人の実子を養育している外国人の2種類が「許可される可能性があるカテゴリ」として実質的に追加され、「在留特別許可」の実質的な運用もそちらが主流となりました(1998年に「在留特別許可」が認められた人数は2,497人(内訳は不法入国者が497人、不法残留者が1,904人)。1990年代後半の許可者は、約9割が日本人又は永住者との婚姻を理由とするものという外国人支援団体の報告が有ります)。
これらのカテゴリの追加に当たっては、法務省の通達(「日本人の配偶者等に関する通達(1992.4.8)、「定住者の母子に関する通達(1996.8.1)の影響が大きいとの指摘もされています。

③1999年「一家全員集団出頭」後
外国人の滞在が長期化するにつれて出てきたのが、「一家全員在留資格がないが、日本で生まれた(両親が外国人の)子供がいる」という、「不法滞在者の2世とその家族の在留」のケースです。
通常、こういったケースでは一家全員に「在留特別許可」は与えられていませんでしたが、1999年に「不法滞在者の家族全員が一家全員で集団出頭する」という事が起こりました(「在留特別許可一斉行動について(支援NGOの当該ページ)」)。

これはマスコミ等でも報じられ、「日本で生まれ育って日本語を話す(両親が外国人の)子どもたちに在留特別許可を与えて欲しい」という世論のサポート、「児童の権利条約」における「子どもの最善の利益」概念の影響力の増大等の要素が加わり、「両親が外国人であっても、日本で生まれ育った子供が一定の年齢以上の場合には、一家全員の在留特別許可が認められる場合もある」という前例が出来て、「許可される可能性があるカテゴリ」が追加されたようです。
マスコミ等で報じられた、「在留特別許可」が一家全員に認められる可能性がある実質的な基準(追加されたカテゴリ)は、以下の通りになります。
(1)おおむね10年以上の日本での在留年数
(2)日本で生まれたか、幼少の頃に来日した子供がいる
(3)その子供(長子)が中学生以上である
(4)素行が善良である

その後、許可される可能性のあるカテゴリ自体は拡大されなかったものの、2000年の第二次出入国管理基本計画において「不法滞在者と我が国社会のつながりに配慮した取り扱い」が言及された事、入管側の事務処理速度の向上などに伴い、「在留特別許可」が認められる件数は増加していき、近年では許可者数は年間1万人を超えるようになりました(2005年に「在留特別許可」が認められた人数は10,834人(内訳は不法入国者が2,077人、不法残留者が8,483人)になります)。
「在留特別許可」が認められる場合の基準に関しても、以前の「法務大臣の裁量」といった不透明なものから、法務省公式サイト内に「在留特別許可のガイドライン」が公開されるようになり、合わせて許可された事例及び許可されなかった事例もサンプルとして公開されるようになりました。

関連項目

参考サイト

諸外国の「在留特別許可(とその類似制度)」

基本的に、どこの国も在留資格のない外国人(不法滞在者、非正規滞在者などと呼ばれています)は全て帰国させるという事はしておらず、(政策的な都合や人権的な配慮で)国が定めた条件を満たした外国人には在留資格を認めるという事をやっています。

日本の場合は、「在留資格のない外国人の合法化」は「在留特別許可」という制度に一本化され、細かい基準は非公開でおおまかなガイドラインだけが公開されていますが、「在留資格のない外国人の合法化」という枠組みでとらえた場合、諸外国では政策的判断を含めた条件を提示し、条件を満たした外国人を一斉に合法化する「アムネスティ(一般アムネスティ)」と、個別具体的な案件で人権面などを考慮に入れた「在留特別許可(国によって名称は違います)」が制度として設けられており、そちらでは具体的な条件も公開されています。

諸外国での「在留特別許可」の条件
国名 条件
アメリカ 10年以上居住、善良、退去強制がアメリカ国民または永住者である家族によって非常な困難(注①)
フランス (1)10歳より前から居住する未成年者(2)10年以上居住する者
イギリス (1)7年以上居住している若い子供のいる家族(2)14年の居住
オランダ 6年継続居住・就労・税金・社会保険料の支払い(2)3年以上居住許可の決定放置
ドイツ 拒否された庇護希望者のみの制度だが、不法滞在者も庇護申請できるので使用可能(注②)
注①:72年1月1日以後、継続して居住し、善良であれば、非常な困難の証明不要
注②:(1)90年7月1日以前に入国した未成年の子供のいる家族(所得、住宅、無犯罪など)(2)87年1月1日以前に入国した独身者と子供のいない夫婦等
出展:「超過滞在外国人と在留特別許可」 p.58

諸外国での一般アムネスティは、政策的な判断(国の労働市場の都合等)が考慮され、以下のような条件で実施されました。
国名 年度 人数 条件
アメリカ 1987-88 270万人 1982年1月1日以後継続居住/前年90日以上農業従事者に短期滞在許可(半年後に永住許可)
アメリカ 1997-98 41万人 中米と東欧の出身者/1995年以前に入国のハイチ人/2年以上滞在のニカラグア人/キューバ人
フランス 1981-82 13万人 1981年1月1日以前に入国、安定雇用を前提に永住許可
フランス 1997-98 8万7000人 7年以上居住の家族/雇用申出があり5年以上居住の家族などに永住許可
イタリア 1987-88 11万8700人 1987年1月27日以前に入国、雇用、身元引受人を条件に短期就労許可
イタリア 1990 23万5000人 1989年12月31日以前に入国した労働者と学生に2年の滞在許可
イタリア 1995 23万8000人 社会保障費を3ヶ月以上払い、過去6ヶ月の雇用/雇用申出のある者に1ないし2年の滞在許可
イタリア 1998 19万3200人 1998年3月27日以前に入国、雇用を条件に短期滞在・就労許可
イタリア 2002 63万4700人 年金保険料を3ヶ月納付し、雇用契約を条件に1年の滞在・就労許可
スペイン 1985-86 2万3000人 1985年7月24日以前に入国、雇用申出のある者に1年の滞在許可(雇用を条件に延長可)
スペイン 1991 10万9000人 注釈①参照
スペイン 1996 2万1300人 1996年1月1日以前に入国の家族/同年5月後の滞在ないし就労許可者に5年の就労許可
スペイン 2000 15万3000人 注釈②参照
スペイン 2001 22万1000人 2001年1月23日以前に入国し、労働市場に編入/国民または正規滞在者の家族に1年の滞在許可
スペイン 2005 57万3000人 2004年8月7日以前に住民登録した者/社会保障費を払い、過去1年間に入管法違反がない者に労働許可
ポルトガル 1992-93 3万8000人 注釈③参照
ポルトガル 1996 3万1000人 注釈④参照
ポルトガル 2001 17万人 入国・雇用を条件に1年の滞在許可(4回の更新後に自動的に永住許可)
ギリシャ 1997-98 37万人 注釈⑤参照
ギリシャ 2001 22万8000人 以前に正規の在留資格/正規化法施行以前に1年以上の滞在
ギリシャ 2006 不明 2005年8月23日以前に正規の在留資格があった者/同年1月1日以前に入国した者
ベルギー 2000 4万7000人 注釈⑥参照
ルクセンブルク 2001 2000人 注釈⑦参照
オランダ 1975 1万5000人 1974年11月1日以前の入国後継続雇用等を条件に事実上の永住許可
カナダ 1973 3万9000人 1972年11月1日以前に入国、安定雇用を条件に永住許可
オーストラリア 1980 1万人 1980年1月1日以前に入国して同年6月19日に滞在する者に永住許可
ニュージーランド 2000 5000人 5年の滞在/国民の配偶者や親に滞在許可
マレーシア 1991-92 44万2000人 家政婦・農業・建設業などの不法就労者の登録義務(20%だけが労働許可申請)
マレーシア 1996-97 42万3100人 1994年1月7日以前入国の不法就労者の登録義務による2年の労働許可(1年の更新可)
タイ 1996 37万2000人 水運業・製造業の不法就労者の登録義務による2年の労働許可
韓国 1992 6万1000人 工場労働者に短期滞在許可とその更新
韓国 2003 18万 3年未満の滞在者に2年の労働許可
アルゼンチン 1974 15万 1974年1月1日以前に入国
ベネズエラ 1980-81 27万5000人 1978年1月1日以前に入国
注釈①:1985年7月24日以前に入国の自営業者/1991年5月17日以前入国の継続居住者・勤労者・自営業計画者(および家族)/庇護希望者に3年の滞在許可
注釈②:1999年6月1日以前に入国、過去3年間の滞在許可または就労許可の取得または申請者に1年の滞在就労許可
注釈③:1986年6月1日以前に入国したポルトガル公用語国の国民/1992年4月16日以前に入国、生計維持能力のあるその他の国民に短期滞在許可
注釈④:1995年12月31日以前に入国したポルトガル語会話圏の国民/1995年3月25日以前入国の他のEU以外の国の国民に短期滞在許可
注釈⑤:1997年11月27日以前の入国を条件とした前段階の6ヶ月の在留のみ正規化(ホワイトカード)は37万(非専門職労働者の40労働日数相当分の所得・1998年6月1日以来の就労を条件としたグリーンカードは22万)
注釈⑥:庇護申請後4年(学齢期の子供がいれば3年)の決定放置/送還困難/重病/6年(学齢期の子供がいれば5年)の居住を条件に長期滞在許可
注釈⑦:1998年7月1日以前に入国した者/2000年1月1日以後就労していた者/同日以前に入国したコソボ難民に6ヶ月の滞在許可(雇用を条件に長期滞在許可)
出展:「在留特別許可と日本の移民政策」 p.44-45

Q&Aなど

在留資格のない外国人に関して「不法滞在者」「非正規滞在者」と違った呼び方がありますが、どちらが正しいのでしょうか?

在留資格のない外国人に関しては、法務省(入管)や国内のマスコミは「不法滞在者」という呼称を使い、NGO/NPO/研究者などは「非正規滞在者」という呼称を使っています。
NGO/NPO/研究者側の「非正規」という名称の根拠としては、1975年の国連総会で「不法なという言葉は常に移民に罪があるような印象を与えるため、国連の公式文書では非正規若しくは証明書を持たないという用語を使う」という決議がされている事、1994年の人口と発展に関する国際会議では、「証明書を持たない移民又は非正規移民は、入国、滞在又は経済活動の行使について到着国で定められた要件を満たさない人」と定義されている事などが挙げられています。
一方の法務省側としては、国連内部でも「非正規」の用語で統一されているとは理解しておらず、これからも「不法滞在者」の呼称を使用する事を国会質疑で答弁しています(関連項目参照)。

なお、研究者の立場で「非正規滞在者」という名称を使うべきだとする理由に関しては、鈴木絵里子『日本で暮らす非正規滞在者』によると、以下のようなものになるようです。
①「不法」という言葉が「犯罪」と結びつけられやすい表現であるが、「不法」というのは刑事犯を意味するものではなく、単に入管法に違反するという意味である事。そのため、当該外国人の「不法性」が無制限に拡大解釈される可能性を避けるため。
②合法的な滞在資格をもたない事が、必ずしも当該外国人の責ではない場合もあるから(2008年改正前の国籍法に絡んで、日本人の子どもなのに国籍と在留資格が与えられないケースなど)。
③非正規滞在者であっても、受け入れ国の政策や制度によって、合法的な滞在資格が与えられる場合があるから。

関連項目



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最終更新:2009年10月14日 20:47
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