SF百科図鑑

大江健三郎『われらの狂気を生き延びる道を教えよ』新潮文庫

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September 02, 2005

大江健三郎『われらの狂気を生き延びる道を教えよ』新潮文庫

連作短編集
1967年から69年にかけて発表された6編の中短編にプロローグを付けた作品集。その後の大江作品で繰り返し取り上げられるモチーフや登場するキャラクターが扱われている原型的作品が集められていて興味深い。
「なぜ詩ではなく小説を書くか、というプロろーぐと4つの詩のごときもの」★★
作家自身の自己分析エッセイ。確かに末尾に掲げられている詩は酷い。詩よりも小説に向いているという自己分析は正しい。と同時にここにある詩のいくつかが第2部の短編の着想源になっていることがわかる。
「走れ、走りつづけよ」★★★
アメリカの有名セクシー女優のマネージャーになり基地外字見た行動をとる従兄弟の話。でも時代の狂気を乗り切るには狂うほうが楽だ、語り手は狂気という道を選べないがゆえに苦労するだろうというオチ。
「核時代の森の隠遁者」★★★★
『自由』を合言葉とする四国の谷間の村の話。『同時代ゲーム』の原型作品と思われる。未読だが『万延元年のフットボール』の続編でもあるらしい。
「生贄男は必要か」★★★★
自らを生贄に捧げた軍人の肉を子供時代に食った男の話。彼は善をなさんとしてベトナム戦争の米軍に兵器の部品を売っているらしき工場の社長を追及する。奇想性がマル。しかも男の作り話でなく実話だったことがわかる後半は怖い。
「狩猟で暮したわれらの先祖」★★★★
サンカをモチーフにしたと思われる谷間出身の放浪一家の話。自由気ままに詐欺や恐喝をしながら放浪生活を続ける一家は、嫉妬に駆られた人々に迫害されながらもたくましく生き続け、ついには当たり屋になる。
「父よ、あなたはどこへ行くのか?」★★★1/2
雑誌に発表された同題短編と「われらの狂気を生き延びる道を教えよ」をまとめたもの。同一の話を一人称で語ったのが前者、三人称で語ったのが後者。引きこもり生活に入ったまま死んだ父の心境を知ろうとして主人公は伝記を作り始めるが、母親は主人公が父に関心を持つのを嫌い、手記を没収し、「あなたの夫は狂っているから気をつけろ」と妻に書き送る。主人公は母親と対決を決意し、再び父の伝記を書き始める。脳に障害のある息子を森(イーヨー)と名づける。この息子のエピが後半の大半を占める。ラストで母親は諦めて息子に原稿を返し、父の死の真相を話すが、主人公はそれを聞いて幻滅する。もはや父の伝記を書くことで自分の苦悩を解決できなくなった主人公は架空のあの人に向けて一人称の誰に読ませることもない手記を書き始めたが、絶対に誰にも見せることはなかった。
森=父というのは、『ピンチランナー調書』の主人公である。
総合★★★1/2
silvering at 21:28 │Comments(1)読書

この記事へのコメント

1. Posted by SLG   September 03, 2005 14:07
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件数 場名 レース 式別 馬組 金額
(1) 札幌(土) 9R 単 勝  12
100円
(2) 札幌(土) 9R 馬 連  09-12
100円
合計 200円
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