SF百科図鑑

Octavia E. Butler "Wild Seed"

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May 04, 2005

Octavia E. Butler "Wild Seed"

野生の種プリングル100冊も手持ちはあとわずかとなってきた。これは<パターンマスター>シリーズの1冊らしい。バトラーは、「タラントの寓話」「種まき人の寓話」と短編の「血をわけた子供」「ことばのひびき」などが既読。情感溢れる読みやすい文章と、分りやすいストーリー展開と、奥深いテーマ。非常にバランスのいい作家で、結構好みです。ワトスン、ステイブルフォード、ブローデリックと、左脳を酷使するタイプの作家を連続して読んで疲れたので、息抜きにちょうどいいかも。左脳休ませてあげよう。感想粗筋追記2005.5.8
読了。
表面的には(ファンタジーに近い)超能力テーマSFといってよいが、内容は筋金入りのフェミニズム/マイノリティ文学であり、極めて政治的な作品である。
本体部分の構成は、第一の書から第三の書までに分かれる。
第一の書は、未曾有の再生能力と変身能力で不死の(生まれた時点では)黒人女性、アニヤヌが、他人の精神を殺してその身体に乗り移る能力のゆえに同様に不死の男性、ドロと出会い、彼にスカウトされて、彼が北アメリカのニューヨーク付近に建設した超能力者の村に行くまでの顛末を描いている。
第一の書は、とにかく奇想天外でバラエティ豊かな超常能力の描写が読みどころである。特にアニヤヌがイルカに変身してイルカの群と戯れる場面などは、美しくて眩暈がするほどだ。いったいどんな方向へ話が進むかとわくわくさせながら、目的地の村に到着する。
ところが、このドロという男、何千歳という年の故かほとんど人間性を喪失した鬼畜で、自分の「転移」の対象を確保するため超能力者を集めては交配させており、妻として迎えられたはずのアニヤヌは、何とドロの息子アイザックの妻にさせられてしまう。義理の息子との結婚に倫理的抵抗を示したアニヤヌも結局根負けし、これに応じてしまう。このあたりから、本作が大衆娯楽SF的展開を狙った作品ではないことが次第に明らかになってくる。
第二の書は、その50年後、ニューヨーク近郊の超能力者の村でドロに「奴隷・繁殖牝馬」扱いされ、極めてインモラルな(近親交配・雑婚が当たり前の状況)性生活を強制されてきたアニヤヌが、超能力者の女性の「トランジション」(超能力者の成熟前に起こる猛烈な発作)の犠牲になって、夫を失い、失意のうちに失踪するまでを描いている。
この第二の書は、まさに「家畜のごとく扱われる弱者」の悲惨な境遇の描写に費やされる。「寓話シリーズ」も、虐待される弱者の描写の迫力が大きな特徴であったが、どうやらこれはバトラー作品の共通要素なのかもしれない。「何もそこまで」といいたくなるほどの、陰惨で卑劣で残酷でインモラルでディプレッシングな描写がえんえんと続く。正直、途中で読むのをやめてしまおうかと思うほどだったのは、コメント欄にも報告したとおりである。そしてラストでは、とうとうアニヤヌは鳥に変身して逃げ去ってしまう。このラストには少しだけほっとさせられた。
第三の書は、それから100年後、アニヤヌを忘れられないドロが、男性の老人に変身して超能力者のコミュニティを作っているアニヤヌを発見し、アニヤヌとよりを戻すとともに、このコミュニティを支配しようとした結果、再び死者が続出するが、どうやってもアニヤヌの愛を得られず、ついにはアニヤヌの死の決意を目の当たりにし、改心するまでを描いている。虐げられた弱者たるアニヤヌが、ドロのエゴイスティックで非人間的な超能力コミュニティに対抗して築き上げた、人間的な超能力者コミュニティが、ドロの挑戦を受け、屈しそうしなりながら、その寸前で、アニヤヌの命を賭した訴えにより、遂にドロを屈服させ改心させるまでの過程であり、「第二の書」でどん底まで落ち込んだ状況を徐々に希望のある状況へと引き上げていく部分である。大半の部分が第二の書と同様のドロとの葛藤、闘争に費やされ、とりわけ、ドロとアニヤヌのどろどろの愛憎劇がフィーチャーされる。そして最終的にはアニヤヌが勝利を収める。
エピローグは、こうやって改心したドロとともにアニヤヌが超能力者のユートピアを築こうとする未来への展望で幕を閉じる。
本書は大きく二つのレベルで読める。第一のレベルは、ドロとアニヤヌが真の愛を得るまでの恋愛物語として。第二のレベルは、パブリックなレベルで、超能力者のコミュニティ内部の闘争という形を通じて、利己的に他人を抑圧する邪悪な力と、これに虐げられながらも、その力を乗り越えて自由を勝ち取る弱者たちの姿及びその方策を描いた、政治物語として。つまり、人間社会に偏在する「男女の愛」と「権力による女性・少数民族などの抑圧・収奪」という二つの問題を、超能力による不死という極限的設定を導入することによって象徴化して描き出した作品である。そしてその視点は一貫して、人間性への志向と粗暴な権力からの自由という点におかれている。「黒人」「女性」作家として二重のマイノリティの立場にある作者らしい、強固な思想に裏打ちされたパワフルさを持った作品だといえる。
確かに、政治的・思想的主張を押し出すあまり、多少物語的娯楽性が犠牲になっている感がなくはないが、他方で全く気配りを欠いているわけでもない。「キンドレッド」の解説によると、作者は「キンドレッド」を書くために図書館で奴隷体験記を読み漁ったが、「どれも陰惨で読むのがつらかった」「これでは人々が読まない、洗い上げてでも読めるものにしなければ」と思ったというように、小説という表現形式が独りよがりな主観の垂れ流しであってはならず、読者あっての表現であること(読み手がきちんと読んでくれるような内容でなければ、どんなに高尚なことを主張しても意味が無い)をきちんと理解している。その観点から第一の書が魅力的な超能力SFになっているわけであり、それと第二、第三の書の組み合わせは結局、作者の主目的が後半部分の主張にあることから、まさに予定通りなわけである。第二部のディプレッシングさも、読んでいる最中はつらかったが、最後まで読んでみると、結局、作品の構成上必要な描写だったことが分る。第三部の結末は、やや都合がよすぎな感もなくはないが、個人レベルの問題とパブリックな問題を結び付けて同時に解決している構成はいい。総じて、計算どおりの効果を上げており虻蜂取らずには終わっていないと思う。
また本作は、超能力を単なる冒険活劇のギミックとして用いるに留まらず、それが人間精神ひいては社会にもたらす影響をかなり精密に描写している点がすばらしい。アンダースンの短編に「旅路の果て」という皮肉な作品があるが、あの作品で提示された問題を、個々の特殊能力のディテールを緻密に構築しつつ、それによって人間精神がどのように変容するかを迫力たっぷりにリアルに描いている。超能力の描写という点でも精神の描写という点でもここまでリアルなものは、他にあまり読んだ記憶が無い。それだけでも充分に画期的だと思う。
本書で超常能力の一つとして取り上げられている「エンパシー」は、「寓話シリーズ」では単独モチーフに発展して、更に詳細に扱われることになる。

テーマ性   ★★★★★
奇想性    ★★
物語性    ★★
一般性    ★★
平均     2.5
文体     ★★★★
意外な結末 ★★
感情移入力 ★★★★
主観評価  ★★★(31/50点)

<あらすじメモ>

野生の種子 オクタヴィア・バトラー

第一の書 盟約 一六九〇年
第一章
交配村落の一つがどうなったかを見に行ったとき、ドロはたまたまその女を見つけた。村は草地と点在する木々に囲まれた快適な泥壁の集落だった。だがドロはそこに着く前から、村人は誰も残っていないだろうと分かっていた。奴隷商どもは自分より先に村に着いていたのだ。銃と自らの欲望によって、わずか数時間のうちに、村人が千年もかけて築き上げたものを無に帰してしまっていた。駆り集めて追いだせなかった村人は、皆殺しだった。ドロは人骨や髪の毛や野生動物が食い残した肉の切れ端を見つけた。とても小さな骨を見下ろした──子供の骨だ──そして、生き残った者はどこへ連れて行かれたんだろうと思った。どこの国、はたまた新世界の植民地だろうか? 健康で生き生きしていたあの人々の生き残りを見つけるのに、いったいどこまで遠く旅しなければならないのか?
彼は岸辺の自分の船を離れて、ひたすら南西に進んでいた。何度も殺されながら、生き続け、ひたすら旅を続けていた。
***
アニヤヌは人並み外れた能力を持ち、グループの中で神の言葉を仲立ちする女司祭の役割を果たしていた。男たちにたびたびつけ狙われたが、持ち前の能力で、一日に七人を殺したこともある。彼女の名声は、グループの生活を助けた。
その日も彼女は男につけられていた。三十前の若いハンサムな男だった。アニヤヌは男に話しかけた。「あなた、誰?」
男はドロだった。彼は、アニヤヌに特殊能力があることを感じ、その能力がどのようなものであるのかを確認するためやってきた。男の目的は、特殊能力を持つものの「種」をできるだけ広めることだという。
アニヤヌは、自分の能力を明かす前にドロ自身の能力を明かせと言った。ドロは、自分は他人を殺してその肉体に乗り移る能力がある、肉体を衣服のように着替えられるのだという。男が体を取り替えた回数は何千回できかない、今からそれを実演して見せよう、と。男はもう何百歳になるようだ。クシュ族に生まれたが13歳のとき群から離れたという。
アニヤヌ自身は、300歳近くになる。母は予知夢を見るほか、薬を作る、あるいは商売の才能があった。父親は種なしで、アニヤヌは通りすがりの異人の子だった。父の部族には変身能力者がいるという噂だったが、見たことはなかった。アニヤヌは体の大きさを自由に変える能力があったが、保護色として、普段は小柄な体を保っていた。この300年間、自分以外の超能力者を見たことはなかった。
アニヤヌは、こんなオープンな場所では自分の能力のことを話せないといい、場所を移動することにした。
***
二人はアニヤヌの家に移動した。
アニヤヌは自らの変身能力を披露した。まず、老婆から一〇代の美少女に変身し、次いで男性に変身した。彼女は一〇代の少女に変身するのが最も容易だったが、動物などに変身することも可能だったし、斬られて殺されそうになったときも一瞬のうちに傷を治癒させ、七人の男をとてつもない握力で握り殺した。
この治癒、変身能力のゆえに、彼女は事実上不死だった。
彼女は過去に10人の夫を持ち、47人の子を生んだが、全て一般人で、超能力者はいなかったし、不死のものもいなかった。また、男性に変身し女性を妊娠させることも出来たが、この場合、遺伝子は女性のままなので、生まれる子は全て女性だった。
ドロは彼女の能力に驚愕し、間違いなく超能力者の血を強める最も優秀な種であると確信した。性的魅力を感じ、妻にしたいという欲求も覚えた。彼は、アニヤヌを必死で口説くが、アニヤヌは、ドロが他人の食料だけでなく肉体も奪う二重の意味の泥棒であること、また、自分は今一緒にいる部族と離れて生活したくないことを理由になかなか応じない。
ドロは、アニヤヌに食事を求め、アニヤヌがヤムイモの料理を作っている間仮眠をとった。
アニヤヌに起こされ、食事をしながら、ドロは、好きで殺しをするわけではなく、今使っているこの肉体の主も、自分を殺そうとしたから身を守るためやむなく殺して乗り移ったことを説明した。そして、アニヤヌこそ殺されそうになって七人の男を殺したこと、他にも多くの人間を殺していることを白状させた。アニヤヌは悲痛な表情でそれを認め、怒りのあまり自分を抑えられなかったこと、それ以来できるだけ怒りの感情を抑えていることを告げた。
ドロは、アニヤヌをニューヨークに設けようとしている超能力者のコミュニティに連れて行きたいこと、そこに行けばアニヤヌに不死の子を持たせられるだろうことを説いて、なおもアニヤヌを口説いた。
アニヤヌの承諾の合図は、アニヤヌが胸をふくらまし女性の姿に戻ることだった。ドロは、美少女に戻ったアニヤヌをソファに導いた。

第二章
ドロはアニヤヌを連れて出発する。アニヤヌは子供たちへの懸念を語るものの、ドロの妻=財産としてドロに従う態度を示す。ニューヨークに着いたら早く子供を生ませようとドロは思う。
***
船への道のりは険しく、歩みはのろくなった。途中、ドロの手の怪我が腫れてきたので、アニヤヌは傷口を数回噛んで癒した。
***
ドロはある村の家にアニヤヌを連れていく。そこには、ドロが殺した男の息子である若い男と、小さな子供がいた。ドロは、若い男を威嚇するために子供を殺し、その体に乗り移る。若者はアニヤヌに襲いかかり、アニヤヌは反射的に若者をはねとばす。若者は壁に叩きつけられた後、逆上し、子供に乗り移ったドロにナタで斬りかかる。ドロは子供の体を斬らせ、それによって若者の体に乗り移った。
若者の体に入ったドロは、二人の魂を殺したのに、何食わぬ顔をしていた。アニヤヌは仲間の部族からドロを遠ざけたのは正解だったと思った。

第三章
ドロとアニヤヌは港に着く。ドロの子分で奴隷売買の王立アフリカン社で売人をしているバーナード・デイリーが、白人業者に奴隷を売っていた。ドロの息子レールが連れてきた奴隷の中に、アニヤヌの孫がいたので、ドロは買い戻した。港にはドロの船、銀星号が停泊していた。
***
ドロはアニヤヌと孫のオコイエを船室に入れると、デイリーを船上に招き、酒を振る舞い、種人の村がどうなったのかをきいた。種人たちは読心能力ゆえに互いに殺しあったり、一般人との間に摩擦を生じ迫害されたりするため、小人数ずつで隔離して生活させ、能力者同士のみで結婚させる必要があった。問題の村も一般人に見つかりにくい場所を選んだはずだったが、見つかったのだとすれば皆殺しか、奴隷にされたのかは分からない。デイリーも詳しいことは知らなかった。だがドロはかすかに彼らの一部が生きていることを感知していた。
デイリーはかつて、ドロに殺されかけたが、異能者への羨望ゆえに腕一本を斬られただけで命を助けられた。以来彼はドロの腹心の部下として、この地で独占的奴隷売買を認められていた。常々彼は自らもニューヨークの異能者の村で一緒に働きたいといっていたが、ドロに認められなかった。
ドロは息子(通常人)である船長のジョン・ウッドレーに支払をさせ、デイリーを船外に見送った。

第四章
男の姿をとっていたアニヤヌは、孫に自分の正体を明かした。自分はオコイエの母のただの親戚ではない、神託の巫女、アニヤヌなのだと。初めは信じず逃げ出そうとしたオコイエも、ようやく落ちついてアニヤヌが祖母であると認めた。
アニヤヌは、自分の本来の姿が最初の夫を持ったときの若い娘の姿であることを告げた。このときアニヤヌは不妊症でひどい病気になり死にかけたが、夫が与えた薬で回復すると共に自分の変身能力や自己治癒能力をコントロールできるようになった。この夫との間に10人の子をもうけた。アニヤヌは配偶者に合わせて自分の外見も年をとるようにしたが、夜の営みのときには若い娘に戻った。
オコイエは、ドロの正体にも気付いていた。彼は人間ではない、恐ろしいと。アニヤヌは、彼は自分を妻に迎えたのだから、お前に危害を加えることはないと安心させた。
***
オコイエは水に中毒して体調を壊した。アニヤヌはオコイエをデッキに連れていき、薬を与え、船室に戻した。そこへドロが来て、奴隷の中に他に子孫がいないか調べろといった。アニヤヌはどれの部屋に行った。ウデンクォという女がいた。この女は息子と離れ離れになっており、アニヤヌの子孫であることが分かったが、ドロはどうしようもないといった。ここにはアニヤヌの子孫だらけなのだ。それをいうならドロは3700年の間に何千人の子供を作ったらしい。
アニヤヌは一人デッキに出て海を眺めた。猛烈なホームシックに駆られ、海に飛びこみたいと思った。海に飛び込もうかというとき、アイザックという男に腕をつかまれたが、ふり飛ばした。今度はドロにつかまれ引きとめられた。アイザックは怪我をしていた。彼はドロの息子だった。ドロはアニヤヌの心の動きを読んでいるようだった。
***
ドロがアニヤヌを船室に見送るとき、アイザックは彼女の尻の動きをうっとりと見ていた。彼はアニヤヌへ恋情を隠しもしなかった。ドロは、後になれば彼女を共有することもありうるが、しばらくは刺激しないようにと言った。アイザックはドロの子の中でも有数の異能力者だった。彼女と子を作れば優秀な異能力者が生まれるだろうと思った。

第五章
オコイエの病が治ると彼は奴隷部屋に移され、ウデンクォと仲良くなった。数日後ドロはもし結婚したいなら船長の許可を得て誓いの儀式をせよといった。また、今後自分の命令に従えと言った。オコイエはしぶしぶうなずいた。
***
オコイエとウデンクォの婚礼の二日後に嵐。念動力者のアイザックが船を速く進めた。が、やりすぎて意識を失ってしまう。アニヤヌはデッキで激しい揺れに耐えていたが、ドロに船長室へ連れていかれた。そこへレールというドロの息子が気を失ったアイザックを連れてきた。レールは醜い顔だった。そして、アニヤヌの心の中に話しかけた。テレパスらしい。逃げようとすると追ってくる。アニヤヌは半狂乱でレールの顔を殴り、気がつくと獣に変身してレールを殺し、胸を引き裂いていた。そこへドロが止めに入った。アニヤヌはようやく落ちついて女の姿に戻った。アニヤヌはドロに事情を話した。ドロはそれ以上とがめだてせず、アイザックを連れて去った。
***
翌日、レールを海へ葬り、ドロはみんなの前でアニヤヌが殺した経緯を説明した。これは、彼女に対してよこしまな劣情を持つ者への牽制だった。ドロは、短命で人数の少ないテレパス(相手の変身能力を制御できる者もいるらしい)であるレールの死を惜しんだ(子供は三人しかいない)ものの、アイザックにアニヤヌをレイプさせ、あわよくば自分もやらせてもらおうと考えていたことが明らかなので、レールを殺したのはやむを得ないといった。もしアニヤヌがなすがままにやられていたとしても、ドロ自身がレールを殺していただろうという。
アニヤヌは、アイザックに妻をとらせるようドロに進言した。
***
やがて陸地が近づき、ある日アニヤヌはアイザックがイルカを念動力で持ち上げ捕獲するのを見た。その夜アニヤヌはイルカの肉を食べてその組織を下で読み取り、変身したいとドロに持ちかけた。翌日、アニヤヌはドロとアイザックの見ている前で海に飛びこみイルカに変身した。オスのイルカがメスのイルカになったアニヤヌを誘惑した。イルカには他の獣と違い知性が感じられた。アニヤヌはこのオスとセックスがしたくなり、オスを追って行った。と、そこへアイザックが飛びこんで割って入った。ドロが戻れといっていると伝えた。アニヤヌはしぶしぶアイザックの念力で船に戻り女に戻った。ドロは感心し、「君は僕に一体どんな子を生んでくれるか楽しみだ」と言った。そして船の前方を進むイルカの群を見た。アニヤヌが「一体なに?」ときくと、何でもないとごまかした。なぜ嘘をつくのだろう。

第六章
アニヤヌの変身能力は強力すぎてドロの手に終えない。いっそのこと殺して乗り移ってしまおうかとの誘惑にも駆られる。しかしそれではアニヤヌの不死能力を受け継ぐべき子が少ししか生めない。また乗り移っても、ドロには前の持ち主の超能力を受け継ぐ力はない。やはり、アニヤヌは生かさなければならない。なだめながらできるだけ多くの子孫を生ませる。そして変身能力のある者は危険なので間引きすればよい。
最近はドロはアニヤヌとアイザックをやりたいようにさせている。二人はいつも一緒に海に入って、あるいは空を飛んで遊んでいる。一度アニヤヌは鮫に襲われたが、くちばしで突き殺し、自らも鮫に変身して死体を腹いっぱい食べた。船で女に戻ったときは満足げで傷も消えていた。
アニヤヌとアイザックを結婚させて子を生ませれば、アニヤヌの不満はそらせるから安泰だ。特に子供が生まれれば母になるから。だがアニヤヌはドロを夫と考えているから、それはうんといわぬだろう。
いずれにせよアニヤヌは、善悪というものがドロの教えるとおりであることをそのうち理解するだろう。
***
船はニューヨーク船に着き、彼らはアイザックが川船を持ってくるのを待つ。それでハドソン川をウィートリーまで遡るのだ。
アニヤヌはニューヨークの街の一つ一つが集落ともいうべき建物群についてドロの説明を受ける。それから、ウィートリーが奴隷という身分にとらわれず自由に暮らせる場だときいて喜ぶ。
アニヤヌはドロが持ってきた女物の衣服を最初盗んだものだといって着るのに抵抗を示すが、やがてドロに説得され、それを身に着ける。
***
アニヤヌはアイザックのおいたちについて話す。アイザックの母はテレパスで幼いころなくなっていた。相変わらずアイザックはアニヤヌをよこしまな目で見ている。自分の恋人を見つけるべきなのに。
***
船を借り、一行はウィートリー村(ギルピン)へ移動した。ギルピンという名は60年前の入植者リーダー、ピーター・ウィレム・ギルピンからとられている。だがその後ドロが英国人ウィートリー氏一家らの入植を助け、小麦の耕作を始めた事からウィートレー村に替わった。ジョナサン・ウィートレーの土地は今やヴァン・レンゼラー家と肩を並べる広さだ。この地でドロ一派の人々は着実に増えている。米国ではウィートレーがドロの家だ。ドロは奴隷たちをコミュニティ全体に配分した。ドロの家には使用人としてロバート・カトラーとサラ(ウィートリーの末娘)夫妻がすんでいた。ドロは、アニヤヌをどう保護しようか、アイザックと結婚するように今夜言おうかなどと考えていた。
ドロは老婦人(マーガレット・ウィーマンス)と座っているアイザックを見つけた。アイザックは、ドロの娘(ウィーマンスの義理の娘)アネケ・ストリッカーが遷移状態で問題を抱えていると告げた。自殺をする可能性もあるという。未熟なテレパスは自分の思考吸収・放射能力を制御できないため「遷移状態」に陥ると極度の鬱となり自傷他害に走りやすいのだ。ドロは明日真っ先に様子を見ることにした。
ついでにドロは、アニヤヌとの結婚をするようにアイザックに話す。アイザックは驚く。
***
アニヤヌは白人女が食卓用の細長いテーブルにまず清潔な布を敷き、その上に皿や食器を並べるのを注意深く観察した。食べ物の一部や白人たちの食べ方が船で見慣れていたものだったので、アニヤヌは嬉しかった。全く途方にくれているそぶりも見せずに、腰かけて食事をすることが出来た。今日は料理することが出来なかったが、そのうちまた機会が回ってくるだろう。学ばなければ。今のところは、ただ眺め、興味深い匂いをかいで、空腹を募らせるだけだ。空腹はなじみ深く、気持ちがいい。&&
夕食の席にアイザックは来なかった。アニヤヌは料理を一つ一つ分析していたが、動物のミルクが多く使われているのに気付き愕然とした。彼らはミルクを飲まないのだ。ドロに苦情をいうがとりあわない。
食事後、アニヤヌは再びドロと床を共にする。
***
ことのあと、ドロはアニヤヌにアイザックと結婚して子供を生め、自分は何年もここに帰れない、ちょくちょく帰れる夫のほうがいいだろうといった。
アニヤヌはそんな汚らわしいことは出来ない、私はあなたを愛しているし、夫の子と結婚するなど考えられないと拒む。だが、ドロは、アニヤヌとアイザックの種から子供を作る必要がある、そうして異能者の子を生みだす必要がある、お前はおれの命令に従うしかないのだ、ここでお前は幸せになれる、と言い張る。
そこへ、ノックをしてアイザックが現れる。
***
アイザックはアニヤヌに結婚しようと告げる。アニヤヌは初め拒むが、アイザックに説得され結局応じる。

第二の書 ロトの子ら 1741年
第七章
50年が経っている。ウィートリーにドロが帰ってきて、アニヤヌの所在をアイザックにきく。アニヤヌはスローンの赤ん坊を世話してるいる。何とかスローンを説得し、赤ん坊を手放させねば。
「わたしは仕事で街に行っていた」ドロは言った。「そして一週間ほど前。英国に出発する予定だった私は、ヌウェケのことを考えている自分に気がついた」アニヤヌの末娘である。
ドロはアニヤヌと会い、ヌウェケとも会う。ヌウェケはマインドリーダーの遺伝子を持っていたが、遷移により情緒不安定な状態だった。ドロはヌウェケをなだめた。ドロはヌウェケを、先輩マインドリーダーのアンネケ・ストリッカー・クルーンの養子にさせていたのだが、アンネケは三年前に死んでいた。ヌウェケは二軒となりのデヴィッド・ウィットンが姉のメラニーと関係している話をし、自分も同じことをしたいといってドロに迫る。ドロは、ヌウェケと関係する。
***
ドロは、昨夜のことを言うなとヌウェケに言う。彼らはアニヤヌ、アイザック、ピーター(22歳の息子)と食卓につく。
と、突然ヌウェケが絶叫をあげる。

第八章
ヌウェケが遷移状態(トランジション。超能力の制御能力を獲得するのに必要な発作)に入っているようだった。明日になれば能力を発揮するだろう。
***
ドロは、強力なマインドリーダー(強力な感情のみを感じるヌウェケと違い、全ての思考を読み、見えない場所が見える)のトーマスという男を森に隔離していた。アニヤヌはこの男の子をもうけるよう派遣される。自殺願望のあること男にアニヤヌは自分の変身を見せ癒そうとする。彼はアニヤヌになぜ白人にならないときく、彼にとってはそれが重要らしい。彼は妻を持っていたことがあるが自分の能力は隠していたらしい。だが、彼から漏れた思考を妻が思わず口に出し、気味悪くなり実家に帰ってしまった。アニヤヌは凝り固まった男の心を何とかほぐし、体を洗わせ、食事をさせ、部屋の掃除をし、この男と交わる。
***
終わるとドロが来て、もう帰るぞという。トーマスの種がアニヤヌに入ったのでもうトーマスは用なしになった。ドロはトーマスに乗り移ると思ったアニヤヌはトーマスに逃げろといい、ドロの体をつかむ。が、いったん逃げかけたトーマスは、「いくら逃げてもドロはいちばん近い体に乗り移れる」と言い諦めて戻ってくる。ドロはトーマスを殺し、その体に乗り移る。アニヤヌはドロの古い体を埋め、ドロの入ったトーマスの体の手当てをさせられる。初めてアニヤヌは情緒不安定を感じる。

第九章
ヌウェケはトランジションを達成した。
ドロは自分のトランジションを思いだしていた。一二人兄弟の末っ子として生まれ、一人だけ生き延びたが、ある日、母を殺して母に転移し、やってきた父も殺し父に転移してしまう。半狂乱になって村の人々を次々とそれと知らず殺して乗り移り、村を占領したエジプト兵士にも転移した。やがてようやく自分の異常な能力を理解しそれを調整するようになった。そうして、超常能力を持つ人への転移を好むようになり(特に魔女タイプの人)、そういった人々を集めて回るようになった。
だが転移は常に両親を殺した記憶を伴う。だから同じ体に長いこととどまることはない。アイザックやヌウェケ、アニヤヌのような人はドロからは本来安全なのだ。でもアニヤヌはそれを理解せず、ドロを憎んでいる。
アイザックにとってアニヤヌが用なしになったとき、アニヤヌには死んでもらうしかない。
***
アイザックとドロはヌウェケの叫びがやむのを待ちながら、アニヤヌを殺すかどうかを話していた。ドロはもうアニヤヌに愛想が尽きた、死んでもらうというが、アイザックは何とか思いとどまるよう説得を試みる。
と、叫び声が二人分になっているのにアイザックは気付く。アニヤヌも叫んでいた。
***
ヌウェケは発狂し、アニヤヌの内部に入りこみ彼女を内臓からずたずたにしようとしていた。ドロとアイザックが入ったとき、アニヤヌは殴られたような様子で意識を失って倒れていた。アイザックはヌウェケを殴ったが、アニヤヌと同様に精神を内側から攻撃され絶叫をあげて気絶した。ドロがヌウェケを叩くと、ドロはベッドからアイザックの上に落ちた。アイザックは無意識に念動力でヌウェケを天井に叩きつけて殺した。ドロはアニヤヌを起こし、アイザックの手当てを頼んだ。アニヤヌによればヌウェケはテレパシーだけではなくアイザックやトーマスのような力を持とうとしていたらしい。そして、アニヤヌに対する憎悪を彼女の精神に入りこんで晴らそうとした。だがヌウェケは発狂し死んだ。
***
アニヤヌはアイザックとの日々、彼が予期に反し理想的な夫であったことを思いだしながら、治療に当たるが、その甲斐なく「君は生きろ。ドロの妻として従うのだ」といい置いて、アイザックは死ぬ。

第壱〇章
アニヤヌはヌウェケとアイザックの葬式の日にいなくなった。
***
アニヤヌは鳥になって海に逃げ、海に入ってイルカになった。イルカの群がやってきて仲間になった。

第三の書 カナン一八四〇年
第十一章
時は過ぎ、アメリカ独立戦争で迫害されたドロの一派は多数のメンバーをカナダに移した。他にも南北アメリカにいくつかのコミュニティを作った。
ドロはその合間に、アニヤヌを探した。そして、アヴォイェレス教区に女の子しか生まない老人エドワード・ワリックがいることをつきとめた。更にその地所には、昔から不思議な力を持つ狼が住みついているらしい。
ドロがそこへ行ってみると、腕の折れた少年がいた。かれは不完全ながら再生能力や読心能力を持っていた。母親も父親も超能力者らしい。そうするとアニヤヌはドロに対抗して超能力者のコミュニティを作っているわけだ。少年は一七才で転移を起こし、現在19歳だった。
ドロは、母親のところへ案内しろといった。すると、ここにいるとの答えで、振り向くと黒い狼が立っていた。この少年が人質というわけだ。狼はアニヤヌに変身し、家に服を着に入った。ドロも従った。メイドがいた。アニヤヌの娘だが、超能力はないらしい。ということは劣性遺伝で隠れているのだろう。次の世代で発現する可能性がある。
少年によると、アニヤヌは自分の奴隷であったと思っており、二度と奴隷に戻る気はないらしい。
***
ドロはアニヤヌと復縁する代わりに、交換条件として、息子スティーブンや娘たちに配偶者を提供するといい、アニヤヌも結局応じる。アニヤヌは自分のコミュニティを、ドロのように自分の転移の対象を確保するためではなく、純粋に仲間を増やしたいという気持ちだけから作ったのだが、こうしてこれまでと同じように、自分のコミュニティをいともたやすく奪われることになった。
アニヤヌはスティーブンの父ムグバダ(テレパス)以外に、霊視能力者のデニスとも結婚していた話を聞かせた(部屋にポートレイトを飾っていて、ドロが誰かと尋ねたため)。

第十二章
ドロは、娘のマーガレット・ネカの夫に、テレパスのジョセフ・トーラーを贈ったが、ジョセフは怠け者の不良で女好き、しかもロリコンだった。彼はある日、末娘のヘレン・オビアゲリ(11歳)をテレパシーで操って他人の家に連れ込み、服を脱がして犯そうとしたところをスティーブンに見つかり、ぼこぼこに殴られた。ヘレンは、ジョセフを追いだして欲しいとアニヤヌにいい、アニヤヌはドロに確認してみると答える。
***
ところが、ジョセフは、復讐のため、夢中のスティーブンとヘレンを操り、建物から飛び降りさせる。スティーブンは死体で発見され、ルイーザとアニヤヌが死体を調べているところにヘレンが落ちてきて、ヘレンはアニヤヌが受けとめて助かった。ヘレンの証言で犯人がジョセフであると知ったアニヤヌは服を脱ぎ、ヒョウに変身する。スティーブンの子を宿したアイが途方に暮れていた。
***
アニヤヌは、ジョセフと格闘の上、何とか喉笛を噛みちぎって殺害し、復讐を果たす。

第十三章
ジョセフとスティーブンを埋葬して一ヵ月後にドロが帰還し、二人の死について、アニヤヌとマーガレットに尋問した。ドロによるとジョセフはアニヤヌとアイザックの孫の孫で、トランジションが遅く現れる血統であり、数々の乱行はトランジションのせいだろうといった。アニヤヌはそんな兆候もなかったと反論するが、マーガレットは、突然その兆候が現れたが、ジョセフがドロへの発覚をおそれ口止めをされたのでいえなかったと答えた。ドロは、トランジションのためにドロを襲ったジョセフの兄を殺したらしい。そして、その兄の体から生んだ二人の子(10歳前後)をドロは連れてきていた。この二人の子をアニヤヌに育てろという。もし問題を起こしたらつき返していいしもしうまくトランジションを終えたら繁殖に使うという。アニヤヌとしては否も応もなかった。代わりにアニヤヌはドロにここから出ていくことを要求し、ドロは翌日出ていく。
マーガレットは飛び降り自殺した。
***
相次いで二人の子をなくしたアニヤヌは鬱状態になる。エンパスの者たちが迷惑するので、しばらく休養をとるようにルイザにいわれた彼女は、霊視能力者のレアとテレパスのケインの夫婦の家で食事をとった後、二階に上がり、鳥になって飛び立つ。
***
一ヵ月後、アニヤヌは村に戻る。リタに迎えられ鳥のまま食事をもらった後女に戻る。かっこいい黒人の男が新たにいて、夫にしたいと思った。が、食事をしている間に彼がドロだということが分かりがっかりした。ルイザは留守中、寝ている間に死んでいたらしい。
アニヤヌは書斎に行く。ドロが着いてきて、セックスした後、自分を信じろといって精神の接触をしてきた。アニヤヌは宇宙の暗闇の中で近づいてくる光の夢を感じた。その光がドロの魂だ! それはアニヤヌを吸いこもうとしている。自らの言葉にもかかわらず、やはり殺しはドロの本能なのか。ならそれでもいい。もう疲れた&&。

第十四章
だが、その直前にドロの魂は引いていった。
死の直前の感覚に苦痛は全くなかった。むしろ気持ちがよかった、殺されると気付くまでは。
ドロは何千年も生きてきて、その瞬間におそれを感じずにいつづけたのはアニヤヌが初めてだった。アニヤヌにはテレパシー能力は全くないから、純粋でいつづけられるのだ。
アニヤヌはドロを二階の寝室に誘うが、ドロは今はその気にはならないと答える。二人は書斎で抱きあいながら眠る。
***
子供たちが二人のことを噂していたが全く気にならなかった。ドロとアニヤヌは精神的な和解を遂げ、恋人同士になったことを誰もが感じ取った。
ドロはアニヤヌが気に入りの黒人の若者の体で、フランク・ウィルソンという白人の息子と旅した。
この体が年老いてとりかえる必要が生じるまではアニヤヌは自分を愛するだろう。だがその後もアニヤヌとの関係は基本的に変わらないだろう。アニヤヌは他の相手とつきあうだろうが、常にドロの居場所を残してくれるだろう。今はそうドロは信じることが出来た。
こうしていれば、いつか、アニヤヌのような女性をもう一人作れるはずだ、いつか。
***
アイがスティーブンの子を生んだ1月後、ドロの女のスーザンが子を生んだ。どちらも男の子だ。アイは乳が出ないので、アニヤヌが乳を与え育てた。ドロと寝室にいるとき、アニヤヌは自分も妊娠したことを告げた。ドロは「おれにも乳をくれ」と言った。
***
ドロはスーザンの体に転移し、自分の古い体をフランクと一緒に埋めた。二週間後、アニヤヌに会いに行ったが、逃げられた。そこで、別の白人男の体に取り替えた。今度はアニヤヌは何も言わなかったが歓迎もしなかった。そして、なぜスーザンを殺したのかと問い詰めた。スーザンは子供を生んでも世話もしないから必要がなくなったと答えると、アニヤヌは落胆していた。
後日ドロはヘレンを通じて、アニヤヌが子供を生んだら死ぬ気であることを感じ取った。アニヤヌに理由をきくと、「あなたを解放するためよ」と答えた。ドロを愛しているがそれゆえにドロはアニヤヌの歓心を買おうとして不必要な殺しを犯してしまうのだ。
ドロは、しばらく村を去り、知り合いの女の家に行った後、奴隷を虐待する黒人に転移し、その後美男子の黒人に転移して、村に戻った。しかしみんなの雰囲気は冷ややかだった。ドロはアニヤヌに別室で二人きりになりたいという。アニヤヌは応じたものの無言で冷ややかだ。でもドロは一緒にいられるだけで満足だった。
***
アニヤヌは子を生んだ。
みんなはドロに、アニヤヌは死ぬつもりだ、説得できるのはあなたしかいないという。
ドロはアニヤヌの寝室に行く。アニヤヌは、もう疲れた、アイザックが言った通りドロからは人間の部分が失われている、これ以上家族が死んでいくのをみたくない、死ねば見なくてすむので安心だという。
そして、今まさに死のうとしている表情になる。ドロは半狂乱で泣きだし「死ぬな、置いていかないでくれ、君のためにできることは、君が死ぬときおれが死ぬことだけしかない」と叫ぶ。アニヤヌはまだ生きていた。ドロはアニヤヌの胸に抱かれたまま寝てしまう。目覚めたとき、まだアニヤヌの胸は温かく呼吸していた。

エピローグ
変化が必要だった。
アニヤヌは必要なもの全部を得たわけではなかったし、ドロももはや全てを支配しているわけではなかった。ドロは生きるために殺しをとめることは出来なかったものの、少なくとも仲間となったものを殺すことはやめることを約した。彼はもはやアニヤヌに命令をしなかった。アニヤヌの子供たちにも干渉しなかった。アニヤヌがドロから自由になることによって、ドロは逆にアニヤヌの愛を得た。もっともアニヤヌは完全にドロを信用しているわけではない。ドロはまだヒョウであり、アニヤヌらは獲物でありうるのだ。ドロは信用しないアニヤヌをなじるものの、しかたがないことだ。
アニヤヌはエマというヨーロッパ風の名前を得た。これで誰でも発音できるだろう。ドロは笑う。アニヤヌが生きるのなら名前などどうでもよい。どこへ行こうと、彼女は生き続けるだろう。もう彼女がドロを置き去りにすることはないのだ。
~完~


silvering at 06:44 │Comments(9)TrackBack(7)読書

この記事へのコメント

1. Posted by slg   May 05, 2005 03:14
我慢できずにフライングで第1章だけ読んだ。やはり面白い! 寓話ものと同じく「少数の異能力者が迫害されながら徐々にコミュニティを形成し力を手にして行く物語」である。寓話ものの主人公は「エンパス」であり、能力というよりはハンディキャップであったが、本書の主人公は、変身能力者!!! 美少女にはなるわ野獣にはなるわ男にはなるわ、素手で男を7人も握り殺すわ、身体をずたずたに斬られても瞬時で治癒するわ、強過ぎ。副主人公ともいうべき男は、殺した相手に乗り移ることで事実上不死の能力を持つ人物(魂?)。こちらも、老若男女どんな肉体にでも宿れるし、事実上不死。二人とも能力が桁違いにすごいので面白い。この二人がいきなり出会う。この発端部がポール・アンダースンの「旅路の果て」みたいでそそられる。文章も読みやすくてリーダビリティが高いし、心理描写も巧みで感情移入がしやすいし、ストーリーも面白そう。やはり流石である。
2. Posted by slg   May 05, 2005 03:31
やべえ、何げなしに「キンドレッド」(こっちは山口書店から出てる翻訳)読み始めたら、こっちも面白いや。いきなり主人公の女の「腕が壁にめり込んで肘から先がつぶれている」なんていうショッキングな描写から始まる。
この作家、黒人女性なもんだから、フェミニズム/マイノリティ系の小難しいイメージがあるのか、全然翻訳がでないんだが、絶対エンターテインメント系で売れる作家だと思う。寓話シリーズだってありゃエンターテインメントとして十分いけるよ。魅力的なキャラ(ヒロイン)、波瀾万丈アクション満載のストーリー。
SF文庫で出すよりも、プラチナファンタシイで出した方が売れると思う。ネビュラ賞の長編賞まで取っている作家なんだから訳さないのはもったいない。面白いし。
3. Posted by slg   May 05, 2005 03:34
しかし、ディレーニイといい、黒人SF作家に外れは少ないよな、と実感。
4. Posted by slg   May 08, 2005 03:44
やはり週末はドラマと競馬で進まないな。まだ150ページ。月曜ぐらいまでに読み終われば。
第二部でいきなり50年話が飛んだ。外との軋轢に話が進まないのはバトラーらしいかも。超能力者のコミュニティー内部の葛藤や変化した倫理などが描写される。指導者ドロの冷酷非情なキャラがいいね。
5. Posted by slg   May 08, 2005 08:34
第1部は抜群に面白かったが、第2部で失速。コミュニティ内部のねちっこい愛憎劇に。重いテーマ自体は興味深いのだが、こうもねちっこくやられると暗い気分になって読み続けられない。やはり動きの激しいストーリーの中で理解させるようにした方がよかった。中だるみがあるのがこの作者の件ではある。寓話ものの1作目も面白かったけど中盤に退屈な箇所があった。
第3部での挽回を期待する、ってまだ第2部が読み終わらない。
6. Posted by slg   May 08, 2005 08:34
なぜ欠点が件と変換されているのだろう。
7. Posted by s;g   May 08, 2005 10:39
第2部はマイノリティ/フェミニズム文学系にありがちな陳腐で暗いお涙頂戴もので愚作だった。
さあ、第3部でどれだけ挽回できるか。せっかく第1部が名作だったんだから、これで終わるのはもったいない。平均7点ぐらいに上げてくれよ。
第1部 9点
第2部 0点
第3部 ?点
BGM Brave Combo "Two Marys"
8. Posted by slg   May 08, 2005 10:43
第2部がどれだけ暗いかというというと、「ドナドナ」の日本語歌詞ぐらい暗い。超能力者農場で飼い殺しにされる牝牛の物語。結局変身して逃げちゃうんだけどさ。
9. Posted by slg   May 08, 2005 14:37
投票内容
件数 場名 レース 式別 馬組 金額
(1) 東京(日) 11R 馬 連 ながし 軸馬:10
相手:02,03,04,07,09,11,12,14
各100円(計800円)
(2) 東京(日) 11R 馬 連 ながし 軸馬:07
相手:02
各100円(計100円)
(3) 京都(日) 11R 馬 連  03-12
100円
合計 1,000円
シルクトゥルーパー!
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