SF百科図鑑

ウィリアム・ギブスン『ニューロマンサー』ハヤカワ

最終更新:

匿名ユーザー

- view
管理者のみ編集可

2001年

1/12

「ニューロマンサー」に入る。
久々に読んで驚いたのは、初めて読んだときのとっつきにくさはどこへやら、非常に読みやすいということだ。細部まで緊密に形作られた硬質できらびやかなイメージに満ちた文体は近未来の叙情詩人と呼ぶにふさわしい(おれが勝手に名付けた)。舞台が日本であるのに(しかも千葉)、その荒廃した未来都市の情景はたまらなく異国風で、どこかイヴ・タンギーの絵を思わせる。そして、出てくるアウトローな人間たちは(ディレーニイの影響が顕著と思われる)どこか人生に見放され、心に傷を持った彷徨い人であり、共感しやすい。この作風は、短編よりも長篇向きだと思っていたが、予想通りという印象だ。「クローム襲撃」に入っていた短編も悪くはないが、アイデアではなく文体や情景、イマジネーションによる衝撃力が売りであるだけに、やはり、短編では衝撃力が薄まってしまう。長篇でどっぷりその世界に浸ることが、彼の作品の持ち味を楽しむには最高の方法だろう。まだ冒頭に入っただけだが、この作品がヒューゴー/ネビュラ両賞受賞の熱狂で迎えられた感触は十分に感じられる。

が、その前に「奥地のギルガメシュ」。
めちゃめちゃ面白い(笑)。ドタバタ/パロディ喜劇やないか。ロバートEハワードは自分をホモと間違えるわ、ラヴクラフトはネクロノミコン?の呪文を叫びながら銃を乱射するわ。で、今、インターネットで「ギルガメシュ」を検索したら、「世界最古の楔形文字の粘土版の物語」なんだって。しかも、ストーリーがめちゃめちゃ面白い。こりゃあシルヴァーバーグが小説化したくなったのも仕方がない。
今半分読んだ。あと半分だぜ。

1/16
ギブスン「ニューロマンサー」★★★★★
今頃読んで五つ星をつけるのも気恥ずかしいが、この作品が初めて出版されたときの強烈なインパクトは今読んでも十分に推測できる。今読むと、インパクトはさほどでもない代わりに、今現在のインターネット社会とこの作品世界とが感覚的に近いため非常にリアリティがあって入っていきやすい。何といっても、無機質な造語の氾濫と、過度にスタイリッシュで視覚的な情景描写(普通の作家が一行で済ませたり省略したりする部分=何を着ているとか、何の道具を使うとかを執拗にくり返し具体的に描写する)に強烈な特徴があり、それだけでギブスンの作品であるとすぐに分かる。これが長篇の400ページの間切れ間なく続くのだから、その読書体験は極めて強烈でオリジナルだ。この文体のインパクトを壊さないために、ストーリーは意図的に「普通のピカレスク冒険小説」になっている(らしい)。確かに、とくに第4部のストレイライト攻略の場面は少し長過ぎて途中で飽きてくるが、こういったプロット面の意図的?弱さも文体と相まって逆に作品自体のはったりを増していると思える。とにかく唯一無二の個性といえ、それだけで多少のプロットの弱さを補って余りある。好悪に関わらずいちおう全作品に目を通すべき作家であろう。

記事メニュー
目安箱バナー